抗体づくりのトラブル談 その2. 精製したら抗体が消えた!?
サイエンス出版部 発行書籍
抗ペプチド抗体を作ったときは通常、調製した抗血清をカラムにかけて目的の抗体(igG)を精製します。一般的には、抗原に用いたペプチド、あるいは関連ペプチドをアガロースやセルロースのビーズに固定化して、アフィニティーカラムを準備します。 抗体と抗原の結合が起こる条件下で、抗血清をカラムにかけると、抗体分子は固定化したペプチドに結合します。抗原抗体の結合が乖離しない範囲のやや強い条件で、カラムを洗浄すると、血清中にあった夾雑物が洗い流され、抗体だけがカラムにトラップされます。十分な洗浄後に、カラム内を抗原と抗体がはずれる環境に変えると抗体が溶出し精製が完了するわけです。 抗原と抗体とが別れるための条件として重要なことは、 ①環境を温和な状態に戻せば抗原-抗体の結合力が回復する、 ②戻す操作が煩雑でないことの二つです。精製した抗体を何らかの実験に使うため、特に前者は重要です。 抗体の溶出条件について説明します。よく使われる条件は、pHを酸性にすることです。0.1MのGly-HCL,pH 2.5が一般的です。溶出画分をTrisなどで中和すればpHは簡単に調整できます。ここで、表題の消えた抗体の話です。在職中、たくさんの抗体を扱っていた時期で、溶出した抗体は、活性(イムノブロットによる抗原認識活性)だけをチェックしていたことがありました。 精製抗体をイムノブロットに使ったところ、見えるはずのバンドが出てこない。抗体の濃度を上げるとバックグラウンドだけ上がって全体に汚く見えてきます。一見、抗体が消えてしまったような現象ですが、溶出液のigGを定量してみると、ほどほどの濃度あることがわかります。すなわち、抗体が失活した(抗原を認識しなくなった)わけです。 このようなときにどうすれば良いか、他の溶出条件を試してみるしかないです。pHを少し高めにしてみることも一つです。 ただ
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著者: 大海 忍
このセクションは、元・東京大学医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリ 准教授 大海 忍 先生による抗体入門講座です。
抗体に関する様々な話題や抗体実験で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【大海 忍 先生 ご略歴】
1977年 東京大学理学部物理学科卒業
1978年 聖マリアンナ医科大学研究員
1983年 東京都臨床医学総合研究所 技術員
1987年 東京大学医科学研究所 助手
1992年 東京大学医科学研究所 助教授(准教授) 疾患プロテオミクスラボラトリ
2015年 バイオアソシエイツ株式会社 科学顧問に就任
【主な著書】
抗ペプチド抗体実験プロトコール(秀潤社)
細胞工学連載:ラボラトリーひとくちメモ(秀潤社)
抗ペプチド抗体ベーシック 立体構造情報から抗原を設計する(細胞工学 別冊)