mRNAを用いた革新的治療が眼疾患の新たな希望に—PVR治療の可能性を示唆する前臨床研究 マサチューセッツ眼科・耳鼻科病院(Mass Eye and Ear) の研究チームは、mRNAを活用した新しい治療法が増殖硝子体網膜症(PVR)の予防に有効である可能性 を示す前臨床研究を発表しました。PVRは眼の外傷や網膜剥離手術後の合併症として発症し、網膜内で瘢痕組織が形成され、最終的に失明を引き起こす疾患です。現在の唯一の治療法は手術ですが、その手術自体がPVRを誘発するリスクを伴います。 研究の成果は、2024年11月27日付のScience Translational Medicine に掲載されました。論文タイトルは、「An mRNA-Encoded Dominant-Negative Inhibitor of Transcription Factor RUNX1 Suppresses Vitreoretinal Disease in Experimental Models(mRNAエンコード型優性阻害因子RUNX1が実験モデルにおける硝子体網膜疾患を抑制する)」 です。 本研究の共同責任著者であり、マサチューセッツ眼科・耳鼻科病院のレオ・A・キム博士(Leo A. Kim, MD, PhD) は、「本研究は、mRNAベースの治療を眼内に適用できることを初めて示したものです。我々は、このアプローチが過度な炎症を引き起こさずに機能することに驚きました。この技術が将来的にPVRや他の眼疾患の新たな治療法となることを期待しています」と述べています。 PVRとは?—瘢痕組織が引き起こす失明のメカニズム PVRは、眼の損傷や手術後に形成される瘢痕組織 が収縮し、網膜剥離を引き起こす疾患です。この疾患の本質は、外傷そのものではなく、その後の異常な瘢痕形成にありま

先天性心疾患の発生要因に新たな知見 ー 胎盤の異常が心疾患を引き起こすメカニズムを解明 先天性心疾患は、ヒトにおいて最も一般的な先天的異常であるにもかかわらず、その発生要因は未だ完全には解明されておりません。過去の研究では、一部の心疾患が胎盤の異常によって引き起こされる可能性が示唆されていました。胎盤は、発生中の胚に酸素や栄養を供給する重要な器官です。しかし、胎盤の異常と先天性心疾患との具体的な関係については不明な点が多く残されていました。 このたび、中国・南京大学の研究者らは、この関連性を裏付ける重要な証拠を提示しました。研究チームは、先天性心疾患を持つ多くの患者において低下していることが報告されているタンパク質 SLC25A1 に着目しました。このタンパク質は、細胞内でクエン酸を輸送する役割を担っており、クエン酸の代謝産物が遺伝子の発現に影響を及ぼす可能性があります。しかし、SLC25A1が失われることで、どのようにして先天性心疾患が引き起こされるのか、そのメカニズムは不明でした。 本研究では、マウスの発生過程において SLC25A1 の機能を特定の組織で欠失させる実験 を行い、どの組織におけるSLC25A1の欠失が心疾患の発症に関与しているのかを解析しました。その結果、SLC25A1の喪失が直接心臓の形成に影響を与えるのではなく、胎盤の成長異常を引き起こし、その結果として心疾患が発生することが明らかになりました。この研究成果は、2024年11月26日付の科学雑誌『Development』に掲載されました。論文タイトルは 「SLC25A1 Regulates Placental Development to Ensure Embryonic Heart Morphogenesis(SLC25A1は胎盤の発生を制御し、胎児の心臓形態形成を確保する)」 です

免疫システムの新たな発見—再感染時に異なるB細胞が活躍する仕組みとは? インフルエンザなどの感染症は、常に進化を続け、免疫システムの監視を巧みにすり抜けながら何度も再感染を引き起こします。しかし、幸いなことに、一度感染した後の再感染では、最も重篤な症状に至ることは少なくなります。その理由は、私たちの免疫システムが B細胞 を訓練し、ウイルスを迅速に排除できるようになるためです。初感染時、免疫システムは 胚中心(germinal center) という特殊な組織内でB細胞を育成し、ウイルスを識別・攻撃する能力を獲得させます。 そして、その後もB細胞はスタンバイし、再感染時には「記憶抗体」を素早く生成します。長らく科学者たちは、この仕組みこそが感染症に対する防御の中心であると考えてきました。しかし、新たな研究により、再感染時に 「再活性化された胚中心(recall germinal centers)」 が、まったく異なる防御戦略を取ることが明らかになりました。 2024年7月9日付の学術誌 『Immunity』 に掲載された論文 「Opposing Effects of Pre-Existing Antibody and Memory T Cell Help on the Dynamics of Recall Germinal Centers(既存の抗体と記憶T細胞が再活性化胚中心の動態に与える相反する影響)」 によると、再感染時には既存のB細胞が即座に活動を開始する一方で、新たなB細胞が動員され、変異したウイルスに対する新しい抗体が作られることが明らかになったのです。 既存のB細胞と新規B細胞の二層システム—免疫記憶の進化的戦略 この研究は、ロックフェラー大学 の ガブリエル・ヴィクトラ博士(Gabriel Victora, PhD) の研究室に所属する大

南アジア系英国人における2型糖尿病の早発リスクと遺伝的要因:クイーンメアリー大学ロンドンの最新研究 クイーンメアリー大学ロンドン(Queen Mary University of London)の最新研究によると、南アジア系英国人における2型糖尿病(T2D)の早発は、インスリン分泌の低下と健康的でない脂肪分布に関する遺伝的素因が主な要因であることが明らかになりました。これらの遺伝的要因は、糖尿病合併症の進行を加速させ、インスリン治療の必要性を早め、特定の薬剤への反応を低下させる可能性があることも示されています。 この研究成果は、2024年11月26日に学術誌Nature Medicineに掲載され、論文タイトルは「Genetic Basis of Early Onset and Progression of Type 2 Diabetes in South Asians(南アジア系における2型糖尿病の早発および進行の遺伝的基盤)」です。本研究は、異なる集団間での遺伝的多様性が、疾患の発症、治療反応、進行にどのような影響を及ぼすのかを解明する必要性を強く示唆しています。 Genes & Healthプロジェクトによる大規模遺伝データの解析 本研究は、英国バングラデシュ系およびパキスタン系住民6万人以上が参加するコミュニティベースの遺伝研究プロジェクト「Genes & Health」のデータを活用しています。研究者たちは、イギリス国民保健サービス(NHS)の医療記録と遺伝情報をリンクさせ、2型糖尿病を診断された9,771名と、糖尿病のない34,073名のデータを解析しました。 これまでの研究では、南アジア系の被験者が極めて少ないことが課題とされてきました。しかし、本研究では、partitioned polygenic scores(pPS

ベルベットアリの猛毒が異なる分子経路を通じて昆虫と哺乳類を標的にすることを解明 ベルベットアリ(Velvet Ants)が持つ激痛を引き起こす毒は、昆虫と哺乳類に対して異なる分子経路を利用することが明らかになりました。この発見により、「爆発的かつ持続的」と形容されるベルベットアリの刺傷が、脊椎動物(哺乳類)と無脊椎動物(昆虫)の両方の捕食者から身を守る仕組みが解明されました。 米国の研究者らが行った本研究では、インディアナ大学のW・ダニエル・トレーシー博士(W. Daniel Tracey, PhD)を中心とするチームが、ベルベットアリの毒が異なる分子メカニズムを介して昆虫と脊椎動物の痛覚を刺激することを発見しました。 特に、Do6aと呼ばれる単一のペプチドが、昆虫の痛覚受容体をPickpocket/Balboa(Ppk/Bba)イオンチャネルを介して強力に活性化する一方で、他の毒成分がマウスの痛覚反応を引き起こすことが確認されました。さらに、カマキリを用いた観察によって、ベルベットアリの毒が昆虫の捕食者に対しても有効に機能することが示されました。 この研究は2025年1月20日にオープンアクセス誌「Current Biology」に掲載されました。論文のタイトルは、「Multiple Mechanisms of Action for an Extremely Painful Venom(極めて痛みを伴う毒の複数の作用機序)」です。 ショウジョウバエを用いたベルベットアリ毒のメカニズム解明 動物界では、毒は強力な防御手段として進化してきました。これらの化学カクテルには、数百種類のタンパク質、ペプチド、低分子化合物、塩類が含まれ、捕食者の痛覚経路(侵害受容経路)を標的とすることで防御機能を果たします。 ベルベットアリ(ハチ目: ムチル科, H

血管の沈黙の守護者:Nucleoporin93の役割と加齢に伴う血管健康の新たな視点 近年の研究により、血管内皮細胞(EC:endothelial cells)は血管保護において極めて重要な役割を果たす動的なインターフェースであることが明らかになってきました。この重要なテーマを取り上げたエディトリアルが、学術誌「Aging(Albany NY)」(MEDLINE/PubMed掲載名)および「Aging-US」(Web of Science掲載名)の第16巻第17号にて発表されました。本エディトリアル「The Silent Protector: Nucleoporin93’s Role in Vascular Health(沈黙の守護者:Nucleoporin93の血管健康における役割)」は、イリノイ大学シカゴ校医学部(The University of Illinois at Chicago College of Medicine)のジュリア・ミハルキエヴィッチ(Julia Michalkiewicz)、トゥン・D・グエン(Tung D. Nguyen)、モニカ・Y・リー(Monica Y. Lee)らによって執筆されました。 このエディトリアルでは、Nucleoporin93(Nup93)というタンパク質が加齢に伴う血管健康の維持に極めて重要であることを強調しています。近年の研究では、Nup93が心血管疾患や脳卒中などの加齢関連疾患の予防・軽減に向けた治療標的となり得る可能性が示唆されています。 血管老化とNup93の関係 心血管疾患は世界的に主要な死因の一つであり、その最大のリスク因子の一つが加齢です。血管の健康は、血管内皮細胞(EC)の機能によって維持されていますが、加齢とともにこの細胞の機能が低下し、慢性炎症、動脈硬化、血流の減少などが生じます。そ

バクテリオファージを活用した革新的な細菌検出テスト—食品安全と診断技術を一変させる新手法 細菌汚染を簡単に判別できる新たな検査技術が、カナダのマクマスター大学 の研究チームによって開発されました。この技術は、バクテリオファージ(bacteriophage) を利用し、サンプル中に病原菌が存在するかどうかを 色の変化 で簡単に確認できるという画期的なものです。 この技術により、食品の安全性が向上し、感染症の診断が より迅速かつ簡便 になることが期待されています。本研究成果は、2024年11月26日付の『Advanced Materials』 に掲載されました。 論文タイトルは、「Bacteriophage-Activated DNAzyme Hydrogels Combined with Machine Learning Enable Point-of-Use Colorimetric Detection of Escherichia coli(バクテリオファージ活性化DNAザイムハイドロゲルと機械学習による大腸菌の簡易比色検出)」 です。 バクテリオファージを活用した「色で判別する細菌検査」とは? この新技術では、無害なバクテリオファージを特殊なバイオジェル内に埋め込み、水や尿、牛乳などの液体中の細菌を検出 します。 この技術のポイントは以下の通りです。 ターゲットの細菌が存在する場合 バクテリオファージが細菌を攻撃し、細菌内の分子が放出される → バイオジェルが反応し、色が変化 ターゲットの細菌が存在しない場合 色の変化なし → 汚染がないことを確認できる このプロセスは わずか数時間 で完了し、従来の細菌培養検査(2日以上必要)よりも圧倒的に迅速 に結果を得ることができます。 「バクテリオファージ」の特性を活かした高精度検

「爆発するキュウリ」の謎がついに解明—オックスフォード大学の研究が明かす種子散布の巧妙なメカニズム オックスフォード大学の研究チームが、科学者たちを何世紀にもわたり悩ませてきた謎を解明しました。それは、「爆発キュウリ(squirting cucumber)」ことEcballium elateriumが、どのようにして種子を遠くに飛ばすのかという疑問です。この研究成果は、2024年11月25日にProceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)誌に掲載されました。論文タイトルは「Uncovering the Mechanical Secrets of the Squirting Cucumber(爆発するキュウリの機械的秘密の解明)」です。 「爆発するキュウリ」とは? Ecballium elaterium(エクバリウム・エラテリウム)はウリ科(Cucurbitaceae)に属する植物で、メロン、カボチャ、ズッキーニなどと近縁ですが、その種子散布方法は極めて特異です。 この植物の果実は熟すと茎から外れ、内部の粘液に包まれた種子を高圧のジェット噴射で弾き飛ばす仕組みを持っています。 種子の発射速度:約20m/s 種子が到達する距離:果実の長さの最大250倍(約10m) 散布時間:わずか30ミリ秒 古代ギリシャ・ローマ時代から知られていたこの現象は、プラウィニウス(Pliny the Elder, AD 23/24–AD 79)によっても記録されており、「このキュウリは未熟なうちに切らないと、種子が飛び散り、目を傷つける可能性がある」と述べられています。 しかし、この種子散布の詳細なメカニズムは長年解明されていませんでした。 最新技術を駆使した研究—種子散布の秘密を解明 本研究では、オッ

経口オキシトシン類似ペプチドが慢性腹痛治療の新たな可能性を示す—ウィーン大学研究チームが開発 ウィーン大学(University of Vienna)のマルクス・ムッテンタラー博士(Markus Muttenthaler, PhD)率いる研究チームが、慢性腹痛の経口治療薬となる新しいペプチドリード化合物を開発しました。本研究は、2024年10月9日にAngewandte Chemie国際版に掲載されました。この革新的な治療アプローチは、過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)などの疾患に対する、安全で非オピオイドベースの新しい選択肢を提供します。論文タイトルは「Oxytocin Analogues for the Oral Treatment of Abdominal Pain(腹痛の経口治療のためのオキシトシン類似体)」です。 革新的な疼痛管理アプローチ 現在、慢性腹痛の治療にはオピオイド系鎮痛薬が一般的に使用されています。しかし、オピオイドは以下のような重大な副作用を引き起こす可能性があります。 依存症のリスク(opioid addiction)—世界的なオピオイド危機を加速 消化器系の副作用(nausea, constipation)—嘔吐や便秘を引き起こす 中枢神経系への影響(fatigue, drowsiness)—疲労や眠気による生活の質(QoL)の低下 このような背景から、オピオイドに依存しない安全な治療法が求められています。 ムッテンタラー博士のチームは、この課題に対する解決策として、腸のオキシトシン受容体(oxytocin receptor)を標的とする新しい治療法を開発しました。 オキシトシンとは? オキシトシンは「愛情ホルモン(love hormone)」として知られていますが、痛みの調節にも関与することが明

睡眠と概日リズムデータのみで気分障害のエピソードを予測する新モデルを開発 韓国のIBS(Institute for Basic Science, 基礎科学研究院)生物医学数学グループの主任研究者であるジェ・キョン・キム博士(Jae Kyoung Kim, PhD)と、高麗大学医学部のイ・ホンジョン教授(Heon-Jeong Lee)が率いる研究チームは、ウェアラブルデバイスで取得した睡眠および概日リズムデータのみを用いて、気分障害患者の気分エピソードを予測できる新たなモデルを開発しました。気分障害は睡眠や概日リズムの乱れと深く関係しています。スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスの普及により、日常生活の中で健康データを容易に収集できるようになり、睡眠-覚醒パターンの解析が気分エピソードの予測において重要性を増しています。しかし、従来のモデルは多様なデータを必要とし、データ収集コストが高く、実用化が難しいという課題がありました。 この課題を解決するために、研究チームは睡眠-覚醒パターンのみを用いた気分エピソード予測モデルを開発しました。 研究チームは、168名の気分障害患者の429日分のデータを分析し、36種類の睡眠および概日リズムの特徴を抽出しました。これらの特徴を機械学習アルゴリズムに適用したところ、うつ病エピソード、躁病エピソード、軽躁病エピソードをそれぞれ高精度(AUC値:0.80、0.98、0.95)で予測することに成功しました。 さらに、概日リズムの日々の変動が気分エピソードの主要な予測因子であることを発見しました。具体的には、概日リズムの遅延はうつ病エピソードのリスクを高め、概日リズムの前進は躁病エピソードのリスクを高めることが明らかになりました。この発見により、個々の概日リズムの変化を追跡することで、将来の気分エピソードを予測する新たな可能性が

灰色かび病(Gray Mold)として知られる Botrytis cinerea は、世界中のブドウ畑にとって重大な脅威であり、生育期間中および収穫後の品質低下とともに、多大な収穫損失を引き起こします。気候変動によってこの問題がさらに深刻化する中で、病害抵抗性を持つブドウ品種の開発がこれまで以上に求められています。病原体とブドウの遺伝的相互作用を理解することは、このような攻撃に耐えうる作物を育成するために不可欠です。こうした課題を踏まえ、ブドウの免疫機構を強化するための先進的な遺伝的介入を探るさらなる研究が必要とされています。 2024年7月10日に Horticulture Research 誌に発表された新しい研究(DOI: 10.1093/hr/uhae182)において、中国の南京林業大学(Nanjing Forestry University)および西北農林科技大学(Northwest A&F University)の研究者らは、CRISPR/Cas9技術を活用してブドウの Botrytis cinerea に対する抵抗性を強化することに成功しました。この先駆的な研究は、ブドウの免疫応答のメカニズムを詳細に分析し、より抵抗性の高いブドウ品種の育成に貢献する重要な遺伝子を特定しています。正確な遺伝子編集技術を活用することで、研究者らは非遺伝子組換え(Non-GMO)のブドウを生み出し、灰色かび病という世界的なブドウ産業の大きな課題に対処することを目指しています。本研究のオープンアクセス論文のタイトルは「Grapevine Gray Mold Disease: Infection, Defense and Management(ブドウの灰色かび病:感染、防御、管理)」です。 本研究では、Botrytis cinerea がブドウに感染する過程を詳細に解析

生体脳内の遺伝子活性を解析する新技術—てんかん治療と脳疾患研究に革新 フューチャーニューロ(FutureNeuro)、アイルランド国立脳科学研究センター(Research Ireland Centre for Translational Brain Science)、およびRCSI医科大学(RCSI University of Medicine and Health Sciences) の研究者らが、生きたヒト脳内の遺伝子活性を高解像度でプロファイルする画期的な技術を開発しました。本研究は、2024年11月14日にJCI Insight誌に掲載されました。 論文タイトルは「High-Resolution Multimodal Profiling of Human Epileptic Brain Activity Via Explanted Depth Electrodes(摘出された深部電極を用いたヒトてんかん脳活動の高解像度多モードプロファイリング)」です。 この革新的なアプローチは、てんかんなどの神経疾患の理解と治療に新たな可能性をもたらします。 生体脳内の遺伝子活性解析の課題 これまで、ヒト脳の遺伝子活性を調べるには、手術で摘出した組織や死後の脳サンプルを用いる必要がありました。しかし、これらの方法では、生きた脳内でどの遺伝子が活性化・不活性化されているのかをリアルタイムに解析することが困難でした。 今回の研究では、てんかん患者の脳に埋め込まれた電極を利用し、RNAやDNAといった分子データを取得することで、リアルタイムの遺伝子活動の「スナップショット」を取得することに成功しました。 てんかん患者の脳内での実験—電極を活用した新たなアプローチ 本研究では、てんかん手術のために患者の脳に埋め込まれた深部電極を活用しました。これらの電極は、

肥満と2型糖尿病の新たな関係—脂肪細胞のサイズが糖代謝を左右する鍵 脂肪組織は食事からのエネルギーを蓄え、正常な糖代謝を維持するために不可欠な役割を果たします。しかし、肥満になると脂肪細胞が肥大化し、適切に機能しなくなることが知られています。この現象の分子メカニズムを、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のクラウディオ・ビジャヌエバ博士(Dr. Claudio Villanueva)率いる研究チームが解明しました。 本研究では、肥満によって脂肪幹細胞がリボソーム因子(ribosomal factors)を十分に産生できなくなることが、脂肪細胞の肥大化と糖代謝の異常につながることを発見しました。リボソーム因子を回復させることで、新たな小型の脂肪細胞が生まれ、糖代謝が改善されることも示され、2型糖尿病(Type 2 Diabetes, T2D)の治療に向けた新たな可能性が開かれました。 この研究は、2024年11月22日にCell Reports誌に掲載され、論文タイトルは「PPARγ-Dependent Remodeling of Translational Machinery in Adipose Progenitors Is Impaired in Obesity(肥満におけるPPARγ依存的な翻訳機構の再構築の障害)」です。 肥満と脂肪細胞のサイズ—新たなメカニズムを解明 長年の研究により、肥満が脂肪組織の新しい脂肪細胞の産生を妨げることは知られていました。しかし、その原因については十分な説明ができていませんでした。本研究では、肥満が脂肪幹細胞に影響を及ぼし、リボソーム因子の産生を阻害することで、脂肪細胞の形成が妨げられることを明らかにしました。 リボソーム因子は、細胞がタンパク質を合成するために不可欠な要素であり、脂肪幹細胞が分化して

社会的認知ネットワークと扁桃体のつながりが明らかに—不安・うつ治療の新たな可能性 人間の脳はどのようにして他人の考えを推測する能力を進化させたのか? この問いに対する新たな答えが、ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部(Northwestern University Feinberg School of Medicine)の研究者たちによって導き出されました。この研究は、2024年11月22日にScience Advances誌に掲載され、社会的認知を担う進化的に新しい脳領域と、古代の脳領域である扁桃体との直接的な神経接続が明らかになりました。この発見は、不安症やうつ病といった精神疾患の新たな治療法につながる可能性を秘めています。 論文タイトルは「The Human Social Cognitive Network Contains Multiple Regions within the Amygdala(ヒト社会的認知ネットワークは扁桃体内の複数の領域を含む)」です。 人間が他人の思考を推測する仕組みとは? 「自分の発言が相手にどう受け取られたか? 自分のジョークは失礼だっただろうか?」 こうした考えが頭をよぎることは、誰しも経験があるでしょう。 本研究の責任著者であるノースウェスタン大学のロドリゴ・ブラガ博士(Rodrigo Braga, PhD)は、次のように説明します。 「私たちは多くの時間を『あの人はどう感じたのか?』『私の言動は問題なかったか?』と考えながら過ごします。この能力を支える脳の領域は、人類の進化の中で比較的新しく発達したものであることが今回の研究で示されました」 研究チームは、社会的認知を司る「社会的認知ネットワーク(social cognitive network)」が、進化的に古い脳領域である扁桃体と直接的につながって

パーキンソン病治療の新たな可能性—THPP化合物がミトコンドリア品質管理を回復 パーキンソン病治療に向けた画期的な発見として、四環式ピラゾロ-ピラジン(tetrahydropyrazolo-pyrazine: THPP)化合物と呼ばれる新たな低分子化合物が特定されました。この化合物群は、ミトコンドリアの品質管理に関与する重要なタンパク質「パーキン」の活性を強化する作用を持つことが明らかになりました。この成果は、早期発症型パーキンソン病(EOPD: Early-Onset Parkinson’s Disease)の根本的な治療に向けた新たな道を開く可能性があります。 この研究はマギル大学およびバイオジェン(Biogen)の研究者らによって行われ、2024年9月19日にNature Communicationsに掲載されました。論文のタイトルは「Activation of Parkin by a Molecular Glue(分子接着剤によるパーキンの活性化)」です。 パーキンとミトコンドリア品質管理の役割 パーキンソン病は、運動機能の障害を引き起こす進行性の神経変性疾患であり、世界中で数百万人に影響を与えています。特に50歳未満で発症するEOPDは、parkinおよびPINK1と呼ばれる2つの重要な遺伝子に変異が見られることが多いです。これらの遺伝子は、損傷したミトコンドリアを細胞から除去する「マイトファジー(mitophagy)」と呼ばれるプロセスに関与しています。 マイトファジーが正常に機能しない場合、損傷したミトコンドリアが蓄積し、炎症を引き起こして神経細胞の死につながる可能性があります。特に、ドーパミン産生ニューロンの損傷は、パーキンソン病の進行に深く関与しています。このため、ミトコンドリア品質管理を正常化することが、EOPDの進行を遅らせるための

糖尿病性下肢虚血の新治療法—Netrin1を含むエクソソームが血流改善と組織修復を促進 糖尿病の重大な合併症の一つである糖尿病性下肢虚血(diabetic limb ischemia)の治療に向けて、新たな細胞療法が開発されつつあります。この疾患は、足や脚への血流が減少することで慢性的な痛みや潰瘍を引き起こし、最悪の場合、非外傷性の下肢切断の主な原因となります。糖尿病性下肢虚血の患者は、心血管疾患のリスクが20~30%高く、非糖尿病患者と比較して切断のリスクが14倍にも及ぶと報告されています。こうした現状を打破すべく、上海交通大学附属上海第九人民病院(Shanghai Ninth People’s Hospital)血管外科の研究チームは、新たな非侵襲的治療法を開発しました。 この研究は、2024年10月23日にAdvanced Healthcare Materials誌に掲載され、論文タイトルは「Netrin1-Enriched Exosomes from Genetically Modified ADSCs As a Novel Treatment for Diabetic Limb Ischemia(糖尿病性四肢虚血の新規治療薬としての遺伝子改変ADSCからのネトリン1濃縮エクソソーム)」です。 エクソソーム療法の可能性 研究チームは、幹細胞を用いた血管疾患治療に10年以上取り組んできました。しかし、幹細胞治療には免疫拒絶反応、腫瘍形成リスク、倫理的課題、細胞の生存率の不安定性といった多くの障壁がありました。そこで、細胞そのものではなく、細胞が分泌する「細胞外小胞(EVs)」を活用する新たな治療アプローチに着目しました。 エクソソームとは? エクソソームは、細胞から自然に放出される小型の膜小胞で、タンパク質、RNA、脂質などの生理活性分子

アルメニア人の起源に新たな知見—ゲノム研究が従来の歴史説を覆す アルメニア高原に歴史的に居住してきたアルメニア人は、長らくバルカン半島から移住したフリギア人の子孫であると考えられてきました。この説は、ギリシャの歴史家ヘロドトスの記述に由来し、彼はペルシャ軍に仕えるアルメニア人がフリギア式の武装をしていたと記録しています。さらに、言語学的にもアルメニア語はインド・ヨーロッパ語族のトラキア・フリギア語派(Thraco-Phrygian subgroup)と関連があるとされ、この説を補強していました。 しかし、最新の全ゲノム解析による研究は、この長年の通説を覆し、アルメニア人とバルカン半島の民族との間に有意な遺伝的つながりがないことを示しました。本研究では、新たに得られた現代アルメニア人のゲノムデータと、過去に発表された古代アルメニア高原の個体のゲノムデータを、バルカン地域の古代および現代のゲノムデータと比較しました。 歴史を塗り替えるゲノム解析 「長年、歴史的な仮説が私たちの過去の認識を形作ってきましたが、時にこれらの理論は事実として受け入れられてしまいます」と述べるのは、トリニティ・カレッジ・ダブリン(Trinity College Dublin)遺伝学・微生物学研究科のアナヒット・ホヴハニスヤン博士(Dr. Anahit Hovhannisyan)です。彼女は、本研究の筆頭著者であり、2024年11月25日にAmerican Journal of Human Geneticsに掲載された論文「Demographic History and Genetic Variation of the Armenian Population」の著者の一人です。 「しかし、全ゲノムシーケンシングの進歩と古代DNA研究の発展により、私たちはこれらの長年の仮説を再検証し

RNAナノ粒子の3D折り畳み過程を可視化—新技術IPETがRNA構造研究を革新 米国ローレンス・バークレー国立研究所およびデンマークオーフス大学の研究者たちは、RNAナノ粒子の折り畳み過程の3D画像を単一分子レベルで捉えることに成功しました。最新のクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)技術を駆使し、RNA分子がどのように自己折り畳みを行うかについて新たな知見を得ました。RNAは環境条件によって多様な構造へと変化する柔軟性を持つため、解析が極めて困難とされています。しかし、本研究では、従来の解析手法では困難だった単一分子レベルでの3D観察が可能となりました。 この研究は、2024年10月21日にNature Communicationsに発表されました。 RNA折り畳み研究に革命をもたらすIPET技術とは? クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)のシングルパーティクルアベレージング(SPA)法は、これまでRNAの3D構造を解析する主要な技術でした。しかし、この手法では多数の分子データを平均化して解析するため、RNAのダイナミックな折り畳み過程を個別に観察することが困難でした。 本研究では、新たに開発された個別粒子クライオ電子トモグラフィー(IPET: Individual-Particle cryo-Electron Tomography)を用いることで、この問題を解決しました。 IPETは、単一分子レベルでの3D画像取得を可能にする新技術であり、従来は信号が弱すぎるため「不可能」とされてきた手法を実現。 画像の平均化を行わずにRNA分子の個々の折り畳み過程を直接観察できるため、より正確な構造解析が可能。 フォーカス電子トモグラフィー再構成アルゴリズム、ミッシングウェッジ補正、コントラスト強調、電子線量最適化、グラフェングリッドの活用などの革新的な技

ヒト細胞アトラス(HCA)、40以上の研究成果を発表—細胞の理解を飛躍的に進展 ヒト細胞アトラス(Human Cell Atlas: HCA)コンソーシアムの研究者たちは、健康と疾患におけるヒト細胞の理解を深めるための重要な進展を報告しました。2024年11月20日、Nature誌およびその他のNatureポートフォリオ誌において、40以上の査読付き論文を集めた特集コレクションが公開されました。本コレクションは、HCAが推進する大規模データセット、人工知能(AI)アルゴリズム、生物医学的発見を包括的に紹介しており、ヒトの細胞生物学に対する理解を一変させる可能性を秘めています。 本特集には、胎盤や骨格の形成メカニズム、脳の成熟過程、腸管や血管の新しい細胞状態、COVID-19による肺の変化、遺伝的変異が疾患に与える影響など、多岐にわたる研究が含まれています。これらの成果は、細胞アトラスの構築方法を大規模に示すものであり、HCAが目指す「ヒト細胞の完全なマップ」の実現に向けた重要な一歩となります。 HCAのミッション:ヒト細胞の詳細なマッピング HCAは、シングルセル解析や空間ゲノミクスの実験・計算手法を駆使し、ヒトのすべての細胞を包括的にマッピングすることを目指しています。この基盤をもとに、健康状態の理解、疾患の診断、モニタリング、治療の進展が期待されています。現在までに、100か国以上の3,600人以上のHCA研究者が協力し、10,000人以上のドナー由来の1億以上の細胞をプロファイリングしています。現在、初の「ヒト細胞アトラス」の草案を作成しており、最終的には数十億の細胞をマッピングする計画が進行中です。 本特集コレクションでは、HCAのミッションにおける3つの主要な進展が強調されています。 成人組織および臓器のマッピング 発生過程におけるヒ

科学と驚異の交差点:MITのアラン・ライトマン博士が語る「物質から生まれる奇跡」 私たちが自然の驚異的な現象を目の当たりにしたとき、畏敬の念、好奇心、そしてその謎を解明したいという強い思いが入り混じることがあります。これは、MITのアラン・ライトマン博士(Alan Lightman, PhD)にとっても同様であり、彼の研究と執筆活動の原動力となっています。ライトマン博士は物理学者でありながら、多くの科学関連書籍を執筆する著述家としても知られています。 「私が最も好きなアインシュタインの言葉の一つに、『最も美しい体験とは、神秘そのものである』というものがあります」とライトマン博士は語ります。「これは、真の芸術と科学のゆりかごとなる、根源的な感情なのです」。 この考えを深く探究したのが、彼の最新作『The Miraculous from the Material(物質から生まれる奇跡)』です。本書は、ペンギン・ランダムハウス社から出版され、蜘蛛の巣、夕焼け、銀河、ハチドリといった自然界の壮麗な現象の写真に続き、それらを科学的に解釈した35編のエッセイが収録されています。 ライトマン博士は、自身を「スピリチュアル・マテリアリスト(Spiritual Materialist)」と称し、科学的な視点に基づきながらも、自然界に対する畏敬の念を失わないことを大切にしています。「自然現象の科学的な基盤を理解したとしても、私の驚きや感嘆は一切薄れません」と彼は述べています。 MIT Newsは、本書のいくつかの章についてライトマン博士に話を聞き、視覚と科学的好奇心の関係について掘り下げました。 オーロラ(Aurora Borealis) 2024年、多くの人々がオーロラ(北極光)の神秘的な輝きを観察するために夜空を見上げました。オーロラは、太陽から放出された電子が地球

ハイテク環境モニタリングの未来──ハゲワシとAIが野生動物の死を見張る「GAIAイニシアティブ」 カリフォルニア大学リバーサイド校(UC Riverside)の科学者らが主導する「GAIAイニシアティブ」は、環境変化や生態系の異常を早期に検出するための高精度な警報システムの開発を目指す国際的な共同プロジェクトだ。本プロジェクトでは、ライプニッツ動物園野生動物研究所(Leibniz-IZW)、フラウンホーファー統合回路研究所(Fraunhofer IIS)、およびベルリン動物園が協力し、最先端のAIアルゴリズムを開発した。 2024年11月18日、これらの研究成果が学術誌Journal of Applied Ecologyに発表され、論文タイトルは「Death Detector: Using Vultures As Sentinels to Detect Carcasses by Combining Bio-Logging and Machine Learning(死の探知機:バイオロギングと機械学習を組み合わせ、ハゲワシを死骸検知のセンチネルとして活用する)」とされた。 ハゲワシが生態系モニタリングのカギを握る理由とは? 野生動物の死は、生態系のバランスを維持するうえで重要なプロセスだ。捕食者による狩りはもちろんのこと、野生動物の病気、環境汚染、人間による違法な捕殺など、さまざまな要因で動物の死は発生する。そのため、これらの通常の死と異常な死亡ケースを体系的に記録・分析することは、生態系の変化を理解するうえで極めて重要となる。 ここで鍵となるのが、ハゲワシ(Gyps africanus, シロエリハゲワシ)の能力だ。ハゲワシは何百万年もの進化を経て、広大な土地に落ちた死骸を素早く発見する驚異的な視力と、仲間と協力して情報を共有する高度なコミュニケーショ

バルセロナの研究機関が世界初の進化医学ゲノミクス共同プログラムを発足 バルセロナに拠点を置く三つの研究機関が連携し、世界初の進化医学ゲノミクス共同プログラム(Evolutionary Medical Genomics: EvoMG)を発足いたしました。本プログラムは、ゲノム規制センター(CRG)、ポンペウ・ファブラ大学(UPF)医学・生命科学部、および進化生物学研究所(IBE: CSIC-UPF)が共同で推進する取り組みであり、バルセロナ・バイオメディカル・リサーチ・パーク(PRBB)にて開催された設立シンポジウム(2023年11月20日~22日)をもって正式に開始されました。 このプログラムを主導するのは、カタルーニャ先端研究・研究開発機関(ICREA)の研究教授であるマヌエル・イリミア博士(Manuel Irimia, PhD)です。本プログラムは、進化学の原理を応用し、疾患の分子レベルでの起源を解明することで、人類の健康を向上させることを目的としています。現在、カタルーニャ州政府より暫定的に100万ユーロの資金提供を受けており、今後さらなる発展が期待されます。 進化医学ゲノミクスがもたらす新たな医療の可能性 イリミア博士は、「私たちのゲノムの進化的歴史を理解することは、単なる学問的な研究にとどまらず、個別化医療(パーソナライズド・メディシン)の実現に向けた重要なステップなのです」と述べています。「異なる種や集団、さらには個々の細胞におけるゲノム多様性を研究することで、疾患メカニズムが生命の歴史を通じてどのように進化してきたのかを前例のないレベルで解明できるでしょう」。 本プログラムの特徴は、進化医学(Evolutionary Medicine)と医療ゲノミクス(Medical Genomics)という二つの学問領域を統合している点にあります。医療ゲ

腸の適応力を解明——空間的遺伝子発現マップが示す臓器の柔軟性と免疫制御の仕組み 腸は、栄養や水分を吸収すると同時に、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)との健康的なバランスを保つという精巧な機能を担っています。しかし、セリアック病、潰瘍性大腸炎、クローン病などの疾患では、このバランスが腸の特定の領域で崩れ、病態を引き起こします。これまで、腸の各領域がどのように環境変化に適応し、それが疾患によってどのように破綻するのかは十分に理解されていませんでした。 今回、マサチューセッツ工科大学(MIT)・ハーバード大学ブロード研究所(Broad Institute of MIT and Harvard)およびマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital, MGH)の研究チームは、マウス腸全体の遺伝子発現と細胞の状態・位置をマッピングし、炎症などの変化に対する腸の応答を解析しました。 その結果、腸の異なる領域で細胞タイプや状態が厳密に制御されていることが明らかになり、特に結腸の一部が免疫シグナルによって支配されていることが判明しました。この研究成果は、2024年11月20日付の科学誌「Nature」に「Spatially Restricted Immune and Microbiota-Driven Adaptation of the Gut(腸の空間的に制限された免疫・微生物叢による適応)」というタイトルで発表されました。 腸の空間的構造を再評価する新たな研究アプローチ 「腸、とりわけ結腸は何十年にもわたり研究されてきましたが、今回のような解析はこれまで行われていません。この成果は、既存の研究を再評価するきっかけとなり、今後の研究に新たな視点をもたらすものです」と、本研究の筆頭著者の一人であるトゥーフィック・マヤッシ博士(Tou

ウメの花びらの香りを解き明かす——初のシングルセル遺伝子発現マップが示す香気合成の細胞レベルの仕組み 花の香りは、受粉媒介者を引き寄せ、植物が環境変化に適応するための重要な要素です。その香りは、主にテルペノイドやベンゼノイド/フェニルプロパノイドといった複雑な化合物から構成され、観賞用や商業的な価値を持っています。しかし、香気成分の生成に関わる遺伝子が次第に明らかになっている一方で、これらの成分がどの細胞で作られ、どのように遺伝子発現が動的に制御されているのかについては、これまで解明されていませんでした。この知識のギャップを埋めるために、中国の西北農林科技大学(Northwest A&F University)の研究チームは、ウメ(Prunus mume)の花びらにおける初のシングルセル遺伝子発現マップを作成しました。 本研究成果は、2024年7月10日付で科学誌「Horticulture Research」に「Single-Cell RNA Sequencing Reveals a High-Resolution Cell Atlas of Petals in Prunus mume at Different Flowering Development Stages(シングルセルRNAシーケンスによる異なる開花段階のウメの花びらの高解像度細胞アトラス)」というタイトルで発表されました。 ウメの花びらの香気生成を担う6種類の細胞を特定 今回の研究では、香り高い品種「Fenhong Zhusha」の花びらに着目し、開花前と満開時の2つのステージにおける細胞ごとの遺伝子発現を詳細に解析しました。その結果、花びらを構成する6種類の主要な細胞タイプが特定され、その中でも表皮細胞、柔組織細胞、維管束組織が香気生成に特化した役割を果たしていることが明らかになりました

ミンククジラの聴覚範囲を初めて直接測定——想定を超える高周波音を検知し、海洋騒音の影響を示唆 ミンククジラの聴覚範囲が、これまで考えられていたよりもはるかに広いことが明らかになりました。新たな研究によると、ミンククジラは最大90キロヘルツ(kHz)という高周波音を検知できることが判明しました。この発見は、これまで低周波音のみを聞き取れると考えられていたヒゲクジラ類の聴覚に関する認識を大きく覆すものです。研究結果は、2024年11月21日付で科学誌「Science」に「Direct Hearing Measurements in a Baleen Whale Suggest Ultrasonic Sensitivity(ヒゲクジラの直接聴覚測定が示す超音波感受性)」というタイトルで発表されました。 ヒゲクジラ類の聴覚と海洋騒音の影響 これまで、ヒゲクジラ類は低周波音に特化した聴覚を持つと考えられてきましたが、直接的な聴覚測定が行われたことはありませんでした。聴覚能力の推定は、鳴き声の周波数や耳の解剖学的構造、行動観察などの間接的な方法に依存しており、正確なデータが不足していました。 海洋生物に対する人為的騒音の影響は、ここ数十年にわたって研究されてきました。特に軍事ソナーや船舶のエンジン音によるクジラの座礁事故が問題視され、海洋哺乳類の聴覚保護基準の設定が求められてきました。しかし、ヒゲクジラ類の聴覚範囲は十分に理解されていなかったため、規制の対象から外されることが多く、その影響は過小評価されていました。 ミンククジラの聴覚測定方法と驚くべき結果 海洋騒音がヒゲクジラ類に与える影響をより深く理解するために、米国国立海洋哺乳類財団(National Marine Mammal Foundation)のドリアン・ハウザー博士(Dorian Hous

神経血管リモデリングを促進する新たな生体界面「LIFES」——持続的かつ調整可能なエクソソーム分泌を実現 中国科学院深セン先進技術研究院(SIAT)のドゥ・シュエミン博士(Xuemin Du, PhD)が率いる研究チームは、生理活性を持つエクソソームを持続的かつ調整可能に分泌する新しい生体界面を開発しました。このシステムは、神経血管リモデリングを効果的に促進し、糖尿病創傷治療やその他の医療用途に貢献する可能性があります。本研究成果は、2024年11月21日付で科学誌「Matter」に発表されました。 神経血管リモデリングの課題とエクソソームの可能性 神経血管リモデリングは、損傷した組織の再生や再生医療において不可欠なプロセスですが、その成功には多段階かつ多標的のパラクライン(傍分泌)調節が求められます。しかし、従来の治療法ではこのような複雑な調節を再現することができず、最適な神経血管リモデリングの実現が困難でした。 エクソソームは、細胞間コミュニケーションにおける重要なパラクライン因子として、神経血管リモデリングにおいて有望な役割を果たします。しかし、直接投与では24〜48時間程度で分解されてしまい、持続的な効果を得ることが難しいという課題があります。また、エクソソーム輸送システムにおいては、生理活性を維持しながら適応可能なmiRNA(マイクロRNA)を長期間保持することが困難であり、各段階の神経血管リモデリングに適応できないという制約がありました。 LIFES:持続的なエクソソーム分泌を可能にする生体界面 研究チームは、これらの課題を克服するために、「LIFES(Living Interface for Fine-Tuned Exosome Secretion)」という新たな生体界面を開発しました。このLIFESは、高度な電気特性と微細構造を持つポリ

細菌同士の“会話”が拓く新たな科学の地平——ボニー・バスラー博士が切り拓くクオラムセンシング研究の最前線 30年以上にわたり、ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)の研究者でありプリンストン大学のボニー・バスラー博士(Bonnie Bassler, PhD)は、細菌の「クオラムセンシング(Quorum Sensing)」という細胞間コミュニケーションの研究を先導してきました。この発見は、細菌が個体としてではなく、集団として行動する仕組みを解明するものであり、抗生物質耐性菌との戦いにおいて画期的な治療法の開発につながる可能性を秘めています。 細菌の存在が科学者によって発見されたのは500年以上前ですが、それらが高度に協調した行動を取ることが明らかになったのは1970年代に入ってからでした。 そして現在、クオラムセンシングの研究は感染症治療や抗生物質の代替戦略の開発に向けた新たな道を切り拓いています。 細菌はどのようにして「協力」するのか? 細菌は自己増殖によって増えていきますが、その過程で「オートインデューサー(autoinducer)」と呼ばれる小さな分子を生成・放出します。細菌の数が増えるにつれてオートインデューサーの濃度も上昇し、一定の閾値を超えると細菌はこのシグナルを感知します。その結果、細菌は個々の存在としてではなく、集団として一斉に行動するのです。 「細菌は小さく、単独では無力ですが、集団で行動すると強力な力を発揮します」 ボニー・バスラー博士はそう言いました。 バスラー博士の研究チームは、クオラムセンシングが細菌の世界では標準的なメカニズムであることを証明しました。さらに、細菌は複数の異なるオートインデューサーを使用し、仲間同士の関係性を判断することができることも明らかにしました。 細菌だけでなく、人間の細胞やウイルスも“会話”

パーキンソン病の進行を数学的に表現——ネットワーク理論が示す新たな臨床応用の可能性 神経変性疾患であるパーキンソン病は、脳内の神経細胞ネットワークの異常として捉えることができます。そのため、このような疾患の研究においては、数学の一分野であるネットワーク理論の知見が有効と考えられています。今回、イタリア国立研究評議会(National Research Council of Italy)、ドイツ・ポツダム大学(University of Potsdam)、およびポツダム気候影響研究所(PIK)のマリア・マンノーネ博士(Maria Mannone, PhD)を中心とする欧州の物理学者およびエンジニアの研究チームが、健康な脳のネットワークをパーキンソン病の影響を受けた脳へと変換する数学的行列(マトリックス)を定義しました。 この研究成果は、2024年10月7日付で「The European Physical Journal (EPJ) Special Topics」に「A Brain-Network Operator for Modeling Disease: A First Data-Based Application for Parkinson’s Disease(疾患をモデル化する脳ネットワーク演算子:パーキンソン病に関する初のデータ応用)」というタイトルで発表されました。 数学が解き明かす脳のネットワーク変化 脳の機能は特定の領域に対応しており、それらの接続関係を非侵襲的にマッピングできるという概念は、歴史的に広く受け入れられてきました。この考え方は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の基盤となっており、本研究ではfMRI画像を用いて数学的な行列を定義しました。 研究チームは理論物理学の手法を応用し、脳ネットワークを行列として表現しました。疾患の進行に伴

磁気受容の基礎的メカニズムは他の昆虫とは異なる可能性 ドイツ・オルデンブルク大学(University of Oldenburg)のポーリーン・フライシュマン博士(Pauline Fleischmann, PhD)率いる研究チームは、砂漠アリ(Cataglyphis nodus)が空間認識のために地球の磁場を利用するものの、他の昆虫とは異なる磁場の要素に依存していることを発見しました。本研究の結果は、2024年12月6日付の学術誌『Current Biology』に掲載されました。論文タイトルは「Cataglyphis Ants Have a Polarity-Sensitive Magnetic Compass(カタグリフィスアリは極性に敏感な磁気コンパスを持つ)」です。 研究チームによると、この結果は、砂漠アリが磁気受容を行うメカニズムが、例えばオオカバマダラ(monarch butterfly)のような、これまで研究されてきた多くの昆虫とは異なる可能性を示唆しています。研究者らは、この砂漠アリの磁気受容が、磁鉄鉱(magnetite)やその他の磁性粒子を含むメカニズムに基づいている可能性があると考えています。 動物の磁気受容メカニズムは依然として議論の的 動物が磁気受容をどのように行い、それがどのような物理的メカニズムに基づいているのかについては、いまだに科学者の間で活発な議論が交わされています。現在議論されている仮説の一つに、ラジカルペア機構(radical-pair mechanism)と呼ばれる光依存的な量子効果があります。小型のスズメ類や、オオカバマダラなどの一部の昆虫は、この機構を利用していると考えられています。オルデンブルク大学の生物学者ヘンリク・モウリツェン教授(Henrik Mouritsen, PhD)が主導する共同研究センター「脊椎動物

細胞がDNA損傷を修復する仕組みを解明——オランダ・Hubrecht研究所の最新研究ががん治療の可能性を拓く オランダのHubrecht研究所(Hubrecht Institute)に所属するKindグループの研究者らは、個々のヒト細胞内でDNA修復タンパク質がどのように機能するかを初めて詳細にマッピングすることに成功しました。本研究では、これらの修復タンパク質が「ハブ(hubs)」と呼ばれる修復拠点を形成し、協力してDNA損傷を修復することを明らかにしました。この新たな知見は、がん治療やDNA修復が関わる疾患の治療法改善につながる可能性があります。 この研究成果は、2024年11月21日付の科学誌Nature Communicationsに「Genome-Wide Profiling of DNA Repair Proteins in Single Cells(単一細胞におけるDNA修復タンパク質の全ゲノムプロファイリング)」というタイトルで発表されました。 DNA損傷と修復の重要性 DNAは遺伝情報を担う分子であり、通常の細胞活動に加えて紫外線や化学物質などの外的要因によって損傷を受けることがあります。これによりDNA鎖が切断され、適切に修復されない場合には遺伝子変異が蓄積し、がんなどの疾患を引き起こす可能性があります。細胞には、損傷を修復するための専用のタンパク質が備わっており、これらが損傷部位を認識し、結合することで修復プロセスが進行します。 単一細胞レベルでのDNA修復解析——従来研究との違い DNA修復の仕組みは細胞ごとに異なるため、個々の細胞を対象とした研究が不可欠です。しかし、DNAの損傷部位を特定することは極めて困難であり、その詳細なメカニズムは未解明の部分が多く残されていました。 「DNAの損傷がどこで起こるのか、またなぜ

プログラム可能なミルクエクソソームで治療法の新時代を切り開く:Minovaccaの革新 2025年1月16日、ネブラスカ大学リンカーン校の研究者二人が設立したスタートアップ「Minovacca」が、革新的な治療法の開発を目指して注目を集めています。この会社は、ミルク中に含まれる自然由来のナノ粒子「ミルクエクソソーム」を活用し、治療薬、遺伝子編集ツール、プラスミドなどを人間の特定の細胞に届ける新技術を商業化することを目指しています。 ミルクエクソソームとは? エクソソームは細胞間で情報や分子を運ぶナノスケールの小胞であり、ミルク中に自然に存在します。Minovaccaはこのエクソソームを化学的および遺伝的に改変し、標的となる細胞に治療薬を高精度で届ける技術を開発しました。この技術は、一般的な疾患から希少疾患に至るまで、幅広い治療に応用可能であるとされています。 「この技術は非常に汎用性が高いため、特定の希少疾患に限定されません。多くの希少疾患に対応可能であることが、この技術の大きな強みです」と、Minovaccaの共同創設者であり、ネブラスカ大学リンカーン校の栄養・健康科学部教授であるヤノス・ゼンプレンニ(Janos Zempleni, PhD)は述べています。 革新的な技術とその仕組み ゼンプレンニ教授は、ミルクエクソソームの安全性とスケーラビリティを実証し、その後、化学科教授のジアンタオ・グオ(Jiantao Guo)を迎え、エクソソームを標的細胞に正確に届ける方法を確立しました。 この技術は以下のような特徴的な仕組みで成り立っています: 三種のペプチド: エクソソームの膜には3種類のペプチドが付着しています。 ホーミングペプチド: 標的となる体内の特定部位にエクソソームを誘導。 “食べないで”ペプチド: マクロファージによる破壊

「アルメニア病」と呼ばれる遺伝性疾患—家族性地中海熱(FMF)の診断と治療に挑むUCLAの専門クリニック 幼いアレクサンダーは、夜通し泣き続け、隣人が苦情を言うほどの激しい痛みに苦しんでいました。2〜3カ月ごとに高熱を出し、腹痛や脚の痛みを訴えながらも、数日で回復。しかし、その原因は分からず、小児科や救急外来で「ウイルス感染」と診断され、解熱鎮痛剤(タイレノール) で様子を見るしかありませんでした。 母親のエリザベス・マーファゼリアンさん(Elizabeth Marfazelian)は、医療従事者として働く中で、アレクサンダーと似た症状の患者が「家族性地中海熱(FMF: Familial Mediterranean Fever)」と診断されていることに気づきました。彼女はすぐに息子の遺伝子検査を求め、結果を受けた上司がUCLAヘルスの家族性地中海熱プログラム(FMF Program) を紹介しました。 このプログラムは、FMFを専門に診療する西半球唯一のクリニック であり、適切な診断と治療を受けられずに苦しむ患者を救う役割を担っています。 家族性地中海熱(FMF)とは?—診断の難しさと遺伝的背景 FMFは自己炎症性疾患 に分類され、周期的な高熱、腹痛、関節痛、胸膜炎 などの症状が数日間持続し、自然に治まることを繰り返します。未治療のままだと、腎不全を引き起こすアミロイドーシス などの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。 UCLAヘルスのFMFプログラムディレクター、テリー・ゲッツァグ博士(Dr. Terri Getzug) は、次のように説明します。 「患者は発作の間は完全に健康で普通の生活を送ります。しかし、発作が起こると数日間寝込むことになり、頻度は年に数回から週に2回と個人差があります。その間、無駄な検査や不要な手術を受ける患者も多く

深海チョウチンアンコウの驚異的な進化を解明 – 資源の乏しい海で多様化できた理由とは? 深海に生息するチョウチンアンコウは、その奇妙な適応形態で科学者や一般の人々を魅了してきました。ライス大学の研究チームは、この深海魚がどのようにして厳しい環境の中で進化し、多様化したのかを解明しました。この研究成果は、2024年11月27日に Nature Ecology & Evolution に掲載された論文「Reduced Evolutionary Constraint Accompanies Ongoing Radiation in Deep-Sea Anglerfishes(進化的制約の減少が深海チョウチンアンコウの適応放散を促進する)」として発表されました。 進化的挑戦:深海に適応するチョウチンアンコウの驚異 この研究は、ライス大学のコリー・エヴァンズ博士(Kory Evans, PhD)と、元学部生のローズ・フォーシェ氏(Rose Faucher)をはじめとする研究チームによって実施されました。彼らは、チョウチンアンコウがどのようにして海底から深海の開放水域(バチペラジックゾーン)へ移行し、多様な形態を獲得したのかを調査しました。このゾーンは、水深1,000~4,000メートルに及ぶ、極端に資源の乏しい環境です。 研究チームは、遺伝子解析と3Dイメージング技術を駆使して、チョウチンアンコウの進化系統樹を再構築し、適応の鍵となる形態的特性を特定しました。特に、深海に適応したアンコウ類(セラティオイド=Ceratioids)は、かつて海底に生息していた祖先から進化し、巨大な顎、小型の眼、側方に圧縮された体型といった特徴を獲得したことが判明しました。これらの変化は、暗黒の世界で獲物を捕らえるために進化したものです。 意外な発見:環境の制約を超えた形態の多様性

古代DNAから非骨格組織のDNAメチル化パターンを推定—人類進化研究に新たな展望 人類の進化を理解する上でDNAメチル化(遺伝子発現の重要なマーカー)の役割は大きい。しかし、化石記録には脳やその他の非骨格組織が保存されないため、これまでその変化を直接分析することは困難でした。そこで今回、ヘブライ大学遺伝学部・生命科学研究所およびエドモンド&リリー・サフラ脳科学センター(ELSC) のヨアヴ・マソフ博士課程学生(Yoav Mathov) らの研究チームは、骨格以外の組織におけるDNAメチル化パターンを古代DNAから推定する革新的な方法を開発しました。 本研究は、リラン・カルメル教授(Liran Carmel) とエラン・メショレル教授(Eran Meshorer) の指導のもとで行われ、その成果は2024年11月20日、Nature Ecology & Evolution に掲載されました。研究論文のタイトルは、「Inferring DNA Methylation in Non-Skeletal Tissues of Ancient Specimens(古代試料の非骨格組織におけるDNAメチル化の推定)」 です。 骨から脳のDNAメチル化を推定する新手法 これまでの古代DNA研究は、骨組織に保存されたDNAに依存してきました。しかし、今回の研究では、発生過程におけるDNAメチル化のパターンを利用することで、骨組織に見られる変化を他の組織にも適用できることが明らかになりました。 研究チームは、生存する現代人および動物のDNAメチル化データを基にアルゴリズムを訓練し、最大92%の精度で様々な組織のDNAメチル化を予測することに成功しました。このアルゴリズムを古代人のDNAに適用したところ、特に前頭前野の神経細胞において1,850ヵ所以上のDNAメチル化の変異

画期的な注射可能な皮膚フィラーが糖尿病創傷治療を革新—組織再生を促進する新技術 テラサキ生体医療イノベーション研究所(Terasaki Institute for Biomedical Innovation, TIBI) の研究チームは、糖尿病創傷の治療法を大きく変える可能性のある画期的な注射可能な顆粒状フィラー を開発しました。この研究成果は、2024年10月2日付のACS Nano に掲載され、「Granular Porous Nanofibrous Microspheres Enhance Cellular Infiltration for Diabetic Wound Healing(顆粒状多孔質ナノファイバーマイクロスフェアが細胞浸潤を促進し糖尿病創傷治癒を加速)」 というタイトルで発表されました。 新技術の概要:ナノファイバーマイクロスフェアによる創傷治療 本研究は、TIBIとネブラスカ大学医療センター(UNMC) の研究者らによる共同開発であり、エレクトロスピニング(electrospinning) と エレクトロスプレー(electrospraying) の技術を組み合わせ、多孔質の顆粒状ナノファイバーマイクロスフェア(NMs) を生成する新手法を確立しました。 このマイクロスフェアは、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA) とゼラチン などの生体適合性材料で作られており、患部に簡単に注入できるため、治療が最小限の侵襲で済む のが特徴です。 研究の主な成果と期待される臨床応用 本研究の成果として、この新しい皮膚フィラーが以下の点で優れた創傷治癒効果を示した ことが明らかになりました。 細胞の移動促進と肉芽組織形成:特殊な多孔質構造が、創傷部位への細胞の浸潤を促し、組織再生を加速。 新生血管の形成(ネオバスキュラリゼーション)

遺伝的要因が動脈硬化プラークの細胞組成を左右し、心筋梗塞・脳卒中リスクに影響 ーカロリンスカ研究所の研究 カロリンスカ研究所(スウェーデン)の研究者らは、遺伝的要因が動脈硬化(アテローム性動脈硬化)プラークの細胞組成に影響を与え、それが心筋梗塞や脳卒中のリスクに関わることを明らかにしました。この研究成果は、2024年11月18日にEuropean Heart Journalに掲載されました。研究論文のタイトルは「Atheroma Transcriptomics Identifies ARNTL As a Smooth Muscle Cell Regulator and with Clinical and Genetic Data Improves Risk Stratification(アテローム転写オミクスがARNTLを平滑筋細胞の調節因子として特定し、臨床・遺伝データと組み合わせることでリスク層別化を向上)」です。 遺伝的要因が血管平滑筋細胞の構成に影響 動脈硬化は、脳卒中や心筋梗塞といった心血管疾患の主な原因とされています。今回の研究では、カロリンスカ研究所の研究チームが、スタンフォード大学およびバージニア大学(米国)の研究者らと協力し、動脈硬化プラークに含まれる異なる細胞種の組成と遺伝的要因との関連を解明しました。 本研究は、カロリンスカ動脈内膜摘除バイオバンク(Biobank of Karolinska Endarterectomies, BiKE) に保存された動脈硬化患者の組織サンプルを用いた解析に基づいています。 「これまでの研究では、遺伝がコレステロールや血中の脂質、免疫細胞のレベルに関与することが知られていました。しかし今回の研究で、遺伝が動脈硬化患者の血管平滑筋細胞の構成にも影響することが明らかになりました」と、研究を主導したカロリンスカ

単細胞生物にも学習能力が?「慣れ」のメカニズムを解明 細胞が環境に適応する仕組みを新たに発見。 犬が「お座り」を学ぶように、人間が洗濯機の音を聞き流せるようになるように、生物の適応能力は進化や生存において極めて重要です。生物は環境からの刺激に適応し、学習することで生存に有利な行動を取ることができます。この適応の一形態である「慣れ」とは、繰り返し受ける刺激に対する反応が次第に弱まる現象を指し、学習の基本的なメカニズムのひとつと考えられています。 これまで、慣れは脳や神経系を持つ生物のみが示す特性と考えられてきました。例えば、ミミズや昆虫、鳥類、哺乳類などがその典型例とされており、単細胞生物にはこのような高度な適応能力はないと考えられていました。しかし、2024年11月19日に学術誌『Current Biology』に掲載された研究によって、単細胞生物である繊毛虫やアメーバ、さらにはヒトの体内の細胞にも「慣れ」の特徴が見られる可能性があることが明らかになりました。 この研究は、ハーバード大学医学部(Harvard Medical School, HMS)とバルセロナのゲノム規制センター(Centre for Genomic Regulation, CRG)の科学者チームによって実施されました。研究論文のタイトルは「Biochemically Plausible Models of Habituation for Single-Cell Learning」(単細胞学習における慣れの生化学的に妥当なモデル)です。 ハーバード大学医学部のジェレミー・グナワルデナ(Jeremy Gunawardena, PhD)准教授は、この研究の重要性について次のように述べています。 「この発見は、私たちに新たな謎を提示しました。脳を持たない細胞が、どのようにしてこれほど複雑な適応を

古代DNAが明かす進化の痕跡—農耕革命初期の適応の謎に迫る 古代ヨーロッパの環境適応の進化をDNA解析で解明。 テキサス大学オースティン校(UTオースティン)とUCLAの研究チームは、古代ヨーロッパ人が環境にどのように適応してきたのかを7,000年以上にわたって追跡しました。彼らは独自の統計手法を開発し、考古学的発掘から得られた古代DNAを分析することで、現代の遺伝子では検出できない自然選択の痕跡を明らかにしました。この研究成果は、2024年11月12日にNature Communicationsに掲載されました。 論文タイトルは「Leveraging Ancient DNA to Uncover Signals of Natural Selection in Europe Lost Due to Admixture or Drift(混合や遺伝的浮動により失われたヨーロッパの自然選択の痕跡を古代DNAで解明する)」です。 「古代DNAを解析することで、進化の変化を直接観察し、歴史上の集団の遺伝的変化を追跡できます。これにより、現代のゲノムでは消失または隠されてしまった遺伝的適応の痕跡を明らかにすることができるのです。」とヴァギーシュ・ナラシムハンは語ります。 過去7,000年の遺伝的適応の痕跡を発見 研究チームは、ヨーロッパ全域および現在のロシアにあたる地域の考古学遺跡から採取された700以上の古代DNAサンプルを分析しました。対象とした時代は、新石器時代(約8,500年前)から後期ローマ時代(約1,300年前)にわたります。 この解析により、現代ヨーロッパ人のDNAでは確認できない進化の痕跡が浮かび上がりました。これは、遺伝的浮動や集団混合といった遺伝子の変化によって、過去に存在した遺伝的適応の痕跡が消失してしまうためです。しかし、古代DNAを直

細胞死の二面性を解明—アポトーシス制御に関する新発見 MITの研究チームがC. elegansを用いた細胞死のメカニズムを解明。生物の発生から老化に至るまで、細胞死は生命の不可欠なプロセスです。特に、アポトーシスと呼ばれる細胞死の過程が適切に機能しなければ、細胞が過剰に増殖し、がんや自己免疫疾患のリスクが高まる可能性があります。しかし、アポトーシスが制御を誤り、必要な細胞が失われると、神経変性疾患などの深刻な病気を引き起こすこともあります。 MITのマクガヴァン脳研究所(McGovern Institute for Brain Research)の研究者らは、微小な線虫カエノラブディティス・エレガンス(C. elegans)を用いた研究により、細胞死を防ぐ役割を持つはずのタンパク質が、逆に細胞死を促進する仕組みを解明しました。この研究はロバート・ホーヴィッツ教授(Robert Horvitz, PhD)を中心とするチームによって行われ、2024年10月9日にScience Advances誌に発表されました。 論文タイトルは「The Pro-Apoptotic Function of the C. elegans BCL-2 Homolog CED-9 Requires Interaction with the APAF-1 Homolog CED-4(C. elegansにおけるBCL-2ホモログCED-9のアポトーシス促進機能はAPAF-1ホモログCED-4との相互作用を必要とする)」です。 アポトーシスのメカニズムを解明 研究を主導したホーヴィッツ教授は、C. elegansを用いたアポトーシスの遺伝的制御機構の解明で2002年にノーベル生理学・医学賞を受賞した科学者です。 人間を含む哺乳類では、アポトーシスを制御するタンパク質が数十種類存在し

幹細胞由来の心筋細胞が先天性心疾患の治療に新たな可能性—サルでの成功例を報告 ウィスコンシン大学マディソン校とメイヨー・クリニックの研究チームは、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)由来の心筋細胞を移植することで、サルの心機能が回復することを確認 した。この研究成果は、先天性心疾患(congenital heart defects)を抱える患者への新たな治療法となる可能性を示している。研究論文は2024年11月2日付 Cell Transplantation に掲載された。 先天性心疾患と右心室機能不全 心疾患はアメリカ人の死因第1位であり、出生時から生じる心疾患(先天性心疾患)も含め、あらゆる年齢層に影響を及ぼす。特に、右心室機能不全(right ventricular dysfunction) は、先天性心疾患を持つ子どもたちによく見られる。 この病態は、胸の痛み、息切れ、動悸、体のむくみを引き起こし、治療せずに放置すると致命的になる可能性がある。ほぼすべての単心室先天性心疾患(特に右心室の異常)を持つ患者は、最終的に心不全に至る。 外科手術によって一時的な修正は可能だが、長期的な解決にはならず、最終的には心臓移植が必要になるケースが多い。しかし、小児患者の心臓ドナーは非常に限られており、新たな治療法の開発が急務となっている。 iPS細胞由来の心筋細胞移植による治療アプローチ ウィスコンシン大学のマリナ・エンボルグ博士(Marina Emborg, MD, PhD)とメイヨー・クリニックのティモシー・ネルソン博士(Timothy Nelson, MD, PhD)の研究チーム は、iPS細胞から作製した心筋細胞を移植し、右心室の機能回復を促進する治療法を検討 した。 「この疾患に対する新たな治療法の開発が求められています」 と語るのは、研究の筆頭著者であり、

新たな研究結果により、公衆衛生上のリスクをもたらすH5N1変異の継続的な監視の重要性が強調されています。 鳥インフルエンザウイルスは通常、人に適応し、感染を拡大するために複数の変異を必要とします。しかし、たった1つの変異がパンデミックウイルスとなるリスクを高めるとしたらどうでしょうか?スクリプス研究所(Scripps Research)の科学者らが主導した最近の研究によると、米国で乳牛に感染したH5N1「鳥インフルエンザ」ウイルスにおける単一の変異が、このウイルスのヒト細胞への付着能力を高める可能性があることが明らかになりました。 これにより、人から人への感染リスクが高まる可能性があります。本研究の結果は、2024年12月5日に『Science』誌に掲載されました。オープンアクセスの論文タイトルは「A Single Mutation in Bovine Influenza H5N1 Hemagglutinin Switches Specificity to Human Receptors(ウシインフルエンザH5N1のヘマグルチニンにおける単一変異がヒト受容体への特異性を変化させる)」です。この研究は、H5N1ウイルスの進化を監視する必要性を強調しています。 現在のところ、H5N1が人から人へ感染したことを示す証拠はありません。ヒトの鳥インフルエンザ感染例は、汚染された環境への密接な接触や、感染した鳥類(家禽を含む)、乳牛、その他の動物との接触に関連しています。しかし、公衆衛生当局は、このウイルスが進化し、人から人への効率的な感染を可能にする可能性を懸念しています。もしそうなれば、新たな、そして潜在的に致死的なパンデミックが引き起こされる恐れがあります。 インフルエンザウイルスは、宿主に付着する際に「ヘマグルチニン(hemagglutinin)」と呼ばれるタンパク

カロリー制限の恩恵を再現する「リトコール酸」の老化抑制メカニズムを解明 2024年12月18日付けの科学誌「Nature」に掲載された研究により、胆汁酸の一種であるリトコール酸(LCA)が、カロリー制限(CR)中に蓄積し、老化を抑制し寿命を延ばす独自の細胞経路を活性化する仕組みが明らかになりました。この研究「Lithocholic Acid Binds TULP3 to Activate Sirtuins and AMPK to Slow Down Ageing(リトコール酸がTULP3に結合し、サーチュインとAMPKを活性化して老化を抑制する)」では、LCAの代謝改善および老化関連疾患の抑制に向けた具体的な戦略が提示されています。 LCAによるTULP3–サーチュイン–AMPK軸の解明 研究チームは、LCAがサーチュイン酵素を活性化する仕組みを解明しました。LCAがTULP3(TUB様タンパク質3)に結合すると、サーチュインがアロステリックに活性化され、v-ATPase(液胞型H+-ATPアーゼ)のV1E1サブユニットのリジン残基(K52, K99, K191)が脱アセチル化されます。この脱アセチル化によりv-ATPaseが抑制され、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)がリソソームのグルコース感知経路を介して活性化されるのです。 AMPKはエネルギー恒常性の中心的な調節因子であり、酸化ストレスの低減、ミトコンドリア機能の向上、炎症の抑制を通じて老化抑制効果を発揮します。特にLCAは、従来のAMPK活性化因子とは異なり、AMPやADPとATPの比率を変化させずに作用する点が特徴です。 さらに、研究はV1E1サブユニットの脱アセチル化状態を模倣する変異体(3KR)がAMPKを強力に活性化し、高齢マウスの筋肉機能を向上させることを示しました。この変異体

ミトコンドリアゲノムの疾患原因となる変異を特定する革新的ツール:イェール大学主導の新研究 イェール大学の遺伝学研究者が、ミトコンドリアゲノムのどの変異が疾患を引き起こすのかを特定するための待望のツールを開発しました。この画期的なフレームワークは、2024年10月16日にNature誌に掲載された論文「Quantifying Constraint in the Human Mitochondrial Genome」で報告されました。この新しいツールにより、ミトコンドリアDNA(mtDNA)内で健康と疾患において重要な部位をマッピングすることが可能になりました。 ミトコンドリアゲノムの重要性と従来の課題 ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを生み出す「発電所」として知られる細胞構造で、母親から受け継がれるDNAを含みます。このミトコンドリアDNAは、細胞の生存やアポトーシス(プログラムされた細胞死)を決定する重要な役割を担います。しかし、その小さなゲノムサイズや特有の特徴により、疾患原因変異を特定するツールの開発が困難でした。 従来、核ゲノムでは「制約モデリング」という方法を使って選択圧の影響を分析し、疾患関連の変異を特定してきましたが、この方法はミトコンドリアゲノムでは効果を発揮しませんでした。今回の研究では、イェール大学のニコール・レイク博士(Nicole Lake, PhD)とモンコル・レック博士(Monkol Lek, PhD)が、新しい方法論を採用し、これまでにないレベルでmtDNA変異を特定するモデルを開発しました。 新たな制約モデルの概要と成果 レイク博士とレック博士が率いる研究チームは、まず新しい「ミトコンドリア変異モデル」を構築。このモデルでは「複合尤度(composite likelihood)」の手法を用い、突然変異がゲノム内のどの場所で発生

軸索誘導因子「Netrin1」が脊髄発生を制御—神経回路形成の新たな役割を発見 UCLAのEli & Edythe Broad再生医療・幹細胞研究センター の研究者らは、脊髄発生におけるNetrin1 の予想外の役割を発見しました。従来、Netrin1 は軸索誘導因子(成長中の神経線維を方向づけるシグナル)として知られていましたが、今回の研究では、Netrin1が骨形成因子(BMP: Bone Morphogenetic Protein) のシグナルを脊髄の特定領域に制限する機能を持つことが明らかになりました。 この機能は、BMPシグナルが適切に背側(感覚ニューロンが発生する領域) に限定されるために不可欠です。研究成果は2024年11月14日付のCell Reports に掲載され、論文タイトルは 「Netrin1 Patterns the Dorsal Spinal Cord Through Modulation of BMP Signaling(Netrin1はBMPシグナル制御を通じて脊髄背側のパターンを形成する)」 です。 この研究は、UCLAデビッド・ゲッフェン医科大学神経生物学教授のサマンサ・バトラー博士(Samantha Butler, PhD) を筆頭に行われ、脊髄回路がどのように形成されるのかという従来の理解を覆す発見 となりました。 Netrin1の新たな機能:脊髄の発生パターンを制御 脊髄の背側 は、触覚や痛みなどの感覚情報を処理する領域 であり、発生段階において正確な組織分化が必要です。この制御はBMPシグナル によって行われ、BMPが適切な領域に限定されないと、異常な神経細胞の発生を引き起こす可能性があります。 「Netrin1の地域特異的なシグナル制御は、適切な神経回路の形成と機能にとって極めて重要です」 と、バ

最古の「脱皮動物」を発見──プレカンブリア時代からの生き証人 カリフォルニア大学リバーサイド校(UC Riverside)の研究チームが、これまで知られている中で最も古い「脱皮動物(Ecdysozoa)」を発見した。発見された新種はUncus dzaugisi(アンクス・ザウギシ)と命名され、プレカンブリア時代(エディアカラ紀)に生息していたことが確認された。これは、脱皮動物の起源に関する長年の謎を解き明かす重要な発見となる。 この研究成果は、2024年11月18日に学術誌Current Biologyに掲載され、論文タイトルは「An Ediacaran Bilaterian with an Ecdysozoan Affinity from South Australia(南オーストラリアにおけるエディアカラ紀の二側対称動物:脱皮動物との関連)」である。 研究の背景:脱皮動物とは? 脱皮動物(Ecdysozoa)は、地球上で最も多様な動物群であり、昆虫、クモ、甲殻類、線形動物(線虫)などが含まれる。このグループの特徴はクチクラ(外骨格)を持ち、定期的に脱皮することだ。 これまでの化石記録によると、脱皮動物はカンブリア紀(約5億4000万年前)の初期にすでに多様化していたことが知られている。しかし、その前の時代であるエディアカラ紀(約6億3500万年前〜5億3800万年前)にこのグループの祖先が存在していた証拠は発見されていなかった。 カリフォルニア大学リバーサイド校のメアリー・ドローザー博士(Mary Droser, PhD)は、「分子データに基づく研究では、脱皮動物の起源はカンブリア紀よりも古いと予測されていましたが、化石記録でそれを裏付ける証拠が見つかっていませんでした。今回の発見は、この長年のギャップを埋める重要なものです」と述べている。

アリの「道しるべ」—複数の食料源に対するフェロモントレイル形成の数理モデルが明らかに 整然とした隊列を組み、巣から食料源へと移動するアリたち。彼らは、斥候(スカウト)アリが発見した食料源を示す フェロモンの道しるべを頼りに進む。しかし、もしアリが 複数の食料源 を発見した場合、そのフェロモントレイルはどのように形成されるのか? フロリダ州立大学(Florida State University, FSU)の数学助教授 バルガヴ・カラムチェド博士(Bhargav Karamched, PhD) 率いる研究チームは、アリが複数の食料源を持つ環境下では、それぞれの食料源に向かう 複数のフェロモントレイルを形成する ことを数理モデルを用いて初めて解明した。 この研究成果は、2024年9月12日付で『Journal of Mathematical Biology』に オープンアクセス論文 として掲載された。論文タイトルは 「Walk This Way: Modeling Foraging Ant Dynamics in Multiple Food Source Environments(この道を行け:複数の食料源環境における採餌アリの動態モデリング)」 である。 「数学の力によって、実験的に観察されたデータを再現し、次に何が起こるかを具体的に予測できます。今回の研究では、アリが複数の食料源を持つ場合、最初はすべての食料源に対して複数のトレイルを形成することを発見しました。」とカラムチェド博士は語る。 数学とシミュレーションが明かすアリの行動戦略 カラムチェド博士は、数学的モデリングや解析、コンピュータシミュレーションを用いて、神経科学や細胞生物学に関連する問題を解決する研究を行っている。本研究は、フロリダ州立大学の音楽芸術管理学科の大学院生 ショーン・ハートマン(Se

オウムの色彩の秘密を解明—「分子スイッチ」が羽色を決定する仕組みとは? リオデジャネイロのカーニバルから海賊の肩の上まで、オウムはその鮮やかな羽色で世界中の人々を魅了してきた。しかし、この目を引く色彩がどのように生み出されるのか、科学者たちは長年その仕組みを完全には理解できていなかった。 2024年11月1日、香港大学(The University of Hong Kong, HKU)の研究者を含む国際研究チームは、オウムの 羽色を制御するDNAの「スイッチ」 を初めて特定した。この画期的な研究成果は、Science誌 に掲載され、論文タイトルは 「A Molecular Mechanism for Bright Color Variation in Parrots(オウムにおける鮮やかな色の変異を引き起こす分子メカニズム)」 である。 「オウムはその色彩の多様性において、他の鳥とは全く異なる進化を遂げています」と、本研究の共著者である香港大学生物科学部の サイモン・ヨン・ワー・シン教授(Simon Yung Wa Sin) は語る。「オウムは独自のやり方で色を作り出します」と、BIOPOLIS-CIBIO(ポルトガル)の ロベルト・アルボレ博士(Roberto Arbore, PhD) も加える。 オウムの赤色や黄色の羽には、シッタコフルビン(psittacofulvins) という独自の色素が含まれており、これは他の鳥には見られない。「オウムは、このシッタコフルビンを使って鮮やかな黄色や赤色、さらには緑色を作り出し、自然界で最もカラフルな生物の一つとなっています」とアルボレ博士は説明する。 オウムの色の多様性を生み出す「分子スイッチ」 オウムは世界中でペットとして愛されているが、その華やかな羽色を作り出すメカニズムは長い間、科学者たちにとって

ブラックレッグド・ティックの感染状況を解明:北東部におけるライム病リスクの最新研究 北東部のほとんどの地域では、春から秋にかけてブラックレッグド・ティック(別名:シカ・ダニ)に咬まれるリスクがあります。2024年11月22日に科学誌「Parasites and Vectors」に発表された新たな研究では、成体のブラックレッグド・ティックの50%がライム病の原因となるバクテリアを保有し、幼虫(ニンフ)の場合は20~25%が保有していることが明らかになりました。このオープンアクセス論文のタイトルは「Spatial and Temporal Distribution of Ixodes scapularis and Tick-Borne Pathogens Across the Northeastern United States(北東部アメリカにおけるIxodes scapularisとダニ媒介性病原体の空間的および時間的分布)」です。 ライム病とブラックレッグド・ティック ライム病は、1975年にコネチカット州ライムで初めて発見されました。この病気の症状は、発疹、発熱、疲労、筋肉痛や関節痛、リンパ節の腫れなど多岐にわたり、放置するとより重篤な症状を引き起こします。原因はバクテリア「ボレリア・バーグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)」で、一部の小型哺乳類や鳥類が保有しています。ブラックレッグド・ティックは、感染した動物からこのバクテリアを取り込み、人間に感染させる可能性があります。 北東部のブラックレッグド・ティックの分布と感染状況 ダートマス大学を中心とした研究チームは、コネチカット州、ニューヨーク州、ニューハンプシャー州、バーモント州、メイン州を含む北東部で、1989年から2021年までのデータをメタ分析しました。これにより、ブラックレッグ

日焼けのメカニズムが覆る:RNA損傷が炎症と細胞死を引き起こす新発見 多くの人が日焼けによる赤みや炎症、冷却の必要性を経験したことがあるでしょう。日焼けはDNAにダメージを与えると教えられてきましたが、これは完全な真実ではないことが明らかになりました。コペンハーゲン大学と南洋理工大学(NTUシンガポール)の研究者たちが2024年12月19日付の科学誌「Molecular Cell」で発表した新研究によると、急性の日焼け症状はDNAではなくRNAの損傷によって引き起こされることが分かりました。論文のタイトルは「The Ribotoxic Stress Response Drives Acute Inflammation, Cell Death, and Epidermal Thickening in UV-Irradiated Skin in Vivo(リボトキシックストレス応答がUV照射皮膚における急性炎症、細胞死、表皮肥厚を駆動する)」です。 RNA損傷が皮膚炎症の引き金に RNAはDNAと似ていますが、寿命が短い分子です。メッセンジャーRNA(mRNA)はDNAの情報をタンパク質合成に伝える役割を担いますが、今回の研究で、RNA損傷が日焼けにおける細胞の最初の反応を引き起こすことが明らかになりました。 「DNA損傷は細胞分裂で子孫に引き継がれるため深刻ですが、RNA損傷は一過性であり突然変異を引き起こしません。そのため、これまでRNAはDNAほど重要ではないと考えられてきました。しかし、実際にはUV照射による最初の反応はRNA損傷によって引き起こされます」と、研究の筆頭著者であるアンナ・コンスタンス・ヴィンド博士(Anna Constance Vind, PhD)は説明します。 内蔵されたRNA監視システム 研究は、マウスとヒトの皮膚細胞を対象に行われ、

RNA干渉の仕組みを明らかにする構造解析:Argonaute2のRNA切断メカニズムを解明 マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、分子生物学の最も複雑なプロセスの一つである、ヒトArgonaute2(AGO2)によるRNA切断の詳細を明らかにしました。この研究は、RNA干渉(RNAi)の中心的な役割を担うAGO2の構造を解明することで、RNAベースの高度な治療法の開発に新たな可能性をもたらします。研究成果は2025年1月に「Cell Reports」に掲載され、論文タイトルは「The Structural Basis for RNA Slicing by Human Argonaute2(ヒトArgonaute2によるRNA切断の構造基盤)」です。 RNA干渉の主要因子AGO2 RNA干渉は、小さなRNA分子が標的RNAをガイドし、相補的なRNA配列をサイレンシングする経路です。ヒトには4つのArgonauteタンパク質がありますが、このうちAGO2だけがRNAを切断するエンドヌクレアーゼ活性を持っています。この特異的な能力により、非常に高い精度で遺伝子をサイレンシングします。 RNA干渉は、遺伝子発現の調節やウイルス感染防御、内因性トランスクリプトの制御において重要な役割を果たしており、siRNAベースの治療法の基盤となっています。しかし、AGO2の切断活性の構造的な基盤はこれまで未解明の部分が多く残されていました。 クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析のブレークスルー 研究チームは、クライオ電子顕微鏡を用いてAGO2が完全に対をなしたRNA二本鎖に結合した状態を解析し、切断に適した構造を高解像度で明らかにしました。この解析によって、以下の重要な構造的変化が特定されました: Nドメインの移動: Nドメインが大きく動き、RNA二本鎖のための経路を

メタゲノムデータで微生物多様性のホットスポットを解明:既知と未知のバランスを探る新研究 微生物の多様性に関する最新の評価が、2025年1月17日付けで科学誌「Science Advances」に発表されました。米国エネルギー省(DOE)の共同ゲノム研究所(JGI)によるこの研究は、過去30年間にわたって蓄積された公開ゲノム配列データを活用し、現在知られている微生物多様性の割合を評価するとともに、未解明の領域に取り組むための道筋を提案しています。このオープンアクセス論文のタイトルは「A Metagenomic Perspective on the Microbial Prokaryotic Genome Census(メタゲノムから見る微生物原核ゲノムの国勢調査)」です。 微生物の多様性評価の現状と課題 共同第一著者であるドンイン・ウー博士(Dongying Wu, PhD)は、「約180万件の細菌および古細菌ゲノムを徹底的に分析したところ、これまでに解明された多様性はまだ表面的なものに過ぎないことが分かりました」と述べています。 チームの分析によれば、公開データベースに収録された細菌分離株ゲノムは、既知の多様性のわずか9.73%を占めるにすぎません。一方で、環境サンプルから直接データを抽出して生成されたメタゲノムアセンブルゲノム(MAGs)は、既知の細菌多様性の約49%を占め、微生物ゲノム多様性を大きく拡大しました。しかし、それでもなお42%の細菌多様性が公的データベースには未収録であると保守的に推定されています。 古細菌については、分離株ゲノムが既知多様性の6.55%にとどまる一方、MAGsが57%を占めていますが、36%の多様性が未解明のままです。 MAGsの功績と次のステップ MAGsは計算的手法による革命的な成果であり、多様性の理解を広げる大きな役

B型肝炎ウイルスが神経細胞を直接感染—神経疾患との関連を解明する新モデルを開発 ドイツのルール大学ボーフム(Ruhr University Bochum)の研究チームは、A型肝炎ウイルス(HEV)が神経細胞を直接感染し、免疫応答を回避することを証明した。この研究により、HEV感染がギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome)や神経障害性筋萎縮(neuralgic amyotrophy)などの神経疾患と関連している可能性が示唆された。研究論文は2024年11月15日付の PNAS に掲載された。 HEVとは?—主に肝臓を標的とするが、神経細胞にも影響 HEV(肝炎Eウイルス)は、急性肝炎の主要な原因ウイルスであり、毎年約70,000人がこのウイルスによって死亡している。通常、健康な免疫系を持つ人では自己治癒するが、免疫抑制状態の患者(臓器移植患者やHIV感染者など)では慢性化する可能性がある。また、妊婦では重症化のリスクが高い。 これまでの研究では、HEVが神経系に及ぼす影響についての詳細なメカニズムは解明されていなかった。 研究によると、HEV感染者のうち最大11%がギラン・バレー症候群や神経障害性筋萎縮などの神経疾患を併発する ことが確認されている。しかし、HEVがどのように神経細胞を標的とするのかは不明だった。 HEVは神経細胞を直接感染する—新しい細胞モデルで証明 ミシェル・ヤグスト(Michelle Jagst, 研究筆頭著者) や アイケ・シュタインマン教授(Professor Eike Steinmann) らの研究チームは、HEVと神経細胞の相互作用を調べるための新しい細胞モデルを開発 した。 研究の手法 1. ヒト腎細胞(尿中に排出される細胞)を用いて、人工的に神経細胞へと分化させる2. この初代神経細胞(i

結核菌が「細菌学の常識」を覆す―新たに発見された成長の仕組み 世界保健機関(WHO)が再び「世界最悪の感染症」と位置づけた結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は、単細胞生物でありながら、生涯を通じて一定の成長速度を維持するという驚くべき特性を持つことが明らかになった。この発見は、タフツ大学医学部の研究者らによって2024年11月15日付の学術誌『Nature Microbiology』に報告された。論文タイトルは 「Single-Cell Imaging of the Mycobacterium tuberculosis Cell Cycle Reveals Linear and Heterogenous Growth(単一細胞イメージングによる結核菌の細胞周期の解析が示す線形かつ不均一な成長)」 である。 本研究は、細菌の細胞生物学における根本的な考え方を覆すものであり、結核菌がなぜ免疫系を巧みにすり抜け、抗生物質に対して高い耐性を示すのかを理解する手がかりとなる可能性がある。 結核菌は「細胞成長のルール」を無視する? 「細菌の最も基本的な研究テーマは、いかにして細胞が成長し、分裂するかという点です。しかし、我々の研究は、結核菌が一般的なモデル生物とは全く異なるルールに従っていることを示しました」と、タフツ大学医学部の分子生物学・微生物学教授であり、バイオメディカルエンジニアリング教授でもある ブリー・オルドリッジ博士(Bree Aldridge, PhD) は語る。本研究の共同責任著者には、イスラエル・ワイツマン科学研究所の アリエル・アミール博士(Ariel Amir, PhD) も名を連ねている。 結核菌の成功の秘訣は、その特殊な生存戦略にある。感染した宿主内で一部の細胞が急速に進化し、治療を回避する能力を獲得するのだ。

痛みの伝達を制御する新たなターゲット:カルシウムチャネルCaV2.2の分子機構解明 痛みの信号が神経系を通じて伝達される際、カルシウムチャネル(calcium channels)と呼ばれるタンパク質が重要な役割を果たしています。スウェーデンのリンショーピング大学(Linköping University)の研究者らは、このカルシウムチャネルの中でも特に痛みの信号の強度を微調整する特定の部位を特定することに成功しました。この発見により、より効果的で副作用の少ない慢性疼痛治療薬の開発が期待されます。 痛みの信号伝達とカルシウムチャネルの役割 私たちの体内で痛みを含むさまざまな情報は、主に電気信号として神経系を通じて伝達されます。しかし、重要な場面ではこれらの信号が生化学的な分子情報へと変換されることで、次の神経細胞へと伝達されていきます。この変換の詳細を分子レベルで理解することは、将来の疼痛治療薬を開発するうえで不可欠です。 電気信号が神経細胞の末端に到達すると、カルシウムイオン(Ca²⁺)の流入を介して生化学的信号へと変換されます。この増加したカルシウムイオンが神経伝達物質(neurotransmitters)の放出を引き起こし、次の神経細胞がこの信号を受け取り再び電気信号に変換します。このようにして情報が神経系を通じて伝達されるのですが、その過程で特に重要なのが電位依存性カルシウムチャネル(voltage-sensitive calcium channels)です。これらのチャネルは、電気信号を感知し、それに応じて開閉することでカルシウムの流入を制御する「分子機械」として機能しています。 CaV2.2チャネルと慢性疼痛 今回の研究では、リンショーピング大学の研究チームが特にCaV2.2チャネル(N型カルシウムチャネル)に注目しました。このチャネルは痛み

NeuroDex、パーキンソン病の血液バイオマーカー開発でMJFFの助成金を獲得—早期診断の新たな可能性 2024年11月1日、NeuroDex Inc.(ニューロデックス社)は、マイケル・J・フォックス財団(The Michael J. Fox Foundation for Parkinson’s Research, MJFF)から助成金を獲得 したと発表した。この助成金は、パーキンソン病の血液バイオマーカー開発を支援する もので、同社の先進的なExoSORT™技術 を活用し、血液中の神経由来エクソソーム(extracellular vesicles, EVs)からα-シヌクレイン(α-synuclein)を検出することで、パーキンソン病の診断と病期評価に役立てることを目的としている。 このプロジェクトは、MJFFの大規模研究「パーキンソン病進行マーカーイニシアチブ(PPMI)」と連携し、ExoSORT™技術を用いた血液検査の精度を検証 する。非侵襲的な診断ツールの開発により、パーキンソン病の早期発見と治療開発が加速されることが期待される。 NeuroDexのExoSORT™技術とパーキンソン病診断への応用 パーキンソン病(PD)は、α-シヌクレインの異常蓄積による神経変性疾患 であり、早期診断が難しい課題となっている。現在、確定診断には脳脊髄液(CSF)を用いたシードアッセイが必要だが、この手法は侵襲的であり、一般診療での使用が制限されている。 NeuroDexのExoSORT™技術は、血液中の神経由来エクソソームを分離し、α-シヌクレインを特異的に検出する ことを可能にする。この技術が確立されれば、血液検査によるパーキンソン病の診断が現実のものとなる。 研究の目的と臨床応用への期待 今回のプロジェクトでは、以下のポイントに焦点を当てる: 1.Exo

脳の安定性を司る新たな役割—NMDA受容体の発見がうつ病治療を革新する可能性 イスラエルのテルアビブ大学(Tel Aviv University)の研究チームは、学習や記憶の形成に重要なNMDA受容体(NMDAR)が、脳の活動の安定性を維持する上でも不可欠である ことを発見した。この研究は、うつ病、アルツハイマー病、てんかん などの神経疾患に対する新たな治療法の開発につながる可能性を示している。研究論文は、2024年に Neuron に掲載された。 NMDA受容体と脳の恒常性維持 これまで、NMDA受容体(N-methyl-D-aspartate receptor, NMDAR) は、主に学習や記憶に関与するシナプス可塑性の研究対象とされてきた。しかし、テルアビブ大学のイナ・スルツキー教授(Prof. Inna Slutsky) 率いる研究チームは、NMDARが脳の基本的な安定性を維持する役割 を持つことを明らかにした。 「脳研究の多くは、情報の記憶や学習を可能にする神経細胞間のシナプス接続の変化に焦点を当ててきました。しかし、それを支える脳の基本的な安定性もまた不可欠なのです。」 スルツキー教授が言いました。 この研究は、うつ病などの神経疾患がNMDARによる活動の安定化機能の破綻と関連している可能性 を示唆している。 研究手法とNMDA受容体の新たな機能の発見 研究チームは、以下の3つの主要な手法を用いた。 培養神経細胞(in vitro)を用いた電気生理学的記録生体内(in vivo)で行動するマウスの神経活動の記録数学的モデル(in silico)を用いた計算シミュレーション 実験1:培養神経細胞におけるNMDARの役割 研究者のアントネラ・ルッジェーロ博士(Dr. Antonella Ruggiero) は、テルアビブ大学の研究室で開発さ

発達中のヒト胸腺の詳細マップが免疫応答の形成と維持の仕組みを解明——免疫不全、自己免疫疾患への応用に期待 科学者らは、免疫細胞が感染から体を守る訓練を受ける重要な臓器である胸腺の発達過程を詳細にマッピングすることで、生涯にわたる免疫機能の基盤が従来考えられていたよりも早い段階で確立されることを明らかにしました。この研究は、英国のウェルカム・サンガー研究所(Wellcome Sanger Institute)を中心に、ベルギーのヘント大学(Ghent University)、米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)などの研究チームによって実施されました。この発見は、免疫細胞を体外で人工的に作り出す技術の開発につながる可能性があり、加齢による免疫低下の克服、臓器移植の拒絶反応の抑制などに貢献すると期待されています。 この研究成果は、2024年11月20日付の科学誌Natureに「A Spatial Human Thymus Cell Atlas Mapped to a Continuous Tissue Axis(発達中のヒト胸腺の空間細胞アトラス:連続組織軸へのマッピング)」というタイトルで発表されました。本研究は、ヒト細胞アトラス(Human Cell Atlas)プロジェクトの一環として実施されており、このプロジェクトでは、ヒトのあらゆる細胞の包括的なマップの作成を目指しています。 胸腺とT細胞の役割:生涯にわたる免疫の基盤を形成 免疫システムは、多様なT細胞(白血球の一種)によって、病原体やがん細胞の排除を行っています。T細胞は、体外からの脅威を識別するだけでなく、自己組織を誤って攻撃しないよう訓練を受ける必要があります。このT細胞の教育が行われるのが、胸骨の後ろに位置する小さな臓器「胸腺(Thymus)」です。 胸腺の機能異常は、免疫不全や自己免疫疾

新発見!体内で生成されるBHB-Pheが食欲と体重を調節—肥満治療の新たな可能性 ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)とスタンフォード大学医学部(Stanford University School of Medicine)を含む研究チームが、2024年11月12日付の Cell に発表した研究によると、体内で自然に生成される新たな化合物 BHB-Phe が、脳内の神経細胞と相互作用し、食欲と体重を調節することが明らかになった。この研究成果は、肥満や糖尿病の新しい治療法につながる可能性がある。 BHB-Pheとは?—体内で発見された抗肥満代謝物 これまで、β-ヒドロキシ酪酸(BHB) は、肝臓がエネルギー源として生成する化合物として知られていた。しかし、近年の研究で、BHB は断食や運動後に体内で増加することが判明し、肥満や糖尿病への有益な作用が期待されている。 今回、スタンフォード大学のジョナサン・Z・ロング博士(Jonathan Z. Long, PhD)が率いる研究チームは、BHB が新たな代謝経路にも関与していることを発見した。特に、CNDP2 という酵素が BHBとアミノ酸を結びつける ことで、BHB-Phe が生成されることが判明した。この BHB-Phe は、動物モデルにおいて体重や代謝に影響を及ぼすことが確認された。 BHB-Pheが食欲を抑えるメカニズム ベイラー医科大学のヨン・シュー博士(Yong Xu, MD, PhD)が率いるチーム は、BHB-Phe がどのように食欲を抑制し、体重を減少させるのかをマウスで調査した。 「脳内には食欲を調節する神経細胞群が存在します。我々は脳全体をマッピングし、BHB-Pheによって活性化される領域を特定しました。」とシュー博士は述べる。 その結果、視床下部と脳

ウイルスの進化とインフルエンザの新たな理解:免疫の糖鎖修飾が病態を左右する可能性 ウイルスは地球上で最も速く進化する生物学的存在である。この事実が、私たちが毎年インフルエンザワクチン(flu shots)を接種する理由を説明している。季節性インフルエンザは、過去のワクチン接種や感染によって獲得された免疫を次々とすり抜け、新しい変異株が現れるからだ。その中には、特に深刻な影響を及ぼすものもある。例えば、1918年のインフルエンザ(スペイン風邪)パンデミックは、全世界で5,000万人もの命を奪い、世界人口の5分の1が感染した。さらに、1957年、1968年、2009年にもインフルエンザのパンデミックが発生している。 「インフルエンザは依然として世界的な健康リスクとして極めて危険な存在です」と語るのは、スタンフォード大学医学部の感染症および微生物学・免疫学の准教授であるタイア・ワン博士(Taia Wang, MD, PhD)である。ワン博士の研究チームは、抗体(免疫系がウイルスや微生物の侵入を防ぐために産生する特殊なタンパク質)に存在する特定の糖鎖分子の割合が、インフルエンザ感染時の症状の重症度を左右する可能性を明らかにした。すなわち、この糖鎖の量が多いほど、軽症で済む可能性が高くなるという。 抗炎症メカニズムの発見と実験的検証 さらに研究チームは、なぜこの糖鎖が病態を変化させるのかを解明し、マウスを用いた実験でどのインフルエンザ株にも適用できる重症化予防法を示した。この発見は、将来の大規模なインフルエンザ流行時に役立つ可能性があるだけでなく、他の感染症にも応用できるかもしれない。 この研究成果は、2024年11月13日付でオープンアクセスの科学誌 Immunity に掲載された。論文タイトルは「Sialylated IgG Induces the Transcri

紫茶の遺伝子研究が明らかにするアントシアニン蓄積の鍵 中国農業科学院の研究者らが、紫茶の遺伝的特性に関する画期的な研究を発表した。本研究は2024年7月10日にオープンアクセスジャーナルHorticulture Researchに掲載され、論文タイトルは 「Association Analysis of BSA-seq, BSR-seq, and RNA-seq Reveals Key Genes Involved in Purple Leaf Formation in a Tea Population (Camellia sinensis)(BSA-seq、BSR-seq、およびRNA-seqによる関連解析が明らかにした、茶の紫葉形成に関与する主要遺伝子)」です。 アントシアニン(anthocyanin)蓄積の分子メカニズムを解明する重要な成果を報告している。研究では、RNAシークエンシング(RNA-seq)、バルク・セグリゲーション解析(BSA-seq)、バルク・セグリゲーションRNA解析(BSR-seq)などの高度なゲノム解析技術を用いて、紫葉品種「紫娟(Zijuan)」と緑葉品種「金萱(Jinxuan)」の交配集団を解析した。その結果、CsMYB75およびCsANSという2つの重要な遺伝子が、アントシアニン生合成を制御することが明らかになった。 紫茶の遺伝子解析:アントシアニンの蓄積を支配する要因 紫茶は長年の自然進化によって生まれた品種であり、強力な抗酸化作用や抗炎症作用、老化防止効果があるアントシアニンを豊富に含む。その健康効果が注目され、代謝促進や疾患予防の可能性が期待されている。しかし、アントシアニンの蓄積メカニズムの解明は難しく、過去の研究は単一の品種を対象としたものが多かった。そのため、紫茶の遺伝的多様性を包括的に解析することが求められていた

光が強すぎるとどうする?—単細胞生物の驚くべき適応メカニズム 生物にとって太陽の光は生命維持に不可欠だ。しかし、光が強すぎると、動物は日陰に逃げ、人間は昼寝をし、植物は細胞内で葉緑体の配置を変えて光の吸収を調整するなど、さまざまな方法で対処する。では、移動能力を持たない単細胞生物はどのようにして強烈な光を回避しているのだろうか? オランダ・アムステルダム大学の研究者らがこの疑問に対する答えを発見した。本研究の成果は、2024年11月18日付の Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS) に掲載され、論文タイトルは 「Light-Regulated Chloroplast Morphodynamics in a Single-Celled Dinoflagellate(単細胞渦鞭毛藻における光制御型葉緑体形態動態)」 である。 「光る海」の原因となる単細胞生物 今回の研究対象となったのは、ピロシスティス・ルヌラ(Pyrocystis lunula) という単細胞藻類だ。この生物名は馴染みがなくても、その影響を目にしたことがある人は多いだろう。船乗りや漁師の間ではよく知られており、夜の海が青く光る現象 の原因となる生物の一つだ。 P. lunula は渦鞭毛藻(dinoflagellate)の一種であり、葉緑体(chloroplast)を利用して光合成を行い、太陽エネルギーを化学エネルギーへと変換する。しかし、この生物は植物のように葉緑体の配置を変えることで光の吸収量を調整することはできない。さらに、動物のように強い光から逃げることも不可能だ。では、この単細胞生物はどのようにして過剰な光から身を守っているのだろうか?この謎を解明することが、本研究の目的だった。 葉緑体は「縮む」ことで強光を回避する

遺伝性神経変性疾患の治療に新たな希望:ウィスコンシン大学マディソン校の研究成果 ウィスコンシン大学マディソン校の研究者らが、遺伝性神経変性疾患の一群を対象とした遺伝子治療で、動物モデルを用いた成功例を報告しました。このアプローチは、CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を使用しており、稀ではあるが重度の運動ニューロン疾患の治療に新たな可能性を示すものです。 遺伝性痙性対麻痺(HSP)とその課題 遺伝性痙性対麻痺(HSP)は、特定の遺伝的突然変異によって引き起こされる運動障害で、脚の筋力低下と硬直を伴い進行する病気です。この稀な疾患は、身体機能の制限を引き起こし、多くの場合、車椅子の使用が必要になります。 新しい治療法の開発には動物モデルを用いた病態の解明とテストが不可欠ですが、HSPの症状や進行を再現する動物モデルの開発はこれまで困難を極めていました。しかし、2022年にウィスコンシン大学マディソン校のアンジョン・オーディア博士(Anjon Audhya, PhD)が率いるチームが、CRISPR-Cas9技術を用いてHSP関連の遺伝子変異を持つラットモデルを開発したことで、状況が一変しました。 新たな遺伝子治療の成功例 HSPの原因となるのは、通常は神経細胞(ニューロン)内でタンパク質輸送を促進する役割を持つTrk-fused遺伝子の変異です。この機能が人間やラットで障害されると、症状が悪化します。オーディア博士らのチームは、ラットモデルをさらに改良し、新たな治療法の開発に取り組んできました。その成果として、HSPの症状を発症する前に保護する遺伝子治療戦略を開発しました。 この戦略では、遺伝子操作されたウイルスを用いてニューロンを標的とし、変異のない正常なTrk-fused遺伝子を導入します。研究チームは、このウイルスを生後間もないラットの脳に注射しました。

テキサスのH5N1鳥インフルエンザ株:哺乳類への感染と致死性の新たなリスクを示唆 2024年春、テキサス州の酪農場で働く労働者が感染したH5N1鳥インフルエンザウイルス株が、動物モデルでの研究においてフェレット間で空気感染し、すべての感染個体を死亡させることが確認されました。ただし、感染拡大の効率は低かったとのことです。この研究を主導したのは、ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin–Madison)の河岡 義裕博士(Yoshihiro Kawaoka DVM, PhD)で、2024年10月28日にNature誌に発表されました。論文タイトルは「A Human Isolate of Bovine H5N1 Is Transmissible and Lethal in Animal Models(牛由来のヒトH5N1株の伝播性と動物モデルでの致死性)」です。 労働者の軽症とウイルスの拡散状況 感染した労働者は軽い症状で完全に回復し、現在のところこの株が野生でさらに拡散した形跡はありません。しかし、研究結果はH5N1ウイルスが哺乳類に感染し、時に酪農労働者へ感染するリスクを浮き彫りにしています。川岡博士は「フェレットにおいてこれほど病原性の高いウイルスを見たのは初めてです」と述べ、この特定のH5N1株が通常のウイルスよりも致死性が高いことに驚いたとしています。 フェレットを用いた研究とH5N1の変異 フェレットはインフルエンザウイルスが哺乳類に適応する仕組みを研究するための一般的なモデル動物です。H5N1ウイルスは、宿主が変わるたびに急速に変異し、場合によっては新しい種への感染や伝播が可能になります。この性質により、H5N1は世界中の鳥類に感染を拡大させ、2024年には北米の酪農牛にも広がりました。研究チームは、テキサスの労働

AI活用による遺伝子研究の落とし穴と改善の提案 ウィスコンシン大学マディソン校の研究者らは、遺伝学と医学の分野で急速に普及している人工知能(AI)ツールが、遺伝子と疾患リスクを含む身体的特徴との関連について誤った結論を導く可能性があると警告しています。この問題は、ゲノムワイド関連解析(GWAS)におけるAIの利用に起因しており、これが遺伝子変異と疾患リスクの関係に「偽陽性」をもたらす可能性が指摘されています。 遺伝学と疾患の関連性は単純ではない 遺伝子変異が疾患リスクに寄与することはよく知られていますが、その関係性は複雑です。例えば、嚢胞性線維症のように単一遺伝子変異が疾患に直結する場合もありますが、多くの場合、遺伝子と身体的特徴の関連は多因子的です。GWASは、複数の個人の遺伝プロファイルや健康特徴を解析することで、遺伝子と疾患リスクとの関連を解明するための手法です。米国国立衛生研究所(NIH)の「All of Us」プロジェクトやUKバイオバンクなどの大規模データベースが活用されていますが、これらのデータベースには研究対象の健康状態に関するデータが不足している場合があります。 データ不足へのAI依存のリスク このデータ不足を補うため、近年ではAIツールが活用されるケースが増えています。しかし、AIモデルが不完全なデータから推論を行う際にバイアスを導入するリスクがあります。ウィスコンシン大学のルー・チョンシー博士(Qiongshi Lu, PhD)率いる研究チームは、2024年9月30日付けのNature Geneticsに発表された論文「Valid Inference for Machine Learning-Assisted Genome-Wide Association Studies(機械学習支援ゲノムワイド関連解析のための有効な推論)」でこの問題を

ALSの進行を食い止める可能性:早期診断で新たな治療法を模索 アメリカでは毎年約5,000人が筋萎縮性側索硬化症(ALS、別名ルー・ゲーリッグ病)と診断されています。疾患の進行は速く、診断後の生存期間は平均して2〜5年とされています(CDCデータより)。この神経変性疾患は脳や脊髄のニューロンを死滅させ、筋力低下、呼吸不全、認知症を引き起こします。しかし、ALSの初期段階で運動ニューロンが劣化し始めるメカニズムは依然として不明なままでした。こうした中、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームがALS初期段階の神経変性を引き起こす主要経路を特定し、発症前に進行を防ぐ新たな治療法開発につながる可能性を示しました。 本研究は2024年10月31日にNeuron誌で発表され、論文タイトルは「Inhibition of RNA Splicing Triggers CHMP7 Nuclear Entry, Impacting TDP-43 Function and Leading to the Onset of ALS Cellular Phenotypes(RNAスプライシングの抑制がCHMP7の核内移行を引き起こし、TDP-43の機能に影響を与えてALS細胞表現型を誘発する)」です。 TDP-43タンパク質とALS発症のカギ 運動ニューロン内の核に存在するTDP-43というタンパク質は、細胞が機能するために必要な遺伝子発現を調節しています。しかし、TDP-43が核の外に出て細胞質に蓄積することがALSの顕著な特徴であると知られています。このタンパク質がどのようにして不適切な位置に移動し、神経変性を引き起こすのかは長年の謎でした。研究チームの代表著者であるユージン・ヨウ博士(Gene Yeo PhD、UCSD医学部教授)は、「ALS患者においてTDP-43が

次世代メタゲノムシーケンス(mNGS)による画期的な感染症診断法:UCSFの研究成果 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で開発されたゲノム検査が、脳脊髄液(CSF)中のほぼすべての病原体を迅速に検出できることが実証されました。この検査は、髄膜炎や脳炎などの神経感染症の診断を大幅に改善する可能性を秘めており、新たなウイルスパンデミックの脅威を早期に発見する役割も期待されています。検査は、メタゲノム次世代シーケンス(mNGS)と呼ばれる強力なゲノム解析技術を使用します。これは、サンプル中のRNAやDNAを網羅的に解析し、1種類の病原体に絞らずに検出することが可能です。 「この技術は見た目には単純ですが、複数の検査を1つの検査で代替することで、感染症診断の試行錯誤をなくすことができます」と、UCSFの検査医学・感染症学教授であり、今回の研究の責任著者であるチャールズ・チウ博士(Charles Chiu, MD, PhD)は述べています。 神経感染症の診断におけるmNGSの成功 2014年にチウ博士らは、この技術を用いて重篤な症状を示していた少年を診断しました。他の検査では原因が特定できませんでしたが、UCSFの検査により48時間以内にレプトスピラ症が判明。ペニシリンによる治療で完全に回復しました。その後、このmNGS検査はUCSFで標準化され、全米の病院や診療所からCSFサンプルが送られるようになりました。 2024年11月12日付けのNature Medicineに掲載された論文「Seven-Year Performance of a Clinical Metagenomic Next-Generation Sequencing Test for Diagnosis of Central Nervous System Infections」によれば、

腎臓細胞がニューロンと類似した学習や記憶を行う可能性を示す研究 記憶は脳、特に脳細胞に保存されるというのは一般的な知識ですが、ニューヨーク大学のニコライ・V・ククシュキン博士(Nikolay V. Kukushkin, PhD)を中心とした研究チームは、体内の他の細胞も記憶機能を担っていることを発見しました。この発見により、記憶の仕組みに関する新たな理解が進み、学習能力を向上させたり、記憶関連の疾患を治療する道が開ける可能性があります。本研究は2024年11月7日にNature Communications誌に発表され、論文タイトルは「The Massed-Spaced Learning Effect in Non-Neural Human Cells(非神経ヒト細胞における一括-間隔学習効果)」です。 研究の背景と目的 この研究は、脳以外の細胞がどのように記憶機能を果たすのかを解明するため、神経科学で確立された「一括-間隔効果(massed-spaced effect)」を応用しました。一括-間隔効果とは、情報を短期間に集中的に学ぶよりも、一定間隔を置いて学ぶ方が記憶が定着しやすいという現象です。研究チームは、非神経系のヒト細胞が同様の効果を示すかを実験的に検証しました。 実験の内容 研究チームは、実験室で2種類の非神経系ヒト細胞(神経組織由来と腎臓組織由来)を用い、異なる化学信号のパターンにさらしました。これは、脳細胞が学習時に神経伝達物質のパターンにさらされる状況を模したものです。その結果、これらの非神経細胞が「記憶遺伝子」を活性化することが確認されました。この遺伝子は、脳細胞が情報パターンを検出して結合を再構築し、記憶を形成する際に活性化されるものと同じです。 さらに、科学者らは記憶と学習のプロセスを観察するため、これらの細胞に発光タンパク質を組み込

フルーツバエの脳老化研究が示すF-アクチンの役割と健康寿命延長の可能性 加齢とともに物忘れが増えるのは、人間だけではありません。フルーツバエもまた年齢を重ねると認知機能が低下します。しかし、フルーツバエの寿命はわずか2カ月程度であるため、老化に伴う認知機能低下を理解する上で優れたモデル生物とされています。2024年10月25日にNature Communications誌に掲載された研究「Accumulation of F-Actin Drives Brain Aging and Limits Healthspan In Drosophila(F-アクチンの蓄積が脳老化を促進し、健康寿命を制限する)」は、細胞構造の維持に重要なタンパク質「F-アクチン(filamentous actin, F-actin)」が脳内で蓄積すると、細胞内の不要物を分解する仕組みが妨げられることを明らかにしました。 このプロセスの阻害により、不要なDNA、脂質、タンパク質、オルガネラ(細胞内小器官)が蓄積し、神経細胞の機能が低下して認知機能の衰えにつながるといいます。 さらに、研究チームは老化したフルーツバエの神経細胞におけるF-アクチンの蓄積を抑える遺伝子操作を行い、細胞のリサイクル機能を維持した結果、健康寿命が約30%延びたことを報告しています。 F-アクチンと老化の関連性 アクチンは、細胞の形状を維持する働きを持つタンパク質ファミリーであり、体内のさまざまな部位に存在しています。特にF-アクチンは、細胞の構造を支えるフィラメントを形成し、重要な機能を担います。しかし、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のデイビッド・ウォーカー博士(David Walker)率いる研究チームは、老化したフルーツバエの脳でF-アクチンの蓄積が増加していることを発見し、これが脳老化や全身の健

動物や植物の「目立つ色」:進化のタイムラインと機能 動物や植物の「目立つ色」(目立つ色: conspicuous colors)は、赤、黄色、オレンジ、青、紫など、多くの背景の中で際立つ色を指します。このような色は、動物や植物の間で重要なコミュニケーション手段として進化してきました。例えば、クジャクは鮮やかな尾羽を広げて異性を惹きつけたり、毒蛇や中南米のカラフルな毒ガエルが捕食者への警告として色を利用したりします。 アリゾナ大学の研究者らによる最近の研究では、動物における色覚の進化と、動物や植物での「目立つ色」の異なる役割について、進化のタイムラインを分析しました。 この研究は、アリゾナ大学生態学・進化生物学科のジョン・J・ウィーンズ博士(John J. Wiens)を中心に進められ、2024年9月26日に『Biological Reviews』誌に掲載されました。論文のタイトルは「How Life Became Colourful: Colour Vision, Aposematism, Sexual Selection, Flowers, and Fruits(生命がカラフルになった理由:色覚、警告色、性的選択、花、果実)」です。 研究の背景と目的 研究の共同著者であるオクラホマ州立大学統合生物学部のザカリー・エンバーツ博士(Zachary Emberts)は、「鮮やかな色彩がいつ進化し、どのような目的で使われてきたのかを知りたいと考えたことが、この研究を追求した主な理由です」と述べています。 研究によれば、動物の色覚は約5億年前に進化しましたが、カラフルな果実や花はそれよりもはるか後、果実が約3億5000万年前、花が約2億年前に現れたことがわかりました。また、警告色信号は約1億5000万年前に、性的色信号は約1億年前に出現したとされています。 「目立

合成遺伝子で生体材料を自在に構築:医療とバイオテクノロジーへの新たな道を開く カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)サミュエリ工学部とイタリアのローマ・トル・ヴェルガタ大学の研究者たちは、細胞内の遺伝子のように機能する合成遺伝子を開発しました。この合成遺伝子は、自己組織化する構造体を段階的に構築し、必要に応じて分解することも可能です。この技術は、家具をモジュール式ユニットで組み立てる手法に似ており、同じ部品を用いて多様な構造を作り直すことができます。この発見は、DNAタイルで構成されたナノスケールのチューブなど、複雑な生体分子材料を設計・再設計するための基盤を提供します。 研究成果は2024年10月3日付で科学誌Nature Communicationsに掲載され、論文タイトルは「Developmental Assembly of Multi-Component Polymer Systems Through Interconnected Synthetic Gene Networks in Vitro(合成遺伝子ネットワークを介した多成分高分子システムの発生的組み立て)」です。UCLAサミュエリ工学部のエリサ・フランコ教授(Elisa Franco, PhD)が研究を主導し、彼女の研究室のポスドクであるダニエラ・ソレンティーノ(Daniela Sorrentino)が第一著者を務めました。 自己組織化を可能にする遺伝子ネットワーク 研究者たちは、合成DNAストランドから構成されるDNAタイルを用い、特定のRNAトリガー分子が存在する場合にのみ相互作用して、ミクロンスケールのチューブ状構造を形成する仕組みを構築しました。また、別のRNAトリガー分子を用いることで、同じ構造を解体することも可能です。 さらに、研究チームは合成遺伝子をプログラムし、これらのR

超音波地図で長距離を飛ぶ:コウモリの驚異的なナビゲーション能力を解明 2024年10月31日、雑誌 Science に掲載された論文「Acoustic Cognitive Map–Based Navigation in Echolocating Bats(超音波認知地図に基づくコウモリのナビゲーション)」が、視覚に頼らずにエコーロケーションのみで長距離を飛行するコウモリの能力を明らかにしました。研究は、マックスプランク動物行動研究所のアヤ・ゴールドシュタイン博士(Aya Goldshtein, PhD)らによって行われました。 エコーロケーションの限界と未知の可能性 エコーロケーション(反響定位)は、コウモリが障害物を避けたり、小さな獲物を捕らえたりするための高度な能力として知られています。しかし、この能力は短距離での使用に限られ、数十メートル先の大きな物体を検出する程度であり、視覚など他の感覚に比べてナビゲーションには制約があると考えられていました。また、コウモリがエコーロケーションを通じて周囲を三次元的に把握し、環境のエコーをランドマークとして利用できるのかは不明でした。この疑問を解くことは、小型で夜行性、さらに非常に機敏な生物であるコウモリを追跡する技術的な困難によって妨げられていました。 フィールド実験:新たな追跡技術で明らかになったナビゲーション戦略 ゴールドシュタイン博士らは、北イスラエルでクールショウコウモリ(Pipistrellus kuhlii)を対象にフィールド実験を実施しました。このコウモリは体重わずか6グラムの小型種で、エコーロケーションを用いて活動します。研究チームは、野生のコウモリを捕獲して巣から約3キロメートル離れた未知の場所へ移動させました。この際、視覚を遮断するために目隠しを施し、エコーロケーションのみを利用できる状態にしまし

宇宙で育つ幹細胞—ISSが再生医療の未来を拓く 国際宇宙ステーション(ISS)で培養された幹細胞が、将来のバイオセラピーや複雑な疾患治療の加速に寄与する可能性があることが、メイヨー・クリニックの研究者によって報告された。この研究分析は、フェイ・アブドゥル・ガニ氏(Fay Abdul Ghani)とアッバ・ズベア博士(Abba Zubair, MD, PhD)によって行われ、2024年8月21日付の npj Microgravity に掲載された。本研究によると、微小重力環境が幹細胞の再生能力を強化する可能性があるという。 微小重力環境がもたらす新たな発見 「宇宙で幹細胞を研究することで、地上では観察できない細胞のメカニズムを発見できました。この知見は、臨床応用の可能性を示すものです。」とズベア博士は述べる。 博士はこれまでに3回の宇宙実験を実施し、宇宙空間が大量の幹細胞を培養するのに適した環境かどうか、また帰還後もその機能が維持されるかという重要な疑問を探求してきた。 特に、宇宙で培養された幹細胞が老化関連疾患の治療に役立つ可能性が注目されている。 地上での幹細胞培養の課題 骨髄や脂肪組織に存在する成人幹細胞は、分裂や分化が制限されており、臨床研究や治療に必要な細胞数を確保するのが困難である。そのため、大量培養が必要だが、コストが高く、時間がかかるうえ、結果も一定しない。 一方、ISSでの研究により、微小重力環境では幹細胞の増殖や分化に関する新たな知見が得られ、より効率的な培養が可能であることが示された。 「宇宙環境では、幹細胞が三次元的に成長しやすく、人体内の自然な成長環境に近づきます。地上の二次元培養系よりも組織の再現性が高い。」とズベア博士は説明する。 宇宙で育てた幹細胞の臨床応用 宇宙で培養された幹細胞は、疾患モデル作成や新規治療法の開発に

人体で最も複雑な分子機械の全貌が明らかに:スプライソソームの設計図完成 スプライソソーム:遺伝子メッセージの編集者 スプライソソームは、細胞内でDNAから転写された遺伝子メッセージ(RNA)を編集する分子機械です。この編集作業により、1つの遺伝子から複数の異なるタンパク質を作ることが可能になります。ヒトの全遺伝子の90%以上はスプライソソームによる編集を受けており、このプロセスにエラーが生じると、がん、神経変性疾患、遺伝性疾患など多岐にわたる病気の原因となります。 スプライソソームは150以上の異なるタンパク質と5つの小分子RNAから構成され、その複雑さと機能の繊細さゆえに、これまで詳細なメカニズムは不明でした。しかし、10年以上にわたる研究の末、バルセロナのゲノム規制センター(CRG)の研究チームが、この複雑な分子機械の全体像を初めて明らかにしました。 スプライソソームの新たな発見 研究チームは、305のスプライソソーム関連遺伝子を一つ一つ操作し、がん細胞内のスプライシング全体に与える影響を解析しました。その結果、スプライソソームを構成する要素が単なる補助的な部品ではなく、それぞれが特化した役割を持つことが判明しました。 例えば、ある構成要素はRNAから削除するセグメントを選択し、別の構成要素はRNA配列内の正確な切断位置を保証します。また、別の構成要素は他の部品が過早に行動しないよう監視する「護衛官」のような役割を果たします。このような各部品の特異的な機能の解明により、これまで創薬対象とされていなかった構成要素にも新たな注目が集まっています。 がん治療への応用:「アキレス腱」を狙う 研究では、スプライソソームの構成要素であるSF3B1の役割が特に注目されました。このタンパク質はメラノーマ、白血病、乳がんなど多くのがんで変異が確認されており、従来から

次世代ウェアラブル超音波パッチが血圧測定を革新—臨床試験で高精度を実証 血圧測定の常識を覆す新技術 カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、連続的かつ非侵襲的に血圧を測定できる新しいウェアラブル超音波パッチを開発しました。本技術は、100名以上の患者を対象とした厳格な臨床試験を経て評価された初の超音波血圧測定デバイスであり、血圧管理の精度を大幅に向上させる可能性を持っています。この研究成果は、2024年11月20日に学術誌Nature Biomedical Engineeringに掲載されました。 研究論文のタイトルは、「Clinical Validation of a Wearable Ultrasound Blood Pressure Sensor」(ウェアラブル超音波血圧センサーの臨床的検証)です。 UCSDの材料科学・工学博士課程を修了したサイ・ジョウ(Sai Zhou, PhD)は、次のように述べています。 「従来の血圧測定はカフ式であり、一時的な血圧値しか測定できません。この方法では、重要な血圧変動のパターンを見逃す可能性があります。一方で、私たちのウェアラブルパッチは、連続的に血圧の波形データを記録できるため、詳細な血圧の推移を明らかにすることができます。」 超音波パッチの特徴 この新しいウェアラブル超音波パッチは、伸縮性のある柔らかい素材でできており、皮膚に直接貼り付けて使用します。そのサイズは郵便切手ほどの大きさであり、前腕に装着することで、体内の深部血管の血圧を高精度でリアルタイムに測定できます。 このパッチは、シリコンエラストマー製の柔軟な構造を持ち、その内部にはピエゾ電気変換素子(超音波トランスデューサー)が配置されています。これらのトランスデューサーが超音波を発信・受信し、血管の直径の変化を捉えることで

教科書を書き換える時が来た:UCLA研究者が100年の有機化学ルール「ブレッド則」を覆す 有機化学の世界では、分子構造に関する基本的なルールが約100年にわたり教科書に記載され、科学者たちの研究を方向付けてきました。その一つが「ブレッド則(Bredt’s Rule)」です。しかし、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の化学者ニール・ガーグ博士(Neil Garg, PhD)らの研究チームは、このルールが絶対ではなく、むしろ科学的創造性を妨げていると指摘。彼らはこの制約を突破し、「ブレッド則」を破る分子の合成に成功しました。この発見は、有機化学の基礎を再評価し、創薬をはじめとするさまざまな分野で新たな可能性を切り開くものです。 ブレッド則とは? 1924年に報告されたブレッド則は、ブリッジヘッド(分子構造中で環状構造が交わる箇所)に炭素-炭素二重結合(オレフィン)を配置することができないという法則です。このルールは、分子の幾何学的な制約に基づいており、オレフィンがねじれたり歪んだりして、教科書に記載される剛直な構造を維持できなくなるという考えに基づいています。このため、化学者たちはブリッジヘッド上で二重結合を持つ分子の設計や合成を試みることを避けてきました。 発見の背景と意義 ガーグ博士の研究チームは、これまで「不可能」とされてきた反ブレッドオレフィン(anti-Bredt olefins: ABO)と呼ばれる分子の合成を可能にしました。研究者らは、「化学の世界において固定観念に囚われるべきではない。ブレッド則のようなルールは、科学的な想像力を阻害するものだ」と述べています。ガーグ博士らは、「シリル(擬似)ハライド(silyl (pseudo)halides)」と呼ばれる分子をフッ化物源と反応させ、脱離反応を誘導することでABOを形成する方法を開発しまし

アルテリウイルスは、主に非ヒト霊長類、豚、馬などの哺乳類を宿主とするウイルスの一群です。これらのウイルスは、宿主間での感染を引き起こすことで進化し、長期感染を維持しながら宿主間でより病原性を高める能力を持つとされています。一部のアルテリウイルスは、動物に肺炎や妊娠中の流産、さらには出血熱や脳炎などの深刻な病気を引き起こしますが、これまでのところヒトへの感染は確認されていません。 今回の研究では、アルテリウイルスが哺乳類細胞へ侵入し、感染を開始するために利用する重要な受容体タンパク質が特定されました。特に、この受容体に対する既存のモノクローナル抗体が感染を阻止できることが示され、ウイルス感染の予防や治療への新たな可能性が示唆されました。 研究の主な成果 研究チームは、ゲノム全体を対象としたCRISPRノックアウトスクリーニング技術を活用して、アルテリウイルス感染に必須な遺伝子を特定しました。その結果、FCGRTとB2Mという2つの遺伝子が抽出され、これらが共同して細胞表面に発現する新生児Fc受容体(FcRn)を形成することが明らかになりました。このFcRn受容体は、母体から胎児への抗体輸送を担う役割を持つ一方で、免疫細胞や血管内皮細胞にも存在し、アルテリウイルスの感染に利用されることが判明しました。 実験により、FcRnが以下の少なくとも5種類のアルテリウイルスの宿主細胞侵入に関与することが示されました。 サルアルテリウイルスの3つの異なる株豚繁殖呼吸障害症候群ウイルス2(PRRSV-2)馬動脈炎ウイルス(EAV)特に、宿主細胞からFCGRT遺伝子をノックアウトするとウイルス感染が完全に阻害されることが確認されました。また、FcRnに結合するモノクローナル抗体を用いて細胞を前処理することで、感染が防止できることも示されました。 種間感染における遺伝的要因 さ

未解明の病気に新たな光、タンパク質の折りたたみ機能障害による新型遺伝性疾患を発見 ワシントン大学セントルイス校(Washington University School of Medicine in St. Louis)の研究者らは、世界各地の医療チームと協力し、既知の疾患パターンに該当しないまれな遺伝性疾患を持つ子どもの原因を解明しました。この研究は2024年10月31日付けで科学誌Scienceに「Brain Malformations and Seizures by Impaired Chaperonin Function of Tric(脳の奇形とシャペロニン機能障害による発作)」として掲載されました。 子どもの症状の原因を解明し、新たな疾患タイプを特定 この研究では、知的障害、筋緊張低下、小脳の奇形を持つドイツの男児を対象とし、遺伝子変異が神経系やタンパク質折りたたみ機能に与える影響を調べました。この男児にはCCT3遺伝子に変異があり、研究チームはその遺伝的変化が疾患の原因である可能性を探りました。 ワシントン大学のスティーブン・パク博士(Stephen Pak, PhD)は、「多くの重篤でまれな遺伝性疾患の患者が、徹底した医療評価を受けても診断がつかない状況です。今回の研究により、この家族が子どもの病気をより深く理解し、不要な医療検査を避けることが可能になりました」と述べています。 タンパク質折りたたみの役割と疾患の関係 研究では、モデル生物の線虫(C. elegans)を用い、CCT3遺伝子の変異が運動能力や神経系にどのような影響を及ぼすかを解析しました。この遺伝子は、TRIC/CCTシャペロニンと呼ばれるタンパク質折りたたみ機構の一部を形成しており、この機構が正常に機能するには健康なCCT3が一定量必要であることが判明しました。 さらに、ド

リブソームの驚くべき物語:構造生物学の進化と医療への展望 「パラーデ粒子」という言葉を聞いたことがない人は少なくないでしょう。しかし、これは生物学の基礎を築いた馴染み深い物語の一つです。1950年代、ロックフェラー大学のジョージ・E・パラーデ(George E. Palade)が細胞の細胞質中の膜に付着した密度の高い巨大分子を発見したのが始まりです。彼はその目的を全く理解していませんでしたが、その分子の大きさが重要性を示唆し、またその粒状の外観からサブコンポーネントの集合体であると考えられました。この粒子は後に「リボソーム」と名付けられ、遺伝子コードをタンパク質に翻訳する分子機械であることが判明しました。この発見が1974年のノーベル賞を彼にもたらしました。 リボソーム構造解明への道 その後、リボソームの研究はゆっくりとしたペースで進み、2000年代初頭にようやくX線結晶解析により原核生物のリボソームの3D構造が初めて明らかにされました。しかし、リボソームがどのように組み立てられるのかという根本的な疑問は解明されず、構造生物学における最大の課題の一つであり続けました。ロックフェラー大学のセバスチャン・クリンゲ博士(Sebastian Klinge, PhD)は、「パラーデの発見から比較的最近まで、真核生物におけるリボソームの組み立てについてはほとんど何も分かっていなかった」と語っています。 2013年に同大学に加わったクリンゲ博士は、過去10年間にわたりリボソームの構造を解明することで、この分野の第一人者となっています。約200種類のリボソーム組立因子の働きを解明し、これまで未知であった多くの因子を特定しました。この研究は、リボソームという唯一知られている有機的な分子機械がどのように自己組織化されるかという根本的な謎に迫るものであり、同時に人間の健康にも大きな影

DNA分子は長いヌクレオチド配列の中に、生物がどのように機能すべきかを指示する遺伝情報の膨大な蓄えを保持しており、「生命の設計図」と呼ばれています。しかし、この設計図がどのように保存されているかが、情報の読み取り方や使用方法に影響を与えます。細胞が分裂して複製を繰り返す際、DNAはタンパク質(クロマチン)に巻き付けられて緊密に束ねられた染色体として存在します。分裂後には、染色体が緩まり、クロマチンはより疎な状態になります。このクロマチン繊維がどのように折りたたまれ、ループ構造を形成するかが、遺伝子の活性化に影響を与えます。アイオワ州立大学を中心とした研究チームの新しい発見は、このプロセスの理解を深め、将来的に医療分野での応用が期待されています。 クロマチンの3次元構造とその重要性 「クロマチンの折りたたまれた3次元構造は、遺伝子制御において重要です。クロマチンが細胞核内で物理的にどこに位置するかも重要な要素です。クロマチン折りたたみパターンの進化は、ゲノム機能や発達プログラムを変化させ、表現型の進化や環境への適応を促します」と、アイオワ州立大学生態・進化・生物学教授のニコール・バレンスエラ博士(Nicole Valenzuela, PhD)は述べています。「染色体の折りたたみは未だに謎が多い分野で、これまで多くのことを学んできましたが、まだ氷山の一角に過ぎません。」 細胞分裂後の細胞周期の間期における染色体の形状と位置は、遺伝子機能に影響を与えます。例えば、エンハンサー配列と遺伝子プロモーターのような非隣接領域が接触することで、遺伝子が活性化されることがあります。また、活性化されたクロマチン領域内で相互作用可能なDNAは発現されやすい一方で、アクセスしにくい抑制されたクロマチン内のDNAはサイレンシングされます。 カメのゲノム構造における驚きの発見 2024年

ショウジョウバエの行動柔軟性:日照時間変動への適応を支える遺伝子の役割を解明 2024年10月16日、スイス・ローザンヌ大学(UNIL)生物学・医学学部統合ゲノミクスセンターのリチャード・ベントン博士(Richard Benton, PhD)とその研究チームが発表した論文が、ショウジョウバエが日照時間の変動にどのように適応するかを探る研究を明らかにしました。この論文は、「Circadian Plasticity Evolves Through Regulatory Changes in a Neuropeptide Gene(神経ペプチド遺伝子の調節変化を通じて進化する概日可塑性)」というタイトルで、オープンアクセス形式で雑誌 Nature に掲載されています。 地球上で広く分布する種、例えば人間を含む生物は、多様な環境変動に直面し、それに適応する柔軟性、すなわち「可塑性」によってそれを乗り越えています。この適応能力は生存にとって不可欠ですが、その分子メカニズムについては依然として解明が不十分です。本研究は、遺伝子と神経系が行動可塑性をどのように調整しているのかを解読し、環境変化に対応する広域分布種の進化や気候変動への適応を理解する上で重要な手がかりを提供します。 概日リズムの適応:ショウジョウバエ2種の比較 日照時間は季節や緯度によって変動する重要な環境要因です。特定のショウジョウバエ種は、この日照時間の変動に応じて概日リズム(1日の活動サイクル)を調整します。研究チームは、世界中に広く分布するショウジョウバエ Drosophila melanogaster(ミバエ)と、赤道近くのセーシェル諸島に生息する Drosophila sechellia(セーシェルショウジョウバエ)を比較しました。後者は12時間の一定した日照条件に適応しており、日照時間が長くなる環境

グラウコーマ治療薬がアルツハイマー病を含む認知症の新たな治療法に:メタゾラミドがタウ蛋白蓄積を抑制する可能性 グラウコーマ(緑内障)治療薬として広く使用されているメタゾラミドが、認知症やアルツハイマー病に関与する脳内のタウ蛋白蓄積を防ぐ可能性があることが、イギリスのケンブリッジ大学認知症研究所による新たな研究で示されました。この研究では、遺伝子操作を施したゼブラフィッシュやマウスモデルを用いて、メタゾラミドを含む炭酸脱水酵素阻害剤がタウ蛋白の蓄積を抑制し、疾患の進行を軽減する効果が明らかになりました。研究結果は、2024年10月31日に「Nature Chemical Biology」に公開されました。論文のタイトルは「Carbonic Anhydrase Inhibition Ameliorates Tau Toxicity Via Enhanced Tau Secretion(炭酸脱水酵素阻害によるタウ毒性の緩和:タウ分泌の促進を介して)」です。 タウオパチーと疾患背景 タウオパチーとは、神経細胞内にタウ蛋白の「凝集体」が蓄積することで進行する神経変性疾患の総称です。これには、認知症、ピック病、進行性核上性麻痺などの疾患が含まれます。また、アルツハイマー病や慢性外傷性脳症(CTE:頭部外傷の繰り返しにより発症する神経変性、例としてフットボールやラグビー選手の報告あり)でもタウ蛋白の蓄積が見られます。これらの疾患の治療において、効果的な薬剤の開発は進んでおらず、新たな治療法の探索が急務とされています。特に既存薬の再利用(リポジショニング)は、治療薬開発のスピードを加速させる有望な戦略とされています。 ゼブラフィッシュを活用した大規模スクリーニング 研究チームは、人間のタウオパチーを模倣するよう遺伝子操作を施したゼブラフィッシュを用い、1,437種類の既存薬を

太陽系形成の手がかり:遠方の星間雲でパイレンの豊富な存在を発見 MITの研究者らを中心とするチームは、遠方の星間雲に多量のパイレン(pyrene)が存在することを発見しました。パイレンは、多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる炭素を多く含む分子の一種です。この星間雲は、かつて私たちの太陽系を構成した塵とガスの集合体に似ており、この発見は、パイレンが太陽系内の炭素の重要な起源である可能性を示唆しています。この仮説は、近地球小惑星「リュウグウ」から回収されたサンプルにも大量のパイレンが含まれていたという最近の発見によっても支持されています。 星間分子の新たな発見 この研究は、MIT化学科の助教授ブレット・マクガイア博士(Brett McGuire, PhD)を中心に行われました。同氏は、「星や惑星の形成における大きな疑問は、初期の分子雲からどれだけの化学物質が引き継がれ、それが太陽系の基本的な構成要素を形成するかということです。私たちは始まりと終わりを比較し、同じものが見えている。それは、初期の分子雲の物質が氷、塵、岩石へと引き継がれた強力な証拠です」と述べています。 パイレンの検出:科学的挑戦 パイレンはその対称性のため、従来の星間分子の検出に用いられてきた電波天文学技術では直接検出できません。その代わり、研究者たちはシアン化パイレンという異性体を検出しました。これは、シアン化物が結合することでパイレンの対称性が破壊された分子です。この分子は、西バージニア州にあるグリーンバンク天文台の100メートル電波望遠鏡(GBT)を使用して、遠方の星間雲TMC-1で発見されました。この発見に関する論文は、2024年10月24日付のScience誌に「Detection of Interstellar 1-Cyanopyrene: A Four-Ring Polycyclic

胎児期の脳内遺伝子編集の可能性を開拓:新たなmRNAデリバリー技術が示す希望 新たな研究で、発達中の胎児脳細胞に遺伝物質を送達し、欠陥のある遺伝子を編集するバイオメディカルツールがマウスモデルで成功したことが示されました。この技術は、アンジェルマン症候群やレット症候群などの遺伝性神経発達障害の進行を出生前に食い止める可能性を秘めています。この研究を主導したのは、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)で外科学および生物医学工学を担当する教授、アイジュン・ワン博士(Aijun Wang, PhD)です。「このツールが神経発達障害の治療に与える影響は極めて大きいです。脳の重要な発達期に遺伝子異常を根本的に修正することが可能になるかもしれません」とワン博士は述べています。 本研究は、ワン研究室とカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のマーティ研究室との共同研究であり、その成果は2024年10月24日付けの『ACS Nano』に「Widespread Gene Editing in the Brain via In Utero Delivery of mRNA Using Acid-Degradable Lipid Nanoparticles(酸分解性脂質ナノ粒子を用いたmRNAの胎内送達による脳の広範な遺伝子編集)」というタイトルで公開されました。 胎内での遺伝子治療:新しい技術の可能性 この技術は、胎児期における神経発達障害の進行を防ぐことを目的としており、出生前診断で検出可能な遺伝的疾患への応用が期待されています。治療を胎内で実施することで、細胞が発達・成熟する段階で生じるさらなる損傷を回避する可能性があります。 革新的なmRNAデリバリー法 体内の機能に不可欠なタンパク質は、遺伝子がコードする指令によって産生されます。遺伝的疾患では

アルツハイマー病の新たな治療標的を発見:アミロイドβ線維成長の分子メカニズム解明 アルツハイマー病に密接に関連するアミロイドβ(Aβ)線維の成長メカニズムが、国内外の複数の研究機関による共同研究で新たに解明されました。この研究には、生命創成探究センター(Exploratory Research Center on Life and Living Systems)、分子科学研究所(Institute for Molecular Science of National Institutes of Natural Sciences)、名古屋市立大学、名古屋大学、および筑波大学の研究者が参加しています。研究チームは、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)という先端技術を用い、Aβ線維の成長過程を分子レベルでリアルタイムに観察しました。この成果は、線維の成長を効果的に阻止する可能性を示す重要な手掛かりを提供します。 アルツハイマー病とアミロイドβ線維の関係 アルツハイマー病は、認知機能の低下や記憶喪失を引き起こす深刻な神経変性疾患です。その主な原因の一つとされるのが、脳内に蓄積するAβタンパク質です。このタンパク質は凝集し、線維状の構造を形成することで脳の機能を妨げます。しかし、これまでAβ線維がどのように成長し、その進行をどのように阻止できるかについては不明な点が多く残されていました。 研究の主な成果 研究チームは、Aβ線維がプロトフィラメントと呼ばれる2本の細い鎖から構成されることを明らかにしました。これらのプロトフィラメントは交互に成長し、個々のAβ分子が一度に1つずつそれぞれの端に付加されます。また、特筆すべき発見として、プロトフィラメントの端が整列すると、線維が一時的に成長を停止する「休止状態」に入ることが分かりました。この「休止状態」は、Aβ線維形成の重要なステ

昆虫を分け合う病原菌:競争より共存で進化の成功を収めた真菌 メリーランド大学の昆虫学者らが、昆虫に侵入し、寄生し、効率的に殺すことで知られる2種の真菌が、資源を巡って争うのではなく、平和的に共存しながら被害者を分け合う独特の関係を発見しました。この研究成果は、2024年11月7日にPLoS Pathogensに掲載され、論文タイトルは「Metarhizium Fight Club: Within-Host Competitive Exclusion and Resource Partitioning(メタリジウム・ファイトクラブ:宿主内競争的排除と資源分配)」です。 研究を主導したのは、メリーランド大学の昆虫学の著名教授であるレイモンド・セント・レジャー博士(Raymond St. Leger, PhD)と、昆虫学博士課程の学生であるシン・フイユ(Huiyu Sheng)氏です。 進化の成功:競争ではなく分配 「自然界の進化的成功において、必ずしも強者が生き残るわけではありません。時には『共存できる者』が生き残ることもあります」とセント・レジャー博士は述べています。今回の研究で明らかになったのは、これらの真菌が互いを排除するのではなく、洗練された共存の方法を進化させてきたという事実です。 研究対象となったのは、Metarhizium 属の2種の真菌で、この属の真菌は世界中の土壌に存在します。この真菌群は植物を乾燥や栄養不足といった非生物的ストレスや害虫から守る役割を果たしており、「キーストーン種」とも呼ばれます。そのため、今回の発見は、この真菌群が生態系で成功を収めている理由の一端を説明するものとされています。 研究の方法と発見 研究チームは、蛍光タンパク質を利用して真菌を赤や緑に発光させる先進的なイメージング技術を駆使し、真菌が昆虫に侵入・感染し、体内で

腸内細菌の武器切り替えメカニズムを解明 – シカゴ大学の研究 腸内細菌は遺伝情報を共有することで急速に進化します。その中でも、バクテロイデス目(Bacteroidales)と呼ばれる細菌群は、数百もの遺伝的要素を交換することで知られています。しかし、これらのDNAのやり取りが細菌や宿主にどのような影響を及ぼすのか、まだ詳しく分かっていませんでした。シカゴ大学を中心とした研究チームは、新たな研究で、腸内の代表的な細菌「バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)」において、大型で普遍的な可動性遺伝因子(Mobile Genetic Element: MGE)が細菌の拮抗的な武器を変化させる仕組みを明らかにしました。 この研究によれば、MGEを取り込んだバクテロイデス・フラジリスは、従来持っていた強力な攻撃手段を停止する一方で、新しい武器を手に入れます。この新しい武器はDNAを提供した菌株には効果がなく、腸内の競争が激しい環境での生存を可能にします。 研究の中心人物と背景この研究を主導したのは、シカゴ大学デュショワ家族研究所(Duchossois Family Institute)の微生物学教授であるローリー・コムストック博士(Laurie Comstock, PhD)です。コムストック博士は、「バクテロイデス目のDNA伝達とその拮抗機構」に10年以上にわたり取り組んできました。「これらの細菌はDNA伝達によって非常に速く進化します。それは驚異的です」と博士は述べています。「ある株が攻撃能力を失っていることは知っていましたが、それが大型の可動性遺伝因子を獲得した結果であると分かったとき、この研究が非常に興味深いものになると確信しました。」この研究成果は、2024年10月24日付けの科学誌Scienceに「A Ubiquitous Mobile

ハンチントン病の新たな治療の道:DNA修復センサーPARP1への注目 カナダ、英国、米国の研究者らが行った新しい研究により、ハンチントン病(Huntington Disease, HD)の病態において「ポリADPリボース(PAR)シグナル伝達」が異常をきたしていることが明らかになりました。この発見は、HDに関する理解を深めるだけでなく、承認済みの癌治療薬や新しい治療法の再利用を通じ、HD治療への展望を広げる可能性があります。 治療の未達成と新たなターゲットの必要性 HDは数十年にわたる研究と100件を超える臨床試験を経てもなお、疾患修飾的な治療法が承認されていません。この現状は、新しい治療ターゲットの必要性を示しています。本研究は、DNA損傷センサーである「ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ1(PARP1)」をターゲットとすることで、早期予防治療の新たな可能性を提案します。 特に注目すべき点は、PARP阻害剤が既に癌治療薬として承認されており、一部は他の神経変性疾患の治療法としても検討されている点です。2015年の研究では、PARP1阻害がマウスモデルにおけるHDに対して神経保護効果を示したことが報告されています。今回の研究は、カナダのマックマスター大学生化学・生物医科学部のレイ・トゥルアント博士(Ray Truant PhD)を中心に行われ、2024年9月25日に「PNAS」に「Poly ADP-Ribose Signaling Is Dysregulated in Huntington Disease(ポリADPリボースシグナル伝達はハンチントン病で異常をきたす)」というタイトルで発表されました。 ハンチントン病の背景と課題 HDは、ハンチンチン(HTT)遺伝子のエクソン1におけるシトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)のコドン繰り返しが拡張するこ

アジアゾウのホースを使ったシャワー行動と巧妙な“いたずら” 動物による道具使用は、人間だけの特権ではありません。チンパンジーが枝を道具として使ったり、イルカやカラス、ゾウがそれぞれ独自の道具使用能力を示していることが知られています。そして今回、2024年11月8日付けのCurrent Biology誌に掲載された論文「Water-Hose Tool Use and Showering Behavior by Asian Elephants(アジアゾウによるホースの道具使用とシャワー行動)」では、ゾウがホースを柔軟なシャワーヘッドとして巧みに使用する能力を明らかにしました。さらに驚きの発見として、他のゾウがそのホースを止める方法を知っており、まるで「いたずら」のような行動をとることが観察されました。 ホースを自在に操るゾウたち 「ゾウのホース使いは見事です」と語るのは、本研究の主任研究者の1人であるベルリン・フンボルト大学のマイケル・ブレヒト博士(Michael Brecht, PhD)。「ゾウの場合、ホースの使い方は個体ごとに大きく異なりますが、中でもメアリー(Mary)というゾウは、シャワーの達人といえます」。研究チームは、ベルリン動物園でメアリーがホースを使ってシャワーを浴びている様子を偶然目撃したことをきっかけにこの研究を始めました。観察を行ったのは同じくフンボルト大学のレナ・カウフマン氏(Lena Kaufmann)で、彼女が撮影した映像を研究チームに共有したことで、詳細な分析が進むことになりました。分析を担当したのは筆頭著者のレア・アーバン氏(Lea Urban)です。 メアリーのシャワーテクニック 研究によれば、メアリーはホースを使って自分の体を効率的にシャワーで洗い流す技術を持っています。ホースの先端近くを握ってシャワーヘッドとして使用し、手足と

極めて稀な疾患に立ち向かう家族と科学者たちの物語:新たな遺伝性疾患の発見 8歳のエマ・ブロードベント(Emma Broadbent)さんは、重度の脳発達遅延を引き起こす極めて稀な疾患と闘っています。エマさんはこれまでに数百日を病院で過ごし、発達状態は3~5か月齢の乳児にとどまっています。それでも、父ブライアン・ブロードベントさん(Brian Broadbent)は「エマが調子の良いときは、周囲に幸せを分け与えるような存在です」と語り、家族はこの難病に向き合い続けています。 新たな遺伝性疾患の発見 2024年10月23日、マサチューセッツ工科大学・ハーバード大学ブロード研究所、ノースウェスタン大学、ナント大学、ワイツマン科学研究所、ベイラー医科大学からなる国際的な研究チームは、エマさんの病気の原因となる遺伝的変化を特定したことを発表しました。この成果は権威ある医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された論文「Neurodevelopmental Disorder Caused by Deletion of CHASERR, a lncRNA Gene(CHASERRというlncRNA遺伝子の欠失による神経発達障害)」として発表されています。 この研究では、CHASERRと呼ばれる「長鎖非コードRNA(lncRNA)」遺伝子の片方のコピーが欠失することで、隣接するCHD2遺伝子のタンパク質が過剰に生成される仕組みを解明しました。CHD2遺伝子は、これまで不足することで脳発達障害を引き起こすことが知られていましたが、今回の発見により、過剰なCHD2もまた疾患を引き起こすことが判明しました。CHASERR欠損による人間の疾患が確認されたのはこれが初めてであり、非コード領域の重要性を改めて示しています。 家族の尽力と科学者たちの協

筋強直症や自己免疫疾患治療への新たな可能性を示す酵素の発見 エモリー大学の研究者を中心とする国際共同研究チームは、2024年10月21日付で科学誌Cellに発表された論文「Potent Efficacy of an Ig-G Specific Endoglycosidase Against IgG-Mediated Pathologies(IgG媒介性疾患に対するIgG特異的エンドグリコシダーゼの強力な有効性)」において、新しい酵素が自己免疫疾患の治療に役立つ可能性を示しました。この研究は、筋強直症(Myasthenia Gravis, MG)のような自己免疫疾患や他のIgG抗体が原因となる疾患(IgG媒介性疾患)の治療において、エンドグリコシダーゼ「CU43」が特に効果的であることをマウスモデルを用いて明らかにしました。 筋強直症とは? 筋強直症は、抗体が神経と筋肉の間の信号伝達を妨げることで、骨格筋の脱力を引き起こす慢性自己免疫疾患です。この疾患では、複視、嚥下困難、さらには深刻な呼吸困難を含むさまざまな症状が現れます。このような自己免疫疾患やIgG抗体の調節ができないことによる他の疾患群を総称して「IgG媒介性疾患」と呼びます。 研究の主な成果 本研究では、CU43という特定の酵素がIgG媒介性疾患の症状を劇的に軽減する可能性があることが分かりました。この酵素は抗体を修飾し、疾患を引き起こさない形に変化させることができます。エモリー大学医学部のエリック・サンドバーグ博士(Eric Sundberg, PhD)は、「ヒトの抗体は病原体との免疫応答において重要な役割を果たす一方で、自己免疫疾患の原因にもなり得ます。この酵素は抗体を修飾し、疾患の原因とならないようにすることが可能です」と述べています。 高い治療効果と低用量の利点 マウスモデルでの実験におい

骨の化学変化と利き手の関係に迫る:16世紀イギリス軍艦メアリー・ローズ号の人骨研究が現代の健康科学に新たな知見を提供 2024年10月30日、英国ランカスター大学のシオナ・シャンクランド博士(Dr. Sheona Shankland)をはじめとする研究チームは、16世紀のイギリス軍艦メアリー・ローズ号から発掘された人骨を用いた新たな研究結果を、オープンアクセスジャーナル「PLOS ONE」に発表しました。論文のタイトルは「Shining Light on the Mary Rose: Identifying Chemical Differences in Human Aging and Handedness in the Clavicles of Sailors Using Raman Spectroscopy(メアリー・ローズ号を照らす光:ラマン分光法を用いた船員の鎖骨における加齢と利き手の化学的差異の特定)」です。 歴史的背景と研究の概要 メアリー・ローズ号はヘンリー8世治下のチューダー王朝海軍の一部であり、1545年7月19日にソレント海戦でフランス艦隊と交戦中に沈没しました。20世紀後半に発掘されたこの船の遺物や乗組員の遺骨は、保存状態が非常に良好で、多くの研究対象となってきました。今回の研究では、この船とともに沈んだ13歳から40歳の12人の男性の骨に焦点を当て、骨の化学的変化が加齢や身体活動にどう影響されるのかを探りました。特に、骨の化学組成がその人のライフスタイルの手がかりとなり得るという仮説を立てています。研究チームは、非破壊的なレーザー技術であるラマン分光法を用いて、人間の鎖骨の有機タンパク質と無機ミネラルの化学組成を分析しました。この手法により、骨の化学的変化を損傷することなく明らかにすることが可能です。 鎖骨化学組成の発見 分析の結果、1

葉虫が植物消化を効率化するために見つけた鍵:バクテリアとの共生と遺伝子の水平伝播 葉虫(リーフビートル)は、50,000種以上の記載種を持つ地球規模で多様な昆虫グループであり、すべての草食性昆虫の約4分の1を占めています。葉虫は、地下の根圏や樹冠、さらには水中までさまざまな環境で植物を食べることが知られています。その中には、コロラドポテトビートルのような農業害虫も含まれます。しかし、葉は消化が難しく、栄養が偏っているため、この昆虫たちの進化的成功は驚くべきものです。マックスプランク化学生態学研究所の昆虫共生学部門とマックスプランク生物学研究所の共生研究グループの研究者らは、葉虫が進化の過程でこのような食性の課題をどのように克服してきたのかを解明しました。 外来遺伝物質の役割を理解する ほぼすべての葉虫が、植物細胞壁の成分を分解するために必要な酵素を産生する外来遺伝物質を自らのゲノムに取り込んでいます。たとえば、ペクチンを分解する酵素「ペクチナーゼ」は、多くのバクテリアによって代謝されるものの、人間には消化できない食物繊維です。葉虫の約半数は、共生バクテリアと密接に関係しており、これらの共生体が消化酵素を供給することで葉虫の栄養吸収を助けています。また、ビタミンや必須アミノ酸も供給されることがあります。 「これらの消化酵素は葉虫の生存に欠かせません。しかし、どの種が共生バクテリアを必要としているのか、また必要としていないのか、さらにペクチナーゼがどこから来たのかについてはまだ断片的な理解しかありません」と語るのは、研究の筆頭著者であるロイ・キルシュ博士(Roy Kirsch, PhD)です。 ペクチナーゼ進化の動的な歴史 研究チームは、世界中から収集した74種の葉虫を対象に、ゲノムおよびトランスクリプトーム解析を実施しました。この比較解析により、葉虫がどのよう

個別化医療への道を切り開く研究成果:潰瘍性大腸炎の重症度を予測する遺伝子変異を発見 デンマークの研究者らが、潰瘍性大腸炎患者の病状が一部で重症化する理由を解明する重要な発見をしました。この成果は、個々の患者に適した治療法を提供する「個別化医療」に向けた大きな一歩といえます。 潰瘍性大腸炎とは 腹痛、下痢、そして極度の疲労が、慢性的な腸疾患を患う何百万人もの人々の日常生活を支配しています。この疾患は、若年層で診断されることが多く、その進行には大きな個人差があり、患者には将来に対する不安がつきまといます。潰瘍性大腸炎は軽度で管理可能な場合もあれば、頻繁な入院や複雑な薬物治療、さらには複数回の手術が必要となる重症例もあります。 遺伝子変異と病状予測 デンマークのオールボー大学にある「炎症性腸疾患の分子予測センター(PREDICT)」の研究者らは、重症の潰瘍性大腸炎を発症するリスクを予測できる遺伝子変異を特定しました。この研究成果は、2024年10月15日に「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に掲載された論文「HLA-DRB1*01:03 and Severe Ulcerative Colitis」で報告されています。 研究のポイント 本研究では、遺伝子データとデンマークの健康記録を分析し、潰瘍性大腸炎患者の約3%が「HLA-DRB1*01:03」という遺伝子変異を持つことを明らかにしました。この変異を持つ患者のうち、診断後3年以内に40%以上が重度の消化器外科手術を受けており、これは変異を持たない患者の9%と比べて顕著に高い割合です。「この遺伝子の存在が、重症化する患者群を特定する重要な手がかりとなります」と、本研究の筆頭著者であるマリー・ヴィベケ・ヴェステルゴー博士(Marie Vibeke V

植物は、気候条件の変動や栄養制限など、成長や生産性に影響を与えるさまざまな課題に直面しています。従来の研究では、こうしたストレスに対する植物の反応を解明するため、主にタンパク質をコードする遺伝子に焦点が当てられてきました。しかし、次世代シーケンシング技術の進展により、ノンコーディングRNA、特に長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)が植物の基本機能の調節において重要な役割を果たすことが明らかになりました。このため、lncRNAとその調節的役割を深く探ることがますます重要視されています。 中国農業大学のリンリン・ジャン博士(Lingling Zhang, PhD)率いる研究チームは、lncRNAが植物の成長とストレス適応に果たす重要な役割をまとめたレビューを執筆しました。この研究成果は、2023年11月17日に学術誌 Horticulture Researchでオープンアクセスで公開されました(DOI: 10.1093/hr/uhad234)。レビューでは、lncRNAが小型RNAや他のノンコーディングRNAとどのように相互作用するかを探り、新しい調節メカニズムを解明しました。この研究は、lncRNAが環境ストレスに応じた植物の反応を助ける重要な役割を果たすことを強調し、植物科学における新たな視点を提供しています。論文のタイトルは「LncRNAs Exert Indispensable Roles in Orchestrating the Interaction Among Diverse Noncoding RNAs and Enrich the Regulatory Network of Plant Growth and Its Adaptive Environmental Stress Response」(「lncRNAは多様なノンコーディングRNA間の相互作

ハンチントン病の発症20年前から始まる脳の微細な変化:早期治療への希望 ハンチントン病(の臨床的な運動症状が現れる約20年前に、脳内で微細な変化が始まっていることが、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)を中心とした国際研究チームによる新しい研究で明らかになりました。この研究成果は、2025年1月17日に科学誌Nature Medicineに発表されました。論文のタイトルは「Somatic CAG Repeat Expansion in Blood Associates with Biomarkers of Neurodegeneration in Huntington’s Disease Decades Before Clinical Motor Diagnosis(血液中の体細胞CAGリピート拡大がハンチントン病の神経変性バイオマーカーと関連する)」です。 ハンチントン病とは ハンチントン病は、運動、思考、行動に影響を及ぼす壊滅的な神経変性疾患です。この病気は遺伝性で、親がハンチントン病の遺伝子変異を持つ場合、その子供がその変異を受け継ぐ確率は50%です。症状は通常、中年期に発症します。 疾患の原因は、ハンチンチン遺伝子内で繰り返されるDNA塩基配列(CAG)が異常に拡大することであり、この「体細胞CAGリピート拡大」が神経変性を加速し、脳細胞を脆弱にしていきます。 研究の詳細 研究チームは、ハンチントン病遺伝子変異を持つ57人(平均発症予測23.2年前)を対象に、脳や体内の変化を5年間にわたり追跡しました。また、同年代、性別、教育レベルが一致する46人の対照群と比較しました。 研究では、以下のような重要な発見がありました: 臨床症状: 研究期間中、思考、運動、行動の臨床的機能には明確な低下が見られませんでした。脳と脊髄液の変化: しかし、脳ス

空間プロテオミクスが中毒性表皮壊死症の治療法を提供する – 世界初の患者でのJAK阻害剤の適応外使用により完全回復 研究者らは、空間プロテオミクスを使用して中毒性表皮壊死症の患者から採取された皮膚サンプルを解析しました。この最先端技術「ディープ・ビジュアル・プロテオミクス」は、高性能顕微鏡とAI駆動の解析、レーザー誘導マイクロダイセクション、そして超高感度質量分析を組み合わせたものです。科学者らは個々の細胞に焦点を当て、これまでにない方法で研究を行い、この致死的な皮膚反応を引き起こす数千ものタンパク質の地図を作成しました。筆頭著者であり、マックス・プランク生化学研究所の臨床科学者兼ミュンヘン大学病院(ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン)の上級皮膚科医であるティエリー・ノルドマン博士(Thierry Nordmann, MD, PhD)は次のように説明しています。 「空間プロテオミクスを中毒性表皮壊死症の患者のアーカイブサンプルに適用することで、特定の細胞タイプを正確に分離し解析することができ、患者の皮膚で実際に何が起きているのかを理解することができました。我々はJAK/STAT経路の炎症性過剰活性化を特定し、既にアトピー性皮膚炎や関節リウマチなど他の炎症性疾患の治療に用いられているJAK阻害剤を用いて介入する機会を発見しました。」 中毒性表皮壊死症は、アロプリノール(痛風治療薬)や特定の抗生物質などの一般的な薬物に対する稀で非常に重篤な副作用です。この症状は広範な水疱や皮膚剥離を引き起こし、死亡率は最大30%に達します。一見無害に見える発疹が短時間で生命を脅かす状態に変わります。これまで有効な治療法は存在せず、治療は主に支持療法に限られていました。 新しい治療法への道 研究チームは、さまざまな前臨床研究でその発見を検証しました。これにはin vitro

過去の捕食行動を解明する新技術:ツァボの「人食いライオン」の食性が明らかに 1890年代ケニアの伝説的ライオンが食べた獲物をDNAで解析 2024年10月11日、Current Biology誌に掲載された論文「Compacted Hair in Broken Teeth Reveals Dietary Prey of Historic Lions(折れた歯に詰まった毛が示す歴史的ライオンの食性)」において、1890年代ケニアのツァボ地域に生息していた「人食いライオン」の食性が明らかになりました。研究者らは、シカゴのフィールド博物館に保管されている2体のライオン標本の歯に詰まった毛からDNAを抽出し、それを解析することで、これらのライオンが人間やキリン、ヌーなど多様な獲物を捕食していたことを突き止めました。 ツァボの「人食いライオン」とは? ツァボライオンは、19世紀末にケニア・ウガンダ鉄道の建設作業員を含む数十人の人々を襲撃したことで知られる伝説的な存在です。今回の研究で対象となった標本は、歯が部分的に折れ、獲物の毛が歯の空洞に詰まっていた状態でした。この毛から抽出されたDNAにより、当時の捕食行動が詳しく解析されました。 新しい技術と発見 リパン・マリ教授(Ripan Malhi, リパン・マリ教授)(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)らの研究チームは、毛のDNAを用いた新しい解析手法を開発しました。この手法により、以下のような成果が得られました。 捕食した獲物の種類: キリン(マサイキリン亜種)、人間、オリックス、ウォーターバック、ヌー、シマウマ DNAの由来: 獲物のDNAに加え、ライオン自身のDNAも特定。特に東アフリカ(ケニアおよびタンザニア)のライオンとの遺伝的類似性が確認されました。地域分布に関する洞察: ヌーがツァボ地域にいた可能性

ウエストナイルウイルス感染のリスク—自己抗体が重症化の鍵を握る 米国で現在発生中のウエストナイルウイルス(WNV)のアウトブレイクは、46州で880例が報告されています。しかし、この数は氷山の一角に過ぎず、多くの感染者は無症状で知られないまま回復しています。症状が現れるのは感染者の約20%で、そのうち19%が発熱、頭痛、関節痛、発疹、消化器系症状を経験し、1%が脳炎や髄膜炎といった重篤な症状に至ります。この1%の患者では昏睡、けいれん、視力喪失、麻痺、さらには死亡に至る場合もあります。 近年、自己抗体が重症化の原因であることが明らかになり、重症例への新たな理解が進んでいます。ロックフェラー大学のジャン=ローラン・カサノバ博士(Jean-Laurent Casanova, PhD)は、WNV重症例の約40%が「タイプIインターフェロン」に対する自己抗体に関連していることを発見しました。この発見は、WNVのみならず、インフルエンザ肺炎といった他のウイルス感染症にも応用される可能性があります。 自己抗体と免疫反応の破綻 カサノバ博士の研究によれば、自己抗体はタイプIインターフェロンに結合し、その働きを阻害します。本来、これらのインターフェロンはウイルスと戦うために重要なシグナル伝達を担いますが、自己抗体によってその機能が失われると、感染細胞がウイルス増殖を抑える能力が低下します。この結果、WNVや他のウイルスに対して免疫系が十分に対応できず、重症化リスクが高まります。 重症化のリスク層とは? 自己抗体を持つ人は全人口の約1%と推定されていますが、高齢者ではその割合が4%から6%に跳ね上がります。このため、65歳以上の人々は特に重症化リスクが高いとされています。さらに、自己免疫疾患を持つ人々もリスクが高く、これらの人々への血液検査によるスクリーニングの必要性が提言さ

飢餓と満腹感の新たな調和:脳内の未知の神経細胞「BNC2ニューロン」が食欲を素早く抑制 お菓子をもう一口食べるか迷っている間、脳内では激しい攻防戦が繰り広げられています。一方の神経細胞群は飢餓を促し、もう一方は満腹感を誘発します。この攻防の勝者が決まる速度によって、あなたがそのスナックを手に取るかどうかが左右されます。今回、科学者らが発見したのは、この食欲と満腹感を制御する神経回路における「失われたピース」とも言える、新たに同定された神経細胞です。この細胞は食欲を即座に抑える役割を果たし、従来のモデルに欠けていた重要な部分を補完するものです。 研究結果は学術誌Natureに掲載され、「Leptin-Activated Hypothalamic BNC2 Neurons Acutely Suppress Food Intake(レプチン活性化視床下部BNC2ニューロンが食欲を即座に抑制する)」というタイトルのオープンアクセス論文として発表されました。 ロックフェラー大学分子遺伝学研究所で研究を行うハン・タン氏(Han Tan)は、「この新しいタイプのニューロンは、摂食の調節方法に関する概念を変える発見です」と述べています。 既存モデルを超えて:迅速な満腹感を誘発する仕組み これまで脳内の摂食回路は、視床下部に存在する2種類のニューロンによる単純なフィードバックループとして理解されてきました。AGRP遺伝子を発現するニューロンは飢餓を引き起こし、一方、POMC遺伝子を発現するニューロンは満腹感を促します。しかし、これらがレプチン(体重調節に重要なホルモン)の主な標的とされる一方で、近年の研究はこのモデルの不完全さを示唆していました。AGRPニューロンが食欲を迅速に増加させる一方で、POMCニューロンの満腹感誘発は数時間を要するためです。 このギャップを埋める可能

第二次世界大戦の「自然実験」を利用して明らかにされた砂糖摂取制限と成人期の健康影響 南カリフォルニア大学ドーンサイフ・カレッジ、UCバークレー、マギル大学の研究者らは、第二次世界大戦中に行われた砂糖配給制限という「自然実験」を活用し、早期の砂糖摂取が長期的な健康に与える影響を分析しました。 この研究によると、胎児期および生後2年間における低砂糖摂取が成人期の慢性疾患リスクを大幅に低減することが示されました。研究結果は科学誌Scienceに掲載され、砂糖摂取制限を受けた子どもは、2型糖尿病の発症リスクが最大35%、高血圧のリスクが最大20%低いことが明らかになりました。 母体が妊娠中に砂糖を抑えただけでも効果が見られましたが、出生後も摂取制限を継続すると効果がさらに増大しました。この研究論文は「Exposure to Sugar Rationing in the First 1000 Days of Life Protected Against Chronic Disease(人生の最初の1000日間における砂糖配給制限が慢性疾患から守る)」と題されています。 第二次世界大戦中の砂糖配給制限 研究者らは、英国が戦時中に実施した砂糖配給制限(1942年開始、1953年終了)を利用しました。この制限により、砂糖摂取量は1日平均約8ティースプーン(40グラム)に抑えられていましたが、配給制限終了後には1日約16ティースプーン(80グラム)へと急増しました。この増加は砂糖に限られており、他の食料の摂取状況には大きな変化はありませんでした。 自然実験による長期的な健康への影響評価 研究者らは、英国の医療記録データベース「UKバイオバンク」を用い、配給終了前後に妊娠または誕生した人々の健康状態を調査しました。配給終了直前と直後に生まれた人々を比較することで、砂糖摂取の違

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