スコットランドでクローン羊のドリーが生まれて20年経つが、哺乳動物のクローンをつくることは未だに困難であり、アメリカとフランスの研究チームが行ったクローン成長の遺伝子発現に関する新研究で、なぜクローン胚が失敗しやすいかが示されている。ドリーは、「体細胞核移植」と呼ばれるテクニックを使ってクローン化された。このテクニックは、成体細胞の細胞核を、細胞核を取り除いた未受精卵に移植し、電気ショックを与えて細胞成長を引き起こすというもの。
その後、胚を受容母体に移植し、クローン胎児は出産まで母体内で成長する。牛のクローニングは農業にとって重要な技術であり、哺乳動物の成長の研究にも用いることができるが、成功率は非常に低く、クローン胚の出産までの生存率は一般に10%以下とされる。その失敗の大部分はクローン胚移植時の失敗や胎盤の不具合などで胚が死滅するためだった。
2016年12月8日付PNASオンライン版に掲載された研究論文で、UC Davis Department of Evolution and Ecologyの教授、Harris Lewin, Ph.D.と、フランス、アメリカの研究者チームは、クローンの妊娠失敗率の高さの原因となる分子機序をさらに深く理解するため、RNAシーケンシングを用いて移植中のクローン牛の遺伝子発現を調べた。この研究は、クローニングと生殖生物学の分野で優れたフランスの研究チームと機能ゲノミクスの分野で優れたアメリカの研究チームの12年間におよぶ協同作業と協力の成果である。このPNAS掲載の論文は、「Massive Dysregulation of Genes Involved in Cell Signaling and Placental Development in Cloned Cattle Conceptus and Maternal Endometrium (クローン牛の受胎産物と母胎子宮内膜における細胞内情報伝達と胎盤成長に関わる遺伝子の大規模な調節障害)」の表題がつけられている。
Dr. Lewinは、「私たちの研究では、クローニング・プロセスに関する基本的な疑問の解明に取り組んだ。その結果、クローン牛の胚の核の初期化が胚体外組織の遺伝子発現にどのような影響を与えるか、あるいはクローン胚とその受容母体の間の精緻なコミュニケーションについて、自分たちの理解を大きく書き替えることになった」と述べている。フランスのInstitut National de la Recherche Agronomiqueで研究チームのリーダーを務めたOlivier Sandra, Ph.D.は、「私たちの共同研究で積み上げた大量のデータが、移植の際に胚の死滅を引き起こすメカニズムに光を当てている。また、牛に限らず、他の哺乳動物種においても、移植の際の状況がどのように妊娠の進行に影響するか、またどのように出生後の子供の表現型を決めるかなどについても新しいヒントが得られた」と述べている。研究チームは、クローン牛の胚の組織も調べた。胚はすべて同じ細胞系から得たものであり、成長18日から34日までのものであった。また、それぞれの妊娠牛の子宮内膜壁も調べた。
さらに、人工授精で妊娠した非クローン牛も調べた。研究チームはRNAシーケンシングを用いて調べ、複数の遺伝子が異常発現すると、子宮移植失敗や、正常胎盤の発育不良などによりクローン胚の死滅の率が高まることを突き止めた。成長18日目のクローン牛の胚体外組織を調べたところ、5,000を超える遺伝子で発現異常が見られた。研究チームは、その結果を「Mouse Genomic Informatics Knockout」データベースと比較し、胚体外組織形態異常の機能アノテーションと対応する遺伝子を123個見つけた。また、胚死亡率に関するものが121個、胚移植異常が14個となっていた。しかし、成長34日目になると、遺伝子発現パターンは、人工授精で得られた対照群牛のそれと似通ってきており、ここまで生き延びたクローンは子宮に移植すれば胎盤を形成できることを示している。これらの結果から、クローン牛の胚が移植前に高率で死滅してしまうのは、おそらく胚体外組織の成長に不可欠な遺伝子に問題があるからだろうと考えられる。
この研究でクローニングが失敗する他の原因も明らかになった。たとえば、成長するクローン胚と母体牛とのホルモン信号伝達の不具合などがある。たとえば、妊娠を認識する主要信号系のインターフェロン・タウに関わる遺伝子に低下調節も見られた。また、クローンそのものが、母体牛の遺伝子発現に影響を及ぼしているらしいことも観察された。成長34日め、子宮組織の一部の遺伝子発現がかなり異なってきており、胎盤に影響を与えることも考えられた。Dr. Sandraは、「私たちの研究データから、移植時に子宮と胚体外組織の間の相互作用が不可欠で、このことが妊娠の進行に大きな障害になっていることが明らかになった」と述べている。Dr. Lewinは、「これでクローン失敗の原因が解明された。ここから動物のクローニング・プロセスを改善することができる」と述べているが、同時に、「この発見は、ヒトのクローニングはどんな目的であっても厳しく禁止しなければならないということを裏付けている」と述べ、さらに、「そもそもクローニングが可能ということ自体がすごいことであり、動物が成長段階で極端な条件にも適応できるようかなりの柔軟性を備えていることを示すものだ」と述べている。
写真
この写真は、2003年にUC Davisで生まれた2頭の健康なクローン子牛のDotとDitto。DotとDittoは、健康に成長し、それぞれ子牛を産んだが、失敗したクローン胚も多い。ここに紹介した新研究で、クローン胚では遺伝子の多くが異常な調節を受けていること、特に胚体外組織や胎盤でそれが甚だしいことを突き止めている。(Credit: Alison Van Eenennaam, UC Davis Department of Animal Science).
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Cow Study Explains High Failure Rate of Mammalian Clones



