質量分析

【2026年最新】質量分析装置・キット比較完全ガイド:価格・AI解析・サポート体制で選ぶ「失敗しない」導入戦略

1. 導入:2026年、質量分析は「ハード」から「AI統合」の時代へ

2026年現在、バイオ・ライフサイエンス研究における質量分析(MS)の役割は、劇的な転換点を迎えています。かつて研究者を悩ませていた「感度と速度のトレードオフ」は、Thermo Fisher Scientificの「Orbitrap Astral」やSCIEXの「ZenoTOF」といった革新的なハードウェアの登場により、ほぼ解消されました。しかし、ハードウェアの性能向上に伴い、生成されるデータ量は爆発的に増加し、新たな課題として「データ解析のボトルネック」と「運用コストの増大」が浮上しています。

今、機種選定で最も重要な視点は、単なるカタログスペックの数値比較ではありません。「AI(人工知能)がいかに統合されているか」そして「誰でも再現性高く運用できるか」です。例えば、AIを用いたピーク検出やキメラスペクトルのデコンボリューション(分離解析)技術は、装置の感度を物理的限界以上に引き上げる「ソフトウェアの魔法」として定着しつつあります。また、エネルギー価格の高騰を受け、消費電力や窒素ガスの消費量を抑えた「サステナブルな装置」であるかも、ラボの経営を左右する重要なファクターです。

本ガイドでは、カタログの行間にある「現場のリアル」に焦点を当てます。最新のハイエンド機からコストパフォーマンスに優れた定量機、そしてデータの質を左右する前処理キットまで、2026年の研究環境に最適化された選定基準を提示します。あなたのラボが次に導入すべきは、単なる測定器ではなく、研究の質を変革するパートナーです。

2. 製品選定の決定的な5要素:スペック比較の前に知るべき基準

質量分析計の導入は、数千万円から一億円を超える大型投資です。後悔しない選定のために、カタログ値の裏側にある「5つの判断基準」を押さえてください。

① アプリケーション適合性(Discovery vs Targeted)

「何でもできる装置」は存在しません。目的が「未知の探索(Discovery)」なのか「既知の定量(Targeted)」なのかで、選ぶべき技術は明確に分かれます。

  • Discovery(探索): プロテオミクスやメタボロミクスの網羅解析なら、OrbitrapやQ-TOFが必須です。特に2026年は、シングルセル解析に対応できる感度(timsTOF Ultra 2など)や、DIA(データ非依存取得)の速度(Orbitrap Astralなど)が重要視されています。
  • Targeted(標的): 薬物動態や残留農薬など、決まったターゲットを測るなら、堅牢なトリプル四重極(QqQ)一択です。最新機種(Xevo TQ Absoluteなど)は、感度だけでなく設置面積や消費電力の削減が進んでいます。

② 「実効感度」と「ダーティーサンプル耐性」

カタログ上の「感度(S/N比)」は、きれいな標準試料での値です。重要なのは、血漿や組織抽出液などの「汚いサンプル」を流した時のIDL(装置検出下限値)です。イオン源が汚れに強く、感度低下を起こしにくい設計(AgilentのVacShieldやSCIEXのOptiFlowなど)であるかが、長期的なデータ品質を左右します。

③ ソフトウェアとAI解析の統合

2026年のトレンドはAI解析です。Thermoの「CHIMERYS」のように、AIが重なったスペクトルを解読することで同定数を倍増させる技術や、SCIEXの「AI Quantitation」のようにピーク積分を自動化して人的エラーを排除する機能は必須となりつつあります。ハードウェアの性能をソフトウェアがどれだけ引き出せるかを確認してください。

④ ランニングコスト(TCO)とサステナビリティ

本体価格と同等以上に重要なのが、運用コストです。特に窒素ガス電気代は無視できません。液体窒素ボンベではなく窒素発生装置を導入することで、3年間で約30%のコスト削減が可能です。また、Watersのように消費電力を半減させたモデルは、電気代高騰の時代において強力な選択肢となります。

⑤ 国内サポート体制の質

装置が止まることは研究の停止を意味します。外資系メーカーであっても、日本国内のエンジニア拠点数部品供給のスピードには差があります。Agilentや島津製作所のような国内サポートが手厚いメーカーを選ぶか、あるいはリモート監視機能(StatusScopeなど)が充実しているかを確認しましょう。

3. 【2026年最新】主要質量分析装置・製品比較表

主要メーカーのフラッグシップモデルおよび主力製品を、特徴と推定価格帯で整理しました。

メーカーモデル名タイプコア技術・特長2026年の注目ポイント推定価格帯 (USD)
Thermo Fisher Orbitrap Astral Orbitrap / Astral 最高峰のプロテオミクス
Orbitrapの高分解能とAstralの超高速スキャン(200Hz)を融合。
1日で180サンプル、各8000タンパク質同定という圧倒的スループット。 $900k - $1.2M+
SCIEX ZenoTOF 7600+ Q-TOF 定量精度とPTM解析
Zeno Trapでイオン損失を防ぎ感度5-20倍。EADによる詳細構造解析。
新しい「Zeno SWATH DIA」により、低存在量タンパク質の定量性が飛躍的に向上。 $550k - $750k
Bruker timsTOF Ultra 2 TIMS Q-TOF シングルセル・微量解析
第4次元(CCS)分離でノイズ除去。シングルセル感度に特化。
25pg(細胞数個分)から5000タンパク質同定。AI解析「TIMScore」との連携強化。 $700k - $950k
Waters Xevo TQ Absolute Triple Quad (QqQ) ルーチン定量・省エネ
業界最小クラスの設置面積。感度とサステナビリティの両立。
従来機比で電力・ガス消費50%減。負イオン測定感度が非常に高い。 $300k - $500k
Agilent Revident LC/Q-TOF Q-TOF インテリジェンス・食品
「Intelligent Reflex」による自動再測定や異常検知。
真空を落とさずメンテ可能な「VacShield」標準装備。食品・環境スクリーニングに最適。 $450k - $600k
Shimadzu LCMS-TQ RX Triple Quad (QqQ) 堅牢性・国産サポート
CoreSpray技術による高感度化と、高い耐久性。
部品交換が容易な新設計。日本国内での圧倒的なサポート対応力。 要問い合わせ

4. 目的別おすすめ製品ランキング

👑 【Discovery / 最高精度】 予算を問わず、世界最高峰のデータを論文に載せたい

  1. Thermo Scientific Orbitrap Astral
    現在、プロテオームの「深度(同定数)」と「速度」において右に出るものはありません。大規模コホート解析やトップジャーナルを目指すならこれです。
  2. Bruker timsTOF Ultra 2
    シングルセル解析や、極微量サンプル(バイオプシー等)に特化するなら、Astralに匹敵・凌駕する感度を持ちます。

🚀 【Cost Performance / 定量+定性】 予算内で最大の成果を出したい

  1. SCIEX ZenoTOF 7600+
    高感度な定量能力と、EADによる構造解析能力のバランスが絶妙です。本体価格もAstralより抑えられており、創薬化学や多目的ラボに最適です。
  2. Agilent Revident LC/Q-TOF
    堅牢性が高く、食品や環境などのスクリーニング用途で非常に優秀です。VacShieldなどのメンテナンス機能により、運用ストレスが少ないのも利点です。

🏥 【Routine / ルーチン定量】 止まらない稼働と低ランニングコスト

  1. Waters Xevo TQ Absolute
    圧倒的な省エネ性能と省スペース。クリニカルラボや受託分析において、固定費(OPEX)削減に最も貢献します。
  2. Shimadzu LCMS-TQ RX Series
    日本国内での「止まらない」安心感は最強です。部品供給の速さとエンジニアの質で、日々の業務を確実にサポートします。

5. 前処理キット比較:データの質を決める「隠れた主役」

「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れたらゴミが出る)」の原則通り、どんなに高性能なMSも前処理が悪ければ性能を発揮できません。現在は、再現性を担保するためにキット化と自動化が主流です。

キット名メーカー原理特徴・推奨ユーザー
iST Kit PreOmics 固相抽出 【最速・標準】
溶解・消化・洗浄を1つのカートリッジで完結。操作が簡単でミスが起きにくい。世界中で標準化が進んでおり、初心者に最適。
S-Trap ProtiFi 懸濁トラップ 【高洗浄力・難溶性】
SDS等の強力な界面活性剤を使用したサンプルでも完全に除去可能。膜タンパク質や組織サンプルからの回収率に優れる。
EasyPep Thermo Fisher スピンカラム 【純正の安心感】
Thermo製MSとの親和性が高い。時短プロトコルとして設計されており、Thermoユーザーの導入キットとして一般的。

6. Q&Aセクション(よくある質問)

Q1: OrbitrapとTOF、結局どちらを選ぶべきですか?
A: 「分解能による分離」を重視するならOrbitrap、「スキャン速度と定量性」を重視するならTOF(ZenoTOFやtimsTOF)が一般的です。未知化合物の構造解析にはOrbitrapの超高分解能が有利ですが、広いダイナミックレンジでの定量や高速スキャン(DIAなど)にはTOFが適しています。ただし、Orbitrap Astralは両者の長所を併せ持ちます。

Q2: マニュアル前処理とキット、どちらがコスト的にお得ですか?
A: 試薬代単体ではマニュアルが安いですが、「人件費」「失敗による再実験コスト」「再現性」を含めるとキットが有利になるケースが多いです。PreOmicsなどのキットは誰がやっても同じ結果が出るため、データの信頼性が向上し、結果的に研究スピードが上がります。

Q3: メンテナンス頻度はどれくらいですか?自分で行えますか?
A: イオン源の洗浄は週〜月1回程度が目安です。最近のモデル(Agilent VacShield, Thermoメンテナンス機構など)は、真空を落とさずにユーザー自身でイオン源やキャピラリーのメンテナンスが可能な設計になっており、ダウンタイムを大幅に削減できます。

Q4: 窒素発生装置は導入すべきですか?
A: 週3日以上稼働させるなら、導入を強く推奨します。ボンベ交換の手間やガスの配送コスト高騰を考慮すると、1〜2年で元が取れる試算が多く、災害時の供給リスク(BCP対策)回避にもなります。

Q5: AI解析機能は必要ですか?
A: プロテオミクスで同定数を増やしたい場合(CHIMERYSなど)や、大量のデータを処理するルーチンワーク(SCIEX AI Quantitationなど)では、解析時間を劇的に短縮し精度を向上させるため、2026年現在はほぼ必須機能と言えます。


免責事項: 正確な価格や最新仕様については、各メーカーまたは正規代理店にお問い合わせください。

質量分析について

質量分析法は、タンパク質の研究と解析において、その精密さと多様性でバイオ研究者たちの間で広く受け入れられています。この先進的な技術は、タンパク質の同定から構造の解明、そして相互作用の分析に至るまで、生命科学の多岐にわたる分野で利用されています。本ガイドでは、質量分析法の基本的な原理から、タンパク質の役割、構造、相互作用、そしてその応用分野にわたる広範なトピックを探求します。タンパク質の構造と機能を理解することで、バイオ研究者は生命の複雑なネットワークを解き明かし、病気のメカニズムを理解し、新しい治療法を開発する手がかりを得ることができるでしょう。

1. 質量分析法の基本

a. イオン化のプロセス

質量分析法は、物質をイオン化し、それらのイオンを質量に基づいて分析する技術です。イオン化は、分子から電子を取り除くか、追加するプロセスであり、これによって分子が電荷を帯びます。イオン化の方法には、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)、電気スプレーイオン化(ESI)などがあります。

b. イオンの分離と検出

イオン化された分子は、質量分析器に送られ、その質量に基づいて分離されます。質量分析器のタイプには、四重極、飛行時間(TOF)、イオントラップなどがあります。分離されたイオンは、検出器で検出され、質量スペクトルとして出力されます。

c. データ解析と解釈

質量スペクトルは、サンプルの質量と相対的な強度を示します。このデータは解析され、物質の同定や定量に利用されます。質量分析法は、物質の質量、構造、および化学的性質を決定するのに使用されます。

d. 質量分析法の応用

質量分析法は、化学、生物学、薬学、環境科学など、多くの科学的分野で広く利用されています。タンパク質の同定、代謝物の分析、複雑な生物学的サンプルのプロファイリングなど、多岐にわたるアプリケーションがあります。

質量分析法は、その高い感度と精度により、極めて微量のサンプルからも詳細な情報を提供します。これにより、科学者は物質の構造と性質を深く理解し、新しい物質を発見し、病気の診断や治療に貢献することができます。

 

2. タンパク質の役割と重要性

a. タンパク質の基本構造

タンパク質はアミノ酸と呼ばれる単位から構成され、これらはペプチド結合によって連結されています。タンパク質の構造は、一次(アミノ酸配列)、二次(α-ヘリックスやβ-シートなどの局所的な折りたたみ)、三次(全体の折りたたみ構造)、四次(複数のポリペプチド鎖の組み合わせ)の4つのレベルで定義されます。

b. 生物学的プロセスにおける役割

タンパク質は、生物体の構造を形成し、シグナル伝達、免疫応答、細胞間通信、および多くの生化学的反応を触媒する役割を果たします。エンザイム、ホルモン、抗体など、多くの異なるタイプのタンパク質が存在し、それぞれが特定の機能を持っています。

c. タンパク質の発現と調節

遺伝情報はDNAにコードされており、この情報はRNAを介してタンパク質に翻訳されます。タンパク質の発現は、細胞のニーズに応じて調節され、これには複雑なシグナル伝達と調節メカニズムが関与しています。

d. タンパク質の異常と病状

タンパク質の異常な折りたたみや機能不全は、多くの病気、例えばアルツハイマー病やシャイ・ドレーガー症候群などの原因となります。タンパク質の研究は、これらの病状の理解と治療法の開発に寄与しています。

タンパク質は生命の多くの側面に深く関与しており、その機能と調節メカニズムを理解することは、生物学、医学、薬学など、多くの科学分野において基本的かつ不可欠です。

 

3. タンパク質の質量分析法におけるイオン化

a. イオン化の重要性

タンパク質の質量分析法では、イオン化プロセスが中心的な役割を果たします。イオン化は、分子を電荷を帯びたイオンに変換し、質量分析器で検出可能にします。タンパク質のイオン化効率は、その構造と使用されるイオン化技術に依存します。

b. 電気スプレーイオン化(ESI)

ESIは、タンパク質のソフトイオン化法の一つで、タンパク質溶液を高電圧で電荷を帯びた微小な液滴に変換します。液滴は乾燥し、プロトン化されたタンパク質イオンが生成されます。ESIは、タンパク質の複合体や非共有結合の研究にも利用されます。

c. マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)

MALDIは、タンパク質を特定のマトリックス物質で結晶化し、レーザー光を照射してイオン化します。この方法は、ペプチドやタンパク質の高速分析に適しており、タンパク質の質量を正確に測定することができます。

d. 電子移動解離(ETD)

ETDは、タンパク質のフラグメンテーションを促進し、ポストトランスレーショナル修飾やタンパク質/ペプチドの配列情報を提供します。ETDは、特にフラグメントイオンの配列情報を必要とするタンパク質の同定や構造解析に利用されます。

e. イオン化とタンパク質の構造

イオン化プロセスは、タンパク質の構造と動態に影響を与える可能性があります。そのため、イオン化方法の選択は、分析対象のタンパク質の性質と研究目的によって異なります。

イオン化は、質量分析法におけるタンパク質分析の基本的なステップであり、選択されるイオン化法は、分析の目的とサンプルの特性に強く依存します。これらのテクニックは、タンパク質の同定、構造解析、および相互作用の研究に広く利用されています。

 

4. タンパク質の同定とキャラクタリゼーション

a. ペプチドマッピング

ペプチドマッピングは、タンパク質のアミノ酸配列を確認する基本的な手法です。タンパク質は酵素で分解され、得られたペプチドは質量分析法によって分析されます。ペプチドの質量と配列は、データベースと照らし合わせてタンパク質を同定します。

b. ポストトランスレーショナル修飾の解析

タンパク質のポストトランスレーショナル修飾(PTM)は、タンパク質の機能と活動を調節します。質量分析法は、PTMの位置とタイプを同定し、タンパク質の機能的なコンテキストを提供します。

c. タンパク質-タンパク質相互作用

タンパク質の相互作用の研究は、生物学的プロセスを理解する上で不可欠です。質量分析法は、タンパク質複合体の同定と、タンパク質間の結合を詳細に調べるのに利用されます。

d. タンパク質の立体構造解析

タンパク質の立体構造は、その機能と活動に密接に関連しています。質量分析法は、クロスリンキングや水素/重水素交換などの技術を利用して、タンパク質の立体構造と動態を解析します。

e. タンパク質の定量分析

質量分析法を使用して、特定のタンパク質の濃度を定量的に測定することも可能です。これは、生物学的サンプル内のタンパク質の相対的または絶対的な存在量を決定するのに役立ちます。

タンパク質の同定とキャラクタリゼーションは、その機能、相互作用、および生物学的なコンテキストを理解するための基本です。質量分析法は、これらの情報を提供し、タンパク質の役割と機能を解明するのに広く利用されています。

 

5. LC-MSによるタンパク質分析

a. 液体クロマトグラフィー(LC)の基本

液体クロマトグラフィー(LC)は、サンプルをその成分に分離する技術です。タンパク質やペプチドは、カラムを通過する速度に基づいて分離され、これはその化学的性質(例えば、親水性や疎水性)に依存します。LCは、複雑なサンプルから特定の成分を分離し、分析を容易にします。

b. 質量分析(MS)の役割

質量分析(MS)は、分子の質量を測定し、化合物を同定する技術です。LCによって分離された成分は、MSによって一つずつ分析され、その質量と構造の情報が得られます。

c. LC-MSの組み合わせ

LC-MSは、LCによる分離とMSによる同定・定量を組み合わせた強力な分析手法です。タンパク質やペプチドは、まずLCで分離され、次にMSでその質量が測定され、同定および定量が行われます。

d. タンパク質の同定と定量

LC-MSは、タンパク質の同定と定量の両方に利用されます。ペプチドマッピングとデータベース検索を組み合わせることで、サンプル中のタンパク質を同定します。また、特定のイオンの強度を測定することで、タンパク質の定量も可能です。

e. ポストトランスレーショナル修飾の解析

LC-MSは、タンパク質のポストトランスレーショナル修飾(PTM)の解析にも広く利用されています。分離されたペプチドはMSで分析され、修飾の位置とタイプが同定されます。

LC-MSは、その高感度と広い動的範囲により、タンパク質科学、代謝物プロファイリング、バイオマーカーの発見など、多岐にわたる応用を持っています。

 

6. タンパク質の定量分析

a. 定量分析の重要性

タンパク質の定量分析は、生物学的サンプル中のタンパク質の存在量を測定するプロセスであり、生物学的および病理学的プロセスの理解、バイオマーカーの同定、治療応答のモニタリングなどに不可欠です。

b. 絶対定量と相対定量

タンパク質の定量分析には、絶対定量と相対定量の2つのアプローチがあります。絶対定量は、サンプル中のタンパク質の正確な濃度を測定します。一方、相対定量は、異なるサンプル間でのタンパク質の存在量の比較を提供します。

c. ラベルフリー定量

ラベルフリー定量は、標識を使用せずにタンパク質を定量します。これは、MSのピーク強度やピーク面積を使用して、タンパク質の存在量を推定します。

d. ラベルを使用した定量

ラベルを使用した定量法(例:iTRAQ、TMT)では、異なるサンプルのタンパク質に異なる同位体ラベルを付加し、MS分析を通じて同定および定量を行います。これにより、複数のサンプルを同時に分析し、相対的な存在量を比較することができます。

e. ターゲット定量

ターゲット定量は、特定のタンパク質に焦点を絞ったアプローチで、MRM(Multiple Reaction Monitoring)などの技術を使用して、高感度かつ高スループットな分析を可能にします。

タンパク質の定量分析は、研究の多くの側面で中心的な役割を果たします。これには、タンパク質の発現の変動、異なる治療条件や病態との関連、および生物学的プロセスの動態の理解が含まれます。

 

7. タンパク質のポストトランスレーショナル修飾

a. ポストトランスレーショナル修飾(PTM)の概要

ポストトランスレーショナル修飾(PTM)は、タンパク質が翻訳された後に起こる化学的変更であり、タンパク質の機能、局在、および相互作用を調節します。これには、リン酸化、メチル化、アセチル化など、多くのタイプの修飾が含まれます。

b. リン酸化と脱リン酸化

リン酸化は、シグナル伝達、タンパク質の活性化、および細胞周期の制御など、多くの細胞プロセスにおいて中心的な役割を果たします。逆のプロセスである脱リン酸化も同様に重要です。

c. アセチル化とメチル化

アセチル化とメチル化は、主にタンパク質のクロマチン構造と遺伝子発現の調節に関与しています。これらの修飾は、ヒストンタンパク質に頻繁に見られ、エピジェネティックな制御メカニズムにおいて重要です。

d. ウビキチン化とSUMO化

ウビキチン化とSUMO化は、タンパク質の安定性、細胞周期の進行、およびシグナル伝達に影響を与えます。これらの修飾は、タンパク質の分解を誘導するか、またはタンパク質の活動や局在を変更します。

e. グリコシル化

グリコシル化は、タンパク質の安定性、折りたたみ、および細胞間認識に影響を与えます。これは、細胞表面のタンパク質や分泌タンパク質に一般的に見られる修飾です。

PTMは、タンパク質の多様な機能を制御し、細胞の応答と動態を調節します。質量分析法は、これらの修飾を同定し、その動態を解析する強力なツールとなっています。

 

8. タンパク質複合体と相互作用の分析

a. タンパク質間相互作用の重要性

タンパク質間の相互作用は、細胞の機能と生物学的プロセスを制御します。これらの相互作用は、シグナル伝達、細胞サイクル、およびメタボリズムなど、生命現象の多くに不可欠です。

b. 共免疫沈降法(Co-IP)

共免疫沈降法は、特定のタンパク質とその相互作用パートナーを同定するための一般的なアプローチです。抗体を使用してターゲットタンパク質を「引き寄せ」、結合しているタンパク質を分析します。

c. タンデムアフィニティ精製(TAP)

TAP法は、タンパク質複合体を精製し、その構成成分を同定するためのテクニックです。タンパク質は、2つのアフィニティタグを使用して連続的に精製され、質量分析法によって分析されます。

d. クロスリンキング質量分析法

クロスリンキング質量分析法は、タンパク質複合体内の近接するアミノ酸残基を同定し、タンパク質間の距離制約を提供します。これは、タンパク質複合体の3D構造を解析するのに役立ちます。

e. プロキシミティラベリング法

プロキシミティラベリング法は、特定のタンパク質の近傍に存在するタンパク質を同定するテクニックです。活性化された生物学的プローブは、近くのタンパク質を「マーク」し、その後、質量分析法で同定されます。

タンパク質の相互作用と複合体形成は、細胞内での多くのプロセスを調節し、その異常は多くの病状と関連しています。これらのテクニックは、タンパク質ネットワークと複合体の構造を解明し、生物学的プロセスを理解するのに不可欠です。

 

9. タンパク質の構造生物学

a. タンパク質構造の重要性

タンパク質の3D構造は、その機能と相互作用を深く理解する鍵となります。構造生物学は、タンパク質の形と動きを明らかにし、その生物学的役割を解明します。

b. X線結晶構造解析

X線結晶構造解析は、タンパク質の原子レベルでの3D構造を決定する主要な手法です。タンパク質を結晶化し、X線を照射することで、電子密度マップを生成し、タンパク質の構造を解析します。

c. NMR分光法

核磁気共鳴(NMR)分光法もまた、タンパク質の3D構造を解析する手法です。NMRは、原子核の磁気的性質を利用して、タンパク質の動的な構造と相互作用を研究します。

d. クライオ電子顕微鏡

クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)は、急速に進化しているタンパク質構造解析の手法で、特に大きなタンパク質複合体の研究に利用されます。サンプルを氷で急速冷却し、電子顕微鏡でイメージを取得します。

e. タンパク質モデリング

コンピュータを使用したタンパク質モデリングは、実験的手法と組み合わせて、タンパク質の構造と動態を理解するのに役立ちます。モデリングは、既知の構造を基に新しいタンパク質の構造を予測します。

タンパク質の構造生物学は、分子の形と機能の関係を理解し、ドラッグデザインと病気のメカニズムの研究に不可欠な分野です。これらの技術は、タンパク質の構造を解明し、その機能と相互作用を理解するのに用いられます。

 

10. 質量分析法の応用分野

a. プロテオミクス

質量分析法は、プロテオミクスの中核的な技術であり、タンパク質の同定、定量、ポストトランスレーショナル修飾(PTM)の解析を行います。これにより、タンパク質の発現、修飾、相互作用を包括的に調べることができます。

b. メタボロミクス

メタボロミクスでは、生物学的サンプル中の低分子量化合物(メタボライト)のプロファイルを分析します。質量分析法は、メタボライトの同定と定量に広く利用されています。

c. ファーマコキネティクスとファーマコダイナミクス

質量分析法は、薬物の濃度を精密に測定し、その吸収、分布、代謝、排泄(ADME)プロファイルを解析するのに利用されます。これは、新しい薬物の開発と評価に不可欠です。

d. 環境分析

質量分析法は、環境サンプル(例:水、土壌)中の汚染物質を同定し、定量するのにも使用されます。これにより、汚染の源と動態を追跡し、リスク評価をサポートします。

e. 食品安全と品質

食品サンプル中の有害物質(例:残留農薬、毒素)や添加物を検出し、定量するためにも質量分析法が利用されます。また、食品のオーセンティシティと品質も評価します。

質量分析法は、その高感度と高解像度により、多くの科学的応用分野で広く利用されています。それぞれの応用分野では、質量分析法を利用して得られたデータが、科学的な洞察と意思決定を支えています。