2021年8月、行政は夏休みを延長したりしていますが、こどもたちが学校へ通い始めると、感染者数がおさまらない現状では不安が多いかと思います。あえてこのタイミングで発表したのか定かではありませんが、東北大の研究グループが、新型コロナウイルスについて、こどもたちからの二次感染の割合が低いことを報告しています(Front. Pediatr., 10 August 2021)。解析の対象は小児科領域の患者さんですが、これはインフルエンザなどの感染様式とは大きく異なる特徴です。また、中高生の二次感染率は小児の中では高くなっているようです。文科省は8月27日、学級閉鎖あるいは全学休校のガイドラインを発表しましたが、物事を一律に考えるのではなく、個別に状況を精査する姿勢をとるべきです。こども同士では新型コロナウイルスはうつりにくい。したがって、学校や学習塾で起こっている集団感染は、成人から個々のこどもたちへ伝播したもので、このごろの変異株は感染力が高いので、集団感染のかたちで報告されているものと考えられます。私も小学生以下のこどもたち同士で憑りにくいという印象を持っていましたが、このようなデータが出てくると、自信を持ってこの先の議論を発信することができます。感染したこどもの感染部位のウイルスを調べてみると、ウイルスの量が非常に高いことが報告されています。当初私は、こどもが抗ウイルス物質をもっていて感染しにくいために二次感染能も低いと思っていました。だから、罹患したこどものウイルス数が高いことをどう説明したら良いか悩んでいました。そこで仮説です。罹患したこどもでは、ウイルスの飛沫化がおこりにくい。イメージとしては患部に粘着している様相です。成人では罹患組織で増殖したウイルスが飛沫化し、呼気として吐き出されると同時に、吸い込んでさらに肺へ浸潤する。これが重症化です。

2021年の初夏、100年前を振り返ってみると、どんなに医療技術が進歩していようが、そう簡単には収まらないでしょう。つい先日、私のところへも保健所から「新型コロナウイルスワクチン接種クーポン券」なるものが送られてきました。 開封せずに放置していると女房が、「なぜ開けぬ?」→ 私「受けるつもりないので」→ 女房「皆、はやくしたいと言ってるのにもったいない」→ 私「いや、うたないので」→ 女房「それなら、辞退すると連絡すれば?」→ 私「そんなことしたら行政が混乱するだけ、ほっておくに限る」 

これは、以前お話しした『抗体のパクリはありうるか』でも触れたので思い出してください。

血清中の抗体は抗原分子を結合していないはずです。いや、『抗原分子をゆるく結合しうる』と表現したほうが正確でしょう。それも、多様な抗原と弱く結合する分子の混合物です。

2020年の晩秋から初冬、一年前には全く予想していなかったことですが、人々の思考領域は極度に偏っています。私も、抗体に関わるおもしろそうな話題を考えようと努力をしているのですが、どうしても同じところに行きついてしまいます。ちょうど今、 Covid-19 のワクチンは、臨床試験で有効性が確認されて実用しようという時期です。 脅威を身近にしている方々は、ワクチンを心待ちにしていて、すぐにでも投与してほしいと願っているようです。 

2020年3月は、文科省管轄下の学校が臨時休校になる騒ぎではじまりました。このウイルス、ゲノム配列を見てもいまひとつわからないところが多いです。ORFに基づくワクチン設計は既に進めているようですから、そのうち有効なものが出てくると思います。ウイルス感染と抗体に関しては、それほど意外性のあるネタを持ち合わせてないので、今回は番外編です。私は大学へ異動してから細胞のことを覚え、研究所が改組したときは感染免疫部門に所属していました。そこで誰かから教わったわけでもなく何となく身につけた生活の知恵の一つに、重篤な風邪にかかりにくい方法がありますので紹介します。難しいことが一つも書いてないですが、バカにしてはいけない。意外と皆さんやってないです。ポイントは気になったら即実行。遅れると感染が成立して手遅れです。誰でもできるウイルス感染防御上気道で感染が成立するウイルスに対しては、この部分を温めることによって、初期の段階でウイルスを排除することが可能です。喉がイガイガ、ちょっと罹ったかなと思ったらすぐに、タオルで首をグルグル巻きにして安静、栄養価の高いものを食して暖かくします。保温剤を火傷をしない程度に温めてタオルで巻きつけても良いです。加えてマスク着用も効果的です。上気道は呼吸することによって外気温度の影響を受けやすいので、この部分の温度を高めて、免疫系をはじめとする体の生態防御をはたらきやすくするという意味です。

以前、「抗体をつくるならば C 末端を狙うべし」と書きました。少し復習すると、折れ畳まってコンパクトな形をつくっているたんぱく質において、末端領域は比較的ふらふらしていることが多いです。すなわち、分子の外側に出ている可能性が高いので、抗体に捕捉されやすいのです。もちろん、両末端以外のポリペプチド鎖内部領域でも分子の表面に位置して抗原性の高いところはありますが、配列のどこからどこまでを免疫原のペプチドに選ぶか迷うこともあります。

抗ペプチド抗体を作ったときは通常、調製した抗血清をカラムにかけて目的の抗体(igG)を精製します。一般的には、抗原に用いたペプチド、あるいは関連ペプチドをアガロースやセルロースのビーズに固定化して、アフィニティーカラムを準備します。 抗体と抗原の結合が起こる条件下で、抗血清をカラムにかけると、抗体分子は固定化したペプチドに結合します。抗原抗体の結合が乖離しない範囲のやや強い条件で、カラムを洗浄すると、血清中にあった夾雑物が洗い流され、抗体だけがカラムにトラップされます。十分な洗浄後に、カラム内を抗原と抗体がはずれる環境に変えると抗体が溶出し精製が完了するわけです。

私が抗ペプチド抗体をはじめたきっかけは、以前に書いた通り、ペプチド合成機に出会ったからです。1980年代後半のことでした。東京大学医科学研究所の三号館地下の一室に鎮座していたアプライドバイオシステムズ社(当時の社名)の430A は名機でした。 当時はまだまだ普及していなかった 新しいケミストリー( Fmoc)にも対応していて、欠点といえば樹脂を攪拌するのがボルテクスミキサーのような動きだったので長鎖ペプチドの合成には不向きだったくらいです。

実験には失敗がつきものです。なぜかというと、研究を推し進めるための実験は、ひとつひとつの実験結果をどう解釈し、次の実験をどのように計画するかによって、真実に近づくための手段となるか、道を踏み外して結局は無駄になってしまうか分かり得ないからです。 私が在職していた頃、卒業研究をほぼやり終えた学生が、卒論発表の時期になって、「実験方法と結果がはっきりしている研究テーマをもらえれば、このようなつまらない内容にはならなかった。」と愚痴って、近くにいた博士研究員や大学院生が慌てたことがありました。

たんぱく質のリン酸化は、数ある翻訳後修飾の中でも可逆的な反応の一つで、細胞内外の環境に呼応して起こるので、生体の情報伝達に関わる現象として研究されてきました。リン酸化されるアミノ酸残基は、主としてセリン(Ser; S)、トレオニン(Thr; T)およびチロシン(Tyr; Y)残基で、この反応を触媒するプロテインキナーゼは、リン酸化される部位の比較的狭い範囲を標的として、ATP からリン酸基を転移します。 リン酸化部位特異抗体は、リン酸化されたたんぱく質にだけ結合し、リン酸基がついてないときは、同じアミノ酸配列を認識しない抗体です。

曽て在職中に駒場キャンパスにある大学院を兼担していたことがありました。文系と理系が融合した総合文化研究科という大学院で、その中に生命環境科学系というグループがありました。 植物を対象に研究されている先生が何人もおられて、学位審査などの集まりでは新鮮味のある話題に学ぶところがたくさんありました。「環境」というキーワードも魅力的です。

生体サンプルを SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にかけて膜に転写し、抗体で解析することは多々あると思います。このイムノブロット法は、抗体を活用するための基本的方法のひとつですが、難しいと敬遠される方もおられます。それは、実験操作の煩雑さだけでなく、何箇所か失敗しそうなステップを通らなければならないからです。それから自動化が難しいことも理由の一つです。  昔、ブロッティングが大嫌いな同僚がいて、当時は抗体ではなくてエドマン分解用のサンプル調製でしたが、電気泳動後のアクリルアミドゲルをすりつぶしてトリプシン消化していました。今ではプロテオミクス実験法として確立していますが、トリプシン消化物をそのまま HPLC にかけて分取するので、カラムがあっという間に劣化し、ほぼ使い捨てという感じでした。

私がまだ在職中、遠心機メーカーで技術を担当されていたかたが来られて、退職してロボットを受託して作る仕事をはじめたとのこと、そのときは漠然と「個別作業に特化した自動装置なんだ。それは良いな」と思ったものですが、いま改めて考えると、スモールビジネスとしては素晴らしいことと感心します。いまはどうされているでしょうか。バイオ研究の世界にも実験スタイルに変遷があります。 プロテオミクスが流行る前に、二次元電気泳動でジャイアントゲルというのがありました。一次元目の等電点電気泳動を長いキャピラリーで分離し二次元目も大きなサイズの SDS-PAGE で分離能を稼いでおき、大目のサンプルをのせれば、より高い分解能で今まで見えなかった微量たんぱく質も検出できるという目論見だったようです。 私がいたラボにも二次元電気泳動解析装置の付属品として入りました。

2016年冬のプロテオミクス界の話題によると、1200種以上の代謝系酵素の発現量を定量解析する受託サービスがスタートするようです。Wmの憂鬱、やっとシステム生物学が動き出す(出典:日経バイオテクONLINE)リンクを辿ると4年ほど遡りました。ということは、バイオビジネスとして完成させるのに4年かかったということです。 Wmの憂鬱、ヒトたんぱく質の全定量プロテオミックスが可能に【Proteomicsメール Vol.92】(出典:日経バイオテクONLINE)

2016年10月、ノーベル生理学・医学賞は大隅良典博士に決定しました。最初に申し上げておきますが、大隅先生とは抗体に関わる接点はないです。1 979年、私は今堀和友教授に修士課程の大学院生として弟子入りしました。 

電気泳動で分離した生体高分子をニトロセルロース、ナイロン、テフロンなどを担体とする膜に転写することをブロッティングと呼びますが、たんぱく質の転写にはウエスタンブロッティングという通称があります。たんぱく質の電気泳動は、ポリアクリルアミドを支持体とするゲルでおこなうことが多く、転写も電気的に移すエレクトロブロッティングになります。 たんぱく質用のブロッティング膜としては、昔はニトロセルロース膜が使われましたが、いまは強度や吸着量に優れた、テプロン系の PVDF(ポリビニリデンジフルオリド) 膜が主流です。そして、たんぱく質をブロッティングした膜に抗体をかけて、特定の抗原を抗体で染める技術がイムノブロッティングというわけです。

目的の抗体をうまく作れたけれど当面の実験には十分すぎるほどの量で、これをどう保存したら良いか、これは贅沢な悩みかもしれません。モノクローナル抗体の場合は、抗体産生細胞を凍結保存して液体窒素下に保存すれば、必要なときに細胞を起こして抗体を得られます。 液体窒素での保存は、複数の保存庫にサンプルを分散させるなど最低限の危機管理をしておきます。クローン化した細胞から抗体の遺伝子を単離して保存すればなお良いでしょうが、軽鎖と重鎖のサブユニットをうまく発現させるシステムに遺伝子を載せるのはなかなか大変かもしれません。

抗体は、抗原を動物に免疫し一定期間の後に出現する抗体産生細胞(Bリンパ球)を単離して不死化するか、免疫動物の末梢血に分泌された抗体を抗血清として回収して得られます。前者がモノクローナル抗体、そして後者がポリクローナル抗体で、抗血清からアフィニティー精製などによって抗体分子を純化して実験等に使います。 モノクローナル抗体の場合、不死化した培養細胞から均一な抗体が分泌されるので、精製操作は格段に楽になります。免疫動物の免疫系が異物として認識すれば様々な抗原に対する抗体が産生されてきます。たんぱく質に対する抗体を得たいとき、動物に免疫する抗原としては、かつては高度に精製したたんぱく質が望ましいとされましたが、今では先ず遺伝子を取得して組換えたんぱく質を用いることが多くなりました。

皆さんタグの抗体は実験でお使いかもしれません。His タグ、FRAG タグなど、タグの配列を組換えたんぱく質に入れ込んでおくと、遺伝子導入したたんぱく質を抗体で高感度に検出できるという便利なツールです。今回は、ペプチドの化学合成でタグとして ジニトロフェニル(DNP)基を導入する方法と抗 DNP 抗体の活用についてです。DNP は代表的なハプテンで、モノクロ、ポリクロにかかわらず使える抗 DNP 抗体がたくさん出回っています。 

抗原性はあるが免疫原性をもたない低分子物質をハプテンといいます。なるべく多くの人に読んでもらいたい文章を書こうとするとき、このような導入法は NG ですね。冒頭の一文にある専門用語のうち一つでも理解しがたい言葉があったときは、続けて先を読む気がちょっと失せ、2つ以上あれば中断します。数多ある書物の中、ごくわずかのベストセラーが存在するのは、内容、書き方、それから世に出るタイミングが合致したときなのかなとつくづく感じます。 さて、最初の文に戻りましょう。ここで抗原性とは、産生された抗体と結合する能力を意味します。反応原性ともいいます。

検出用抗体は先の抗体とは別の動物で作った抗体でなければなりません。例えば、プレートに固定化する抗体がマウスで作ったモノクローナル抗体ならば、検出用抗体はウサギで作った別のエピトープに対するポリクローナル抗体といった組み合わせです。標識酵素は、検出用抗体に直接つけても二次抗体として用いる抗ウサギ IgG 抗体につけても良いです。標識二次抗体は多数市販されていますので選べます。ただし、先につけた抗体とは交差しないことを確認しておいてください。 抗体をいくつも持っているときは、どれをプレートに固定化するか迷うかもしれませんが、抗体価が高い良い抗体を使うのがよろしいです。プレート底面に一定密度で吸着させるために、また抗原に対する非特異結合が極力小さくなるように濃度などの条件をしっかり設定してください。 共通した注意点をひとつ。純化した抗原で標準曲線を必ずとっておいてください。

新しく抗体を作るときに、目的の抗体ができているか見極める評価法をどのようにされますか。一般的には、免疫原として利用した抗原とは異なった材料を評価に用いるのがよろしいです。 例えば、ペプチドをキャリアたんぱく質に結合して免疫原とした場合、抗体が思った通りできたかは、天然のたんぱく質あるいは組換たんぱく質をイムノブロットして調べるなどです。すなわちこの場合は、免疫原にペプチド、そして評価法にはたんぱく質(ポリペプチド)です。

通勤や仕事で外出する際にはカバンをお持ちになることが多いかと思います。好みにも依りますが、ゆったりした大きめのカバンで中身が少ないときは自立しなくてヘナヘナと倒れてしまうことがありますね。そういうときに「カバンの骨」があると良いようです。ご自分で工夫されている方もおられるかもしれませんが、実際に売ってるのを知りました。 値段も手頃で思わずポチってしまいそうです。今回の話題は『たんぱく質の骨』です。たんぱく質が立体構造を持っていることはよく知られています。溶液中での核磁気共鳴解析や結晶化したサンプルを X 線解析してたんぱく質の立体構造は得られ、PDB(Protein Data Bank)などで データベース化されています。一定の形を持ったたんぱく質を加熱したり変性剤にさらすと、構造が壊れてポリペプチド鎖は紐のような状態になります。この紐状化は、たんぱく質の二次構造が崩れて起こります。α-ヘリックスや β-シートに代表される、たんぱく質の二次構造は、比較的近いアミノ酸残基間での相互作用に依存して形成されます。さらに、ポリペプチド鎖が折畳まり 複数個の β-シートが束になって安定化します。これらの二次構造がたんぱく質の骨なのです。

ポリクローナル抗体は、幾つものモノクローナル抗体が混ぜ合わさったものですから、わざわざエピトープマッピングをする意味がありません。しかし、抗血清をあえてエピトープ解析すると面白い結果が得られます。抗ユビキチン抗体の例を紹介しましょう。 ユビキチンは76アミノ酸残基の小さなたんぱく質ですが、生物種間での配列保存性が高く、純度の高い市販品が手に入ります。これをウサギに免疫して抗血清を取得します。76残基の配列を15残基前後に分割して一部をオーバーラップさせたペプチドを用意します。10個ほどのペプチドです。 これらペプチドをキャリアたんぱく質を介してニトロセルロース膜に固定し、ドットブロット法で段階希釈した抗血清を調べます。結果は、 C 末端と中ほど部分のペプチドが比較的強く染まり、その他はうっすらとスポットが見えます。これが何を意味するかというと、2箇所の部分がエピトープになりやすいということです。

大きなたんぱく質に対してモノクローナル抗体を作成したときは、その抗体が抗原のどの部分に結合するかを知りたいものです。抗体が結合する抗原の部分構造を抗原決定基あるいはエピトープといいます。たんぱく質(ポリペプチド鎖)が抗原となった場合、エピトープの大きさは数アミノ酸残基ほどとも言われています。 これは構成するアミノ酸の種類にも依りますし、隣接部分の状況にも影響されるので、エピトープとなるペプチドのきっちりした長さを示すことは難しいです。 例えば、ポリペプチド末端がエピトープとなっているときは、短くて3残基です。 また、リン酸化チロシンに対する抗体では、周辺の配列に関係なくチロシンがリン酸化されていれば結合するので、1残基ということになります。なお、同じくリン酸化されるトレオニンやセリンについては、これら1残基がリン酸化されたものを識別する抗体を作ること自体が難しく、周辺の配列を含んだエピトープとなります。それでは、モノクローナル抗体がたんぱく質を抗原とするときに、その抗原決定基を絞り込む方法(エピトープマッピング)について簡単に説明しましょう。エピトープマッピングは幾つかの会社が委託解析をおこなっており、ご自分で実験する機会はあまりないと思います。方法は大きく分けて2つあり、合成ペプチドを用いる方法と分子生物学的手法を利用するやり方です。モノクローナル抗体ですから、抗原となるたんぱく質が特定できていない場合もあり、このときはランダムペプチドライブラリーあるいはファージディスプレイを使うことになります。抗原となるたんぱく質が特定されていれば、遺伝子の配列に基づいてオープンリーディングフレーム(ORF)を翻訳し得られる、たんぱく質の一次構造が基本になります。まず、わかりやすい、抗原が特定されている場合です。ORF の配列から数残基〜10残基のペプチドを一部をオーバーラップさせて合成します。

細胞の形質膜を一回だけ貫通して細胞表面に表現されるたんぱく質に対する抗体を考えてみましょう。がん細胞などでこのようなたんぱく質が特異的に発現していると、良い腫瘍マーカーになることが期待されます。抗体作成には免疫原に用いる抗原が必要ですが、膜たんぱく質の遺伝子がわかっているときは、組換えたんぱく質を大腸菌などで発現させて免疫原を調製するか、遺伝子の配列に基づいてペプチドを化学合成することになります。 一回膜貫通たんぱく質は、N 末端が細胞の外側にあるか内側にあるかで2つのタイプに分けられます。ここでは、N 末端が細胞の外で C末端方向へ進むと膜貫通領域があり、その後ろ C 末端側 は細胞内領域となる膜たんぱく質(Ⅰ型膜貫通たんぱく質) について説明します。

2015年のノーベル生理学・医学賞は皆さんにとってサプライズでしたか。 私はこういう評価も当然ありと考えます。前評判が高いトレンディな研究よりも、地道に長年かけて積み上げた研究成果は、いずれはいろいろな意味で芽を吹き始め、科学にとって大きな財産でもあります。 大村智先生とはじめてお会いしたのは1995年の秋だったと記憶しています。 そのころ私は、細胞死(アポトーシス)の研究を開始して間もない時期でした。 神経突起誘導因子として大村先生が発見されたラクタシスチン[参考文献1, 2]が細胞死とどのような関係にあるかを調べたく、北里大学のラボへ伺ったわけです。ラクタシスチンはその少し前に、細胞内たんぱく質分解酵素のひとつであるプロテアソームに特異的に作用する阻害剤であるとの報告[参考文献4]があり、プロテアーゼを研究してきた私にとっては興味深い物質でした。 そして、白血球由来のがん細胞が分化する過程でラクタシスチンがアポトーシスを惹起することを速誌に発表できたのが同年の12月でした。[参考文 献3]

細胞を扱って実験されたことがあるかたは CD 抗原になじみがおありかもしれません。CD は cluster of differentiation のことで、白血球の細胞表面抗原を「CD」の後ろに番号をつけて示しています。 骨髄細胞から派生していく分化細胞を追跡できるすばらしいシステムを目指しているのかと思ったりしたのですが、もともとは世界中の研究者が個別に得た、細胞を認識するモノクローナル抗体を表面抗原ごとに分類して整理することが目的だったようです。1982年に開催されたヒト白血球分化抗原(Human leukocyte differentiation antigen)の国際ワークショップにはじまり、現在までに CD371まで登録されています。表面抗原といっても全体像がわかっているわけではないので、間違いや怪しい事例もあって、取り消されたり修正した結果の欠番があります。要再評価の暫定命名を示す「w」や細胞の特定の状態での限定的発現を意味する「R」が番号のあとについていることもあります。

標的とする抗原が未同定のモノクローナル抗体をもっている研究者から以下のような相談がありました。「がん細胞に高発現している抗原に対するモノクローナル抗体をもっています。がん細胞の全たんぱく質を SDS-PAGE で分離しイムノブロットをおこなうと分子量が60K あたりのバンドが染まります。抗体が結合するバンドを質量分析計などを利用して同定したいと考えています。 具体的にどのような実験をすれば良いか教えて下さい。なお、SDS-PAGE のゲルをクマシーブリリアントブルー染色すると60K あたりの移動度には幾つものバンドが見えて、どのバンドが抗体で染まっているかは判断が難しいです。また、正常細胞をイムノブロットしたときは、同じ60K の位置にうっすらと染まるバンドがあります。

このごろ商標デザインをはじめ各分野での盗用を耳にします。少し前には研究のスキャンダルが一般社会へ漏れ出て大騒ぎになりましたね。ここでは、抗体は知的財産として確立するか、いいかえれば抗体を盗作してはいけないかという話を簡単に解説します。なお、私は法律の専門家ではないので、つきつめたところの判断はできません。 そのときは弁護士をやっている大学の同級生に相談してみます。結論から言うと、いまの技術では抗体のパクリは、厳密にはないと考えています。理由は抗体ができる過程をたどるとはっきりしてきます。免疫原としてもちいる抗原は作成者が考え、あるときはペプチド抗原などをデザインします。 ところがその先のステップで必ず、動物に抗原を投与します。ここはその動物まかせで作成者は介入できません。

研究論文に記載されている抗体は良い抗体だと思いますか? なぜこんな質問をしたかというと、手持ちの抗体を売ってもらう場合、論文を引用できることが必須条件だそうです。 もちろん、発表論文を見ればどんな抗体であるかわかるので、わざわざ効能書きを用意する必要がないです。 

実験操作の「固定」についてです。「固定(fixation)」はもともと、顕微鏡観察用の標本を作成する際に形態を保持するために加熱、凍結、薬品などで処理することをいいます。この過程でたんぱく質は変性・不溶化することが多いです。  抗体を用いた顕微鏡観察やフローサイトメトリーでは、サンプルの固定が必要になることがあります。 もちろんここで、抗原抗体の結合が損なわれてはいけないので、固定化条件は比較的温和で、パラホルムアルデヒドなどが多用されます。とはいっても、試薬の濃度や反応温度・時間など、どう設定したらよいか迷うかと思います。手軽な方法を紹介しておきます。

今夏2015の暑さは異常と言ってもいいほどで外を歩くのが怖かったですね。猛暑日にエンジニアが駆け込む場所はサーバールームという記事を見て大学在職時の実験室を思い出しました。大きなフロアには低温室があって真夏に出勤したときはまっすぐここに駆け込んで涼んだものです。 さて今回は、抗体に関わる実験をするときに、温度をどれくらい気にするかという話題です。抗血清から抗体をアフィニティー精製するときは、カラムへの目的抗体の結合と洗浄までは室温でかまわないです。

たんぱく質に対する抗体を作るときは、免疫原としてそのたんぱく質が必要です。以前は、たんぱく質を精製・純化しましたが、遺伝子が単離されているときはリコンビナントたんぱく質を用いることが多くなりました。そして1990年代に入ってペプチド合成の技術が普及しはじめると、たんぱく質の一部分を化学合成して免疫原に使う抗ペプチド抗体も選択肢のひとつに加わりました。 抗体分子はたんぱく質を構成する長いポリペプチド鎖のほんの数〜十数残基の領域に結合しますので、これくらいの長さのペプチドが合成できれば良いわけです。抗ペプチド抗体の技術は、抗原たんぱく質の特定の部分を狙って抗体を作成するので、モノクローン抗体に近い性質の抗体を得ることができ、リン酸化などたんぱく質の翻訳後修飾を識別する抗体の作成にも応用可能です。「抗ペプチド抗体はちょっと難しいし、あまりよい抗体ができないらしい」という声をときどき耳にします。いざ抗原ペプチドの設計をする段階で、遺伝子から翻訳される一次構造を眺めてどの部分のペプチドを抗原にしたらよいか迷ってしまうかもしれません。

モノクローナル抗体の作成技術は、Köhler と Milstein によって1975年に報告された画期的方法です。抗体産生細胞であるBリンパ球を腫瘍細胞と融合させて不死化することにより、単一の抗原決定基に対する抗体をつくる細胞をクローン化して増殖させることができます。 免疫動物の抗血清から調製したポリクローナル抗体と比較したときのモノクローナル抗体の特長を辞典で調べて列記してみました。 

分子生物学的技法をもっていて様々な抗体をつくりたいと思うとどうしてもここへ行き着くようです。一本鎖抗体(scFv, single chain Fv)は、抗原との結合に必要な抗体遺伝子の部分(重鎖と軽鎖の可変領域、それぞれ VH と VL)をリンカーを介して繋げた断片としファージに組み込んだものです。 通常は、抗体産生細胞である B リンパ球の集団から調製しますが、ここから様々な抗体を単離したいので、正常な(無感作の)動物由来の B 細胞を用います。

抗体って教科書や辞典で調べると例外なく、外来抗原に対して産生される抗原結合たんぱく質というように説明があります。それでは、血液中に存在する抗体=免疫グロブリンは何に結合するのでしょうか。血漿たんぱく質でもっとも多いのはアルブミンですが、免疫グロブリン(抗体)もその数分の一は普通に存在しています。 試薬メーカーのカタログで「ノーマル igG」で検索するとでてくるたんぱく質のことです。何にもくっつかないから「ノーマル IgG」というのかもしれませんが、ちょっと妙ですね。

はじめまして、大海 忍(おおうみしのぶ)です。抗体にかかわる話題を提供することになりました。私がはじめて抗体を意識したのは1970年代後半で大学院生の頃です。研究テーマの対象が原核生物だったせいか、高等動物の複雑なしくみを何となく避けていたようにも思えます。 抗体作製のエキスパートから手ほどきをうけながら、自ら精製した大腸菌受容体たんぱく質をウサギに注射したことを記憶しています。当時はもちろんイムノブロットのような検出技法がなかったので、 オクタロニーで抗体がうまくできたことを確認しました。ニトロセルロース膜に転写した電気泳動像を蛍光標識抗体で染め暗室で緑色に光るバンドを見て感激したのは何年かあとになります。いまでは、モノクローン抗体をはじめとする様々な技術があり、 抗体が身近で扱いやすい存在になりましたが、私にとって大きな転機はペプチド合成機との出会いでした。