循環腫瘍細胞とエキソソームの両方を捕捉する新チップで液体生検が可能に。
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マサチューセッツ州ウスター工科大学(Worcester Polytechnic Institute、WPI)の機械技術者によって開発されたチップは、がん患者から採取された少量の血中の転移性がん細胞を捕捉し同定することができる。この画期的な技術は、多くの既存のデバイスで採用されているマイクロフルイディクスによるアプローチよりもがん細胞の捕捉に効果的な簡便な機械的方法を採用している。
WPIの開発したデバイスは、カーボンナノチューブアレイのウェルの底に抗体を固定している。 がん細胞は、表面マーカーに基づき選択的に抗体に結合する(他のデバイスとは異なり、がん細胞によって産生されるエキソソームを捕捉することもできる)。Journal Nanotechnology最新号に掲載されたこの「液体生検(liquid biopsy)」は、転移の早期徴候を迅速に検出し、医師が特定のがん細胞を標的とする治療法を選択するのを助ける、簡便なラボテストとなりえる。
転移は、がんがある臓器から体の他の部分に、大抵は血流に入ることによって広がる過程である。 異なるタイプの腫瘍は、特定の臓器および組織に対する嗜好を示す(循環乳がん細胞は、例えば、骨、肺、および脳に根付く可能性が高い)。 転移性がん(ステージIVがんとも呼ばれる)の予後は一般的に不良であるため、遠隔部位で腫瘍が新しいコロニーを形成する前に、これらの循環腫瘍細胞(CTCs:circulating tumor cells)を検出できる技術が、患者の生存率を大幅に上昇させる可能性がある。
WPIの機械工学准教授であるスモールシステム研究室長Balaji Panchapakesan博士は、「循環腫瘍細胞を捕らえることは非常に困難な課題です。干し草の中で針を探すのとは比べ物になりません。数十億の赤血球、数万の白血球の中に浮遊している腫瘍細胞はほんの少ししかありません。 我々は、これらの細胞を高精度に捕捉する方法を明らかにしました。」と語っている。
Panchapakesan博士のチームが開発したデバイスには、それぞれ約10分の1インチ(3ミリメートル)の小エレメント・アレイが搭載されている。アレイの各エレメントはウェルを有し、その底部にはカーボンナノチューブに結合した抗体がある。 各ウェルには、がん細胞の表面上の遺伝子マーカーに基づいて、1つのタイプのがん細胞に選択的に結合する特異的抗体が固定されている。 様々な抗体をエレメントに播種することにより、この装置は、単一の血液サンプルを用いていくつかの異なるがん細胞タイプを捕捉するように設定することができる。 研究室では、血液量がわずか0.3オンス(0.85ミリリットル)未満の血液を使用して、合計170ウェルを満たすことができた。 少量のサンプルでも、デバイスあたり1〜1000個のセルを捕捉し、捕捉効率は62〜100%であった。
2016年9月29日にオンラインで公開されたJournal Nanotechnologyのオープンアクセスの論文は、「Static Micro-Array Isolation, Dynamic Time Series Classification, Capture And Enumeration of Spiked Breast Cancer Cells In Blood: The Nanotube–CTC chip(スタティックマイクロアレイ分離、ダイナミックな時系列分類、血液中のスパイク乳がん細胞の捕捉と列挙:ナノチューブ - CTCチップ)」と題されている。
論文の主著者である博士研究員Farhad Khosravi博士および、Louisville UniversityとThomas Jefferson Universityの研究者を含むPanchapakesan博士のチームは、転移性乳がんEpCamとHer2の2つのマーカーに特異的な抗体をチップ内のカーボンナノチューブに固定し、これらマーカーを発現した細胞が含まれる血液サンプルをチップに載せ、デバイスが標識された細胞のみを確実に捕捉することを明らかにした。
エキソソーム・キャプチャー
Panchapakesan博士は、このチップは腫瘍細胞を捕捉することに加えて、がん細胞によって産生され同じマーカーを保有するエキソソームも捕捉すると語った。「非常に捕まえにくい3ナノメートルの構造は、マイクロフルーディクスなどの他のタイプの液体生検デバイスでは、せん断力のために破壊される可能性があり、捕捉するには小さすぎます。 現在のところ、私たちのチップは、循環腫瘍細胞とエキソソームを直接チップ上に捕捉することができる唯一のデバイスであり、転移を検出する能力は増すはずです。このことは、エキソソームから放出された小さなタンパク質が、がんの効果的な薬物送達と治療の大きな障壁となる可能性があることから重要だと考えています。」
Panchapakesan博士は、チームによって開発されたチップは、他の液体生検デバイス(そのほとんどは、マイクロフルーディクスを使ってがん細胞を捕捉する)に比べ、はるかに効率的に循環腫瘍細胞を捕捉できることに加え(WPIのデバイスは、細胞が移動する液体の流れを通過する際に固定された抗体に結合しなければならない)、他の細胞や血液中の物質を選択的に捕捉できるため優位性があると述べた。
Panchapakesan博士は、このチップを用いた最初のテストで乳がんに焦点を当てていたが、このデバイスは広範な腫瘍の種類を検出するために使用可能であり、すでに肺がんおよび膵がんを含む他のがんの種類について高度なデバイスの開発を計画している。 彼は、このようなデバイスが、がんにかかった患者のための定期的なフォローアップだけでなく、日常的ながん健康診断にも使用できる日を想定している。
「毎年、健康診断に行くことを想像してください。あなたは採血され、1つの血液サンプルから包括的ながん細胞マーカーを調べるようになります。 がんは、超早期の段階から捕捉され、医師は治療をカスタマイズするためのがん特異的マーカーを得るために、捕捉されたがん細胞から必要なタンパク質または遺伝情報を得るでしょう。これこそあなたが真の健康を手に入れる手段です。」
「白血球は、特に血液中に非常に多く存在し、がん細胞と誤認される可能性があるため、問題となります。私たちのデバイスは、受動的な白血球除去戦略を使用しています。 比重の差で、がん細胞はウェルの底に沈む傾向があり(狭いウィンドウでのみ起こる)、そこで抗体に遭遇します。 血液の残りの部分はウェルの上部に留まり、洗い流すことができます。」とPanchapakesan博士は語った。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
New Chip Captures Circulating Cancer Cells and Exosomes from Small Blood Samples, Enabling Liquid Biopsy
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Edited by Michael D. O'Neill
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