抗体づくりのトラブル談 その3 配列特異性は OK と思ったが


サイエンス出版部 発行書籍

以前、「抗体をつくるならば C 末端を狙うべし」と書きました。 少し復習すると、折れ畳まってコンパクトな形をつくっているたんぱく質において、末端領域は比較的ふらふらしていることが多いです。 すなわち、分子の外側に出ている可能性が高いので、抗体に捕捉されやすいのです。もちろん、両末端以外のポリペプチド鎖内部領域でも分子の表面に位置して抗原性の高いところはありますが、配列のどこからどこまでを免疫原のペプチドに選ぶか迷うこともあります。 このような理由で、末端領域が抗原ペプチドとして推奨されるのです。 しかし、N末端領域は、プロセッシングされて短くなっていたり、末端メチオニンあるいは次のアミノ酸がアシル化されていたりと、修飾されていることがよくあります。 もちろん、C末端付近が翻訳後修飾されることもありますが、N 末端と比較すれば稀です。 したがって、C 末端領域がお奨めと言ったわけです。そして、少々長めにペプチドを合成しても使える抗体が得やすいということもあります。それでも抗体が上手くできないことがあるという話を今回はします。  私は大学院の途中から、カルパインの研究に関わりました。 カルパインは、カルシウムイオンによって活性化される細胞内プロテアーゼのひとつで、いまでは多くの関連遺伝子の存在が明らかになっています。その頃は、カルシウムイオン濃度に対する感受性の違いで、二つの分子種があることがわかり、酵素科学的研究が先行していました。低いカルシウム濃度で活性をもつ高感受性型の μ カルパインと一桁以上高いカルシウム濃度を活性発現に必要とする低感受性型の m カルパインです。 これらのカルパインは組織分布が特徴的で、例えば血球細胞では、μ カルパインはどの細胞でも見出されますが、m カルパインのほうは、リンパ球では発現が同程度、好中球では10分の1程度、赤血球で

大海 忍

このセクションは、元・東京大学医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリ 准教授 大海 忍 先生による抗体入門講座です。

抗体に関する様々な話題や抗体実験で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。

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【大海 忍 先生 ご略歴】
1977年 東京大学理学部物理学科卒業
1978年 聖マリアンナ医科大学研究員
1983年 東京都臨床医学総合研究所 技術員
1987年 東京大学医科学研究所 助手
1992年 東京大学医科学研究所 助教授(准教授) 疾患プロテオミクスラボラトリ
2015年 バイオアソシエイツ株式会社 科学顧問に就任

【主な著書】
抗ペプチド抗体実験プロトコール(秀潤社)
細胞工学連載:ラボラトリーひとくちメモ(秀潤社)
抗ペプチド抗体ベーシック 立体構造情報から抗原を設計する(細胞工学 別冊)

KAKEN