第5回国際細胞外小胞学会 (ISEV 2016) 年次総会レポート2

第5回国際細胞外小胞学会 (ISEV 2016) 年次総会レポート2

ロッテルダムで開かれた2016年 国際細胞外小胞学会 (ISEV) の全体会議では、講演者として予定されていた世界的に著名なウイルス学者のRobert Gallo, MDが、感染症で入院先のアメリカの病院から800人を超える参加者を前にビデオ録画で講演するという一幕があった。



Dr. Galloは、ISEVの第二全体会議「最高峰から学ぶ:ウイルス対EV」において、もう一人の世界的なウイルス学者、Leonid Margolis, PhDとともに演壇に立つ予定だった。同じ全体会議には、University of Nebraska Medical Centerの教授、Shilpa Buch, PhDも講演した。

Dr. Galloの科学的業績は数多く、また著名である。博士は、AIDSの病原体をHIVと突き止めた重要な研究を主導した上にHIV感染を判定する簡単な血液検査も開発した。この難病に対する戦いを前進させた功績は大きい。

1980年から1990年にかけての時期、Dr. Galloの研究論文は引用回数が世界最多だったし、博士は、また、Lasker Awardを2度与えられた数少ない学者の一人でもある。それほど優れた業績を持つ科学者がISEV 2016年総会の参加者の前で講演することを望んだという事実一つをとっても、EV研究が重要性を持つようになったことが示されている。

事実、Dr. Galloは、その発言の中で、EVについて、「新しい期待の持てる分野だ」、あるいは、「医学全体にインパクトを与える新しいコミュニケーションの方法だ」と語っている。

さらに、博士は、彼自身のヒト・レトロウイルスに関する重要な研究について簡単に触れ、その研究が、レトロウイルスに似たところの多いEVを調べ、特徴付ける研究の指針になるかも知れないと考えたと語っている。


Gallo研究室のインターロイキン2T細胞増殖因子発見により、T細胞の培養とT細胞を感染させるウイルスの研究が可能になった。当時、研究対象は、初めてヒトの体内で見つかったレトロウイルスのヒトT細胞白血病ウイルス (HTLV) だった。Dr. Galloは、どんな研究でも前進するためには、疾患や身体症状に冒される細胞を判定することが大切だと強調した。T細胞を培養器で成長させられるようになったことがHIVとAIDSの研究を加速する大きな要因になった。Dr. Galloは、1983年に彼の研究室が、分離した5種のHIVウイルスから細胞株樹立に成功したことも重要な成果だと語っている。当時、博士は、HIVウイルス株を無限に増殖させていくことができれば、HIVがAIDSの病原体であることを実証できると確信していた。また、将来のHIV研究については、予防ワクチンの開発の重要性、さらに試験を重ねていくこと、AIDSを早期に、迅速に、さらに多くの人を治療するという究極目標を強調した。まとめとして、ワクチン研究を中和抗体一本に絞らないよう警告している。終わりに、参加者に向かって手を振り、「さよならはオランダ語で何というのだろう?」と語っている。


次に、NIHのSection on Intercellular Interactionsの長、Dr. Margolisが、「EVs and Viruses: Cousins in Complicated Relations (EVとウイルス: 複雑な関係のいとこ同士)」の題で講演した。博士は、ウイルスとEVがよく似ていること、またこの2種の生物学的存在を明確に区別しなければならないことを指摘している。さらに続けて、ただし、この2つのグループを厳格に区別するのは困難だとして、通常ウイルス調製はいくらかEVに汚染されるものであり、完全な分離はまだできていないと述べている。さらに、感染性ウイルス、欠損ウイルス、EVはいずれも互いに親戚同士のような微小粒子の連続体に属しているのだと思うと語り、これまでの研究で発見された証拠から、EVがウイルスの成長を助ける場合もあれば阻害する場合もあることが示されていることを強調している。たとえば、EVは、ウイルスに有利な環境をつくるHIV Nefタンパク質を輸送することができる。しかし、もう一方で、EVはHIVを阻害するAPOBEG3Gも輸送することができる。さらに、Dr. Margolisは、EVの働きのメカニズムの研究と理解が必要であると同時にそのような研究を補強し、可能にする新しい技術の開発が必要だと強調している。また、研究をさらに拡大するためにEV産生をスケールアップしなければならないと強調し、Zikaウイルスのような新しく進化してきたウイルスを阻止するためにEVを利用する研究の可能性も示唆している。

次いで、Nebraska Center for Substance AbuseのDirector、Dr. Buchが演壇に立ち、「HIV and Drug Abuse Go HAND in HAND: Blame the Messenger (HIVと薬物乱用は同時進行:使者を責める愚行)」の題で講演した。Dr. Buchは、Dr. Galloが病気であるため、彼の講演が短くなると知って講演を買って出た。HANDは、「HIV関連神経認知障害」の頭字語で、この障害は患者の死を早めるAIDSの合併症の一つである。Dr. Buchは、鎮痛剤や静注薬剤の使用量が大幅に増えており、薬物使用がHANDの発症に影響している可能性を調べた。博士の業績で重要な研究は、SIVウイルスに感染したマカクにモルヒネを与えることで症状が悪化する様子を調べたものだ。研究の結果、確かにモルヒネで症状が悪化した。そればかりでなく、博士の研究からHIVによる脳の損傷にはエキソソームが介在していることが示唆されている。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Eminent Virologist Robert Gallo Delivers Plenary Address to ISEV 2016 Rotterdam Meeting from Hospital

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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