BRCA1遺伝子変異が卵巣卵残存量過少に関連か
2016年4月19日付Human Reproduction誌オンライン版に掲載された研究論文によると、BRCA1遺伝子変異と、卵巣卵残存量を示すホルモン・レベルの低下との関連が突き止められた。同誌は世界をリードする生殖医療学術誌の一つとして知られている。
この論文はオープンアクセス論文として掲載されており、「Anti-Mullerian Hormone Serum Concentrations of Women with Germline BRCA1 or BRCA2 Mutations (生殖細胞系列BRCA1またはBRCA2変異を持つ女性の血清中の抗ミューラー管ホルモン濃度)」と題されている。
国際的な研究グループは、遺伝子変異を持った女性のBRCA1、BRCA2遺伝子変異と抗ミューラー管ホルモン (AMH) レベルを調べた初の大規模研究で、BRCA1変異を持つ女性は、BRCA1変異を持たない女性に比べるとAMHの濃度が平均25%低いことを発見した。BRCA2変異についてはそのような関係は見られなかった。
研究論文の第一著者を務めたオーストラリア連邦ビクトリア州東メルボルン所在のPeter MacCallum Cancer Centre所属コンサルタント腫瘍内科医のProfessor Kelly-Anne Phillipsは、「このことから、平均してBRCA1変異を持った30代半ばの女性の卵巣の卵残存量は、BRCA1変異を持たない女性の場合には約2歳年長に相当する」と述べている。
AMHは卵巣卵残存量の信頼できるマーカーだが、Phillips教授は、「AMHは女性の妊孕性の一つの指標にすぎないことを念頭に置いておくのが大切だ。受精から満期まで胎児を育てる能力は、卵の質、卵管が塞がっていないかなど様々な要因が関わっており、いずれもAMHでは測ることができない。
AMHが低い女性でも妊娠することがあり、逆にAMHの高い女性でも妊娠できないことがある。
それでも、私達の研究から、BRCA1変異を持つ女性は、年齢的に妊孕性(にんようせい)が下がる30代後半や40代まで妊娠を遅らせることは避けた方がいいことが示唆されている。
20代で妊娠しようとする女性の場合、BRCA1変異のあるなしは臨床的にそれほど大きい影響はない」と述べている。BRCA1およびBRCA2遺伝子変異を持つ女性の場合は、乳房、卵巣、輸卵管、腹膜などのがんにかかりやすい。がんのリスクは年齢と共に上がっていき、BRCA1変異のあるヒトはBRCA2変異のあるヒトよりリスクが高い。
突然変異は一般市民にはまれで、BRCA1で0.1%程度、BRCA2でも0.2%程度、ただしアシュケナジ・ユダヤ人など一部の民族グループではもう少し高率になることがある。この種のがんは治療が容易な初期には発見が難しいため、遺伝子変異保因者が40代に入ると、がんのリスクを減らすため、卵巣と輸卵管を切除するようアドバイスを受けるのが普通である。
このような理由から、自分が保因者であることを知っている女性は若い間に子供をつくろうとする傾向がある。しかし、このような遺伝子変異が、妊孕性など、がんに関連しない身体状況にどのような影響があるかということについては信頼できる証拠がこれまでほとんどなかった。
Phillips教授と、オーストラリアとスコットランドの研究センターの研究者らは、1997年から2012年までの間、25歳から45歳まで (平均35歳) で、がんの既往症はないが、遺伝性乳がん (kConFab) の研究のためにAustralian and New Zealand Kathleen Cuningham Foundation Consortiumに登録した女性693人のAMHレベルを分析した。
BRCA1変異保因家族の172人が保因者であり、216人が非保因者だった。また、BRCA2変異保因家族の147人が保因者、158人が非保因者だった。血液試料採取時には、どの女性も卵巣を切除しておらず、妊娠も授乳もしていなかった。研究グループは、得られた結果を、被験者女性の年齢、経口避妊薬服用、肥満度指数、喫煙などを条件に入れて調整した。
BRCA1変異保因者は、非保因者に比べて平均25%AMHレベルが低いことに加え、女性人口をAMHレベルで四等分すると最下位四分位になる率も高い。BRCA2変異保因者についてはこのような現象は見られない。
研究グループは、Human Reproduction誌の論文で、BRCA1変異と卵巣残存量との関連のメカニズムは、DNA修復時の突然変異が原因している可能性がある、DNAの修復が十分でないことが女性の卵の老化の原因になっていることが示されている、と述べている。
BRCA1もBRCA2も、DNA二重螺旋両鎖損傷の修復の重要な要素である。
Professor Phillipsは、「BRCA1に比べると、BRCA2は、DNA二重螺旋損傷修復についてはごく限られた役割しか果たしておらず、BRCA1変異保因者に比べるとBRCA2変異保因者は高齢になってからもがんを発症する率が低い。従って、卵巣卵残存量に及ぼす変異性の影響はBRCA1変異保因者の方がよりはっきりしているということも明確だ。
BRCA2変異保因者の場合にも微弱ながら影響があるかも知れないが、私達の研究ではそれを突き止められる十分な力がなかった」と述べている。また、論文著者らは、研究結果から、BRCA1変異保因者では化学療法誘発性閉経のリスクも平均を超えるという仮説も生まれると述べている。
Professor Phillipsは、「この仮説は、がん患者が化学療法を受け始める時に、BRCA1変異保因者は、非保因者に比べて卵巣卵残存量が少ないため、保因者は化学療法によって閉経に至る可能性も高いというものだ。しかし、現段階ではこれも単なる仮説であり、今後さらに研究を続ける必要がある」と述べている。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
BRCA1 Gene Mutation Is Linked to Women Having Fewer Eggs in Their Ovaries
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