以前、「抗体をつくるならば C 末端を狙うべし」と書きました。

少し復習すると、折れ畳まってコンパクトな形をつくっているたんぱく質において、末端領域は比較的ふらふらしていることが多いです。

すなわち、分子の外側に出ている可能性が高いので、抗体に捕捉されやすいのです。もちろん、両末端以外のポリペプチド鎖内部領域でも分子の表面に位置して抗原性の高いところはありますが、配列のどこからどこまでを免疫原のペプチドに選ぶか迷うこともあります。

このような理由で、末端領域が抗原ペプチドとして推奨されるのです。

しかし、N末端領域は、プロセッシングされて短くなっていたり、末端メチオニンあるいは次のアミノ酸がアシル化されていたりと、修飾されていることがよくあります。

もちろん、C末端付近が翻訳後修飾されることもありますが、N 末端と比較すれば稀です。

したがって、C 末端領域がお奨めと言ったわけです。そして、少々長めにペプチドを合成しても使える抗体が得やすいということもあります。それでも抗体が上手くできないことがあるという話を今回はします。 

私は大学院の途中から、カルパインの研究に関わりました。

カルパインは、カルシウムイオンによって活性化される細胞内プロテアーゼのひとつで、いまでは多くの関連遺伝子の存在が明らかになっています。その頃は、カルシウムイオン濃度に対する感受性の違いで、二つの分子種があることがわかり、酵素科学的研究が先行していました。低いカルシウム濃度で活性をもつ高感受性型の μ カルパインと一桁以上高いカルシウム濃度を活性発現に必要とする低感受性型の m カルパインです。

これらのカルパインは組織分布が特徴的で、例えば血球細胞では、μ カルパインはどの細胞でも見出されますが、m カルパインのほうは、リンパ球では発現が同程度、好中球では10分の1程度、赤血球では痕跡程度の量になっています。血小板には m もしっかりとあり、 赤芽球ではμ と m が同じくらいなので、特定の細胞分化と関わっているのではと、興味深い面もあります。

カルパインの遺伝子は、ちょうど私が東京都臨床医学綜合研究所(今の医学総合研究所)へ就職してから本格的なクローニングが進み、京都大学の故・村地孝教授のグループとの激しい競争もあいまって、 分子生物学的研究が急速に進みました。

そして、 μ 型と m 型の一次構造が明らかになり、これらのカルパインは、それぞれ分子量80Kと30K の2つのサブユニットから構成され、30Kサブユニットは一つの遺伝子由来で、μ型 と m 型の活性を調節していると考えられました。

すなわち、μ と m に特異的な配列は80K サブユニットの中にあるわけです。

μ カルパインと mカルパイン の80KサブユニットのC末端は、EFハンド構造という、カルモデュリンやS100たんぱく質に見られるカルシウム結合モチーフを持っています。

EFハンド構造は、30アミノ酸残基程度のαヘリックス・ループ構造・αヘリックスから成り、ループ部分にカルシウムイオンが収まるように結合するといわれています。カルパインの両サプユニットにはEFハンド構造が複数個あり、これらがカルシウムイオンによる活性調節を仲介していると考えられます。80KサブユニットのC末端は、EFハンド構造のαヘリックスに相当し、μ 型と m 型で特徴的な配列です。したがって、この部分を抗原にしてμ 型と m 型を識別する抗体を作ってみようと考えるのはもっともな作戦だったわけです。 

結果は、がっかりでした。両サブユニットの抗体作成を並行して進めていたので、最初は、どこかで免疫原を取り違えてしまったかと思ったほどです。アミノ酸配列に目立った相同性がないにもかかわらず、抗体はμ 型と m 型の80Kサブユニットに交差してしまいました。それぞれのペプチドで再精製したり、クロスする抗体を吸収してみたり、あれこれと手を尽くしましたが、うまくいかず、抗血清は結局お蔵入りとなりました。考えられる原因としては、検証はしていませんが、ヘリックス構造が似ていたかもしれないということです。それ以来、二次構造を形成するような配列は要注意ということがノウハウに加わりました。

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