リン酸化部位特異抗体はやや難しい
サイエンス出版部 発行書籍
たんぱく質のリン酸化は、数ある翻訳後修飾の中でも可逆的な反応の一つで、細胞内外の環境に呼応して起こるので、生体の情報伝達に関わる現象として研究されてきました。リン酸化されるアミノ酸残基は、主としてセリン(Ser; S)、トレオニン(Thr; T)およびチロシン(Tyr; Y)残基で、この反応を触媒するプロテインキナーゼは、リン酸化される部位の比較的狭い範囲を標的として、ATP からリン酸基を転移します。 リン酸化部位特異抗体は、リン酸化されたたんぱく質にだけ結合し、リン酸基がついてないときは、同じアミノ酸配列を認識しない抗体です。 この種の抗体を作るときは、まず、リン酸化部位を確定し、リン酸化されたアミノ酸を含む数アミノ酸残基を免疫原に使って抗ペプチド抗体作製を開始します。 ペプチドはどれくらいの長さが良いか?-----汎用性を高めるたいならば、短ければ短いほど良いですね。 実際、リン酸化チロシンの抗体は市販されています。これは、チロシン残基がリン酸化されたたんぱく質やペプチドを一網打尽に集めてくる実験に活用されます。リン酸化チロシンを束にしたペプチドを抗原にしてモノクローン抗体を得ていますが、良質のものを売っていますからいまさらご自分で作ることはないでしょう。同じやり方で、リン酸化されたトレオニンとセリンに対する抗体を作れるかなと誰でも考えますが、残念ながら実用的なものは難しいようです。 ちょうどこのあたりが、抗体分子の可変領域が上手く捕まえることができる限界なのでしょう。可変領域をコンパクトにしたミニ抗体ならば、低分子物質に特異的な「抗体」もできるとは思いますが、抗原に対して同等のアフィニティーが得られるかは不明です。 一般的なリン酸化部位特異抗体の抗原デザイン-----リン酸化部位がポリペプチド鎖の付近ではなく内部にある場合は、リン酸化部位を中心に
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著者: 大海 忍
このセクションは、元・東京大学医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリ 准教授 大海 忍 先生による抗体入門講座です。
抗体に関する様々な話題や抗体実験で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【大海 忍 先生 ご略歴】
1977年 東京大学理学部物理学科卒業
1978年 聖マリアンナ医科大学研究員
1983年 東京都臨床医学総合研究所 技術員
1987年 東京大学医科学研究所 助手
1992年 東京大学医科学研究所 助教授(准教授) 疾患プロテオミクスラボラトリ
2015年 バイオアソシエイツ株式会社 科学顧問に就任
【主な著書】
抗ペプチド抗体実験プロトコール(秀潤社)
細胞工学連載:ラボラトリーひとくちメモ(秀潤社)
抗ペプチド抗体ベーシック 立体構造情報から抗原を設計する(細胞工学 別冊)