生細胞の中のタンパク質がどのように液体やゲル状固体と言った異なる状態に組み立てられるかを理解するために、光で物質を操作するツールが用いられ始めた。細胞は驚異的な複雑さで数千もの化学反応を同時にこなしており、いくつかの反応はオルガネラと呼ばれる特殊なコンパートメント内で行われている。

 

しかし、あるオルガネラは、細胞内に浮遊する物質を取り除く膜を欠いている。 これら膜のないオルガネラは何らかの形で、タンパク質・核酸等の分子が浮かぶ細胞の海の真っただなかで自己完結型構造として存続している。

プリンストン大学の科学者は、膜のないオルガネラが機能する化学作用の理解へ、これまでにない道筋を提供する新しいツール「オプトドロップレット」を開発した。 「このオプトドロップレットは、膜のないオルガネラの自己組織化を支配する物理学的・化学的規則を理解することを可能にする。このプロセスの根底にある基本的なメカニズムはほとんど理解されておらず、我々の取り組みによって、ALSのようなタンパク質凝集を伴う病気の治療法を開発できる希望があるかもしれない。」 と2016年12月29日にCellにオンラインで掲載された論文の上級著者であるプリンストン大学の化学生物学の助教授、Clifford Brangwynne博士は述べている。

Cellの論文は、「Spatiotemporal Control of Intracellular Phase Transitions Using Light-Activated optoDroplets.(光作動オプトドロップレットを用いた細胞内相転移の時空間制御)」と題されている。以前の研究では、相転移プロセスによって膜のないオルガネラが細胞内で組み立てられることを示した。Brangwynne博士らによるこの数年間の研究では、特定のタンパク質の濃度を変更したり、構造を変更したりすることで、タンパク質が液滴状のオルガネラに凝縮するような相変化が引き起こされることが明らかになった。 しかし現在まで、ほとんどの研究では試験管の中の精製タンパク質を使用しており、活動的な生細胞において相転移を研究する方法はほとんどなかった。


オプトドロップレットは、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの疾患に関与するタンパク質の固体状のゲルや結晶性の凝集物を生じる相転移が起こったときに何が起きているのか研究者が理解するのに役立つ。オプトドロップレットは、光によってその挙動が変化する可能性のあるタンパク質を含むオプトジェネティクスと呼ばれる技術を用いている。 研究者らは、光活性化タンパク質をスイッチオンすることによって、相転移を誘発し、膜のない細胞小器官を形成することができることを示した。 また、単に光をオフにするだけで転移を元に戻すこともできた。 光強度とタンパク質濃度を増加させることで、さらに転移を制御することができた。 これらの入力を変更することで、研究者はいつ疾患につながる可能性があるタンパク質凝集体が形成されるのか判断することができる。

「オプトドロップレットは、生細胞に正確に相図をマッピングできる精度のコントロールを提供する。我々は、細胞がどのようにこの細胞内の相図を通って異なる種類のオルガネラを組み立てるのかといった自然の仕組みを理解し始めている。」 とBrangynyn博士は述べている。

Cell論文の主著者は、プリンストンの化学生物学科 Brangwynne博士のSoft Living Matter Groupのポスドク研究員であるYongdae Shin博士である。 共著者であるプリンストンの機械・航空宇宙工学部門のJoel BerryとMikko Haataja氏は、細胞内の相挙動を理解するための数学的モデルを開発し、オプトジェネティックスの専門家であるプリンストンの分子生物学部門のNicole Pannucci氏とJared Toettcher氏は、オプトドロップレットのタンパク質の分子設計に携わった。マウスとヒトの細胞を用いて、研究チームはキャベツとマスタードの親戚であるマウス・イヤー・クラン(Arabidopsis thaliana)と呼ばれる植物の光感受性タンパク質の遺伝子を接合した。 青色光の暴露は、タンパク質を自己会合させ、自ら積み重なった。

光感受性タグを、生細胞の相転移を引き起こすと考えられるタンパク質成分に融合させた。 研究者らは、この光を用いてタンパク質を誘導することで、細胞内で自然に起こる凝縮過程を模倣することができることを見出した。 「水蒸気に例えるなら、レーザーを使って空気のある領域の温度を局所的に変化させて水滴を凝縮させたと言える」とBrangynyn博士は述べている。

研究チームは、光をオンまたはオフにすることによって、タンパク質が凝縮して解散するよう繰り返した。 このプロセスは、繰り返し行っても完全に可逆的であることが判明した。 しかし、高光度の光や高濃度のタンパク質では半固体ゲルとなり、最初は可逆的であったが、ゲルは経時的に凝固していくつかの疾患に見られるものと同様の不可逆的な凝集塊を形成した。

「我々は、オプトドロップレットを用いて相分離した液体を簡単に組み立て、そして分解することができ、細胞には何の問題も引き起こさなかった。しかし、ゲル状の集合体はより問題が多く、永久的な凝集体になり、正常な生物学的プロセスをだめにするので、細胞がもはや対処できないようだ。」とBrangwynne博士は述べている。

FUSと呼ばれるRNA結合タンパク質がその一例である。 FUSタンパク質は、細胞の操作にとって重要である。 それは他のタンパク質を生成し、損傷したDNAを修復するのに役立つ。 しかし、数多くの遺伝子変異が原因で、FUSタンパク質が粘着性になり、ルー・ゲーリッグ病としても知られるALSにつながる。 患者が自発的に筋肉を制御する能力を失う神経学的状態であるALSは、神経細胞に蓄積するタンパク質の凝集塊が特徴となる。 これらの凝集塊は、動的な流体小滴として存在するのではなく、FUSまたは他のタンパク質が病的に凝集することに由来する。 ハンチントン病およびアルツハイマー病はまた、細胞を詰まらせるタンパク質の凝集塊を含み、細胞における異常な相転移がこれらの状態と密接に関連していることを再び示唆している。

この研究には関与していないが、ドイツのハイデルベルクにあるヨーロッパ分子生物学研究所の研究者Edward Lemke博士は、次のようにオプトドロップレットの展望を述べた。
「オプトドロップレットが標的とするタンパク質は、相分離タンパク質の重要な構成要素であり、その多くは悪名高い疾患に関与している。オプトドロップレットシステムは、最小の侵襲かつ高度に制御された方法で細胞内のこれらタンパク質の状態を調節するための道筋を提供するので、それらが機能を果たす方法について新しい洞察を提供することができる。」と語った。

Brangwynne博士はオプトドロップレットについて「我々は細胞内の相転移に関する基本的な疑問に答えるために研究に取り組んでいる。しかし、これらの洞察が、健康な細胞の働きだけでなく、どのように病気になるのか、最終的に治癒できるのかを明らかにできることを望んでいる。」と述べた。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
New “OptoDroplet” Tool Shines Light on Protein Condensation and Phase Transition in Living Cells

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