阻害剤の抗体で副作用追跡を
サイエンス出版部 発行書籍
2015年のノーベル生理学・医学賞は皆さんにとってサプライズでしたか。 私はこういう評価も当然ありと考えます。前評判が高いトレンディな研究よりも、地道に長年かけて積み上げた研究成果は、いずれはいろいろな意味で芽を吹き始め、科学にとって大きな財産でもあります。 大村智先生とはじめてお会いしたのは1995年の秋だったと記憶しています。 そのころ私は、細胞死(アポトーシス)の研究を開始して間もない時期でした。 神経突起誘導因子として大村先生が発見されたラクタシスチン[参考文献1, 2]が細胞死とどのような関係にあるかを調べたく、北里大学のラボへ伺ったわけです。ラクタシスチンはその少し前に、細胞内たんぱく質分解酵素のひとつであるプロテアソームに特異的に作用する阻害剤であるとの報告[参考文献4]があり、プロテアーゼを研究してきた私にとっては興味深い物質でした。 そして、白血球由来のがん細胞が分化する過程でラクタシスチンがアポトーシスを惹起することを速誌に発表できたのが同年の12月でした。[参考文 献3] ラクタシスチンは、プロテアソームの触媒サブユニットのひとつに結合してたんぱく質分解活性を阻害することがわかっていました。 そして結合する場所は、N 末端近くのトレオニン残基の OH であることも判明していました[参考文献4]。 そこで私は、このサブユニットの N末端付近を化学合成し、ラクタシスチンを結合させて免疫原にすれば抗体を作成できると考え、大村先生に再度提案しました。 先生は抗ラクタシスチン抗体作成の計画を快く了承してくださり、ラクタシスチンをたくさんくださりました。 ところが、何回トライしてみても入らないのです。ペプチドにラクタシスチンが結合しなのです。そうこうするうちに、ラクタシスチンの作用機序が改めて調べられ、代謝された後でプロテアソームに結合
著者: 大海 忍
このセクションは、元・東京大学医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリ 准教授 大海 忍 先生による抗体入門講座です。
抗体に関する様々な話題や抗体実験で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【大海 忍 先生 ご略歴】
1977年 東京大学理学部物理学科卒業
1978年 聖マリアンナ医科大学研究員
1983年 東京都臨床医学総合研究所 技術員
1987年 東京大学医科学研究所 助手
1992年 東京大学医科学研究所 助教授(准教授) 疾患プロテオミクスラボラトリ
2015年 バイオアソシエイツ株式会社 科学顧問に就任
【主な著書】
抗ペプチド抗体実験プロトコール(秀潤社)
細胞工学連載:ラボラトリーひとくちメモ(秀潤社)
抗ペプチド抗体ベーシック 立体構造情報から抗原を設計する(細胞工学 別冊)