臨床プロテオミクスでプレシジョン医療の発展促進も

用語の定義について

 まず、いくつかの主要用語を定義し、区別しておくことが重要である。まず、「targeted proteomics」と「discovery proteomics」であるが、「discovery proteomics」は、がんその他の疾患と関連している可能性のあるごく少数の「バイオマーカー」を突き止めることを目的として大量の発現タンパク質、それも未知のものも多いタンパク質を解析するためにMS技術を利用する研究者の分野の用語である。

 

Hyper Reaction Monitoring-Mass Spec (HRM-MS)

HRM-MS™ (2) は、スイスのチューリッヒに本社を置く次世代プロテオミクス界をリードするBiognosys AG で開発された次世代ハイコテント・プロテオミクス技術である。

HRM-MSは、データ非依存性情報収集 (DIA) により、一回の稼働で同時に何千種ものタンパク質の再現性の高い精密な定量化が可能である。Biognosys社によれば、HRM-MS™ は、創薬や高度多重化タンパク質定量化の用途に最適なプロテオミクス法である。

Digital Biobanking: 未来のプロテオミクス

 Biognosysis社によると、HRM-MS™ の特長の一つは、サンプル測定の時には重要と分かっていなかった、あるいは重要と考えられていなかったタンパク質やタンパク質アイソフォームも含めて、標的タンパク質の遡及的解析が可能だということである。

どんな時点でもスペクトル・ライブラリーの改善や拡大をオフラインで展開し、HRM測定の再解析に充てることができる。また、サンプルそのものの保存の代わりに、サンプルのタンパク質シグナルをデジタル・データとしてDigital Biobank®に保存する。従って、サンプル中のタンパク質を将来的に解析することになる場合も、最初に一度測定すればいいだけである。

Integrated Diagnostics社のXpresys Lung Test

 The Xpresys® Lung Testは、2013年10月に市場に発表された。この製品は、簡単な採血だけで、肺結節 (ILNs) が良性かどうかを示す発現のシグネチャーの手がかりとなる複数のタンパク質の解析と定量化を行う。この検査製品は、ワシントン州シアトル市に本社を置くIntegrated Diagnostics, Inc. (INDI) 社で製造されたもので、三重四極 (MS/MS) 質量分析計との組み合わせで市場化される多重標的プロテオミクス検査製品としては初めてのものである。

 

Biodesix社のVeriStrat® NSCLC Proteomics Test

 カナダとカリフォルニアを拠点に事業を展開するBiodesix, Inc.は、がん患者の治療成果向上のために血液検査による診断検査法の開発と商品化を行う分子診断法開発企業である。同社は、最近には、VeriStrat®と名付けられた血漿プロテオミクス検査製品を発表した。この製品は、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の治療改善のため、疾患の予後や経過の予想に必要な情報などを含めて、がん専門医が治療に必要な情報を得ることができる。

Biodesix社、Biognosys社のHRM-MSテクノロジー利用可能に

 2015年7月29日、Biodesix社は、「Biognosys社との協定に達した。Biognosys社は、同社のBiognosys HRM-MS技術をBiodesix社のコンパニオン診断開発の一部として供与し、がん治療市場の新しいタンパク質アッセイ開発に充てることになる (10)」と発表している。Biognosys社のHRM-MSは、次世代ハイコンテント・プロテオミクス技術であり、何千種ものタンパク質を高再現性高精度で定量化し、患者タイプ別グループの臨床的に有意味な差異の判定を助けるものである。

 

Nuclea Biotechnologies社が臨床プロテオミクス市場参入を発表

 2015年2月27日付Genome Web (11) の報道によれば、マサチューセッツ州ピッツフィールド所在のNuclea Biotechnologies社が、2015年後半にMSアッセイ製品を発表し、臨床プロテオミクス市場参入を計画しているとのことである。NucleaのPresident、Patrick Muraca CEOは、Genome Webに対して、同社が、MSによる天然インスリンと医療用類似体の定量化検査製品と2型糖尿病用MS検査製品の臨床有効性検証を進めていると語った。

 

Sera Prognostics™: プロテオミクスによる未熟児リスク検査

 2015年1月9日付Genome Web の報道によると (12)、ユタ州ソルト・レーク・シティに本社を置く女性ヘルス・ケア企業、Sera Prognostics社が、今年後半にMRM-MSプロテオミクス検査製品 (PreTRM™) の発表を計画している。この製品は、現場の医師が妊娠女性の未熟児出産リスクをするものである。Sera社は、同社の三重四極MRM-MSを用いているCLIAラボを通してPreTRM検査製品を提供していく予定になっている。

 

Applied Proteomics (API)— 大腸がん検査法

 2015年6月26日付Genome Web (14) は、カリフォルニア州サンディエゴ市に本社を置くApplied Proteomics, Inc., (API) が、当初MRM-MS基本の検査製品を計画していたが、診断検査製品として、先にELISAを用いた大腸がん (CRC) 8タンパク質パネルの開発を決定したと報道している。同社は、ゆくゆくはこのMRM-MSによる診断検査製品を開発する考えを変えていないが、商品化にはまだ時間がかかると見ている。

 

まとめ

 このレポートは完全なものではないが、臨床プロテオミクスの分野で期待感が高まっていることをはっきりと描けたのではないか。MSを用いたプロテオミクス技術の臨床応用は人々が期待したほど速やかには進まなかったが、過去2,3年の間にこの分野の技術が大きく前進している。

 

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