スーパーのレジ係りが、商品パッケージに付いているバーコードをスキャンして客の買い物を処理するように、研究者は高性能の顕微鏡と独自に作成したバーコードを用いて、膨大な数の細胞の同定や疾患部位のマーカー分子の同定の管理に利用する。しかし、そのバーコードは僅かなパターンしかないので、細胞の研究を行う様な一度に多くの情報のラベリングが必要な場合には、対応できない。   ハーバード大学のワイスバイオ工学研究所の研究チームがこの度、新しいデザインのバーコードを開発したが、これは無限に近い配列の組合わせが可能なもので、一度に膨大な生きた情報をコード化できる、過去に無いものとなっている。この方法は、DNAの生来の機能によって自動的に構造化されるもので、2012年9月24日付けのNature Chemistry誌オンライン版に発表され、同年10月に印刷版に掲載された。 「この新しい方法が、蛍光顕微鏡を用いて生物学の複雑系を研究するための分子ツールとなる事を期待しています。」とワイスの研究中心メンバーで同研究の心臓部である「DNA折り紙技術」を開発している共同著者のペン・ユィン博士は語る。蛍光顕微鏡はバイオメディカル領域では過去数十年に渡って「傑作」と言える技術である。判りやすく言えば、今回の発明は、蛍光素子―バーコード―と、研究対象の細胞の或る部位に結合する分子とを一緒にしたものである。サンプルトリガーのそれぞれのバーコードが、赤や青や緑の蛍光を発する事によって、目的の分子がどこにあるのかを提示する。しかし、この技術では使用できる蛍光色が3-4色に限られており、時々色がぼやける。ここにDNAバーコードの意味が出てくるのだ。色のドットが幾何学的模様に形成されたり、蛍光線状バーコードに形成されたり、その組み合わせは無限に近い。研究者たちが観察する分子や細胞の数が増えて行っても、色によって識

片側性巨脳症は稀な疾患であるが、通常対称性を保つ脳の形状が異常化し、片側だけが肥大化する。重度の癲癇を持つ子供によく見受けられるが、その原因は判っておらず、且つ治療法は極めて苛烈であり、肥大化した脳の一部や全てを切り取る手術が行なわれる。カルフォルニア大学(UC)サンディエゴ医学校とハワード・ヒューズ医学研究所の研究者らが主宰する、臨床医と科学者で構成されるチームが、ネイチャー・ジェネティクス誌2012年6月24日のオンライン版に、興味深い論文を発表した。   それによれば、細胞の大きさと細胞増殖とを制御している3つの体細胞遺伝子が新たに見つかったが、これらが変異する事が、どうも片側性巨脳症の原因のようであるが、それらの変異だけに限らないようでもある。新たに見つかった3つの変異は無性細胞で起こる遺伝子変化であるが、これは両親が有していたり、両親から遺伝したりするものではない。UCサンディエゴ医学校とラディ・サンディエゴ子供病院の神経学と小児科学教授であるジョセフ・G・グリーソンM.D.研究室と、UCロサンジェルス・マーテル子供病院の神経外科のギャリー・W・マシェーンM.D.研究室との共同研究チームが示唆するのは、これらの変異遺伝子から発せられるシグナルを、薬剤によって阻害したり弱めたり出来れば、外科手術の必要性を低減させたり、予防的に使用することが可能になるという事だ。 グリーソン博士の研究室では、マシェーン博士が手術した20人の片側性巨脳症患者を対象にして、切除された脳組織とその患者の血液と唾液をサンプルとして、DNAの解析と比較を実施した。「マシェーン博士は1卵生双生児の家族について報告しています。1人は片側性巨脳症ですが、1人は正常なのです。1卵生双生児は完全に同じDNAを継承しますので、疾患のある脳において何らかの変異が発生し、巨脳症の起因となるのではないかと

正常細胞と比べて、ガン細胞は並外れた量のグルコースを欲しがるので、それによる細胞代謝の変化は、好気性解糖とか「ワールブルク効果」として現れる。研究者は、ガン治療の標的にこの効果を利用できないかと着目しており、代謝状態が変化したガン細胞において、生化学的シグナルがどのように現れるのかを解析している。興味深い研究として、UCLAの分子生物学と臨床薬理学教授である、トーマス・グレーバー博士に率いられる研究チームが、これまでと逆のやり方を採用している事だ。   つまり、グルコースの代謝が、ガン細胞に現れる生化学的シグナリングに、どのような影響を与えるかという事である。Molecular System Biology誌2012年6月26日号のオンライン版に掲載された研究報告によれば、グレーバー博士等は、グルコース欠乏状態が−この状況がガン細胞からグルコースを奪い取ることになる−活性酸素類の蓄積を誘発し、結果としてガン細胞の死滅に繋がる代謝とシグナル経路の促進ループを活性化する事を明らかにした。この活性酸素類は、ビタミンCのような抗酸化物質の作用対象となる、細胞障害の原因分子やイオンなどである。 本研究は、UCLAの研究チームにより行なわれ、代謝とシグナリングの関係をネットワークレベルで明らかにする、システムバイオロジーの実力を実証するものである。そのチームを構成するのは、UCLAの、クランプ分子イメージング研究所、分子医療研究所、カルフォルニア・ナノシステムズ研究所、ジョンソン総合ガン研究所、イーライ・イーディス再生医学ブロードセンター&幹細胞研究所、そして病理学部と医学研究所に所属する多くの研究者たちである。更には、スローン・ケッターリング記念ガン研究所の、神経学部、ヒト腫瘍学部、発症機序プログラム学部の研究チーム、ヴァイル・コーネル医学校薬理学部の研究チーム等と共同研究体制

通常若いミツ蜂が行う巣作りを、年を取ったミツ蜂が引き受ける場合、脳の老化が逆行、つまり若返る事を、アリゾナ州立大学(ASU)の研究チームが明らかにした。人の加齢性認知症についての現在の研究トレンドは新しい治療薬の開発にシフトしているが、今回の発見が示唆するのは、社会活動への参加が加齢性認知症の進展を遅らせたり、治療効果を発揮したりする可能性である。 Experimental Gerontology誌2012年5月21日号のオンライン版に発表された報告によれば、ASU生命科学部の准教であるグロ・アムダム博士に率いられる、ASUとノルウェー大学生命科学部の研究チームは、老齢の働き蜂を巣の内部で”社会的”な仕事をさせた場合、脳内の分子構造が変化することを実証した。「以前の研究で、蜂が巣内で蜂の赤ん坊である幼虫の世話をする時は、観察している期間を通して知的能力を維持していました。しかし、養育期間が終了し、巣外へ食料を採取に行き始めると急速に老化するのです。わずか2週間で羽が退化し体毛が抜け、重要な事は、脳の機能−学習機能テストで診断しましたが−が低下するのです。」とアマダム博士は語る。 「そこで私たちは、働き蜂の老化に柔軟性があるかもしれないと考え、もし老齢の働き蜂にもう一度幼虫を養育させたらどうなるかを研究することにしたのです」と同博士は続ける。実験期間を通して、巣から若いナースビー(幼虫に餌を与える蜂)を全て除外して、嬢王蜂と幼虫だけにした。老齢の働き蜂が餌を運んで巣に戻ると、餌取りの活動は幾日か終息した。その後、一部の老齢の働き蜂は餌取りを再開したが、残りの老齢の働き蜂は巣作りと幼虫の世話を開始した。10日後、約半分の老齢の働き蜂が、巣作りと幼虫の養育に携わるようになり、それらの蜂の学習機能は著しく改善したのである。 アムダム博士の国際研究チームは、蜂の学習機能の回復だ

DNAだけのせいで、私たちの病気に成りやすさや、影響を受けやすくさが決まる訳ではない。昨今の研究によれば、DNAの配列の変化には関連しないようなDNAの変化、つまりエピジェネティクスと呼ばれる変化によっても、配列変化と同じくらいの大きな影響を受ける事が、明らかになってきている。カルフォルニア大学(UC)サンディエゴ医学校・リューマチ・アレルギー・免疫学部の教授であるギャリー・S・ファイアーステイン博士に率いられる研究チームが、通常はガンや胎児発達の分野で研究対象となる、DNAメチル化と呼ばれるメカニズムが、関節リュウマチ(RA)の進行に大きく関与している事を突き止めた。   メチル化応じたエピジェニック変化が、炎症や関節の損傷に関与している事が明らかにされた。研究結果はAnnals of the Rheumatic Diseases誌オンライン版の2012年6月26日号に発表された。 「ゲノミクスの研究が進み、私たちは関節リュウマチの重症度や罹患しやすさ等の理解を、大いに深めることが出来ました。但し、この疾患に関与する多くの遺伝子学的な因子が見つかっていますが、私たちは、例えば瓜二つの双子の一人がRAを患っているケースにおいて、片方が同じように患っているケースは12%から15%に過ぎない事も知っています。この事実は、他に要因がある事を示唆しており、それがエピジェネティックの関与なのです。」とファイアーステイン博士は語る。DNAのメチル化はエピジェネティック変化の一例だが、DNAが2重らせん構造をとった後、4つの塩基のうちの一つであるシトシン(C)のどれかに、メチル基が結合するのである。このメチル化によって、遺伝子の発現が制御されているのだが、ガンの場合はこのメチル化が異常になり、臓器の生育ではメチル化のパターンが重要な役割を果たす。自己免疫疾患において、個々の遺伝子の

アメリカモデル生物遺伝学会(MOHB):ワシントンD.C.ガン遺伝学会議で、ポストゲノム時代におけるガン治療薬開発には、パスウエイの理解がより重要であることが確認された。パウウエイとは、細胞内で複数の信号が種々の経路を辿りながら最終的な指示を完了するまでの、順序付けられた一連の機序を指す。モデル生物―ショウジョウバエ、回虫、イーストやゼブラフィッシュなど−はヒトのそれと関連を持つ多くのパスウエイを共有しており、一方で構造が平易なので研究に使い易い。   したがって、モデル生物のパスウエイに焦点を当てることは、ヒトの疾患の治療に有用な新薬の開発につながると考えられる。「進化について調べていくと、ゲノムこそが重要であることが分かります。」と、ブロード・インスティテュート(ハーバード大学と米国マサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究施設)の創設ディレクターおよびMIT生物学教授、エリック・ランダー博士(Ph.D.)は2012年6月19日のMOHB:ワシントンD.C.ガン遺伝学会議で語った。 ガン細胞ゲノムにおいて最も重要なのは、ガン細胞が薬剤に対して耐性を獲得していく原因の究明である、とジョンズホプキンス大学ルートヴィヒセンターディレクターおよびハワードヒューズ医学研究所の研究員、バート・ヴォゲルシュタイン博士(M.D.)は6月17日の講演で述べた。単剤における薬剤耐性は「回避できない事柄」であり、ガンの進化の副作用であるとヴォゲルシュタイン博士は述べる。「約3,000もの耐性細胞が、目に見える転移全てに存在するのです。そのため、耐性は有効性の有無に関わらず全ての治療において起きます。これは単剤では回避することが出来ないため、ガン治療には複数の薬剤を組み合わせる必要があるのです。」と、ヴォゲルシュタイン博士は説明した。会議全体を通して、モデル生物におけるガンの進行に関与

スタンフォード大学医学部の研究チームが世界で初めて、母親の血液サンプルから胎児のゲノムを解析する事に成功した。この新規的な試みはNature誌2012年7月4日のオンライン版に発表されたが、これは1ヶ月前にワシントン大学から報告された研究と深く関連している。   この研究で用いられた解析技術は、以前にスタンフォード大学のグループが開発したもので、胎児のゲノムシーケンスを行うに当たり、母親の血液サンプルと、母親と父親のDNAサンプルを必要とした。しかし今回の研究では父親のDNAを必要としないので、例えば本当の父親が不明の場合や(米国では10人に1人の割合でそうである)、父親がDNAを提供できない場合や提供を拒む場合も、問題なく胎児のゲノムシーケンスが可能となる画期的な方法なのである。つまりこの方法は、胎児のゲノムシーケンス検査を、通常の臨床検査のレベルに1段階近づける技術と言って良い。 「私たちの興味は、生まれる前に或いは生まれた直後に、治療を施す事が出来る条件が整っているかどうかを、確認しておきたいという事です。このような診断法がなければ、治療法がある代謝系や免疫系の疾患があっても、生まれて暫くして兆候が現れたり、疾患が重篤になったりするまで対処できないのです。」と、工学系研究科のLee Otterson教授職であり、生物工学科と応用物理学科の教授職でもある、本研究の上級著者のステファン・クエーク博士は語る。当時大学院生で現在はImmuMetrix社の上級研究員であるH・クリスチーナ・ファン博士と、現在大学院生であるウェイ・グウ氏が、本研究の共同主著である。この種の技術に掛かる費用は年を追う事に下がっていくので、遺伝病を診断する本診断法も、妊娠第一期で行うことが現実的になるであろうと、研究チームは期待している。実際に彼らは、ゲノムのコード領域であるエキソームだけのシー

RGS9-2と呼ばれる脳タンパク質が体重を調節する役割を有することを、ロードアイランド大学薬学科准教授のアブラハム・コボー博士が発見した。コボー博士は、パーキンソン病および結合失調症の治療薬の副作用であるジスキネジアとRGS9-2との関係の研究中に、今回の発見に至った。ジスキネジアとは、身体が無意識かつランダムに動いてしまう運動障害である。研究結果は2011年11月23日付けのPLoS ONE誌に掲載された。   コボー博士および共同研究者達は、RGS9-2を減少させる遺伝子変異を有するヒトのBMI(肥満度指数)が、通常に比べて著しく高いことを発見した。また、RGS9-2タンパク質を生産できぬようRGS9-2遺伝子を除去されたマウスの系統と、野生株を比較したところ、RGS9-2遺伝子を除去されたマウス系統の方が体重も重く、体脂肪率も高かった。反対に、RGS9-2タンパク質が過剰発現された場合、マウスの体重は減少した。 RGS9-2は通常、脳の線条体内で発現される。この部分は運動制御や報酬反応に携わっているため、体重増加は、摂食の報酬反応の増加によるものだとコボー博士と研究員たちは考える。「普通、(体重が増えたため)RGS9-2を除去されたマウスの摂食量の方が多いと 考えられるでしょうが、そうではありませんでした。」と、コボー博士は説明する。「ヒトやマウスやラットでの研究は、RGS9-2が体重の調節因子であることを結論付けました。しかし、我々は摂食行動以外の事に目を向けなくてはならなかったのです。この研究は、線条体がRGS9-2を通して体重を調節する役割を有することを示しました。これは、モチベーションや行動、また報酬反応とは無関係であります。我々は、新陳代謝を通して体重増加を調節するであろう、新しい遺伝子を発見したのです。」と、コボー博士は続けた。コボー博士とチームは、

最良の健康状態時と最悪の健康状態時の両極端で患者のDNAを比較することで、耐性および感受性遺伝子を同定することが出来る。このアプローチによって、早期の慢性気道感染症を発症しやすい嚢胞性線維症患者間のDCTN4遺伝子変異が発見された。DCTN4遺伝子はダイナクチンをコードする。このタンパク質は、問題となる微生物を死滅させる為に、分子ベルトコンベアでリソソームと呼ばれる極小の化学タンクに移動する、分子モーターの一部分である。   ワシントン大学(UW)が率いる本研究は、国立心肺血液研究所GOエクソームシーケンシングプロジェクトおよび肺GOの一貫である。これら二つはアメリカ国立衛生研究所の主要研究である。このように“両極端をテストする”方法は、心臓の健康状態など、より一般的な体質の遺伝的要因を明らかにするであろう。嚢胞性線維症患者の易感染性の研究結果は2012年7月8日付けのNature Genetics誌に掲載された。問題となった感染は緑膿菌であった。緑膿菌は一般的に嚢胞性線維症やその他の気道閉鎖障害を持つ患者の肺に感染する日和見土壌細菌である。この細菌は合体してツルツルのバイオフィルムを形成し、肺組織を傷害し、呼吸を妨害する。慢性感染症は、嚢胞性線維症患者間の肺機能および寿命の低下につながる。これらの細菌が正常な肺および免疫機能をもつ人々に、害を与えることは極稀である。 本研究では、緑膿菌感染にもっとも耐性があった嚢胞性線維症患者間にDCTN4変異は見られず、早期の慢性感染症に感染しやすい患者では、DCTN4ミスセンス変異体が少なくとも一つは存在した。ミスセンス変異体が生成するタンパク質は正常に機能しない可能性が高い。本研究レポートの責任著者はUWシアトル公共健康医学部生物統計学准教授のマリー・J・エモンド博士、首席著者はUW遺伝子医学部門小児科教授、臨床遺伝専門医のマ

中国サイエンスアカデミーのゲノム&発生生物学研究所と、世界最大の遺伝子研究所であるBGIとに率いられる国際研究チームが、野生の塩生植物であるソルトクレス(Thellungiella salsuginea)のゲノムシーケンスと解析に成功した。ソルトクレスのゲノム情報は、適応進化のメカニズム解明と、植物の非生物的ストレスへの耐性の底流を成す遺伝子機能の理解に、新たな道標となるものだ。   PNAS誌2012年7月9日オンライン版に発表された内容によれば、塩性植物は、寒冷・干ばつ・酸化ストレス・塩害などに対して、強い耐性を有する。 サイズが小ささに由来する短いライフサイクル、産生する種子の多さ、小さなゲノムサイズ、効率の良い形質転換等の理由によって、ソルトクレスは、植物学者や遺伝子学者そして育種家等にとって、非生物的ストレス対する耐性研究のための、最善の研究モデルと成り得る。本研究においてソルトクレス(Shandon ecotype)は、Solexa社のペアードエンド法を用いたシーケンス法で、解析された。 ソルトクレスのドラフトシーケンスデータは、カバー率134で読まれている。確定したシーケンスは233.7Mb長で、推定されるゲノムサイズ260Mbの凡そ90%をカバーしており、タンパクコード部位は、合計28,457と推定される。ソルトクレスとシロイヌナズナのエクソンの平均長は同等であり、イントロンの平均長はソルトクレスの方が、シロイヌナズナのそれよりも30%長い。進化学的研究によれば、ソルトクレスとその近縁種であるシロイヌナズナは、凡そ700−1200万年前に分科したと考えられる。ソルトクレスとシロイヌナズナの違いを検討すれば、ソルトクレスのほうが、生育環境の違いや遺伝的相補性の面で大きく異なり、特に特徴づけられるのは、オルソログの発現とゲノムサイズの大きさであろう。明白

癌性腫瘍における2種類の抑制因子の関係を明らかにする上で初となる、包括的研究が発表された。発表したのはケンタッキー大学(UK)毒物学およびジェームス・グラハム・ブラウン寄付講座教授、ダレット・セント・クレア博士である。本研究結果は発ガンにおける転写機構への理解を深めることとなるであろう。   本研究は国立ガン研究所よりグラントされ、2011年11月1日付けのCancer Research誌に掲載された。セント・クレア博士と研究チームは、ヒトMnSODプロモーター/エンハンサー分子の元でルシファレーゼ•レポーター遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作成した。そして、7,12-ジメチルベンズアントラセン(DMBA)/12-O-テトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)多段階皮膚発ガンモデルを用いて、MnSOD転写の変化を調査した。 マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)は、好気性生物の生存において不可欠な役割をもち、これの異常発現が発ガンおよび治療における腫瘍耐性と関係しているのである。MnSOD制御およびガンにおけるMnSODの役割など、広範な研究が行われているのにもかかわらず、生体内腫瘍形成におけるMnSODの発現変化がいつ、どのようにして起こるのかは未だ解明されていない。現段階での研究結果は、MnSOD発現が皮膚発ガンの初期では抑制され、後期では増加することを示している。MnSOD発現の抑制およびその後の増加は、Sp1とp53の二つの転写因子によって媒介されている。DMBAおよびTPAへの曝露はp53を活性化すると同時に、MnSOD発現を低下させる。この発現低下は、正常皮膚および良性パピローマにおいて、p53を介するSp1のMnSODプロモーターへの結合が抑制されるためである。扁平細胞ガンにおいては、機能性p53の損失によりSp1結合が増加した

どうしてティーンエイジャーの中には、同年代の周りの人間がそうしなくても、喫煙を始めたり、薬物に手を出したてみたりするケースが出てくるのだろうか? 過去最大規模で行なわれたヒトの脳の大規模イメージング研究によって−1,896人の14歳のイメージングも含まれている−これまで判らなかった多くの脳内ネットワークの解明に繋がる知見が得られた。ベルモント大学のロバート・ウェラン博士とヒュー・ギャラバン博士は、海外の研究者達の協力も得て、脳内ネットワークの違いによって、一部のティーネイジャーは特異的に薬物やアルコールに走る高いリスクを抱えている事を実証した。単純に脳の働きが他のティーンエイジャーとは違うことが原因で、極めて簡単に衝動的行動を起こすように働くのである。   ネイチャー・ニューロサイエンス2012年4月29日号オンライン版に発表された報告によると、昔からある「鶏が先か、卵が先か?論争」に似た、薬物乱用以前に特異な脳のパターンを示すのか、或いは薬物乱用によってそうなるのかという疑問に、答えを与えるものなのだ。「特異的な脳パターンの違いは、薬物乱用以前に観察されています。」とベルモント大学精神医学科でウェラン博士の研究仲間であり、IMAGENプロジェクトのアイルランド分科会の主席研究員であるギャラバン博士は語る。このIMAGENプロジェクトとは、ティーンエイジャーの精神衛生や異常行動の研究を行なう欧州の大規模な臨床研究プロジェクトであり、今回のテーマでデータを収集した。明らかになった事は、眼窩前頭皮質を含む脳内ネットワークの活動減退が、青年期の早い時期に、アルコール、喫煙、違法ドラッグ等に手を出す行動と関連しているということだ。「このネットワークが他の子ども達のように働かない子ども達もいます。」とウェラン博士は話すが、その子ども達は更に衝動的行動を取りがちなのだ。喫煙や飲酒が

卵巣ガン再発の際に腫瘍検体を分析する必要がある、ということが2012年2月号のMolecular Cancer Therapeutics誌に掲載された研究で明らかになった。本研究チームは分子プロファイリングと呼ばれる診断技術を使い、原発および再発卵巣腫瘍における分子特性の違いを調べた所、特定のバイオマーカーにおいて著しい違いを発見した。   本研究は原発および再発卵巣ガンにおける患者対比研究で広範なバイオマーカーパネルを試験した初めての研究であり、患者に対して再発治療に関するインフォームド・ディシジョンを行なう際には、再度腫瘍組織を分析することの重要性を強調している。卵巣ガンは婦人科ガンの中でも極めて致命的なものであり、米国女性のガン関連死ランクでは第5位にあたる。再発した卵巣ガンの治療は、治療法を選択する分子プロファイリング技術があるにも関わらず試行錯誤で進められることが多いのである。 卵巣ガン再発の際にプロファイリング技術が利用されるが、その際に分析される腫瘍検体は初診の時に得たものであることが多い。このような原発腫瘍のプロファイリングは再発腫瘍における変化を考慮しておらず、そのために化学療法後の生存期間の改善に有効に機能していなかった可能性も考えられる。「これらの結果は、再発卵巣ガン治療における新たな可能性を強調しています。本研究は、治療法を決定する際に役立つかもしれない腫瘍の特徴が、疾患の経過とともに変化する可能性があるということを我々に認識させてくれました。」と、本研究の責任著者、クリアリティ財団サイエンスディレクターのデブ・ザチョウスキー博士は語る。ザチョウスキー博士およびクリアリティのサイエンスアドバイザー、シダーシナイ女性ガンプログラムのベス・Y・カルラン博士と研究チームは、クリアリティおよびダイアン・バートン・データベースによって収集されたデータを分

肌の老化防止のために皮膚に塗ったり、運動選手が疲労回復のために服用されたりするビタミンEの本来の身体に対する機能が最近の研究によって明らかになってきた。ビタミンEは強力な酸化防止剤として多くの食品に使用されており、細胞膜の損傷を修復する作用を助ける機能がある。細胞膜は外部の刺激から細胞を護り、細胞への物質の出入りをスクリーニングする機能を有しているが、このあたりの本来的な機能がジョージア健康科学大学(GHSU)の研究チームによって明らかにされ、2011年12月20日付けのネイチャー・コミュニケーション誌に発表された。食事をしたり、運動したりする日常の活動によって、細胞膜は様々な損傷を被り、ビタミンEがその修復に重要な役目を果す事が最近の研究で解ってきた。もし筋肉細胞が修復されなければ、筋肉は筋ジストロフィーで観察されるのと同じように、衰弱し死滅する。細胞膜の修復が覚束無い事に起因する他の疾病例には糖尿病があり、筋肉の脆弱化が主訴の一つとなっている。「特に意識しなくても、私達は毎日ビタミンEを体の中で使っていますが、それがどのような役割なのかは、よく知られていません。」とGHSUの細胞生物学者で本論文の主筆であるポール・マックネール博士は語る。少なくとも役割の一つは明らかになったのだ。「1世紀前の動物実験ではビタミンE欠乏症が筋肉疾患に関係していることは分かったのですが、それがどのようにして起こるのかは今まで謎のままでした。」と、マックネール博士は言う。 細胞膜の修復不足が筋消耗や筋壊死を引き起こすということが、マックネール博士がビタミンEの研究に興味を持った理由である。ビタミンEが修復を助ける方法は複数存在する。一つ目は酸化防止剤として、体内での酸素の使用に由来し、修復作用を阻害する副産物の産生を防ぐ事に役立つ。二つ目は、脂溶性の性質により、細胞膜内に潜り込む事が出来るの

患者のゲノムをシーケンシングし、疾患の原因を突き止める。このようなルーティンは未だ実施されてはいないが、遺伝学者チームはこれに近づきつつある。2012年2月2日付けのAmerican Journal of Human Genetics誌に掲載されたケース・レポートの研究チームは、血液検査をゲノムの“エグゼクティブ・サマリー”スキャンと組み合わせて行うことにより、重度の代謝性疾患を診断することが可能であると示している。   エモリー大学医学部およびサンフォード・バーナム医学研究所の研究チームは、“全エクソーム・シーケンシング”を用いて、グリコシル化疾患を患う男児(2004年生まれ)の疾患原因である変異を突き止めた。男児の疾患原因であるDDOST遺伝子変異は、従来のグリコシル化疾患では見られておらず、本ケースが初めてであった。全エクソーム・シーケンシングは、科学者達が疾患の診断のために最も重要であると考えるゲノム部分をより早く、そしてより安く読み込むことができる。本レポートでは、2011年に初めて臨床診断用に提供された全エクソーム・シーケンシングが、診療に用いられ始めていることを示している。 エモリー遺伝学研究所は現在、臨床診断サービスとして全エクソーム・シーケンシングを提供する準備を勧めている。疾患の原因となる変異のほとんど(約85%)が、ゲノム上のタンパク質をコードする部分で起こると推定されている。全エクソーム・シーケンシングは、このゲノム上のタンパク質をコードする部分だけを読むため、他の99%は未読のまま終わる。ケース・レポートの男児の変異は、サンフォード・バーナム医学研究所遺伝性疾患プログラムディレクター、ハドソン・フリーズ博士と研究チームにより同定された。疾患の原因である遺伝子を同定したのは、エモリー大学医学部人類遺伝学准教授およびエモリー遺伝学研究所ディレクタ

急性リンパ性白血病(ALL)における最初のセラノスティック薬が開発された。開発したのはケースウェスタンリザーブ大学医学部の研究チームであり、2012年3月5日付けのACS Chemical Biology誌に掲載された。ALLは小児がんの最も一般的なタイプであり、米国で新たに診断される数は毎年約5000人にものぼる。本研究知見は、小児腫瘍学における新たなセラノスティック薬の開発の提示となるであろう。   セラノスティックとは、テスト結果に基づいた治療法と診断テストを組み合わせた、治療システムのことである。これらの新種の薬は、新たな診断マーカーおよび治療方法の開発への第一歩となるであろう。 「本発見は、ALLに対し化学生物学的アプローチを採用しています。我々が人工的に開発したヌクレオシドは、小児白血病患者のためのテーラーメイド治療を可能にする、新しいクラスのセラノスティック薬なのです。診断と治療をセラノスティックに組み合せる事によって、イオンチャンネル、ガン細胞を死滅させ、正常な細胞に影響を与えない、患者にとって最適な投与量を計ることが可能になります。この選択性により、従来の抗がんヌクレオシド関連で見られた一般的な副作用を最小限に押さえることが出来るのです。」と、ケースウェスタンリザーブ大学医学部准教授、アンソニー・J・ベーディス博士は説明する。本疾患と関連している酵素、末端デオキシヌクレオチド転移酵素(TdT)は、バイオマーカーとして機能し、またALL患者の90%において過剰発現されている。ベーディス博士と研究チームはTdTを使用し、新しい選択性抗がん剤を開発したのである。研究チームは2つの人工ヌクレオシド、5-NITPおよび3-Eth-5-NITPの抗白血病機能を調べ、これらに蛍光色素でタグ付け出来るよう、新たな官能基を配置した。これらのタグ付けされたヌクレオチドは

生細胞におけるタンパク制御機構の最も重要なメカニズムについて、アメリカ・エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所(バークレー研究所)とカルフォルニア大学(UC)バークレー校とが、新たな研究成果を発表した。プロテアソームとして知られるタンパク質は、除去するようにマーキングされたタンパク質類を、同定し破壊する機能を有している、タンパク制御装置とも言える物質である。研究チームは、そのメカニズムに使用されている「制御因子」に至るまで、詳細な解析を行なった。   この制御因子によって調節される活性は、細胞内タンパク質の品質制御だけでなく、DNA転写、DNA修復、免疫防御システムなどを含む広範な生命活動にとって、極めて重要な役割を担っている。「電子顕微鏡によるイメージングと、タンパク翻訳を解析する最新の装置とによって、サブナノメーターレベルの計測が可能になりました。その技術を用いれば、プロテアソームを制御する因子であるタンパク複合体の相対的な結合位置を含む、詳細な構造が分かるようになりました。」と研究チームの共同主席研究員で生物物理学者であるエバ・ノガレス博士は語る。「これによって、プロテアソームがどのようにして不要なタンパクを認識し破壊するのかを、そして細胞内に存在するどのようなタンパクでも調整する機能を、分子構造の観点から解析できるようになりました。」と、もう一人の共同主席研究員で論文責任著者である生化学者アンドレアス・マーチン博士は説明する。 そして「プロテアソームの生化学的機能の多くと、サブナノメーターレベルの分子構造も既に研究はされているのですが、まだ不明な部分が多く、これまでは、どのタンパクユニットがどこへ行き、どのユニットと相互作用を持つのかは分かっていませんでした。今回の研究結果によって、プロテアソームの持つタンパク制御装置としての機能をより詳しく解明すること

カンジダ・アルビカンスのような日和見感染を起こす菌体が、宿主細胞の免疫応答状態を感知し、それに対応することで、宿主の免疫防護システムから首尾よく逃れていることを明らかにしたのは、ルイジアナ州立大学(LSU)ヘルスサイエンスセンター・ニューオリンズ校の微生物学・免疫学・寄生虫学の准教授であるグレン・パルマー博士だ。同博士はイタリアのペルージャ大学のルイジナ・ロマーリ博士が率いる国際研究チームのメンバーでもあった。   これまでの研究と異なり、この研究では感染事象を両面の視点から、即ち、菌体と感染相手の細胞との相互作用の観点から行なわれた。研究結果はネイチャー・コミュニケーション誌の2012年2月21日オンライン版に発表された。そして、この感染プロセスが、従来考えられてきた以上に、精巧且つ複雑であることが判ってきた。報告によると、C.アルビカンスは免疫信号を出す宿主の生体分子であるインターロイキン(IL)17Aと結合することにより、健康な宿主細胞が有する免疫応答に耐えられる環境を得て、宿主の免疫反応に対応するのだ。IL-17Aは通常、菌体の内在的な毒性を加減することによって、疾患の感受性を調節している。 本研究では、IL-17Aの振る舞いを精査し、菌体は生き延びるだけではなく、疾患の進展にも関与していることが明らかになった。「それはまるで菌体が私たちの免疫システムの防護作戦に聞き耳を立て、どうやったら宿主の組織内で対応し生き延びるかを画策しているようなものなのです。それはまた、この“日和見主義者”が免疫不全患者に致命的なダメージを与えようと、どのタイミングで感染してやろうかと様子を伺っている状態でもあるのです。」とパルマー博士は説明する。疾患予防対策センターによれば、ヒトに感染するカンジダ酵母菌は20種類以上あり、最も多いのがカンジダ・アルビカンスである。カンジダ酵母菌は

90%以上の人は、エプスタイン・バーウイルス(EBV)に対する抗体を有している。そうでない人にとってこのウイルスは、短核球症や「キス病」の病因としてよく知られているが、その他にもこのウイルスは、ホジキンスリンパ腫、非ホジキンスリンパ腫、そしてバーキットリンパ腫等のより重篤な疾病にも関与している。このEBVがリンパ腫の発症にどのように関与しているのかは未だ明らかにはされていないが、このたび、ペンシルバニア大学獣医学部とペンズ・ペレルマン医科大の研究チームが、「人間の最も良き友人」に対してエプステイン・バーウイルスが感染し、リンパ腫の発症に関与していることを実証した。   この研究によれば、EBVの感染においては、飼い犬は人間と同様の感染メカニズムを有しているようだ。これは、EBVが特定の条件の人にガンを発生させるメカニズムを解明する手がかりとなる。「これまでは、EBV感染とウイルス関連疾患研究のための、大型動物のモデルがありませんでした。そしてウイルス感染研究の多くはヒト以外の霊長類で行なわれ、大変コストが掛かっていたのです。」と本論分の上級著者で、ペンシルバニア大学獣医学部の医薬・病理バイオロジー学准教授であるニコラ・メイソン博士は語る。そして「犬が人間と同じようにこのウイルスに感染することが判明したので、EBVが関与する疾病の、長期的な研究モデルとして活用できるようになったのです。」補足する。 ペンシルバニア大学獣医学部のメイソン教授の研究チームメンバーは、シンフン・フアン博士、フィリップ・コザック氏、ジェシカ・キム氏、ジョージ・ハビネザ・ヌディクエーゼ氏、チャールス・メーデ氏、アニタ・ゴーニエ・ハウザー氏、そしてリーマ・ペイテル氏等である。同チームはペレルマン医科大・微生物学教授のエール・ロバートソン博士と共同研究体制をとっている。彼等の研究成果はjournal

大型類人猿のものでは最後となる、ゴリラのゲノム配列がデコードされ、2012年3月7日付けのNature誌オンライン版に掲載された。今まで、人間に最も近い動物はチンパンジーであると確信されていた。しかし、本研究チームがデコードした結果、ヒトゲノムにより近いのはゴリラのゲノムであることが明らかになった。大型類人猿の4種(ヒト、チンパンジー、ゴリラ、そしてオランウータン)全てのゲノムを比較することが可能になったのは、今回が初めてある。本研究は、ヒトの起源についてユニークな見方を提供すると同時に、ヒトの進化および生物学の研究、またゴリラの生物学および保全のための重要なリソースになる。   「我々の祖先が、我々に最も近い生物と分岐した点を明らかにするためには、ゴリラのゲノムが重要なのです。また我々ヒトと、霊長類最大のゴリラの遺伝子の類似点や相違点を探ることが、本研究により可能になりました。」と、責任著者、ウェルカム・トラスト・サンガー研究所のアリウィン・スカリー博士は語る。「我々はニシローランドゴリラの雌、カミラのDNAを使用してゴリラのゲノム配列を組み立て、他の大型類人猿のゲノムと比較しました。また、ゴリラの種間遺伝子差異を探るため、他のゴリラからもDNAシーケンスをサンプリングしました。」と、スカリー博士は説明を続ける。研究チームは進化過程における重要な遺伝的変化を見つけるため、ヒト、チンパンジー、そしてゴリラから11,000以上もの遺伝子を調べた。 ヒトとチンパンジーは遺伝子ゲノムの大部分を介してお互いに最も近いが、そうではない点も複数発見された。ヒトゲノムの15%はチンパンジーよりもゴリラに近く、チンパンジーのゲノムの15%はヒトよりもゴリラに近い。3種全てにおいて知覚、聴覚、そして脳の発達に関する遺伝子が加速進化を示しており、特に人間とゴリラでこれが著しく見られた。「

ラパマイシン(免疫抑制薬)を投与された一部の患者が糖尿病の様な症状を発症する理由を、Dana-Farberガン研究所の科学者チームが発見した。ラパマイシンは臓器拒絶反応を防ぐために幅広く使用され、さらに抗がん作用もあり、老化を遅らせる可能性もあるため、ガン治療への使用を臨床治験中でもある。しかし、患者の約15%は薬剤服用後にインスリン抵抗性およびグルコース不耐性を発症し、この理由は今まで不明瞭なままであった。   2012年4月4日付けのCell Metabolism誌に掲載された本研究では、通常のマウスでラパマイシンを与えられたものはインスリンシグナル伝達が低下するため、血糖を調節することが困難であったと報告されている。インスリンシグナル伝達はYY1タンパク質の活性化により引き起こされる。このYY1タンパク質が筋肉から“ノックアウト”された動物は、糖尿病の様な症状を発症することはなかった。この結果は、正常なインスリン機能の損失の原因がYY1にあることを表している。 本知見の意味することは、医師はラパマイシンと共に抗糖尿病薬も与えることを考慮するべきであると言う事だと、本研究の責任著者、ペレ•プレイグセルペル博士は述べる。本結果はさらに、ラパマイシンの寿命を延ばす効果を期待している者達に対して注意を促す。ラパマイシンおよび関連化合物のアンチエイジング効果については「糖尿病リスクの増加を考慮する必要がある」と、プレイグセルペル博士は語る。ラパマイシンはイースター島で発見されたバクテリアに由来する薬剤であり、移植患者の免疫抑制剤として1999年にFDAにより認定された。その作用の一つが、細胞内のmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)シグナル経路の抑制である。mTOR経路は細胞の成長、増殖、生存および運動性に欠かせないものであり、mTOR活動の上昇は多くのガンに見られ

特定の遺伝子が自殺行為と関連することが、やカナダ嗜癖・精神保健センター(CAMH)の最新の調査で実証され、複雑多岐に渡る自殺の要因について新たな知見が得られた。これにより将来的には医師が遺伝子治療によって自殺予防措置を講じる事が出来るようになるであろう。これまでの研究では、神経システムの構築に関与している脳由来神経栄養因子(BDNF)が自殺行為と関連していると考えられてきた。   これまで報告されていた11の研究結果に、総合失調症の症例を含む独自の研究データを加えたて検討した結果、CAMHの研究チームは、精神医学的診断が成された患者においてはBDNF遺伝子のメチオニン(Met)変異が、バリン(Val)変異と比較してより強く自殺行為を行なうリスクと関連している事を確認した。 本研究結果は「国際神経精神薬理学(International Journal of Neuropsychopharmacology)誌オンライン版2011年8月30日号に発表され、1,202人の自殺未遂者を含む3,352人の調査結果から成っている。この発表はたまたま10月2-8日の「精神疾患啓発週間」と10月8日の「国際精神保健デー」と同じタイミングとなった。「私達の発見は、自殺予防を治療する為に、この目的遺伝子を検査し治療する方法の開発につながるでしょう。そして将来的には、多くの研究者たちが私達の結果を追試し発展させて、自殺のリスクの高くなっている人を確定診断する方法が可能となるでしょう。Met変異によりBDNF遺伝子の活性が低下すると自殺行為に走るリスクが増加すると考えれば、BDNF活性を上昇させる化合物を開発すれば解決できます。」とCAMH神経科学研究所長のジェームス・ケネディ博士は語る。 自殺者の凡そ90%が少なくとも1つの精神衛生疾患を有していることを研究者たちは指摘している。本研究で採用

腸内細菌がヒトの健康や代謝および疾患を調節する上で重要であることが、様々な証拠と共に注目されてきている。しかし、細菌はその役割の一部でしかない。これらの細菌に感染するウィルスもまた、ヒトを形成していくと言っても過言ではない。2012年3月6日付けのPNAS誌に掲載された本研究は、ペンシルベニア大学医学部ペレルマン学校微生物学教授、フレドリック・D・ブッシュマンが主導したものだ。健常者の腸内に存在するウィルスのDNA(virome:ヴィロム)をシーケンシングした本研究では、12人の便から約480億個のDNA塩基、または遺伝子のビルディングブロックが収集された。   研究チームはこれらのブロックをパズルピースの様に組み立て、ウィルスゲノムを再現した。個人ごとに数百から数千の異なるウィルスが集められ、それら一つを除いた全てが、研究チームが予想した通りバクテリオファージ(バクテリアだけに感染するウィルス)であった。異なる一つは、1検体のみに観察されたヒト病原体のヒトパピローマウィルスであった。 バクテリオファージは多くの細菌にとって天敵のようなものであるが、ヒトのミクロビオームにおけるこれらの役割はごく最近研究され始めている。大学院生、サムエル・マイノット率いるブッシュマン博士の研究チームは、研究対象である12人のヒト検体のウィルス数の違いを調べるため、配列の違いが最も顕著である塩基の広がりを探した。研究チームの調査の結果、51の高頻度可変領域が12人の間で同定され、驚くことにこれらは逆転写酵素遺伝子に関連していたのである。一般的にHIVなどのレトルウィルスの複製と関連付けられている逆転写酵素は、RNAをDNAにコピーする。研究しつ尽くされている逆転写酵素であるボルデテラ・バクテリオファージの高頻度可変領域、BPP-1との配列および構造的類似性を有する領域が、51領域中29領

XRCC2遺伝子に稀に起こる突然変異が、乳がんのリスクを高めることが判明した。2012年3月29日付けのAmerican Journal of Human Genetics誌に掲載された本研究は、乳がんの病歴をもち、なおかつ現在知られている乳がん感受性遺伝子変異を持たない家系を調べたものである。本研究はハンツマンがん研究所(HCI)研究員およびユタ大学(U of U)腫瘍医学准教授、ショーン・タブチギアンPh.D.、ユタ大学皮膚学教授およびHCI研究員、デイビッド・ゴルガーPh.D.、そしてオーストラリア、メルボルン大学病理学教授、メリッサ・サウジー教授の3人の共同主任研究者によって行われた。   「我々は、乳がんを引き起こす遺伝子突然変異のリストに新たに1つを加えました。この新たな知見によって乳がん診断が改善され、患者の生存率も増加することでしょう。 さらに、ガンには至っていなくとも、この変異を持つ人々の役にも立ちます。なぜなら自分がリスクにあることを知った上で、ガンにならない生活を心がけるか、早期発見することが可能になるからです。」と、タブチギアン博士は語る。XRCC2はさらに、化学療法における新しいターゲットを提供する。「PARP抑制剤と呼ばれる薬が、特定のDNA修復パスウエイに遺伝子変異を持つガン細胞を死滅させることが可能だと思われます。そしてXRCC2はBRCA1やBRCA2のようにこのパスウエイに入っています。そのため、XRCC2変異による乳がんの患者には、PARP抑制剤治療が効く可能性が高いのです。」と、タブチギアン博士は続ける。タブチギアン博士によると、乳がんのケースの多くは病歴のあまりない家系に起こるという。突然変異および乳ガン感受性因子における配列多様性の組み合わせによるものは、家系リスクのわずか30%である。「これまでのところ、臨床診断のほとんど

2012年3月18日付のネイチャー誌オンライン版に、レット症候群モデルにおける免疫機能が障害された細胞を、骨髄移植(BMT)によって置き換える試みの結果が掲載された。レット症候群マウスモデルを用いた研究結果では、小児期症例の重篤な症状の多くが改善され、例えば、呼吸障害や動作障害の改善や寿命の延長などが観察された。小グリア不全におけるMecp2タンパクの機能を精査し、「レット遺伝子」にコードされる事を明らかにしたのは、バージニア大学医学部の主任研究者ジョナサン・キプニス博士とその研究チームである。彼らは神経学的症候群に対処する初めての研究手法の提唱者といえる。   レット症候群が示す最も顕著な症状は、自閉症スペクトラム障害であり、Mecp2遺伝子のランダム変異によって引き起こされ、おびえ退行が始まる6カ月−18か月齢の女児に最も多く発症する。発症した子供たちは、言語機能と手先の機能を失い、レット症の進行と共に、運動機能が損なわれていく。呼吸障害、パーキンソン病様震え、強い不安感、消化・循環器障害、広範囲にわたる自立神経失調、そして整形外科的異常などの症状が観察される。患者の寿命のほとんどは成人するが、多くが車いすに座りっきりで、食事はチューブを必要とし、コミュニケーションもできず、これらが一生続くのだ。 キプニス博士は神経学者としての予見から、レット症候群に注目したのである。「医科学的興味から研究を始めたのですが、」と同博士は話を切り出す。「レット症候群における、神経学的な機能と免疫システムの関連性を研究することに夢中になりました。骨髄移植療法が症候群の様々な症例に期待されるので、私達は全力で実験に取り組んでいます。」脳の大部分はいくつかのタイプのグリア細胞で構成されており、多様性のある複雑な機構には、神経細胞の成長とメンテナンスを司り健康を維持する機能も含まれている。

2012年3月付けのVirology誌に掲載された研究によると、膵管腺癌マウスにウィルスを腫瘍内投与した所、膵腫瘍の成長が阻害され、根絶された。ただし、いくつかの腫瘍はこの治療にかかわらず成長を続けたため、ウィルスに対する耐性も証明された。膵臓ガンの約95%は膵管腺癌(PDAs)である。PDAは最も致命的な悪性腫瘍の一つで、患者の5年生存率は8-20%でしかない。ノースカロライナ大学シャーロット校のバレリー・Z・ゼリシュビリ教授率いる研究チームは、膵腫瘍に対する数種類のウィルス、特に水疱性口内炎ウイルス(VSV)の実験を行った。   これまでの研究から、アデノウィルス、ヘルペスウィルス、そしてレオウィルスを含むいくつかのウィルスが膵臓ガン細胞を死滅させるために使用できと動物実験で実証されている。VSVはそのような腫瘍退縮ウィルスとなる性質をいくつか持っているのである。まず、VSVの複製では、感染するガン細胞が特定の受容体を発現する必要がない。そのため、他のウィルスとは異なり、ほとんど全てのガン細胞に感染することができるのである。第二に、複製は宿主細胞の細胞質内で起こるため、正常な宿主細胞がガン性のものに変わるリスクがない、とゼリシュビリ教授は言う。第三に、このウィルスのゲノムの扱いはとても容易であり、外来遺伝子の発現レベルを調節することが実際的である。そうなればガンに対するウィルスの特異性およびそれを死滅させる能力を高めることが可能になる。第四に、他のいくつかのウィルスと違い、ヒトはVSVに対する既存免疫をもっていない。 本研究ではいくつかのVSV変種におけるガンを死滅させる潜在力を、臨床的関連性をもつ13のPDA株細胞でテストした。この株細胞は原発腫瘍および肝臓やリンパ節転移の両方を含み、全てヒトから得られたものである。これらをアデノウィルス、センダイウィルス、そし

UCLAの研究チームが、T細胞を活性化させる機能の新たなメカニズムを正確に同定した。T細胞とは、感染源と闘う事が主たる役目である白血球の一種だ。2012年3月25日付けのネイチャー・メディシン誌のオンライン版に掲載された論文によると、感染箇所に現れる免疫細胞である樹状細胞が、ハンセン病の病原菌と言われるMycobacterium leprae(ハンセン病菌)と闘うために、より特異的な機能を獲得する様子が、論じられている。   樹状細胞は軍事行動における偵察機のように、進入してきた病原菌の重要な情報を提供し、T細胞が活性化する契機となり、より効果的な攻撃が出来るようにする。樹状細胞は、強い免疫反応に重要な役割を担い、感染箇所におけるT細胞の数に応じて強固な免疫反応が生じることは、既に理解されていた。しかし、樹状細胞がどのようにして感染源に応じて、特異的な応答様式を獲得していくのかは、よくわかっていなかった。研究チームは、NOD2と呼ばれるタンパクが、インターロイキン32という細胞シグナル分子を活性化させ、単球という一般的な免疫細胞を誘起して、情報伝達に特化された樹状細胞へと分化させることを明らかにした。「感染と闘う樹状細胞による、この機能のパスウエイが、初めて明らかにされたのです。感染症の治療を進める上で大変重要になると考えられます。」とUCLAデイビッド・ケッフェン医学部皮膚科学のポスドクであり、本論文の主筆であるミルジェム・シェンク博士は語る。 この研究を進めるに当たり、健常人ドナーやハンセン病ドナーから提供された血液由来の単球を用い、ハンセン菌と共培養を、或いは、ハンセン病菌に含まれており免疫システムの活性化に関与するとされる、NOD2とTLR2とを誘発する抽出成分と共培養を行なった。これらのタンパクが、異なる免疫レセプターをどのように活性化させ、感染した菌体の認

ワイルコーネル医科大の研究グループが、βサラセミア症と鎌状赤血球貧血とを遺伝子治療するための新規的な方法のデザインを完成させた。更に、治療前に各患者の治療応答を予め予測する診断方法も、このチームは開発しているのだ。2012年3月27日付けのPLoS ONE誌に発表された研究成果によると、重篤な赤血球不全症に関連する疾病に対して、新しい治療戦略を提供するものだ。   「この遺伝子治療技術は多くの患者を治療できる可能性を秘めています。特筆すべきは、ほんの僅かな血液サンプルがあれば、予め患者をスクリーニングして治療応答の予測を診断することも出来るのです。」と、ワイルコーネル医科大遺伝准教授で、この研究を主宰するステファノ・リベラ博士は語る。3カ国から集まった17人の研究チームを率いる同博士の説明では、ベータグロビン正常遺伝子の疾患細胞への導入と、正常ヘモグロビンの産生の増加との関連性を証明する初めての試みであり、これがうまくいくかどうかが、長い間に渡る赤血球不全症治療の課題であったのだ。これまでのところ遺伝子治療は、βサラセミア症患者に対してフランスで1例行なわれているだけだが、リベラ博士の研究グループは本方法の方がより顕著な効果が得られると期待している。鎌状赤血球症患者が、この遺伝子治療の治験を受けたケースはまだ報告されていない。βサラセミア症は遺伝性疾患であり、ベータグロビン遺伝子の異常に起因する。この遺伝子は、赤血球に含まれるヘモグロビンタンパクの重要な部分を形成するもので、ヘモグロビンは生命活動に必要な酸素を全身に運ぶのが役割である。 リベラ博士のチームが開発した遺伝子導入技術は、導入されたベータグロビン遺伝子の活性が維持されるので、より治療効果があるベータグロビンタンパクを供給することが出来るのだ。「サラセミアの不全は、赤血球内においてベータグロビンタンパクが産生

母親の卵子に存在するタンパク質、TRIM28が受精後特定の化学修飾、または特定の遺伝子上エピジェネティック・マーカーを保存するために必要不可欠であると、A*STAR医学生物学研究所(IMB)の国際研究チームが発表した。本研究は2012年3月23日付けのScience誌に掲載され、不妊症におけるエピジェネティクスの働きを研究するスタート地点になると思われる。これまでの研究では、核の初期化およびインプリンティングの両方が、胚の生存および成長にとって不可欠であると示されてきた。   しかし、初期の胎児期における、これら二つのプロセスの複雑な関係を管理するメカニズムは、今まで明確にされていなかったのである。DNA上のエピジェネティック・マークのほとんどは、受精後すぐに消されてしまう。核初期化とよばれるこの消去プロセスは、初期の 胚細胞があらゆる細胞型に発展できるように、両親からの遺伝子をリセットするのである。一方、母親と父親からの特定の遺伝子上のエピジェネティック・マークのいくつかは保存されなければいけない。これらの遺伝子は“インプリント”と言い、胚の生存のために重要である。これらのインプリント遺伝子の適切な発現が、正常な胚の成長につながるのである。 インプリント遺伝子のエピジェネティック・マークが保護されなかった場合、重度の胚発達異常が複数起こる。IMB責任研究員、デイボー・ソルター博士およびバーバラ・ノウルズ博士は、遺伝的に同一の近交系マウスを研究に使用し、TRIM28欠損卵子から生じた胚は受精後どれも生き残らなかった事を見せた。胚は発生の様々な段階で死亡し、異なった発達障害をもっていた。単一遺伝子の欠如による遺伝性疾患をもつ個人間では一貫して似たような障害が見られるが、母性TRIM28欠損マウスでは遺伝的に同一であるのに異なる奇形が見られた。これらの知見および核初期化に

パーキンソン病の原因と考えられる遺伝子の変異が新たに発見された。この変異はパーキンソン病の罹患者が多いスイスの大家系を対象として最新のDNA配列解析技術を用いて調査研究した結果判明した。この研究はフロリダのメイヨクリニックキャンパスの神経医学者グループが主宰し、米国・カナダ・欧州・英国・アジア・中東等の共同研究グループを加えて行なわれ、American Journal of Human Genetics誌2011年7月15日号に発表された。「この発見はパーキンソン病の研究に新しい道を作ったのです。私達が発見した新たな遺伝子変異はどれもがこの複雑な疾患を読み解く助けとなるし、新たな治療法の可能性も秘めているのです。」と共同執筆者のズビグニュー・ゾレック博士は話す。   研究チームが見つけたこの変異は、細胞内でタンパクを再利用するサイクルに関与するタンパクVPS35内に存在し、これがこのスイスの家系にパーキンソン病をもたらす原因になっている。変異したVPS35タンパクは細胞内で必要なタンパクを再利用する機能が抑制されているので、それが原因となって、パーキンソン病患者やアルツハイマー患者の脳に見られるような異なる構造のタンパクが生成されるのだろうと、共同執筆者であるフロリダのメイヨクリニックの神経医学者オウエン・ローズ博士は説明し、更に「実際、アルツハイマー疾患ではこの遺伝子の発現が抑制される事が観察されており、細胞内でタンパクの再利用が阻害されれば他の多くの神経変性疾患を誘発します。」と語る。 メイヨクリニックが行なった共同研究の成果として、6つの遺伝子変異が家族性パーキンソン病に関与している事は明らかになった。ゾレック博士はパーキンソン病研究の世界ネットワークを構築しており、その多くはメイヨクリニックで研究経験を持つ。本研究の主筆であるチャールス・ビラリーニョ・グレル博

ロヨラ大学シカゴストリッチ医学部の研究チームが、ショウジョウバエの遺伝子の特徴を生かした抗がん薬を開発している。新しく発見されたショウジョウバエの遺伝子は、癌発生およびいくつかの先天性欠損症において、重要な役割を持つ二つのヒト遺伝子の複合体に対応しているものである。このショウジョウバエの遺伝子が進化し、二つに分化されたのだ。   この分割のおかげで研究が容易くなり、そのおかげで新しい癌治療薬の開発が進むと考えられる。本研究は2012年6月1日付けのDevelopment誌に掲載された。「これは進化が我々に残したプレゼントです。」と、本研究の責任著者、アンドリュー・K・ディングオール博士は語る。本論文はその発見の重要性から、American Association for the Advancement of Science (AAAS)誌より出版されているScience Signaling誌の“エディターズ・チョイス”に選ばれた。正常細胞は、発達中に骨細胞や筋細胞など特定のタイプに分化し、整然とした方法で複製する。このプロセスは遺伝子やホルモンなどにより正しく制御されている。 これらの遺伝子の二つが、MLL2とMLL3である。対照的に、癌細胞は制御不能な分化と複製を繰り返す。2010年以来、複数の癌がMLL2およびMLL3の突然変異と関連していることが発見されており、それらには、非ホジキンリンパ腫、結腸直腸がん、腎臓がん、膀胱がん、そして髄芽腫などが含まれる。また、MLL2およびMLL3の突然変異が乳がんおよび前立腺がんに関与しているという証拠もある。これら2つの遺伝子は互いに似通っており、15,000個を超える塩基対で構成され、この数は一般的な遺伝子構造の10倍の大きさとなっている。これらの遺伝子は非常に大きく複雑なため、研究するのが困難なのである。ショウジョウバエ

副作用の非常に少ない新抗がん薬が、他の治療に失敗して後がないホジキンリンパ腫患者の生存率を劇的に改善している。ロヨラ大学医療センター腫瘍内科医、スコット・E・スミス博士(M.D., Ph.D.)が、この新薬ブレンツキシマブベドチン (Adcetris®)の生存データを17回欧州血液学会で発表した。スミス博士はロヨラ血液系腫瘍研究プログラムのディレクターである。この多施設共同研究は、幹細胞移植後に再発した102例のホジキンリンパ腫患者を含む。   患者の32%は腫瘍が無くなり、40%は少なくとも腫瘍が半分以下に縮小した。さらにこの他の患者の21%においてもいくらかの腫瘍の縮小が見られた。新薬への反応を示さなかったのは、患者のわずか6%であった。患者の65%は24ヶ月後も生存しており、その内25%はガンの進行が皆無であった。「これは、これまで予後が思わしくなかった患者にとって勇気付けられる結果です。」と、研究チームは語る。ロヨラの患者、ミシェル・サレルノはブレンツキシマブベドチン治療の前に二つの幹細胞移植(一つは自分の幹細胞を使用し、もう一つは兄弟から提供された細胞であった)および複数の化学療法に失敗していた。 しかし3、4回の輸液後、彼女は悪寒や発汗、および高熱と全身の痒みのような痛みから解放された。また、化学療法に共通する副作用もほとんど経験していない。「私は髪も保ち、嘔吐を感じたこともありません。輸液し、家に帰るととても快い感じがするのです。」と、彼女は語る。標準的な療法は、30分の点滴を3週間毎行う。患者は通常、48週間で16用量受け取るのである。ヨロラはこれまで約500用量を患者60人に投与している。「我々の患者の多くはこの療法が効いています。」と、スミス博士は語る。ホジキンリンパ腫は免疫系の癌である。患者のほとんどは、特に初期段階で診断された場合、化学療法や放

乳ガンのリスクが50歳以上の女性において劇的に増加することは周知の事実であるが、増加における細胞生物学的な原因は謎であった。この謎に対するいくつかの答えが、米国エネルギー省(DOE)ローレンス・バークレー国立研究所(バークレー研究所)の研究チームによって発表され、将来的な予防対策の可能性も出てきたのである。   バークレー研究所の細胞・分子生物学者、マーク・ラバージュ博士によって率いられた研究により、老化によって多能性前駆細胞が増加することが示された。多能性前駆細胞は成体幹細胞の一種で、多くの乳ガンの原因であると考えられている。また、腫瘍抑制因子機能があると考えられている管腔細胞の基底となる筋上皮細胞が老化によって減少することも示された。「これは、乳ガンに対する年齢的な脆弱性の細胞生物学的な理由を理解するための大きな一歩です。老化プロセス間の上皮における細胞および分子的変化を定義し、これらを機能的にアッセイすることも可能である今、我々は老化によるこのような状態を回避、もしくはリバースさせる方法を模索するべきです。」と、著者であるラバージュ博士は語る。 本研究は2012年5月2日付けのCancer Research誌に掲載された。米国では毎年20万人以上の女性が浸潤性乳ガンと診断され、内約75%が50歳以上である。内分泌プロファイルや乳ガン細胞を取り巻く微小環境の変化を含む、加齢に伴う生理的変化は、ガンリスクの増加と関連付けられている。しかし、その背後にある基本的な細胞メカニズムの説明は無い。「サンプルへのアクセスが制限されるため、ヒト組織における老化過程を研究するのはとても困難なのです。老化過程の細胞または分子基盤を取得しようとした研究のほとんどはイーストやハエ、ワーム、およびマウスなどのモデルを使用しました。これらのモデルは寿命が短く、遺伝子がコントロールされている

生物学的遺伝はDNA複製を基盤とし、何百何千もの異なるDNAサイトを、同時に正確に複製する工程である。もしこの複製工程が予定通り行なわれない場合、細胞に必要な材料が欠けたり不要な材料が増加したりし、不完全な遺伝子複製の特質として、出生異常や発ガンが見受けられる。ノースカルフォルニア大学(UNC)医学部の研究チームは、DNA複製に必要なタンパクであるCdt1が、細胞分裂後期の有糸分裂に重要な役割を果たしていることを明らかにした。この発見により何故多くの発ガンが、遺伝子の不完全さだけでなく、通常46個の染色体数の増減にも起因するのかが説明できる。   研究結果はネイチャー・セルバイオロジー誌2012年5月13日号のオンライン版に発表されたが、DNA複製タンパクがこのような2つの役割を有することを明確に示したのは世界初である。「私達はこのタンパクの役割は既によく知っていると思っていました、つまり、複製するDNA上に複製開始を準備するタンパクをロードするのだと考えていたのです。ところがこのタンパクは、もう一つの顔を持っていて、細胞サイクルの別の部分を相補的に司っていたのです。」とUNC医学部の生化学、生物物理、薬理学准教授で上級著者であるジーン・クック博士は語る。 細胞サイクルは幾つかの工程から成り立ち、複製によって2個の娘細胞に分裂する事によって、細胞の成長をおこなっている。4つの明確な工程から成り、それらは;G1 期(Gap 1)、S 期(DNA 合成)、M期 (有糸分裂)、そしてG2 期(Gap 2)である。クック博士のチームはG1期、つまりCdt1が遺伝子上にDNA複製を行なうタンパク類をロードするサイクルに注目している。本研究でクック博士のチームは、細胞内でCdt1が相互作用を有する他のタンパクをスクリーニングした。同博士が期待したことは、複製開始に関与する他の要素

世界最大のゲノミクス機関であるBGIは、張家口農業科学アカデミーとの共同研究でアワのゲノムシーケンスおよび解析を完了した。アワはキビの中で二番目に最も広く植えられている種であり、本研究はアワおよびキビ作物の遺伝子改良のための貴重な資源となる。研究結果は2012年5月13日付けのNature Biotechnology誌に掲載された。アワは半乾燥地域において食料および飼料となる貴重な穀物であり、中国では最大の作物である。   アワはゲノムサイズが小さく(〜490M)、遺伝的多様性に富み(〜6,000種類)、自家受粉をし、生殖質データが完全で、さらに形質転換のプラットフォームが効率的であるため、比較ゲノミクスおよび遺伝子機能研究のための重要なモデルとして役立つのだ。また、アワはスイッチグラスやネピアグラスなど複数のバイオ燃料草と進化的に近いのである。「伝統的な品種は収率が低く、アワの栽培および利用を大幅に制限していました。張家口農業科学アカデミーのジアイ・ザオ博士によって最近開発されたハイブリッド品種は、アワの収率を倍増しました。私はこの研究により、これまで軽視されてきた作物の収率や穀物品質を上げ、ストレス耐性を持つ新品種開発のためにゲノムシーケンスが役立つ良い例になると思います。」と、BGI副社長、ゲンギュアン・チャン博士は語る。 本研究でBGIの研究チームは“Zhang gu”と呼ばれる中国北部のアワの一系統の次世代シーケンシングおよびde novoアセンブリを行った。最終ゲノムアセンブリは423Mbになり、38,801ものタンパク質コーディング遺伝子が予測され、内~81%が発現していた。研究チームはまた、他系統のA2およびZhang guとA2の交雑種であるF2個体群の再シーケンシングによって識別された遺伝子マーカーを使用して高密度遺伝子連鎖マップを作成した。A2は

リーズ大学・生物科学部のジュリアン・ヒスコックス博士とジョン・バール博士は、ポルトン健康保健局(HPA)と共同で、細胞内のマーカー特性の変化によってウィルス感染の重症度を測る、ウイルスバーコードバンクを確立した。現在研究チームは、インフルエンザウイルスと幼少期の喘息発症の契機となるヒトRSウィルス(HRSV)とについて、それらの複数の異なる種をバーコードする研究を行なっている。   「インフルエンザのような感染症は、感染したウィルスが私達の体の細胞で増殖し、その細胞自身がウィルス増殖生産工場のような役割を果たしてしまうのです。感染によって細胞内のタンパクバランスが破壊されます。あるタンパクは過剰に生成され、あるタンパクは生成量が減少します。どのタンパクの生成量が影響され、どのような割合なのかを調べることによって、どんなウィルスの感染症であるのかがわかるバーコードとなるのです。」とヒスコックス博士は話す。 2009年に大流行したブタインフルエンザと季節性インフルエンザを比較して、感染した肺細胞の状態の違いを解析したこの研究結果は、Proteomics誌の2012年5月14日号に発表された。研究チームはSILACという名の標識化技術を用いてサンプル中の何千もの異なるタンパクを比較解析した。この技術では同時に質量分析装置が用いられ、ウィルス感染によって最も影響を受けるタンパクを同定し、それらを、疾患情報を与える“分子指紋”として解析したウィルスによると、ウィルス感染によって影響を受けるタンパクのうち、細胞複製に関わるタンパクが最も多かった。「ブタインフルエンザは季節性インフルエンザと同様な機序で感染し、それは我々の“バーコード”に反映されています。もしこの試験法を使っていたなら、2009年のブタインフルエンザ大流行の際に、その重症度が低い事を明らかに出来たので、あれほどの世

近年明らかになって来た事だが、糖尿病患者にとって悪い知らせであるのは、糖尿病はアルツハイマーの高いリスクを有しているという事だ。ニューヨーク市立大学(CCNY)の研究チームがそのメカニズムを明らかにした。生物学教授のクリス・リー博士の研究チームは、一つの遺伝子がこの二つの疾患を関連させていることを明らかにした。   博士らが見つけたのは、アルツハイマー病においてよく見受けられる遺伝子で、これはインシュリンのパスウエイにも関与している。Genetics誌2012年6月号に掲載された記事によれば、このパスウエイの破壊が糖尿病に直結する一方で、この発見は、両方の疾患の治療ターゲットとしても考えられる。「2型糖尿病患者は、高い認知症リスクを有しています。インシュリンパスウエイは多くの代謝経路に含まれており、同時に神経系の健康を維持する機能も有しているのです。」と、リー教授は、この関連性が決してとんでもない話ではない事を説明する。 アルツハイマーの病因は未だ不明な点は多いとは雖も、死後の病因の判定基準としては、患者の脳の破壊が進んだ部分に、粘着性のアミロイドタンパク斑が観察される事となっている。ヒトにおいて、「アミロイド前駆タンパク(APP)」遺伝子やAPPを処理する遺伝子が変異する事によって、家族性アルツハイマーの症例が出てくる。リー教授とその研究チームはAPL-1と呼ばれるタンパクを精査したのは、このタンパクがC-エレガンス(線虫)に由来する、ヒトアルツハイマー遺伝子の完全なモデル遺伝子から生成されるからである。「私たちが見つけたのは、線虫モデルにおいて、APP遺伝子の変異により代謝経路の幾つかを破壊され、線虫の成長が減退した事です。私達は、どのように線虫モデルAPPが複数の代謝経路に作用し、そのAPPがどのようにインシュリンパスウエイを阻害するのかを調べ始めました。」とリ

グリーンアノールトカゲの全ゲノム配列解析が世界で初めて完了し、その敏捷で活動的な性質も遺伝子に帰する事が出来るようになった。哺乳類と爬虫類の祖先が3億2000年前に分化した後、爬虫類と対応する部分の遺伝子が人間や哺乳類でどのように進化してきたかを洞察する手掛かりとなるであろう。ゲノム解析プロジェクトの完了結果は2011年8月31日付のNatureオンライン誌に発表された。このグリーンアノールトカゲ(Anolis carolinensis)はアメリカ南東部に生息しており、鳥以外では爬虫類として初めてそのゲノム配列が明らかにされた。   ブロード研究所の研究グループは類人猿を含む20以上の哺乳類の遺伝子配列解析評価を実施したが、爬虫類の遺伝子の全体図は未だ解析が進んでいなかった。「ヒトのゲノムがどのように進化してきたかを学習するには時には一定の距離を置かねばならない。過去に見てきたものを遥かに超える新しい発見があるだろう。」と第一共同著者であり、ブロード研究所の脊椎動物ゲノム研究グループの研究科学者であるジェシカ・アルフォルディ博士は語る。 トカゲはどちらかと言えば鳥に近く(鳥は爬虫類とも言えるが)全ゲノムが解読された他のあらゆる生物よりも役に立つ情報を有する。哺乳類のように、鳥類と爬虫類は羊膜類であり、水中に卵を産む必要は無い。「研究者達は脊椎動物の系統樹のいろんな位置に属する動物の遺伝子解析を実施してきましたが、トカゲについては試みていません。注目すべき系統ブランチなのです。」とブロード研究所の脊椎動物ゲノム研究所科学部長でNature誌上席著者であるカースチン・リンドブラッド・トウ博士は話す。400種を超えるアノールトカゲがカリブ海、北アメリカ、中央アメリカ、南アメリカの島々に生息し、進化の研究を実施するには最善のモデルと考えられる。それらのトカゲの生態については既

コウモリ狂犬病ウィルスの進化速度は宿主の生態に深く関わっている、と米国ジョージア大学(UGA)疾病管理・予防センターおよびベルギー・ルーベン、カトリック大学(KU)の研究チームが発表した。本研究は2012年5月17日付けのPLoS Pathogens誌に掲載され、宿主の地理的環境がウィルス進化率の最も正確な予測値であることを説明している。熱帯・亜熱帯のコウモリ種は、温帯地域に住むコウモリのウィルス変種よりも4倍速く進化するのである。「広く分布している種属は、地域によって異なる行動を見せます。   熱帯のコウモリは年間を通して活動的なため、狂犬病ウィルスの感染が毎年多く起こります。一方、冬眠中のコウモリのウィルスは伝染する機会を6ヶ月も失う可能性もあります。」と、本研究のリーダー、UGAオダム生態学準学士、ダニエル・ストリーカー博士は語る。宿主の生態とウィルスの進化率との関係を理解することは、インフルエンザなど多地域にわたり起こり、複数の宿主種に感染するウィルスの伝染ダイナミクスや、ウィルスの人為的変化による伝染ダイナミクスなどを理解することにつながる。本研究チームによる知見は、異なる環境および環境の変化に応じていつ狂犬病ウィルスが伝染するのか、公衆衛生局の立てる予測に役立つかもしれない。 しかし、そのためには狂犬病ウィルスのゲノムおよびコウモリの越冬生態の研究がさらに必要であるとストリーカー博士は述べる。「ウィルスの進化が早い場合、ウィルスゲノムの重要な部分に大きな遺伝的多様性を生み、宿主をシフトすることができるかもしれません。狂犬病に関してはこれが何なのか知られていないため、それを識別することが鍵となります。同様に、気候変動がウィルスの進化をスピードアップするかどうかを理解する前に、環境の変化が宿主の生態や行動にどのような影響を与えるのかを知る事が必要なのです。」と

靴の裏に装着された紙のように薄い発電機によって、歩きながら携帯電話が充電できれば素晴しいではないだろうか?この夢のようなシナリオに現実味が出てきたのだ。米国エネルギー省ローレンス・バークレイ国立研究所(バークレイ研究所)が、無毒性のウイルスを利用して機械的エネルギーを電気に変換する発電方法を開発した。   小さな液晶画面であれば動作させる程度の発電容量は既にテスト済みだ。特別に作製されたウイルスを内包した郵便切手サイズの電極を指でタッピングするのが、発電の方法である。ウイルスがタッピングによるエネルギーを電気に変換する。これは、生物材料による圧電デバイスを用いて電気を起こす、世界で初めての発電システムである。圧電デバイスは機械的ストレスに呼応して、電荷を固体内に蓄積する。狙っているのは、ドアの開け閉めや、階段の昇り降りなどの日常活動から生じる「振動」を集めて電気にする、マイクロデバイスの開発である。もし簡単なマイクロサイズのデバイスが出来れば尚良いので、フィルム内に整然と並ぶようなウイルスを活用できれば、大変都合が良いことになる。「自己組織化」は、いろいろ注文の多いナノテクノロジーの世界では、引っ張りだこの技術と言えるであろう。 研究チームの成果は、ネイチャー・ナノテクノロジー誌2012年5月13日号の特集記事として掲載された。「更なる研究は必要ですが、私達の研究は、ウイルス発電を基盤とした個人レベルの発電システムや、ナノデバイスで使用する作動装置など、様々な用途を実現するための第一歩となるでしょう。」とバークレイ研究所生物物理科の指導教官でUCバークレイ校生物工学科准教である、セウン・ウー・リー博士は語る。同博士と共同で研究を行なっているのは、バークレイ研究所材料科学科の研究者でUCバークレイ校の材料科学と工学と物理学の教授であるラマムーシィ・ラメッシュ博士と、バー

miRNAとは、遺伝子の小片であり、遺伝子のオンとオフをどのタイミングで行なうかを調整しており、ヒト細胞は何千ものマイクロRNA(miRNA)を産生していると考えられている。miRNAは正常細胞のコントロールに重要な役割を持っている一方で、疾患にも関わっている。例えば、ある腫瘍では産生量が増加し細胞の増殖に関与する。   miRNAが健康や疾患にどのように関与しているのかをより良く理解するには、どのmiRNAがどの遺伝子に作用するのかを正確に知る必要がある。とは言え、その数は膨大であり、例えばたった一つのmiRNAが何百もの遺伝子を制御しているのである。miR-TRAPを使えば、細胞内でmiRNAが標的としている遺伝子を直接同定することが簡単にできる。この技術は、サンフォード・バーンハム医学研究所(サンフォード・バーンハム)の教授でプログラムディレクターであるタリク・ラナ博士とその研究チームにより、2012年5月8日付けのAngewandte Chemie誌国際版で初めて明らかにされた。「この方法は、様々な生理学的条件化におけるいくつもの疾患のmiRNA標的を発見するのに利用できます。 miR-TRAPはRNAフィールドのギャップを埋める橋のようなもので、ガンのような疾患の理解を助け、裏に潜む遺伝子学的な標的を基にして、診断法や治療法を明らかにするのに役に立ちます。新しいハイスループットRNAシーケンス技術によって、多くのmiRNAとその標的が判るようになることは大変重要です。」とラナ博士は語る。miRNAはDNAに直接結合して遺伝子発現をブロックするのではなく、メッセンジャーRNA(mRNA)に結合してブロックする。mRNAは通常DNAの情報を細胞核から細胞質へ運び出し、そこで配列情報はタンパクへと翻訳される。続いてこれらのmRNAに、RNA由来サイレンシング複合体

血管新生を起因とする疾患の新規的な治療薬を開発しているスイスの企業Gene Signal社が、2012年5月8日、フロリダ州フォート・ローダーデイルで開催された2012 ARVO 年次大会において、脈絡網血管新生症の新薬候補aganirsen(GS-101, 点眼薬)の霊長類モデル試験が、良好な結果を示した事を発表した。Aganirsenの局所投与によって血管新生の成長と漏出を阻害出来る事が、このモデルにおいて確認され、加齢性黄斑変性症(AMD) や虚血性網膜症のようなヒトの脈絡網血管新生症における新薬候補の役割が強調された。   Gene Signal社のaganirsenは、アンチセンス・オリゴヌクレオチドで、2012年には角膜の進行性血管新生症の治療薬としてのフェーズ?試験を完了する予定である。網膜疾患の治験は2012年の第二四半期から開始される。 「この治験では、aganirsenが、血管由来タンパクIRS-1の発現を阻害することによって、網膜における血管新生の形成に対処する機能を有する事を、実証しようとしています。重要なことは、この阻害機能は、正常な血管新生は邪魔しないことなのです。効果的な新たな血管新生阻害剤の要望は、複数の眼疾患に処方し易い事であり、今回の実証データが役に立つと信じています。」と、インフォマティックスを担当しているRxGen社のマシュー・ローレンス博士は注釈する。AganirsenはIRS-1を阻害することによって、病理学的血管新生をブロックする。今日までの治験データでは、進行性角膜血管新生の成長を安全に且つ効果的に抑制することが可能で、更には、角膜移植を必要とする化学熱傷や感染性角膜炎の治療効果も期待できる。「血管新生疾患の局所投与薬は治療方針を根本から変えるものです。これまで処方が困難であった、AMD、虚血性網膜症、そして特定の緑内障

ルイジアナ州立大学のマーク・バッザー博士が、研究員のジェリリン・ウォーカー博士と准教のミリアム・コンケル博士と共同で、現在のオランウータンがAluと呼ばれる1,600万年前の古代ジャンピング遺伝子のホストである事を解析した研究を発表した。この研究は、サイディエゴ動物学協会とシアトル・システムバイオロジー研究所との共同研究で、新しく公開型学術誌として出版されているMobile DNA誌の2012年4月30日号に発表された。   トランスポゾンのサイズは大変小さく、レトロウイルスが行なうのと同じような方法で自己複製する。分子の化石のようなもので、共有されるAlu 因子配列と箇所によって、共通祖先がわかる。しかしこれは不正確なプロセスであり、“ホスト”DNAのセグメントはAlu挿入位置で複写され、標的部位の複製として知られる“足跡”はAlu挿入位置の同定に利用される。「しかしながら、これらの因子のほんの小さな領域だけが新たな複製を行なう“ドライバー”として機能し、ほとんどは不活性であることが判っています。そしてヒトにおいては、違いを明らかにするのは大変困難であることが判っています。 何故ならヒトゲノムでは比較的新しいAluの挿入が沢山見受けられ、同時に、Aluの伝播を簡単に観測できる情報が欠けているので、どのデータも少しずつ違って来るからです。そういう訳で、Aluの“親”や“ソース”を見つける事が困難であり、何百種類もある筈の違いが同じに見えるのです。」と、生物化学科のボイド教授兼Dr.Mary Lou Applewhite Distinguished教授である、バッザー博士は語る。ヒトや他の哺乳類の場合とは対照的に、オランウータンにおける比較的新しいAlu因子の動きは大変遅く、一握りのケースの比較で事足りる。この事こそ、バッザー研究室が以前に明らかにしネイチャー誌で議論さ

不明瞭な原因により発達遅延や先天性異常を持つ小児患者12人中7人の診断法を見つけるため、最先端の高速遺伝子シーケンシングが使用された。「 我々は12人の患者から比較的確実な診断法を2つ程手に入れられると思っていました。そしてそれにより不確定ではあるが遺伝的な原因を持つ疾患において、シーケンシング法が有効であることを示すことが可能です。   多様な患者の遺伝子解析を行なう方法はこれまで無く、しかも従来の半分の時間で有力な診断を得る事は驚くべきもので、従来の遺伝子診断で結果を得られなかった患者全てのための次世代シーケンシングに新たな道を開くことでしょう。」と、デュークセンター・ヒトゲノムバリエーション分子遺伝学および微生物学教授、デイビッド・ゴールドステイン博士は語る。研究チームはヒトの全ゲノムまたは生理活動を指揮するタンパク質を生産するDNAの一部、エクソームを高速に読み取ることが可能な次世代シーケンシングを使用した。このようなシーケンシングのコストは段々低くなってきており、臨床研究を行うのも可能になって来ている。 本研究は2012年5月8日付けのJournal of Medical Genetics誌に掲載された。「アメリカでは本研究で見られたような発達遅延や知的障害または先天性異常を持つ子供が年間5万人生まれます。これらの子供のほとんどは診断されぬままですが、我々は原因を見つける手助けを組織的に出来るかもしれません。」と、デュークセンター・ヒト遺伝学小児学教授および共同著者、バンダナ・シャシ博士は語る。本研究に関与した家族は、治療不可能または困難な疾患でも診断されることで安心感を示した。「問題の原因を知る事で謎が明らかになり、家族は少しばかり安堵するのです。」と、シャシ博士は語る。シーケンシングツールを使用してより多くの患者を研究すれば、同じまたは類似した遺伝子に変

1976年8月26日、ザイール地方(現コンゴ民主共和国)の小さな村ヤンブクで時限爆弾が爆発した。エボラとして知られる糸のようなウィルスが出現し、感染者は出血熱と呼ばれる数々の恐ろしい症状を発症し、約90%が死に至った。地球上で最も致命的な天然由来の病原体の一つと認識されるまでに、時間はかからなかった。そして今、アリゾナ州立大学(ASU) Biodesign Institute(バイオデザイン研究所)のチャールス・アンツェン博士は、ASUとアリゾナ大学医学部(アリゾナ州フェニックス)、そして米国陸軍感染医学研究所(メリーランド州フォートデトリック)の研究者達と共に、この恐ろしいウィルスに対するワクチンの開発に向かって研究を進めている。   この研究結果は、ラリー・ザイトリン博士率いるカリフォルニア州サンディエゴMAPP医薬品の共同研究チームのコンパニオン紙と共に、2011年12月5日付けのProceedings of the National Academy of Science誌にオンライン版に掲載された。 アンツェン博士のグループは、エボラに対する植物由来のワクチンが、マウスモデルで強力な免疫力を発揮することを実証した。この努力が実を結べば、エボラワクチンを米国で使用するために備蓄することも可能である。そうすれば、感染が突発した場合、またはバイオテロで武器化されたウィルスが兵士や社会環境に対して放出された場合などに役立つであろう。有り難い事に、今までエボラ出血熱の大流行は稀であった。しかし、アンツェン博士のような研究者にとってこれはチャレンジを意味するのである:「HIVのような他の致命的なウィルスの発生には、共通するパターンがあり、ワクチンのテストを可能にします。例えば、AIDSワクチンの研究は現在、疾患の発生率が高いタイの2カ所で進行中です。これとは対照的に、エボ

いくつかの癌における制御不能な腫瘍増殖の主な原因は、細胞内の低酸素環境である可能性がある、とジョージア大学の研究が明らかにした。本発見は幅広く受け入れられている‘遺伝子変異が癌の成長の原因である’という説に逆らうものである。「低酸素症、または細胞内の低酸素レベルが、特定の癌タイプの主な原因だとしたら、悪性腫瘍の治療法が著しく変わることでしょう。」と、リージェンツ・ジョージア研究同盟学者、そしてフランクリン・カレッジの生物情報学および計算生物学教授、イン・ズー博士は語る。研究チームは公的データベース内の、七つの異なる癌タイプより集めたRNA(トランスクリプトーム)データを解析した。   そして、細胞内における長期的な酸素不足が癌の成長を促している要因である可能性が高いことを発見したのである。本研究は2012年4月20日付けのJournal of Molecular Cell Biology誌のオンライン版に掲載された。以前の研究では、細胞内低酸素レベルは癌の成長における要因の一つとされてはいたが、主な原因としてはリンクされていなかった。世界中における高い羅患率は遺伝子変異のみでは説明出来ない、とズー博士は述べる。また生物情報学は生物学および計算化学を結合したものであり、癌を新たな視点から見る事が可能であるとズー博士は考える。 遺伝子レベルの突然変異は、ガン細胞に通常細胞に対する優勢力を与えるが、新しい癌の成長モデルでは癌遺伝子の増殖など、一般的な機能不全の存在を必要としない。「ガン治療薬は、特定の変異の分子レベルでの根本的原因叩く設計が成されていますが、ガンはしばしばそこをバイパスしてしまうのです。そのため、遺伝子変異はガンの主な原因でないかもしれない、と我々は思うのです。」と、ズー博士は説明する。これまで多くのガン研究は、特定のガンに関連付けられている、遺伝子変異に対

英国レスター大学循環器科学科の研究チームが、高血圧の原因について画期的な研究を行なった。2011年10月31日付けのHypertension誌オンライン版に発表された成果は、ヒトの腎臓内の遺伝子物質を探索し、高血圧に関与すると考えられる遺伝子を発見したというものだ。これにより今後、高血圧の原因を究明する研究に、新しい道が開かれるであろう。腎臓内にヒト高血圧に関与する重要な遺伝子とmRNA、そしてmicroRNAが存在することが明らかにされた。   さらに、高血圧をコントロールするホルモンとして考えられてきたレニンの調節に寄与する2つのmicroRNAも同定された。腎臓が血圧の調節を行うことは昔から知られていたが、そのプロセスにおける重要な遺伝子が発見されたのは、今回が初めてである。これは、大規模で包括的なヒト腎臓遺伝子の発現解析を実施した結果であるが、レニンの発現をコントロールする遺伝子の発見も初めてである。研究グループは、高血圧の男性患者15人と正常血圧の男性患者7人の腎臓から得た組織サンプルを分析し、それらのmRNAとmicroRNAとを比較した。mRNA(メッセンジャーRNA)はDNAからのタンパク生産情報を伝達する単鎖分子である。 遺伝子情報はDNAからmRNA鎖にコピーされ、細胞が必要なタンパク質を作る際に必要なテンプレートを提供する。microRNAはmRNAのタンパク質変換情報の伝達プロセスを調整する非常に小さな分子である。この研究は、レスター大学循環器科学科の循環器学専門臨床講師であり、レスター血圧クリニックのコンサルタント医師、マシージュ・トマゼスキー博士との共同執筆である。「この論文について、私は非常に興奮しています。レニンは血圧調節に関与する最も重要な物質の一つです。それがヒト腎臓内で発現しているという発見は、新しい降圧剤の開発への新しい道を開く

カンガルーは進化系統樹において特異な位置を占めているが、今日までそのDNA配列は解析されていなかった。この度、BioMed Central誌のオープンアクセスジャーナルGenome Biology 2011年8月19日付に、国際研究チームによるカンガルーのゲノムシーケンスが発表された。タマーワラビーと呼ばれるカンガルー種で、その遺伝子に隠されたカンガルー独特の「跳躍」に関与する遺伝子が見つかったようである。   「タマーワラビー遺伝子解析プロジェクトにより有袋類が私たちのような哺乳類とどのように違うのかを理解する事ができるでしょう」と話すメルボルン大学のレンフリー博士はこのプロジェクトを引っ張ってきた人物で、その国際研究チームはオーストラリア、米国、日本、英国、ドイツからの研究者によって構成されていた。タマーワラビーには大変興味深い生物学的特徴があり、例えば、12ヶ月の妊娠期間中11ヶ月は子宮の中で仮死状態である。生まれる時にはたったの0.5グラムの体重しかなく、それから9ヶ月は母親の腹袋に中で護られながら過ごす。研究者たちは、このようなタマーワラビーの興味深い生態にどのような遺伝子が関与しているのかを、配列解析によって手掛かりを掴みたいと考えている。 「跳躍」に関する遺伝子に照準を合わせるのに加え、タマーワラビーが持つ鋭い嗅覚に関与する1,500個の「嗅覚」遺伝子や、大腸菌や病原バクテリアから新生児を守る為に母乳中に抗生物質を生成する遺伝子などの探索が計画されている。レンフリー博士が説明するように、タマーワラビーの遺伝子から教わることは、きっと将来に「人間の疾病治療探索」の役に立つと考えられる。カンガルーの遺伝子を知ることは哺乳類の進化の研究につながる。カンガルーの祖先が少なくとも1億3000万年前に他の哺乳類に分化した事を考えれば、カンガルーのDNA解析は、人類の

小児脳腫瘍の中には、稀に脳幹に発生し致死性が高い症例がある。この腫瘍を研究しているグループが、この小児脳腫瘍症例のほぼ80%に共通して見受けられる遺伝子の変異を明らかにしたが、その遺伝子は、これまで腫瘍とは関連していないと考えられてきたものだった。この遺伝子の変異は、他の悪性小児脳腫瘍にも積極的に関与していることが、初めて明らかになってきた。この新たな知見は、聖ユダ子供病院研究所で実施されている、ワシントン大学小児腫瘍遺伝子研究プロジェクト(PCGP)の研究結果である。   2年以内に患者の90%以上が死亡するこの脳腫瘍については、まだほとんど研究が進んでいなかったが、ようやく重要な研究結果が得られたことになる。この、びまん性内在性橋グリオーマ(以下DIPG)の発生は、ほぼ児童期に限定され、脳や中枢神経系に生じる腫瘍の10-15%を占める。「これらの変異を同定することによって、これまでは外科的治療しかなく、効果的な治療法がなかったDIPGに対して、新たな選択的治療ターゲットが見つかる可能性があるのです。」と聖ユダ神経生物学と脳腫瘍プログラムの共同指導教官で、聖ユダ発達神経学部研究員である、スザンヌ・ベーカー博士は話す。 同博士は、2012年1月29日のNature Genetics誌のオンライン版に発表された本研究の責任著者である。DIPGは、呼吸や頭蓋の底部に位置しており、呼吸や心拍などの生命活動の根幹を司る脳幹部に発生する、大変浸潤性が高い腫瘍である。DIPGは外科的治療では治癒しないが、侵襲性の無い画像装置によって正確に診断される。それが理由でアメリカでは、DIPGのバイオプシが行なわれる事は極めて稀であり、結果として研究が進んでいなかった。腫瘍の発生は、遺伝子の正常な活動が阻害された場合に発生し、細胞増殖が野放しとなり、全身に広がって死をもたらす。DNAを細胞

「Science」誌(2011年5月13日号)の記事に、自然界には存在しない新しい抗ウイルス性タンパク質の設計へのコンピュータの活用方法について記載された。この新規タンパク質は、風邪ウイルス分子の特異的な表面を標的とすることが可能である。このようなタンパク質設計が目指すゴールのひとつは、細胞侵入とウイルス再生に関与する分子メカニズムをブロックすることであろう。コンピュータ上で設計した表面を標的とする抗ウイルス性タンパク質には、感染ウイルスの同定や制圧に関連した診断ならびに治療の可能性が示唆された。   本研究のリーダー的な著者は、ワシントン大学(UW)生化学部のDr. Sarel J. Fleishman氏とDr. Timothy Whitehead氏、同大学分子生物学部のDr. Damian C. Ekiert氏であり、彼はまたスクリップス研究所(Scripps Research Institute)の化学生物学Skaggs研究所(Skaggs Institute for Chemical Biology)の出身でもある。 上席著者は、スクリップス研究所のDr. Ian Wilson博士、UWならびにハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)のDr. David Baker氏である。そのような人工設計タンパク質がウイルス性疾患の診断、予防、治療の際に利用可能であるかどうかを見極めるためには、さらなる研究が求められると、研究者達はコメントしている。抗ウイルス性という特性を有する新しいタンパク質の創出にコンピュータ設計を使用する可能性を示唆している。「インフルエンザは、深刻な公衆衛生上の課題である。また、新しい治療法は、既存の抗ウイルス剤に耐性を示す、あるいは、身体の防御システムを回避してしまうようなウイルスと戦うため

2歳の時に脳性麻痺と診断された双子のノア・ビーリイとアレクシス・ビーリイの両親は、生まれた時から我が子に降りかかった苦難を取り除く答えを、ようやく手にする事が出来たと思っている。但しこの双子の問題を解決するには母親の遺伝情報が詳細に調査される事が不可欠であり、手にした答えは「道半端」でもあった。その遺伝子調査はBaylorヒトゲノム解析センターと国中から集まった専門家達の特殊なスキルによって行われる。   Science Translational Medicine誌2011年6月15日号には、Baylor医科大学(BCM)の研究者、サンディエゴ大学とAnn Arborのミシガン大学の解析専門家たちが双子の全ゲノムを解析し、双子の兄や両親の全ゲノムと比較してどのような違いが遺伝疾患の原因となっているのかに照準を合わせ、そして臨床医が遺伝疾患治療を微調整最適化する方法が報告されている。更には、ヒトゲノムの解析が患者個々人の治療の最適化に適用される新たな段階に来ていることも示唆されている。Baylorヒトゲノム解析センター(HGSC)は、ノーベル賞学者であるジェームス・ワトソン博士の全ゲノムを2007年5月31日に最初に公開して以来、個人の全ゲノム解析の先駆者である。その後2010年には、Baylorヒトゲノム解析センター所長のリチャード・ギブス博士とBCM 分子ヒト遺伝学部の副学部長ジェームス・ルプスキー博士とがルプスキー博士の全ゲノムを解析し、同氏が罹患している遺伝性疾患であるシャルコー・マリー・トゥース病のタイプについてその遺伝子変異型を同定した。「Baylor HGSCがワトソン博士の遺伝子を解析した時、私達は全ゲノムの解析が出来る事が判った」と言うルプスキー博士は、「皆が私のゲノムを解析して判ったのだが、何百万もある遺伝子の多様性の中から疾病遺伝子を見つけるに足り

フィッシュオイルから産生される化合物は、白血病幹細胞をターゲットにするため病気の治療法につながる可能性がある、とペンシルベニア州立大学の研究者は推測する。「Δ12プロスタグランジンJ3、またはD12-PGJ3と呼ばれるこの化合物は、マウス実験において慢性骨髄性白血病(CML)の幹細胞をターゲットにし、死滅させる事が実証されました。」と、獣医医科学部免疫分子毒物学准教授のサンディープ・プラーブ博士は語る。「D12-PGJ3は、魚やフィッシュオイルに含まれるω3脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)から生産されます。過去の研究では、脂肪酸は心血管系や脳の発達に良い影響をもたらし、特に乳幼児の健康に役立つものであると示されていました。   しかし、我々は今回、ω3の代謝体が白血病の原因となる幹細胞を選択的に死滅させる能力を持っている事を、マウス実験で明らかにしたのです。この注目すべき点は、マウスの白血病が無再発で完全に治癒されたと言うことです。」と、プラーブ博士は説明する。今回の発見は2011年2月22日付けのBlood誌に掲載され、研究者達はD12-PGJ3がマウスの脾臓および骨髄中の発ガン性幹細胞を死滅させることが可能だと述べた。 具体的には、この化合物は、白血病幹細胞自身の細胞死をプログラムするp53遺伝子を活性化するのである。「p53は DNA損傷に対する反応を調節し、ゲノムの安定性を維持する癌抑制遺伝子なのです。幹細胞が分裂すれば多くのガン細胞と幹細胞を生産します。そのため、幹細胞を死滅させることは、白血球の癌である白血病においてとても重要なのです。」と、プラーブ博士は説明する。「CMLの現治療法は、白血病細胞の数を低く保つことによって患者の生命を維持します。しかし、この薬は白血病幹細胞をターゲットとしないので、病気の完治は望めません。」と、今回の研究の共同ディレ

推定150万種ある真菌は、生命樹系図最大のブランチの一つでもあり、日常の生活や生態系の機能に、大きな影響を与えている。これは、真菌が、病原体としての機能や物質を分解する作用の保有、また宿主との共生関係の構築など、様々な性質を有しているからである。真菌類を人類の利益のために使用するためには、これらの振る舞い、機能、自然環境や人工環境における相互作用などを、明確に理解せねばならない。カルフォルニア大学・植物病理微生物学の准教授であるジェイソン・スタージック博士は「真菌1000ゲノム」プロジェクト国際チームの一員でもある。   この、5年掛りのプロジェクトは、米国エネルギー省共同ゲノム研究所との共同研究であり、真菌の生命樹系図から1000個の真菌をシーケンスするものである。この研究は、真菌の多様性についての研究者間の理解のギャップを埋める事を目的とし、米国エネルギー省2012年度コミュニティー・シーケンス・プログラムの41個あるプロジェクトの一つでもある。2011年11月3日にエネルギー省のグラントを得た本研究について、「全体的な計画としては、既知の真菌類全てから最低2種のシーケンスを行ない、真菌の生命樹系図のギャップを埋めるのが目的です。 プロジェクトの研究員は、収集されたデータを起点とし、これらの生物種が生存のためにどのように環境を変え利用するのかを、解析します。」とカルフォルニア大学リバーサイド校統合ゲノム生物学研究所の一員である、スタージック博士は説明する。スタージック博士は、オレゴン州立大学植物病理学のジョウィ・スパタフォラ博士と共同で真菌ゲノムプロジェクトを先導している。彼らのチームは共同研究グループと共に、真菌系を選択し、真菌の真菌界における進化や近縁性、及びそれらの遺伝子配列を解析する。 真菌は、死んだ有機物を分解する。これは地球規模炭素循環に欠かせない機能

バージニア海洋科学研究所(VIMS)によって成された「海洋法医学」における新たな発見により、アメリカ連邦シーフード管理局は、カジキマグロの代表格であるブルーマーリンを遺伝子検査して元来生息していた海域を、素早く且つ正確に割り出す事が出来るようになった。この検査は、アメリカのシーフード市場で販売されているブルーマーリンが、大西洋で獲れたものではない事を確認するために、必要なのである。   アメリカにおいては、大西洋やインド洋や太平洋で捕獲されたブルーマーリンを、輸入したり販売したりするのは合法であるが、大西洋産の場合は、民事上や刑事上の罰則規定があり、罰金徴収や現品の差し押さえ、或いはフィッシング許可の取り消しなどが成される。アトランティック・ブルーマーリンの保護条例は、大西洋における過度の捕獲と生息数の激減に対応するためのものである。全長13フィート、体重2,000ポンドに達する、この堂々たるブルーマーリンは、マグロ漁やメカジキ漁に付随して捕獲されたり、レクレーション・フィッシングを楽しむ釣り師達の恰好の対象となる。マーリンはレストランの素敵なメニューになり、カリブ海一帯では魚肉バーベキューの串刺し肉として、或いは魚肉フライの恰好の食材になる。VIMSの研究チームの、大学院生ラウリー・ソレンソン、 分子生物学者ジャン・マックドイウェル博士、そしてジョン・グレイブス教授等は、研究成果を「ブルーマーリン、Makaira nigricansを同定するマイクロサテライトマーカーの分離と評価」として、Conservation Genetic Resources誌(Volume 3, Issue 4, 2011)に発表した。 Ms.ソレンソンは、VIMSウィリアム・アンド・マリーズ海洋科学カレッジの修士論文の一部として、同論文を発表した。グレイブス博士とマックドウェル博士は共同研

過剰量のMeCP2タンパク質と関連する不安症や行動問題は、二つの遺伝子(Crh[コルチコトロピン放出因子]とOprm 1[μオピオイド受容体MOR 1])の過剰発現によるものであることが分かり、これらの問題を抱える患者の治療への道が開けるかもしれない。そう語るのは、ベイラー医科大学(BCM)の科学者達である。この研究レポートはNature Genetics誌オンライン版に掲載された。   この研究のほとんどは、テキサス州小児病院ジャン•アンド•ダン•L•ダンカン神経学研究所(NRI)で行われた。MeCP2は、タンパク質界での“ゴルディロックス(*1)”である。女性はこのタンパク質が欠けていると、幼い時期に神経障害であるレット症候群を発症する。過剰量にあると、MeCP2重複症候群に至る。この疾患は主に男児が発症し、遺伝子重複を母親から継承するか、まれに散発的に発生する。どちらの場合でも、不安症や社会的行動障害、また行動問題や認知障害が典型的な症状である。 「これは、翻訳過程の良い例です。最初に、MeCP2重複症候群のマウスを探し、その後クリニック内に疾患をもつ患者を探しました。研究所に戻り、MeCP2が実際に患者のフェノタイプに寄与する主な物質であることが分かりました。我々は、この疾患に見られる二つの主な症状に関連している、二つの遺伝子を同定したのです。後に、これらの情報をもってクリニックに戻り、患者の治療法を開発することが出来るかもしれません。」と、BCM分子ヒト遺伝学准教授であり、本論文の著者、ロドニー•サマコ博士は語る。「MeCP2の損失または増加は、数百もの遺伝子の発現に影響を及ぼします。しかし、不安や社会的行動障害を媒介するものが二つの遺伝子であったというのは、驚くべき発見です。」と、BCM分子ヒト遺伝学、神経学、神経科学そして小児科学の教授、フダ•ゾグビ博士

私たちの舌は脂肪に対して親和性を有するようだと、セントルイス、ワシントン大学医学部の研究チームが明らかにした。遺伝子の変化によって、人は脂肪の味に多少敏感になるのだ。本研究は、脂肪を感知するヒトのレセプターを始めて同定し、食品中の脂肪に敏感な人々もいるであろうことを示唆している。本研究は2011年12月31日付けのジャーナル・オブ・リピッド・リサーチ誌に掲載された。   研究チームは、CD36遺伝子変異をもつ人は脂肪の存在に、はるかに敏感であることを発見した。「最終的な目標は、食中の脂肪に対する味覚が、人が口にする食べ物や脂肪の量の摂取にどのように影響するのかを明らかにすることです。本研究で私達は、脂肪を感知する能力の個人差を説明する一つの仮説を得ました。それは今回証明されたように、人は脂肪分を摂れば摂るほどそれに対する敏感性を失っていき、そのため同程度の満足感を味わうためにより多くの脂肪分を摂取しなければいけなくなるからということです。食物中の脂肪分を感知する能力が、その人の脂肪分の摂取量に影響するのかどうか、ということを将来的に明らかにする必要があります。なぜなら、そのような影響があるとすれば、それは肥満にも多大な影響を及ぼすからです。」と、ロバート・A・アトキンズ教授医学•肥満リサーチセンター調査官、ナダ・A・アバムラド博士は語る。 CD36タンパク質の産生能力がある人ほど、脂肪分を感知する能力に優れていることが分かった。実際には、最もCD36の産生機能が高い被験者は、その約50%のタンパク質を産生した者よりも脂肪を感知する能力が8倍もあった。被験者はBMI指数が、肥満とされる30以上の21人。被験者はCD36の産生量が高い人、産生量が低い人、そして中間的な人で構成された。実験では、液体の入った3つのカップが用意された。一つ には少量の脂肪油が含まれ、他二つは油

UCLAの幹細胞研究チームは ES細胞における5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)によるDNA修飾の全ゲノム解析を世界で最初に完了し、主にオン状態或いは活性化状態の遺伝子上に観察される事を発見した。このUCLAイーディスブロードセンター再生医学・幹細胞研究所とイーライリリーの研究チームによる発見は、ガンのような疾患では、特定の遺伝子を制御する事で疾患をコントロールできる事を明らかにするものと考えられる。「ともかく、遺伝子のコントロールはヒトの疾患とガンに大変有用なのです。   ガンは一般的に、腫瘍抑制遺伝子のような遺伝子が不適切に不活性化や変異する事で、或いはオフ状態にあるべき遺伝子がオン状態になる事によって引き起こされます。」とUCLA生命科学部分子・細胞・発生生物学教授のスティーブンE.ヤコブセン博士とハワードヒューズ医学研究所の研究チームは述べる。この研究はGenome Biology誌の7月号に掲載される予定。 5hmCは DNA塩基シトシンにヒドロキシ基のついたメチル基を追加することで生成される。「シトシンに追加されたこのヒドロキシメチル基は、その遺伝子をオンまたはオフにすることが出来る可能性があるため、この分子はエピジェネティクス(DNA配列の変動以外のメカニズムによって起こされる遺伝子発現の変化の研究)において貴重な存在なのです。5hmCはごく最近発見されたため、その機能はいまだ明確に理解されていません。今まで研究者達は5hmCがゲノムのどこに存在するかさえも知りませんでしたが、今ではこの分子がどう機能し、どのような役割を果たしているのか理解することが出来るのです。」と、ジョンソン総合癌センターの研究員でもあるヤコブセン博士は説明する。「私たちは5hmCによってDNAが修飾される事は知っていましたが、ゲノムのどの位置でこの変化が起こっているのかが分か

NIHの研究チームが、稀な免疫疾患を引き起こす遺伝子変異を同定した。この遺伝子変異は血縁でない3家族から見つかり、過度の免疫系障害が特徴的である。症状は免疫不全、自己免疫、炎症性皮膚疾患、および寒冷蕁麻疹が含まれる。本研究は、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)アレルギー性疾患研究所、ジョシュア・ミルナー博士および国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)所長、ダニエル・カスナー博士によって進められ、2012年1月11日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表された。   発見された突然変異は、免疫細胞の活性化に関与する酵素、ホスホリパーゼCγ2(PLCG2)の遺伝子に起こる。そのため、研究者は疾患状態をPLCG2抗体欠損免疫異常またはPLAIDと呼ぶ。「研究者は稀少疾患の研究をすることで、健康的な免疫システムがどのように機能しているのかを知る手がかりを見つける事ができるのです。さらには、これらの疾患の遺伝的原因を同定することで、これまで原因不明の症状で衰弱して一生を費やしてきた人々のために、より良い管理および治療を提供する可能性が開けます。」と、NIAID所長アンソニー・S・フォウチ博士は語る。 NIHにより行われた本研究は、3家族から遺伝性寒冷蕁麻疹を患う27人を調査の対症にした。このアレルギー性疾患はかゆみや痛みを伴う蕁麻疹および湿疹、そして場合によっては寒さに対する重篤なアレルギー反応を引き起こすことが特徴的である。血液サンプルの分析の結果、患者の多くは自身の細胞や組織に対して抗体(自己抗体)を生成していることが分かった。これにより、自己免疫疾患を発症しやすくなっているのだ。また半数以上は再発性感染症の病歴があることが分かった。臨床検査の結果、患者の大半は感染と戦う抗体の数が少なく、循環する免疫B細胞の活性度も減少していた。これらは

まるでマジシャンが奇術を見せるように、mitoNEETタンパク質(糖尿病や癌、そして老化において重要な役割をもつ、まだ謎の多い物質)は、1カ所で動きを見せたかと思うと、より重要な活動を別の箇所で行っていたりするのである。このタンパク質が鉄や硫黄など、有毒な物質の構造部をどのようにコントロールしているのかを理解するため、ライス大学およびサンディエゴ、カリフォルニア大学(UCSD)の研究チームは室内実験とコンピューターモデリングを駆使し、mitoNEETの活動の一部を解読した。   この研究は2012年1月23日付けのPNAS誌に記載された。「我々は特殊な方法を使ってタンパク質を精査するのです。」と、ライス大学Harry C. and Olga K. Wiessの物理学と天文学の教授であり、理論生物物理学センターの共同代表であるジョゼ・オニュキック博士は語った「我々は生物物理学を用いて生物学を行ないます。これは実験において認められている、いないに関わりません。そして、これらのロジックが生物学的に重要であるかどうかを問うのです。」と、本研究のリーダー、UCSD生物化学科教授のパトリシア・ジェニングス博士は語る。ジェニングス博士はオニュキック博士と15年に渡り共同研究を行ってきているが、構造生物物理学で研究を進めることで、大幅に時間を短縮してきたと説明している。 例えば、ジェニングス博士の研究室では5年ほど以前に、mitoNEETが特殊な折りたたみ構造を有していることを明らかにした。それ以降、彼女の研究室では、タンパクの統計学的そして動力学的スナップショットから得られる情報を用いて、生物学研究と生化学研究を行なってきた。「タンパクとは動く部品で構成された機会であることを、みなさんは忘れているようです。私たちは統計学的スナップショットを開始し、機能的な動きをモデル化しました。」

アンデス地方やチベット高原などの高地に住む人々は、幾代にも渡り低酸素条件での生活に適応してきた。このような特徴的かつ強力な選択圧で生活をする様は、進化論において教科書のように良い例である。しかし、その遺伝子がどのようにして生存優位性を得ているのかは未だ解明されていない。この謎を解くため、ペンシルベニア大学の研究チーム(以下ペン・チーム)は、初となるゲノムワイドな高々度適応性の研究を始めた。   研究は、高々度に適応する主要人口の3位にあたるエチオピア高地のアムハラ族を対象に行われた。 驚くべきことに、3つのグループは全て異なる遺伝的変異を持ち、この適応性は収束進化によるものであると見られる。「これらの3つのグループは異なる遺伝的アプローチをとり、高々度に対する適応性を身につけたのです。」と、本研究の上級著者、ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院遺伝学科および統合文化生物学科の統合知識学教授、セーラ・ティシュコフ博士は語る。本研究はティシュコフ博士に加え、ペレルマン医学大学院遺伝学科の研究員、ローラ・B・シェンフェルト博士のもと行われた。 その他遺伝学科の研究員で本研究に貢献したのはサミール・ソイ博士、サイモン・ソンプソン博士、アレッシア・ランシアーロ博士、ウィリアム・ベッグス博士、シャリア・ランベルト博士、およびジョセフ・P・ジャーヴィス博士である。本研究はペン・チームとアディスアベバ大学生物学科のドーウィット・ウォルド・メスケル博士、ドーウィット・アバーテ博士、そしてガリア・ベレイ博士の共同研究で、2012年1月20日付けのゲノム・バイオロジー誌に掲載された。進化論における基本原則の一つに、自然淘汰がある。生物が己の環境に適していればいるほど生存率は高まり、その遺伝子を残す事が出来る。高々度な環境は酸素濃度も低く、気候順化していない者は急激に気持ち悪くなり、死に

乳房細胞が腺房と呼ばれる乳腺中の球状組織を形成する上で 重大な役割を持つ回転運動を発見した、と米国エネルギー省(DOE’S)ローレンス・バークレー国立研究所(Berkeley Lab)の研究チームが発表した。本研究は乳がんリサーチにはもちろん、基礎細胞生物学にも重要な意味を持つ。その接着性角運動のために、”CAMo”と呼ばれるこの回転運動は、細胞が球体を形成するのに必要不可欠なのである。   CAMoなしでは細胞は球体を形成することが出来ず、形体を損なうランダム運動を引き起こし、最終的には悪性腫瘍に発展する「この発見の素晴らしい所は、生物学に適用する細胞運動の物理法則を解く鍵となる可能性を秘めているということです。」と、乳がん研究の第一人者であり、Berkeley Lab生命科学科の顕著科学者、ミナ・ビッセル博士は語る。ビッセル博士と研究グループのポスドク物理学者、キャンディス・タンナー博士は、PNASに本研究を記述している論文の責任著書である。本論文は2012年1月25日付けのPNASオンライン版に記載された。健康なヒトの乳房および他の腺組織の上皮細胞は、球状腺房またはチューブ状の管を形成する。腺房形成により起こる細胞および組織の極性(細胞および組織構造の空間定位機能を有するもの)は、乳房の健康状態を維持するために必要不可欠である。細胞が球体を形成出来なければ極性は失われ、これは悪性腫瘍へ発展するサインとなる。 しかし、細胞の形態形成がここまで判明しているにも関わらず、上皮細胞が生体内でどのように集合し、サイズや形の類似した球体を形成するのかは未だ解明されていない。「我々は、単一細胞が複数回回転し、腺房を形成する過程での分裂時および集合時にもその回転運動を保持する、新規の細胞運動を発見しました。我々はまた、CAMoが球体構造を樹立する上で重要な機能であり、単なる多細

National Institutes of Health (NIH) の研究チームは、ゲノム・シーケンシングを使って抗生物質耐性の (Klebsiella pneumoniae) 肺炎桿菌シーケンス・タイプ258 (ST258) の進化を追跡調査した。この菌は院内感染症を引き起こす菌としてごく一般的である。以前には、ST258 K. pneumoniae菌株は単一の祖先から広がったものと思われていたが、NIHの研究チームの研究から少なくとも2つの異なる系統があることが証明された。   しかも、この2つの系統の主な違いが、細菌がヒトの免疫系と最初に接触する外膜と呼ばれる組織の生成に関わる遺伝子にあることを突き止めた。2014年3月17日付PNASオンライン版に掲載されているこの研究結果は、公衆衛生上大きな脅威になっている耐性菌感染症の診断、予防、治療の新しい方法を開発する大きな助けになることが考えられる。ST258 K. pneumoniaeは、カルバペネム耐性腸内細菌 (CRE) に分類される細菌の中でもヒトの感染症を起こす病原体としてもっとも一般的なもので、アメリカでは年間何千人もの人がこの細菌感染を発症し、600人ほどが亡くなっている。 CRE感染のほとんどは病院や長期ケア施設で起きており、CREとは関係のない疾患ですでに体が弱っていたり、特定の医療を受けている患者が発症している。この新しい研究では、NIHのNational Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID) の研究者と共同研究者が、ニュージャージー州の病院の2人の患者から採取したST258 K. pneumoniae株のゲノムの完全なシーケンシングを行った。この対照グループ・ゲノムをさらに83個のST258 K. pneumoniae分離試

結核治療の初期段階で食物摂取のタイミングが治療効果に思わしくない影響を及ぼすことがある。2014年9月7日にドイツのミュンヘンで開催されたEuropean Respiratory Society (ERS) International Congressでプレゼンテーションされた新しい研究によると、結核治療薬服用直前に食物を食べると薬の効果が弱まる可能性がある。研究チームは、初めて結核の治療を受けるという患者20人を対象に簡単な研究を行った。 患者にはisoniazid、rifampicin、pyrazinamide、ethambutolなど、ごく一般的な結核治療薬が与えられた。治療薬は初日は注射で、2、3日めは経口で、絶食中または高炭水化物食と一緒に投与した。各患者から血液サンプルを採取、LC/MS/MSと呼ばれる分析化学テクニックでサンプルを分離、サンプル中の化学物質を調べた。このテクニックは、医薬品の濃度と循環器系に届いた元のままの医薬品の比率を評価することができる。 次に、同じ患者、同じ実験条件で食物摂取のタイミングだけを変えて実験を繰り返し、血液サンプルを採取した。実験の結果、高炭水化物食と共に治療薬を投与した場合、絶食中に投与した場合に比べると、isoniazid、rifampicin、pyrazinamideの血中濃度は低くなっていた。このことから、治療薬投与直前に高炭水化物食を食べると治療薬の効果が薄れることが考えられる。首席著者は、当時インドネシアのUniversitas Gadjah Mada在籍であり、現在はUniversity of GroningenでPh.D.プログラムを間もなく終えようとするAntonia Morita Iswariで、その論文の中で、「研究は同じ患者を対象に同じ環境で実施された。この中で変数は食餌だけであり、従って食物が医薬

女性の体の細胞は、卵細胞を除いてすべて2本のX染色体を持っており、男性のXY染色体に対して適正な遺伝子量補償をするため、この2本のX染色体のうち1本が不活性になる。オランダのRadboud University Nijmegenの分子生物学者、Dr. Hendrik MarksとDr. Henk Stunnenbergと、同じオランダのErasmus MC in RotterdamのDr. Joost Gribnauの率いる研究グループの共同研究は、この不活性化のメカニズムがX染色体全体に及んでいることを示した。最終的な研究結果はGenome Biologyに掲載されることになっており、2015年8月3日付けで暫定的なPDF版論文がオンラインで掲載された。   この論文は、「Dynamics of Gene Silencing During X Inactivation Using Allele-Specific RNA-Seq (アレル特異的RNA-Seqを用いたX染色体不活性化での遺伝子抑制過程)」と題されている。 性染色体は基本的に男性がX染色体1本、Y染色体1本を持ち、これに対して女性はX染色体を2本持つ。X染色体不活性化と呼ばれるプロセスは、初期胚発生の時期に女性のX染色体の1本を不活性化する過程であり、2本のX染色体のうちのどちらが不活性化されるかは決まっていない。X染色体不活性化の好例としてメスの三毛猫の毛色が知られている。三毛猫の毛色の遺伝子はX染色体にあり、2本のX染色体の各1本が黒または茶のいずれかのコードを持っている。三毛猫の毛の茶色の部分は茶色のコードを持つX染色体が活性であり、黒色の部分は黒色のコードを持つX染色体が活性である。正常なヒトの胚発生では、女性のX染色体不活性化は胚発達初期に起きる。また、X染色体不活性化に「Xist」分子が重要な

アメリカと西アフリカの国際研究チームに参加していたスクリプス研究所の研究者は、エボラ・ウイルスに近い種で致死的なラッサ・ウイルスの古代の起源と、ラッサ・ウイルスの進化過程を明らかにする研究成果を発表した。新研究の筆頭著者で、スクリプス研究所の生物学者、Dr. Kristian G. Andersenは、「これでラッサ・ウイルスの進化過程が解明された。この成果はワクチンや治療法を開発する上で重要なことだ」と述べている。 毎年少なくとも5,000人がラッサ熱で亡くなっている。   ウイルスは、感染している野ねずみの一種、マストミス (Mastomys natalensis rodents。また、メスには複数の大きな乳房があることから「multimammate rats」とか「multimammate mice」と呼ばれることがある) の尿や糞便に接触することで感染する。マストミスはこのウイルスの自然宿主となっており、また人から人へとも感染する。2013年8月13日付で名声の高いCell誌の巻頭論文に採用されたこの研究では、国際的な研究チームが次世代シーケンシングと呼ばれる技術を用いて、ナイジェリアとシエラ・レオネで野生のマストミスとラッサ熱患者から採取したラッサ・ウイルスのゲノムを解析した。 この研究チームの上級メンバーには、Harvard UniversityとBroad InstituteのDr. Pardis SabetiとDr. Joshua Levin、Tulane UniversityのDr. Robert F. Garry、NigeriaのIrrua Specialist Teaching HospitalとSierra LeoneのKenema Government HospitalのDr. Christian Happiが加わっている。この論文は、「Cl

Johns Hopkins大学の研究チームは、マウスでの研究で新しく信号伝達経路細胞を突き止めた。おそらく人間も含めて哺乳動物は、傷の治癒過程でこの信号伝達経路を通して毛嚢や皮膚の再生をしていると考えられる。2015年8月6日付Cell Stem Cell誌オンライン版オープン・アクセス特集論文として発表されたこの研究は、将来的に火傷その他の傷害事故で傷痕を残す毛髪、皮膚、その他の器官組織再生を促進するようになる可能性があるとしている。   この論文は、「dsRNA Released by Tissue Damage Activates TLR3 to Drive Skin Regeneration (組織損傷で放出されたdsRNAによるTLR3活性化で皮膚再生促進)」と題されており、首席著者で、Johns Hopkins University School of Medicine のAssociate Professor of Dermatology を務めるLuis A. Garza, M.D., Ph.D.は、「この研究で、タンパク質[TLR3"> が皮膚の再生時に主要制御因子として機能することを発見した。このタンパク質を活性化する医薬があれば、傷の治癒を促進し、皮膚と毛嚢の再生を促進することで、傷痕を小さくする絶大な効果が考えられる」と述べ、さらに、「私達の研究は、損傷を受けた皮膚が二重鎖RNA (dsRNA) を放出し、通常はある種のウイルスが運ぶ遺伝子情報を持つこのdsRNAをToll様受容体3 (TLR3) が検知する、という知識に基づいている」と述べている (画像はTLR3タンパク質の構造を示す)。他のケースでは、TLR3は特定の病原体を検知し、免疫系を活性化するという重要な役割を持っているが、組織の傷害に反応して遺伝子IL6やSTAT3を活性化し

アメリカ合衆国カリフォルニア州ラ・ホラのSalk Institute for Biological Studiesで研究する科学者達はエピゲノムの多様性にある種のパターンを解明した。このエピゲノム多様性は、植物が様々な環境に適応するカギを握っているだけでなく、作物栽培やヒトの疾患研究にも役立つ可能性がある。Nature誌2013年3月6日付オンライン版に掲載されたこの論文は、世界中の植物に見られる遺伝子の多様性に加えて、そのエピゲノム構成も植物の分布する環境に合わせて様々な変化があることを突き止めている。   エピゲノミクスは、DNA塩基配列上に存在しその発現を調節している化学物質のマーカー・パターンを研究する学問分野である。分布地域の条件によって、植物がその環境に素早く適応できるようになるのはエピゲノムの差異によって調節されるているようだ。エピゲノミックな修飾は、DNA配列(A-T-C-G)を変えずに遺伝子の発現を変更することができ、それによって、遺伝子には、細胞機構を微調節する機能が可能になる。このような変化は植物だけでなく人間の体内でも行われている。 この論文の首席著者、Dr. Joseph R. Ecker は、SalkのPlant Biology Laboratory教授とSalk International Council Chair in Geneticsを務めており、この論文で、「世界中から集められた植物を調べた結果、そのエピゲノムに驚くほどの変化があることを突き止めた。様々な環境への植物の迅速な適応を可能にしているのはこのようなエピゲノムの多様性ではないか。これがDNA内の遺伝子の変異を待っていたのでは途方もなく時間がかかることになる」と述べている。Howard Hughes Medical Institute とGordon and Betty M

St. Jude Children's Research Hospital研究チームが主導して行った研究で、2種のiPS細胞を「三次元n培養」し、それぞれの網膜細胞形成能力を調べた結果、うち一つが特に優れていることを突き止めた。この研究では、網膜変性治療でiPS細胞のタイプによって効果に優劣がある可能性を示しただけでなく、その効果の標準定量化法も提案している。この研究は、St. Jude Department of Developmental Neurobiologyのメンバーであり、Howard Hughes Medical Institute (HHMI) の治験責任医を務めるMichael Dyer, Ph.D.が指導して行われた。   本研究結果は、2015年7月2日付Cell Stem Cell誌に、「Quantification of Retinogenesis in 3D Cultures Reveals Epigenetic Memory and Higher Efficiency in iPSCs Derived from Rod Photoreceptors (三次元培養における網膜形成の定量化で、桿体細胞由来iPS細胞のエピジェネティック記憶と高効率が明らかに)」の表題で掲載されている。 幹細胞は未成熟な細胞であり、体内で特定機能を持った細胞に分化することができる。現在、初期臨床試験で、加齢黄斑変性、網膜変性症、シュタルガルト病などの疾患で欠陥を持ち、死滅する細胞に代わって、この幹細胞が分化し、新しい細胞になることができるかどうかを調べている。そのような細胞の変性が失明の主要原因になっており、アメリカでは1,000万人を超える患者がこの障害に悩んでいるが、この数字は白内障と緑内障を合わせてよりもまだ多いのである。この臨床試験の初期の成果は希望が持

スクリプス研究所 (TSRI) フロリダ・キャンパスの研究チームは、“microRNA” (miRNAs)が動物モデルの記憶形成で驚くほど様々な役割を担っていることを突き止めた。ある場合にはこのRNAが記憶を増進させたが、ある場合には記憶を減退させた。この研究を指導したTSRI, Department of NeuroscienceのDr. Ron Davisは、「私達の系統的なスクリーニングで、すべてのmiRNAを総合的に同定することと、正常な学習記憶機能に重要な役割を持つ遺伝子ネットワーク中でmiRNAがターゲットとするものを突き止める目標に向けて重要な第一歩を踏み出すことができた。   これは将来の研究にとって貴重な資源となるものだ」と述べている。この研究論文は、2015年6月1日付Genetics誌に掲載され、「MicroRNAs That Promote or Inhibit Memory Formation in Drosophila melanogaster (キイロショウジョウバエの記憶形成を促進、あるいは阻害するMicroRNAs)」と題されている。 ある種のRNAとは異なり、miRNAsはタンパク質のコード化には関与せず、代わりに遺伝子発現のレベルを調節することで様々な生物学的過程を調整する。これまでのいくつかの研究で、miRNAsが正常な発達と細胞成長に不可欠であり、神経変性疾患の複雑さにも関わっている可能性が示されている。この新研究では、ショウジョウバエの中でも記憶学習の動物モデルとして認められている一般的なキイロショウジョウバエを使い、中枢神経系中の学習記憶機能に134種類のmiRNAsがどのような役割を果たしているかを調べた。研究チームは、miRNAsを個別に抑制することで、中間的記憶に対するmiRNAsの関わりを調べ、記憶形成や記憶保持に

2014年3月4日、健康で実り豊かなヒューマン・ライフの長寿を目指す、ゲノミクス、細胞療法ベースの診断療法開発会社Human Longevity Inc. (HLI) 設立が発表された。発表には共同設立者のJ. Craig Venter, Ph.D.、Robert Hariri, M.D., Ph.D.、Peter H. Diamandis, M.D.の3氏が立ち会った。同社はカリフォルニア州サン・ディエゴに本社を置き、投資家から資本金7,000万ドルを募って事業を始める。   HLIの資本金は世界最大のヒト・ゲノム・シーケンシング事業構築に充てられており、この事業は世界最大かつ完全なヒトの遺伝子型、マイクロバイオーム、表現型のデータベースを構築し、老齢化による人体の衰えに関連した疾患の診断治療に供することを目的とする。同社は老齢化による内因性の幹細胞機能衰弱に対応した細胞ベースの治療法の開発でも主導的な立場にある。また、医薬、バイオテクノロジー、学術機関などへのデータベース・ライセンスの他、ゲノム・シーケンシング・サービスや高度な診断治療法の開発などを事業収入の途としている。Dr. Venterは、「当社は、ゲノミクス、インフォーマティクス、幹細胞療法などそれぞれの得意とする分野を持ち寄り、医学、科学、社会全体の分野にわたる大きな課題である老齢化とそれに関連した疾患の解明に取り組んでおり、当社は、今の医学をさらに予防医学、ゲノム・ベースの医学モデルに移行させることでヘルスケア・コストを引き下げられると確信している。当社の目的は単に寿命を伸ばすことではなく、健康で力に満ち、生産的な寿命を伸ばすことにある」と述べている。 HLIは、当初年間4万人分のヒト・ゲノム・シーケンシングで開始するため、Illumina HiSeq X Ten Sequencing Systemを

University of Texas MD Anderson Cancer Centerの研究によれば、がんエキソソームに見つかる遺伝子glypican-1 (GPC1) がエンコードするタンパク質を用いた非侵襲性診断検査で、外科手術が有効な早期の膵がんを発見することができるようになるかも知れない。がん細胞だけでなく、あらゆる正常細胞からも放出される微小なウイルス大の粒子、エキソソームにはDNA、RNA、タンパク質が含まれていることが多い。   科学者は、膵がん患者の血液から高濃度のGPCを含んだ、GPC1+ crExosと呼ばれる循環エキソソームを分離し、観察した。MD AndersonのChair of Cancer Biologyを務めるRaghu Kalluri, M.D., Ph.D.は、「GPC1+ crExosは、250人ほどの膵がん患者から採取した微量の血清中からも、絶対特異度、絶対感度で検出された。しかも、重要なのは慢性膵炎患者と初期膵がんや後期膵がんをはっきりと判別したことだ」と述べている。Dr. Kalluriは、「外科手術でがんを切除した患者では、GPC1+ crExosの量が激減していた」と述べており、その研究結果は、2015年6月24日付Nature誌オンライン版に掲載されている。 その研究では、健康人、乳がん、膵がんの患者のサンプル中のcrExosの量を調べている。いずれのがんでもGPC1+ crExosの量が増えている。Nature誌に掲載されたこの論文は、「Glypican-1 Identifies Cancer Exosomes and Detects Early Pancreatic Cancer (Glypican-1で、がんエキソソームを検出し、膵がんを早期発見)」と題されている。Dr. Kalluriは、「GPC1+ cr

Broad InstituteとMassachusetts General Hospital (MGH) の研究者を中心とする国際研究チームが、肥満体や高齢者など2型糖尿病発病リスクの高い人の場合でもリスクを低減する遺伝子の突然変異を突き止めた。この研究結果は新しい2型糖尿病治療方法の可能性を示しており、この突然変異の保護機能を模倣する医薬を開発できればこの不治の疾患を防ぐ新しい方法が開けていくはずである。   世界中で3億人が2型糖尿病を患っており、現在も急速に患者が増えている。生活習慣の改善と既存の医薬でこの疾患の進行を抑えることはできるが、その既存の治療さえ適切に受けていない患者も多い。新しい治療法開発の第一歩は「創薬標的」の発見と有効性確認である。創薬標的の対象になるのはヒトのタンパク質で、これを活性化したり抑制したりすることで疾患の予防や治療が可能になる。現在の研究は、2型糖尿病研究分野に大きな地平を開き、将来の治療法開発の方向性を決めるものになっている。さらに、研究チームは、15万人の患者の遺伝子解析をした結果、SLC30A8と呼ばれる遺伝子のまれな突然変異で2型糖尿病のリスクが65%低下することが突き止められたと述べている。いくつもの民族グループ別の患者でも同じ結果が得られており、このような突然変異の効果を模倣した医薬は世界のどこでも有効と想定できる。 過去の研究で、SLC30A8がエンコードしているタンパク質はインシュリンを分泌する膵臓のベータ細胞で重要な役割を果たしていることや、その遺伝子のごく一般的な変異体が2型糖尿病のリスクにもわずかながら影響していることが示されている。しかし、2型糖尿病のリスクを下げるにはタンパク質を抑制すべきか、あるいは活性化すべきか、またどの程度の効果が見込めるのかがこれまで明らかになっていなかった。この研究論文の共同首席

National Institutes of Health (NIH) 所属の研究者らのチームが人間の胎盤の機能と妊娠における胎盤の役割を研究するため、ラボオンチップの胎盤を開発した。この装置は、胎盤の構造と機能をミクロのレベルで再現し、同時に栄養が母体から胎児に移動する機序を再現するよう考案されている。生体医学の発展を促すために様々なオンチップ臓器技術が開発されているが、このプロトタイプはその最新の開発の一つである。   2015年6月15日付The Journal of Maternal-Fetal & Neonatal Medicineのオープン・アクセス論文としてオンライン版に掲載されたこの研究は、NIHのEunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development (NICHD)、University of Pennsylvania、Wayne State University/Detroit Medical Center、韓国のSeoul National University (ソウル大学)、Asan Medical Center (ソウル峨山医療センター) などの研究者による学際チームが行った。 この研究論文は、「Placenta-on-a-Chip: A Novel Platform to Study the Biology of the Human Placenta (オンチップ胎盤: 人間の胎盤の生体活動を研究するための新しいプラットフォーム)」 と題されており、NICHD内Division of Intramural ResearchのPerinatology Research Branchのチーフを務めるRoberto Romero, M

マサチューセッツ州ボストンのHarvard Universityとウッズ・ホールのMarine Biological Laboratory (MBL)の研究者は、小さな海洋動物が環境に合わせて体色を変える自然のつくったナノスケール・フォトニックの原理解明が進めば兵士の軍装の迷彩も改良できるのではないかと考えている。「海のカメレオン」と呼ばれるコウイカは、体表の色やパターンを急速に変化させて視覚的に環境に溶け込み、天敵から身を守ることができる。   2014年1月29日付Journal of the Royal Society Interfaceオンライン版に掲載された研究論文で、Harvard-MBL共同研究チームは、コウイカの体色変化の高度な生体分子的ナノフォトニック系のこれまで知られていなかった原理を詳述している。Harvard School of Engineering and Applied Sciences (SEAS), Bioengineering and Applied PhysicsのTarr Family Professorを務め、Harvard, Wyss Institute for Biologically Inspired Engineeringの中心的な教授会員でもあるDr. Kevin Kit Parkerは、「自然は複雑な環境適応迷彩の問題をはるか昔に解決した。私たちの課題は、その自然の系を解析し、大量生産に見合った対費用効率の高い生産手段を開発することだ」と述べている。この発見は、軍装迷彩の繊維だけでなく、塗料、美容、家電製品まで様々な応用範囲がある。 コウイカ (Sepia officinalis) は、ヤリイカやタコと同じ頭足類である。色素胞と呼ばれる神経が制御する色素性器官は、イカが環境色を視認し、それに対応して体色を変化させる

脱毛化を防ぎ、ふさふさした毛髪を取り戻す方法として、幹細胞を使って、消失したり、死滅していく毛包を再生させる方法が可能性として残されている。ただし、これまで、毛包を生成する幹細胞を十分な数だけつくり出すことが不可能だった。University of Pennsylvania (Penn), Perelman School of MedicineのPathology and Laboratory Medicine and Dermatology准教授、Xiaowei "George" Xu, M.D., Ph.D. と同僚研究者の研究論文が2014年1月26日付Nature Communicationsオンライン版に掲載され、その中で成体細胞を上皮幹細胞 (EpSCs) に変換する方法が述べられている。   ヒトあるいはマウスの成体細胞を使って上皮幹細胞をつくることに成功したのは世界でもこれが初めてである。免疫系を損なわれたマウスに上皮幹細胞を移植すると、様々なタイプのヒトの皮膚や毛包の細胞を再生し、構造的にまぎれもない毛幹さえ形成しており、研究が進めば人の毛髪を再生することができるようにさえなる見通しも出てきた。Dr. Xuの研究チームには、PennのDepartments of Dermatology and BiologyやNew Jersey Institute of Technologyの研究者も参加し、皮膚繊維芽細胞と呼ばれるヒトの皮膚細胞の研究から取りかかった。 研究チームは、細胞に3種類の遺伝子を加えて人工多能性幹細胞 (iPSCs) に変換した。iPSCsには体のどの細胞タイプにでも分化できる能力がある。さらに、iPS細胞を上皮幹細胞に変換した。通常上皮幹細胞は毛包のバルジと呼ばれる部分に見られる細胞である。Dr. Xuと研究チームは、これまでに他の研

通常、がんは患者が死ぬと一緒にがん細胞も死んでしまうが、イヌのある種の性感染性がんはそうではない。2014年1月24日付Science誌に掲載された研究論文で、Director of the Sanger InstituteのProfessor Sir Mike Stratton (写真) の率いる研究チームは、11,000年にわたってイヌの体内で生きてきたこのがんのゲノムとその進化過程について述べている。   この研究結果について、イヌ科遺伝子学専門家のDr. Heidi ParkerとDr. Elaine Ostranderが著した解説がScience誌の同じ号に掲載されている。研究チームは、イヌに伝染する性感染性器がんという現存する世界で最も古いがんのゲノム配列を解析した。このがんは、世界中に見られ、イヌの性器にグロテスクな腫瘍ができるというもので、11,000年ほど前にただ一匹の犬がこのがんにかかったのが始まりである。そのイヌは死んだが、その前に交尾して他のイヌにがん細胞を伝染させており、がんは他の患者の中で生き残った。この11,000年の寿命を持つがん細胞のゲノムはこれまでに200万回の突然変異を繰り返しており、これはヒトのがんの大部分が1,000回から5,000回程度の突然変異しか繰り返していないことを考えるとケタ違いである。 研究チームは、定期的に突然変異を繰り返す「分子時計」のような遺伝子を調べ、このがんが地上に現れたのは11,000年前と推定した。Science誌掲載の研究論文の第一著者で、Wellcome Trust Sanger InstituteとUniversity of Cambridgeに所属するDr. Elizabeth Murchisonは、「驚くほど長寿なこのがんのゲノムは、適切な環境条件の下では、がんは累積で何百万回も変異を繰り返

Buck Institute for Research on Agingの研究によると、ごく一般的なOTC医薬品の鎮痛解熱剤イブプロフェンが健康長寿に役立つかも知れない。2014年12月18日付オープンアクセス・ジャーナル「PLOS Genetics」オンライン版に掲載された研究論文は、イースト、ワーム、ミバエにイブプロフェンを継続的に投与した結果、その寿命が伸びたとしている。   Buck Institute のCEO、Brian Kennedy, Ph.D.は、「非常に興味深い研究結果が出た。人間の通常服用量相当量のイブプロフェンを継続的に投与した結果、実験生物の寿命が平均15%伸びた。いずれも単に寿命が伸びただけでなく、投与したミバエもワームもいずれも非常に健康が向上したようだった。研究の結果、まだ判明していない何らかの加齢プロセスにイブプロフェンが影響を与えていることが推察される。この結果から、加齢現象を研究し、理解する新しい方向性がつかめた」と述べている。 Dr. Kennedyは、「しかし、何よりも重要なのは、この研究からいわゆる『アンチ・エージング』医薬品を開拓する新しい戸口が切り開かれたことだ」と述べ、さらに、「イブプロフェンはどの家庭の薬箱にも見つかる比較的安全な医薬だ。既存の療法には人の健康寿命を延ばす効果を持つものがあると信じて間違いないし、それを研究しなければならないと思う」と続けている。この研究は、Buck InstituteとTexas A & M's Agrilifeプログラムの共同研究の成果だった。AgriLife Researchの生化学者、Michael Polymenis, Ph.D.は、研究の手始めにまずイーストを使い、その後ワームやミバエに移った。Texas A&M Universityで生化学と生物物理学学部

オレゴン州立大学(UO)の研究チームが、ヘリコバクターピロリ菌がどのようにして胃内部の酸性環境を生き抜くのかを発見し、病因作用を抑え込む新たな除菌法への道を開いた。現在の除菌法では、除菌が十分でなかったり、副作用によって除菌治療が続けられなかったりする。H.ピロリ菌の酸レセプターTlpBの結晶構造を明らかにした研究結果は、Structure誌2012年6月14日オンライン版に発表された。このレセプターは、PAS領域として同定されている外部突起部を有し、低分子である尿素の結合を受けることで、外部環境の状態を計測している。細胞外PAS領域を含む、機能が明らかな化学レセプターが、結晶学的に明らかにされたのは、TlpBが初めてであると研究チームは説明している。   「この領域は大変美しい構造をしていますが、このクラスのタンパクでは、これまで一度も観察された事はありません。」とUO物理学教授でUO分子生物研究所(IMB)フェローである、S.ジェームス・レミントン博士は語る。バクテリアが過酷な化学環境の中で生き抜くための20年に渡る研究において、キーとなるレセプターが、1.38オングストロームの原子分解能によって初めて観察されたのである。グラム陰性菌であるH.ピロリ菌が最初に同定され、胃潰瘍と胃がんとに関与することが示されたのは、1982年であった。 世界の人口の半分の人が、胃の中にH.ピロリ菌を有しているにも拘らず、その伝播様式は正確には判っていなかったと、UO生物学教授でIMBフェローである共同著者のカレン・ギルミン博士は語る。H.ピロリ菌の感染と闘うには、患者は幅広いスペクトルを有する抗生物質を服用せねばならないが、バクテリアは体制を獲得し30%の症例では治療効果が喪失する。ポスドクのエミリー.G.スウィーニー博士と、現在はアリゾナ州立大学のポスドクであり、当時は博士課程の

地球上で最も数奇な運命を辿ったバクテリアは海洋に由来し、SAR11グループに属すると考えられてきた。スウェーデンのアップセラ大学の研究者グループが行なった最新の研究によって「数奇な運命」の内容が明らかにされると共に、これらのバクテリアについて従来認められてきた理解の概要に疑問が呈される事となった。彼らの解析によると、新たにこれまで発見されていなかった貴重なミトコンドリアの仲間も同定された。ミトコンドリアは細胞内の発電所の役目を果たしている。   この発見はMolecular Biology and Evolution誌の2011年9月7日号とPloS ONE誌の2011年9月14日号とに発表された。「海から発見される膨大なるDNAの情報により、これまでに研究できなかった世界が少し垣間見る事ができた 。これらのデータから生命の根本的な疑問の答えを見つけるのは非常に素晴らしい。」と分子遺伝学教授で本研究の上席著者であるシブ・アンダーソン博士は話す。SAR11グループに属するバクテリアは海中のバクテリア数の30-40%を占めるため、地球規模炭素循環には重要な役目を担っている。他の場所では、このバクテリアのグループは存在しない。外洋は栄養に乏しいため、SAR11は細胞内に栄養分を少しでも貯め込むために細胞サイズは大変小さくなっている。 ゲノムサイズも小さく、1,500個以下の構成要素しか持たず、これまでの研究ではSAR11は発疹チフス菌を含むバクテリアのグループの仲間であると考えられていた。これらのバクテリアは確かにゲノムサイズは小さいが、ヒト、動物、昆虫などに適合する。しかし、アップセラの研究グループによる進化に関わる新たな研究結果はこれらの見解と異なっており、SAR11バクテリアは、海洋そして陸地に生息する3-10倍大きなバクテリアから進化したと考えられる。最も近縁のバク

癌治療の際に大きな問題となるのが“薬剤耐性”(ADR)である。この耐性に関与するタンパク質をモニターする事が、今まで研究者達の超えられない課題となっていた。しかし、フロリダ州タンパにあるモフィット癌センターの研究チームが、ADRについての理解を深める事につながる、有望なモニタリング技術を開拓しているのだ。さらにこの技術は臨床面でも、多発性骨髄腫患者の個別治療法を開発する際に役立つ。   更には他の種類の癌にも応用出来ると思われる。チームの研究結果は、Molecular and Cellular Proteomics誌の10月号に掲載されたが、オンラインではすでに8月16日に公開されている。「多発性骨髄腫とは、骨髄に悪性腫瘍の出来る難病です」と、分子腫瘍学と実験治療学のアシスタントであり、モフィット・プロテオミクス中核施設のディレクターのジョン・M・クーメン博士は説明する。「多発性骨髄腫患者の化学療法に対する反応は、最初は良いのですが、次第に様々な理由から薬剤耐性が出現してきます。私たちは、患者の状況に応じて治療法を変更できるように、薬剤耐性の獲得過程を診断できるようにしたいのです。」と、博士は続ける。 今回、研究チームがADRに関係しているタンパク質をモニターするために用いた方法は、Multiple Reaction Monitoring液体クロマトグラフィー (LC-MRM)という。これは以前、モフィットのCEOでセンターディレクターであるウィリアムS・ダルトン博士らによって行われた骨髄腫の研究に基づいて開発された。 ADRの数ある要因の一つが、細胞の「アポトーシス機能」の変化である。アポトーシス、またはプログラム細胞死は、外部と内部の刺激の両方に対応する抗アポトーシスとプロアポトーシスの二つのタンパク質の相互作用によって決定される。そしてこの相互作用は、ADRに

コロンビア大学メディカルセンター(CUMC)と他の研究機関で構成される遺伝子研究チームが、哺乳類細胞における膨大な遺伝子機能調節ネットワークを明らかにした。これによって、遺伝的変異性の観点から、悪性腫瘍や他の疾病を説明できる道筋が出来た事になる。この新たな機能ネットワークに関連する4つの研究結果が、2011年10月14日付Cell誌に発表された。「この遺伝子機能調節ネットワークの解析によって、細胞内情報伝達機構を解明するために欠けていたパズルのピースが見つかり、これまでは不明だった特定の腫瘍や疾病に関与する遺伝子を同定する事が出来るのです。」とCUMC研究報告書上級主筆でシステムバイオロジー・コロンビア・イニシアチブの所長を務めるアンドレア・カリファーノ教授は話す。   十年来、メッセンジャーRNA(mRNA)の第一の役割は、DNA情報を、タンパクの生合成の場であるリボソームに運ぶ事であると、研究者達は考えてきた。しかし、昨今の研究によって、一つのDNAに由来するmRNAは同時に、巨大なマイクロRNA分子のプールを介して他のmRNAからの影響を受け、そこでは幾千もの遺伝子が自己調節のサブネットワークを動かしながら関連しあっている。 この研究成果によって、腫瘍がどのようにして作られ成長するのかを、幅広い観点から研究できる素地が出来たと考えられる。それによって、悪性化のリスクを確定診断したり、悪性腫瘍の成長と転移の促進を不活性化させるようなキーとなる分子を同定したり出来るようになるのだ。例えば、ホスファターゼ・テンシン・ホモログ(PTEN)は主要なガン抑制タンパクであるが、幾つかのガンの症例においてmRNAネットワーク調節因子が欠損している患者では、PTENそのものが損傷を受け変異している場合が報告されている。新たに同定された機能調節ネットワーク(CUMCの研究チームでは

古代から現代までのヒトのDNAパターンを研究している国際チームは、40,000年前のアジアへの集団大移動と人種間のDNAの混合について新事実を発見した。ハーバード大学医学部とドイツ、ライプツィヒのマックス・プランク進化人類学研究所の研究チームが最先端のゲノム解析法を使って調べた結果、デニソバンと呼ばれる古代人類が、現代のニューギニアだけではなく、フィリピンとオーストラリアのアボリジニのDNAに関与していることが分かった。このデニソバンとは最古の人類の一種で、去年シベリアで発掘された指骨のDNAを解析した結果解明された。   今回の研究結果はこれまでの遺伝子学研究による説を否定し、現生人類は複数の大移動でアジアに定着したという事になる。「デニソバのDNAは、人の血管をトレースする医用イメージング色素のようなものです。とても目立つため、個体に少しの量でも存在していればすぐに分かるのです。このようにして、私たちは大移動した人種の中からデニソバのDNAをトレースすることが出来たのです。これは、人類の歴史を理解するためのツールとして、古代DNAの配列決定がいかに重要であるかを示しています。」と、ハーバード大学医学部の教授、デイビッド・リーク博士は語る。 今回発見されたパターンは、少なくとも二回の大移動があったことを示している。一つは東南アジアとオセアニアに住む原住民のアボリジニ、もう一つは東南アジアの人口のほとんどを占めている東アジア人の系統である。また、この研究は古代デニソバンが居住していた場所についても新たな考察が成されている。マックス・プランク研究所の教授であり、今回の論文の著者でもあるマーク・ストーンキング博士によると、デニソバンはシベリアから熱帯の東南アジアまでの非常に大規模な生態学的、地理的範囲に移住していたとされる。「デニソバンのDNAが東南アジアのいくつかのアボ

鳥類用の最大規模のDNAデータセットと次世代シーケンス(NGS)法とにより、スミソニアン研究チームは、世界で最も種類が多く且つ絶滅の危機に瀕している鳥類であるハワイミツスイ種の進化系統樹を解析した。ミツスイ類に属し、その進化のルーツであるフィンチのタイピングを行なうだけではなく、ハワイの主たる4諸島で迅速に進化したタイミングにも焦点を当てた。「55種類を超える色彩豊かなソングバードがいましたが、同属であるかどうかは明確ではありません。種子を食する種もいれば果実やカタツムリを、或いは果汁を食する種もいます。   オウムのような嘴やムシクイのような嘴を持つと思えば、フィンチのような嘴や、もっと細くてまっすぐなものもいます。つまり一番の疑問は一定の時間内で、どうやってそれ程の多様性を有するような進化を遂げたかという事なのです。」と、同プロジェクト遂行時は、スミソニアン保全生物学研究所(SCBI)の保全・進化遺伝学センター(Center for Conservation and Evolutionary Genetics)でポスドクを務め、現在はアールハム・カレッジの生物学准教とジョセフ・ムーア博物館館長であるヒーザー・ラーナー博士は話す。 その答えはどうもハワイ諸島の特殊性にあるようで、北西に延びる島々の形成が、コンベイヤーベルトのように次々新しく成されていった事にある。進化の過程で全く新しい生息環境が生じる訳で、ハワイミツスイ種は生態学的に初めての環境で生育するように強要される事となり、それに適応する中で、進化系統樹上で分岐し別種となって行くのである。研究チームは、カウアイ−ニイハム島、オアフ島、マウイ−ヌイ島、そしてハワイ島が形成されるに従ってハワイミツスイ種がどのように進化したかを観察した。生物種が別種へと爆発的に進化する最も大きなイベントを「適応拡散」と呼ぶが、それ

遺伝子が生命の設計図であり、タンパク質が細胞のための作業を行う機械であるとしたら、タンパク質とリンクしている糖類は,細胞が外の世界とコミュニケーションを取る事を可能にするツールの一つです。しかし今まで、生物学的に重要なGAGプロテオグリカンと呼ばれる複合分子の構造の確定はおろか、これらの複合分子が明確な構造を有している事すら確認されていなかった。   しかし、Nature Chemical Biology誌に2011年10月9日付けでオンライン発表された論文では、ジョージア大学(UGA)、レンセラー工科大学、そして日本の千葉大学の科学者チームが、グリコサミノグリカン(或いはGAG)やプロテオグリカンの配列と構造を決定する事に初めて成功した。「人々はこれらの分子の複雑さは分子のランダム性から来るものだと思っていたので、明確な構造が存在するという事実自体が驚くべく事です。このように、糖類を基本的なレベルから理解する事で、医学の様々な分野で有効になります。」と、本論文の共著者であり、UGAフランクリン大学の教授で科学学科長を務めるジョナサン・アムスター博士は言う。 例えばGAGや糖類のバイオポリマー、或いはプロテオグリカンの特定部位への化学修飾は、特定の癌とその悪性腫瘍に関連している。そのため、研究者達が注目しているのは、疾患に関与している糖類の同定が、それらの作用をブロックする機能を有する薬の開発への扉を開くであろうと言う事である。糖鎖生物学のフィールドはまだ始まったばかりだが、その最大の理由として、今まで行ったプロテオグリカンのシーケンスの試みが失敗に終わっていることがあげられる。最新のツールを使えば、ごく小さなDNAのサンプルを何度も増幅することで、そのシーケンス、またはサブユニットの配列を同定することが出来る。DNAは単にタンパク質を作成する説明書であるから、DNA

ウェイクフォレスト・バプテスト医療センターの研究者達が試験している新しい治療法が、心血管系疾患に効果的であることが実証された。この治療法は非ヒトの霊長類で試験が進められていて、善玉コレステロールを増やし、血液中のトリグリセライドを下げる働きがあるのだ。国立衛生研究所とカナダ保健研究所のサポートにより、前臨床実験での成果が2011年10月19日付けのネイチャー誌に掲載された。   「今回の研究は、HDL(善玉コレステロール)の量と心臓病の間に強い逆相関があり、この関係を解明するために実施されました。HDLの量が高いほど、心血管系疾患のリスクは下がります。」と説明するのは、共同研究者でウェイクフォレスト・バプテスト病理脂質学の准教であるライアン・テメル博士である。しかし、HDLを大幅に上げる治療法は未だ実在していない。「悪玉コレステロールのLDLを下げるのに有効な治療法は存在しますが、現代医学ではHDLを上げる良い方法は発見されていません。例えスタチンや、LDLを下げる他の治療法を施しても、冠動脈疾患のリスクはまだ50%も残るのです。改善の余地が十分にあるのは明らかですね。」と、テメル博士は説明する。 テメル博士は、ニューヨーク大学(NYU)ランゴンメディカルセンターとバイオ医薬品会社レギュラス・セラピューティック社の共同研究者として、マイクロRNA-33(miR-33)をターゲットとする新薬を研究している。miR-33は、善玉コレステロールを下げ、トリグリセライドの生成を上げる、小さなRNA分子である。以前行われたマウスの研究では、この薬剤は、動脈硬化性プラークの退縮を促進し、HDLを上げる効果があった。今回の研究では、薬剤である抗-miR-33がヒト以外の霊長類で試験され、HDLを上げ、トリグリセライドを下げる効果が見られた。霊長類は2種類のmiR-33(miR-33

浸潤性乳管ガン(IDC)の無病生存率の予測は、F-18-フルデオキシグルコース陽電子放出断層撮影(PET)/コンピュータ断層撮影(CT)を使用することで簡単になるかもしれない、との発表が2012年6月29日付けのThe Journal of Nuclear Medicine誌にオンライン掲載された。本研究は同誌の9月号でも印刷出版される予定である。韓国の研究チームによって得られた新たなデータは、治療前のリンパ節によるF-18-FDGのSUVmax(最高集積度)が、再発の指標である事が示唆される。「多くの研究が、腋窩リンパ節転移陽性乳ガン患者は、リンパ節転移の無い患者よりも予後が不良であることを明らかにしています。   しかしPETやCTを使用した転移性腋窩リンパ節のF-18-FDG集積の予後値は、IDC患者で検討されていないのです。」と、サンウー・リー博士(M.D.,Ph.D.)は説明する。本研究にはF-18-FDG PETCTの前処置を受け、遠隔転移無しで腋窩リンパ節転移が病理学的に確認された女性IDC患者65人が参加した。 年齢、TNM(腫瘍、リンパ節、そして転移)ステージ、エストロゲン受容体の状態、プロゲステロン受容体の状態、ヒト上皮増殖因子受容体2ステータス、および原発腫瘍と腋窩リンパ節のSUVmaxなどの要因が分析された。参加患者は治療を受け、21-57ヶ月(中央値:36ヶ月)経過観察された。患者のうち、経過観察期間中53人が無病で、12人が再発した。原発腫瘍およびリンパ節SUVmaxの両共が無病よりも再発患者において高かったものの、リンパ節SUVmaxの高さが著しかった。また分析された他の要因に比べて、リンパ節SUVmaxが唯一、無病生存率の独立した決定因子であることが判明した。研究チームはROC曲線を使用し、リンパ節SUVmaxは2.8が無病生存率を予測

胚酵素ピルビン酸キナーゼM2(PKM2) が有する新陳代謝における役割は、既によく知られており、ヒトのがんでは高度に発現されている。2011年11月6日付けのNature誌オンラインにて、テキサス大学アンダーソンがんセンターの研究チームは、PKM2ががんの形成に重要な非代謝機能を有することを発表した。「私たちの研究では、PKM2ががんの代謝に重要な役割を担う上に、細胞増殖を調節するという予想外の機能も持ち合わせていることが分かりました。   すなわち、非常に驚くべきことに、PKM2は細胞増殖のための遺伝子転写に、直接関わっているのです。」と、アンダーソン医療部神経腫瘍科准教授のジミン・ルー博士は言う。同研究チームは、PKM2が上皮増殖因子レセプター(EGFR)に欠かせないものであることを実証した。このレセプターはβカテニンを活性化し、それにより遺伝子発現、細胞増殖そして腫瘍の形成を促進する。また、βカテニンのリン酸化と細胞核のPKM2とは、脳腫瘍の悪性度や予後と相関している。そのため、Srcインヒビターを用いた治療のバイオマーカーになる。 研究チームは、PKM2が上皮増殖因子(EGF)に対応して細胞核に移動し、βカテニンに結合することを発見した。βカテニンは、Y333という特定の位置で、c−Srcタンパクによってリン酸分子と3つの酸素原子とが結合されている。この結合はβカテニンの活性化と、それに続くサイクリンD1遺伝子の発現に必要不可欠である。今まで、βカテニンの活性化はWntシグナル経路で調節されていると考えられていたが、今回新しく発見されたβカテニンの活性化はこの経路とは無関係であった。代謝では、PKM2は好気性解糖またはワールブルク効果によって、腫瘍細胞中の糖のプロセシングを促進する。「腫瘍の形成に必要ながん細胞の代謝と周期進行は、従来、主に個別のシグナリング複

今後の小児がんの治療法を変えるであろう、劇的な遺伝的新事実を、カナダ、モントリオールのマギル大学ヘルスセンター研究所(RIMUHC)率いる国際研究チームが解明した。研究チームは、小児グリア芽細胞腫の約40%の原因である二つの遺伝子変異を同定した。小児グリア芽細胞腫は化学療法にも放射線療法にも非応答性である致命的な癌である。発見された変異はDNA調節に関与していることが分かり、そのために従来の治療が効果的で無かったのではないかと思われる。   他の癌治療にも多大な影響を与える可能性を持つ本研究は、2012年1月29日付けのネイチャー誌に記載された。また、同日のネイチャー・ジェネティックス誌に記載された別の研究チームの論文が、本研究と関連した知見を独自に発表している(バイオクイックニュース、“Histone Mutations Associated with Aggressive Childhood Brain Tumors:ヒストンの変異が悪性小児脳腫瘍に関与”参照)。 研究チームはマギル大学およびゲノム・ケベック開発センターの最新技術と知識を駆使し、ヒストンH3.3と呼ばれる重要な遺伝子で二つの変異を同定したのである。 我々の遺伝形質を保護するこの遺伝子は、遺伝子発現を調節する重要な役割を有する。「これらの変異により細胞の正常な分化は妨げられ、腫瘍の遺伝情報を保護する手助けをします。そのため、化学療法および放射線療法の影響を受けにくくなるのです。」と、本研究の主要研究員、MUHCモントリオール小児病院血液医および腫瘍医のナダ・ジャバド博士は語る。「本研究は、小児がんに対する従来の治療が無効であった理由を説明するのに役立ちます。我々は正しい場所に焦点を当てていなかったのです。小児グリア芽細胞腫は、成人のそれとは異なるメカニズムによって成るものであり、そのため同様に治療さ

関節リウマチの治療薬で知られるKineret(アナキンラ)が、新生児期発症多臓器性炎症性疾患(NOMID)による臓器障害の進行を止めるのに有効であることが、新たな研究で明らかになった。この稀な遺伝性疾患は、持続性炎症および進行性組織損傷を引き起こす。本研究はアメリカ国立衛生研究所の国立関節炎、骨格筋、皮膚疾患研究所(NIAMS)の研究チームによって行われた。NOMIDは皮膚、関節、眼、そして中枢神経系を含む多臓器に影響を及ぼす。   生後一週間以内に現れる発疹が、この疾患の一般的な初期兆候である。発熱、髄膜炎、関節炎、視覚および聴力損失、そして精神遅滞などの問題も従って現れる。生物製剤として知られる比較的新しい種類の薬のひとつであるKineretは、免疫系細胞によって生産されるタンパク質、インターロイキン1(IL-1)の活動をブロックする。NOMIDおよび特定の疾患においてはIL-1が過剰産生されるため、有害な炎症につながるのである。NIAMSの同グループにより行われた以前の研究では、IL-1をブロックすることでNOMIDによる症状を軽減することができると示された。 しかし、Kineretが長期的に有効であり、多めの投与によっては視覚および聴覚損失、また脳病変につながる損傷をコントロールすることが出来ると示したのは、本研究が初めてである。「何年にもわたる長期の炎症は、最終的に機能の不可逆的な損傷および損失の原因となります。」と、責任著者である NIAMSトランスレーショナル自己炎症性疾患部のラファエラ・ゴールドバッチマンスキー博士は語る。例えば、蝸牛( 内耳内の小さな構造)の炎症がNOMID患者の聴覚損失の原因であることが判明した。また視覚損失は、脳内での炎症系圧力による視神経の菲薄化が原因であることが判明したのである。「我々は内耳および脳、そして眼の炎症を効果的にブ

ニューロンの発達および生存に関連している神経栄養因子が、ハンチントン病などの神経疾患において回復性治療の可能性をもつことが研究で示されている。しかし、これらのタンパク質は血液脳関門を通過出来ず、半減期も短い。さらに重度の副作用を起こすため、臨床適用が困難なのである。今回研究者達は、遺伝子組み換え神経栄養因子を脳に直接提供するデバイスを移植することで、実験用ラットの神経症状の治療に成功したのである。   本研究は2012年5月31日付けのNeuroscience誌に掲載された。 研究チームが使用したのはEncapsulated Cell (EC) biodelivery(カプセル化細胞バイオデリバリー)である。このプラットフォームは治療用タンパク質で、脳深部をターゲットとする上で、従来では最低限の侵襲性の神経外科手術で適用することができる。「我々の研究は、大規模な生体分子の治療的デリバリー法分野において、ECバイオデリバリーの前臨床および臨床データを提供するものです。これは遺伝子治療の治療上の利点と、安全性が高く利用可能な移植片を使用する2つの特長を持っています。」と、本研究の責任研究員、デンマーク・バララット、NsGene社のジェンズ・トルノエ博士は語る。 研究者達は、神経栄養因子産生細胞が添付可能な表面積を提供する重合体“スキャフォールド”をホローファイバー膜で被包した、カテーテルの様なデバイスを作成した。脳に移植されると、膜は神経栄養因子をデバイスから流出させると共に、栄養素をデバイス内に入れることも可能なのだ。トルノエ博士と研究チームは、線条体突出ニューロンの発達に役割を果たしている神経栄養因子、Meteorinを利用した。線条体突出ニューロンの退縮が、ハンチントン病の特徴なのである。Meteorinを生成するため研究チームはARPE-19細胞を操作し、実験で

シンガポールのゲノム研究所(GIS)の研究者が、初となる生物のDNA配列を再構築する計算ツールを開発した。このツールの信頼性については保証されており、これによってゲノム配列の再構築と研究を合理化することが可能になる。2011年11月10日付けのComputational Biology誌に記載された今回の研究は、GIS計算数理生物学のアシスタント・ディレクターであるニランジャン・ナガラジャン博士が率いている。   生命(同様に、植物や動物)のゲノム研究は、計算ツールに基づき、ゲノム生物のDNA配列をつなぎ合わせるゲノムアセンブリとよばれるプロセスを行う。これは、ジグゾーパズルまたはバラバラになったページの文字を合わせていくようなものだ。この課題の規模の大きさのために、既存のゲノムアセンブリは結果オーライ的なアプローチに依存しており、しばしばゲノムの不正再構築につながる。今回発表された研究のゲノムアセンブリには、初めてアルゴリズムが使用され、大規模なデータでも品質を保証した。このアルゴリズム法を改善し具体化したOpera(オペラ)と呼ばれるフリーソフトは、http://sourceforge.net/projects/operasf/から入手可能である。 GISで使用されたのもこのオペラであり、大きな植物や動物のゲノムを組み立てるのに成功している。組み立てられたゲノムは、下流の生物学的調査の基盤を形成し、後の研究のための重要なリソースとなる。例えば、数十億ドルかけて得られたヒトゲノムのドラフトは、生物医学研究のための基本的なリソースとして利用されているが、いまだに改良が続けられている。このように、改良されたアセンブリのツールはデータから得られる最も完全かつ正確なゲノムのドラフトを生成することが出来る。ドラフトのアセンブリを改良し、修正するために必要な骨の折れるような努力

たった一つの遺伝子変異で、神経細胞が身体から脳に食欲抑制シグナルを伝える事が出来なくなる。結果、食欲が貪欲になり、肥満体になる。この事を明らかにしたのは、ジョージタウン大学医療センターの研究チームである。2012年3月18日付けのNature Medicine誌ウェブサイトにオンライン掲載された本研究は、無制御な食欲による肥満を治療するため、この遺伝子の発現を刺激する方法を提示している。   研究チームはまた、マウスにおける脳由来神経栄養因子(Bdnf)遺伝子の変異が、脳神経細胞によるレプチンおよびインスリンの化学信号伝達を、非効率化することを発見した。ヒトの体内ではこれらのホルモンは食後にリリースされ、満腹信号を送る。しかし、このシグナルが視床下部内の正しい場所に到達しなかった場合、食欲は継続する。「樹状突起におけるタンパク質合成が体重コントロールにおいて重要であると分かったのは、今回が初めてです。本発見によって、脳が体重をコントロールする新しい方法が開発されるかもしれません。」と、ジョージタウン大学薬理学および生理学准教授、バオジー・ズー学術博士は語る。ズー博士はBdnf遺伝子を長期に渡り研究し、この遺伝子が神経間のコミュニケーションをコントロールする成長因子を生産することを発見した。 例えば成長中、Bdnfは神経間の化学信号伝達のための構造であるシナプスの形成および成熟のため重要である。Bdnf遺伝子は短い転写物と長い転写物を一つずつ作成する。長い型のBdnf遺伝子が欠けた場合、成長因子BDNFは神経細胞内でしか生産されず、樹状突起内では生産されないことがわかった。結果、神経細胞は未熟なシナプスを大量に生成し、マウスの学習および記憶力に影響を与える。ズー博士はさらに、同じBdnf遺伝子変異を持つマウスが重度の肥満体に生長することを発見した。他の研究チームでもヒト

マラリアの肝臓感染と血液感染を治療する医薬品の候補化合物が見つかった。2011年11月17日付けのScience誌に掲載されたこの研究は、カリフォルニア州ラホーヤのスクリップス研究所のエリザベス・Aウィンツェラー学術博士によって主宰されている。国立アレルギー感染症研究所(NIAID)と国立衛生研究所からのグラントである。マラリアは、プラスモジウム属の4種 類近縁な寄生中によって起こり、感染した蚊にかまれることによってヒトに移る。そして寄生中は肝臓に移動し、症状を引き起こす事なく、約一週間で急激に増加する。   症状は、寄生中が肝臓から血流を通って身体全体に広がった時に初めて出始める。しかし寄生中は、感染者が症状を示す数ヶ月から数年前まで肝臓で休眠することがある。現在開発されているマラリア治療薬のほとんどは、感染の血液ステージにある症状を緩和することをターゲットにしている。しかし、マラリアの撲滅を支援するためには、肝臓感染と血液感染の両段階で感染を治療する薬が理想的である。現在、世界保健機関(WHO) が勧めている治療はプリマキン一つで、初期の肝臓ステージにある特定の種類のマラリア感染を治療する。 しかし、プリマキンやその関連薬は、特定の遺伝特性 を有する人達には危険な血液疾患を引き起こす可能性があり、この遺伝特性は、世界中のマラリア流行地域では一般的なものである。さらに、薬剤耐性も報告されているため、新しい治療法を見つける必要性が高まってきている。研究者たちは、肝臓ステージにある寄生中を抑制する活性を有し、今後の薬剤開発に必要な修飾が施されたタンパク質化合物の追究を目的として、以前に血液ステージのプラスモジウムに対する活性を示していた4000以上の化合物をスクリーニングしている。その結果、imidazolopiperazine(IP)クラスターと総称される3つの関連化

「数種のタイプの多嚢性腎疾患と多嚢性肝疾患の進行には、単一遺伝子が中心的役割を果たしている。」と、エール大学医学部(Yale School of Medicine)の研究者が“Nature Genetics”電子版(2011年6月19日)で発表する。この知見は、最も一般的なタイプの多発性嚢胞腎の原因遺伝子であるPKD1の活性の操作が肝臓と腎臓における嚢胞の発生の低減に効果的である可能性があることを示唆する。   「我々は、これらの病気が全か無かの現象に由来する結果ではないことがわかった」と、C.N.H Long Professor of Medicine・Genetics教授・腎臓学科チーフで本研究の上席著者であるDr. Stefan Somlo氏が語った。「PKD1の発現が減少するほど、嚢胞はより多く発生する。逆に言えば、PKD1の発現量の増加によって進行を遅らせることができる。」この病気で最も頻度の高いものは常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と呼ばれている。これは、米国のみにおいても600,000人に発見される疾病で、罹患している片方の親から子供に遺伝する。 PKD1とPKD2の2遺伝子は、この状態の発症に関与している。また、PKD患者では肝臓にも嚢胞が出現する。Dr. Stefan Somlo氏と同僚は以前、肝臓のみで同じ嚢胞を発症していることを複数の家族で確認した。また、彼らは、この合い関する状況に2つの異なる遺伝子が関与していることを発見した。研究者達は、肝臓のみで発症する多嚢性疾患がどのようにADPKDと関連しているのかを知り解明したいと思った。遺伝子工学的手法によるモデルマウスと生化学的手法の両方を用いた一連の実験で、4遺伝子のうちのわずか1つ(PKD1)の活性が、他の形態の疾病における嚢胞形成を制御することがわかった。マウスの実験は、PKD1の投与

カンサス大学の研究チームを含む共同研究によって、動物の健康が改善され、米国の養豚産業が毎年数100万ドルの節約が出来るようだ。ウィルス学者で、診断医学と病理学教授のレイモンド・“ボブ”・ローランド博士は、共同研究の分担として、PRRSウィルスにより発症するブタ生殖器呼吸器症候群(PRRS)に対し易感染性のブタを、認識する遺伝子マーカーを発見した。   PRRS">による米国養豚業界の年間被害額は6億ドル以上にのぼる。「本発見は、まさに“初”です。PRRSの類いではもちろん、大規模な家畜感染病でも初めての発見です。私はこの業界に20年いますが、このような大きな進歩は初めてです。」と、ローランド博士は語る。ローランド博士はアイオワ州立大学のジャック・デッカーズ博士、そして農業研究事業団のジョアン・ラニー博士と共に、 量的形質遺伝子座(QTL)と呼ばれる遺伝子マーカーを発見した。このマーカーが、PRRSウィルスに対する易感染性に関連しているのである。2011年12月28日付けのJournal of Animal Science誌にオンライン掲載された本発見は、ウィルスを制御し、排除するためのスタート地点となる。プロジェクトはカンザス州立大学を中心に進められる、とローランド博士は言う。 これはローランド博士が、本研究を開始し、また500万ドル以上もの研究費を提供したPRRS Host Genetics Consortium(PHGC)と呼ばれる機関に関わっているためである。このコンソーシアムは米国農務省(USDA)、全米豚肉委員会、そしてゲノム・カナダなど、様々な大学および産業界のメンバーによる共同機関であり、ローランド博士はその共同責任者である。ローランド博士はまた、USDAより資金提供を受けているPRRS Coordinated Agriculture Projec

ミツバチが女王蜂になるか働き蜂になるかは、幼生の頃に与えられる餌に依拠する。その餌とはロイヤルゼリーであることはよく知られているが、何故餌の違いで女王蜂になるのかという分子レベルの機構は謎のままだ。しかしこの度、アダム・ドールザル博士とグロ・アムダム博士に率いられたアリゾナ州立大学の研究チームは、他の研究所とも共同して、蜂の成長とインシュリン及び相補的タンパクとの競合の回避に役立つことを発見した。 「幼若ホルモンを介して活性化するIRSとTORという二つの栄養シグナルパスウェイが握るミツバチの運命」というタイトルの論文が、Journal of Experimental Biology誌の2011年12月号に掲載された。「誰が女王蜂になるのか」という大命題については、富山県立大学バイオテクノロジー研究センターの鎌倉昌樹博士が、画期的研究成果を2011年にNature誌に発表した。ロイヤルゼリー中の一つのタンパクであるロイヤルアクチンが、上皮細胞増殖因子受容体との相互作用によって、蜂の幼生に作用し女王蜂へと成長させることを明らかにしたのだ。これによれば、先に報告されたアムダム博士のチームが草分けであるインシュリン受容体タンパクは、インシュリンシグナルは女王蜂への成長には関与していないということが示唆されていることになる。 一方で、博士課程のドールザル氏とビューバイオメディカル研究員兼ASU生命科学大学教授のアムダム博士は、鎌倉博士チームとの研究結果の相違について、その矛盾を解決する方法を探索してきた。 アムダム博士のチームが最初に実施したのは、インシュリン受容体がシグナル発信に利用する相補的タンパクであるIRSに着目した。IRSをブロックすれば成長ホルモン系統が阻害され、たとえ幼生にロイヤルゼリーを与えても働き蜂にしかならないことを明らかにした。アムダム博士のチームは「働き

IRCM (Institut de recherches cliniques de Montréal) で統括している国際的な研究チームの発見は、リンパ性白血病の新しい治療法につながる可能性がある。IRCM">の会長で科学理事も務めるDr. Tarik Möröyが率いるこのチームは、この病気の「弱点」とも言える分子を発見しており、この分子を標的にすることで、現在主流となっている化学療法や放射線療法の副作用を軽減する新しい方向からの治療が可能になるかもしれない。   この研究成果は2013年2月11日付オンライン版の「Cancer Cell」で発表された。 この研究チームの成果は急性リンパ性白血病 (ALL">) にこれまでとは根本的に異なる治療法をもたらす可能性がある。白血病のもっとも一般的なタイプには4種類あり、その一つ、急性リンパ性白血病 (ALL">) は骨髄や血液のがんで、治療しなければ急速に進行していく。現在、治療法は[化学療法と放射線療法">が主だが、いずれも非常に毒性が強く、また非選択的であるため、腫瘍組織も健康な細胞も同じように破壊する。 IRCMでHematopoiesis and Cancer 研究部長も務め、この研究報告書の責任著者も務めたDr. Möröyは、「化学療法や放射線療法では、治療が効果をもたらす場合でも、患者は激しい副作用に苦しむことになりかねない。そのため、治療法を改善し、治療の効力を維持したまま必要な放射線照射量や化学薬品の服用量を減らすことができれば、副作用も抑えられ、患者にとっては苦しみが大幅に緩和されることになる。そのためにも、特定分子を標的とする治療法は将来性が非常に有望と言える。私が過去20年間にわたり、Gfi1と呼ばれる、血球の生成やがんの発達に重要な役割を果たす分子の研究を続けてきたのも

グラクソスミスクライン社のサーバリックスという商品名の二価ヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチンは、より深刻な浸潤性子宮頸がん(ICC)の前がん病変に対し、優れた効力を発揮する。特に、性的に活動的になる前の思春期の女子に接種するのが効果的である。また、このワクチンは他にも癌の原因となる4種類のHPV型に対しても、部分的な効果を発揮することが、2011年11月8日付けのThe Lancet Oncology誌に記載された2つの研究結果から分かった。   この4種類のHPV型とHPV16/18は、世界中の子宮頸がんの約85%を占める。「 組織的なワクチン接種プログラムは、性的に活動的になる前の思春期の若者を広範囲でカバーできると考えられます。ですからHPVワクチンは、他の予防接種プログラムと並んで実施されれば、[子宮頸がんの発生率を大幅に減少させる可能性を秘めています。おそらく、スクリーニングプログラムも修正可能になることでしょう。」と、著者の1人であるタンペレ大学(フィンランド)のマッティ・レーチネン博士は説明する。 二価ワクチンは、子宮頸がんの約70%を占めるHPV16型と18型をターゲットにしている。そのため、ワクチンの有効性の研究のほとんどは、子宮頸部上皮内腫瘍グレード2(CIN2)以上の予防に焦点を当てていた。しかし、CIN3は通常CIN2以上に再現性が高く予測可能なエンドポイントであり、しばしばICCに進行する。2009年には、若年成人のがんに対するパピローマ治験(PATRICIA)が、HPV16/18ワクチンの有効性の最大規模の研究として行われた。結果、二価ワクチンが子宮頸部の前がん病変CIN2+に対して高い効力を有することが報告された。この研究では、アジア太平洋、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、および北米14カ国の15〜25歳の健康な女性20,000人に対し

癌治療において化学療法および免疫療法を併用することで、ガン細胞を探し、排除する免疫システムの機能を強化することが出来る。しかもこれは、ガン関連タンパク質がガン細胞膜の背後に隠れている場合でも有効である。と、日本およびスイス、そして米国の国際研究チームが発表した。2012年2月8日付けのCancer Research誌のオンライ版で発表された記事において研究チームは、特定の癌治療において有効である抗体が、化学療法と併用された場合、細胞内の捉えにくいターゲットまで的確に届き、結果腫瘍の進行を遅らせ、生存期間を延ばすことが出来ると発表した。   「本研究は癌治療薬の開発における着目点を広げる新しい方策の原理証明を提供しており、それにより異なる種類の癌に幅広く適用可能になるかもしれません。」と、Cancer Research誌の責任著書であり、がん研究所(CRI)より資金提供を受けている大阪大学免疫学フロンティア研究センター実験免疫学、西川博嘉准教授は語る。ガンに対する抗体の導入は、過去20年間にわたるガン治療において最大の成功をおさめている。この治療法は、ガン細胞の表面上のマーカーをターゲットとし、乳がん細胞におけるHER2/neuマーカーをターゲットとする画期的新薬ハーセプチン、およびB細胞性リンパ腫">におけるCD20マーカーをターゲットとするリツキサンを含む。しかし正常細胞からガン細胞を区別できるマーカーの大半は、抗体が一般的にはアクセス出来ないガン細胞">の内部に存在するのである。 「ガン細胞内のガン抗原を治療することの出来る療法があれば、正常細胞に対する付帯的損害により起こる副作用無しで抗がん治療が可能になります。」と、ルードヴィヒ癌研究所(LICR)ニューヨーク支部の準ディレクターおよび本研究の共同責任著者、ゲルド・リッター博士は語る。リッター博士は

ケースウエスタンリバース大学医学部の神経科学者チームが、アルツハイマー病を治療する画期的な研究を進めている。 2012年2月9日のScience誌オンライン版に発表された。研究結果によれば、マウスに投与した薬剤によって、アルツハイマー病の進展で生じた病理学的な認識障害と記憶障害が、回復したというものだ。この研究が意味する事は、このベキサロテンという医薬品を使えば、凡そ全米に540万人存在する進行性脳疾患の患者に、大きな福音をもたらすという事である。ベキサロテンは10年以上前にFDAが抗がん剤として認可した医薬品である。本研究は、この医薬品がアルツハイマー患者にも有効ではないかとの想定で行なわれたものであるが、結果は予測以上に良いものであった。アルツハイマーは、体内で生成されるベータアミロイドを、脳内から除去出来なくなることによって発症する。2008年に、ケースウエスタンリバース大学神経科学科のギャリー・ランドレス教授が、コレステロールの運搬機能を脳内で主として担っているアポリポタンパクE(ApoE)が、ベータアミロイドタンパクを脳内から除去する役割も有していることを明らかにした。同博士は今回のScience誌発表論文の上席著者である。ランドレス博士の研究グループは、ベキサロテンがApoEの発現量を増加させる機能を有することに着目した。脳におけるApoE量が増加すると、脳からのベータアミロイドの除去スピードが上がるのだ。ベキサロテンはレチノイド受容体(RXR)を刺激し、その度合いによってApoEの産生量が決まる。特に研究者を魅了したのが、ベキサロテンが記憶障害と行動障害を、アルツハイマーの病理学を逆行するがごとき迅速さで、改善させる効能を有していることであった。現在の、研究者間の共通認識は、動物モデルや人間の患者において観察されているように、水溶性の形態をとるベータアミロイド

Life Science News from Around the Globe

Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

バイオクイックニュースは、サイエンスライターとして30年以上の豊富な経験があるマイケルD. オニールによって発行されている独立系科学ニュースメディアです。世界中のバイオニュース(生命科学・医学研究の動向)をタイムリーにお届けします。バイオクイックニュースは、現在160カ国以上に読者がおり、2010年から6年連続で米国APEX Award for Publication Excellenceを受賞しました。
BioQuick is a trademark of Michael D. O'Neill

LinkedIn:Michael D. O'Neill