シドニーのガーバン医学研究所の研究者とオーストラリア、英国、イスラエルの共同研究者が開発した新しいDNA検査は、既存の検査よりも迅速かつ正確に、診断が困難なさまざまな神経・神経筋遺伝病を特定できることが示された。ガーバン研究所のゲノミクス技術部長であり、本研究の上席著者であるアイラ・デベソン博士は、「ハンチントン病、脆弱X症候群、遺伝性小脳失調症、筋緊張性ジストロフィー、ミオクロニーてんかん、運動ニューロン疾患など、すでに知られていた疾患を持つすべての患者を正しく診断した」と述べている。この検査で対象となる疾患は、ヒト遺伝子の中にある異常に長い反復DNA配列によって引き起こされる50以上の疾患に属し、「ショートタンデムリピート(STR)伸長障害」として知られている。
「これらの疾患は、患者が示す複雑な症状、これらの反復配列の困難な性質、および既存の遺伝子検査法の限界のために、しばしば診断が困難だ」とデベソン博士は述べている。
2022年3月4日にScience Advances誌にオンライン掲載されたこのオープンアクセス論文は「プログラム可能なターゲット型ナノポアシーケンスによるタンデムリピート伸長型障害の包括的な遺伝学的診断(Comprehensive Genetic Diagnosis of Tandem Repeat Expansion Disorders with Programmable Targeted Nanopore Sequencing)」と題されており、この検査が正確であることを示し、世界中でこの病理学検査を利用できるようにするための検証に取り掛かることについて述べられている。
この研究に参加した患者の一人であるジョンは、スキーのレッスン中にバランスをとるのに異変を感じ、初めて異変に気が付いた。
「アクティブで動きやすい状態から、支えがないと歩けない状態まで、数年にわたり症状が重くなり、とても心配だった。10年以上も検査に次ぐ検査を受けたが、何が悪いのかまったく分からなかった」と語るジョンは、最終的に、脳に影響を及ぼすCANVASという珍しい遺伝病であると診断された。
ジョンは、「近い将来、この種の疾患を持つ人々が、私よりも早く診断を受けられるようになると思うと、胸が高鳴る。」と語っている。
この研究の共著者で、コンコード病院の臨床神経科医であるキショア・クマール博士は、「ジョンのような患者にとって、この新しい検査は、負担の大きい診断の旅を終わらせるのに役立つ、画期的なものとなるだろう」と語っている。
リピート伸長疾患は、家族間で遺伝する可能性があり、生命を脅かすこともある。また、一般的に筋肉や神経の損傷を伴い、全身にその他の合併症を引き起こす。
患者にとってより迅速で正確な診断は、「診断の放浪旅」を避けることに繋がる
現在のリピート伸長疾患の遺伝子検査は、「当たり外れがある」とクマール博士は言う。「そのため、医師は患者の症状や家族歴に基づいて、どの遺伝子を検査するかを決めなければならない。その検査が陰性であった場合、患者は答えが出ないままになってしまう。このような検査は、病気に関係する遺伝子が見つからないまま、何年も続くことがある。我々はこれを『診断の放浪旅』と呼んでいるが、患者やその家族にとってはかなりのストレスになる」と彼は言う。
「1回のDNA検査ですべての疾患を一度に検査し、明確な遺伝子診断を下すことができれば、患者は何年も必要のない筋肉や神経の生検を受けたり、免疫系を抑制する危険な治療を受ける必要がなくなる」と、クマール博士は述べている。
リピート伸長疾患を治すことはできないが、迅速な診断により、医師はフリードライヒ失調症に伴う心臓の問題など、病気の合併症を早期に発見し治療することができる。
既知および新規の病気をスキャンする
この検査法は、通常、血液から抽出した単一のDNAサンプルを使い、ナノポアシーケンスと呼ばれる技術で患者のゲノムをスキャンすることで検査が行われる。
「我々は、これらの疾患に関与することが知られている約40の遺伝子に着目し、疾患の原因となる長く繰り返されるDNA配列を読み取るよう、ナノポア装置をプログラムした。」「2本のDNA鎖を解いて、繰り返される文字配列(A、T、G、Cの組み合わせ)を読み取ることで、患者の遺伝子内に、病気の特徴である、異常に長い繰り返しをスキャンすることができる。」「1回の検査で、病気の原因となる既知のリピート伸長配列を全て検索でき、まだ報告されていない病気に関与している可能性の高い新規配列を発見できる可能性がある。」と、デベソン博士は語っている。
今後5年で、より広い範囲での使用に拡大
この検査に使われているナノポア技術は、通常の検査よりも小型で安価であるため、研究チームは病理学研究室への導入がスムーズに進むと期待している。「ナノポアを使えば、遺伝子配列決定装置は冷蔵庫サイズからホッチキスサイズに縮小され、コストも、主流のDNA配列決定技術に必要な数十万ドルと比較して、約1,000ドルになる」とデベソン博士は述べている。
研究チームは、この新技術が今後2〜5年以内に診断の現場で使われることを期待している。この目標に向けた重要なステップのひとつは、この方法が適切な臨床認定を受けることである。
この研究の共著者で、ハリー・パーキンス医学研究所の希少疾患遺伝学研究者であるジーナ・ラベンスクロフト博士は、「認定されれば、この検査は遺伝病の研究にも変化をもたらすだろう。成人期に発症する遺伝性疾患は、幼少期に発症する疾患ほど研究上の注目度は高くない」と語っている。「これらの成人発症の希少疾患や、症状が出る前の患者をより多く見つけることで、通常では困難なコホート研究を通じて、様々な希少疾患についてより深く知ることができるようになるだろう」と彼女は言っている。
BioQuick News:Single Test for Over 50 Genetic Diseases (Repeat Expansion Diseases) Will Cut Diagnosis from Decades to Days



