BRCA1遺伝子 (アンジェリーナ・ジョリー遺伝子) の機能を深く解明

BRCA1遺伝子 (アンジェリーナ・ジョリー遺伝子) の機能を深く解明

サイエンス出版部 発行書籍

サン・アントニオのCancer Therapy & Research Center (CTRC) の研究グループは研究論文を発表し、正常な乳房組織におけるBRCA1遺伝子、通称「アンジェリーナジョリー遺伝子」の機能、およびその機能の欠失によって乳がん発症に至る機序をさらに深く解明している。
米国国立がん研究所指定の総合がんセンターの一つ、CTRCは、テキサス大学サン・アントニオ校医学部の一部であり、サン・アントニオにおけるテキサス大学健康科学センター、医学部付属臨床診療機関である。



BRCA1は、各細胞の遺伝的青写真を保管するDNAの損傷を修復することでがんを抑制する機能が知られている。このDNAの損傷は、加齢や環境的な影響によって起きる。


2016年3月4日付Nature Communicationsのオンライン版に掲載された新研究で、CTRC研究グループは、BRCA1が乳房細胞の成長を調節するCOBRA1と呼ばれる遺伝子に対する制限因子または調節因子として機能することを突き止めた。この研究は、「Genetic suppression reveals DNA repair-independent antagonism between BRCA1 and COBRA1 in mammary gland development (遺伝的抑制で、DNA修復と無関係な乳腺成長時のBRCA1とCOBRA1との間の拮抗関係が明らかに)」と題されてオープンアクセス記事として掲載されている。

この研究の筆頭著者で、Health Science CenterのMolecular Medicine教授を務めるRong Li, Ph.D.は、「乳房組織中のBRCA1がDNA修復とは無関係な何らかの機能を持っているというはっきりとした説得力のある証拠を見つけた。BRCA1ががんの発達を抑制する上でDNAの修復が重要だという考えに変わりはないが、それだけではないと考えている」と述べている。Dr. Liを含めて多くの科学者が、「乳房や卵巣に限らず、すべての細胞がDNA修復を必要としているのに、なぜBRCA1機能の欠失で女性が乳がん、卵巣がんにだけかかりやすくなる」のかを謎としている。また、男性には、女性ほどのBRCA1機能低下による目立った影響はない。

Dr. Liは、「早くから、私達も、またこの分野の他の研究者達も、BRCA1にはDNA修復とは無関係な機能があり、それが特定の組織や女性だけに影響しているのではないかと考えていた。この研究結果で少なくともその謎の一部が解明された。この成果を踏まえて、いつかこの種の乳がんのより優れた診断治療法の開発に結びつくことと思う。究極的な目標は、BRCA1変異保因者女性の乳がん発達を遅らせたり、あるいは発生を防止することだ」と述べている。

Health Science Centerのprofessor of medicineで、CTRC breast oncology programを率いるVirginia Kaklamani, M.D.は、「Dr. Diと彼の研究室グループは、私達にBRCA1の全く違った一面を見せてくれた。BRCA1がDNAエラーを修復する遺伝子だということを知った。また、Dr. Liは、BRCA1が乳房組織成長に重要な役割を担っていることを突き止めた。この発見が、BRCA1変異保因者女性の乳がん発生を防ぐより効果的な手段の開発に役立つかも知れない」と述べている。

アメリカでは浸潤性乳がんと診断される年間25,000人ほどのうち、10%近い率でBRCA1の変異が見られ、この種のがんは治療が非常に困難であることが多い。映画俳優のアンジェリーナ・ジョリーはBRCA1の変異があり、乳がんのリスクが高いことから発症を予防するために両乳房切除の手術を受けた。BRCA1に変異のある女性は、そうでない女性に比べて80%程度乳がんのリスクが高くなる。

Dr. Liと同僚研究者はマウスを使って研究を行っており、次は人間の組織を使って研究成果の確認に移りたいと望んでいる。そこでBRCA1変異保因者の細胞組織を調べ、マウスの場合と同じBRCA1とCOBRA1の関係が人間の組織でも見られるかどうかを知るため、CTRCの乳がん研究者と協力で作業を進めている。Dr. Liは、「人間の細胞組織でこの関係を確認できれば、次の段階としてBRCA1変異保因者の体内でこの関係のバランスが崩れていた場合に、薬理学的な方法でそのバランスを回復できるかどうかを調べることだ」と述べている。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Scientists Obtain Deeper Insight into Function of BRCA1 Gene (Angelie Jolie Gene)

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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