自然免疫(natural immunity/innate immunity)は生まれながらに備わっている異物を識別排除するシステムである。液性因子としては、レクチン、補体、抗菌ペプチドなど、細胞性因子としては、マクロファージ、顆粒球、ナチュラルキラー細胞、上皮細胞などが知られている。獲得免疫(acquired immunity/specific immunity)は異物が体内に侵入してから、その異物が有する抗原部位(タンパク質や多糖など)を高度に認識するB細胞では免疫グロブリンが、T細胞ではTCR(T cell receptor: T細胞受容体)が遺伝子組換えの後に産生されて成立する。   液性因子としては、抗体、TCRなど、細胞性因子としては、B細胞、T細胞、樹状細胞などが関与している。さて、自然免疫は、獲得免疫と比べると、進化的に古い機構であり、異物排除に役に立たないものとする風潮が長くあったが、20世紀末から、自然免疫の生体維持における重要性が再認識され初めて来た。 その第一の理由は、自然免疫が獲得免疫の成立に必須であるということが明らかになったことにある。初めて接する異物に対しては、免疫的な記憶が存在しないので、特異免疫は起動出来されない。 一方で、すべての異物に対して認識することが出来る自然免疫が異物を緩やかに排除し、その情報をT細胞やB細胞に渡して、その後に強い特異免疫が確立していくのである。自然免疫は生存に必須な免疫機構なのである。第二に、トル様受容体(Toll like receptor, TLR)の発見である。それまで、異物認識機構が不明であったことにより、自然免疫が認識する異物識別は漠然としたものとされていた。 ところが、1997年にCharles JanewayとRuslan Medzhitovによってリポ多糖(グラム陰性菌の膜成分: lip

獲得免疫は利根川進先生の抗体の遺伝子再構成の解明や、TCR (T cell receptor: T細胞受容体)の解明など、分子生物学的手法により華々しい成果を上げてきた。一方、自然免疫は獲得免疫と比較して、抗原認識が曖昧である、特異性が低い、などの点から特異免疫に比べて、研究の切り口が無く、科学的研究対象になりにくいものであった。そのため、マクロファージの研究者は少数派として、実に肩身の狭い思いをしていた。   ところが、1997年のMedzhitovらがショウジョウバエ成体で自然免疫応答を誘導するTollのヒトでのホモログToll like receptor (TLR) が自然免疫応答を誘導することを発見したこと(ref. 1)は、自然免疫研究のエポックメイキングであった。1998年にはTLRがリポポリサッカライド(lipopolysaccharide: LPS)の受容体であることが発見された。その後、審良静男先生がTLRシリーズのノックアウトマウスを生みだし、これまで解析出来なかった自然免疫の世界を一変させた。 TLRファミリーが次々と細菌やウイルス由来の物質を認識する受容体であることが見いだされ、シグナル伝達機構が明らかになり、これまでの霧が一気に晴れる状況となった。 例えば、国立予防衛生研究所の徳永徹先生の結核菌由来の免疫成分の話であるが、結核菌には細胞壁のペプチドグリカンや遺伝子(DNA)が免疫活性を有するという報告である。それまで遺伝子は大腸菌もヒトもそれほど変わるはずないとする常識からはDNAが免疫を活性化するとは、俄に信じがたいものであった。その後、徳永先生は非メチル化CGを含むパリンドローム配列に免疫活性があることを見いだし、CpGモチーフという概念が提唱され、ついにTLR-9がその受容体であることが明らかとなり、多くの研究者がようやく納得すること