タンパク質同定法(4)


サイエンス出版部 発行書籍

以上のように質量分析によるタンパク質同定は、自動化されて機械的に結果がでてくるので注意が必要である。分析者が直接データを確認して最終的な判断をしたほうがよい。また、質の高い結果を得るためには、サンプル前処理にも気を使う必要がある。泳動後のゲル片を還元アルキル化することで得られるペプチド数が増加するので、質量分析によるタンパク質同定には好ましい前処理である。βメルカプトエタノールなどの還元剤でサンプルを処理した場合、泳動されたタンパク質のシステイン残基はゲル中のアクリルアミドモノマーが付加されることが多い。   従って、泳動後にバンドゲル片をモノヨード酢酸で還元アルキル化処理すると、システイン残基がプロピオンアミドとカルバミドメチル修飾された2種類のタイプが存在するので、MS/MSサーチでは気を付けたい点である。もちろん、簡単には切り出したゲル片を直接トリプシンで消化しても質量分析での同定は可能である。他には、先にも述べたようにケラチンの混入は一番気をつかうところである。質量分析は高感度のために、通常分析では検出されなくてもケラチンが検出されやすい。サンプルの取り扱い以外に、分析する部屋に人の出入りが多いとケラチンがヒットしやすくなるので部屋の雰囲気にも注意したい。 また、サーチの条件設定によって結果が違ってくることがある。分析データの可能性を広げるような設定にすると、統計解析の正確さが低下するので絞り込んだ条件でサーチするほうがより正確な同定結果が得られる。質量分析に限らずすべての装置分析でいえることであるが、再現性のよい結果を得るために標準タンパク質を使って定期的にシステムならびに操作プロトコールのバリデーションを実施するよう心がけたい。