自然免疫研究の再出発:TLR (toll like receptor: トル様受容体)の発見


サイエンス出版部 発行書籍

獲得免疫は利根川進先生の抗体の遺伝子再構成の解明や、TCR (T cell receptor: T細胞受容体)の解明など、分子生物学的手法により華々しい成果を上げてきた。一方、自然免疫は獲得免疫と比較して、抗原認識が曖昧である、特異性が低い、などの点から特異免疫に比べて、研究の切り口が無く、科学的研究対象になりにくいものであった。そのため、マクロファージの研究者は少数派として、実に肩身の狭い思いをしていた。   ところが、1997年のMedzhitovらがショウジョウバエ成体で自然免疫応答を誘導するTollのヒトでのホモログToll like receptor (TLR) が自然免疫応答を誘導することを発見したこと(ref. 1)は、自然免疫研究のエポックメイキングであった。1998年にはTLRがリポポリサッカライド(lipopolysaccharide: LPS)の受容体であることが発見された。その後、審良静男先生がTLRシリーズのノックアウトマウスを生みだし、これまで解析出来なかった自然免疫の世界を一変させた。 TLRファミリーが次々と細菌やウイルス由来の物質を認識する受容体であることが見いだされ、シグナル伝達機構が明らかになり、これまでの霧が一気に晴れる状況となった。 例えば、国立予防衛生研究所の徳永徹先生の結核菌由来の免疫成分の話であるが、結核菌には細胞壁のペプチドグリカンや遺伝子(DNA)が免疫活性を有するという報告である。それまで遺伝子は大腸菌もヒトもそれほど変わるはずないとする常識からはDNAが免疫を活性化するとは、俄に信じがたいものであった。その後、徳永先生は非メチル化CGを含むパリンドローム配列に免疫活性があることを見いだし、CpGモチーフという概念が提唱され、ついにTLR-9がその受容体であることが明らかとなり、多くの研究者がようやく納得すること