脊髄損傷の回復に新たな光:迷走神経刺激が運動機能を取り戻す

回復は不可能だと思われていませんか?一度損傷した神経は元に戻らない、特に慢性期に入った脊髄損傷患者さんの機能回復は難しいというのが、これまでの常識でした。しかし、もしその「常識」を覆す技術が登場したとしたらどうでしょう。この記事では、脳が持つ「学習する力」を最大限に引き出し、失われたはずの運動機能を取り戻す、画期的な治療法の最前線をご紹介します。ゲーム感覚の楽しいリハビリと最先端の医療機器が融合したとき、私たちの身体には何が起こるのでしょうか。 2025年5月21日付の科学誌『Nature』に掲載されたオープンアクセスの研究で、テキサス大学ダラス校のマイケル・P・キルガード博士(Dr. Michael P. Kilgard)らは、脊髄損傷(SCI)治療における大きな進歩を報告しました。この論文は、「Closed-Loop Vagus Nerve Stimulation Aids Recovery from Spinal Cord Injury(閉ループ迷走神経刺激は脊髄損傷からの回復を助ける)」と題され、これまで有意義な機能回復は望めないとされてきた慢性期の不全頸髄損傷患者さんを対象とした、世界初の臨床試験について述べています。この研究では、小型化された閉ループ迷走神経刺激装置と、個人に合わせてゲーム感覚で楽しめるリハビリテーションが組み合わされました。 回復の天井を打ち破る:慢性期脊髄損傷の可能性を再考する 脊髄損傷後の回復のほとんどは、受傷後1年以内に起こります。それを過ぎると、従来のリハビリテーションでは効果が頭打ちになる傾向があり、この現象は「神経学的プラトー」として知られています。本研究は、この定説に挑戦するものです。適切にタイミングを合わせた標的ニューロモジュレーションを、成果に連動したリハビリテーションと組み合わせることで、受傷から何年も経
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Edited by Michael D. O'Neill
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