細胞レベルのがん治療
サイエンス出版部 発行書籍
がんのもっとも一般的な治療法として放射線療法と化学療法がある。しかし、このどちらも副作用があり、健康な組織まで傷める。そればかりか、がんが体中に広がっている場合にはその効果も限られている。 コペンハーゲン大学のニールス・ボーア研究所の研究グループは、がん細胞をあざむいて細胞毒素を吸収させることによって死滅させ、一方、正常細胞には何の影響も与えない穏やかな治療法の開発を進めている。この研究論文は2016年3月2日付Scientific Reportsに、オープン・アクセス論文として掲載され、「Restricted Mobility of Specific Functional Groups Reduces Anti-Cancer Drug Activity in Healthy Cells (特定官能基の移動性制限で正常細胞での抗がん剤の影響低減)」と題されている。発端は、コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所の物理学者であるMurillo Martins, Ph.D.が、いわばナノスケールの「輸送車」を血流に載せて細胞毒素を直接がん細胞まで運び、がん細胞にその輸送車ごと呑み込ませることでがん細胞を内側から破壊しようというアイデアを思いついたことだった。 SF映画に出てきそうな話だが現実に可能なことだろうかという疑問がわき上がる。まず、輸送車そのものを作らなければならない。彼はまず医学研究の分野ではよく知られている微小な磁石ビーズを使ってみることにした。その微小なビーズを血流中に注入し、がんの位置に磁石を埋め込むとビーズは磁石の位置に集まってくる。次のステップは、ビーズに細胞毒素を載せることだった。コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所X線・中性子科学のポスドク研究員、Dr. Martinsは、「生物学的に適した素材で微小な輪状の袋を作り、化学処理によってビーズ
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