サイケデリック薬の脳内作用を迅速に追跡する新しいツール「CaST」開発
カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の研究者らは、サイケデリック薬が脳内で活性化する神経細胞やバイオ分子を迅速かつ非侵襲的に追跡できる新しいツール「CaST(Ca2+-activated Split-TurboID)」を開発しました。このツールは、2024年8月5日にNature Methods誌に掲載された論文「Rapid, Biochemical Tagging of Cellular Activity History in Vivo(生体内での細胞活動履歴の迅速な生化学的タグ付け)」で紹介されています。
うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、依存症などの脳疾患に対するサイケデリック由来の化合物の治療効果に対する関心が高まっている中、このツールは、その作用メカニズムを解明するための有力な手段となると期待されています。
サイケデリック薬と神経細胞の関係を解明
サイケデリック化合物(LSD、DMT、シロシビンなど)は、脳の前頭前野において神経細胞の成長と強化を促進することが知られています。UC Davisのクリスティーナ・キム博士(Christina Kim, PhD)は「これらのサイケデリック薬が作用する細胞メカニズムを理解することが重要です。そのメカニズムが分かれば、同じメカニズムをターゲットにしながら副作用を減らすバリエーションを設計できるでしょう」と述べています。
CaSTは、これらの化合物によって引き起こされる有益な神経可塑性効果に関与する分子シグナル伝達プロセスを段階的に追跡する新技術を提供します。従来のタグ付け手法に比べ、CaSTは10~30分という迅速な速度で細胞のタグ付けを完了します。
CaSTツールの仕組みと実験結果
CaSTツールは、神経細胞の活動を追跡するために細胞内のカルシウム濃度の変化を利用しています。高い活動を示す神経細胞はカルシウムレベルも高くなります。CaSTは、このカルシウムレベルを基に、バイオ分子「ビオチン」を使って細胞にタグを付けます。
キム博士らは、実験用マウスにサイケデリック薬シロシビンを投与し、CaSTとビオチンを用いて前頭前野のカルシウムレベルが上昇した神経細胞を特定しました。前頭前野は多くの脳疾患に関与しており、サイケデリック薬が神経細胞の成長と強化を促進する部位でもあります。
この実験では、マウスの頭部を固定する必要がないという利点もあります。「ビオチンは、簡単な染色やイメージング法で検出できる商用ツールが既に多く存在しているため、優れたタグ付け基質です」とキム博士は説明しています。
将来の展望
キム博士とそのチームは現在、CaSTツールを使って脳全体の細胞ラベリングを実現する方法や、サイケデリック薬が影響を与える神経細胞が生成するタンパク質の特徴を強化する方法を模索しています。これにより、サイケデリック薬が脳疾患患者の細胞プロフィールにどのように影響するかを解明し、その治療効果のプロセスを段階的に明らかにすることが目標です。
UC Davisのデイビッド・オルソン博士(David Olson, PhD)とのコラボレーションを通じて、将来的にはCaSTツールを用いたサイケデリック薬と非幻覚性神経治療薬との比較研究も計画されています。
「CaSTは、これらの神経治療薬の作用メカニズムを研究するための重要なツールとなるでしょう」とキム博士は述べています。
著者と開示情報
本研究には、UC DavisのRun Zhang、マリベル・アンギアノ(Maribel Anguiano)、イサク・A・アーレスタッド(Isak K. Aarrestad)、ソフィア・リン(Sophia Lin)、ジョシュア・チャンドラ(Joshua Chandra)、およびスルティ・S・ヴァッデ(Sruti S. Vadde)も参加しています。
