抗生物質が“敵に塩を送る”?細菌を追い詰めるほど耐性進化が加速する逆説的メカニズム

「敵に塩を送る」――まさか、病原菌と戦うための切り札である「抗生物質」が、細菌にとっての“塩”になっていたとしたら?最新の研究が、抗生物質が細菌を追い詰めることで、かえって生き残りを助け、最強の耐性菌へと進化させる手助けをしてしまうという、衝撃的なメカニズムを明らかにしました。これは、世界的な脅威である薬剤耐性菌との戦い方を、根本から見直すきっかけになるかもしれません。 抗生物質は細菌を撲滅するはずですが、時にこれらの薬剤は微生物に予期せぬ利点を与えてしまうことがあります。ラトガース・ヘルス(Rutgers Health)による新しい研究は、尿路感染症の主要な治療薬であるシプロフロキサシンが、大腸菌(Escherichia coli, E. coli)をエネルギー危機に陥らせ、その結果、多くの細胞が死を免れ、完全な薬剤耐性の進化を加速させることを示しています。 「抗生物質は、実は細菌の代謝を変化させることがあります」と、ラトガース・ニュージャージー医科大学(Rutgers New Jersey Medical School)で医師科学者を目指す博士課程の学生であり、2025年6月9日に学術誌『Nature Communications』に掲載された論文の筆頭著者であるバリー・リー氏(Barry Li)は語ります。「私たちは、それらの変化が細菌の生存の可能性に何をもたらすのかを確かめたかったのです」。このオープンアクセスの論文のタイトルは、「Bioenergetic Stress Potentiates Antimicrobial Resistance and Persistence(生体エネルギー的ストレスは薬剤耐性とパーシスタンスを増強する)」です。 リー氏と責任著者であるジェイソン・ヤン博士(Jason Yang, PhD)は、細胞にエネルギーを供給する
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Edited by Michael D. O'Neill
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