抗体は、抗原を動物に免疫し一定期間の後に出現する抗体産生細胞(Bリンパ球)を単離して不死化するか、免疫動物の末梢血に分泌された抗体を抗血清として回収して得られます。前者がモノクローナル抗体、そして後者がポリクローナル抗体で、抗血清からアフィニティー精製などによって抗体分子を純化して実験等に使います。
モノクローナル抗体の場合、不死化した培養細胞から均一な抗体が分泌されるので、精製操作は格段に楽になります。免疫動物の免疫系が異物として認識すれば様々な抗原に対する抗体が産生されてきます。たんぱく質に対する抗体を得たいとき、動物に免疫する抗原としては、かつては高度に精製したたんぱく質が望ましいとされましたが、今では先ず遺伝子を取得して組換えたんぱく質を用いることが多くなりました。
また、遺伝子の翻訳産物の配列(ORF, open reading frame)に基づいて抗原とするペプチドを化学合成し免疫原に具する方法もあります。こうやって作られる抗体を抗ペプチド抗体といいます。
抗ペプチド抗体は、名前の通りペプチドに結合しますが、ペプチドの配列が由来するたんぱく質にも同等に結合しなければこれを作る意味がありません。
すなわち、短いペプチドに結合しても本来のたんぱく質には結合しない抗体ができてしまうことがあり、抗ペプチド抗体が嫌われる理由の一つなのです。
たんぱく質にも結合する抗体を手に入れるためには、長めのペプチドを抗原に使うことが一般的ですが、長すぎても良くないこともあり、適度な長さの配列をたんぱく質の構造を勘案しながら適切に分子設定することが重要です。
また、短いペプチドは単独では抗体産生を誘導することができないことが多く、キャリアたんぱく質に結合させて大きな分子サイズにする必要があります。このような煩雑さも抗ペプチド抗体の短所になります。このようなデメリットがあるにもかかわらず、以下の理由で私は抗ペプチド抗体を推奨します。たんぱく質に対する抗体が実際にたんぱく質のどの部分に結合しているかは調べなければわかりません。
これをエピトープマッピングといいますが、大きな分子ではなかなか大変な作業になります。抗原ペプチドを化学合成する際は、あまり長いペプチドを作ることはなく、十数アミノ酸残基以下が一般的です。これは一つのエピトープに近い大きさであり、抗ペプチド抗体では狙った部分に対する抗体が得られることから大きな利点であります。
抗原たんぱく質に対して初めて抗ペプチド抗体を作成するときは、分子の表面に位置して抗体がアクセスしやすい部分を狙ってペプチド抗原を合成することが得策です。たんぱく質の立体構造をイメージしながらペプチド抗原の分子設計を進めると良いです。たんぱく質のプロセッシングやリン酸化などの翻訳後修飾を認識する抗体も合成ペプチドを活用して作成することができます。
ただし、翻訳後修飾部位は前もって、変異組換えたんぱく質やプロテオミクス技術を駆使して正確に決定する必要があります。ここをいい加減にしたり憶測で抗原ペプチドを作ってしまうと失敗することが多々あります。例えば、限定分解で生じたポリペプチド末端に対する抗体は、ペプチドの設計が一残基でもずれていると結合しなくなります。
しかし、うまくできた抗体は特異性が高く、わずかな量の翻訳後修飾でも検出することができます。このような抗体は非修飾のたんぱく質とは結合しないからです。
これら特殊抗体は、細胞あるいは組織レベルで個々の翻訳後修飾を捕捉できるので、新しい生体分子解析ツールとして期待できます。
