Dr. Mortonの暖かい歓迎の挨拶に続いて、もっとも優れたアブストラクトから4件を選んで総会でのプレゼンテーションがあった。その一つは、University of Washington, Dr. Evan Eichler研究室の学院生、Xander Nuttle, B.S., B.S.E.が自ら第一著者を務めた「Human-Specific Gene Evolution and Structural Diversity of the Chromosome 16p11.2 Autism CNV」と題されたアブストラクトの発表だった。University of Washington の研究チームは、現代人2,551人、大型類人猿86頭、ネアンデルタール人1体、デニソワ人1体のゲノムを解析した。 特にチームは16p11.2と呼ばれるヒト染色体16の領域を詳しく調べた。この領域は、自閉症の主要因となる欠失や重複が繰り返し起きるところで、統合失調症や極端な体重や頭囲にも関連している。simplex autism 患者の約1%でこの16p11.2の欠失または重複がみられる。研究チームは、DNAのこの領域の特定部分に反復があり、人によってその反復回数が異なることを突き止めており、その反復回数の違いが疾患と関連している可能性がある。 このような違いの起源をたどるため、研究チームはスイスのUniversity of Lausanne やイタリアのUniversity of Bariの研究者と共同研究を進め、大型類人猿ゲノムの対応する領域のシーケンシングと解析を行った。Mr. Nuttleは、「類人猿とヒトのゲノムを比較した結果、ヒトのゲノムは16p11.2に複雑な構造的進化があったことを突き止めた。この部分はしばしば自閉症の原因となる失欠や重複が知られている。このことから、この
18日の総会での二番目のアブストラクト・プレゼンテーションは、erythropoietic protoporphyria (EPP) または一般に「popcorn ichthyosis」と呼ばれる、耐えられないほどの痛みを伴う、ごくまれな常染色体劣性遺伝性皮膚疾患の新治療薬が第III相試験で良好な結果が出たという報告だった。発表は、ニューヨーク市所在Mount Sinai School of Medicine, Genetics and GenomicsのDeanを務めるRobert J. Desnick, M.D., Ph.D.が行った。 遺伝性のこの疾患は、皮膚が光にきわめて敏感になり、光にさらすと耐えられない痛みや腫れを引き起こし、通常光にさらされやすい顔、手足などに傷跡を残す。EPP患者は皮膚が光にさらされた時の痛みは耐えられないほどだと訴えている。 Dr. Desnickは、「現在のところ、効果的な治療法はなく、陽光を避けることが唯一の対策で、そのため、患者は日光を避けて歩く『shadow jumpers』と呼ばれている。現在、この疾患の治療薬として試験を受けているのはafamelonatideで、これは、メラニン形成によって皮膚の色素沈着を起こし、紫外線にさらされる皮膚を太陽光 (UV) による損傷から守る天然の メラノコルチン・ ペプチド・ホルモン・ アルファメラニン細胞刺激ホルモン (α-MSH) の人工合成物で、予備研究や臨床治験で効果が示された。治験では、この薬剤を16mgの皮下生体吸収インプラントの形で投与した。Dr. Desnickは、この薬剤の第III相試験で、薬剤の投与を受けたEPP患者では、太陽光を浴びて痛みを感じるまでの時間がかなり伸び、かつ皮膚がんの危険も抑えられたことが示されと報告している。EPP治療薬afamelonatide
19日午前には活発な相互交流が見られた。3人の異なる分野の膨大なデータを抱える専門家がそれぞれの見地から生物学的な問題について語ったのである。講演者は、IBM Watson Research Center, Computational Biology Center DirectorのAjay Royyuru, Ph.D.が、「Genomic Analytics with IBM Watson」のテーマで語り、Google, Engineering DirectorのDavid Glazerが、「Lessons from a Mixed Marriage, or Big Sequencing Meets Big Data」のテーマで語り、Centers for Disease Control, Office of Medicine and Public Health Genomic DirectorのMuin J. Khoury, M.D., Ph.D.が、「Medicine and Public Health」のテーマで語った。 Dr. Royyuruは、現実的にすべてのがんが異なるという認識の上に立った精密治療の巨大な課題について強調した。特に最近のNature News article で、過去の「失敗した」医薬治験を再調査する意義について考え、特に医師が予期した以上に長生きし、「exceptional responder」と呼ばれている膵臓がん患者について報告していることに言及した。Dr. Royyuruは、患者個別にしか効果がない治療法が進展することはまずあり得ないとしても、少なくとも検討に値するのではないかと述べている。 Dr. Khouryは、次の3点を強調している。(1) Dr. Khoury自身の著作「Transforming Epidemiology fo
膨大なデータの討議に続いて会議は、19日、20日、21日と続き、22日朝になった。この日も幅広く人類遺伝子に関する素晴らしいプレゼンテーションやポスター展示など、刺激に満ちた時間だった。最大の問題はいくつも開かれているどのトークに参加しようかと迷ってしまうことだった。また、授賞式もいくつか開かれ、年期の入った人々が同僚に敬意を示し、新人が重要な遺伝学史を知る機会となった。 また、様々なポスターを観賞、議論し、会議ホールを埋めた何百というブースではメーカーと話し合う機会が得られた。 私が参加したトークで特に興味深かったものをいくつか紹介する。ただし、会議には新しい興味深い内容がぎっしりと並べられており、私はそのごく表面に触れたに過ぎないということを明記しておく。
サンディエゴで開かれたASHG2014年年次会議で発表された研究報告によると、高齢男性にしばしば見られる血球中のY染色体の加齢によるモザイク喪失 (LOY) は、様々ながんのリスクの増大や短命と関連している。この論文の筆頭著者で、スエーデンのUppsala University の遺伝学者でもあるLars Forsberg, Ph.D.は、「この研究結果から、Y染色体を持たない女性と比べて男性の寿命が短く、また性別に無関係ながんにかかる率が高い理由も説明がつく」と述べている。 LOYは、男性の血球複製時に時々起きる現象で、体各所で気まぐれのように起きる。 この現象は50年ほど前に初めて報告されているが、その原因についても影響についてもほとんど説明がついていない。最近の遺伝学技術の進歩でごくわずかな数の血球がLOYになっただけでも血液検査で発見することができるようになった。 Dr. Forsbergと同僚研究チームは、過去40年にわたり臨床的に健康状態をチェックされている70歳から84歳までの男性1,153人の血液サンプルを調べた。 その結果、LOYが確認された血球の比率が大きい男性は、LOYが現れていない男性に比べて平均5.5年短命という結果が出た。さらにLOYが進行する結果、研究期間中も高い率でがんで死亡している。研究対象となった男性の年齢その他健康状態を考慮して調整しても、LOYとこの2つの現象の間には統計的に有意な相関性があった。この研究論文の共同著者で、Uppsala University教授を務めるJan Dumanski, M.D., Ph.D.は、「Y染色体は性別を決める遺伝子と精子生産の遺伝子しか持っていないと考えている人が多いが、実際にはY染色体の遺伝子は様々な機能を持っており、がん予防にも一役買っている可能性がある」と語った。LOYが起きる
子供の遺伝子の構成が母体のリューマチ様関節炎の原因になる可能性が見つかった。これはこの疾患が男性より女性に多いという現象の説明になる。このような研究結果がASHG 2014年年次会議で紹介された。リューマチ様関節炎は主として関節が炎症を起こし、激しく痛む症状で、遺伝や環境要因、ライフスタイルや過去の感染症などが原因とされている。 また、女性がこの疾患にかかる率は男性の3倍くらいの高率で、40代から50代の女性がもっとも発症しやすい。遺伝要因ではまとめて「shared epitope alleles」と呼ばれる免疫系遺伝子HLA-DRB1の特定形式がこの症状と関連している。HLA遺伝子は、病原体に感染した場合の免疫系の反応に関わっている他、移植医療でも自分自身の細胞と外来の細胞の区別をする作用に関わっていることが知られている。 University of California, Berkeleyの大学院生で、この論文の第一筆者のGiovanna Cruz, M.S.は、女性がリューマチ様関節炎にかかりやすいというのは妊娠が何らかの関わりをしていることを示している。妊娠中にはごく少数ながら胎児の細胞が母体の体内を循環しており、一部の女性の場合にはそれが何十年も続くようだ。 胎児マイクロキメリズムと呼ばれる胎児細胞が母体内に定着する現象は、リューマチ様関節炎の症状を持つ女性にはそうでない女性よりも頻繁に見られ、これがリューマチ様関節炎発症リスク要因になっている可能性がある。なぜそのようなことが起きるのかはまだ分かっていないが、HLA遺伝子とその活動が関わっている可能性が大きい」と説明している。研究チームは、shared epitopeまたはその他の形のリューマチ様関節炎リスクと関わりがあると見られるHLA遺伝子 のある女性とない女性、その子供の遺伝子を分析した。 そ
ウィリアム王子の妻で幼いジョージ王子の母親であるケート・ミドルトンが悩まされた妊娠悪阻 (HG) はかなり激しいつわりの症状であり、妊娠全体の0.3%から2%程度で起きている。UCLA, David Geffen School of Medicineの血液学-腫瘍学assistant researcherでKeck School of Medicine of USCの母体胎児医学准教授を務めるMarlena Fejzo, Ph.D.と同僚研究チームが、この妊娠悪阻に関わる遺伝的な経路を突き止めている。 HG は、重症の体重減少、電解質平衡異常、ケトン尿症などの原因となり、60年前には妊娠女性の10%がHGが原因で死亡しており、現在でもアメリカでは毎年22万5,000人が入院し、HGを患った妊娠女性の15%が治療的流産を選んでいる。 またHGはウェルニッケ脳症, 腎不全, 肝機能異常, 食道破裂, 心理的外傷後ストレス障害などの疾患の母体罹病率にも影響している。HGは遺伝も関係していると考えられてきたが、これまで決定的な証拠となる研究結果はなかった。Fejzoの研究チームはHGの家系5家族と470人を超える対照群のエクソーム・シーケンシングを実施し、 PKD1、腎多嚢胞病1 (人間の常染色体優性遺伝性腎多嚢胞病の85%に関係)、PKHD1 (腎多嚢胞病・肝臓病1、人間の常染色体劣性遺伝性腎多嚢胞病と肝臓病1に関係)、LAMA5 (ラミニンα5、マウスのこの遺伝子のハイポモルフィック変異は腎多嚢胞病を引き起こすことが裏付けられている) という3種の腎多嚢胞病遺伝子がHG家系では変異体を取っているのに対して、対照群ではそのような変異が認められなかった。通常、この3種の遺伝子は尿細管の増殖、分化、発達に関わっている。ASHG2014年年次会議で同研究チームはその研究をポス
人間と純血種の犬の奇形を研究している研究グループが、妊娠中に口唇と口蓋が正しく形成されないために起きる口唇裂や口蓋破裂とADAMTS20遺伝子の突然変異との関係を突き止めた。その研究報告がASHG2014年年次会議でプレゼンテーションされた。ADAMTSは、「A Disintegrin and Metalloproteinase with Thrombospondin Motifs」の頭字語で、ペプチダーゼ・ファミリーの名称である。 人間の体内ではADAMTS20などこのファミリーの19種のペプチダーゼが発見されている。ADAMTSタンパク分解酵素の機能として知られているものには、プロコラーゲンやフォン・ビレブランド因子の処理、アグレカン、バーシカン、ブレビカン、ニューロカンの開裂がある。これらのタンパク質は、結合組織の構成、凝固、炎症、関節炎、血管新生、細胞移動などに重要な役割を果たしていることが突き止められている。 また酵素活性のないADAMTSL (ADAMTS様) タンパク質の同族サブファミリーについても説明があった。University of California, Davis, School of Veterinary Medicineの大学院生、Zena Wolf, B.S.は、「この研究成果から、人間と犬双方の奇形の原因についてより理解が深まれば、人間、動物双方の医療に大きな変化をもたらす可能性がある」と述べている。人間でも犬でも口唇裂や口蓋破裂は程度の違いこそあれ自然に起きており、遺伝要因や環境要因が原因として考えられる。 Ms. Wolfは、「純血種の犬はごく少数の個体の間で交配が行われており、遺伝子の違いが少ないため、そのグループの中での口唇裂や口蓋破裂発生は研究しやすい」と述べている。これまでの研究では、犬の口唇裂22症例のうち12症例で
ASHG 2014年年次会議でのプレゼンテーションの一つに、2型糖尿病や肥満という複雑な身体症状を、それらを引き起こす特定の代謝タンパクや代謝活動にまで還元することで、新しい方向からこれらの症状に関連する遺伝子やその相互関係を研究する道が開けることが提示された。筆頭著者を務めたThe University of Texas Health Science Center at Houston (UT Health) School of Public HealthのJennifer E. Below, Ph.D.は、「そのような症状を引き起こす特定のタンパク質やそのタンパク質をエンコードしている遺伝子を研究することで、正しく機能しない代謝過程を直接標的とする新薬を開発することができる」と説明している。 Dr. Belowは、「事実、タンパク質レベルで同じ過程に影響を与えるような遺伝子が相乗りで複数の特質に影響していることもある」と述べている。Baylor College of Medicine、Harvard Medical School、University of Chicagoの研究者と共同研究するDr. Belowは、たとえば人体の日周期を調整する遺伝子は眠りの質を左右しているが同時に糖尿病のリスクにもかかわっていることを突き止めた。同じように、免疫系機能や細胞間の相互作用にかかわっているタンパク質のグループは心臓の健康にもかかわっていることも突き止められている。Dr. Belowは、「このような発見は、各解析結果を個々に切り離して取り扱うのではなく遺伝子の影響をグループとして捉える重要さを示している。特質は孤立して現れるものではなく、互いにつながっており、影響し合っている。遺伝子解析でそのことを認識しておく利点は大きい」と述べている。 研究チームは、テキサス州S
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