プロテオミクス、即ちタンパク質の網羅的な解析を実施する目的は研究分野により異なるが、一義的には発現しているすべてのタンパク質の発現カタログ作りである。さらには発現変動、翻訳後修飾とその変動、タンパク質間相互作用などを明らかにして個々のタンパク質の役割を理解するとともに分子間ネットワークの構築から生命現象を解明することにある。
一方で、発現タンパク質の網羅的解析は、サンプル間での比較から発現タンパク質の変化(違い)を見出すために汎用されている。特に疾患のバイオマーカー探索は診断薬開発や創薬に結びつくことから、世界中で探索競争が繰り広げられることになった。バイオマーカー探索は2000年頃より活発化し2005年ころがひとつのピークであったように思う。ここでは発現タンパク質の網羅的比較解析を含めてバイオマーカー探索という。バイオマーカー探索の手法は、二次元電気泳動、LC-MS/MS、プロテインチップSELDIシステムの3つに大別することができる。それぞれにメリット・デメリットがあり、研究組織の規模や目的にあわせた使い分けがなされる。二次元電気泳動はハードルが低く比較的安価で簡単に始めることができるので、今では最も利用されている手法である。LC-MS/MSはかなり高価な設備投資が必要となるので、限られた施設で実施されている。プロテインチップSELDIシステムは、ユニークなチップテクノロジーと質量分析計を組み合わせたバイオマーカー探索の専用システムである。他に in vivo 安定同位体標識により発現タンパク質量の変化を調べるSILAC (Stable Isotope Labeling by Amino acids in Cell Culture) や細胞から抽出したタンパク質を安定同位体タグで標識したのちに発現量を比較するICAT、iTRAQなど、質量分析を利用した様々な手法