膜貫通たんぱく質に対する抗体づくり
サイエンス出版部 発行書籍
細胞の形質膜を一回だけ貫通して細胞表面に表現されるたんぱく質に対する抗体を考えてみましょう。がん細胞などでこのようなたんぱく質が特異的に発現していると、良い腫瘍マーカーになることが期待されます。抗体作成には免疫原に用いる抗原が必要ですが、膜たんぱく質の遺伝子がわかっているときは、組換えたんぱく質を大腸菌などで発現させて免疫原を調製するか、遺伝子の配列に基づいてペプチドを化学合成することになります。 一回膜貫通たんぱく質は、N 末端が細胞の外側にあるか内側にあるかで2つのタイプに分けられます。ここでは、N 末端が細胞の外で C末端方向へ進むと膜貫通領域があり、その後ろ C 末端側 は細胞内領域となる膜たんぱく質(Ⅰ型膜貫通たんぱく質) について説明します。 まず、抗原たんぱく質を3つのポリペプチド部分に分けて考えましょう。すなわち、N末端側の細胞外領域、膜貫通領域、そして C 末端側の細胞内領域です。膜貫通領域は疎水性アミノ酸に富んだ20残基ほどの部分ですが、抗体は一番できにくいです。 したがって、細胞の外あるいは内側の領域を抗原に考えることにします。膜たんぱく質の細胞外領域には糖鎖が付加していたりジスルフィド(S-S)結合が形成されてることが多く、これらを大腸菌のたんぱく質発現系で再現することはなかなか難しいです。 それから、たんぱく質の N末端付近は、プロセッシングされてなくなることもあるので要注意です。 したがって無難にお薦めできるのは、細胞内領域(C末端側) です。細胞内領域がどれくらいの長さかにもよりますが、膜貫通領域よりも C末端よりを組換えたんぱく質として発現・精製すればよろしいです。ペプチドの場合は、この領域でたんぱく質分子の表面に出そうなところ15残基程度を合成します。もし C 末端が分子表面に出ていそうでしたら10残基ほどで良いです。 なお、ペ
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著者: 大海 忍
このセクションは、元・東京大学医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリ 准教授 大海 忍 先生による抗体入門講座です。
抗体に関する様々な話題や抗体実験で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【大海 忍 先生 ご略歴】
1977年 東京大学理学部物理学科卒業
1978年 聖マリアンナ医科大学研究員
1983年 東京都臨床医学総合研究所 技術員
1987年 東京大学医科学研究所 助手
1992年 東京大学医科学研究所 助教授(准教授) 疾患プロテオミクスラボラトリ
2015年 バイオアソシエイツ株式会社 科学顧問に就任
【主な著書】
抗ペプチド抗体実験プロトコール(秀潤社)
細胞工学連載:ラボラトリーひとくちメモ(秀潤社)
抗ペプチド抗体ベーシック 立体構造情報から抗原を設計する(細胞工学 別冊)