もうサンプルは無駄にしない。クライオEMの弱点を克服した「MagIC」と「DuSTER」が拓く構造生物学の未来

生命の設計図からウイルスの正体まで、ミクロの世界を詳細に覗き見る魔法の顕微鏡「クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)」。しかし、この強力なツールには、長年、研究者たちを悩ませてきた致命的な弱点がありました。それは、観察したい貴重なサンプルが、ほんのわずかな準備段階の操作でほとんど失われてしまうという問題です。このため、これまで多くの研究が断念されてきました。今回、ロックフェラー大学の日本人研究者らが、「磁石」を使ったシンプルなアイデアでこの課題を劇的に解決し、その応用範囲を大きく広げることに成功しました。 この新手法は「MagIC-cryo-EM」と名付けられ、磁気ビーズを用いて分子を所定の位置に保持することで、サンプルの完全性を保ち、サンプルロスを1000分の1にまで低減します。研究者たちは、2025年5月20日に学術誌『eLife』でその成果を発表しました。このオープンアクセスの論文のタイトルは、「MagIC-Cryo-EM, Structural Determination on Magnetic Beads for Scarce Macromolecules in Heterogeneous Samples(MagIC-Cryo-EM、不均一サンプル中の希少な高分子を対象とした磁気ビーズ上での構造決定)」です。 「MagIC-cryo-EMは従来法に比べてごく少数の粒子しか必要としないため、非常に希少なタンパク質や、作製・精製が困難なタンパク質など、より多様な分子の可視化に利用できます」と、筆頭著者であり、フナビキヒロノリ博士(Hironori Funabiki, PhD)が率いるロックフェラー大学染色体・細胞生物学研究室の元リサーチアソシエイトで、現在客員研究員を務めるアリムラヤスヒロ博士(Yasuhiro Arimura, PhD)は語ります。「ウイルス
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Edited by Michael D. O'Neill
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