スウェーデンのランド大学とその共同研究施設の研究者達が、アルツハイマー治療におけるビタミンCの新たな効果を発見した。ビタミンCが、アルツハイマーの脳に蓄積される有害なタンパク質の凝集を分解する事が動物実験で分かったと、Journal of Biological Chemistry誌(2011年8月25日付)に発表された。アルツハイマー患者の脳にはアミロイドプラークと呼ばれる、ミスフォールドしたタンパク質の固まりが存在する。この固まりが脳内で神経細胞死をおこし、その際に最初に影響を受けるのが脳の記憶中枢の細胞である。  「私たちがアルツハイマーのマウスの脳の治療にビタミンCを使用したところ、有害なタンパク質の凝集が分解されました。この結果が出たおかげで、今まで理解されていなかったビタミンCのアミロイドプラークへの影響がわかってきました。」と、ランド大学分子医学科のカトリン・マーニ博士は言う。「さらに興味深いことに、使用されるビタミンCは新鮮なフルーツから採れるものでなくても大丈夫なのです。例えば、私達の研究では、冷蔵庫に一晩置かれていたジュースに含まれるデヒドロアスコルビン酸からも十分なビタミンCが得られます。」今現在、アルツハイマーの治療法は存在していないが、この研究は病気の進行を遅らせて、症状を緩和することが着眼点である。  ビタミンCのような抗酸化剤は、風邪から心臓発作や痴呆まで様々な病気において効果があるため、研究の的になってきた。「ビタミンCがアルツハイマーの治療に効果的だという事はまだ議論中ですが、今回の研究結果はこれからのアルツハイマーとビタミンCの研究に新たな可能性を示唆しているのです。」とマーニ博士は語る。■原著へのリンクは英語版をご覧くださいs: Vitamin C Treatment Dissolves Protein Aggregates in A

microRNAの発現様式が、バレット食道が食道腺がんに移行する前がん症状の進行を検出する手がかりになるかも知れないという研究報告が、American Association for Cancer Research発行の学術誌「Cancer Prevention Research」の2013年3月号に掲載されている。テキサス州ヒューストンのUniversity of Texas MD Anderson Cancer Center、Division of Cancer Prevention and Population Sciences、Department of Epidemiologyの科長、Xifeng Wu, M.D.は、「アメリカでは、食道腺がんはかつては全食道がんの5%程度というまれながんだったが、過去30年で6倍と急激に増えており、現在では新しく食道がんと診断される症例の80%以上を占めるようになった。   食道腺がんによる死者を減らすためには、短期的には初期段階で発見するか、もっと良いのは、バレット食道と呼ばれる前がん病変から食道腺がんに進行するのを抑えることだ」と語っている。 Dr. Wuと同僚研究者は、microRNAに眼をつけた。microRNAは小型のリボ核酸で、多数の遺伝子を制御することができる。研究の結果、microRNAの異常発現が、がんの進行にかかわっている可能性が示された。研究チームは、正常な食道上皮、バレット食道の食道上皮、さらに様々なレベルの組織学的がん進行リスクを負った食道腺がんの組織のmicroRNAのサンプルを何百と集めて比較した。その結果、各組織学的段階で、いくつかの異なるmicroRNAの発現が認められた。Dr. Wu は、「バレット食道と食道腺がんの組織のmicroRNA発現は非常によく似ており、バレット食道発症のかなり

生物学のもっとも基礎的なプロセスの一つが「転写」と呼ばれるものだ。この「転写」は、タンパク質合成に必要な数多いプロセスの一つに過ぎないが、このプロセスがなければ生命も存在できない。しかし、転写の仕組みにはまだ未解明の部分が数多く残されている。サンフランシスコのGladstone Institutesの研究チームはこの転写の重要な部分に光を当て始めており、それとともに、細胞が成長発達する上で転写プロセスがどれほど重要か、またこのプロセスが脱線するとどういうことになるかの理解にさらに一歩近づいている。   2013年11月7日付Molecular Cell誌で、Gladstoneの研究員、Melanie Ott, M.D., Ph.D.の研究室の研究チームは、RNAポリメラーゼ II (RNAPII) (画像参照) と呼ばれるタンパク質の興味深い挙動を記述している。 RNAPIIタンパクは、DNAをRNAに複写する転写プロセスを導く触媒となる酵素の一種であり、タンパク質を生成する際の使い捨て青写真の役割を果たしている。RNAPIIが転写プロセスの初期に特定の遺伝子で休止するらしいことは以前から科学者の間でよく知られていた。しかし、その理由についてはよく分かっていなかった。サンフランシスコのUniversity of CaliforniaはGladstoneもその一部だが、同大学で医学教授を務めるDr. Ottは、「いわゆる『ポリメラーゼ休止』は、RNAPIIが転写を始めて間もなくほんのしばらく転写を休止するというもので、休止後は転写を再開する。私たちに分かっているのは、この挙動がDNAを正確にRNAに転写するために重要だということだけだ。そこで私の研究チームは、どのようにして、どういう段階でということ、また何よりも、なぜかということを解明する研究を始めた」と述べている。そ

新しい研究で、去勢抵抗性前立腺がんの治療結果予想は、循環腫瘍細胞検出法を変更する方が、前立腺特異抗原 (PSA) 量の変化を見るよりも高い確度が得られることを示している。この研究は、2013年10月4日から6日にかけて、チェコ共和国のプラハで開催されたhttp://cem2013.uroweb.org/ EAU 13th Central European Meetingで発表され、賞を受けた。   チェコ共和国プラハにあるGeneral Teaching Hospital Charles University, Department of Urology所属のDr. Otakar Čapounはこの研究論文の筆頭著者を務めており、「現在のところ、去勢抵抗性前立腺がん (CRPC) 患者にとって、信頼性の高いがん特異マーカーも全生存率のマーカーもなく、そのためにも循環腫瘍細胞 (CTC) の研究は最重要課題だ」と述べている。 チェコ共和国政府保健省のInternal Grant Agencyの資金援助で行われたこの研究の内容について、Dr. Čapounは、「この研究の目的は去勢抵抗性前立腺がん管理の個別化の可能性を探ることにある。化学療法中にCTC検出で思わしい変化がない場合には早めに他の治療法に切り替えることを考えるべきだ」と述べている。この助成金プロジェクトのプロトコールには、去勢抵抗性前立腺がん (CRPC) 患者のドセタキセル治療の前と化学療法4サイクル (CTX) の後に末梢血試料を収集することが定められている。循環腫瘍細胞の検出には免疫磁気ビーズ法を用いた。また、研究の過程ではCTCの細胞融解が起きた後で数回のポリメラーゼ連鎖反応を行い、その後に腫瘍関連抗原 (PSA、PSMA、EGFR) の定量化を行った。研究の方法論は言語評価を基本とし、絶対値 (ng

ドイツのBonn Universityの研究グループと国際的な共同研究チームが、新しい受容体を発見した。現代人類が持っているこの受容体は危険な侵入物を判定し、免疫反応を発揮するために重要な器官である。この有益な器官の青写真はネアンデルタール人の骨のゲノムからも見つかっており、その起源がうかがわれる。この受容体が初期の人類に風土病に対する免疫を与えた。   しかも、初期の人間にこの受容体が見つからず、現代ヨーロッパ人からは見つかるということは、現代ヨーロッパ人がこの受容体をネアンデルタール人から受け継いだ可能性を示している。この研究論文は、2013年11月8日付「Journal of Biological Chemistry」オンライン版に掲載されている。病原体が人体に感染すると、免疫系が危険な侵入物を判定し、これを攻撃する。進化の過程で効果的な防衛機能が発達したが、これは諜報機関員の方法とやや似たところがある。 ヒト白血球抗原 (HLA) 系は、特定の遺伝子の助けを借りて受容体を作り、その受容体がアミノ酸8個からなるプロフィールを使って病原体の危険度を評価する。University of Bonn, Department of Immunobiology, Institute for Geneticsの教授を務めるDr. Norbert Kochは、「この機能は、スパイが単語のごく少数の文字からその文を怪しいと判断することに似ている」と述べている。このメッセージを解読するため、免疫系は侵入者のタンパク質をペプチドに分解し、さらにそのペプチドの一部をスキャンしてアミノ酸の配列を調べることもする。これまでのところ、3種類のペプチド受容体が1000を超える発現形態を示すことが知られており、これが病原体の身元証明になる文字組み合わせを読み取る機能を果たしている。Profess

University of California, San Diego (UCSD) School of Medicineの研究チームは、インフルエンザA型ウイルスが保護粘液層を突破し、呼吸器上皮細胞に感染、さらに上皮細胞から出て他の細胞に感染していく機序を初めて明らかにした。Department of Cellular and Molecular Medicineの准教授、Pascal Gagneux, Ph.D.が研究チームを率いたこの研究の論文は、Virology Journalのオンライン・オープン・アクセス版に掲載され、ウイルスの活動をさらに効果的に阻害する新しい医薬なり治療法なりへの方向性が示されており、あるいは一部の型のインフルエンザ感染を完全に予防できるようになる可能性も示している。   一般的なインフルエンザ・ウイルス株が、すべての動物の細胞で表面を覆っている情報伝達糖分子の一種、シアル酸を探し、これを利用することは以前からよく知られていた。 たとえば、どこにでも存在するH1N1やH3N2というインフルエンザ株は、赤血球凝集素 (H) タンパク質を細胞表面の対応するシアル酸受容体に結合させてから細胞表面を浸透し、ウイルスが他の細胞に感染を広げる準備ができれば今度は酵素のノイラミニダーゼ (N) をこのシアル酸に付着させたり、亀裂を入れて突破するということをしている。肺、鼻、喉など体内の気道の壁を覆っている粘膜細胞はシアル酸の豊富な粘液を分泌し、病原体から防衛している。粘液は粘りけのある罠で、ウイルスが脆弱な細胞に感染する前にこれを取り込み、封じ込めてしまう。Dr. Gagneuxは、「分泌された粘液中のシアル酸はねばっこいクモの巣のような働きをしており、ウイルスを引き寄せるとウイルスの赤血球凝集素タンパク質に取りついて捕まえてしまう」と述べている。D

Institut Gustave Roussy、Inserm、Institut Pasteur、INRA (French National Agronomic Research Institute) の研究者が共同で行った研究で、がん化学療法は、腸管微生物とも呼ばれる腸内細菌叢の助けを借りると単独の場合よりも優れた効果を現すという驚くべき結果が出た。実際、化学療法によく用いられている医薬の一つは、その効果が分子レベルで腸内細菌叢の特定の細菌を血流やリンパ節に送り込む能力によっていることが突き止められている。   送り込まれた細菌は、一旦リンパ節に入り込むと免疫防御系を刺激して新たに防御態勢を強化し、それによって体が悪性腫瘍と戦う力を強化するのである。この研究論文は、2013年11月22日付Science誌に掲載された。腸内細菌叢というのは100兆個ほどの腸内微生物の集まりである。 この腸内細菌叢は、様々な細菌種が体に有害となる可能性のある異物を排除したり、体を汚染する病原体を抑え込む多様な機能を果たしており、人体にとっては重要な器官になっている。さらには腸内微生物は消化した食物の分解を助け、腸管での栄養物の吸収や代謝の最適化に役立っている。このような大量の細菌は、個人の誕生時から腸内に棲み着き、免疫防御系の成熟に大きな役割を果たしている。ただし、腸内細菌叢を形成している細菌種は人によって異なり、特定細菌種が体に存在したりしなかったりすることが、人によって特定の病気にかかりやすい、あるいはかかりにくいという違いをもたらしていると考えられる。がんの分野では、Institut Gustave Roussyの“Tumour Immunology and Immunotherapy,” Inserm Unit 1015のDirector、Laurence Zitvogel教授が

2013年9月18日付Journal of Neuroscienceに掲載された研究論文は、初めて、遺伝子NTRK3 (neurotrophic tyrosine kinase receptor type 3、trkCとも呼ばれる) をパニック障害傾向の因子と突き止めた。研究チームは、恐怖記憶の形成に関わる機序を明らかにしており、新薬や認知療法の開発に役立つことが考えられる。パニック障害は不安障害の一種に分類されており、推定では、スペイン国民の100人に5人がこの障害に悩んでいる。   その人達は頻繁かつ突然にパニックに襲われるため、日常生活にも影響があり、重症の場合には買い物や自動車運転、職に就くことさえできなくなる。この障害には神経生物学的原因と遺伝学的原因があることは知られているが、どの遺伝子が障害の発症に関わっているのかが研究されたこともあり、特定の遺伝子が原因ではないかと挙げられたこともあるが、それでも生理病理学的な仕組みはまったく解明されていなかった。今回初めて、Centre for Genomic Regulation (CRG) の研究チームが、脳の形成やニューロンの生存とニューロン同士の接続に不可欠なタンパク質のエンコーディングを担当している遺伝子NTRK3とパニック障害との関連性を明らかにし、この遺伝子がパニック障害になりやすい性質の遺伝的因子であることを突き止めた。 CRGのCellular and Systems Neurobiology groupの長を務めるDr. Mara Dierssenは、「NTRK3の調節が失われると脳の発達に変化が起き、恐怖連合記憶系の不調が見られるようになる。ことにこの系は恐怖に関連する情報の処理が得意なため、患者はどのような状況においてもリスクを過大に感じるようになり、そのため、驚きやすくなるとともにその情報は

2014年2月4日 (火)、The National Institutes of Health (NIH) は、「Accelerating Medicines Partnership (AMP)」を発表した。これは、過去1年半をかけて「The Boston Consulting Group (BCG)」のガイダンスに従って編成した新しい形の官民共同研究パートナーシップである。AMPは、難治性疾患の生物学的解明に対して組織的な投資をするという初めての事業で、その構想の当初から業界、研究者、政府がパートナーとして協力して体制つくりにあたってきた。   NIHのディレクター、Francis S. Collins, M.D., Ph.D. (写真) は、「これまであまりにも多くの金と時間を投入しながら、思うほどの成果が得られていない。一方で患者やその家族は新しい医薬や治療法を待ち続けている。バイオメディカル業界で誰もが思っているのは、これは一部門が単独で解決できることではなく、研究の効率を高めていくためには新しい体制でみんなが一致協力してやらなければならないということだ」と語っている。AMPは、NIH、世界的な医薬品メーカー10社、いくつかの非営利組織が共同で設立した機関で、アルツハイマー、2型糖尿病、リューマチ様関節炎、全身性紅斑性狼瘡の基本的病理の特徴づけの大規模な研究作業のために今後5年間で2億3,000万ドルを投資することになっている。 BCGは、AMP設立構想、組織編成、研究対象の疾患個々の詳細な研究計画などを支援できたことを喜びとしている。BCGのパートナーであり、このパートナーシップを可能にしたチームの共同リーダーも務めるMichael Ringel, J.D., Ph.D.は、「これまで多くの医薬が期待されながら研究開発段階でものにならずに終わった。その原因は

ミツバチの性決定の分子スイッチが徐々に環境に適応して進化してきた過程が、200年近く経てようやくアリゾナ州とヨーロッパの研究者によって明らかにされた。性決定の遺伝子的仕組みは1800年代中頃にシレジアの僧侶、Johann Dziersonによって初めて提唱されたが、今回の研究論文の共同著者を務めたArizona State University (ASU) のProvost Robert E. Page Jr. によれば、Dziersonはミツバチのコロニーでオスとメスがつくられる仕組みを理解しようとしたということである。  Dziersonは、女王バチも働きバチもメスであり、餌の質と量の違いによって、機能に違いができてくるということに気づいていた。同時に、オスはどうなるのかという疑問をいだいた。Dziersonは、ミツバチのオスを、染色体を1セットしか持っていない半数体と考えたが、1900年代になって顕微鏡の出現に伴い、その考えが正しいことが確認された。顕微鏡を使って観察した研究者は、雄バチになる卵には精子が侵入しないことに気づいたのである。しかし、この半倍数性性決定システムがどのようにして究極的に分子レベルで進化を遂げることができたのかという疑問は、発生遺伝学の分野で最も重要な疑問のひとつだった。 2013年12月5日付「Current Biology」に掲載された研究論文「Gradual molecular evolution of a sex determination switch in honey bees through incomplete penetrance of femaleness」で、筆頭著者のDr. Pageと、ドイツのUniversity of Duesseldorf, Institute of Evolutionary Geneticsの

米National Institutes of Health (NIH) は、St. Joseph's Hospital and Medical CenterのBarrow Neurological Institute、Phoenix Children's Hospital、Translational Genomics Research Institute (TGen) (写真) の研究計画に対して今後5年間に400万ドルの研究資金を約束した。この研究計画は、脳損傷の程度を示す分子シグナルを見つけ、医療コストの軽減、脳損傷リスクのある患者を判定し、患者の速やかな快復に役立てようという試み。   TGenは、2013年12月4日付プレスリリースでこの発表を行った。また、University of California, San FranciscoやStanford Universityもパートナーとしてこの研究に参加している。細胞外RNAを詳しく洗い出した分子プロファイルは、脳出血後の血管痙攣リスクの高い患者を判定できるはずで、脳出血には、脳と脳を覆っている薄い膜の間に出血するくも膜下出血や、脳内の動脈壁が異常に膨らむ、脳動脈瘤と呼ばれるものが破裂して出血するなどがある。RNA分子マーカーを突き止めることができれば、個別化医療にも新しい基準を設定することができ、医師は急激な患者の容体の変化にも迅速に対応し、二次損傷を早めに食い止めることができる。 この研究の研究責任者の一人で、Neurological Surgeryの内勤医、Barrow Neurological Instituteの准教授を務めるDr. Yashar Kalani, M.D., Ph.D.は、「この研究で、脳損傷を食い止め、検査とそれに伴うコストを抑え、患者の入院日数を短縮することができればと期待して

2014年1月12日付Nature Methodsオンライン版に掲載されたUniversity of Pennsylvania (Penn) 学際チームの研究論文は、生細胞のmRNAを生体組織の微小環境で周辺の細胞を損傷せずに分離する、この種のものとしては初めてのテクニックを発表している。このテクニックにより、細胞間の化学的接続が個別細胞機能や全体的なタンパク質生成に与える影響を解析することが可能になる。   生体組織は当然ながら様々なタイプの細胞で構成された複雑な構造体であり、また、心臓、皮膚、脳など各組織タイプ内での個別細胞の種類や機能は、どの遺伝子がmRNAに転写されているか、また究極的には生成されるタンパク質と密接に結びついている。結局、生体組織内での単一細胞の遺伝子発現を調べるためにはその細胞内部の働きを観察しなければならない。生態学者が個々の種を研究する際にその種の生息環境との相互影響を観察しなければならないのと同じことである。 たとえば同じタイプと見える細胞同士でさえ、分子レベルで見ればまったく同じということはない。現在の遺伝子発現変異に関する知識のほとんどは培養液中で成長した異質細胞グループを使った研究で得られたものであり、このような不自然な条件で得られた結果から「現実の生物学」を推定することについては研究者も疑問をいだいている。健康な生体組織中の単一細胞にどのタイプのRNAがどれだけ存在するかを調べることのできるツールがあれば、哺乳動物の細胞が生体内でどのように機能するのか、また様々な疾患でその機能がどのように不全になるのかを評価する貴重な機会が得られ、究極的には新薬の試験にも役立てることができるはずである。Perelman School of MedicineのPharmacology教授でPenn Genome Frontiers Institu

科学者が気候変動の影響を予測しているが、一つ、その中で見過ごされているのは、地球が温暖化した時、土壌中の炭素がどうなるのか、またこの炭素の動きを決めている土壌中の微生物はどうなるのかという問題である。オクラホマ州の草地の研究をした科学者チームが、土壌のすぐ上の気温が摂氏2度上昇しただけでも地中の微生物の生態系が大幅に変化することを突き止めた。   研究では、気温上昇がない対照群植物と比較すると、温暖化区画の植物は生長も速く、また丈も高くなり、その結果、植物の老化につれてより多くの炭素を有機炭素の形で土壌中に封じ込めることが明らかになった。 しかし、もう一方で温度変化に対応してDNAを変異させた微生物生態系は、増えた有機炭素を処理する能力も高まっていた。Georgia Institute of TechnologyでEnvironmental EngineeringのCarlton S. Wilder Chairを務める准教授、Dr. Kostas Konstantinidisは、「この研究の結果、気候温暖化は土壌生態系に影響を及ぼすことが明らかになった。微生物は環境変化を利用するために遺伝子を変異させたようだ」と述べている。この研究論文は、2013年12月27日付Applied and Environmental Microbiologyオンライン版に掲載された。この研究はDepartment of Energyの出資で行われ、University of Oklahomaなどいくつかの大学が共同研究に参加した。この発見は、自然界でもっとも複雑な生態系である土壌の気候変動に対する対応についてより良く理解することを目的として10年にわたり続けられてきた研究の成果である。1グラムの土には少なくとも4,000種、10億個の細菌が棲んでいる。それに比べれば、人間の消化器官に棲ん

数多くのがんタイプを横断的に調べた記念碑的な研究で、がん細胞変異の世界はこれまで考えられていた以上に膨大であることが示されている。Broad Instituteが中心になって行ったこの研究では、何千人もの患者の腫瘍のゲノムを解析し、新しいがん遺伝子を数多く発見、既知のがん関係遺伝子のリストが25%も拡大された。そればかりでなく、研究の結果、まだ突き止められていない主要遺伝子が数多くあることも推測されている。   研究チームの業績は将来の抗がん剤開発に重要な基礎を築いただけでなく、何十という数のがんタイプの総合的なカタログを作るには10万人程度のがん患者の組織サンプルがあれば足りることを実証した。この研究論文の共同首席著者で、Broad Institute初代所長のDr. Eric Landerは、「ヒトのがん遺伝子の全体像を描くためにどれだけの作業が必要かを初めて突き止めた。非常に有望な展開といえる。遺伝子とその経路を知れば、新しい創薬標的がはっきりとつかめ、さらには効果的な併用療法の道も開ける」と述べている。 今回、この研究で解析された21種類のがんについては、過去30年間の科学者の研究で約135種類の遺伝子が何らかの原因になっている証拠をつかんできた。この新しい研究論文では、これらの遺伝子ががん発症に関わっていることを確認しただけでなく、既知のリストの4分の1に相当する新しいがん遺伝子を付け加え、さらには、細胞死、細胞成長、ゲノム安定性、免疫回避その他のがんに関連するプロセスに生体的な役割を果たしている遺伝子を33個も発見している。この研究の成果は、2014年1月23日付Nature誌に掲載されている。研究論文の第一著者でBroadの計算生物学者、Dr. Mike Lawrenceは、「よく考えなければならない基本的な疑問は、がんの全体像を把握することができたか?

ワシントン州立大学(WSU)の研究により、40個以上もの植物由来の化合物が、ガンの進行を遅らせる遺伝子を活性化することが可能であることが判明した。ガンの転移こそが致命的であるため、今回の発見はとても励みになる、とWSU薬学部教授および学部長のゲリー・メドウズ博士は語る。さらに、食生活の改善、栄養学的アプローチ、そしてこの植物由来化学物質を合わせて、多くの道を開いているように見えると言う。   「我々は常に特効薬を探しているのです。そして、我々が食べる物や生活の傍らにこそ、そのような特効薬が存在するのです。我々はただ、それらを上手く使わないといけないだけなのです。」と、メドウズ博士は語る。2012年6月のCancer and Metastasis Reviews誌に掲載された本研究はメドウズ博士によって、いくつかの単純なロジックの元に進められた。ほとんどの研究はガンの予防または腫瘍の治療に焦点を当てているが、致命的となるのはガンの他臓器への拡散である。そのため、腫瘍を治療するよりも拡散または転移をコントロールするほうが重要なのである。栄養学的アプローチと転移抑制遺伝子のコンセプトは学術誌などでもほとんど見られないため、PubMedの研究データベースを検索するのも一苦労であった。 「研究者のほとんどは、研究目標に転移抑制遺伝子を含んでいなかったのです。これらは、研究の過程で見たその他大勢の遺伝子と同様に扱われていました。」と、メドウズ博士は語る。しかしメドウズ博士はそれらの研究に目を通し、転移抑制遺伝子がいつオン/オフされるのかを調べた。そして、様々なガンにおける転移抑制遺伝子に影響を与える物質を複数見つけたのである。アミノ酸、ビタミンD、エタノール、高麗人参エキス、トマトカロテノイドリコピン、ウコンの成分クルクミン、ザクロジュースや魚油など、乳房、結腸直腸、前立腺、皮膚

タンパク質は、多くの機能を持つ、細胞の分子マシーンのようなものだ。分子材料の運搬、物質の切断やシグナルの伝達など、分子生物学の分野で長年研究対象となっている機能を有している。しかしこの20年新たに別の種類の重要な分子が注目されるようになってきた。それが、マイクロRNAを含む小サイズのRNAであり、現在では、マイクロRNAが細胞機能の制御に重要な役割を演じる事が明らかになっている。   「ひとつのマイクロRNAが300-400個のタンパクを制御しているようです。マイクロRNAのような分子は細胞の状態の変わり目にスイッチとして働くと考えられています。」とドイツ神経退化疾患研究所(DZNE)の研究者でゲッチンゲンDZNE所長のアンドレ・フィッシャー教授は語る。 彼の研究チームは学習作用に関与するマイクロRNAを同定し、更にそれがアルツハイマー病の重要な役割を担っているということだ。彼らはアルツハイマー病モデルマウスに過剰に発現する「miRNA 34C」と呼ばれるマイクロRNAを低減させると学習能力が回復することを実証した。更にはアルツハイマー病の診断と治療に重要であると考えられる標的分子も同定した。本研究はゲッチンゲン欧州神経学研究所、ゲッチンゲン大学、DZNEミュンヘン、そしてスイス、アメリカ、ブラジルから参加した研究者たちによる共同研究として実施された。研究結果はEMBO誌2011年9月23日オンライン版に発表され、miRNA 34Cは「多重並行シーケンス法」と呼ばれる複雑な方法で行われた。この技術を用いてフィッシャーと彼のチームは、脳内で学習機能を司る部位である海馬に発現するRNA構造の完全型を解明し、脳全体のRNAと比較検討を行った。彼らは海馬内のmiRNA 34Cが学習フェーズの2-3時間後に増加することを実証した。「私たちはmiRNA 34Cが、学習過程で生じる

クリーブランド・クリニックの研究者達は、悪性脳腫瘍である悪性グリオーマの腫瘍成長に癌幹細胞が関与するパスウェイを発見した。7月8日にCell誌に発表された記事によると、現在使用されている治療薬は既にこのパスウェイに作用し腫瘍の成長を遅らせ腫瘍をブロックする効果がある事が動物実験により明らかである。致命的なケースが多い脳腫瘍に対し、新しい治療法の提供が可能となってきた。   アメリカで悪性と診断される主たる脳腫瘍は年3,500例以上になり、その半分以上が悪性グリオーマである。悲しい事に、この患者達の見通しは暗い。最も悪性度の高い悪性グリオーマ(グレード?グリオーマ、または多形性神経膠芽細胞腫)の場合、最適と考えられる治療をもってしても、平均生存期間は9−15ヶ月である。その治療というのは、手術後放射線照射と化学療法テモゾロミドを処方し、さらに追加でテモゾロミドを処方する方法を指す。 患者間で腫瘍に違いがあるのは知られていたが、患者中の癌細胞の違いの重要性が理解されはじめたのはごく最近だ。動物モデルでは、グリオーマ内で腫瘍の成長を促進する細胞群−いわゆる癌幹細胞−が確認された。これらの癌幹細胞は放射線と化学療法に耐性があることが多いため、新しい治療法を開発する際に重要な標的とされている。 最近発表された報告書で、クリーブランドクリニック・ラーナー研究所/幹細胞生物学・再生医学部長ジャーミィ・リッチ博士とアニタ・ヘルメランド博士率いる研究チームは、癌幹細胞が腫瘍増殖を促進する際にたどる分子パスウエイを新しく定義した。癌幹細胞では一酸化窒素が過剰に生産されるがその役割ははっきりと解明されておらず、治療に対する耐性、アポトーシスの回避、そして増殖の促進に関与していると考えられている。一酸化窒素は癌幹細胞の一酸化窒素合成酵素?型(NOS2)の増加により生産される。この酵素の生成量

各種の攻撃手段を備えてがん細胞に侵入し、がん細胞を内側から粉砕する独特なナノスケール抗がん剤にさらに新しい攻撃手段が加わった。免疫系を刺激し、HER2陽性乳がん細胞を攻撃させるタンパク質がそれである。ロサンジェルスのCedars-Sinai Medical Center, Department of Neurosurgery, Maxine Dunitz Neurosurgical Institute, Nanomedicine Research Centerの科学者が率いる研究チームが医薬を開発し、人間の乳がん細胞を植え付けたマウスで研究を行った。   2013年6月12日付Journal of Controlled Releaseオンライン版に掲載された研究論文で、「医薬を注入されたマウスは、何の処置もしていないマウスや医薬の特定成分のみを注入されたマウスよりもかなり長生きした」と述べている。また、UCLA, Division of Surgical Oncology, Cedars-Sinai, Samuel Oschin Comprehensive Cancer InstituteとUCLA, Molecular Biology Instituteの研究チームもこの研究に参加した。 外からがん細胞を攻撃する医薬はしばしば副作用として正常細胞を傷めるが、この研究では、医薬分子をがん細胞内に運ぶ運搬機能を持った「ナノプラットフォーム」に複数の医薬を化学結合させ、がん細胞内に送り込んだ。HER2陽性がんは、乳がん、卵巣がんの25%から30%を占めるが、HER2遺伝子の活動が亢進しており、がんの進行を促進するタンパク質を過剰に生成するため、他のタイプのがんに比べると、侵襲性が強く、また治療にも反応しにくい。もっとも一般的な抗がん剤の一つ、Herceptin (tras

日本の理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)の研究チームは、ユビキチン化タンパク質の凝集体を細胞から選択的に分解するメカニズムを発見した。この発見は、同様の凝集体の補足や除去がp62とよばれるタンパク質のリン酸化によって誘起されることを示し、ハンチントン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療に、新たな道を開くことを示唆する。細胞の最も重要な活動の一つは、タンパク質の生産である。   これは、酸素輸送から免疫防御や食物の消化に至るまでに必要不可欠な機能を果たす。また、細胞の生存に重要なのは、有効期限を過ぎたタンパク質をどのように扱うかである。破損やミスフォールドしたタンパク質は、アルツハイマー病などの神経変性疾患に見受けられる衰弱状態と関連している。 真核細胞では、破損またはミスフォールドしたタンパク質の再生は、小さな調節タンパク質であるユビキチンの“ユビキチン化”によって管理されている。ユビキチン分子は、タンパク質に付加することでそのタンパク質を標識化し、この標識化されたタンパク質はプロテアソームによって破壊される。プロテアソームは細胞内で不要なタンパク質を分解し再生する大きなタンパク質複合体で、これは細胞のホメオスタシスの維持に極めて重要な役割をもつ。この研究を通して、BSI研究グループは、プロテオソームベースの再生が機能しない領域を明確にすることを追究した。それは、プロテオソームが分解しにくいタンパク質の複合体や凝集体の多い領域である。研究チームは、この弱点がユビキチン結合(UBA)領域、セリン403(S403)位置でのp62タンパクのリン酸化によるものだと指摘している。この位置でのリン酸化は選択的オートファジーとよばれる異化プロセスを誘発し、タンパク質凝集体を分解する。これは、“セクエストトーム”と言われる構造を形成し、オートファジーの準備のため

アメリカドクトカゲの唾液が2型糖尿病用の大型新薬のきっかけになるかもしれないと誰が思ったであろうか。さらに、Magician's cone snail(イモガイ科ヤキイモ)、Saw-scaled viper(ノコギリヘビ)、Brazilian lancehead snake(ブラジリアンヒメハブ)、Southeastern pygmy rattlesnake(東部生息の小型ガラガラヘビ)の毒から慢性痛、心臓発作、高血圧、脳卒中の薬が得られるとは誰が思ったであろうか。これらはペプチドベースの新薬として登場可能な資源のごく一部である。   Chemical & Engineering News(C&EN)(アメリカ化学会の週刊ニュース)で2011年5月30日版のメイントピックであるが、ペプチドはアミノ酸短鎖であり、タンパク質を構成している。このペプチドが、健康ならびに疾病に関与する多くの重要な身体の働きにおいて中心的な役割を果たしていると、C&ENシニアライターのAnn Thayer氏は語る。上記のような新薬候補は既存の医薬品と比べて高い効力や低い毒性など、医薬品として優位な点を持っている。しかしながら、医療分野の治療にペプチドをより広範に利用しようという試みは、ペプチドの短い作用持続時間や胃の中の酵素によって消化されやすいという傾向などによって手詰まり状態である。Thayer氏は、こうした問題点をさらに克服して販売までたどり着いた60種類のペプチド薬は2010年には130億ドルの売り上げになった。またパイプラインにおいてその他の成功も得られた。すでに成功を収め商品化されている医薬品の一部はアメリカドクトカゲのような動物由来の天然ペプチドをベースとしたものである。製造者が生産を進めていく方法について比較検討した記事ではペプチド創薬企業とのコラボレーシ

ルー・ゲーリッグ病として知られている致命的な進行性神経疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のいくつかのケースが、新たに発見された特定の遺伝子における遺伝子変異と関連している、と研究者達によって発表された。研究チームはこの遺伝子における変異が神経細胞の構造および成長に影響を及ぼすことを発見し、ALSがどのように細胞を壊し、麻痺につながるのかについての考察を得た。研究結果は2012年7月15日付けのNature誌に掲載された。   ALSは、筋肉をコントロールする神経細胞である運動神経に影響を及ぼす。ALS患者では四肢衰弱や嚥下難などの初期症状が見られる。患者のほとんどは症状発症から3-5年で、主に呼吸不全によって死亡する。ウスターのマサチューセッツ大学医学部の研究チームは、遺伝型ALSをもつ2家族における遺伝子変異を見つける研究を、国際ALS研究チームと共同で行った。研究チームはエクソーム・シーケンシングとして知られる技術を駆使し、DNA上のタンパク質をコードする部分(エクソーム)だけをデコードした。これにより、DNAにおける疾患の原因となる変異を含む領域を、効率的かつ十分に調べる事が可能なのである。このように綿密なエクソームのシーケンシングにより、プロフィリン(PFN1)遺伝子における複数の変異が、ALSを発症したファミリーメンバーにおいてだけ同定された。 その後行われた、世界中における他の272例の家族性ALS研究でも、症例の1-2%ほどのサブセットでプロフィリン変異が発見された。タンパク質であるプロフィリンは、神経細胞の足場または神経骨格の作成および再構築に重要な役割を果たす。ハエモデルでは、プロフィリンの乱れは軸索―1つのニューロンから次のニューロン、または運動神経から筋肉細胞へ信号を中継する長い神経突起–の成長を中断する。ALS患者におけるPFN1変異を同定した

赤ワインや植物に含まれる化学成分であるレスベラトロルが有する健康増進に有効であるメカニズムが、米国NIHの研究チームによって明らかにされた。同チームが実証したのは、レスベラトロルが、老化に関与するタンパク質であるサーチュイン1を直接活性化しないものの、ホスホジエステラーゼ類(PDEs)と呼ばれる一連のタンパク質類を阻害するという事だ。PDEsは細胞のエネルギー授受に関与する酵素であるが、本発見によってレスベラトロルの生化学論議に決着がつき、レスベラトロルを利用した医薬品の開発に道が開けたということだ。この化学物質は、糖尿病や炎症や悪性腫瘍を治療する活性を有しているので、多くの製薬企業が注目してきた。  本研究結果は、2021年2月3日付けセル誌の記事に紹介された。「レスベラトロルは2型糖尿病、アルツハイマー、心疾患などの幅広い疾患に有効です。しかし、レスベラトロルを安全で有効な医薬品として開発する前に、それが細胞内でどのような機序を有しているかを理解する必要がありました。」とNIH国立心肺血液疾患研究所の肥満と老化研究センター長で、本研究を主宰するジェイ・H・チュン博士は語る。レスベラトロルがサーチュイン1を最初の標的とする、と示唆する報告もいくつか出ている。しかしチュン博士の研究チームは、AMPKと呼ばれるタンパク質が、レスベラトロルの活性化に必要である事を実証していたので、その考え方には懐疑的であった。本研究においては、レスベラトロル処理された細胞内の代謝活性が系統的に追跡解析され、薬効の観点からレスベラトロルが最初の標的とするのは、骨格筋に存在するPDE4であることが同定された。 PDE4の阻害を契機として、レスベラトロルは細胞内の一連のイベントを誘起するが、その一つが、間接的にサーチュイン1を活性化させる。レスベラトロルがPDEタンパクに吸着し阻害することを確認

オハイオ大学総合がんセンター・アーサー・G・ジェームスがん病院&リチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC-James)の研究チームが、タモキシフェン耐性乳がん細胞がどのように成長し増殖するのかを突き止めた。更には、タモキシフェン耐性乳がんを標的として治療する新たな治験薬も開発された。最初のドアが閉まってから次のドアが開くように、エストロゲンホルモンが活性化させる経路をタモキシフェンが阻害した後に、ヘッジホグ(Hhg)と呼ばれているシグナル経路が、乳がん細胞の成長を促進するのである。   PI3K/AKTと呼ばれる2つ目の信号経路も関与しており、Hhgシグナル経路によってタモキシフェンの治療効果は減退し、がん細胞は成長を再開し悪化していくのだ。研究では300例以上のヒト腫瘍組織の解析が行われ、Hhgシグナル経路が活性化すると、予後の悪化につながる事が明らかになった。研究チームは最終的にビスモデギブという名の治験薬まで作成することに成功し、これはHhg経路をブロックしタモキシフェン耐性乳がんの成長を阻害することが、動物モデルで証明されている。この治験薬は現在、別のタイプのがんの治療薬として臨床試験が行われている。現在では、ホルモン耐性乳がんの治療には化学療法が採用されているが、この方法は強い副作用を有する。本研究は、おおくの耐性がんの治療において、化学療法に代わるものとして標的治療の道を開くものである。この研究はCancer Research誌の2012年8月8日号のオンライン版に発表され、「私たちの研究は、タモキシフェン治療の効果が無くなった、エストロゲン陽性乳がん患者のシグナル経路を標的にできる事を示唆しています。」と語るのは、主著でありOSUCCC-Jamesにおいて乳がんの専門医を務める、ブバネスワリ・ラマスワミー博士である。「私たちは、タモキシフェン耐性を誘発す

Nature誌Scientific Report 2012年8月30日オンライ版に掲載されたのは、ハイエナの群れの種類と、その臭い腺に生息する微生物の集団との間に、明白な相関関係があるという報告であり、主著はミシガン州立大学(MSU)ポスドク研究者であるケビン・セイス博士である。「すべての動物が行動範囲を決めるのに共通する重要な要素は、意思疎通のシステムにあります。そして群れ独自のバクテリア無しでは、十分なコミュニケーションが取れないのです。」と語るのは、MSUの動物学者であるケイ・ホールキャンプ博士と本研究の共著であるセイス博士である。   哺乳類の異なる社会集団は、それぞれ独自の臭いを発するバクテリア集団を有している。このバクテリアは独特の化学物質を分泌し、ハイエナは臭いによって自分たちの群れを認識する。過去の研究では、微生物の果たす重要な役割は、食べ物の消化や肉体機能に関わる事であった。よく知られている事は、多くの哺乳類は臭いを、性別や年齢、生殖状況や集団のメンバーシップの判定などのシグナルとして、様々な広い範囲で利用しているという事だ。本研究では、バクテリアはハイエナを宿主として、互いに利益を供与し合っている事を論じている。新しいDNA解析技術によって、動物の行動規範に対するバクテリアの有益で共生の役割が、明らかにされたのである。セイス博士は、ケニアの大草原の草の茎部分に付着している、ハイエナの酸っぱい臭いのするペースト状のサンプルに生息するバクテリアの情報を収集した。現場の試料はハイエナの臭い腺から採取され、MSUに送られ、新世代シーケンサー(NGS)を用いて解析された。ハイエナの群れが草に残した付着物のサンプル中のバクテリアの解析では、同じ群れ集団間では極めて高い同等性が確認された。「臭い腺内のバクテリアを共有する事の恩恵は、ハイエナの群れ集団が臭いによって

サルモネラ菌は胃腸感染症の主要原因のひとつである。サルモネラ菌は、宿主の腸管上皮に存在するフリーの鉄分量に合わせて自らの病原性遺伝子の表現を調整する。バルセロナ自治大学(UAB)の研究者達は、病原体が白苔プロテイン(Fur protein)を介して病原性遺伝子を活性化させることを初めて証明した。この白苔プロテイン周囲の状況に合わせて鉄分量をチェックするセンサーの働きをする。   この研究は「the journal PLoS ONE」(2011年5月6日号)に発表された。タイトルは“Fur activates the expression of Salmonella enterica pathogenicity island 1 by directly interacting with the hilD operator in vivo and in vitro”(インビボ及びインビトロにおいてhilDオペレータとの直接コンタクトによってサルモネラ菌病原性島1の発現を活性化させる白苔プロテイン)本研究はUAB遺伝学・分子生物学部の分子細菌学グループによって行われ、Dr. Jordi Barbé氏がコーディネートした。さらに、国立バイオテクノロジー・センターのDr.Juan Carlos Alonso氏の研究グループも共同研究を行った。鉄分は、だいたいの生物において発育に必須のミネラルである。それゆえに、すべての生物は外部環境から鉄分を必ず取得できるような取り込みシステムを獲得している。しかし、細胞内に過剰な鉄分は有害な影響を及ぼすこともあり得るので、同時に生物にはこれを制御するシステムも備わっている。脊椎動物では、この制御するシステムとして生体液中に存在するフリーの鉄分量を制限する栄養免疫機能として知られる第一防御バリアが備わっており、それが病原体の発育を防止する。嫌気性

メルボルンのサイエンティスト・チームが、免疫システムのなかに新しいタイプの細胞を発見した。新タイプの細胞(白血球の一種)は、感染症の予防において重要な役割を果たすT細胞ファミリーに属する。このグループの発見は、特定のタイプの感染性生物に対する免疫応答を強めることができた。それは最終的に新しい医薬品になる可能性がありうる。それと同時に、アレルギー、ガン、冠動脈疾患等を含む多くの重篤な疾患にとって重要な役割となる。   研究チームには、メルボルン大学のDr Adam Uldrich氏とDale Godfrey教授、モナッシュ大学(Monash University)のDr Onisha Patel氏とJamie Rossjohn教授、ピーター・マッカラムがん研究所(Peter MacCallum Cancer Institute)のMark Smyth教授らが参加している。 国際的な学術雑誌であるNature Immunology誌のオンライン版(2011年6月12日)で発表されたこの発見によって、免疫システムの各種の構成要素について基本的な理解が前進した。あらゆる種類の感染性生物を十分な範囲で網羅する方法についても基本的な理解が深まった。一般的に、身体に対して細菌性感染症やウイルス性感染症の恐れが生じた際には、T細胞受容体と呼ばれる分子が、バクテリアまたはウイルス由来のタンパク質断片(ペプチドと称する)と相互作用を生じ、これが免疫応答を誘発する。このプロセスについては既に広く研究されており、微生物の死滅と重篤な感染症の予防につながっている。免疫システムがウイルスやバクテリア由来のタンパク質に対象を絞っていることはわかっているが、免疫システムのなかの一部のT細胞(NKT細胞として知られる)が、脂質ベースの分子や脂肪分子の認識が可能である。そこで、こうした脂質感受性T細胞の

UCLAの遺伝子研究チームが共同研究の成果として、幼児の発達を阻害する稀な疾患であるIMAGe症候群に関与する遺伝子変異を同定した。偶然だろうか?同じ遺伝子に生じる変異によって、ベックウィズ・ウィーデマン症候群が発症する。この疾患は細胞の成長のスピードが速すぎて、子供が大きくなり過ぎるというものなのだ。   ネイチャー・ジェネティクス誌の2012年5月27日号オンライン版に発表された論文によると、UCLAのグループが得た知見は、無軌道かつ急速に増殖する腫瘍の細胞分裂を抑制する、新しい手立ての研究に繋がる。更には、現在では正確な診断方法が無いIMAGe症候群について、子供達を診断する新規的な方法とも成り得るのである。この発見は、UCLAデイビッド・ゲッフェン医学部のヒト遺伝学、小児科学、そして泌尿器学の教授であり、研究責任者であるエリック・ヴィライン博士には、特別な意義を持つ成果なのである。 凡そ20年前、同博士が故郷のフランスにて医学実習生であった頃、年齢の割りに大変低身長の3歳と6歳の男児を担当した。二人は親戚ではなかったが、幼児期の成長が遅く、骨の成長の停滞、副腎の縮退、通常より小さい臓器や性器、等の共通した特徴を有していた。「異常を呈する症状について、両親に説明できませんでした。私はその年、1993年から彼等が被った疾患の原因を研究し続けているのです。」とUCLA社会遺伝学研究所長でもあるヴィライン博士は語る。ヴィライン博士が遺伝学者としてUCLAに来た時も、この2人の症例がずっと頭に引っ掛かっていた。彼の良き先輩であり、後にUCLAの遺伝学者となったエドワード・マッカビー博士は、ヴィライン博士から話を聞いて、自分がベイラー大学医学部にいた頃の同様の症例を思い出した。この2人の科学者は早速3人の患者から血液サンプルを採取し、疑わしいDNAの変異を解析したが、何も

フロリダ大学の研究グループが、海洋微生物が生成する有毒物質由来の化合物が大腸がんに効果がある事を実験モデルで確認した。2011年8月31日付のACS Medicinal Chemistry Letters誌オンライン版に掲載された論文では、一般的には致死性を有する海洋性シアノバクテリアの副生成物を、どのようにしてガン細胞にのみ特異的毒性を発揮する物質に変えたのかが報告されている。この化合物を大腸モデルマウスに低量投与した結果、腫瘍の増殖が抑制される事が明らかになった。元の物質の毒性は観察されず、更には比較的高用量を与えても、この化合物は効果的で毒性は観察されなかった。   「時には、人間が更に手を加える事によって、自然の産物を人間の病気に有効的に使えるものに変える事が出来るのです。」と、著者の一人であり、フロリダ大学薬学部医薬品化学部の准教授でもあるヘンドリック・ルーシュ博士は言う。「アプラタキシンの作用メカニズムについての知見を元に、今回の化合物には腫瘍抑制機能がある事は判っていました。しかし、元の天然物は治療に使うには有毒性が強すぎたのです。」彼等は複数のアパラタキシンを元に、培養細胞とマウスに効果的だが強い毒性を持たないものを生成した。この化合物は、世界中のガン研究所が注目する二つのタンパク質−増殖因子とその受容体である酵素のチロシンキナーゼーのレベルを低減するための単剤として作用する。アパラタキシンS4と言われるこの化合物は、大腸がん細胞がその増殖エネルギーの生成因子を産生し使用する作用を抑制する。ルーシュ博士やオイェン・チェン科学者とその助手のヤンシア・ルー研究員はこれを、「とめどなく増殖するガン細胞に対する強力なワン・ツー・パンチだ」と言う。このアパラタキシンの二重の作用の発見は、今年5月にニューヨークのAcademy of Sciencesで発表されはした

帯状疱疹は非常に痛いことで知られているが、ジョージア大学(UGA)とエール大学の研究者達は、帯状疱疹の水疱治療に、従来よりもかなり効力が高い可能性のある物質を発見した。帯状疱疹は、アメリカ国民の最大30%が罹患している疾患であるが、その大部分は高齢者である。しかも特別な治療処置の方法が存在しない。大部分の成人は、子供の頃に水疱瘡に罹った際に熱、痒みを伴う水膨れ、さらに僅かな傷跡などの体験をしているはずである。   この水疱瘡の原因は、varicella-zoster virus (VZV)(水痘帯状疱疹ウイルス)である。残念なことに、高齢者になったときに重篤な症状として再発することがある。小児期水痘由来のVZVウイルスは神経の中に隠れており、60才以上の成人で、身体の片側に水庖の発疹が頻繁に出現する。帯状疱疹の発作後の数カ月または数年間持続する神経性の痛み等を含む合併症が残る可能性の割合は、年齢と共に高まる。 上記のような状況は、L-BHDAと称される新規の効果的な抗帯状疱疹薬によって変わってくる可能性がある。抗帯状疱疹治療薬の権利は、ジョージア研究財団(Georgia Research Foundation, Inc.) とエール大学による前臨床試験を目的として、Bukwang製薬に供与された。医薬品化学者であり、UGAの薬学・バイオメディカルサイエンスで著名なDr. Chung (David) Chu教授は語った。「既存の薬剤に耐性をもつ可能性のある株を含めたVZV全体を治療可能なように、有効性ならびに特異性を高めた薬剤を目指した新しいオプションが必要である。」彼はL-BHDAの発明者の1人でもある。Dr. Chuと共同発明者であるDr. Yung-Chi (Tommy) Cheng the Henry Bronson 薬理学教授との共同研究によって、HIV、帯状

眼の神経細胞が正常に機能するにはビタミンCが必要である。2011年6月29日号のJournal of Neuroscience誌に発表されたこの新たな発見は、ビタミンCが他の脳機能にも必要な要素である可能性を示唆している。この発表をしたのはオレゴン医療大学(OHSU)の研究チームと共同研究グループである。「網膜の細胞は、比較的高用量のビタミンCが無ければ正常に機能しないという事が分かったのです。」と、OHSUのボラム研究所の科学者で今回の研究の共同執筆者、ヘンリーク博士は語る。  更に「網膜は中枢神経系の一部ですから、今回の発見は、ビタミンCが脳の至る所で今まで知られていなかった大事な役割を果たしているかもしれないという事を示唆しています。」と指摘する。 脳にはGABA型レセプターという特別なレセプターがあり、脳の細胞間の高速情報伝達を調節している。GABA型レセプターは脳の興奮性神経系を抑制するためのブレーキとしての役割を果たしている。OHSUの研究チームは網膜細胞内のこのGABA型レセプターは、ビタミンCの供給が無いと正常に機能しなくなる事を発見した。「網膜細胞が比較的アクセスしやすい脳細胞であると考えれば、脳の他の部分にあるGABAリセプターも正常に機能するためにはビタミンCを必要とする事が予測されるのです。」とフォン・ゲルスドルフ博士は言う。「また、ビタミンCは抗酸化物質であるため、基本的にレセプターや細胞を早期細胞死から守る役割も果たしています。」とフォン・ゲルスドルフ博士は続ける。 脳内でのビタミンCの役割は未だ解明されていないが、人間の体内でビタミンCが不足していても脳には最後までビタミンCが残る事は分っている。「脳が一番ビタミンCを不足させてはならない場所であるようです。そしてこの発見は、なぜ壊血病(ビタミンC不足により起こる病気)があのように作用する

ダートマウスのガイセル医科大学の研究チームが、直腸がんに関与する遺伝子のオン・オフスイッチを同定した。直腸がんの水先案内人に当たるもので、おそらく新しい治療標的になると考えられる。クオンティタティブ生物医科学研究所長で遺伝子学のThird Century教授であるジェイソン・ムーア博士と、大学院生のリチャード・クーパー・サラリ氏とは、ケース・ウエスタン・リザーブ大学とクリーブランド・クリニックが組織する研究チームの一員である。研究成果はサイエンス誌のオンライン版であるサイエンス・エクスプレス2012年4月12日号に発表された。   多くのがんの研究はがんを引き起こす遺伝子の変異の探索を目的としているが、ムーア博士等は、所謂「ジャンクDNA」と呼ばれる、タンパクをコードしないDNA領域を解析した。長い間見落とされて来たのだが、ジャンクDNA領域は、遺伝子の発現自体を制御する機能を有するということで、近年注目されるようになってきている。「我々は、一体何がどのように“ジャンク”だと言われてきたのかを確定しようとしているのです。所謂“遺伝子”といわれる領域と領域の間にある“ジャンク”の領域がどうであるのかということです。」とムーア博士は語る。 遺伝子領域から遠く離れた非コード領域に結合するタンパク類が、その遺伝子領域のオン・オフを制御していると同博士は説明する。9つの直腸がん検体と3つの健康体直腸組織とを用いて、特定の非コードDNA領域が解析された。そして、ある特定の部分が、直腸がんの発症の有無に応じて、非コード領域の差異が見つかったのである。研究チームはこれらの領域を「変異促進遺伝子座(VELs)」と名付けた。クーパー・サラリ氏によれば、彼らが発見したパターンは既存の直腸がん遺伝子発現マーカーのどれよりも、明白にがんの発現を示すという。「とても明白なシグナルが得られます。」

過去最大級のゲノム全体にわたる研究で、5種の主要精神障害がごく一般的な同様の遺伝子的変異にまで遡ることが突き止められた。資金の一部をNational Institutes of Healthが出しているこの研究では、重なり合う部分は統合失調症と双極性障害で最高を示し、双極性障害と抑鬱症、ADHDと抑鬱症で中程度、統合失調症と自閉症では低度という結果が出た。   また全体として、共通する遺伝子的変異による各精神障害のリスクは17%から28%程度であると見積もられた。オーストラリア連邦クイーンズランド州ブリスベンのUniversity of QueenslandのNaomi Wray, Ph.D.は、「私たちの研究は共通する遺伝子的変異だけに限ったので、精神障害間の重なり合う遺伝子的変異全体を見ればもっと大きくなると思う。もっと影響の小さい共通遺伝子変異、ごくまれな変異、突然変異、重複、欠失、遺伝子・環境相互作用などもこれらの精神障害の原因になりえる」と述べている。NIHのNational Institute of Mental Health (NIMH) の後援で、Cross Disorders Group of the Psychiatric Genomics Consortium (PGC) が複数の研究室で実施したこの研究に、Naomi Wray, Ph.D.は共同で指導に携わった。バージニア州リッチモンド所在Virginia Commonwealth UniversityのDr. Wray, Kenneth Kendler, M.D.、マサチューセッツ州ボストン所在Massachusetts General HospitalのJordan Smoller, M.D.その他のPGCグループのメンバーの研究論文が、2013年8月11日付Nature Geneticsオ

エモリー大学の研究チームがこの度、治療困難なうつ病に効く可能性のある炎症抑制薬を発見した。本研究は2012年9月3日付けのArchives of General Psychiatry誌にオンライン掲載された。「炎症は、感染や創傷に対する身体の自然な反応です。しかし長期に渡る、または過度の炎症は、脳を含む身体のいたる所にダメージを与えてしまうのです。」と、本研究の責任著者であるエモリー大学医学部精神医学・行動科学教授、 アンドリュー・H・ミラー博士(M.D.)は説明する。先行研究では、高炎症を有するうつ病患者には抗うつ薬や心理療法など、従来の治療の効き目が低いことが示されている。本研究では、炎症をブロックすることが治療困難なうつ病患者全般に効くのか、あるいは炎症値の高いうつ病患者に特定して効くのかを調べるために行われた。   研究には自己免疫疾患および炎症性疾患(関節リウマチや炎症性腸疾患など)を治療する比較的新しい生物学的治療薬、インフリキシマブが使用された。生物学的薬剤は、身体の免疫システムによって生成される物質の効果をコピーする。今回のケースにおける薬剤は、腫瘍懐死因子(TNF)をブロックする抗体であった。TNFは炎症において鍵となる分子で、うつ病患者においてそのレベルが上昇することもあると示されている。研究参加者の全ては広範なうつ病を持ち、従来の抗うつ病薬に適度な耐性を有していた。各参加者は、インフリキシマブまたは非アクティブなプラシーボ治療のいずれかに割り当てられた。調査員がグループ全体の結果を見た所、薬剤グループとプラシーボグループ間におけるうつ病症状の改善の差は認められなかった。しかし、高炎症値を有する参加者の反応を別に調べた結果、プラシーボに比べてインフリキシマブに対する反応の方がはるかに良かった。本研究では、ほとんどの診療所や病院で利用可能であり、C反応

2012年のノーベル化学賞は、デューク大学医学センターで39年を続け、ハワードヒューズ医学研究所で治験医師を務めるロバート・J・レフコウィッツM.D.と、1980年代に同博士の研究室でポスドクを務めていた、スタンフォード大学医学部のブライアン・K・コビルカM.D.が共同受賞した。ノーベル化学賞の発表は2012年10月10日に行われた。   二人の科学者は、抗ヒスタミン剤、抗潰瘍薬、高血圧用のβブロッカー、狭心症や冠動脈疾患治療薬などの処方薬の標的となる、細胞表面受容体類の研究で知られている。これらの受容体類は外部から化学的なシグナルを受け、そのメッセージを細胞内に伝達し、体内で起こっている変化の情報を伝えている。これらの受容体類は”7回膜貫通型Gタンパク共役受容体”あるいは短くして単に”G共役受容体”と呼ばれ、蛇のように曲がりくねった構造をしており、細胞表面を縫うように7回貫通している。 ヒトゲノムには、このような膜貫通型受容体をコードする遺伝子が1,000種類ぐらいあるが、とてもよく似ている。更には目の光受容体、鼻の匂い受容体、下の味覚受容体とも大変よく似た構造部分を有する。「ボブのG-タンパク共役受容体の発見は、現在多くの疾患領域で利用されている医薬品の基礎として、大変大きな役割を担っています。彼はその偉大な発見によって、数えきれない程の患者に福音を与えた、”医師兼科学者”の典型例です。私たちは彼の成し得た素晴らしい成果と、デューク大学医学部における多大な貢献を、心から誇りに思います。」と、デューク大学ヘルスシステムのヘルス研究所長兼CEOの、ベクター・J・ジャウ医師は語る。「ノーベル賞委員会が、ボブの研究の本質に注目した事にワクワクしています。そして彼の全研究活動が私たちの大学機関で行われてきた事を、本当に誇りに思います。ボブは単に優れた科学者であるだけではなく

ボストン小児病院(Children's Hospital Boston)の研究者は、ABCB5と呼ばれるバイオマーカーが、結腸直腸ガン領域内のごく一部の細胞にタグを付け、さらに、スタンダードな処置に対して細胞内で抵抗性が高まることを発見した。この結果はABCB5発現細胞の排出が、結腸直腸ガン治療の成功のカギとなることを示唆している。その一方で、ガン幹細胞仮説と呼ばれるガン細胞増殖のエビデンスが増えていることをも示唆された。研究は国際的なチームで進められており、リーダー的存在はボストン小児病院移植研究センター(Transplantation Research Center at Children's Hospital Boston)のDr. Brian J. Wilson氏、Dr. Tobias Schatton氏、Dr. Markus Frank氏であり、VAボストンヘルスケアシステム・ブリガム女性病院(VA Boston Healthcare System and Brigham and Women's Hospital)のDr. Natasha Frank氏や、ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク(University of Wurzburg)のメンバー等が参加している。研究成果は、ジャーナルがん研究(journal Cancer Research)電子版(2011年6月7日付)に発表された。   本年でも推定141,000人のアメリカ人が、結腸直腸ガンの診断をうけるのではないかと予測される。がん検診と選択可能な治療方法の拡大のおかげで結腸直腸ガンの死亡率は過去20年間、低下し続けているが、依然として、アメリカ合衆国のガン関連死亡原因の第二位である。 Frank氏のチームは、黒色腫と肝ガンのガン再発に関与するマーカーとしてのABCB5の役割を認識した

ハトは人間の顔や特徴や感情表現を、人間と全く同じような方法で認識することを明らかにする研究がアイオワ大学(UI)の2人の研究者によって実施され、米国の眼科領域の専門誌「Journal of Vision」(2011年3月31日号)に発表された。実験では、特徴の異なる人間の顔の写真や、不機嫌な表情や笑顔のような様々な感情を表している写真をハトに見せた。   この実験から、ハトは人間のように、同じような顔の特徴や感情を示している人たちの顔の類似点を識別することが判明した。もう一つの実験がとても重要であったが、ここでのハトの任務は、こうした種々の特徴のうちの1個だけに着目し、その他を無視して写真を分類することであった。 アイオア大学教養学部心理学科に所属するDr. Ed Wasserman実験心理学Stuit教授と大学院生のFabian Soto氏の両氏によると、ハトは、人間の感情表現を認識した際に顔の特徴を無視するよりも、顔の特徴を認識した際に感情表現を無視するほうが簡単なことを見出した。「この左右非対称は、人間を被験者とした実験でもしばしば見られてきたことであり、常に、人間の顔処理システムのユニークな働きの結果であると解釈されてきた。」と、Soto氏は語る。さらに、「こうした作用は他の脊椎動物にも存在する知覚プロセスに起因する可能性があること示唆する証拠を、私たちは初めて提供した。このプロジェクトのポイントは、私たち人間の行動と同じような方法でハトが人間の顔を識別するということではなく、人間が顔の認識のために特別なプロセスを用いているわけではない、ということである。むしろ重要なことは、特殊なプロセスと一般的なプロセスの双方とも、人間の顔の認知に関与しているはずであるということと、それぞれのプロセスの貢献度は経験ならびに入念な検討によって決められているはずである、というこ

細胞は、その大切な内容物を保護することにかけては実に優れている。その結果、細胞を壊すことなく、医薬、栄養物、バイオセンサーなどを細胞膜壁を通して内部に届けることはきわめて難しい。その一つが、2008年に発見された効果的な方法で、純金のナノ粒子を特殊なポリマーの薄い層に包むという方法だった。しかし、なぜこの組み合わせがそれほどうまく働くのか、どのようにして細胞膜をくぐり抜けるのかについては誰も確実なことは分かっていなかった。   ところが、MITと、スイスのEcole Polytechnique de Lausanneの研究チームがこのプロセスの動きを解明したばかりか、使えるナノ粒子の大きさの限界も突き止めた。研究チームの分析は、Reid Van Lehn、Prabhani Atukorale、Yu-Sang Yang、Randy Carneyの各大学院生とAlfredo Alexander-Katz、Darrell Irvine、Francesco Stellacci各教授が執筆し、2013年8月5日付学術誌「Nano Letters」オンライン版に掲載された研究論文に詳しい。 筆頭著者のVan Lehnは、「これまでその機序は分かっていなかった。今回の研究作業では、私たちは過程をできるだけ単純化し、細胞膜に永久的な損傷を残すことなく、また細胞を破ることなく、純金ナノ粒子に細胞膜の壁を通り抜けさせる陰の力の解明に努めた」と述べている。そのために、研究チームは、研究室での実験とコンピュータでのシミュレーションを繰り返した。その結果、重要な最初のステップは、ポリマーに覆われた純金ナノ粒子が脂質と融合することだと実証した。この脂質とは自然の脂肪、ワックス、ビタミンなどの複合体で細胞の壁を形成している物質である。さらに、チームは、細胞の壁を通り抜けることができるナノ粒子のサイ

遺伝子は私達一人一人の「個性」の創生を司っている。髪の毛の色から特定の病気に対する脆弱性まで、「個性」には様々な側面があるが、一体遺伝子はその生産物であるタンパクの合成を含め、どのようにコントロールしているのだろうか?この度、記憶を司る基礎的なプロセスに関与する新たな生体分子群が発見され、神経変性疾患の治療に新たな方向が示されたと思われる。   英国のブリストル大学臨床科学部の生物化学科と病理学科と薬理学科に率いられる研究チームが、2012年4月27日のJournal of Biological Chemistry誌に発表したのは、ミラーマイクロRNAと呼ばれる、新たな生体分子群である。マイクロRNAは非コード遺伝子で「ジャンクDNA」に分類され、細胞プロセスを制御する様々なタンパク類の機能や発現量に関与している。報告によれば、それぞれ異なる機能を有する2つのマイクロRNAが、同じDNAの断片(配列)から生成されており、片方はトップストランドから、もう片方は相補的な「ミラー」であるボトムストランドから生成される。 この度明らかにされたのは、ヒトDNAの1断片から次第に2つのマイクロRNAが形成され、それらは脳内に発現し、それぞれこれまで知られていなかった作用を有するということだ。一つのマイクロRNAは、記憶を司ると言われている神経細胞の一部に発現し、もう一つは、神経細胞周りのカーゴタンパクの動きを制御する。同大学の臨床科学部分子神経科学科教授のジェームス・ウネイ博士は「マイクロRNAのほんの僅かな違いが脳の機能に大きな影響を与え、記憶の機能や神経変性疾患への罹患し易さなどに関与しているという、大変重要な事実が明らかになりました。ヒトのミラーマイクロRNAはもっと沢山見つかるであろうし、それらはヒトの神経変性疾患の治療、例えば認知症の治療に道を開くものと考えられます。」

兵庫県神戸市の理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの研究チームは、クローン羊のドリーを生み出したのと同じ技術を用い、正常な寿命を持ち、永久的にクローン化できる健康なマウスを生み出す方法を突き止めた。この研究報告は、2013年3月7日付「Cell Stem Cell」の巻頭を飾っている。若山照彦博士の率いるチームが2005年に始めた実験では、体細胞核移植 (SCNT) と呼ばれるテクニックを用い、オリジナルの「ドナー」マウスから25世代のクローニングを繰り返し、合計581匹のマウスを生み出した。   SCNTは、クローンを作るのによく用いられているテクニックで、卵核を取り除いた生きた卵子に、クローンの元となる個体の遺伝子情報を持った細胞核を植え付けることで、その個体のクローンが育つ。このテクニックは実験動物や家畜に適用して実績を積んでいるが、これまで低い成功率や、哺乳動物で、クローンからさらにクローンを作る再クローン回数の限界などSCNTの技術的な限界を克服することができず、ネコ、ブタ、マウスでは再クローンは2回から6回の間が限界だった。若山博士は、「この再クローン回数の限界は、一つの可能性として、遺伝子的な、あるいは後成遺伝子的な異常が世代を重ねるごとに積み重なるためと考えられる」と述べている。DNAそのものには変化をもたらさない後成遺伝子の変化、あるいはDNA機能の修飾を防止するため、若山博士の研究チームは、細胞培地にヒストン・デアセチラーゼ阻害薬を加えた。その結果、このテクニックでクローニングの効率が6倍も改善された。SCNT作業の各段階で効率が改善された結果、マウスのクローンを成功率の低下なしに25回繰り返すことができた。この方法で生み出された健康なクローン・マウス581匹はすべて繁殖能力があり、健康な子マウスを産んだだけでなく、正常に受精出産したマウスと

DNAシーケンスによって遺伝子の変異を検知することは、がんの診断や治療法の選択に大変有用である。現行のDNAサンプルのテスト法では、とりわけサンガー法とパイロシーケンス法が使用されるが、時折、配列への読み替えが困難であったり出来なかったりする複雑な配列パターンが見受けられる。ジョンズ・ホプキンス大学医学部の研究グループは、そのような複雑な遺伝子変異配列パターンであっても、より正確に同定できるパイロメーカーというフリーソフトを開発した。   パイロメーカーはWebベースのアプリケーションで、ユーザーの入力した、例えば腫瘍細胞と正常細胞の比率や、ワイルドタイプのシーケンスデータや、ディスペンセーション順位や、変異配列番号などのデータを基にパイログラムのシミュレーションを行なうものだ。パイロメーカーは、変異とワイルドタイプとの相対アレル比率を計算し、ディスペンセーション配列に存在する予測される当該変異点を導き出す。最終結果は予測されるパイログラムが表示されるようになっている。 KRAS遺伝子は、様々な癌の病因として重要な作用を担っているが、研究グループは、このKRAS遺伝子によく見受けられる変異の幾つかを含む実際のパイログラムを用いて、パイロメーカーを評価した。実際のパイログラムと計算上のパイログラムは、全ての遺伝子変異解析テストにおいて、同一の結果を導出できる結果であった。彼らは次に、12-13個の単一或いは複合変異のコドンが、独特なパイログラムを描くことを実証した。しかし、いくつかの複合変異は、一塩基変異と見分けがつかない場合もあったため、複合変異の解析はまだ完全ではないと考えられる。研究グループは、二つのパイログラムを使って、最初には解読が困難であった場合の解決法を5通り提案した。それらは、サンガーシーケンス法のみで行なうこと、パイロメーカーで予測配列解析を行なうこと

1953年にフランシス・クリックとジェームズ・ワトソンがデオキシリボ核酸 (DNA) の二重らせん構造を発見した事が遺伝子工学の革命をもたらし、生命体を構成する単位をマップ化し、研究し、シーケンス化する始まりとなった。DNAは、世代間を継承される遺伝物質をエンコードしている。DNAにエンコードされた情報が、生命に必須のタンパク質や酵素として作り出されるためには、細胞のリボソームの中にある一本鎖遺伝物質のリボ核酸 (RNA) が仲介として機能しなければならない。RNAは通常一本鎖であるが、一部のRNA塩基配列はDNAのように二重らせん構造を作ることができる。   1961年には、アレクサンダー・リッチ、デビッド・デービーズ、ワトソン、クリックらが、「ポリ(rA) として知られるポリアデニル化RNAは、並列鎖二重らせん構造を形成することができる」との仮説を立てた。それから50年を経て、McGill Universityの研究者達は、短いRNA配列のポリ (rA)11の結晶化に成功し、Canadian Light Source (CLS) と、Cornell High Energy Synchrotronで集めたデータを用い、ポリ (rA) 二重らせんの仮説を実証した。ポリ (rA)11の詳細な立体構造は、McGill Biochemistry教授のDr. Kalle Gehringの研究室が、University of GottingenのDr. George Sheldrick、Concordia UniversityのDr. Christopher Wildsらとの共同研究で発表している。Dr. WildsとDr. Gehringは、ケベックの構造生物学協会GRASPのメンバーである。研究論文は、2013年6月27日付の学術誌「Angewandte Chemie Int

西アフリカのエボラ出血熱ウイルス蔓延はこれまでで最大の規模になっているが、このウイルスが免疫系をすり抜けるテクニックは巧みである。しかし、セント・ルイスのWashington University School of Medicineその他の研究機関が参加する研究チームは、エボラ出血熱ウイルスが体の抗ウイルス防衛機能をすり抜ける方法を突き止めており、この疾患の治療法を新たに開発する糸口になることが期待されている。   WHOによると、2014年3月以来西アフリカ4か国で約1,800人がこのウイルスに感染しており、そのうち半数以上が死亡している。研究チームは、VP24と呼ばれるエボラのタンパク質が、細胞核の内外に信号分子を出し入れする宿主タンパク質に結合する詳細なマップを作成した。そのマップから、このウイルスのタンパク質が、重要な免疫信号を細胞核に運び込む宿主タンパク質の能力を奪うことが明らかになった。 この信号は免疫系の抗ウイルス防衛機能を活性化する働きがあり、その機能を阻害するということがこのウイルスの高い致死率の主要原因になっていると考えられる。この研究論文の首席著者でWashington University School of Medicineの病理学と免疫学の准教授を務めるGaya Amarasinghe, Ph.D.は、「エボラに感染すると、インターフェロンと呼ばれる分子によって活性化される免疫系の重要な機構か阻害されることは以前から知られている。この2つのタンパク質の構成マップは、エボラが機構をどのように阻害するかを明らかにしている。この情報を利用して新しい治療法を開発する道が開けるはず」と述べている。研究論文は2014年8月13日付Cell Host & Microbeオンライン版に掲載された。2014年3月1日、National Instit

Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、強力な新開発のDNA操作技術をこれまでよりさらに広い範囲にわたって適用する方法を考え出した。TSRI, Department of Chemistry, Molecular Biology Janet and Keith Kellogg II Chairであり、教授も務めるDr. Carlos F. Barbas IIIは、「これは現在の生物学の分野でもっともホットなツールだ。しかも、私たちの研究で、このツールをどんなDNA塩基配列にでも適用できる方法を考え出した」と述べている。   この大発見はTALEと呼ばれる一群の合成DNA結合タンパクに関わるもので、生物学者はこのTALEを研究上の実験やバイオテックの用途、あるいは遺伝病治療を含めた医療に取り入れ、細胞中の特定遺伝子をスイッチ・オン・オフしたり、さらには削除、挿入、書き替えにも用いることが増えてきている。TALEを用いた手法は動物植物に見られるDNA塩基配列のごく一部に対してしか使えないものと考えられていたが、この新研究でその限界が取り払われた。Dr. Barbasの研究チームは研究の成果を学術誌「Nucleic Acids Research」の2013年8月26日付予定稿オンライン版に掲載している。 長年、分子生物学者は、細胞を活かしたまま、容易にまた精確にDNAを操作するようになる日を夢見てきたが、それがかなり現実に近づいている。TALE型の合成タンパク質はほんの何年か前に創り出されたばかりだが、これまでに発明された中ではもっとも使いやすく、しかも精確なDNA専用ツールだと言われている。合成TALE (transcription-activator-like effectors, 転写活性化物質様作動因子) は、植物に感染す

一般的な脳卒中のリスクを高める遺伝子変異が、2012年2月5日付けのNature Genetics誌に記載された研究で明らかにされた。これは現在までに発見されている脳卒中関連の数少ない遺伝子変異の一つであり、この発見により新たな治療法の可能性が見えてきた。脳卒中は世界中の死亡原因の第2位(全死亡数の1/10に当たる、年間600万人)にあたり、先進国では慢性的障害の主要原因でもある。   世界的な高齢化に伴い、脳卒中が健康に及ぼす影響はさらに高まるであろう。脳卒中の根底には幾つかの異なるメカニズムが存在する。最も一般的なタイプでは、一つまたは複数の動脈がブロックされることにより血流障害が起こる、大動脈虚血性発作である。これは、全ての脳卒中の3分の1以上にあたる。 セント・ジョージズ(ロンドン大学)およびオックスフォード大学の研究チームは、ヨーロッパ、アメリカ、そしてオーストラリアの研究者達と共に今までで最大規模にあたる脳卒中の遺伝学研究を行い、脳卒中を患ったことのある患者1万人と健常者4万人の遺伝子を比較した。本研究は、ウェルカムトラストによってグラントされた。研究チームは大動脈虚血性発作のリスクを高める遺伝子、HDAC9における変異を発見した。この変異はヒト染色体の約10%程度に発生し、変異のコピーを二つ持つ(それぞれの親から一つずつ継承された)人は、コピーを持たない人に比べてこのタイプの脳卒中のリスクがほぼ倍に上がるのである。HDAC9により生産されたタンパク質が筋肉組織や心臓の発達に貢献することはすでに知られている。しかし、この遺伝子変異が脳卒中リスクを高めるメカニズムは未だ明らかになっていないため、このメカニズムを理解することが、脳卒中を防ぐ、あるいは治療する新薬の開発につながるであろう。しかし、これはまだまだ先の事であると研究チームは考える。「この発見は、脳卒

King's College Londonの研究者グループに率いられた国際的な科学者チームが眼球屈折異常や近視を引き起こす遺伝子を新たに24種類同定した。近視は世界中で失明や視覚障害の大きな原因になっており、現在のところ治療法はない。Nature Genetics誌2013年2月10日付オンライで発表された研究論文は、この形質の遺伝的原因を解明しており、より効果的な近視の治療法や予防法を開発する基礎になる可能性がある。   西洋人の場合には30%、アジア人の場合には80%の人が近視になる。児童期から思春期にかけて視覚器官の成長に際して眼球は前後に伸びるが、近視では眼球が伸びすぎ、眼球内に入った光が網膜に像を結ばず、その前に像を結んでしまい、網膜の像は焦点の外れたぼけた画像になる。このような眼球屈折異常は眼鏡、コンタクトレンズ、外科手術などで矯正することができるが、眼球は長いままであり、網膜は薄くなったままである。これが特に強い近視では、さらに網膜剥離、緑内障、黄斑変性症などにつながる。近視は非常に遺伝性が強く、これまでのところ、近視の遺伝的仕組みが分かっていなかった。 近視の遺伝的な原因を探るため、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、アメリカの研究者グループが共同研究組織Consortium for Refraction and Myopia (CREAM)を構築した。研究者チームは、32件の研究から45,000人を超える被験者の遺伝データや眼球屈折異常データを集めて分析し、この遺伝形質に関連した24種類の遺伝子を新しく突き止めた他、過去に研究論文で取り上げられている2種類の遺伝子についても確認した。面白いことに、近視はアジア人の方が発生率が高いにもかかわらず、遺伝子は、ヨーロッパ人とアジア人のグループの間で目立った違いが見られなかった。新しく突き止められた遺伝子は、

一連の新しい造影剤により、腫瘍が悪性化する前の初期段階で「見る」ことが可能になるかもしれない。この化合物は酵素シクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)のインヒビターに由来し、PETイメージングにも適用できるので、癌の検出、診断、および治療のための広範な用途の可能性を有する。バンダービルト大学の研究者達は、2011年10月号のCancer Prevention Research誌にこの新しい造影剤の説明を載せている。「これはCOX-2をターゲットとするPETイメージングで唯一、炎症や癌への適用が、動物モデルで実証された物なのです。」と、バンダービルト・ケミカルバイオロジー研究所の所長であり、今回の化合物開発チームのリーダーであるローレンス・マーネット博士は言う。   「COX-2は、正常組織にはほとんど見られない物質で、炎症性病変や癌の際に“オン”になります。そのため、分子イメージングにおいて魅力的なターゲットなのです。腫瘍が成長し、どんどん悪性になるにつれて、COX-2レベルも上がります。」と、マーネット博士は説明する。 COX-2をターゲットにするPETイメージングで検出可能な化合物を開発するため、生化学の研究助教授ジャシム・アディン博士は、抗炎症薬インドメタシンとセレコキシブの“コア”の化学構造を修飾し、様々なフッ素化合物を付加させた。この様なフッ素化合物がCOX-2の選択的インヒビターとして機能する事を実証した後、研究チームは最も有望な化合物に放射性フッ素(18-F)を組み入れた。この18-F化合物を動物モデルに静脈投与したところ、PETイメージングのための十分なシグナルを提供した。 研究チームは動物モデルを用いて、18-F化合物のインビボPET イメージングにおける有望性を実証した。使用されたのは足蹠の刺激誘発性炎症モデルラットと、ヒトの腫瘍を移植されたモデルマウ

長年、研究者はインシュリン産生膵ベータ細胞を再活性化することで糖尿病を治療する方法を探してきたが、ほとんど成果が得られていない。しかし、類似したアルファ細胞をベータ細胞に「リプログラミング」することで、いつか、2型糖尿病に対して、現在の治療法を補完する方向の新しい治療法が可能になるかも知れない。ヒトとマウスの細胞使って、細胞核内の染色質 (クロマチン) と呼ばれる物質を変化させる化学物質で処理するとアルファ細胞中でベータ細胞遺伝子が発現したという研究論文が、「Journal of Clinical Investigation」の2013年2月22日付オンライン版に掲載されている。   この論文の筆頭著者で、ペンシルバニア大学Institute of Diabetes, Obesity and Metabolism, Perelman School of Medicineのメンバーであり、遺伝学教授を務めるKlaus H. Kaestner, Ph.D.は、「この研究成果から治療法が確立すれば、インシュリン産生ベータ細胞が増え、グルカゴン産生アルファ細胞が減ることになるから、糖尿病患者にとっては一挙両得になるはず」と語っている。 2型糖尿病では、インシュリンが欠けるだけでなく、グルカゴンが過剰になる。糖尿病は1型も2型もインシュリン産生ベータ細胞が不足することによって引き起こされるのであり、理論的には、健康なベータ細胞を移植すれば、病気の進行を止めることができる。ただし、1型糖尿病の場合には自己免疫を抑制するために免疫抑制薬なども併用しなければならない。しかし、まだ誰も、胚性幹細胞を使っても、あるいは成熟細胞のリプログラミングの方法を使っても、実験室レベルでさえ効率的にベータ細胞を産生することができないでいる。アルファ細胞は、ベータ細胞と同じように膵臓内の内分泌細胞であ

自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因となりうる環境因子が発見された。父親は母親に比べて4倍、障害を持つ子供に自然突然変異を伝達する可能性が高いのである。また、このような遺伝的変化は父の年齢の増加と共に増えていく。本研究はこれまでに証明されてきた父の年齢と自閉症リスクの関連性を説明するのに役立つであろう。このような遺伝子中のタンパク質コード領域におけるシーケンス変化は、ASDにおいて重要な役割をもつ。   本結果は3つの異なる新しい研究からなり、これらは部分的に国立衛生研究所(NIH)によってサポートされている。研究の一つは、このような変異を持つ事によって子供が自閉症を発症するリスクは5倍から20倍に上ると判断している。これら3つの研究はこのような研究では最大のものであり、そのサンプル数は合わせて549家族にも上るため、統計確度も高い。 本研究は散発的変異がゲノムに幅広く分布されていることを明らかにし、これらはリスクを高めるものとそうでないものの両方であった。識別された変化のほとんどは疾患を説明するものではないが、自閉症スペクトラムにおいて起こり得る複数のシンドロームの生物学的な手がかりになる。「これらの結果から、リスクは遺伝的異常の大きさよりも、それが起こる場所によって決まるものであることが分かります。特に、脳発生や神経結合を含む生化学的経路がそうです。最終的には、このような知識が新しい治療法を生み出すのに役立つのです。」と、NIH国率精神衛生研究所(NIMH)所長、トーマス・R・インセル医学博士は説明する。NIMHは研究の一つに資金を提供し、研究グループの全てがメンバーである自閉症シーケンシングコンソーシアムの開発を促進した。多部位の研究チームを率いたのはハーバード/MITブロード研究所(マサチューセッツ州ケンブリッジ市)のマーク・デイリー博士(Ph.D.)、イェ

マサチューセッツ総合病院(MGH)のハーバード幹細胞研究所が発見したのは、嚢胞性線維症(CF)を治療する医薬品開発の道が、近い将来開けると思われる方法である。嚢胞性線維症は毎年1000人が発症し、500人の尊い生命を奪う疾患である。患者の皮膚の細胞から起こして、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を初めて作成し、これをヒト疾患特異的な機能性肺外皮へと導出する事に成功したのは、ジャヤライ・ラヤゴパル医師とその研究チームである。   この組織は気道を形作るもので、CFの致命的な症状が現れる箇所でもあるが、そこに引き起こされる不可逆的な肺疾患と容赦無い呼吸器不全は、遺伝子の変異が起因となる。その重要な組織サンプル(CF患者全体の70%に発生し、アメリカのCF患者では90%に観察される、デルタ-508遺伝子変異を有する組織サンプル)が、今では研究者が実験室で必要なだけ何度でも作成することが出来るようになったのだ。この組織サンプルはCF患者の2%に観察されるG551D変異も有しているが、この変異に特異的なCFには有効な医薬品が既に販売されている。この研究結果は2012年4月6日付けのCell Stem Cell誌に掲載された。ポスドクのホンメイ・モウ博士が主筆で、ラヤゴパル博士は上席筆者である。モウ博士は、本研究の底流を成すマウスにおける発生生物学を、僅か2年間で修得している。「私はそれをiPS細胞システムに応用しました。研究が思った以上に速く進み、素晴しい結果が目の前に見えているのは、本当に喜ばしいことです。肺疾患を治療する新規的な”低分子医薬品”への道を開くと思います。」と彼女は語る。 ハーバード幹細胞研究所(HSCI)の共同主幹であるドン・メルトン博士は、「この発見によって、何万という細胞を医薬品スクリーニングに掛けられるようになりました。そしてヒト型細胞がスクリーニング標的に

発見困難な染色体異常を検知する新しい方法を用いて、自閉症と関連付けられている33の遺伝子が同定された。内、22は初めて発見されたものである。さらにこれらの遺伝子の内複数は、統合失調症などの精神疾患患者において変化すると見られている。このような疾患の症状は思春期や成人期に出る事が多いのである。本研究は複数の研究チームによって行われ、研究結果は2012年4月19日付けのCell誌にオンライン掲載された。   「自閉症を含む神経発達障害を持つ子供は、染色体異常があると知られています。我々は彼らのゲノムをシーケンシングすることによって、DNA鎖がどのポイントで分裂し、セグメント交換が起こる箇所が、染色体内または染色体間なのかを正確に特定することが出来ました。結果、これらの疾患に対して個々で強力な影響を与える一連の遺伝子を発見することが出来ました。 また、これらの遺伝子は重度知的障害から成人統合失調症まで、多様な臨床症例に関与していることも分かりました。よって、これらの遺伝子は微妙なパータベーションに非常に敏感であると結論付けられます。」と、マサチューセッツ総合病院人類遺伝学研究センター(MGH CHGR)責任者およびCell誌の責任著者、ジェームス・グセラ(Ph.D.)博士は語る。神経発達障害を持つ子供を診る医師は、彼らの染色体を調べるための検査を行うことが多々ある。これらのテストは染色体組織の著しい異常を検出することは出来るが、障害されている特定の遺伝子を同定することはほぼ不可能である。バランス染色体異常(BCAs)と呼ばれる構造的変異では、DNAが同じ染色体上の異なる位置に移動されるが、染色体全体のサイズは変わらない。BCAsは、対照集団よりも自閉症スペクトラム障害を持つ個人において、より一般的であることが知られている。グセラ博士とBrigham and Women's病

泥棒が銀行の金庫に進入すると、センサーが作動してアラームが鳴る。細胞は、侵入者のために独自の早期警戒システムを有している。フランス・グルノーブルのヨーロッパ分子生物学研究室(EMBL)の科学者達は、特定のタンパク質がウィルスの侵入を検出した際にアラームを鳴らす方法を発見した。2011年10月14日付のCell誌に掲載された今回の研究は、自然免疫反応についての理解を深めるのに重要な役割を果たし、インフルエンザや狂犬病、肝炎など多様なウィルスに対する細胞の迅速な対応方法の解明に寄与するであろう。   細胞は浸潤する物質を探知するために、パターン認識受容体と呼ばれるタンパク質を利用する。このタンパク質は、感染菌だけが持つ分子パターンを認識し、結合するのである。この結合によって受容体の形状が変化し連鎖反応を引き起こし、最終的には周囲の細胞に浸潤の警告を行なう。今までは、このセンシングとシグナル伝達の二つのプロセスの結びつきが解明されていなかった。 EMBLの研究者達は、これらの受容体の一つであるRIG-Iが形状の変化をシグナルに変換する正確な構造メカニズムを発見した。「リガンド結合はどのようにしてシグナリングを誘発するのか?これは、構造生物学者にとって古典的な問題です。」と、今回の研究の主導者であるステファン・キューサック博士は語る。「我々は特にRIG-Iについての答えを探すのに興味がありました。なぜなら、RIG-Iはインフルエンザ、麻疹、C型肝炎といったほぼ全てのRNAウィルスをターゲットにするからです。」RIG-Iはウィルス感染への反応として、ウィルス遺伝物質であるウィルスRNAを認識し、抗ウィルス分子インターフェロンを生成するように細胞を刺激する。インターフェロンが分泌され、周囲の細胞に取り込まれ、感染と戦うための数百の遺伝子を活性化する。RIG-Iが細胞自身のRNAで

Virginia Commonwealth University (VCU) Massey Cancer Centerの科学者チームによれば、これまでと違った新しいアプローチの免疫療法が臨床前の研究室段階で、転移性がんワクチンのように作用する見通しがつかめた。最近行われたその研究によると、療法は転移性がんの治療に適していると同時に既存のがん治療と並行して用いることができ、新しく転移した腫瘍の進行を防ぎ、特定の免疫系細胞を「訓練」してがんの再発に備えさせることができる。   論文雑誌「Cancer Research」の2013年1月18日付オンライン版に掲載されたこの研究論文では、筆頭著者のXiang-Yang Wang, Ph.D.が、動物の皮膚がん、前立腺がん、大腸腫瘍の細胞モデルに対する科学的処理を経た分子の影響を詳述している。 この分子はFlagrp-170と呼ばれる物質で、グルコース制御性タンパク質170 (Grp170) 2個で成り立っている。このGrp170は、「分子シャペロン」と呼ばれる「危険信号」の役割を果たす物質で、バクテリアの鞭毛を構成しているフラジェリンというタンパク質から作られる。研究チームは自己複製ができないよう改変されたウイルス、またはアデノウイルスを用い、Flagrp-170を直接腫瘍部位に運ばせ、局部的に免疫反応を生じさせる。この全く新しい治療法では免疫が有効に作用し、動物モデルではかなり生存期間が延びた。Harrison Scholar 研究員、VCU Massey Cancer CenterのCancer Molecular Genetics 研究プログラム・メンバー、VCU School of Medicine のHuman and Molecular Genetics 准教授を務めるDr. Wangは、「抗がん性の免疫を強化する

細胞膜の規則正しい構造がどのようにできるのかということについて、新しい仮説が注目されている。ドイツ連邦ポツダム市にあるMax Planck Institute of Colloids and Interfacesの科学者チームが、糖脂質と呼ばれる糖と脂質の複合体が、細胞膜においてどのようにしてそれ自体でラフト、つまり非常に規則的な微小な領域を持った構造物を形成することができるのかという謎を説明する仮説を提出している。植物や動物の細胞膜表面の糖脂質配列は様々な細胞プロセスを制御しているが、このプロセスにエラーが発生すると、発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) や牛海綿状脳症 (BSE) などの疾患が起きる。   この研究論文は、2012年12月14日付「Angewandte Chemie International Edition」初出掲載。脂質、つまり、脂肪や脂肪に似た物質は、人体のあらゆるところにできる。脂質は身体の中でもっとも重要なエネルギー貯蔵源であると同時に細胞膜の形成に不可欠な構造材料でもある。複合糖質と脂肪から合成される化合物は糖脂質と呼ばれ、人体のすべての細胞膜に含まれる重要な情報伝達物質で、細胞のタイプや状態を常に情報交換している。様々な新陳代謝プロセスは糖脂質とそれの認識に依存している。免疫系も、病原体を判定し、これと戦う際には、病原体細胞表面の特定糖構造を手がかりにしている。 グリコシルフォスファチジルイノシトール (GPIs) は天然糖脂質の一種で、植物や動物の細胞膜の表面にあり、遊離分子として或いはタンパク質のアンカーとして細胞膜表面に存在している。細胞膜中の糖脂質クラスターは、その配列や偏在性、そして、部分的には非常に規則正しい微小な領域を形成しようとする傾向は、細胞が効率的に機能するために重要な特性と考えられている。このような微小なクラス

加齢とともに身体的な影響が顕著になってくる。皮膚にはしわが増え、身体的な力を出すことが難しくなってくる。同時に眼につかない変化も進んでおり、たとえば、脳も加齢するにつれてそれまでとは異なる現象が進行し、それが加齢関連脳障害を引き起こす可能性もある。学術論文誌「Nature Neuroscience」の2013年4月7日付オンライン版に掲載された研究論文で、Cold Spring Harbor Laboratory (CSHL) のJoshua Dubnau 准教授と研究チームは、ショウジョウバエが加齢するにつれて、脳内のトランスポゾン、別名 「ジャンピング遺伝子」 の数が増え、また活動も盛んになることを突き止めた。 トランスポゾンは、1940年代のCSHLで、後にノーベル賞を受賞することになるBarbara McClintock教授がトウモロコシを対象に研究していた時に発見した物質で、トランスポゾンは一般的にはDNA塩基配列の反復であり、動物や植物のDNAの中に自分自身を挿入する能力がある。「ジャンピング遺伝子」という別名は、このトランスポゾンが活性化されると元の位置から離れてゲノムの他の位置に入り込む、つまり移動できるという性質に由来する。また、移動するとそこで異なる遺伝子機能を発揮するか、あるいは生殖細胞系の場合には特にあてはまることだが、致命的な破壊的結果になる可能性もあると推測されている。ショウジョウバエの寿命は日数で数えることになっており、平均寿命は40日から50日程度である。このショウジョウバエを観察すれば、加齢、記憶などの脳機能の遺伝的現象を調べることができる。Dr. Dubnauのチームの研究で、Ago2 (アーゴノート2) と呼ばれるタンパク質の活動を阻害すると長期記憶も阻害されるという現象が観察され、それがDr. Dubnauの興味をひいた。その現象は

ガレクチン-3として知られているタンパク質によって、心不全のリスクが高い人を識別することが可能であることが、国立衛生研究所に所属する国立心肺血液研究所(NHLBI)の研究で判明した。本研究は、1948年に開始し、心臓病の危険因子についての研究で中心的な役割を担うNHLBIのフラミンガム心臓研究基金のグラントによって実施されたものである。本研究は2012年8月29日付けのJournal of the American College of Cardiology誌にオンライン掲載され、さらに2012年10月2日付けの同誌にも出版される。   心不全とは、身体のニーズを満たすために十分な血液で心臓を満たせない、または十分な血液をポンプすることが不可能な状態を言う。最近ではガレクチン-3が心臓線維症(心筋が瘢痕組織に置き換えられてしまう状態)と関連付けられており、心臓線維症は心不全の発症において重要な役割を果たしている。 心不全は死亡または生涯における障害のリスクを伴うが、心不全が起きる前にはいくつかの兆候が見られる。血中のガレクチン-3のレベルを測定することでリスクの高い個人を特定することが可能になり、心不全およびそれに伴う死を防ぐための治療を提供することも出来る。心不全を起こしやすい個人を早期発見し、心不全発症のずっと前に治療を開始可能にすることで、心不全リスクの高い個人でもより長く、よりアクティブな生活を送ることが出来る。1996年から1998年の間に、ルーチン検査の一環として、フラミンガム心臓研究の子コホート3,353人を対象として、ガレクチン-3レベルが測定された。測定時の参加者の平均年齢は59歳であった。平均11年間のフォローアップの間に、166人の参加者(5.1%)に最初の心不全が起こった。最高ガレクチン-3レベル(15.4―52.1ng/mL)を持つ参加者の2

遺伝における分子的基盤となる染色体は、1882年にウォルター・フレミング博士に発見されて以来130年、謎に包まれたものである。今回、キュリー研究所のエジス・ハード博士(Ph.D.)およびマサチューセッツ大学医学学校(UMMS)のジョブ・デッカー博士(Ph.D.)率いる研究チームが行った研究は、染色体における新しい層を発見した。本研究は2012年4月11日付けのNature誌に掲載された。   研究チームは、染色体が幾数もの隣接した糸状にフォールドし、発達中は互いに協調的に働くことを示した。これらの糸は様々な遺伝子や調節エレメントを含む。染色体とは比較的大きな分子であり、広げてみれば人間の腕ほどの長さにもなる。しかし染色体はこのような大きさにも関わらず、数マイクロメートルでしかない細胞核に問題なく仕舞われているのである。さらに、各細胞核内には複数の染色体が存在する。例えばヒトでは23対の染色体が存在するのである。これら全てを小さな空間に仕舞い込むため、染色体はコンパクトにフォールドされ、核の3次元空間に混ぜ込まれている。それならば、染色体が核を埋める様はスパゲッティが皿を埋める様と同じなのだろうか?「そういうことでは無いのです。」と、ハード博士(キュリー研究所遺伝発達生物学研究室室長)の研究チームのエルフェージ・ノーラ氏(Ph.D.)は述べる。「染色体のフォールディングはあるパターンに基づいていて、このパターンこそが染色体の機能を保持するために重要なのです。」と、ノーラ氏は説明する。 「各遺伝子のDNAがヌクレオソームに巻かれて、糸上に連なったビーズのような仕組みを形成していることは、何10年も前から知っていました。我々の研究は、この“糸上に連なったビーズ”がその後“紐上の綯”のようにフォールドし、各綯が遺伝子グループであることを示したのです。染色体におけるこのようなド

英国がん研究所と世界の共同研究機関の発表によれば、がんの遺伝子的特徴を基にして、乳がんの種類を10通りに再分類し、画期的な乳がんの診断と治療につながる可能性が明らかになった。医師が乳がん患者の遺伝子サブタイプに拠って、その余命をより正確に予測し、個々の患者に応じたテーラーメイド治療を行なう事が、出来るようになる日も近い。この研究成果は2012年4月18日付けのネイチャー誌オンライン版に掲載されたが、乳がん研究では世界最大規模の遺伝子研究が成され、何十年にも及ぶ研究が実を結んだものである。   ケンブリッジ研究所の英国がん研究所のチームは、カナダ・バンクーバーのブリティッシュ・コロンビアがん研究機構(BC)及び、世界の複数の機関と共同研究を組み、5年から10年前に乳がんであると確定診断を受けた患者から採取した、2,000検体の腫瘍サンプルのDNAとRNAを解析した。研究チームは余命の長さに応じて、乳がんを少なくとも10種のサブタイプに分類した。この新たな分類によって、乳がん患者は分類に応じた治療を受けることになる。研究チームは、疾患の進展に関与する新たな乳がん遺伝子も幾つか発見している。これらの遺伝子はいずれも、乳がんの新しい治療薬の標的と成り得るのだ。この情報は世界の研究者に、新たな医薬品の探索と開発を後押しするものだ。 この研究によって明らかになった事は、これらの遺伝子と既知の細胞シグナル・パスウエイとの関連で、細胞の成育と分化に関与する。遺伝子の誤動作を起因とし、細胞分化プロセスの重要な過程が傷害されることによって、ガンが発症するメカニズムが特定されるのである。共同著者で、ケンブリッジ研究所英国がん研究所とケンブリッジ大学腫瘍学部の上級研究主幹である、キャロル・カルダス教授は、「この研究によって、臨床医は将来、乳がんのタイプを診断し、適切な医薬品を処方し、現在より

ヒトゲノムプロジェクトによって、DNAに含まれる30億対にも上る、ヒトの遺伝子をコードする塩基対のシーケンスがほぼ完了したが、それらがどのように働くのかは未だ謎が多い。ようやく現在、世界32ラボ440人の研究者による弛まぬ努力の結果、より詳しい動力学的な様相が判明してきた事により、ヒトゲノムが実際にどのように働いているのかの全体像が見えてきたのだ。   この新規的研究において、ヒトゲノム配列の80%以上が、特定の生物学的な機能と関連付けられ、タンパクがDNAと相互作用を持つ制御領域の400万か所以上のマッピングが完成した。これらの発見によって、細胞内の遺伝子情報の発現を、正確に木目細かく制御するシステムを理解することに、著しい進展が成されたと言える。この発見は、継続的に活性を呈する遺伝子に焦点を当てる事になったが、その活性は通常はタンパクが制御領域にアクセスして遺伝子をオン・オフしているのだが、時にはそのタンパクはその遺伝子領域から随分離れた個所に位置することもある。更に研究チームは、DNAの化学修飾の箇所を同定したが、その修飾によって遺伝子の発現は影響を受け、DNAの状態に関連してRNAの形態が様々に変化することによって、全体のシステムが制御されているのだ。 「ヒトゲノムプロジェクト初期の議論では、ゲノムの内ほんの数パーセントだけが細胞の働きを司るタンパクをコードし、それ以外はジャンクであると予測していました。現在では、その予測は間違いであったことが判っています。ENCODEのおかげで、遺伝情報を生細胞や生命体に転換させるのに必要な生体分子の振る舞いに、ほとんどのヒトゲノムが関与している事が判ったのです。」とNIHに所属する国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の所長を務めるエリック・D・グリーン博士(M.D.)は語る。NHGRIは「Encyclopedia of DN

バルセロナ自治大学(UAB; Universitat Autònoma de Barcelona)の研究者が、多発性硬化症のモデル動物ではバイアグラ®で症状が劇的に軽減することを発見した。Acta Neuropathologicaに発表されたこの研究成果には、処置8日後に実験に供したモデル動物の50%でほとんど完全に回復したことを示した。研究者達いわく、本医薬品に対して十分な耐性があり、しかも一部の多発性硬化症患者において性的機能不全症の治療に使用した経験があれば、すぐに患者に臨床試験を行えるであろうと考えている。   多発性硬化症は、(欧米の場合)中枢神経系疾患のなかで最も多い慢性炎症性疾患であり、ヤングアダルト(若年成人)の障害の主要原因の1つに挙げられる。これは、中枢神経系の様々な部位でおきる脱髄(軸索周囲のミエリン鞘が喪失し、ニューロンのコミュニケーション能力に影響を及ぼす)による硬化と神経変性が原因である。今のところ、この病気に対する有効な治療法はない。ただし一部の医薬品は症状と戦い、進行予防に有効であることが証明されている。 Dr. Agustina García氏が率いるUABのバイオテクノロジー・バイオ医療研究所(UAB Institute of Biotechnology and Biomedicine)の研究チームは、Dr. Juan Hidalgo氏が率いるUAB神経科学研究所(UAB Institute of Neurosciences)と共同で研究を行った。そこで実験性自己免疫性脳脊髄炎(EAE)として知られている発性硬化症の実験動物に対して、バイアグラ®として販売されているシルデナフィルを(sildenafil)使用し、その治療効果を調べた。研究者達によると、発症後シルデナフィルで処置したところ、臨床的症状が急激に改善され、8日後には50%

膵臓がんの原因となる複雑な潜在的突然変異の過程を突き止める大規模な研究が、100人を超える膵臓がん患者を対象にして実施され、2012年10月24日付Nature誌に発表された。この研究は、国際がんゲノムコンソーシアム (ICGC) に参加しているオーストラリアの研究者の初論文であり、ICGCは、がんタイプ50種のそれぞれの遺伝的要因を突き止めるために、世界のトップクラスの科学者が協力して研究することを目的としている。膵臓がんは主要がんタイプの中でももっとも死亡率が高く、しかも、過去40年間に生存率がほとんど向上していないがんはこの膵臓がんを含めてごくわずかしかない。   また、がん死の原因としても4番目に多い病気である。 クイーンズランド大学分子生物科学研究所 (IMB) のショーン・グリモンド教授と、ニューサウスウェールズ州シドニーのガーバン医学研究所/セント・ビンセント病院キングホーンがんセンターのアンドリュー・ビアンキン教授が100人を超える研究者の国際チームを率い、100人を超える膵臓腫瘍患者のゲノム配列の解析を行い、それを正常な組織と比較することで、がんを引き起こす遺伝子の変化を突き止める研究を進めてきた。グリモンド教授は、「これまでに2,000を超える遺伝子の突然変異を発見した。KRAS遺伝子では検体の90%にこの遺伝子の変異があったし、腫瘍の1%から2%程度でしか見つからない遺伝子変異は何百種類もあった」と述べている。さらに、「従って、腫瘍はいずれも顕微鏡で見れば同じように見えるが、遺伝子解析すれば、腫瘍も患者の数と同じくらいの違いがあることが明らかになる。つまり、いわゆる『膵臓がん』も単一の病気ではなく、数多くの病気の総称であり、同じがんにかかっているように見える患者もそれぞれ違った治療法が必要なのではないかと考えられる」と述べている。ビアンキン教授は

新しい研究で、肺組織の分節化が正しく行われるために1個の小さなRNAが重要な役割を担っていることが突き止められた。この研究はニワトリの胚で行われ、この小さなRNAが、筋肉や脊椎になる組織分節形成のタイミングを決める周期的遺伝子活動を規則正しく調節していると判定された。つまり、この活動に加わっている遺伝子は各組織分節形成の動きに対応する拍動的パターンでオン・オフされていたのだ。   もし遺伝子の活動が厳密に規則正しく調節されなければ、まったく組織が形成されないか、形成されても欠陥があるということになる。この分節「時計」にはLfngと呼ばれる遺伝子一個が関わっていると考えられているが、この研究で、タンパク質生成に何の役割も果たしていない小さなRNAのかけらであるmicroRNAが、拍動的パターンの正確なタイミングでLfngをオン・オフすることが実証された。このmicroRNAを削除するか、手を加えて正常に機能しないようにすると遺伝子時計の拍動的パターンが狂い組織発達が異常になった。 The Ohio State University の分子遺伝子学准教授で、この研究報告の著者、Susan Cole博士は、「1個のmicroRNAとその対象の間でたった一つの相互作用しかみられないのに、それがこれほど重要な働きをしていることが、microRNAの機能を阻害してみて初めて明らかになった。胚成長段階でたった1個のmicroRNASの動きを阻害するだけでこれほど大きな影響が現れるという例は他にはほとんど見られない。このmicroRNAの場合には、タイミング調節がかなり厳密であり、非常に重要であることが明らかになったが、これはニワトリの胚に限ったことではないと考えられる。なぜなら、Lfngが生成するRNAセグメントのmicroRNAが接着する位置は、ニワトリに限らず、ヒト、マウス、ゼ

JDRFからグラントを受けたオレゴン保健科学大学(OHSU)とレガシー・ヘルス(オレゴン州の病院連合)の研究チームが、液状グルカゴン製剤が標準的な糖尿病ポンプで使用できる事を明らかにした。インシュリン治療を受けている1型糖尿病(T1D)患者の低血糖症を予防するために、この製剤はグルカゴンの幅広い利用の道を広げるものだ。   これは次世代の人工膵臓機能への道をも開く成果であり、インシュリンによってのみ血糖値の最適化を行なう方法を凌駕するものである。「私達は前回の研究において、少量のグルカゴンの注射によって、低血糖症が予防できる事を実証しました。この低血糖症は1型糖尿病では頻繁に起こる重篤な合併症で、発作を起こしたり意識不明に陥ったり、死亡する事もあるのです。」とOHSU医学部の内分泌学、糖尿病、臨床栄養学の准教で、レガシー・ヘルスの上級研究員であるW・ケネス・ワード,M.D.,は説明する。オレゴン州ポートランドにある、この2つの組織が本研究を共同で執り行っている。 研究成果は米国糖尿病協会(ADA)第72回大会(2012年6月)6月8日(金)と6月10日(日)の科学研究セッションにて発表された。ワード博士は、「現行のグルカゴン製剤では、携帯用ポンプで長期間使用できません。ですから、人工膵臓機能の一部として利用することは出来ませんでした。FDAの認可を得るには多くの動物実験や臨床試験が必要ではありますが、私達は、塩基性グルカゴンは長期間に渡って液状の性状を維持する事を発見しました。これは、2ホルモン依存型糖尿病ポンプとして、より進んだ治療法を確立できるものなのです。」と語る。この研究は、T1D患者に毎日グルカゴンを投与する方法の確立と、それに次いで、”マルチホルモン対応+完全自動”の閉ループ型人工膵臓システムの開発のキーとなるのだ。この次世代型人工膵臓システムでは、インシ

ニューヨーク・ワイルコーネル医科大学の研究員二人がマウスの網膜の神経コードを解読し、その情報を元に盲目のマウスの視力を回復する新たな人工器具を開発した。研究者達はまた、サルの網膜――ヒトの網膜と基本的に同一である――のコードも解読し事を明らかにし、それにより盲目者用の器具も開発し、テストする予定である。   2012年8月13日付けのPNAS誌に掲載された本研究は、視力回復において著しい進歩である。現在の補助器は盲目のユーザーをナビゲートするために、光のスポットとエッジを提供するのに対し、この新しい補助器は通常の視力を回復するためのコードを提供するのである。このコードは非常に正確で、顔の特徴を識別し、動物が動画像を追跡することが可能になる。主任研究員のシェイラ・ニーレンバーグ博士(計算神経科学者)は、盲目者がスタートレックに出てくる様なバイザーを装着することが可能になる日を目指している。バイザーのカメラが光をキャッチし、これを内蔵されているコンピューターチップがコードに書き換え、脳がそれを画像に変えるのである。 「我々は盲目のマウス網膜の視力を回復することに成功し、ヒトでもこれが可能になるよう最大限の努力をしています。これはとてもエキサイティングな事ではないですか。」と、ワイルコーネル大学生理学・生物物理学科および計算生医学研究所の教授を努めるニーレンバーグ博士は語る。本研究の共同著者であるチェタン・パンダリナス博士はニーレンバーグ博士の同期で、現在はスタンフォード大学のポスドク研究員として研究を続けている。今回の新たなアプローチは、世界中の網膜疾患による失明で苦しんでいる25万人に新たな希望を提供するものである。薬物療法はこれらの人々のごく一部しか助けられないため、将来の視覚のためには補助器が最良の選択肢である。「これはコードが組み込まれているため、通常または通常に

1998年に東南アジアの豚や養豚農家の間で感染し大流行したニパウィルスに対するワクチンが、サルによる前臨床テストまで開発が進んでいる。この開発は、同じワクチンで猫をニパウィルスから、そして馬やフェレットを近種のヘンドラウィルスから守る事が出来る事を発見した研究チームによって進められている。   本研究は2012年8月8日付けのScience Translational Medicine誌に掲載された。ニパウィルスは75%、そしてヘンドラウィルスは60%と、両ウィルスとも高い死亡率を持っている。これらのウィルスによる感染は、肺と脳をターゲットにし、過去10年間で定期的に大流行している。ニパウィルスの流行はマレーシア、シンガポール、バングラデシュ、そしてインドで発生している。ヘンドラ感染は1994年、オーストラリアにおいて馬やヒトに流行した限りで、他では見られていない。 オオコウモリと呼ばれる特定のフルーツコウモリがウィルスを広める。これまでの所、唯一人から人へと感染することが判明しているのはニパウィルスだけである。研究チームは、ヘンドラウィルスの表面タンパク質であるG糖タンパクに着目して今回のワクチンを開発した。このG糖タンパクは、保護宿主免疫応答を誘発する既知のタンパク質である。本研究では、ニパウィルス病のアフリカミドリザルモデルを使用し、3つの異なる投与量をアジュバントと組み合わせたテストが行なわれた。ワクチン接種した9体の動物は全て、最初のワクチン接種から42日後に与えられた致死量のニパウィルスチャレンジテストから生還した。本ワクチンは、軍人保健科学大学(USU)のクリストファー・ブローダー(Ph.D.)と同大学卒業生で現在はポストン大学院生のキャサリン・ポッサート(Ph.D.)によって開発された。アフリカミドリザルにおける研究は、ロッキーマウンテン研究所および国

ドイツ・ライプチヒにあるマックスプランク進化人類学研究所のスヴァンテ・ペーボ博士に率られる研究チームが、デニソバ人のゲノム変異の解析を行い、それが極めて低いことを明らかにした。これは即ち、デニソバ人が今ではアジア全体に広く分布しているにしても、昔はそれほど人口が多くなかった事を示唆している。更には、ゲノムの総目録から明らかなのは、遺伝子の変異は古代の祖先の時代ではなく現代人の世代に見受けられる事である。これらの変異の状況から推察されることは、それが脳機能や神経システムの発達に関係しているのではないかという事である。   2010年にペーボ博士と研究チームは、南シベリアのデニソバ洞窟から発見された指骨の欠片からDNAを単離して解析した。それは、それまで知られていなかった古代人の若い女性の骨である事が解り、「デニソバ人」と名付けられた。DNAの2重螺旋を容易に解く技術が開発されたおかげで、それぞれの2本をシーケンス解析に使用し、デニソバ人のゲノムを全箇所に渡って30回以上繰返しシーケンシングする事が出来た。これによって、解析されたゲノムシーケンスの正確さは、現代人のゲノムを解析する場合の精度と同等の品質のものが得られた。 サイエンス誌2012年8月30日付けオンライン版に発表された最新の研究では、ペーボ博士と研究チームは、デニソバ人のゲノムを、ネアンデルタール人及び世界各地から得た現代人11人のゲノムと比較検討した。その結果、前報にあるように、現在東南アジアの島々に住む人たちとデニソバ人のゲノムがどのように混合されたのかが再確認された。また、ヨーロッパ人と比較して、東アジアや南アメリカに住む人たちの方が、ネアンデルタール人のゲノムを若干多く含んでいることも明らかにされた。「東アジア地域で観察されるゲノムが、デニソバ人よりネアンデルタール人により近いという事は、古代のネアン

Massachusetts General Hospital (MGH) の研究チームががん診断のために開発した手持ちサイズの診断装置が、ヒト型結核菌 (TB) その他の主要感染細菌による感染の即時診断に利用されるようになった。「Nature Communications」と「Nature Nanotechnology」の2誌に掲載された2件の研究論文は、マイクロ流体技術と核磁気共鳴法 (NMR) を組み合わせた携帯装置は、このような重大な感染を診断するだけでなく、耐性菌株の存在まで判定することができると述べている。   この2件の論文の共同首席著者の一人でMGH Center for Systems Biology (CSB) 所長を務めるRalph Weissleder, M.D., Ph.D.は、「迅速に感染の病原菌を突き止めると同時に耐性菌の存在を見極めることは、病気の診断だけでなく患者に投与する抗生物質を選ぶ上でも重要なことだ。この論文で述べている方法では、この2つのテストが2時間ないし3時間で完了する。従来の標準的な病原菌培養検査では診断するまでに2週間程度はかかっていたから大きな進歩と言える」と述べている。 これ以前に、MCH CSBの研究者は、患者の血液や微細な組織サンプルでがんバイオマーカーを検出することのできる携帯装置を開発していた。この装置は、ターゲットとなる細胞や分子をまず磁気ナノ微粒子でラベル付けした上で、ターゲットのレベルを検出・定量化するマイクロNMRシステムを通して測定するという手順を取っている。ところが、当初はこの装置で特定の細菌を正確に検出するために抗体を検出するという方法を取ったところ、肝心の抗体を見つけることができなかったため、研究チームは特定の核酸配列をターゲットとする方法に切り替えた。2013年4月23日付でオンライン版「N

アフリカ東部の砂漠地域に生息するハダカデバネズミは興味深い身体的特徴を有しており、それによって厳しい自然環境の中を長年に渡り生き抜いてきた。皮膚に痛覚を持たず新陳代謝率が低い為、酸素供給量が少ない地下で生息する事が出来る。英国ノーウイックのリバプール大学とゲノム解析センター(TGAC) の科学者グループが最初にハダカデバネズミの遺伝子情報を解析し、長寿と老化疾患へ耐性を有する理由を検討した。   彼らは遺伝子情報を調べる事によって、老化の原因から防護する機構、例えばDNAの修復機能や老化耐性に関わる遺伝子を明らかにしようとした。今日までハダカデバネズミにはガンが発見されていない。最近の研究では他のげっ歯類やヒトには観察されない抗腫瘍機能を細胞自体が有している事が分ってきている。リバプールの研究者グループは遺伝子データを解析して、保健科学分野におけるヒトの老化やガンの研究に応用できるようにしている。 リバプール大学総合生物学部のジョアン・ペドロ・マジェラス博士は「ハダカデバネズミは長年研究者を魅了してきたが、それが大変長命である事は数年前に私達が発見しました。通常の寿命がせいぜい4年であるマウスより若干大きなこの地下に生息するげっ歯類は、30年間健康に生きるのです。私達が老化の機構を研究するにあたって学ぶ所の多い大変興味深い実例です。私達が目指しているのはハダカデバネズミの遺伝子を解析して、疾患、とくにガンに対してどの水準の耐性を有するのかを調べ、そしてある種の動物や人間が何故他の動物に比べて病気になりやすいのかを明らかにする事です。この研究によってハダカデバネズミを慢性老人病に対する最初の耐性モデルとして確立したい」と語る。TGACのバイオインフォマティックス部門長のマリオ・カッカーノ博士は「ハダカデバネズミの遺伝子解析には最新の技術を採用しました。その優れた解析機能

ヘビースモーカーが肺がんに罹らない一方で、何故一度も煙草を吸わない人間が肺がんに罹るのだろうか?これは何十年も研究者たちを悩ませてきた課題だが、この度、セントルイスのワシントン大学医学部の研究で明らかになったのは、肺がんの感受性を決定する重要な免疫細胞があるという事だ。マウス実験により、腫瘍細胞を探し出して駆逐するナチュラルキラー細胞が、遺伝子の多様性を有しており、マウスに肺がんを発生させるか否かのカギとなっている事が実証された。この研究結果はCancer Research誌の2012年9月1日号に掲載された。   「一般論としては、人間は遺伝的には極めて同一性が高いのですが、その免疫システムには大きな多様性があります。「生来の免疫応答の違いが風邪だけではなく、がんにも感受性の違いを与えるという証拠がどんどん出てきていますが、私たちの発見はそれに拍車をかけるものです。」とBarnes-Jewish病院のサイトマンがんセンターとワシントン大学医学部で胸部外科の医師で、本研究の上級著者であるアレクサンダー・クルプニック博士は語る。 マウス実験の結果を踏まえて、クルプニック博士と研究チームは、人間もナチュラルキラー細胞に同様の遺伝子多様性があるかどうかを研究している。新しい臨床研究として、ヘビースモーカーで肺がんを発症しているケースとしていないケースと、ノンスモーカーで肺がんを発症しているケースとしていないケースとの違いを比較するために、血液分析を行なっている。「私たちが知りたいのは、ヘビースモーカーで肺がんを発症しないのは、ナチュラルキラー細胞の活性が高く、新たに生成されるがん細胞を破壊するのに優れているのかどうかなのです。そして、ノンスモーカーなのに肺がんを発症するのはナチュラルキラー細胞の活性が低いからなのかを比較検討しようと考えています。」と外科部の准教クルプニック

ヒトおよび他の哺乳類における胚発生時には、精子と卵子のエピジェネティックマークと呼ばれるDNAの化学修復がきれいに拭き取られる。これらはその後、受精を待つために予備として置いておかれるのだ。このシナリオは顕花植物では全く異なる。胚細胞など胚生期後にしか現れず、数年後になることもある。   現れた後も、エピジェネティックマークの一部しか拭き取られない;一部残ったものは前世代から引き継がれたものであるーどの程度か、ということは今に至るまであまり知られていなかった。 「我々が分かっていたことは、後成的な遺伝―親DNAに存在し、遺伝子発現を修飾する化学“タグ”を子孫が継承する遺伝―が動物よりも植物においてはるかに多く存在するということでした。」と、コールド・スプリング・ハーバー研究所(CSHL)の教授およびHHMI-GBMF調査官のロブ・マーティエンセン博士(Ph.D.)は語る。2012年9月20日付けのCell誌(オンライン)に掲載された研究記事においてマーティエンセン博士と研究チームは、これらのエピジェネティック・メカニズムを介するゲノム再プログラミングが低分子RNAによって誘導され、次の世代に受け継がれていることを証明した。 植物では男性生殖系列花粉粒の発達に伴い2つの精子細胞が発生し、栄養核と呼ばれる構造が出来上がる。栄養核は精子細胞にエネルギーおよび栄養分を配達することから、“ナース細胞”とも呼ばれている。胚細胞内のDNAは2つの全く異なる状態で存在することが可能であり、1つではDNAが非常に密集しており、個々の遺伝子の“発現”を可能にする細胞機関によるアクセスが不可能な状態である。もう一つの状態ではDNAがそれほど密集していないため、遺伝子発現が可能である。後者の状態では遺伝子物質がアクセス可能であるため、様々な化学基(一般的なのはメチルおよびアセチルの2つ)に

朝、目覚まし時計のけたたましい音が無くても目が覚める事について、不思議に思ったことはあるだろうか?ソーク生物学研究所の研究者達が、この疑問を解決するカギとなる生物時計の新しい構成要素を同定した。この要素とは、生物時計を静止状態からスタートする役目を果たす遺伝子である。体内時計は、体が起きるための合図である重要な生理機能を誘導し、毎朝早くから私たちの代謝を高めている。この新しい遺伝子の発見と、この遺伝子が生物時計をスタートさせるメカニズムを解明することによって、不眠や老化、また、癌や糖尿病などの慢性疾患の遺伝的基盤を説明することが可能になるであろう。   「体とはつまり時計の集まりなのです」と、ソーク寄生生物学研究所の准教授であるパンダ・サチンダナンダ博士は言う。パンダ博士はポスドク研究員であるディタッチオ・ルシアーノ博士とともに今回の実験を行った。 「私たちは、夜間に体内時計を緩めるメカニズムは知っていましたが、朝にメカニズムを活性化させるものが何なのかが分かりませんでした。これを発見した今、加齢や慢性疾患につき体内時計が誤作動する方法をより深く研究することが出来ます。」と博士は語る。サイエンス誌に2011年9月30日付けで発表されたオンライン記事によると、ソーク研究者達とその共同研究者であるアギル大学とアルバート・アインシュタイン医学大学の研究者達は、KDM5A遺伝子がJARID1aタンパク質をコード化する方法を説明している。このJARID1aタンパク質は生化学的な回路の活性化スイッチの役目を果たし、私たちの概日リズムを維持する。今回の発見は、これまで空白だったウェイク睡眠サイクルをコントロールする分子メカニズムの関係性を埋める。体内時計の中心的プレーヤーはPERIOD (PER)とよばれるタンパク質である。それぞれの細胞のPERタンパク質の数は、24時間ごとに上昇

プリンストン大学の研究チームが、酵母菌において、抗うつ剤ゾロフトに依拠する自己分解反応を確認した事により、抗うつ剤の作用機序のみならず、うつ病は神経伝達物質のセロトニンのみが関与しているのではないのではないかという、これまで長く続いてきた研究者間の議論に、決着が付きそうな様相を呈してきた。2012年4月18日付けPLoS ONE誌のオンライン版に発表された論文によると、プリンストン大学ルイス・シグラー総合ゲノム研究所の研究員であり分子生物学の講師であるエタン・パールステイン博士の研究チームが、抗うつ剤のセルトラリン(商品名ゾロフト)は、パン酵母菌の細胞内膜に蓄積する事を、報告している。   この蓄積が進めば、小胞膜内に腫れと湾曲を引き起こし、泡状の細胞構造となり、細胞代謝と遊走、およびエネルギー蓄積が進む。次いで、小胞は自食作用を起こし、過剰な或いは障害された細胞膜の再利用を行なう防御反応が見られる。 しかし酵母菌は、抗うつ剤の第一の標的であるセロトニンを持っていないとパールステイン博士は語る。薬剤の通常の標的を有しない生物が起こす、セルトニンに対する反応を観察することで、パールステイン博士と共同著者とのチームは、抗うつ剤がセロトニンのコントロールを超えた薬理学的な活性を有する明らかな証拠を発見した。パールステイン博士は、ジンキー・チェン博士とダニエル・コロスティシェフスキー氏とシーン・リー博士の3人を、共同第一著者として、共同研究を遂行した。抗うつ剤がセロトニンをコントロールする事は知られているが、うつ病の治療に使用するにしても、脳細胞とどのような相互作用を持ち、どのような効果を有するのかは、実はよく判っていないのだと、パールステイン博士は言う。抗うつ剤がヒトの細胞膜にも蓄積する事が報告されているが、害は無いとの事だ。しかし、膜の湾曲はうつ病の治療には非常に重要であ

変異がん遺伝子の発現によって、主要な代謝パスウエイの「送電線」が継続的に確保されなければ、進行性膵臓がんは増殖を続けられないことを、ダナ・ファーバーがん研究所の研究チームが明らかにした。 2012年4月27日付けのセル誌に発表された論文によれば、この代謝パスウエイを標的にすれば、致死性の高い膵臓がんの新たな治療法の開発に繋がるという。マウスのKrasがん遺伝子を操作し発現を止めた場合、膵臓がんは即座に縮小し、腫瘍が目視できないくらい小さくなったケースも見受けられた。   進行性膵臓がんは増殖を続けるために、Krasがん遺伝子に「依存しきっている」ことの実証となると、研究チームは説明している。「この研究で明らかになったことは、進行性膵臓がんは生来、Krasがん遺伝子の継続的な発現に依存して、自らの増殖機構のメンテナンスを行なっているということです。」と、ロナルド・デピーニョM.D.,と共同責任著者であり、元ダナ・ファーバーがん研究所で現在ホーストンのM.D.アンダーソンがん研究所に所属するアレック・キンメルマンM.D.,pH.D.,は語る。キンメルマン博士は、Krasがん遺伝子が、「基本的には、主要な代謝酵素の発現を制御することで、細胞のグルコース代謝を再構築する機能を有しているので、そのうちの幾つかは新規的な治療標的となる」ことも明らかにした。 もしこのアイデアが正しくこれらのパスウエイを標的とすることが出来れば、現在一般的なKRASのブロック剤を開発する方針よりも遥かに優れた戦略となる。それは、KRASを合成医薬品で確実に叩くことは極めて困難だからである。アメリカがん協会によると、2012年のアメリカにおける新たな膵管腺がん患者数は43,000人を超え、そのうち37,300人が亡くなると予測されている。5年生存率が僅か5%しかないのである。Krasがん遺伝子が、膵臓

肺ガンの最も一般的な形成とその致命的な転移を促進する単一の遺伝子が、フロリダ州メイヨークリニック研究チームのマウスモデルによって発見された。マトリックスメタロ-10(MMP-10)と呼ばれるこの遺伝子は、他形態のガンも促進していると研究チームは考える。2012年4月24日付けのPLoS ONE誌に掲載された本研究は、MMP-10が癌幹細胞によって分泌され、生命維持のために使用される増殖因子であることを示している。   これらの細胞はその後肺ガンとその転移を引き起こすのだが、従来の治療には耐性を持つのである。本研究は、米国のガン死亡数トップの非小細胞肺ガンについて、その治療法の開発の可能性を高めるものである。MMP-10をシャットダウンすると、肺ガン幹細胞は腫瘍形成能を失うが、遺伝子を細胞に戻せば、再び腫瘍が形成される。この遺伝子のもつ力は尋常ではない、とフロリダ州メイヨークリニック癌生物学癌研究科のアラン・フィールズ教授は述べる。「我々のデータは、MMP-10は癌において二重の役割を果たすことを立証しています。MMP-10はガン幹細胞の成長および転移能を促進するのです。ガン幹細胞が腫瘍をイニシエートするだけでなく、転移を誘発するものでもある、ということは様々な腫瘍タイプで見られてきた知見であり、本研究はこの知見を説明するのに役立つでしょう。」と、フィールズ博士は説明する。 フィールズ博士によると、本発見は予期しなかったことだという。第一に、ガン幹細胞自身がMMP-10を発現し、自身の増殖のために使用する。マトリクスメタロプロテアーゼ遺伝子ファミリーとして知られている遺伝子のほとんどは、腫瘍を取り囲む細胞や組織である微小環境で発現する。これらの遺伝子により生産された酵素は、腫瘍を保持する微小環境を壊し、ガン細胞を広げる。そのため、この系統科に属する遺伝子はガン転移とリン

複雑な神経ネットワークパターンは、ほんの一握りの重要な遺伝子によってプログラミングされている。この早期脳神経ネットワーク発生における特徴を発見したのは、ソーク研究所の研究チームである。2012年2月3日付けのセル誌に記載された本研究は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経疾患のための新しい治療法の開発、および特定のガンへの新たな研究戦略の提示となるであろう。   ソーク研究チームは運動神経の軸索の先端、および通過する細胞外液内に存在する少数のタンパク質が、神経を脊髄から導きだす役割を果たしていることを発見した。これらの分子は目標とする筋肉に結合するまでに辿る長い曲路によって、軸索を誘引または忌避することが出来る。「新進の神経は自身が生長する局所環境を検知し、どこにいるのか、そして直線または左右に生長するべきなのか、それとも停止するべきなのかを判断しなければいけません。生長神経を導く複合体は、ほんの一握りのタンパク質生成物をアレンジすることで作成されているのです。まるで馴染みの無い街中でGPSが車を誘導するのと同じような感じです。」と、本研究の責任研究者、ソーク研究所遺伝子発現研究室教授およびハワード・ヒューズ医学研究所研究員、サム・ファフ博士は説明する。 脳内の神経結合数は、脳細胞DNA内に存在する遺伝子の数の数百万倍にもなる。生長神経がどのようにして様々な情報を統合し、ターゲットまで辿り着き結合するのかを理解するよう試みたのは、本研究が初めてである。「我々は今回、筋運動をコントロールする運動神経に焦点を当てていましたが、胚発生中の神経系でも似たようなことが起こっており、数百万もの軸索がターゲットに到達するまでに膨大な数の決断を下しているのです。精巧な特異性に基づき生長することが、神経系機能の基盤となっているのです。」と、ファフ博士は語る。本知見はALS(またはルー

ベルリン・ビュッヒにあるマックス・デルブルーク分子医学センター(MDC)のイギリスチームが、世界で最も希少な哺乳類の部類に入るアフリカハダカデバネズミ(Heterocephalus glaber)が、どうして酸に曝露しても痛みを感じないかを解明した。アフリカハダカデバネズミは暗い穴倉に密集して生息し、そこでは住環境中の二酸化炭素濃度が、大変高い。体組織中では、二酸化炭素は酸に変換され、それが痛覚神経を継続的に刺激する。   しかしハダカデバネズミは例外的に、痛みの受容体類に存在するイオンチャンネルが変性しており、酸に対して不活性で、このタイプの痛みには不感症となっているのである。エバン・セント・ジョン・スミス博士とゲリー・ルーウィン教授は、この酸による痛みに対する不感症は、アフリカデバネズミの特異な住環境に順応するために、進化によって獲得した形質であると結論付けた。 本研究結果は2011年12月16日のサイエンス誌に発表された。Nav1.7ナトリウムイオンチャンネルが、痛みの刺激を脳に伝達する主要な役割を担っている。これが痛み受容体類、すなわち、センサー神経細胞に対して神経インパルス(神経伝達の電位)を誘発する。このセンサー神経細胞の片端は皮膚表面に達し、痛みの刺激を脳に伝達する。歯科医は部分麻酔薬として、ナトリウムイオンチャンネルブロッカーを使用しているが、この麻酔薬はNav1.7イオンチャンネルだけでなく、全てのナトリウムイオンチャンネルに作用する。遺伝子の変異によってNav1.7イオンチャンネルが不全である人は、痛みを感じることがないが、これは本人にとって決して良いことではない。つまり、軽い外傷や感染症に対して自覚がないので、重篤な結果を招く場合があるのだ。しかしアフリカハダカデバネズミにはそのような問題はない。彼らにとって、酸に対する痛覚が無い事は、生き延びる

新薬候補の一つであるJ147が、アルツハイマー病による精神的な衰退を止める最初の薬になるかもしれない。2011年12月14日付けでPLoS ONE誌に掲載されたこの研究では、J147をアルツハイマー病のマウスに投与した所、記憶力が改善され、疾患に由来する脳損傷を防止した。この新薬はソーク生物学研究所の研究チームによって開発され、近い将来人間の治療に使用されるだろう。「J147は正常のマウスとアルツハイマー病のマウス両方の記憶力を改善し、脳をシナプス結合の損失から守ることが出来るのです。」と、ソーク細胞生物学研究所所長であり、今回の新薬を開発したチームのデイビッド・シューベルト博士は語る。   現段階では新薬の人間への安全性と有効性は不明であるが、研究結果はアルツハイマー病を持つ人々の治療に有効である可能性が高いことを示していると、ソークの研究者達は考える。国立保健研究機構によると、米国でのアルツハイマー患者は約540万人にもなる。そして2050年には1600万人以上もの患者数に増え、医療費は年間1兆ドルを超えるとアルツハイマー協会は推計する。この疾患は、着実に不可逆的な脳機能低下を起こし、患者の記憶を消していく。患者は次第に食事や会話などの単純なタスクを実行できなくなり、最終的には死に至る。 アルツハイマーは老化と関係しており、典型的には60歳以降に発症する。それ以前に発症する遺伝的リスクを伴う家系もあるが、それは極少数である。死因のトップ10のうち、唯一、防止や治癒、または病気の進行を遅くする術がないのはアルツハイマーだけである。アルツハイマーの原因は不明確であり、遺伝や環境、そしてライフスタイルなど数々の要因が複雑にミックスした結果であると考えられている。今のところ、アリセプトやラザダイン、エクセロンなどの薬は僅かに記憶力を改善するが、疾患の進行を遅らせることは出

中国の内蒙古と深川にある、内蒙古農芸大学(IMAU)と内蒙古民族大学(IMUN)と世界最大のゲノムセンターである北京ゲノムセンター(BGI)とが共同で、モンゴリアンの全ゲノムの配列解析を完了した事を発表した。このゲノム研究は、アフリカから発祥してアジアへ広がったモンゴリアンとその子孫の進化と民族移動の解明に大きく寄与し、ヒトの遺伝性疾患の研究の為の重要な基盤となる。   中央アジア系民族グループに属するモンゴル人のほとんどは、今日では、モンゴル国と中国の内蒙古とロシアのブリアチアとに居住しており、その人口は凡そ1,000万人となっている。13世紀から14世紀の時代に遡れば、「モンゴル帝国」は世界史上で「最大の地続きの帝国」として認識され、その広さは東アジアの黄海から東ヨーロッパ諸国の国境まで達しており、チンギス・ハンとその子孫によって統治された。広大な帝国では新しい技術や日用品そして文化の交換や交流が進み、東ヨーロッパからアジアまで人々の移動や交易が発展した。ユーラシア大陸においては、モンゴル帝国が存在した期間を通して、中国、中東、ロシアも含み、モンゴル民族の移動が幅広く成された事が、研究者間では通説となっている。 モンゴリアンのゲノム研究によって、モンゴル民族が人類の進化に与えた影響を、遺伝子レベルで解析する事が出来るようになった。この研究では、モンゴル王族の血筋でチンギス・ハンから34代目の子孫である成人男性のDNAが、サンプルとして使用されている。「このサンプルが、研究において極めて重要であるのは、家系の記録が完全であり、他の民族グループとの混血が無い事です。」と、IMAUのプロジェクトリーダーで科学技術局長であるファンミン・ゾウ教授は語る。同様に、BGIの共同研究所長のイエ・イン博士は、「モンゴリアンのゲノム解析を初めて完了させたという事は、モンゴリアンのゲノ

ハイデルベルク大学病院の研究者が、マウスモデルを使用して初めて、糖代謝が異常を来す重度の先天性疾患の治療に成功した。クリスチャン・ケルナー教授率いるチームは、雌マウスが交尾前および妊娠中に飲料水と共にマンノースを与えられた場合、その子孫は先天性疾患の遺伝的変異を持っていたとしても、正常に発達することを証明した。ケルナー教授は、児童医学センターのグループリーダーでもある。   今回の発見は、この代謝疾患の分子過程や胚発生における重要の段階の理解に貢献し、初となる治療方法を提供する可能性を持つ。ハイデルベルクの研究者達はまた、ドイツ癌研究センター(DKHZ)細胞分子病理学のヘルマン・ジョセフ・グレーヌ教授との共同研究も行っている。その結果は印刷版に先駆けて、Nature Medicine誌オンライン版に2011年12月11日に発表された。 現在、稀な病気であるグリコシル化の先天性疾患(CDG)を持つ子供は、世界中で1000人存在する。CDG-Iaが最も頻繁なタイプで、約800人を占めている。しかし、報告されていない症例数も多く、CDGの子供は、重度な身体的、また精神的な障害を持ち、約20%が2歳前に死亡する。この疾患の治療法は、未だ発明されていない。CDG-Iaは、phosphomannomutase2酵素の遺伝子情報の変異によって引き起こされる。この酵素は、グリコシル化の重要なプロセスに関与していて、変異の結果、マンノースリン酸1の産生が十分ではなくなる。その結果、グリコシル化機能不全になり、通常、糖タンパク質の形状や安定性および機能に役立つ糖鎖が、不完全にタンパク本体に結合したり、場合によっては完全に結合されなくなる。オリゴ糖不足は神経や成長、また臓器の発達の障害につながる。この疾患は、乳児が母親と父親の両方から変異遺伝子を継承した場合のみ現れる。共に変異遺伝子と“正

肺癌研究に関する国際学会の公式月刊誌「The Journal of Thoracic Oncology」(2011年4月号)の中で、ダイズ中の物質が肺癌細胞を死滅させる放射線の能力を高めることがわかった。とウェイン州立大学によって発表された。ウェイン州立大学の医学部Dr. Gilda Hillman准教授(Karmanos癌研究所)は次のように語った「私たちは肺癌の放射線治療能力を向上させるためにダイズイソフラボンと呼ばれる天然のダイズの非毒性物質について研究している。  これらが癌細胞に対する放射線の効果を高めて正常な肺細胞を放射線傷害から保護する。」彼はこの研究チームを導いたが、さらに続けて述べている「癌細胞には細胞自身を防御するメカニズムを活性化して生き残ろうとする機能が備わっている。しかし天然のダイズイソフラボンは、癌細胞の生き残る機能を阻害して放射線治療の効果を高める。」 「ダイズイソフラボンは抗酸化物質として作用し、放射線治療の意図しない損傷から正常な組織を保護する」Dr. Hillman氏と彼女のチームは、ダイズイソフラボンがDNA修復メカニズムの阻止を介して放射線による癌細胞の死滅効果を高めることを示した。放射線による傷害から生存する癌細胞によって、DNA修復メカニズムがスイッチオンされることである。放射線照射前にダイズイソフラボンで処理したヒトA549非小細胞肺癌(NSCLC)細胞は、放射線だけ照射した細胞よりもDNA損傷が大きく、修復活性が低かった。研究者らはゲニステイン(genistein)、ダイゼイン(daidzein)、グリシタイン(glycitein)のようなダイズの主なイソフラボン3種類で構成される製剤を使用した。以前の研究では、純粋なゲニステインがヒトNSCLC細胞株で抗腫瘍活性を示し、上皮細胞増殖因子レセプター(EGFR)チロシン・キナ

マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究グループは、血管の形成を阻害する全く新しい種類の血管新生薬を世界で初めて発見した。PNAS誌の2011年6月27日Early Editionに掲載された報告には、その活性成分をどうやって南米の樹木から抽出し、動物モデルにおいて血管の正常な形成と創傷の治癒と腫瘍の成長がどのように阻害されるかという新規的な機序が紹介されている。   本論文の主筆であるMGH腫瘍生物学Steel Laboratoryのイゴール・ガルカフゼフ博士は「FDAに認可されているほとんどの抗血管新生薬は、血管の形成を直接刺激している血管内皮増殖因子(VEGF)に制御されるパスウエイを阻害している。こ の医薬がいくつかのタイプのガンの標準的な治療法となってはいるが、患者の生存期間を若干延長するだけの効果しかなく、腫瘍の血管系を標的とするより効果的な新薬が必要である」と述べる。 腫瘍は自らが成長するために血液供給機能の形成と維持を必要とするが、腫瘍の血管系は無秩序な形成傾向が非常に高く、それによって放射線治療や化学療法など従来の治療法が効きにくくなっている。VEGFのパスウエイを標的とする薬剤は腫瘍の血管系を「正常化」し、他の治療法の効果を高める働きがあるが、患者の生存期間の延長にそれ程貢献しない現実は、これらの薬剤に対する耐性が生じたり毒性が出たりする事に依拠すると思われる。 MGHグループの研究ではこの新薬は血管の成長をこれまでと異なる機序で阻害し、ガルカフゼフ博士等は内皮細胞が血管外壁に接着し裏打ちしていくパスウエイに注目した。適切な細胞接着は血管機能にとって重要であり、腫瘍の血管に特徴的な無秩序な細胞の裏打ちは接着の変容をもたらす。研究チームは新規的な二段階探索法を用い、まず細胞接着に関与する50,000種類の化合物をスクリーニングし、次いで、選別された

お酒に含まれるアルコールであるエタノールは、僅かな量であれば、Cエレガンスとして知られている小さな虫−この虫は老化の研究で実験モデルとして頻繁に使用される−の寿命が、2倍に延びる事を、UCLAの生化学研究チームが発表した。但し、それを科学的に説明するのは、どうやら難しそうだ。この研究結果は2012年1月18日付けのPLoS ONE誌のオンライン版に発表されたが、「この結果はショッキングであり、私達を悩ませています。」とUCLAの化学科と生化学科の教授であり、本論文の上席著者でもあるスティーブ・クラーク博士は話す。 アルコールの摂取は人においては一般的に害をなし、Cエレガンスも多量のアルコールを摂取すれば神経系を損傷し死に至る事は、他の研究で明らかになっていると、クラーク博士は話す。「私達は非常に少量のエタノールを投与しました。そうするとCエレガンスには効用があるのです。」と付け加えるクラーク博士は、老化の研究に関する生化学の専門家である。Cエレガンスは卵から成虫まで僅か数日で成長し、世界中どこでも土壌中に生息し、バクテリアを食餌としている。クラーク博士の研究チームのパオラ・カストロ、シルピ・カーレ博士、ブライアン・ヤング博士等は、生後数時間のまだ幼生であるCエレガンスを、何千匹も研究してきた。この虫の寿命は凡そ15日で、何も食べなくても10日から12日間は生きる。「しかし、私達の研究では、微量のエタノールを与えると、20日から40日に寿命が延びます。」とクラーク博士は話す。研究チームが最初にやろうとした事は、コレステロールがCエレガンスに与える影響を観察することであった。「コレステロールは人間にとって必須の成分です。細胞膜には欠かせません。但し、血流には悪影響を与えます。」とクラーク博士は説明する。Cエレガンスにコレステロールを与えたところ、寿命が延びたため、明らかにコレ

若年期の男性に発症し、家系に遺伝する前立腺がんの遺伝因子について、20年来研究されてきたが、遂にこの疾患リスクが非常に高くなる、珍しい遺伝性の遺伝子変異が発見された。この発見は、ジョン・ホプキンス大学医学部とミシガン大学(U-M)ヘルス・システム研究所の研究チームによって、2012年1月12日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表された。発表によると、この変異を有する男性は、前立腺がんを発症するリスクが変異の無い男性に比べて10倍から20倍も高いと考えられる。前立腺がんの症例全体から見れば、この遺伝子変異のケースは一部に過ぎないが、健康診断項目に追加するか早期スクリーニングを実施することにより、この変異に依拠する高いリスクグループを発見できるメリットがある。   今年もアメリカでは24万人が、新たに前立腺がんと診断されると見込まれている。「遺伝性の前立腺がんに関与する遺伝子変異としては、今回の発見が初めてです。」とU-M医学部の内科学と泌尿器学の教授で、本論文の上級共同著者の一人であるキャスリーン・A・クーニー博士は語る。もう一人の上級著者で、ジョン・ホプキンス大学医学部泌尿器学と腫瘍学の教授であるウィリアム・B・アイザックス博士は付け加えて、「これは私たちが20年来、追いかけてきたものなのです。前立腺がんが家族性であることは、随分以前から分かっていました。しかし遺伝に関与する隠れた遺伝子をピンポイントで同定することは大変困難で、これまでの多くの研究結果は矛盾が多く、不十分でした。」と語る。この研究は、アリゾナ州フェニックスのトランスレーショナル・ゲノム研究所(TGen)のジョン・カープテン博士との共同研究体制のもと、ヒト染色体の17q21-22領域として知られる部分の200個を超えるDNAの配列を、最新の技術で解析することによって行なわれた。U

なぜ細胞は老化するのか。これは生物学における謎の一つであるが、今回ソーク生物学研究所の研究チームが、脳内で起こる老化プロセスの謎を解明する脳細胞の構成要素の弱点を発見したと報告した。研究チームが発見したのは、ELLPs (Extremely Long-Lived Proteins) と呼ばれる非常に長命なタンパク質で、これはニューロンの核の表面で見られる。ほとんどのタンパク質の寿命が合計2日以下なのに対し、ラットの脳内で発見されたELLPsはラットとほぼ同じ年齢であることが分かった。本研究は2012年2月2日付けのサイエンス誌に記載され、これほど長命なタンパク質を含む必須細胞内マシーンが発見されたのは今回が初めてである。本研究は、タンパク質が置換されることなく生涯にわたって持続するものであることを示唆している。ELLPsは核表面の輸送チャンネルを構成している。このチャンネルは出入りする物質をコントロールするゲートのようなものである。ELLPsが時間とともに消耗しなければ、このタンパク質が長命であることはメリットである。 しかし、ELLPsは他のタンパク質と異なり、異常な化学修飾や損傷を受けた際に、新しいものに入れかわることはない。そのためELLPsが損傷を受けると、毒素から細胞核を保護するための三次元輸送チャンネルの能力を弱める場合があると、本研究を率いたソーク大学分子細胞生物学研究所教授、マーチン・ヘッツァー博士は推測する。結果、これらの有害物質は細胞のDNA、そして遺伝子活性を変化させ、細胞老化を引き起こすことが示唆されている。エリソン医学基金およびグレン医学研究基金から資金提供されているヘッツァー博士の研究チームは、NPCと呼ばれるこの輸送チャンネルの老化における役割を研究している、世界で唯一のグループである。DNA損傷を起こす有害物質が核内に侵入出来ることは、哺乳

世界最大の遺伝子研究所である中国BGI研究所が、ネイチャー・バイオテクノロジー誌2012年2月12日付けオンライン版で、ヒトセルラインのRNAシーケンスデータを精査し、RNAが広範に修正をかけている事を実証した。そしてこの重要な転写後の修正イベントを同定するには、大変高度な解析方法が必要となることも明らかにした。RNAの修正については良く知られているが、詳細はまだ不明である。   DNAからRNAへ転写された後に、ヌクレオチドの若干の修正が行なわれるということだ。このステップは、遺伝情報を再コード化する際の転写後イベントとして、細胞RNAの固有の特徴の多様性と柔軟性を創製するために、必要不可欠なものである。こうしてRNAエディティングは、翻訳されたタンパクの構造と機能を研究する「ポストゲノムシーケンス」の時代において、重要な分野となってきた。つまり、遺伝子研究分野で、その重要性は益々大きくなってきているのだ。昨年サイエンス誌に発表された論文(2011年5月19日、リー等)では、ヒトトランスクリプトーム解析において、対応するmRNAとDNAとに大きな配列の違いが見つかっている。これが驚愕すべき発見である理由は、「RNAエディティング」に未だ不明なメカニズムが存在するにせよ、「RNAエディティング」の事実はセントラル・ドグマを外れ、遺伝子変異に対する私達の理解を覆すものだからだ。 しかし、この考え方は多くの研究者が疑義をはさみ、解析技術や学術的厳格性、例えばシーケンスエラーやマッピングミスについて、多くの議論が生じた。そこで最新のBGI研究所の研究チームが提示したのは、RNAエディティングのような分野における研究を行なうに当たって問題となる課題に対する、より厳格な研究方法であった。研究チームは、中国漢民族の男性由来のリンパ芽球様セルラインをサンプルとしたRNA-seqによ

ヒト生物学を構成する原則が過去2500万年もの間、実質的に無変化のまま存在している。と、判明した場合、それはこれからも変わらないと自信をもって言えるだろう。ホワイトヘッド研究所の科学者たちが行った最新のヒトY染色体進化論の研究結果は、Y染色体が無くなる事はないと証明している。「Y染色体消滅論」の支持者たちは、Y染色体が将来絶滅するであろうと予測している。   Y染色体は過去3億年間に100以上の遺伝子を失っているため、このまま続けば必然的に全ての遺伝子が無くなるであろう、というのだ。ホワイトヘッド研究所所長、デイビッド・ペイジ博士と研究チームはこの10年間、着実に「Y染色体消滅論」を否定する研究を行ってきたが、周囲の認知効果は無に等しかった。「この10年間Y染色体について学界で合意されていた仮説は、いつかは消滅するものである、という論説です。この説をバックアップする確かな証拠が一度でも出たかどうかは別として、Y染色体消滅論はあっと言う間に広がり、定着してしまったのです。この消滅論については、わざわざ話題にあげる事が無いほどに浸透しており、我々のY染色体研究には逆風でもあったのです。」と、ペイジ博士は説明する。本研究結果のおかげでペイジ博士はY染色体消滅論支持者たちにチェックメイトをかけることが出来たのだ。 本研究チームは、アカゲザル(ヒトの進化経路から2500万年前に分岐した旧世界ザル)のY染色体をシーケンシングし、ヒトおよびチンパンジーのそれと比較し、驚愕する結果に至った。2012年2月22日付けのネイチャー誌オンライン版に記載された本研究結果は、進化分岐点からのアカゲザルとヒトのY染色体の顕著な遺伝的安定性を示している。この知見の重大性を理解するためには、歴史的コンテキストを知らなければならない。性染色体になる前のXおよびY染色体は、他の22対のような常染色体であ

リー症候群では乳児は健康体で生まれたかのように見えるが、時間の経過と共に悪化していく運動や呼吸障害を発症し、ほとんどの場合3歳で死に至る。これは、細胞内のミトコンドリアが、脳が発達していくために必要なエネルギーの需要についていけないからである。この度、この病気の原因である遺伝子の欠陥が見つかったと、Cell Press出版のCell Metabolism誌9月号に発表された。今回の研究結果は、二人のリー症候群患者の、ミトコンドリアで活性化しているタンパク質をコードする約1000の遺伝子の一部を配列決定して得たものである。   「これは、 シーケンシング技術がこれからの診断の進歩に役立つ可能性を表しています。家族歴のない個人にも適用可能なアプローチです。」と、オーストラリアのマードック子供研究所のデビッド・ソーバーン博士は語る。リー症候群は、現在認識されている小児ミトコンドリア病の中でも最も一般的なものであり、今回新しく発見された遺伝子を加えると、変異した際にリー症候群を引き起こす遺伝子は約40種類にものぼる。 この新しく発見された遺伝子はMTFMと言われ、ミトコンドリアの活性酵素をコードしている。ミトコンドリアは独自のDNAをもっており、これらは局所的にコード化されたタンパク質と細胞の核ゲノムでコード化された後に移入されたタンパク質の組み合わせによる違いを有している。ミトコンドリアDNAでコード化されたMTFMT酵素は、tRNAに作用し、タンパク質翻訳を開始できる形に変換する役割を果たす。この酵素が欠けていると、ミトコンドリアはタンパク質を効率的に翻訳することが出来ず、リー症候群として知られる症状を引き起こすのである。患者の皮膚細胞の研究では、翻訳不全がMTFMT遺伝子を置き換える事によって補正出来る事が明らかにされた。リー症候群において、分子診断が必ずしも治療法につ

プルツワルスキー馬として知られる絶滅危惧種のウマが、研究者たちが予測していた以上に家畜ウマとの系統的関係がかなり離れている事が、ペンシルバニア州立大学生物学部のカタリーナ・マコバ博士率いる研究チームにより報告された。4血統のプルツワルスキー馬について、母から子に排他的に遺伝するゲノム情報部分−ミトコンドリアDNA−に特化して、家畜ウマ(学名Equus caballus)のDNA情報との比較検討が成された。   その結果、これまで学者が想定していたようにウマの家畜化が始まった6000年から10000年前にプルツワルスキー馬と家畜ウマとが分かれたのではなく、それよりずっと以前に分化していた事が明らかになった。本研究で収集されたデータによれば、現代のプルツワルスキー馬種はこれまでに予測されていたよりも遥かに多様性のある遺伝子プールを有している事が示唆されている。この新たな知見は絶滅危惧種を救う為の保護努力の重要性を大いに主張するものであるが、この馬種は中国とモンゴルの一部とカルフォルニア州とウクライナの自然保護地区に合わせて2000頭しか生息していない。本研究はJ. Genome Biology and Evolution誌に掲載予定であるが、先に2011年7月29日のオンライン誌に発表される。 プルツワルスキー馬はずんぐりした小型のウマで、野生で生息しているのを発見したロシアの探検家の名前に因んで命名されている。20世紀中頃には、多くの品種や個体の死を招く遺伝的ボトルネック効果と言われる進化事象によって、絶滅の危機に陥った。「悲しい事ですが、遺伝的ボトルネック効果というのは人間の行為によるものなのです。プルツワルスキー馬は食糧として狩られ、元来の生息地域であった大草原から農場に移され、生活と繁殖の場を奪われたのです。1950年後半にはたったの12頭しか残っていませんでした

RTS, Sマラリア・ワクチン候補の大規模臨床第III相試験結果が2012年11月9日付New England Journal of Medicineオンライン版に掲載された。この結果報告によれば、RTS, Sマラリア・ワクチン候補がアフリカの乳幼児をマラリアから守ることができるとしている。対照ワクチンによる免疫を受けた乳幼児 (生後6週間から12週間で第1回の接種) と比較した場合、RTS, Sワクチンを接種した乳幼児では、臨床マラリア、重症マラリアの双方で3分の1ほど発症率が低く、また注射に対する副反応もほぼ同じ比率で発生した。また、この試験では、RTS, Sワクチン候補は、安全性と忍容性プロファイルも許容範囲だった。   この試験は、GlaxoSmithKline (GSK) と PATH Malaria Vaccine Initiative (MVI) が協力し、ビル&メリンダ・ゲーツ財団がMVIに助成金を出して、アフリカの7か国の11か所の研究センターで実施している。この試験の治験責任医師を務めるタンザニアのIfakara Health InstituteのDr. Salim Abdullaは、「この数年、マラリアに対する闘いでは大きく前進してきたが、依然として年間655,000人がこの病気で亡くなっており、その大部分はサブ・サハラ・アフリカの5歳未満の幼児だ。効果的なマラリア・ワクチンができれば、病気に対する闘いにも強力な武器になる。そのためにも私たちはこのRTS, S治験を進めてきた。この試験でRTS, Sが乳幼児をマラリアから守るワクチンになる可能性が見えた。また、この試験では、参加者が蚊帳を使い、さらにRTS, Sを投与することでマラリア予防効果がぐんと大きくなることだ」と語っている。 RTS, Sワクチンを6週間から12週間の乳児に初回とし

ミシガン大学の神経科医ジョセフ・コリー医学博士は、自分のクリニックで毎週のように、患者の神経組織が病気や傷害のために死滅あるいは消失するのを見てきた。コリー博士は、神経組織を破壊する病気や傷害が患者に痛みや身体能力の低下など様々な影響を与えるのを見てきて、治療も現在よりもっと効果的な方法がないものか、あるいはできれば神経組織そのものを再生することができないかと考えてきた。   そのため、コリー博士は、VAアン・アーバーヘルスケア・システム (VAAHS) の自分の研究ラボを率い、現在、その研究チームはまさしく博士の念願を実現すべく研究を進めている。最近発表されたいくつかの研究論文で、コリー博士と、ミシガン大学医学部、VAAAHS、カリフォルニア大学サンフランシスコ・キャンパス(UCSF)の研究同僚は、特殊なポリマー・ナノファイバー技術の開発に成功し、神経組織形成の仕組み、なぜ傷を受けた神経が再接合しないのか、神経組織の損傷を防いだり、損傷の進行を遅らせることはできないかという問題を研究してきたと述べている。 さらに、人間の毛髪よりも細いポリマー・ナノファイバーを基礎として特定のタイプの脳細胞をナノファイバーに巻きつかせることで人体の神経組織とほぼ同じ大きさと形状のものを作ることができた。そればかりか、より大きな神経線維を損傷から守る保護皮膜形成、つまり髄鞘形成と言われるプロセスも再現することができたと述べている。さらには、人体の中で起きているのとまったく同じように、ミエリンと呼ばれる保護物質が同心円状に何層にも形成することも確認した。コリー博士のチームは、協力者のUCSFのジョナ・チャン博士のラボ・チームと共同で2012年7月15日付のNature Methodsオンライン版に研究成果を発表している。この研究では、ニューロンを中枢神経系の主役とすれば、その主役を支える

科学者グループは、小児の腎臓に発生するがんの一種、ウィルムス腫瘍の成長に関与するがん幹細胞を分離し、さらに分離したがん幹細胞を使って新しい治療法を試した。将来、この治療法は進行性がより強いタイプのウィルムス腫瘍治療に役立つようになるかも知れない。この研究結果が、2012年12月13日付オンラインのEMBO Molecular Medicineに掲載された。   イスラエルのPediatric Stem Cell Research Instituteの所長、Sheba Medical Centerとテル・アビブ大学Sackler School of Medicineの主任医師を務めるベンヤミン・デケル教授は、「これまでの研究では、幹細胞は大人の乳がん、膵がん、脳腫瘍などから分離されていた。しかし、これまで余り知られていなかったのは小児がんの幹細胞だ。がん幹細胞には腫瘍成長を開始し、維持し、さらに増殖させるために必要な遺伝子的機構がすべて備わっている。そのため、"がん始原細胞"と呼ばれることもある。そういうがん幹細胞であるからこそ、がんの進行の研究に非常に有用であるばかりでなく、様々なタイプのがんの成長と転移を阻止する新薬の研究開発や治療法の研究においても有用だ」と語り、さらに、「私たちの研究は、しばしば小児の腎臓で発生するある種の腫瘍から初めてがん幹細胞を分離することができた」と語っている。 ウィルムス腫瘍は、小児の腎臓の腫瘍としてはもっとも一般的なタイプで、初期のうちに手術で腫瘍を摘出し、化学療法を施せば、ほとんどの患者は順調に回復するが、再発して他の組織に転移することもあり、その場合には患者の健康へのリスクが大きくなる。また、化学療法は健康な細胞にも有害であり、小児がんの治療に使った場合、患者が大人になった時に二次がんの原因になる可能性がある。科学者は、抗がん剤が腫

同性愛が遺伝的なものであることは知られていたが、なぜどのようにして遺伝するのかが分からなかった。しかし、エピジェネティクスの研究で、エピマークと呼ばれる、遺伝子の発現を制御する一時的遺伝子スイッチが、同性愛の発生に大きく関わっていながらこれまで見過ごされてきたという説が発表された。   2012年12月11日付「Quarterly Review of Biology」オンライン版に掲載された研究論文は、性に関わるエピマークは通常は世代間で遺伝せず、従って、世代ごとに「消去」されるはずだが、間違って消去されずに父から娘に、または母から息子に遺伝してしまうと同性愛になるのではないかとしている。進化論の立場から言うと、同性愛の遺伝はダーウィンの自然淘汰の原則からはずれ、成長することも生き残ることもできないはずだが、同性愛そのものはほとんどどの文化の男または女の間でごく一般的に見られる。また、これまでの研究で、同性愛者が多く生まれる家族があることが判明しており、性的嗜好を決める遺伝子があるものと考えられてきた。 ところが、同性愛の遺伝学的関係を探す研究が数多くなされてきたにもかかわらず、同性愛の遺伝子として主要なものがまだ見つかっていない。現在の研究では、National Institute for Mathematical and Biological Synthesis (NIMBioS、国立数学・生物学統合研究所) のゲノム内コンフリクト研究作業グループの研究者が、進化論に、遺伝子発現の分子調節研究やアンドロゲン依存性性分化研究の最近の成果を統合することで同性愛の発生におけるエピジェネティクスの役割を説明する生物数理的モデルを創りあげた。エピマークは遺伝子の骨格に添付された情報の層ともいうべきもので、これが遺伝子の発現を制御する。遺伝子には命令情報が書き込まれているが、

シェフィールド大学とカリフォルニア大学サン・ディエゴ分校の科学者は、合成発泡タイプの素材を用いて自然の細胞外基質(ECM)の生成過程を模倣する研究を進めているが、幹細胞が正しく接着するために必要なランダムな接着性を再現することに成功した。この成果は、世界中の科学者にとって、幹細胞の成長に適した接着性のあるバイオマテリアルを創り出す上で非常に重要な手がかりとなるものだ。   これまで、ECM生成過程を再現する実験では接着性のある細胞を均一に広げるだけだったために、幹細胞が組織細胞にまで成熟し最大限度まで成長することを妨げてきた。 大学の生物医学部のジュゼッペ・バタグリア教授は、「この研究では2つのタイプのポリマーを使った。一つは接着性があり、もう一つは接着性がなく、この2つのタイプのポリマーは溶液の中で分離する性質がある。この2つのポリマーの混合液をオリーブ・オイルに加えたバルサミック・ビネグレットのようによく攪拌すると、オリーブ・オイルに相当する接着性のない物質の中に、バルサム・ビネガーに相当する接着性のあるポリマーのナノ・レベルのパッチがランダムに分布する。言い替えれば、この2つのタイプの物質は泡の中で相分離し、ポリマー同士がはっきりとした領域を形成する。この接着性のあるポリマーと接着性のないポリマーを一定の比率で混ぜ合わせると、泡中の接着性ポリマー領域のサイズと分布をコントロールすることができる。泡中の接着性のあるポリマーを少なくすると接着性のパッチが小さくなると同時に分散率も高くなる。人体の中でも自然のECMで同様のことが起きる。実験の大部分を手がけたバタグリア教授とPriyalakshmi Viswanathan博士は、「研究チームが驚いたのは、泡に幹細胞を接着させようとした際に、幹細胞が正しく接着するためには、ランダムな接着性と均一な接着性の双方のバランスが

遺伝性或いは散発性メラノーマは皮膚がんのうちで最も致死性が高いが、この度、それらのリスクを高めると思われる遺伝子が、国際的な研究で同定された。この変異はMITFをコード化する遺伝子に起こる。MITFはメラノーマの生成元となる細胞であるメラノサイト内の、いくつかの重要なタンパク質の産生を誘導する転写因子である。以前の研究では、MITFがメラノーマの癌遺伝子として作用しうることを示唆していたが、現在の研究ではMITFの変異がメラノーマのリスクを高めるメカニズムを識別した。   米国、英国、およびオーストラリアの研究チームからの報告は、2011年11月13日付けのNature誌オンライン版に掲載され、印刷版には、フランスとの共同研究も含めて報告される予定だ。このフランスの研究では、メラノーマのリスクを高める変異が、一般的な腎臓癌リスクも高めることが発見された。「我々は、以前からMITFがメラニン色素の主要制御因子であることを知っていました。そして数年前、SUMO化と呼ばれる科学修飾がMITFの活性を抑制する働きがあることが分かりました。」と、マサチューセッツ総合病院(MGH)皮膚科のチーフであり、MGH皮膚生物学リサーチセンターのディレクターのデイビッド・フィッシャー博士は説明する。「今回発見された変異は、MITFのSUMO化をブロックし、それによMITFの過剰な活動が、メラノーマのリスクを高めると見られています。」と、Nature誌に掲載された論文の共同著者でもあるフィッシャー博士は言う。 「メラノーマ患者の約10%はこの疾患の家族歴をもちますが、複数の世代にわたって起こる真の遺伝性メラノーマは、おそらく全てのケースの1%以下にしかならないでしょう。皮膚黒色種のほとんどが、過度の太陽光の曝露や、より一般的には赤髪遺伝子(MC1R)やMITFなど、中程度の遺伝子変異体による

乳がんの悪性化の典型であるがん細胞の局所浸潤や転移を抑えるレセプタータンパクが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究チームにより明らかにされた。Nature Medicine誌2012年9月23日のオンライン版に発表された論文によれば、他臓器にがんが広がる乳がんの転移を抑制する事で知られる、白血球抑制因子レセプター(LIFR)を同定するために、ハイスループットRNAシーケンシング技術が用いられている。「私たちの研究結果によれば、乳がん転移を抑制するLIFRのような、主要な転移抑制因子の発現や機能を回復させる事が有効だと考えられます。」とMDアンダーソン実験放射線オンコロジー学部准教で主著のリ・マー博士は語る。そして、「乳がん死撲滅の障害となっている転移現象に対する、臨床的に証明された予後マーカーや治療薬はまだありません。   多くの転移誘発遺伝子が同定されていますが、臨床応用にまでは到達していません。HER2標的薬とVEDF標的薬は例外で、治療において緩やかではありますが想定通りの成果を出しています。」と付言する。 転移を抑制する遺伝子はほんの数種しか同定されておらず、どれも転移に関与する影響はそれほど強くないとマー博士は言う。しかし、本研究によって明らかにされたのは、LIFRがヒト腫瘍に対して著しい関与を有するという事である。正常なヒト乳房組織の94%にLIFRの高い発現が観察される一方で、非浸潤性乳管がん(DCIS)や浸潤性乳がんでは低減したり無くなったりする。そしてLIFRが観察されないケースでは大変予後が悪性である。マー博士は、本研究の最も重要な部分は、LIFRが、転写補助活性因子であるYAPの機能低減化につながるHippoキナーゼカスケードを昂進させる事により、転移における浸潤段階とコロニー形成段階との両方を抑制するという事だと説明する。「LIFR

老化やがんを研究する生物医学研究者は、染色体の末端につながって、これを保護するテロメアに強い関心を持っている。カリフォルニア大学(UC)サンタ・クルス校での新研究では、科学者グループが新しいテクニックを用いて、テロメアの構造的・機械的特性を明らかにした。この成果は新しい抗がん剤開発の方向性を示すと考えられる。テロメアは、染色体の末端につながっており、長いDNA繰り返し配列が特徴である。   そして丁度靴ひもの末端のプラスチック筒のように、染色体の末端を保護している。細胞が分裂するに従ってこのテロメアがどんどん短くなり、最終的に細胞の分裂が止まる。ただし、テロメアそのものは、テロメラーゼと呼ばれる酵素の働きでさらに成長することができる。特に幹細胞のように無限に分裂していかなければならない細胞中ではテロメラーゼの働きが非常に活発である。研究者グループは、腫瘍細胞の中でもテロメラーゼの働きが活発であることが多いとしている。UCサンタ・クルス校の化学生化学准教授のマイケル・ストーン博士は、「私の研究室では、『グアニン四重鎖』と呼ばれるテロメア末端のDNA構造が畳まれたり開いたりする現象に特に注目している。これがテロメラーゼの活動の制御に関わっており、ほとんどのがん細胞が、このテロメラーゼを利用して無限増殖の一助としている。従って、抗がん治療でもグアニン四重鎖を標的にすることが重要だと考えられる。テロメアDNAのグアニン四重鎖構造がテロメラーゼ酵素の機能を阻害していることから、私のチームでは、グアニン四重鎖構造の機械的安定性を突き止めたいと考えている」と語っている。ストーン博士の研究室の大学院生、Xi Long氏が研究プロジェクトを率いており、2種類のテクニックを組み合わせて、グアニン四重鎖構造が開いている時に単一DNAの分子を操作し、観察した。DNA分子を引き伸ばすためには「磁

コロラド-ボルダー大学バイオフロンティアズ研究所の科学者、トム・チェック博士とレスリー・ラインワンド博士は、Nature誌が2012年10月24日付オンラインで発表した研究論文で、「抗がん薬開発の標的分子は私たちのDNAの末端領域にある」と書いている。2人の科学者の所属するラボの研究者は、特定のアミノ酸パッチを探して共同研究を進めてきた。   染色体内のこのアミノ酸パッチに抗がん薬が結合してブロックするとがん細胞の増殖を妨げるようになるのではないかと考えられている。染色体内のこの位置のアミノ酸パッチは「TELパッチ」と呼ばれ、この部分が変化すると、染色体の末端領域が、がん細胞の成長に必要なテロメラーゼ酵素を活性化することができなくなる。チェック博士は、「これは科学的発見として素晴らしいことで、がんの問題に新しい方向から取り組める道が見つかったと言っていい。すごいのはTELパッチのアミノ酸一つを変化させることでテロメアの成長を抑制できるということだ。この原理をがん治療薬として実現するまでにはまだまだ道は遠いが、この発見から、今までとは違った、できればもっと効果的ながん研究のターゲットが浮かび上がってきた」と語っている。Howard Hughes Medical Investigatorで、1989年ノーベル化学賞受賞者のチェック博士は、バイオフロンティアズ研究所の所長を務めている。 この研究論文共同執筆者は、博士号取得特別研究員のジャヤクリシュナン・ ナンダクマールとアイナ・ワイデンフェルド、コロラド大学生のケイトリン・ベル、Howard Hughes Medical Instituteの主任科学者、アーサー・ザウグ博士。テロメアががん発生で果たす役割は1970年代から研究されてきた。テロメアは、蝶結びのリボンの端のように染色体の端にあり、塩基類の繰り返し配列によって構

Laser Scissors顕微鏡と最新のシーケンサーを組み合わせて、ドイツ・ルール大学ボーフム(RUB)の研究チームは、真菌の全ゲノムの遺伝子活性を一挙に解析する方法を開発した。これによってミリサイズの生物体の困難であった小細胞の研究に道が開ける。RUB総合&分子植物学部の研究チームは、小サイズで多細胞真菌の発生や成長の研究に、この方法を適用している。この研究成果はオープンアクセス形式のBMS Genomics誌2012年9月27日号に発表された。多細胞生物では、どの細胞にも同様の遺伝子が含まれているが、活性化(発現)している遺伝子はほんの一部である。この遺伝子発現の差異によって細胞の構造や生理学の多様性が生じるのである。   それ故、遺伝子発現が多細胞生物の発達を理解するために大変重要となるのだ。「植物のような大きな生物体では、遺伝子発現の研究を開始するために十分な材料を揃える必要はありません。しかし微生物の場合には、器官の多くは細胞数が僅かなのに加えて他の組織と融合しており分離する事が困難です。」とミノウ・ノウロウシアン博士は語る。よって、ウルリッチ・クゥーク教授とノウロウシアン博士はレーザーマイクロダイセクション装置と最新のシーケンサー技術を融合させて、僅か0.5?サイズの真菌の生殖機構の発達における遺伝子活性を解析する方法を開発したのだ。レーザーマイクロダイセクションでは、光学顕微鏡下でレーザービームを用いて、対象サンプルの決まった箇所を切断する。このレーザー「ミニカッター」によって、例えば、発生の研究には頻繁に使われる真菌Sordaria macrosporaの生殖組織である子実体を集めて、研究を行なう。研究チームは、この子実体から遺伝子の活性を反映するRNAを単離して使用した。そして「次世代」シーケンサーを用いて、同時に全遺伝子の活性を解析した。ボーフムの

自閉症を引き起こす遺伝子を突き止めるため、新しいスキームと新しい方法論で取り組んできた研究グループが、いくつかの免疫系関連遺伝経路に撹乱が起きた場合に自閉症スペクトラム障害が起きやすいという証拠を発見した。2012年12月4日付のオープン・アクセス学術誌「PLos ONE」で発表された研究報告は、自閉症に関連するDNA塩基配列変異の分析と自閉症児のいる家族の研究で突き止められたマーカーの分析とを統合することで、自閉症における免疫機能の役割を裏付けている。   PLos One論文の共同筆頭著者、マサチューセッツ総合病院 (MGH) 神経科のVishal Saxena博士は、「これまで他の研究者は、免疫機能が自閉症を引き起こしているとは言っていたが、私たちは、まったく偏見を持たずに取り組み、免疫系が自閉症に関わっていることを突き止めた。何がもっとも重要なのかを偏見なしにデータに語らせるという方法を取った結果、自閉症の背後にある免疫系の機序では、ウィルス感染経路がもっとも重要だということが顕著に現れていた」と述べている。 自閉症児の個人を含む複数の家族の遺伝学的な研究では、ゲノム上のいくつかの位置に遺伝的連鎖が見つかった。従来のゲノムの解読法では、マーカーの位置にもっとも近い遺伝子がその遺伝形質の原因とされているが、それでは、家族によって異なる遺伝子が自閉症を引き起こしていることになる。しかし、Saxena博士の研究チームでは、自閉症には共通した典型症状があり、同じ生物学的過程が影響を受けているのだから、異なる家族であっても、共通の分子生理学的作用が起きているはずだと考えた。ゲノム上のこれらの自閉症関連の位置を含み込んだ遺伝経路を探すため、チームは、「Linkage-ordered Gene Sets (LoGS)」と名付けられた手法を開発した。この手法では、マーカーの位

Walter and Eliza Hall 研究所の科学者が、世界で初めて、細胞死を誘導するアポトーシス調節タンパクの分子変化を画像に捉えた。この成果は、細胞死の過程について重要な理解の手がかりになるもので、将来には、病気にかかった細胞の生死を管理する新しい種類の医薬の開発につながるかもしれない。管理された細胞死、アポトーシスは、体内の細胞の数の管理調節に重要な役割を果たしている。   細胞死の過程に欠陥があれば、ガンや神経変性症状を引き起こすと考えられており、また、細胞死が適切に行われなければ細胞が不死になり、ガンを引き起こすことがある。一方、ニューロンの細胞死が過剰に起きると神経変性症状になることがある。同研究所構造生物学部のPeter Czabotar博士、ピーター・コルマン教授とその同僚は、同研究所ガン分子遺伝学部のDana Westphal博士と共にこの発見を行い、2013年1月31日付の論文誌「Cell」にその研究論文が掲載された。 Czabotar博士は、「Baxと呼ばれるタンパク質の活性化がアポトーシスを引き起こす重要な事象であることは以前から知られていたが、この活性化の機序はこれまで知られていなかった。細胞死の重要な第一歩は、細胞内の膜、ミトコンドリア膜に孔が開けられることで、一旦これが起きると、その細胞は死滅する。Baxが、このミトコンドリア膜に孔を開ける役割を担っているのであり、このBax活性化の過程を画像におさめることができたことで、細胞死の機序の理解にさらに近づいたと言える」と語っている。Czabotar博士とその同僚は、オーストラリアのシンクロトロンを使い、Baxが、不活性形から活性形に移行する様子を3次元画像で捉えることに成功した。活性形で、Baxがミトコンドリア膜を破り、細胞のエネルギー源を取り除くことで細胞死を引き起こしている。Cza

スーパーのレジ係りが、商品パッケージに付いているバーコードをスキャンして客の買い物を処理するように、研究者は高性能の顕微鏡と独自に作成したバーコードを用いて、膨大な数の細胞の同定や疾患部位のマーカー分子の同定の管理に利用する。しかし、そのバーコードは僅かなパターンしかないので、細胞の研究を行う様な一度に多くの情報のラベリングが必要な場合には、対応できない。   ハーバード大学のワイスバイオ工学研究所の研究チームがこの度、新しいデザインのバーコードを開発したが、これは無限に近い配列の組合わせが可能なもので、一度に膨大な生きた情報をコード化できる、過去に無いものとなっている。この方法は、DNAの生来の機能によって自動的に構造化されるもので、2012年9月24日付けのNature Chemistry誌オンライン版に発表され、同年10月に印刷版に掲載された。 「この新しい方法が、蛍光顕微鏡を用いて生物学の複雑系を研究するための分子ツールとなる事を期待しています。」とワイスの研究中心メンバーで同研究の心臓部である「DNA折り紙技術」を開発している共同著者のペン・ユィン博士は語る。蛍光顕微鏡はバイオメディカル領域では過去数十年に渡って「傑作」と言える技術である。判りやすく言えば、今回の発明は、蛍光素子―バーコード―と、研究対象の細胞の或る部位に結合する分子とを一緒にしたものである。サンプルトリガーのそれぞれのバーコードが、赤や青や緑の蛍光を発する事によって、目的の分子がどこにあるのかを提示する。しかし、この技術では使用できる蛍光色が3-4色に限られており、時々色がぼやける。ここにDNAバーコードの意味が出てくるのだ。色のドットが幾何学的模様に形成されたり、蛍光線状バーコードに形成されたり、その組み合わせは無限に近い。研究者たちが観察する分子や細胞の数が増えて行っても、色によって識

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