スクリプス研究所(The Scripps Research Institute) の生物学者グループがお腹の脂肪を燃やす引き金とみられる脳ホルモンを突き止めた。動物モデル研究での発見だが、将来の医薬開発にも役立つ可能性がある。2017年1月27日付Nature Communications誌オンライン版で発表されたこの研究論文の首席筆者を務めたスクリプス研究所の准教授、Supriya Srinivasan, Ph.D.は、「この研究は興味深い謎を解く基礎科学研究だ」と述べている。
オープンアクセスとして発表されたこの論文は、「A Tachykinin-Like Neuroendocrine Signalling Axis Couples Central Serotonin Action and Nutrient Sensing with Peripheral Lipid Metabolism (中枢セロトニン活動や栄養感知を末梢脂肪代謝と結合するタキキニン様神経内分泌物信号伝達軸索)」と題されている。過去の研究で神経伝達物質のセロトニンが脂肪減量効果があることは知られていた。しかし、その正確な機序を分かっていなかった。その疑問に答えるため、Dr. Srinivasanの研究グループは、生物学でよくモデル生物として利用されるC. elegansという線虫で研究した。
この線虫は人間よりも単純な代謝系を持っているが、その脳では、人間の脳と同じ信号伝達分子が多数生成されるため、C. elegansでの研究結果は人間にも応用できると考えている研究者は多い。
まず、研究グループは、C. elegansの遺伝子を取り除き、脳セロトニンと脂肪燃焼の間の経路が切断できるかどうかを調べた。遺伝子を一つずつ順番に取り除いていけば脂肪燃焼を起こしている遺伝子が見つかると期待した。この消去法の結果、FLP-7 (「フリップ7」と発音) と呼ばれる神経ペプチド・ホルモンのコードを持つ遺伝子がその遺伝子だった。興味深いことに、タキキニンと呼ばれる、ほ乳類のFLP-7は80年前に同定されており、その時はブタの腸に垂らすと筋肉の収縮を引き起こすペプチドとして考えられていた。その当時、科学者はこの物質を脳と腸との連絡を受け持つホルモンと考えており、それ以来神経ペプチドと脂肪代謝を結びつける者はいなかった。
新研究の次の段階では、FLP-7と脳内のセロトニンのレベルとに直接の関係があるかどうかを調べた。この論文の第一著者を務めたスクリプス研究所のLavinia Palamiuc研究助手は、FLP-7に赤色蛍光タンパク質のタグを付け、線虫体内でのFLP-7の動きが見えるようにした。線虫の体が透明だからこそ可能だった。
Lavinia Palamiuc研究助手のアイデアが成功し、脳内のセロトニンのレベルの上昇に反応してニューロンから実際にFLP-7が分泌されることが確かめられた。分泌されたFLP-7は循環器系をめぐり、腸内の脂肪燃焼プロセスを開始した。Dr. Srinivasanは、「それが確認できた瞬間は有頂天だった」と述べている。研究グループは、初めて、脳ホルモンが食物摂取の影響を受けずに脂肪代謝だけを刺激することを確認したのである。
新しく突き止められた脂肪燃焼経路の作用を総合すれば次のようになる。まず食物が手に入るなどの感覚器官の刺激を受けて脳の神経回路がセロトニンを生成し、これが他の神経回路に信号を送り、FLP-7の生成が始まる。すると、FLP-7は腸細胞の受容体を活性化し、腸で脂肪をエネルギーに変え始める。この実験の次にはFLP-7のレベルを調節するとどうなるかを調べた。セロトニンが増えること自体で線虫の食物摂取、行動、生殖行動など広い範囲に影響が見られたが、その下流でFLP-7のレベルが上がっても何ら目立った副作用は現れなかった。線虫は脂肪の燃焼は増したが活動は正常だった。Dr. Srinivasanは、「将来、セロトニンの総レベルを変化させると起きがちな副作用を防いだままFLP-7のレベルを調節する研究が盛んになる可能性がある」と述べている。
この研究論文は、Dr. Srinivasan、Ms. Palamiucの他、Mira Costa CollegeのTallie Noble、スクリプス研究所のEmily Witham、Harkaranveer Ratanpal、Megan Vaugha各氏が執筆した。
写真
写真は、この新研究を主導したスクリプス研究所のSurpriya Srinivasan准教授 (左) とLavinia Palamiuc 研究助手。(Credit: The Scripps Research Institute; photo by Madeline McCurry-Schmidt).
原著へのリンクは英語版をご覧ください
TSRI Scientists Find Brain Hormone (FLP-7) That Triggers Fat Burning in the Gut



