ランニングの健康効果については毎週のように新しい話題が現れる。それ自体は素晴らしいことだが、走れない人にとっては何の意味もない。高齢者、肥満者、その他、運動機能に支障のある人にとっては有酸素運動の効果というのは望んでも得られないことだった。Salk Instituteの研究チームは、ランニングによって起動される遺伝子経路を突き止めた過去の研究を基礎にして、化合物によって運動不足のマウスの経路を完全に起動する手段を見つけ、脂肪燃焼効率やスタミナを高めるなど運動の健康効果を再現することができた。 2017年5月2日付のCell Metabolismに掲載されたこの研究論文は、有酸素運動持久力への理解を深めただけでなく、心臓障害、呼吸器系疾患、2型糖尿病その他健康障害のある人々にも薬剤で同じ健康効果が得られるようになる希望を与えている。このオープンアクセス論文は、「PPARδ Promotes Running Endurance by Preserving Glucose (PPARδは、ブドウ糖を保存することでランニング持久力を増進)」と題されている。筆頭著者のRonald Evans は、Molecular and DevelopmentalでSalkのMarch of Dimes Chair の地位にあり、またBiology Howard Hughes Medical Instituteのinvestigatorでもある。彼はこの論文で、「トレーニングで有酸素運動持久力を増進させられることはよく知られているが、私達の疑問は、持久力はどのように機能するのか、また、科学をよく理解できればトレーニングを薬剤で代用することができるのか?、ということだった」と述べている。持久力を増進するというのは有酸素運動をより長時間持続できるようになるということである。体がフィットしてくると、筋

一般的な茶にも紅茶、緑茶、烏龍茶、白茶、チャイなど様々な種類があるが、いずれもCamellia sinensis、一般的には茶樹と呼ばれる常緑低木の葉を原料としている。茶は文化的にも経済的にも重要でありながら、茶の葉の木についてはあまりよく知られていない。2017年5月1日付Molecular Plant誌オンライン版に掲載された茶樹のゲノム解析初稿を読めば、なぜ茶の葉には抗酸化物質やカフェインが豊富に含まれているのかが想像できるのではないか。   このオープンアクセス論文は、「The Tea Tree Genome Provides Insights into Tea Flavor and Independent Evolution of Caffeine Biosynthesis (茶樹のゲノムが茶の風味とカフェイン生合成の独立進化解明の手がかりに)」と題されている。茶樹が近縁種と遺伝学的にどう違うのかを理解すれば、茶園経営者もCamellia sinensisの葉はなぜユニークなのかということが分かるのではないか。このCamellia属には100を超える種があり、その中には庭木として栽培される種もいくつかあり、さらに、茶油を採るC. oleiferaがあり、茶の原料として商業的に栽培されているのは主として2種 (C. sinensis. var. assamicaおよびC. sinensis var. sinensis) があるだけである。中国Kunming Institute of Botany (中国科学院昆明植物研究所) の植物遺伝学者、Li-Zhi Gao (高立志), PhDは、「茶には様々な風味があるが、茶の風味を決めているのはどの遺伝子かと言うことは謎だ」と述べている。 これまでの研究で、茶の風味はフラボノイドと呼ばれる抗酸化物質のグループによるも

非侵襲性のPETイメージング法は、免疫細胞ががん細胞を殺すために放出するグランザイムB (写真) というタンパク質を測定する方法で、マウスと人間で、治療の初期に免疫チェックポイント阻害薬に反応するがんと、反応しないがんを判別することができた。その研究結果はCancer Research の2017年5月号に掲載されている。 この論文は、「Granzyme B PET Imaging as a Predictive Biomarker of Immunotherapy Response (免疫療法反応の予測バイオマーカーとしてのグランザイムB PETイメージング法)」と題されており、マサチューセッツ州ボストン市、Harvard Medical School のProfessor of Radiology と、Massachusetts General Hospital (MGH), Athinoula A. Martinos Center for Biomedical Imaging, Division of Precision MedicineのDirectorを務めるUmar Mahmood, MD, PhDがこの論文の首席著者になっている。Dr. Mahmoodは、「チェックポイント阻害薬のような免疫療法は革命的ながん治療法になったが、この治療法が有効な患者は少数であり、大多数の患者にとっては何の益もないだけでなく、大きな副作用の危険があり、しかも他の治療法を試す時間を失うことにもなりかねない」と述べている。免疫療法への反応は、がんのサイズを測定するCTスキャンやMRIスキャンのようにがんの細胞を測定する従来の方法でも、FDG PETのようにがんのブドウ糖取込量を測定する方法でも、免疫細胞が映り込んだり、ブドウ糖取込量が増加してがん細胞が大きく映るため、がん初期には免

抗生物質によって救われる命が日々ある中、その功罪併せ持つ特性こそが欠点となることもある。高用量では感染を引き起こす細菌とともに健康な細胞も破壊し、既知の抗生物質がもはや効果をもたない「スーパーバグ」を創り出すことになるからだ。しかし、抗生物質の効力を劇的に高めるメープルシロップ抽出物が発見されたことにより、抗生物質の使用量を自然に減らすことが可能になるかもしれない。 この研究は4月2日、第253回アメリカ外科学会議(ACS)の全国会議博覧会において発表された。世界最大の科学会であるACSは4月2日から6日までサンフランシスコにて年次総会を開催し、14,000件以上の多種多様なプレゼンテーションが行われた。「カナダの先住民は昔からメープルシロップを感染症の薬として使用してきました。私は常々、この民間療法がどのようなサイエンスに基づくのか興味を持っていたのです。」と、カナダのMcGill大学のNathalie Tufenkji博士は述べる。クランベリー抽出物の抗菌効果を研究していたTufenkji博士はフェノールメープルシロップ抽出物の抗がん効果を知り、本プロジェクトを始動した。「これをきっかけに、この物質の抗菌効果も調べる価値があると思い、研究員にメープルシロップを買いに走らせたのです。」研究チームは既存の抽出法を用いてシロップのフェノール化合物から砂糖と水を分離した。これこそがメープルシロップのあの黄金色の素である。 初期試験では病原菌の菌株をいくつか抽出物に暴露したが、効果はほとんど見られなかった。そこで Tufenkji博士は、この抽出物が一般的に使用されている抗生物質シプロフロキサシンとカルベニシリンの抗菌力を高める効果があるかどうかを確認することにした。そしてフェノール抽出物をこれらの薬のいずれかと混合した結果、実際に相乗効果を見出したのである。その効果は、最大

血液脳関門(BBB : blood-brain barrier)は循環系と脳脊髄液を隔てる選択的を有する膜で、医薬品のほとんどはこのBBBを通過することが出来ない。しかし、動物の毒液中にある特定のペプチドはBBBを通過して損傷を与えることがある。そこで現在、蜂毒ペプチドであるアパミン(apamin)に基づいた薬剤BBB通過戦略に注目する研究グループがある。   この研究は4月2日に開催された第253回全米科学会(ACS : the American Chemical Society)の全国総会(2017年)で発表された。世界最大の科学会であるACSは、サンフランシスコで4月2日から4月6日まで開催され、14,000件以上の多種多様な科学分野におけるプレゼンテーションが行われた。スペイン・バルセロナのInstitute for Research in Biomedicine のErnest Giralt博士はこう語る。「一部の動物の毒は中枢神経系にダメージを与えるため、これらはBBBを通過する能力をもち、薬を運ぶ役割も担えるのではないかと考えたのです。」アパミンはミツバチに刺されたヒトの中枢神経系に蓄積することが知られているが、アパミンペプチド自体を使用する事に関してはいくつかの欠点が存在した。 「毒性があるため、アパミンを直接使用することができないことを私たちは知っていました。しかし、毒性の起源もよくわかっていたので、毒性のみ排除しつつトランスポーターとしての機能は失わないようアパミンを改変することが出来るかもしれないと考えたのです。」と、Giralt博士は説明する。アパミンの毒性は、神経細胞中のカリウムチャネルとの相互作用に起因する。陽電気を帯びたアパミン分子基はカリウムイオンを模倣し、結合するとカリウムチャネルを遮断する。毒性を排除するために、Giralt博士率い

パーキンソン病の定義、研究、および治療への転換的アプローチが発表された。これを概説している2つの文献はNature Reviews Neurology and Movement Disorders誌にオンライン掲載されている。共にシンシナティ大学(UC)Gardner Neuroscience Instituteの研究者が共同執筆者として携わっている。パーキンソン病を単一の実体として治療するのではなく、特定の症状または分子的特徴に基づいて、患者の異なる「ノードまたはクラスター」への治療を目的とするべきだと、この国際研究グループは主張する。 「私たちが何をすべきかを問い直す時が来ているのです。医科学は、パーキンソン病の進行を遅らせることを目標とし、その治療研究に230億ドルの世界的投資をしてきました。そして行われた17ものⅢ臨床試験は、残念ながらほとんど成果を上げていません。こんなにも結果が出ないのは、単一疾患・単一目的のアプローチで治療法を確立しようとしているからではないでしょうか。」と、本研究の筆頭著者であるAlberto Espay医師は説明する。Espay博士はUC医科大学の神経学准教授であり、James J. and Joan A. Gardner Family Center for Parkinson's Disease and Movement Disordersのディレクターも務める。パーキンソン病は単一の疾患ではなく、遺伝的および分子的な観点から考えるといくつかの病気の集まりである、とEspay博士らは考える。彼らは、パーキンソン病をドーパミンニューロン変性を主な原因とする単一障害として見ることは、大多数の患者が抱える震えや不安定な歩行などといった症状に対する治療法の開発に有用であったことを認めている。同時に、この見解は、パーキンソン病の進行を遅らせ、修正

サンフランシスコのグラッドストーン研究所の科学者達は、マウスがヒトの老化疾患を発症するのを防ぐ重要なメカニズムを発見し、ヒトでよく見られる広範囲の疾患の重症度を説明した。どちらの局面も、年齢とともに浸食される染色体末端の保護キャップとしての役割を担うテロメアと関連している。テロメアの侵食と老化の疾患の関連性は長く知られているが、テロメアの長さがヒトの病気にどのように影響を与えるかは謎とされてきた。   しかし今、科学者達によって、心臓病に関連したヒトの遺伝子変異を有するマウスのテロメアを短くすると心臓弁および血管にカルシウムが致命的な量に蓄積することが見出されている。これによって、石灰化大動脈弁疾患(calcific aortic valve disease; CAVD)の有望な新薬開発の実験系の構築が期待され、ヒトにおける様々な老化疾患の研究をマウスモデル化する道が開けた。CAVDでは、心臓弁および血管にカルシウムが蓄積し骨のように硬化する。治療としては心臓手術によって弁を置換する他なく、疾患率は75歳以上の成人の3%である。CAVDは年齢と共に発症し、2つあるNOTCH1遺伝子のコピーの一つに突然変異が起こることが起因とされる。 ヒトは通常、各遺伝子のコピーを2つ有する。 コピーの1つが失われた場合、残りの遺伝子では、正常な機能を維持するのに十分なタンパク質を産生しきれないことがある。たんぱく質の産生量が半減すればヒトでは疾患を引き起こすのに対し、同じ変異を持つマウスは疾患から保護されることが多いが、この理由については明確にされていない。グラッドストーン研究所の科学者らは、テロメアの長さがこの種の疾患のリスクまたは耐性と関連している、と2017年3月27日付けでJournal of Clinical Investigationにオンラインで公開した。実験用マウスは

ヒトの記憶に重要な遺伝子が100以上も同定された。しかも、初めて記憶処理中の遺伝子データと脳活動との相関関係が明らかになったのである。これにより、ヒトの記憶というものに新たな可能性が出てきた。 「これらの遺伝子と行動の関係を特定することで、記憶機能や機能障害といった局面における遺伝子の役割を研究することが可能になります。これは非常にエキサイティングなことです。なぜなら、人の記憶を支える分子メカニズムの解明に一歩近づけたということですから。これを基に様々な記憶問題に役立てることができるでしょう。」と、サウスウェスタン・テキサス大学(UT)のGenevieve Konopka博士は語る。研究発表は2017年3月26日サンフランシスコで開催されたCognitive Neuroscience Society (CNS)年次学会で行われた。本研究は、脳の解剖学および機能の変化に遺伝的変異を関連付けることを目的とした「遺伝子イメージング」である。比較的新しい分野だが、今まさに成長拡大している分野でもある。 CNS学会の遺伝子イメージングシンポジウムの委員長も務める、ハーバード大学医学部とマサチューセッツ総合病院のEvelina Fedorenko博士は「遺伝子は脳の解剖学的構造と機能的組織を形作っています。これらの脳の構造的および機能的特徴が、行動の様式を決定するのです。遺伝子と脳との関係を調べることは、ヒトの認知・神経構造を十分に理解する可能性があります。動物界における人間の独自性についての洞察を含んでいます。」と述べている。遺伝子と行動の関連性を解明しようと試みたこれまでの研究では、肝心の神経マーカーが欠けていたが、今回の研究はこの二つを関連付けることができた。CNS年次学会の「これからの遺伝学と認知神経科学」シンポジウムでKonopka博士とFedorenko博士の二人が研究

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究者らは、実際に老化を逆行させ、DNA修復を改善し、NASAの火星任務をも可能にするであろう革新的な薬物を発見した。2017年3月23日のScience誌に発表された論文は「老化中のタンパク質-タンパク質相互作用を調節する保存されたNAD+結合ポケット(“A Conserved NAD+ Binding Pocket That Regulates Protein-Protein Interactions During Aging.”)」と題され、研究者チームは細胞が損傷したDNAを修復できるようにする分子プロセスの重要なステップを特定したことを記している。   本チームによるマウス実験では、老化と放射線によるDNA損傷の修復が可能であることを示唆している。このアンチエイジング効果はNASAが火星ミッションに使用できると注目するほど有望である。人間の細胞はDNA損傷を修復する先天的な能力を持ってはいるが、この能力は年を取るにつれて低下するものである。研究チームは体内のあらゆる細胞に存在する代謝物であるNAD+が、このDNA修復を制御するタンパク質間相互作用の調節因子として重要な役割を担っていることを特定した。 NMN と呼ばれるNAD+前駆体(「ブースター」)でマウスを治療することにより、放射線曝露または老化によるDNA損傷を修復する細胞の能力が向上したのである。 「老齢マウスの細胞が、わずか1週間の治療後には、若いマウスのものと区別がつかないほどになったのです。」と、UNSW医科大学のハーバード・メディカルスクールのDavid Sinclair教授は語る。 NMN療法のヒト試験は6ヶ月以内に開始される。「これは安全で効果的なアンチエイジング薬に今最も近いものです。治験がうまくいけば、市場に出るのは3〜5年後にな

ある研究者の植物生物学への取り組みによって、天然分子が軸索(ニューロン間で電気信号を運ぶ糸状突起物)の修復を刺激促進することが発見された。脊髄損傷や卒中などの障害症状を引き起こす主な原因はこの軸索損傷である。 マギル大学(カナダ)のモントリオール神経学研究所病院に所属するAndrew Kaplan博士は、Alyson Fournier博士(Neurology and Neurosurgery教授)の研究室が調べていた神経保護機能を持つ14-3-3タンパク質ファミリーに注目し、軸索再生の薬理学的な研究文献を探していた。その検索中に植物が特定タイプの真菌感染にどう反応するかを記述した研究を見つけた。真菌類の特定の種が産生するfusicoccin-Aという低分子物質にさらされると、植物の葉はしぼむが根は長く伸びるようになる。fusicoccin-Aは、14-3-3タンパク質と他のタンパク質との相互作用を安定化させることで、14-3-3タンパク質の活動に影響を与える働きがある。Kaplan博士は、「この現象では14-3-3タンパク質の存在が共通しているが、この反応に関わっている他のタンパク質や反応の結果の生物活性は植物動物の間ではそれぞれに異なっている」と述べている。彼は、軸索再生には、fusicoccin-Aを用いて14-3-3タンパク質を活動させるのがもっとも効果的なのではないかという仮説を立てた。 この説を実証するため、彼の研究チームは物理的な損傷を与えたニューロンを培養基に入れ、天然分子で処理した上でその結果を観察した。Kaplan博士は、「翌日、顕微鏡を覗いてみると、軸索が雑草のように伸びていた。fusicoccin-Aが損傷した神経系の中で軸索修復を刺激促進できると決定するに至った素晴らしい結果だった。2017年3月8日付Neuron誌オンライン版に掲載されたこの論

白色脂肪に比べると、褐色脂肪はかなりの速さで燃焼し、エネルギーに変わるが、これまで人体の褐色脂肪の比率はかなり小さいものと思われていた。ところが、ドイツのTechnical University of Munich (TUM) 研究チームの研究で、人体中の褐色脂肪の量はこれまで考えられていたよりも3倍も多いことが分かった。そのことから、褐色脂肪組織を活性化する新しいタイプの肥満・糖尿病薬がより効果的ではないかと期待されている。   Journal of Nuclear Medicineに掲載されたこの研究では、1,644人の患者の3,000件近いPETスキャンが分析されている。PETは、「Positron Eemission Tomography陽電子放出断層撮影」」の頭字語であり、がん医療で広く用いられている。このPETスキャンは、体内の代謝活動を画像化することができる。腫瘍組織は、健康な組織とは違ったエネルギー代謝をしていることが多く、転移があればPETスキャンで検出することもできる。TUMのElse-Kröner-Fresenius Center所属のDr .Tobias Frommeは、「PETスキャン技術の副産物として、活性な褐色脂肪組織を画像化することもできた。褐色脂肪組織は多量の糖を吸収するため、スキャンでこの活動を観察することができるのである」と述べている。たとえば、薬剤で褐色脂肪の活性を高めることで糖尿病患者の高すぎる血糖値を引き下げることも考えられる。また、肥満患者が、エネルギー燃焼量の高い褐色脂肪を利用して余分な体重をエネルギーとして燃やしてしまうことも考えられる。少なくともある程度までは可能だろう。 Dr .Tobias Frommeは、「いずれにしろ、褐色脂肪組織に対する薬剤の効力を引き上げることは可能だ」と述べている。PETスキャンの分析か

プレシジョンメディシンの実現に専念する分子科学分野の先進企業、Caris Life Sciences® は、2017年2月21日付けで、同社のADAPT Biotargeting System™ で、血漿中のエキソソームの低侵襲性液相生検で乳がんを検出し、乳がんの有無を判別できることが実証されたと発表した。この研究論文は、「Plasma Exosome Profiling of Cancer Patients by a Next Generation Systems Biology Approach (次世代システムの生体的アプローチによるがん患者の血漿エキソソーム・プロファイル化)」と題するオープンアクセス論文として、2月20日付Nature’s Scientific Reportsに掲載された。   University of Tennessee Health Science Center, Division of Hematology/Oncologyの長を務めるDr. Lee Schwartzberg (この研究には関わっていない) は、「幅広い種類のバイオマーカーを対象とする低侵襲性血液検査法で乳がんを正確に検出できれば、乳がん診断と患者管理の面で大きな進歩をもたらすことと考えられる。この研究の成果は、将来的に、現在の乳房撮影法その他の画像技術による標準的な検査法の欠陥を解消する可能性が開けており、また、現行の標準診断法でははっきりした結果が出ないために患者がさらに侵襲的な組織生検を受けなければならなくなることも多い」と述べている。ADAPT Biotargeting Systemは、個別または複合ターゲットに結合する1本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN) アプタマーを搭載した非常に複雑なライブラリーを用い、生体系全体にわたって生体サンプルのプロファイ

過去100年以上の間、人体の細胞は、おおむね生涯にわたってほぼ平等に両親の染色体の遺伝子を発現するものと思われていた。しかし、両親の特定遺伝子の活性を測定する検査法を発明した研究グループが、生命体というのはもう少し微妙なものだと研究論文で述べている。同研究グループは、2017年2月23日付Neuron誌に掲載された研究論文で、げっ歯類、サル、ヒトの脳で個別ニューロンまたは特定タイプのニューロンが片方の親の遺伝子を抑制することも珍しくないと報告している。   この論文は、「Diverse Non-genetic, Allele-Specific Expression Effects Shape Genetic Architecture at the Cellular Level in the Mammalian Brain (哺乳動物の脳において細胞レベルで遺伝的構造を形成する多様な非遺伝性対立遺伝子固有の発現の効果)」と題されている。驚いたことには、母親と父親の遺伝子コピーの活性化差異は、ほとんどの場合、発達中の脳に見られ、約85%の遺伝子がその影響を受けている。脳が成熟するにつれてニューロンは両親の遺伝子を平等に発現するようになる。しかし、成人の脳でも両親の遺伝子コピーの少なくとも10%で発現差異が見られ、脳のかなりの数の遺伝子が、その個体の生涯にわたってこのアンバランスを維持している。 この論文の首席著者であり、University of Utah School of Medicine所属の神経生物学者であり、New York Stem Cell FoundationのRobertson Investigatorの肩書きを持つDr. Christopher Greggは、「この話は、なぜ生物が有性生殖をするのかという理由に関わっている。有性生殖は、2組の遺伝子コピ

スクリプス研究所(The Scripps Research Institute) の生物学者グループがお腹の脂肪を燃やす引き金とみられる脳ホルモンを突き止めた。動物モデル研究での発見だが、将来の医薬開発にも役立つ可能性がある。2017年1月27日付Nature Communications誌オンライン版で発表されたこの研究論文の首席筆者を務めたスクリプス研究所の准教授、Supriya Srinivasan, Ph.D.は、「この研究は興味深い謎を解く基礎科学研究だ」と述べている。 オープンアクセスとして発表されたこの論文は、「A Tachykinin-Like Neuroendocrine Signalling Axis Couples Central Serotonin Action and Nutrient Sensing with Peripheral Lipid Metabolism (中枢セロトニン活動や栄養感知を末梢脂肪代謝と結合するタキキニン様神経内分泌物信号伝達軸索)」と題されている。過去の研究で神経伝達物質のセロトニンが脂肪減量効果があることは知られていた。しかし、その正確な機序を分かっていなかった。その疑問に答えるため、Dr. Srinivasanの研究グループは、生物学でよくモデル生物として利用されるC. elegansという線虫で研究した。   この線虫は人間よりも単純な代謝系を持っているが、その脳では、人間の脳と同じ信号伝達分子が多数生成されるため、C. elegansでの研究結果は人間にも応用できると考えている研究者は多い。まず、研究グループは、C. elegansの遺伝子を取り除き、脳セロトニンと脂肪燃焼の間の経路が切断できるかどうかを調べた。遺伝子を一つずつ順番に取り除いていけば脂肪燃焼を起こしている遺伝子が見つかると期待した。この消去

最近のラットを対象にした研究で、幹細胞から放出される特定の小胞 (Exosome:エキソソーム) が、眼球底部の感光組織、網膜の細胞を保護するらしいことが確かめられた。この研究論文は、2017年1月26日付Stem Cells Translational Medicineに掲載されており、アメリカで最大の失明の原因である緑内障の治療法への応用を示唆している。   この研究は、National Institutes of Health内のNational Eye Institute (NEI) の研究グループが実施し、論文は、「Bone Marrow-Derived Mesenchymal Stem Cells-Derived Exosomes Promote Survival of Retinal Ganglion Cells Through miRNA-Dependent Mechanisms (骨髄間葉系幹細胞由来のエキソソームが、miRNA依存メカニズムにより網膜神経節細胞の生存率を高める)」と題されている。エキソソームは膜に包まれた小さな袋で、細胞内で形成され、細胞外に放出される。長年、エキソソームは細胞からの廃棄メカニズムの一部と考えられていたが、比較的最近になってエキソソームにはタンパク質、脂質、遺伝子調節RNAなどが含まれていることが明らかになった。いくつかの研究で、細胞から放出されたエキソソームが他の細胞の細胞膜と融合して取り込まれ、その細胞を刺激して新しいタンパク質を生成させることが突き止められた。さらには、エキソソームが細胞同士の相互作用を仲介したり、信号を伝達したりするなどの役割を持っていることも明らかになり、エキソソームの治療効果を探る研究が進められた。現在の研究では、NEIのポスドク研究員、Ben Mead, Ph.D.が、網膜細胞の一種で、眼

成人の脳腫瘍で最も一般的で致命的なタイプの膠芽腫(グリオブラストーマ)に対する効果的な治療法の開発は遅々として進まないが、アリゾナ州のTranslational Genomics Research Institute (TGen) の研究者の率いる研究グループが「効果的な阻害物質」を発見した。2017年1月17日付の学術誌「Oncotarget」オンライン版に掲載されたTGen率いる研究チームの論文によると、ある種の化学的なカスケード反応で膠芽腫細胞が正常な脳組織に侵入し、化学療法に対しても放射線療法に対しても耐性を持つようになるが、研究室の実験で、アウリントリカルボン酸 (ATA) がこのカスケード反応を阻止することが示された。   この論文は、「Identification of Aurintricarboxylic Acid As a Selective Inhibitor of the TWEAK-Fn14 Signaling Pathway in Glioblastoma Cells (膠芽腫細胞中のTWEAK-Fn14シグナル経路の選択的阻害物質アウリントリカルボン酸の判定)」と題されている。この論文の筆頭著者で、TGen, Cancer and Cell Biology Divisionの准教授を務めるDr. Harshil Dhruvは、「この研究成果は、多形性膠芽腫 (GBM) の効果的な長期治療法を探す私たちの努力に対して明るい見通しを与えてくれた」と述べている。 膠芽腫の初期治療としては、腫瘍の外科的切除、放射線療法やtemozolomide (TMZ) を用いた化学療法が行われている。しかし、膠芽腫は周辺脳組織に浸潤するという厄介な傾向があり、腫瘍細胞を全て外科的に取り除くことは難しい。加えて、浸潤性膠芽腫はTMZへの耐性も示し、最終的に、それ

長年、科学者はコレステロールについて頭をひねっていた。コレステロールは生体に必須の物質であり、同時にはっきりと有害な物質だが、細胞でコレステロールがもっとも集中している細胞膜でのその働きを誰も知らない。イリノイ州シカゴ市のUniversity of Illinois at Chicago (UIC) の研究チームは、先駆的な光学画像技術を用い、世界で初めて細胞膜内でのコレステロールの位置と動きを正確に追跡した。その結果、コレステロールは様々な生体的役割の他に、細胞膜内で情報を伝達する信号分子の役割という意外な発見があった。 この研究論文は、2016年12月26日付Nature Chemical Biologyオンライン版に掲載され、「Orthogonal Lipid Sensors Identify Transbilayer Asymmetry of Plasma Membrane Cholesterol (直交脂質センサーで形質膜コレステロールの二重層間非対称性突き止める)」と題されている。この研究を指導したUICの化学教授、Wonhwa Cho, Ph.D.は、「コレステロールという脂質は循環器系疾患との関連で悪者扱いされている。かなり研究はされてきたが、細胞内での機能については余り知られていない。その役割は何か? 悪玉脂質なのか? 絶対にそんなことはない。たとえば、脳は約半分が脂質であり、脳の中でもっとも量の多い脂質はコレステロールだ」と述べている。コレステロール欠乏症で何種類かの疾患が起きるし、体内で12種ほどのステロイド・ホルモンをつくるのもコレステロールが出発物質になっている。Dr. Choの以前の研究で、コレステロールが様々な調節分子、特に細胞タンパク質と相互作用していることは突き止められていたが、コレステロール自体が調節分子とは考えられていなかった。Dr.

生細胞の中のタンパク質がどのように液体やゲル状固体と言った異なる状態に組み立てられるかを理解するために、光で物質を操作するツールが用いられ始めた。細胞は驚異的な複雑さで数千もの化学反応を同時にこなしており、いくつかの反応はオルガネラと呼ばれる特殊なコンパートメント内で行われている。   しかし、あるオルガネラは、細胞内に浮遊する物質を取り除く膜を欠いている。 これら膜のないオルガネラは何らかの形で、タンパク質・核酸等の分子が浮かぶ細胞の海の真っただなかで自己完結型構造として存続している。プリンストン大学の科学者は、膜のないオルガネラが機能する化学作用の理解へ、これまでにない道筋を提供する新しいツール「オプトドロップレット」を開発した。 「このオプトドロップレットは、膜のないオルガネラの自己組織化を支配する物理学的・化学的規則を理解することを可能にする。このプロセスの根底にある基本的なメカニズムはほとんど理解されておらず、我々の取り組みによって、ALSのようなタンパク質凝集を伴う病気の治療法を開発できる希望があるかもしれない。」 と2016年12月29日にCellにオンラインで掲載された論文の上級著者であるプリンストン大学の化学生物学の助教授、Clifford Brangwynne博士は述べている。Cellの論文は、「Spatiotemporal Control of Intracellular Phase Transitions Using Light-Activated optoDroplets.(光作動オプトドロップレットを用いた細胞内相転移の時空間制御)」と題されている。以前の研究では、相転移プロセスによって膜のないオルガネラが細胞内で組み立てられることを示した。Brangwynne博士らによるこの数年間の研究では、特定のタンパク質の濃度を変更したり、構造を変更し

最近、アルツハイマー病を治療する可能性がある新しい分子について、2つの重要な研究成果が発表された。 両研究の主任研究員は、モスクワ物理技術研究所(MIPT:Moscow Institute of Physics and Technology)の医化学生命情報学研究所の所長Yan Ivanenkov博士である。 2つの新しい分子の論文は、Molecular Pharmaceutics and Current Alzheimer Researchに掲載された。 別のMIPT研究者Mark Veselovも第2の研究に参加した。   両論文は、5-HT6R受容体に対する神経保護物質 -アンタゴニストの研究をカバーしている。 最新の研究では、この標的がアルツハイマー病において高い治療可能性を有することが確認されている。 動物実験による前臨床試験は、研究した2つの化合物が高い選択性を有することを示した。アルツハイマー病は、高齢者において最も広範な疾患の1つである。 60歳以上の人はこの疾患を発症するリスクが最も高いが、若年でも起こる可能性がある。 患者は記憶および認知機能の喪失に苦しんでいる。 彼らは社会から切り離されて孤立し、体は適切に機能しなくなり、必然的に死に至る。 医療統計によると、アルツハイマー病は、高齢者の認知症の3症例のうち2症例を占める原因であり、先進国では大きな経済的問題となっているが、科学者はまだアルツハイマー病の有効な治療法を見つけるに至っておらず、疾患の発症に関して多くのことが分かっているとは言え解決には程遠い。 この疾患の症状を軽減するために、医薬品研究が行われている。論文では、Alla Chem LLC、Avineuro Pharmaceuticals Inc.、およびR-Pharm Overseas Inc.(すべての米国企業)の専門家Alexand

ハーバード大学の研究チームは、脳の3つの領域の間の接続性をモデルとする多域brain-on-a-chipを新しく開発した。その過程で、脳の異なる領域のニューロンの違いを詳しく調べ、領域間の接続性を再現する目的でin vitroモデルが用いられた。 このハーバード大学の研究論文は、2016年12月28日付The Journal of Neurophysiology誌オンライン版に掲載され、「Neurons Derived from Different Brain Regions Are Inherently Different in Vitro: A Novel Multiregional Brain-On-A-Chip (In Vitroで、脳の領域ごとにニューロンが本質的に異なることを解明:新しい発想の多域Brain-On-A-Chip)」と題されている。共同第一著者を務めた、Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences (SEAS), Disease Biophysics Groupのポスドク研究員のBen Maoz, Ph.D.は、「脳は個別ニューロンの集まり以上のものだ。様々なタイプの細胞があり、異なる領域間が接続されている」と述べている。脳をモデル化する場合、領域間の接続を攻撃する様々な疾患があるため、研究ではその接続性を再現できなければならない。ハーバード大学 Wyss Institute for Biologically Inspired EngineeringのCore Faculty Member であり、SEAS, Bioengineering and Applied Physics BuildingのTarr Family Professorを務めるKit Par

La Jolla Institute for Allergy and Immunologyの研究チームは、T細胞活性をコントロールする遺伝子発現パターンをさらに良く理解するため、急性、慢性のウイルス感染に対してT細胞が反応する際のゲノムワイドにおけるクロマチンアクセシビリティの変化をマップ化した。2016年12月20日付Immunityオンライン版に掲載されたこの研究結果は、Tリンパ球の処分を決める分子メカニズムに光を当て、さらにT細胞活性を調節し、免疫機能改善のための臨床介入方法に新しい道を開くもので、研究論文は、「Genome-Wide Changes in Chromatin Accessibility in CD8 T Cells During Viral Infection (ウイルス感染時のCD8 T細胞のゲノムワイドのクロマチンアクセシビリティの変化)」と題されている。 Division of Signaling and Gene Expressionの教授を務めるAnjana Rao, Ph.D.の研究室のポスドク研究員、Dr. James Scott-Browneがこの論文の第一著者を務めており、論文中、「T細胞の状態とそれに伴うT細胞の機能を決定する複数の因子を判定することは、そのT細胞がウイルス感染や腫瘍増殖と戦えるかどうか、また、長期的に防御機能を持つかどうかを知る手がかりになる。T細胞表現型を疲弊から回復し、腫瘍や、HIVのような慢性ウイルス感染とよく戦えるようにしたり、ワクチンに応答してより優れた記憶細胞を生成できるようにしたりすることも可能になるかも知れない」と述べている。 ウイルスが侵入してきたり、細胞が悪性になったりすると、免疫系は、未感作の未熟なCD8 T細胞の小群を動員する。この細胞群はウイルス感染した細胞やがん化した細胞を死滅させ

テキサス大学 南西部医療センターの研究者は、脳腫瘍の一般的なタイプであるグリオーマ(神経膠腫)の新しいバイオマーカーを発見した。このバイオマーカーは、医師がどれほど活動的な癌であるかを決定することや、治療方針を決める上で助けになるという。 Harold C. Simmons Comprehensive Cancer Centerの研究者は、SHOX2と呼ばれる遺伝子の高発現が中等度のグリオーマにおける生存率の低下を予測できることを発見した。   「独立したバイオマーカーとして、SHOX2の発現は、IDH変異として知られている現在最も広く使用されているマーカーほど強力です。」とNancy B. and Jake L. Hamon Center for Therapeutic Oncologyの病理学教授であり、Simmons Cancer CenterのメンバーでもあるAdi Gazdar博士(写真)は述べている。 アメリカ国立がん研究所(NCI)によると、脳や神経系の癌は毎年約24,000人の人々に影響を与えている。 2013年には、米国で脳やその他の神経系がんに罹患している人は152,751人と推定されており、5年生存率は33.8%である。 個々の患者の生存状況の可能性を知ることは、医師が最良の治療法を選択するのに役立つ。 IDH変異またはいくつかの他のバイオマーカーと組み合わせることで、SHOX2発現は、他のバイオマーカーが不良な予後を予測したにもかかわらず、良好な予後を有する患者のサブグループを同定することができた。「私たちの発見は、これまでに発表された研究の分析に基づいています。 それらは将来の研究で確認されなければならず、その臨床的貢献と使用方法は未だこれからです。」とテキサス大学 南西部医療センターのW. Ray Wallace in Molecular

慢性的な自己免疫疾患である狼瘡(ループス)は、炎症、痛み、皮膚、関節、および臓器の損傷を介して、冒された人の身体を破壊する可能性がある病気である。 ミシガン大学の研究者らは、腎臓のバイオマーカーが狼瘡の進行と合併症の徴候を示すかどうかを調べた。 「狼瘡患者は、腎臓の関与のリスクが高いため、透析または移植を必要とする末期腎疾患になる可能性があります。」とミシガン大学の環境健康科学と産科医学およびInstitute for Healthcare Policy and Innovationのメンバーである、内科(リウマチ学)准教授のEmily Somers, Ph.D., Sc.M.は述べている。「さらに、バイオマーカーが早期に腎臓の関与を検出し、進行を監視することには、大きなニーズがあります。」 Somers博士は狼瘡の結果を研究し、ミシガン南東部の650人以上の狼瘡患者および対照のコホートおよびバイオリポジトリレジストリを含むMILES(the Michigan Lupus Epidemiology and Surveillance: ミシガン狼瘡疫学および監視)プログラムを指揮している。「狼瘡は、主に女性に影響を与える疾患であり、多くの場合、すばらしい人生に襲いかかります。」「MILESプログラムを通じて、私たちはこれまでに、狼瘡に冒されている黒人女性について、狼瘡のリスクが20代で最も高いことを示しました。狼瘡の黒人女性の40%が腎臓の関与を有し、15%が腎疾患でした。」とDr. Somersは語っている。 11月に米国腎臓学会の腎臓週間2016会議で発表された新しい研究では、ミシガン大学の同僚であるWenjun Ju、Ph.D.、Associate Research Scientist、Matthias Kretzler、MD、Nephrology教授とチームを組ん

スコットランドでクローン羊のドリーが生まれて20年経つが、哺乳動物のクローンをつくることは未だに困難であり、アメリカとフランスの研究チームが行ったクローン成長の遺伝子発現に関する新研究で、なぜクローン胚が失敗しやすいかが示されている。ドリーは、「体細胞核移植」と呼ばれるテクニックを使ってクローン化された。このテクニックは、成体細胞の細胞核を、細胞核を取り除いた未受精卵に移植し、電気ショックを与えて細胞成長を引き起こすというもの。   その後、胚を受容母体に移植し、クローン胎児は出産まで母体内で成長する。牛のクローニングは農業にとって重要な技術であり、哺乳動物の成長の研究にも用いることができるが、成功率は非常に低く、クローン胚の出産までの生存率は一般に10%以下とされる。その失敗の大部分はクローン胚移植時の失敗や胎盤の不具合などで胚が死滅するためだった。2016年12月8日付PNASオンライン版に掲載された研究論文で、UC Davis Department of Evolution and Ecologyの教授、Harris Lewin, Ph.D.と、フランス、アメリカの研究者チームは、クローンの妊娠失敗率の高さの原因となる分子機序をさらに深く理解するため、RNAシーケンシングを用いて移植中のクローン牛の遺伝子発現を調べた。この研究は、クローニングと生殖生物学の分野で優れたフランスの研究チームと機能ゲノミクスの分野で優れたアメリカの研究チームの12年間におよぶ協同作業と協力の成果である。このPNAS掲載の論文は、「Massive Dysregulation of Genes Involved in Cell Signaling and Placental Development in Cloned Cattle Conceptus and Maternal Endome

CRISPR/Cas9ゲノム編集で、生物医学研究の変革が急速に進んでいるが、この新技術はまだ正確さに欠ける。この技術では、誤ってゲノムの変更をやり過ぎたり、望まない変更をしてしまったりして目的外の変異を起こすことがあるため、治療技術として安全性と有効性に欠ける面がある。2016年12月8日付Cell誌オンライン版に掲載された新研究論文によると、University of Massachusetts (UMass) Medical SchoolとUniversity of Torontoの研究チームが、初めてCRISPR/Cas9の「オフスイッチ」を発見しており、それによってゲノム編集の制御がはるかにやりやすくなる。   Cell誌に掲載されたこの論文は、「Naturally Occurring Off-Switches for CRISPR-Cas9 (CRISPR-Cas9に天然のオフスイッチ)」の表題で発表されている。UMass Medical School, RNA Therapeutics Instituteの教授、Erik J. Sontheimer, Ph.D. (写真)、Professor of Molecular GeneticsのAlan Davidson, Ph.D.、University of TorontoのAssistant Professor of Biochemistry、Karen Maxwell, Ph.D.は、Cas9酵素作用を阻害する3種の天然タンパク質を突き止めた。CRISPR抗体として知られるこの3種のタンパク質は、Cas9ヌクレアーゼによるDNA切断を阻止する能力がある。Dr. Sontheimerは、「CRISPR/Cas9そのものは特定の染色体の切断を引き起こすものであり、ゲノム編集に使える有用なものではあるが、染色体の切

MITの研究チームは、特に浸潤性の強い乳がん患者の場合に、もっとも一般的な抗がん剤の一つ、paclitaxel (商品名はTaxol) の治療効果の有無を判定する新しいバイオマーカーを突き止めた。このタイプの乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、Her2タンパクという3種のもっとも一般的な乳がんマーカーを欠いているため、「トリプル・ネガティブ」と呼ばれており、医師が乳がんの治療で抗がん剤を選ぶ際にこの研究成果が大いに役立つことになる。 このバイオマーカーは、Menaと呼ばれるタンパク質でがん細胞が体内に広がるのを助けることが突き止められている。しかも、paclitaxelにMenaの効果を阻害する薬剤を合わせて投与すればpaclitaxel単独よりも効果があることも突き止めた。MIT Professor of Biologyを務め、Koch Institute for Integrative Cancer ResearchのメンバーでもあるDr. Frank Gertlerは、「経路を標的とする薬剤がMenaを発現する細胞のpaclitaxel感受性を回復するためだ。さらに、研究の結果、治療中はMenaのレベルをモニターしておいた方がいいということも分かった。もしレベルが上がっていくようなら、他の治療法に切り替えた方がいいようだ」と述べている。Dr. Gertlerは、この研究の首席著者であり、論文は2016年11月3日付Molecular Cancer Therapeuticsオンライン版に、「Mena Confers Resistance to Paclitaxel in Triple-Negative Breast Cancer (トリプル・ネガティブ乳がんがMenaによってPaclitaxel耐性獲得)」の表題で掲載されている。この論文の筆頭著者はK

マサチューセッツ州ウスター工科大学(Worcester Polytechnic Institute、WPI)の機械技術者によって開発されたチップは、がん患者から採取された少量の血中の転移性がん細胞を捕捉し同定することができる。この画期的な技術は、多くの既存のデバイスで採用されているマイクロフルイディクスによるアプローチよりもがん細胞の捕捉に効果的な簡便な機械的方法を採用している。 WPIの開発したデバイスは、カーボンナノチューブアレイのウェルの底に抗体を固定している。 がん細胞は、表面マーカーに基づき選択的に抗体に結合する(他のデバイスとは異なり、がん細胞によって産生されるエキソソームを捕捉することもできる)。Journal Nanotechnology最新号に掲載されたこの「液体生検(liquid biopsy)」は、転移の早期徴候を迅速に検出し、医師が特定のがん細胞を標的とする治療法を選択するのを助ける、簡便なラボテストとなりえる。転移は、がんがある臓器から体の他の部分に、大抵は血流に入ることによって広がる過程である。 異なるタイプの腫瘍は、特定の臓器および組織に対する嗜好を示す(循環乳がん細胞は、例えば、骨、肺、および脳に根付く可能性が高い)。 転移性がん(ステージIVがんとも呼ばれる)の予後は一般的に不良であるため、遠隔部位で腫瘍が新しいコロニーを形成する前に、これらの循環腫瘍細胞(CTCs:circulating tumor cells)を検出できる技術が、患者の生存率を大幅に上昇させる可能性がある。WPIの機械工学准教授であるスモールシステム研究室長Balaji Panchapakesan博士は、「循環腫瘍細胞を捕らえることは非常に困難な課題です。干し草の中で針を探すのとは比べ物になりません。数十億の赤血球、数万の白血球の中に浮遊している腫瘍細胞はほんの少しし

現在使われている抗生物質のほとんどが細菌の産生する天然物質を基礎としており、現在、細菌が抗生物耐性を獲得する速さを考えると、より新しい抗生物質の開発を進めなければならない。しかし、細菌に新しい抗生物質を産生させるのは少々厄介である。ほとんどの細菌は研究室では培養できない。   また、たとえ培養できたとしても、細菌が抗生物質としての特性を備えた物質をつくり出す遺伝子が起動することはない。しかし、ロックフェラー大学の研究チームは、この問題を回避する方法を発見した。微生物のゲノムを調べ、計算的手法を用いてどの遺伝子が抗生物質特性を持った物質をつくり出すかを判定し、その化合物を自分たちで合成したのである。その結果、細菌を培養することなく、効果が予想される新しい抗生物質を2種発見することができた。ロックフェラー大学Laboratory of Genetically Encoded Small MoleculesのDr. Sean Brady率いる研究チームは、まず人体に棲む細菌(ヒトマイクロバイオーム)のゲノムの公開データベースを徹底的に調べることから始めた。次に、フミマイシンを発見した実績を有する専用コンピュータ・ソフトウエアで何百というゲノムをスキャンし、多くの抗生物質の基礎を形成している非リボソーム・ペプチドと呼ばれる物質を産生すると考えられる遺伝子クラスターを探した。さらに、同じソフトウエアを用い、その遺伝子クラスターが産生すると考えられる分子の化学構造式を予想した。 研究チームはこのソフトウエアにより、さらに有望な遺伝子クラスターを57種見つけ、それを30種にまで絞り込んだ。そこでペプチド固相合成法という方法を用いて25種類の化合物をつくった。その25種をヒト病原菌で試験し、構造の似た2種の抗生物質を見つけることができた。その2種はフミマイシンA、フミマイシンBと名付

テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターの研究チームは、成体ほ乳類の脊髄の成熟神経細胞再生の増大に成功した。いつかこの成果を脊髄損傷患者治療の改善に応用できるようになるかも知れない。 この研究論文の首席著者で、テキサス大学サウスウェスタンのAssociate Professor of Molecular Biologyを務めるDr. Chun-Li Zhangは、「この研究で脊髄損傷再生治療の基礎ができた。再生過程に関わっている経路の分子レベルと細胞レベルの重要なチェックポイントを突き止めた。脊髄損傷には、これを操作して神経細胞再生を増大させることも考えられる」と述べているが、Cell Reportsに掲載されたこのマウスでの研究は初期の実験段階であり、まだ臨床に応用できる段階ではないと慎重に語っている。この論文の筆頭著者、Dr. Zhang研究室ポスドク研究員のDr. Lei-Lei Wangが行ったいくつものin vivoスクリーニングが今回の発見につながったのだが、論文で、「脊髄損傷は致命傷になることもあり、また重度の障害をもたらすこともある。また、生存者も身体のマヒに悩み、生活の質が下がり、経済的にも精神的にも大きな負担に悩むことが多い」と述べている。2016年10月11日付Cell Reportsのオープンアクセスに掲載されたこの論文は、「The p53 Pathway Controls SOX2-Mediated Reprogramming in the Adult Mouse Spinal Cord (p53経路で、SOX2仲介による成体マウスの脊髄のリプログラミングを制御)」と題されている。 脊髄負傷は回復不可能な神経ネットワークの損傷につながり、究極的には瘢痕と合わさって運動機能、感覚機能の障害になることがある。Biomedical Resear

がん患者個人に最適な治療薬の選択は往々にして正確性に欠ける。ある患者に有効な薬剤も他の患者には効かないということもあり、腫瘍初期には有効だった薬剤も後には耐性が生まれることもある。MITとDana-Farber Cancer Instituteの研究チームは、さらに個別化した治療法を編成するため、がんの薬剤感受性の新検査法開発した。   これは計器を使って単一細胞の質量を測定し、一つの薬剤が細胞の成長率に与える影響を見ることでその薬剤の効果を予測するというもの。研究チームは、膠芽腫と呼ばれる非常に侵襲性の強い脳腫瘍と急性リンパ性白血病と呼ばれる血液がんの一種を対象にしてこの手法をテストし、成功した。この研究成果は、2016年10月10日付Nature Biotechnologyオンライン版に掲載された。この論文は、「Drug Sensitivity of Single Cancer Cells Is Predicted by Changes in Mass Accumulation Rate (単一がん細胞の薬剤感受性を細胞の質量蓄積率変化で推定する)」と題されている。 MIT Departments of Biological Engineering and Mechanical EngineeringのAndrew (1956) and Erna Viterbi Professorを務め、MITのKoch Institute for Integrative Cancer Researchのメンバーでもあり、またこの論文の主席著者の一人でもあるScott Manalis, Ph.D.は、「私達の研究では、シーケンシングなど下流解析の可能性の残したまま、薬剤に対する個別細胞の反応を測定できる機能アッセイを開発した」と述べている。Dana-Farber Cancer In

再発頭頸部がんは非常に治療が難しいとされるがんだが、免疫療法薬剤で患者の生存率を飛躍的に向上させたことから、がん治療の流れを変える医薬として注目されている。ニボルマブ(Nivolumab、商品名:オプジーボ)は、化学療法に反応しなかった頭頸部がん患者を対象に行った第3相臨床試験で初めて生存率を引き延ばすことができた。しかも、従来の治療法に比べて副作用も少なかった。 2016年10月9日付New England Journal of Medicineオンライン版に掲載された研究論文で報告されている大規模な国際的治験で、ニボルマブ投与を受けた患者の1年後の生存率が化学療法治療の患者に比べ、2倍以上の高率になった。NEJMのオープン・アクセスで発表されたこの論文は、「Nivolumab for Recurrent Squamous-Cell Carcinoma of the Head and Neck (再発頭頸部がん上皮扁平細胞悪性腫瘍にニボルマブを投与)」と題されている。現在のところ、再発・転移したシスプラチン耐性頭頸部がん患者の生存率を向上させる治療法は他にない。この疾患の患者の期待余命は6か月未満とされている。この試験は、イギリスではロンドンのThe Institute of Cancer ResearchとThe Royal Marsden NHS Foundation Trust所属のProfessor Kevin Harringtonが指導し、世界各国の20の研究機関が参加して行われた。また、研究にはBristol Myers Squibbが出資した。研究に参加した361人の患者のうち、再発または転移性の頭頸部がんの240人はニボルマブの投与を受け、121人は3種のうちの1種の化学療法を受けた。 研究に参加したイギリスの患者は化学療法薬剤のdocetaxelの投

実質臓器移植を受けた患者は生涯免疫抑制療法を続けなければならない。薬剤療法が不十分なために移植拒絶反応が起きるリスクは、過剰な免疫抑制が原因で感染やがんを引き起こすリスクとのバランスが問題になる。移植レシピエントの予後、特に能動的傷害や拒絶反応の早期発見を監視する非侵襲性診断ツールには膨大なニーズがあるがまだ十分に満たされていない。 2016年10月7日付The Journal of Molecular Diagnosticsオンライン版に掲載された研究論文は、血漿中のドナー由来セルフリーDNA (dd-cfDNA) を測定する臨床グレード非侵襲性検査の検証を報告している。これが成功すれば合併症や拒絶反応を減らし、移植レシピエントの予後を改善することもできるようになる。この論文はJournal of Molecular Diagnosticsのオープンアクセス論文として掲載されており、「Validation of a Clinical-Grade Assay to Measure Donor-Derived Cell-Free DNA in Solid Organ Transplant Recipients (実質臓器移植レシピエントのドナー由来セルフリーDNA測定臨床グレード・アッセイの検証)」と題されている。 この研究の研究責任者でCareDx, Inc. (Brisbane, California), R&D Associate DirectorのMarica Grskovic, Ph.D.は、「dd-cfDNAは移植臓器損傷のバイオマーカーとして認識され始めており、移植患者の予後改善に向けて、このバイオマーカーを発展させるためにも、臨床グレードの分析的検証済みアッセイの存在は重要である」と述べている。血漿cfDNAは産前検査、がん、臓器移植の検査でのバイ

ケンブリッジ大学(英国)の医療研究評議会(MRC : Medical Research Council)がんユニットの研究者らは、患者予後不良に関連する代謝に関連する遺伝的特徴を同定した。 8161個の組織サンプルを分析した結果、臨床医は将来、患者を治療する最良の方法を決定し、新たな標的治療の開発を支援することができる可能性がある。 がん細胞が増殖し広がるには複雑な代謝変換を受ける。 これにより、がん細胞が増殖するエネルギー需要を満たすことが可能になる。 代謝経路の変化を支える遺伝子の理解を深めていくことで、体内に癌が広がる事象をさらに深く知ることができる。 この目的のために、MRCがんユニットのプログラムリーダーであるクリスチャン・フレッツァ博士とエドアード・ガデ(Edoardo Gaude)博士課程学生は、Cancer Genome Atlas(TCGA)で保有されている8,161の腫瘍および非癌性のサンプルから20種類の固形癌タイプにわたる代謝遺伝子の発現を分析した。 研究者らは、酸化的リン酸化(OXPHOS)経路(細胞にエネルギーを供給するミトコンドリアにおける代謝経路)に関連する遺伝子が、臨床転帰が不良な患者由来の腫瘍細胞において有意にダウンレギュレートされることを見出した。 さらに、OXPHOS遺伝子の抑制は、がんが身体の他の部分に広がり、さらに予後不良につながる転移に関連していることが分かった。「癌は、組織特異的な代謝再編を受け、共通の代謝環境に収束することが分かっています。 注目すべきことに、ミトコンドリア遺伝子のダウンレギュレーションは、すべての癌タイプにわたる最悪の臨床結果と関連し、浸潤性および転移性癌の特徴である上皮 - 間葉移行遺伝子シグネチャーの発現と相関しています」と著者らは書いている。 OXPHOS遺伝子と癌生存との間の関連は、この段階での

膵がん治療薬の試験としてはかなり大きな規模で行われた第3相試験で、gemcitabineと経口抗がん剤のcapecitabineを併用することで毒性を増すことなく生存率を引き上げることができることが示された。現在、gemcitabineは、膵がん摘出手術後の標準的な補助化学療法として世界的に用いられている。   この研究は、2016年6月3日の記者会見で発表されており、また、2016年6月3日から7日までアメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市で開催された2016 American Society of Clinical Oncology (ASCO) Annual Meetingにおいても発表された。論文の筆頭著者で、イギリスのリヴァプール大学, Department of Molecular and Clinical Cancer MedicineのChair of Surgeryを務めるJohn P. Neoptolemos, M.A., M.B., B.Chir., M.D., F.Med.Sci.は、「残念ながら、ほとんどの膵がん患者は、がんと診断された時には手術は不可能だ。しかし、手術が可能な患者は、2種の一般的な抗がん剤を併用することで生存率が高められたという研究成果は大きい」と述べている。 European Study Group for Pancreatic Cancer (ESPAC) 4試験は、732人の患者を対象にして行われており、膵がん手術を受けた患者で行われた臨床試験としては歴史的に2番目の規模である。手術後12週間以内の早期膵管腺がん患者はランダムに選別され、24週間にわたって、gemcitabineのみまたは、gemcitabineとcapecitabineとの双方を与えられた。メディアン生存率は、併用化学療法で28か月、gemcitabine

従来、ハイリスク神経芽細胞腫小児患者の診断後5年以上の生存率は50%未満である。National Cancer Institute (NCI) の研究資金を受けてChildren’s Oncology Groupsコンソーシアムが実施した第3相試験で、標準的な治療に加え、第二の自己幹細胞移植 (ASCT、患者自身の幹細胞を移植) を行うことで治療効果の向上が見られた。3年後、二重移植を受けた患者の無疾患生存率が61.4%だったのに比して単一移植の患者の無疾患生存率は48.4%だった。また、副作用は単一移植も二重移植もほぼ同じだった。 6月3日より7日までアメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市で開かれた2016 American Society of Clinical Oncology (ASCO) Annual Meetingで発表された5,000件を超えるアブストラクトのうちでも、患者医療に大きな影響を与えると考えられた4件が6月5日 (日曜) の本会議で発表された。研究論文筆頭著者で、ワシントン州シアトル市、Seattle Children’s Hospitalの医局員とUniversity of Washington School of MedicineのPediatrics教授を兼任するJulie R. Park, M.D.は、「この研究結果により、北米ではハイリスク神経芽細胞腫小児患者の治療法を変えることになるだろう。この疾患は依然として大勢の幼い命を奪っており、治療法の向上は喫緊の問題である。しかしながら、ハイリスク神経芽細胞腫に対して用いているレジメンは、小児がん患者に用いる医薬としては侵襲性と毒性がもっとも強いレジメンである。そのような理由から、これからの研究は、現行治療法の晩期障害を探ることと、さらに新しい毒性の低い治療法を開発することを重点にしなければならな

65歳以上の健康な双生児を対象に行われた国際的にも重要な研究で、遺伝子が脳の灰白質構造の発達に及ぼす影響を知る重要な手がかりが明らかにされ、人間の脳の遺伝的青写真解明に道を開いた。オーストラリアのUniversity of New South Wales (UNSW) Medicineの研究者を中心とする研究チームは、Older Australian Twins Study (オーストラリアの高齢双生児研究) の対象となった322人のMRIスキャンを分析した。   この研究の目的は、脳の皮質および皮質下の構造の遺伝的関連性 (または遺伝率) をマッピングすることにあった。この部分の構造は、記憶、視覚処理、運動制御など様々な機能を司っている部分である。この新研究論文は、2016年9月6日付でScientific Reportsオンライン版に、「Distinct Genetic Influences on Cortical and Subcortical Brain Structures (脳の皮質および皮質下構造に明らかな遺伝子の影響)」の表題でオープンアクセス論文として掲載されている。研究主任を務めたUNSW, Centre for Healthy Brain Ageing (CHeBA) のAssociate Professor Wei Wenは、「遺伝子が脳の発達に関わっていることは知られている。しかし、どの遺伝子が関わっているのか、異なる脳の構造に対する関わり方などはまだ分かっていない。脳の発達に関わる遺伝子を突き止めるためには、まず、特定の遺伝子が脳の複数の構造に関わっているのか、それとも一つの構造だけに関わっているのかを知らなければならない。今回の研究は、双生児を使い、脳の全構造の間の遺伝的相関性を調べた初めての試みだ」と述べている。 研究チームは、93組の

カリフォルニア州のスクリプス研究所(The Scripps Research Institute)の研究者が中心になって進めた動物モデルでの新しい研究の結果、強迫性飲酒の衝動を止める方法が見つかるかもしれない。この研究を指導したスクリプス研究所のAssistant Professor、Olivier George, Ph.D.は、「神経回路網を標的にする研究でアルコール依存症を完全に消滅させることができた」と述べている。   2016年9月7日付The Journal of Neuroscienceに掲載されたこの新研究は、頻繁な飲酒で特定ニューロン・グループが活性化されるという過去の研究結果に基づいており、論文は、「Recruitment of a Neuronal Ensemble in the Central Nucleus of the Amygdala Is Required for Alcohol Dependence (アルコール依存症に必要とされる扁桃体中心核の神経アンサンブルの漸増)」と題されている。アルコールは飲めば飲むほど神経回路の活性化を強化し、それがさらにアルコール飲用をうながし、依存症へと進む。いわば、脳がアルコールと報酬の間の特別な経路を深く刻んでいくようなのである。この新しい研究で、研究チームは、このような回路を形成する特定ニューロンにだけ影響する方法があるかどうかを調べた。人間でもラットでも、このようなニューロンは、脳の扁桃体中心核のニューロンの5%程度を占めているに過ぎないこの研究の第一著者を務めたスクリプス研究所のResearch Associate、Giordano de Guglielmo, Ph.D.は、アルコール依存症のラット・モデルでの研究を指導したが、このラットはアルコールで活性化されたニューロンだけを識別する特殊なタン

人間の消化器官には兆を数える細菌が棲み着いており、その多くが食物の消化を助けると共に有害な細菌と戦う役目を果たしている。最近の研究でそのような消化器官の細菌が糖尿病、心臓病、がんなどの人間の疾患に対して良いようにも悪いようにも影響していることが突き止められている。これらの細菌について解明を進めてきた研究者は、マイクロバイオームと呼ばれるこのような細菌群を利用して人間の健康改善に役立てることができるのではないかと考え始めている。  そのような将来を予想し、MITの研究チームは大量の善玉細菌を人間の腸に送り込む方法を開発してきた。2016年9月12日付Advanced Materialsオンライン版に掲載された論文はそのような方法について述べており、論文首席著者の一人で、MITのKoch Institute for Integrative Cancer Researchの博士研究員、Ana Jaklenec, Ph.D.は、「マイクロバイオームの理解が進めば、この輸送手段を用い、特定領域を標的にして、特定の細菌種を送り込むことができるようになる」と述べている。この論文は、「Layer-by-Layer Encapsulation of Probiotics for Delivery to the Microbiome (プロバイオティクスの交互積層カプセル化でマイクロバイオームに輸送)」と題されている。 Dr. Jaklenecの研究チームは、細菌をポリマー層でコーティングし、消化器官の胃酸や胆汁酸塩から細菌を保護する方法を開発した。細菌が腸に達すると、その細菌群は腸内壁に付着し、増殖を始める。論文第一著者でKoch Instituteのポスドク研究員、Aaron Anselmo, Ph.D.は、「細菌は腸内壁に届き、そこに付着するが、ポリマー・コーティングしない場合よりは

新研究で、老化とトランスポゾンの動きの関係として唱えられている「老化のトランスポゾン原因説」がさらに強く裏付けられた。トランスポゾンは転移因子とも呼ばれ、老化した細胞中で一部の塩基配列がDNAからはぐれたもので、ゲノムの他の部位に自分自身を転写し、組織の遺伝子構成を撹乱し、生物の寿命を縮める可能性もある。 過去の研究から、細胞が老化すると堅く巻きついていたヘテロクロマチンがゆるみ、その中に閉じ込められていたトランスポゾンが染色体の所定の位置から抜け出して新しい位置に移動し、正常な細胞機能を混乱させることが明らかになっている。一方、これまでの研究で、研究動物のカロリー摂取量を制限したり、特定遺伝子を組み換えることで大幅に寿命を伸ばせることが示されており、そのことと関連している可能性がある。2016年8月24日付PNASオンライン版に掲載された新研究論文の主席著者で、ブラウン大学のprofessor of biologyを務めるDr. Stephen Helfandは、「この研究で、真の因果関係の可能性の解明に向けて大きく踏み出した」と述べている。この論文はオープン・アクセス論文として掲載され、「An Accelerated Assay for the Identification of Lifespan-Extending Interventions in Drosophila melanogaster (キイロショウジョウバエの寿命を引き延ばす介入の判定のための加速アッセイ)」と題されている。Dr. Stephen Helfandは、「これまで、連想や示唆は何度も言われており、いずれも十分に根拠のあるものだったが、科学の世界では仮説を裏付けるデータが揃っていなければならない」と述べている。Faculty investigatorのDr. Jason Woodをリーダーとす

大規模なゲノム解析で、血液サンプル (液体生検 : liquid biopsy) で検出される遺伝子変化のパターンが、従来の腫瘍組織生検で判定される遺伝子変化のパターンとかなり厳密に一致することが突き止められた。15,000人を超える患者と50種のがん種の血液サンプルを調べたこの研究は、過去有数の規模のがんゲノミクス研究である。   この研究は2016年6月4日の記者会見で発表され、また、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市で6月3日より7日まで開かれた2016年American Society of Clinical Oncology (ASCO) 年次会議でもプレゼンテーションがあった。University of California Davis Comprehensive Cancer CenterのMolecular Pharmacology教授とDirectorを兼任するPhilip Mack, Ph.D.がプレゼンテーションを行い、「これらの発見から、液体生検と呼ばれる患者の血液に含まれる腫瘍DNA(ctDNA)の解析は、組織生検が遺伝子タイピングには不十分であったり、安全に採取することができない場合に、侵襲性も低く、非常に情報量の多い代替検査になりえる。しかも、Guardant360と呼ばれるこの検査法は、がんが時間の経過とともに進行していく変化をモニターする重要な手段にもなる。このことは、継続的にがんを抑える治療を続ける際に患者と医師が話し合う上で大切であろう」と述べている。 現在のところ、医師は、がんの治療に際して、抗がん剤で対処できる特定の遺伝子変異があるかどうかを判断するためにはもっぱら腫瘍組織生検に頼っている。腫瘍組織生検は外科的処置を伴うが、患者はそれに耐えられるほど健康とは限らず、また、頻繁に繰り返すことにも無理がある。腫瘍細胞は微細な遺伝物質

植物の中には、生き延びる仕組みとして、草食生物を遠ざける毒性物質や抑制物質をつくって身を守るものも多い。また、昆虫の中には進化の過程で宿主植物の防御化合物に適応し、植物の防御機能をかいくぐることに成功したものもたくさんいる。ところが、植物も負けずにその防御系をさらに適応させ、敵に対する防御機能を強化し、昆虫の適応進化に対抗するようになってきた。生物学者はこれを植物と昆虫の間の「進化の軍備競争」と呼んでいる。多種の昆虫が植物害虫であり、「単食性・狭食性」と「広食性」とに分けることができる。広食性昆虫は何種類もの植物を食べることができるが、単食性・狭食性昆虫は単一または少数のごく近い種の植物しか食べることができない。この新研究で分析された蛾の一種、Heliothis subflexaは、そのようなただ一種の宿主植物しか食べない単食性昆虫である。研究チームは、単食性のHeliothis subflexaと広食性のHeliothis virescensという2種の蛾の相対的体重増加、生存率、免疫状態に対するウィタノリドの効果を測定比較した。以前の研究から、単食性の蛾は、非常に近い種ながら広食性の蛾と比べると免疫反応が弱いことが突き止められている。この研究を指導したMax Planck Institute for Chemical EcologyのHanna M. Heidel-Fischer, Ph.D.は、「ウィタノリドには、Heliothis subflexaだけに幼虫の成長や免疫系活動を高めるという効果があるが、近い種のHeliothis virescensにはそのような効果が見られなかったので、私達も驚いた」と述べている。この研究論文は、2016年8月26日付Nature Communicationsオンライン版に掲載され、「Immune Modulation Enable

無作為化第3相臨床試験MA.17Rで、letrozole (商品名Femara) を使ったアロマターゼ阻害薬 (AI) 療法を5年から10年に引き延ばすことで閉経後の早期乳がんに対する治療効果が高まることを突き止めた。以前にtamoxifenを投与されたことがあり、その後5年間のAI療法を受けた乳がん患者は、さらに5年間のletrozole投与を受けることで、プラセボ投与患者に比べて再発率を34%引き下げることができた。   この試験はCanadian Cancer Trials Groupが主導し、Canadian Cancer Trials Groupの参加で行われた。この研究成果は、イリノイ州シカゴ市で開催された2016 American Society of Clinical Oncology (ASCO) 年次総会 (6月3日-7日) の6月5日 (日曜日) の本会議において、同年次総会で発表された5,000件を超えるアブストラクトのうち、治療行為でもっとも大きな影響を与えることになると評価された4件の研究の一つとして発表された。この研究論文の筆頭著者で、マサチューセッツ州ボストン市のMassachusetts General Hospital, Breast Cancer ResearchのDirectorとHarvard Medical SchoolのProfessor of Medicineを兼任するPaul Goss, M.D., F.R.C.P., Ph.D.は、「ホルモン受容体陽性の早期乳がん患者は不明な再発リスクを負っている。この研究で、アロマターゼ阻害薬療法を引き延ばすことにより、乳がん再発リスクをさらに引き下げられることを実証し、患者や医師に治療の方向性を与えることができた。また、AI療法を延長することで、反対側の健康な乳房に対してもかなり乳

ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究施設Broad Institute of MIT and Harvard、マサチューセッツ工科大学、アメリカ国立衛生研究所、ラトガース大学ニューブランズウィック校、そしてロシアのスコルコボ科学工科大学の研究者グループは、DNAの代わりにRNAを標的とする新しいCRISPRシステムの特徴を明らかにした。 この新しいアプローチにより、パワフルな細胞操作技術が実現する可能性がある。DNA編集は細胞のゲノムを永久的に変更してしまうのに対して、CRISPRベースのRNAを標的とする手法は、調節自由な一時的変更が可能であり、かつ従来のRNA干渉法に比べて特異性と機能性が高いという特長がある。Broad Institute of MITとMcGovern Institute for Brain ResearchのFeng Zhang, Ph.D.、同僚研究者で共同著者でもあるNIHのEugene Koonin, Ph.D.と、同僚研究者のラトガース大学ニューブランズウィック校とスコルコボ科学工科大学のKonstantin Severinov, Ph.D.は、RNAを標的として分解する能力のあるRNA誘導型酵素、C2c2を同定し、その機能的特徴を明らかにした。 2016年6月2日付Science誌オンライン版に掲載されたこの研究論文は、「C2c2 Is a Single-Component Programmable RNA-Guided RNA-Targeting CRISPR Effector (C2c2は単一成分型プログラマブルRNA誘導RNA標的CRISPRエフェクター)」と題されている。2015年10月、この共同研究グループは、自然界に存在するC2c2を発見、同定したが、これはRNAのみを標的とする天然のCRISPRシ

毎年、スイスでは5,700人の女性が新しく乳がんと診断され、また1,400人近い女性がこの疾患で亡くなっている。浸潤性がきわめて強い乳がんでは、細胞の表面に受容体HER2が過剰に存在しているタイプが多い。これが細胞の無制限な増殖につながっている。これまで乳がんの治療にはTrastuzumabやpertuzumabなど、HER2受容体を認識する抗体が何年も用いられてきた。   しかし、このような抗体もがん細胞そのものを殺すわけではない。がん細胞は不活性化されるだけであり、いつでも活性を取り戻すことができるのである。 受容体HER2は、同時にいくつかの信号経路を用い、細胞の増殖と分裂の指令情報を送る。しかし、これまでに見つかっている抗体は一つの信号経路をブロックするだけであり、他の信号経路はすべてアクティブなままである。この開かれた状態の経路のうちもっとも重要な経路がRASと呼ばれるcentral hubを通っている。初めて詳細が解き明かされたこのメカニズムについて、Dr. Plue(umlaut)ckthunは、「HER2受容体が発信する増殖信号を再活性化するのがこのタンパク質だ。抗体はその効力を失い、がん細胞が再び増殖を続けるようになる」と説明している。 University of Zurich, Department of Biochemistry のDirectorを務めるAndreas Plue(umlaut)ckthun, Ph.D.が指導し、ポスドク研究員のRastik Tamaskovic、博士課程のMartin Schwillも加わった研究の論文が、2016年6月3日付のNature Communicationsオンライン版オープンアクセス論文として掲載されており、なぜ、これらの抗体が単にがん進行を遅らせるだけで、がん細胞を殺さないのか、その研究結果を

デューク大学の研究チームと同僚研究者が、痛みの治療で焦点になっていた2つの標的を同時にブロックする有望な新しいクラスの低分子薬剤を発見した。この概念実証実験は、皮膚の刺激感やかゆみ、頭痛、顎痛、膵臓や結腸を原因とする腹痛などの症状を緩和する新薬の開発に結びつく可能性がある。 2016年6月1日付Scientific Reportsオンライン版に掲載されたオープンアクセスのこの研究論文は、「Small Molecule Dual-Inhibitors of TRPV4 and TRPA1 for Attenuation of Inflammation and Pain (TRPV4とTRPA1の低分子二重阻害剤で炎症と痛みを緩和)」と題されている。Institute of Medicineの報告によると、アメリカでは1億人以上の人が慢性的な痛みに悩んでおり、新しい医薬を是非とも必要としている。デューク大学医学部の神経学、麻酔学、神経生物学教授を務めるWolfgang Liedtke, M.D., Ph.D.は、頭痛、顔面痛その他の感覚障害患者の治療にあたっており、「非常に有望な話の第一章ともいうべきこの展開をうれしく思う。この化合物を人間や動物の臨床治療に使えるようにしたい」と述べている。 同研究チームのこれまでの研究で、TRPV4 (写真) という分子が日焼けに伴う皮膚の不快感、頭や顔からの痛覚を伝達することを突き止めており、今回の研究ではそのTRPV4をより効果的に阻害する物質の開発を目指していた。Dr. Liedtkeと、彼のデューク大学での共同研究者、Farshid Guilakが行った2009年の研究では、TRPV4阻害剤のプロトタイプを用い、その後、さらに効果の高い化合物の開発に進んだ。プロトタイプと比べると、「16-8」と呼ばれる新しい候補薬物は、骨関節症の

イスラエルのBen-Gurion University of the Negev (BGU) 所属の研究者らが2年をかけて行った無作為化比較試験の結果によれば、2型糖尿病患者が、毎晩グラス1杯の赤ワインを摂取することでコレステロールと心臓の健康管理を増進できる可能性が示され、またワインは赤白とも、個々人のアルコール代謝率を示す遺伝子プロフィール次第で糖コントロールを改善できるかもしれない。 糖尿病患者のアルコールの影響を調べた初めての試みとなるこの長期的な研究の成果は、2015年10月13日付Annals of Internal Medicineオンライン版に掲載された。この研究では適量のアルコール摂取が糖尿病患者に与える効果と安全性を評価し、ワインのタイプで異なる結果が出るかどうかも判定することが目的だった。この研究論文は、「Effects of Initiating Moderate Alcohol Intake on Cardiometabolic Risk in Adults With Type 2 Diabetes: A 2-Year Randomized, Controlled Trial (2型糖尿病成人患者の心血管代謝リスクに対する適量のアルコール摂取の効果: 2年にわたる無作為化比較試験)」と題されている。糖尿病患者は、健康な人口と比べると、循環器系疾患にかかりやすく、また、「善玉」コレステロール量も低い。膨大な数の観察研究が行われてきたが、適量のアルコール摂取を臨床的に勧めていいかどうかはまだ議論の分かれるところであり、特に糖尿病患者の場合には反対も大きい。それというのも、根拠に基づく医療にとって至上の理想とされる長期的な無作為化比較試験が欠けているからである。 研究チームは、「赤ワインは、脂質プロフィールをわずかに改善し、また善玉 (HDL) コレ

UCLAの5人の研究者チームが、研究プロジェクトに対してNIHの助成金を受けた。この研究プロジェクトは、脳の神経回路の情報処理、エンコード、保存、読み出しの仕組みに対する理解を深めることになると考えられる。向こう3か年で230万ドルの資金が与えられるこの研究は、動物生体の神経回路網を傷つけることなく、その活動を記録する手法を開発することを目的としている。   この資金は、2013年にバラク・オバマ大統領が発表した、NIHのBRAIN Initiative を通して授与されるものである。UCLAのキャンパスには500人を超える神経学者が在籍しており、同大学はこの分野の研究で大きな役割を果たせる立場にある。この助成金授与については、UCLAの2015年11月4日付プレス・リリースに掲載されている。この研究で、UCLAのAssociate Professor of Neurology and Psychiatryを務めるPeyman Golshani, M.D.に率いられた研究者グループは、マウスの多数の脳細胞の活動を撮影し、操作するため、新世代の超小型蛍光顕微鏡の開発を計画している。このマウスは、自然環境の中で自由に動くまま、その脳細胞の活動を調べられる。頭に埋め込んだ超小型顕微鏡は重さが3グラム未満になる予定で、脳細胞の活動をリアル・タイムでモニターする。 このような技術は過去には不可能だった。この顕微鏡は、特定波長の光をニューロンに照射すると、個々のニューロンがカルシウム依存型のフルオロフォアを発現し、これが光を発するので、個々のニューロンを視覚化するという仕組みになっている。この手法は、ニューロンが発火した時にカルシウム濃度が高まることから、カルシウム濃度の高まった細胞を照らし出すというもの。Dr. Golshaniは、「カルシウム濃度を画像化して、ほんとうに分かる

胎児のRh血液型、D抗原 (RHD)、性別、遺伝性障害を判定することのできる簡単で正確で低リスクの血液検査開発研究が2015年11月号Clinical Chemistryに掲載された。この論文は、「Fetal Sex and RHD Genotyping with Digital PCR Demonstrates Greater Sensitivity than Real-time PCR (デジタルPCRの胎児性別、RHD遺伝子判定でリアルタイムのPCRを超える感度を証明)」と題されている。この研究は、イギリスのPlymouth Hospitals NHS TrustとPlymouth Universityの共同で行われた。 NHS(National Health Service)が認めている従来の羊水穿刺は、針を用いる上にわずかながらも流産のリスク(1%)があるのに対して、このDNA検査は、コストが非常に低く、非侵襲的な検査である。新開発のこの検査は、血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどX連鎖劣性遺伝性疾患のリスクのある母体や新生児溶血性疾患のリスクのある母体を対象に実施することができる。また、女性が妊娠初期に初めて一般開業医や助産婦の診察を受けた時の採血を使えるため、何度も予約を取る必要もなく、時間や設備を有効に使うことができる。 この研究の筆頭責任著者で、Plymouth University School of Biomedical and Healthcare SciencesのProfessor of Molecular Diagnostics and Transfusion Medicineを務めるProfessor Neil Avent, Ph.D.は、「母体の血液を使って、胎児の血液型や性別を判定する検査は過去10年行われてきたことが、この検査

University of Southern CaliforniaとSangamo BioSciencesの研究チームの協同作業のおかげで、造血幹細胞前駆細胞 (HSPCs) のジンク・フィンガー・ヌクレアーゼ・ベースの遺伝子編集技術がさらに前進した。研究論文で、共同第一著者のUSC所属Colin M. Exline, Ph.D.とSangamo BioSciences所属Jianbin Wang, Ph.D.は、造血幹細胞・前駆細胞の遺伝子を効率的に編集する新しい手法を発表している。 2015年11月9日付Nature Biotechnologyオンライン版に掲載されたこの研究論文は、「Homology-Driven Genome Editing in Hematopoietic Stem and Progenitor Cells Using ZFN mRNA and AAV6 Donors (ZFN mRNA and AAV6ドナーを用いた造血幹細胞・前駆細胞 (HSPCs)のホモロジー・タイプのゲノム編集)」と題されている。論文の共同責任著者でUSCにおいてMolecular Microbiology and Immunology、 Pediatrics, Biochemistry and Molecular BiologyおよびStem Cell Biology and Regenerative Medicineの教授を務めるPaula Cannon, Ph.D.は、「HSPCsを用いた遺伝子療法は、HIVその他の血液系、免疫系疾患の治療に大きな可能性を持っている。また、ゲノム編集テクニックによって、疾患を引き起こす、遺伝子の誤植、つまり、遺伝子の突然変異を修復するなどきわめて精密な改変が可能になっている」と述べている。 そのようなターゲット化した遺伝子医療は患

イギリスのバブラハム研究所とマンチェスター大学の研究者の共同研究で、ゲノムの物理的接続をマップ化し、ゲノム中の自己免疫疾患に関わる部分の解明が前進。研究チームは、Capture Hi-Cと名付けられた、見かけ上かけ離れた位置の遺伝子の発現を調節するノンコーディング配列を判定する新しいテクニックを用いて、遺伝子配列の変化の生体的影響や疾患リスク増加などの理解に新しい手がかりを与えている。 この新研究は、2015年11月30日付Nature Communicationsオンライン版オープン・アクセス論文として掲載され「Capture Hi-C Reveals Novel Candidate Genes and Complex Long-Range Interactions with Related Autoimmune Risk Loci (Capture Hi-Cが明かす新発見の候補遺伝子と関連自己免疫リスク遺伝子座との間の複雑な長距離相互作用)」と題されている。 Human Genome ProjectはヒトDNAコードの大部分を明らかにし、さらに大規模な人口を対象とした調査では、がん、循環器系疾患、免疫系疾患など様々な疾患と関連しているDNA配列の変化が突き止められている。このような変化の多くが、ゲノム中のタンパク質コード遺伝子を含んでいる部位の外にあるため、この遺伝子変化の生体への影響の理解も、その領域に関連している遺伝子を判定する作業はめくらめっぽうというに等しかった。しかし、このような関連を理解するというのは、遺伝子的な病因を明らかにするカギとなるものである。バブラハム研究所の研究チームが開発した新テクニックは、ゲノムの画像の「一コマを凍結」し、その立体的な構造をそのまま捉え、一見離れて見える領域が、DNAの折り畳み構造のために実際にはすぐ隣り合わせになることを

MRgFUS (MRガイド下集束超音波)による熱アブレーションは、線維腫やがんの非侵襲的治療法である。University of California, Davis (UC-Davis) の新しい研究は、このテクニックをナノ粒子を用いた化学療法と併用することでマウスのがんを根絶できることを示した。MRgFUSは、超音波ビームで組織を熱して破壊する手法を磁気共鳴映像法 (MRI) と組み合わせ、MRIによってビームを誘導し、同時に治療の効果をモニターすることができる。 さらに、この治療法では、がん周辺部の正常組織や重要な構造に損害を与えないよう、また微小がん組織転移部分だけを破壊するよう、その効果を絞り込むことができる。The Journal of Clinical Investigationオンライン版に掲載されたオープン・アクセス論文で、UC-DavisのDistinguished Professor of Biomedical Engineeringを務めるKatherine W. Ferrara, Ph.D. (写真) と同僚研究者は、がん周辺部の組織を熱破壊せず、がんだけを完全に破壊する治療法について報告している。 同研究チームは、MRgFUS熱アブレーション治療を行った数種のがん組織で抗がん剤濃度が急激に上昇することを突き止めた。2015年11月23日付のこの研究論文は、「Ultrasound Ablation Enhances Drug Accumulation and Survival in Mammary Carcinoma Models (超音波アブレーションによる乳がんマウス・モデルの薬剤集中と生存率を強化)」と題されており、第一著者を務めたUC Davis Physician Scientist Training Program大学院生のAndre

University of Texas Southwestern Medical Center (UT Southwestern) の研究者を中心とする研究コンソーシアムは、精神病の診断と治療に役立てられる包括的なバイオマーカーの組み合わせを経験的に証明した。従来、精神病診断の基本は臨床観察で、患者を統合失調症、分裂情動、双極性障害などに分類することだった。 しかし、Bipolar-Schizophrenia Network on Intermediate Phenotypes (B-SNIP、中間表現型の双極性障害・統合失調症ネットワーク) と名付けられたこの新しい研究で、神経生物学的に独特な3種のバイオタイプを突き止めた。この3種は従来の臨床所見と必ずしも一致しない。アメリカ国民の推定6%が統合失調症、分裂情動、双極性障害を患っている。言い替えれば1,900万人のアメリカ国民がこれらの障害に悩んでいるということになる。この研究コンソーシアムを率いたUT SouthwesternのChair of Psychiatry and Professor of Psychiatryを務めるCarol Tamminga, M.D.は、「ある意味で、この研究はこれまでの精神病診断の基礎を完全に解体し、再考したといえる。 診断を現象本位でなく、生物学的に構築し直すことにより、これらの脳障害の生物学的な基礎を、障害の定義と新しい治療法のための分子標的として際立たせることが可能になった」と述べている。他にもHarvard University、Yale University、the University of Chicago、University of Georgiaが参加したこのB-SNIPコンソーシアムの研究論文は、2015年12月8日付American Journal of Ps

健康的な食事と運動が、がんの予防と管理に重要であることはかなり研究され、論文も出ているが、その正確な機序についてはまだ明らかになっていない。しかし、Yale Cancer Centerの研究チームは、テロメア (写真で赤の部分) と呼ばれる染色体の小さな保護端にその謎を解く可能性を突き止めた。   この研究結果は、2015年12月8日から12日まで開かれていた2015 San Antonio Breast Cancer Symposiumで公式プレゼンテーションされた。研究チームは、以前に発表されていたLEANと名付けられたYaleでの減量介入研究の成果を踏まえ、減量試験に参加した乳がん生存者の生活習慣改良による体脂肪と体重減少がテロメアの長さとどう関わっているかを調べた。テロメアは、細胞分裂に伴って短くなり、短くなったテロメアは老化や乳がん死亡率上昇に関わっていることが知られている。乳がん生存者の減量とテロメアの長さとの関係を調べた少数の研究と同じように、Yaleの研究も食事と運動で減量した乳がん生存者ではテロメア短縮過程が遅くなることを突き止めている。 研究論文の第一著者で、Assistant Professor of Medical OncologyのTara Sanft, M.D.は、「何人かの場合にはテロメア短縮過程が逆転していた」と述べている。 Dr. Sanftは、「この研究結果から、体脂肪率の高さがテロメアの短縮と関連しており、減量がテロメアの長さの増加と関連していることが示される。また、そのことから、テロメアの長さは、肥満と乳がんリスクや死亡率との間を仲介するメカニズムかも知れない」と述べている。また、この研究論文の筆頭著者、Melinda Liggett Irwin, Ph.D., MPH (写真) は、「健康的な体重と運動の維持などの健康的な生活

ある種の感染症は免疫系から逃れる機能を持っているため、治療が特に難しい。その一つに、ツェツェバエに媒介される原虫、ブルース・トリパノソーマを病原体とするアフリカ睡眠病があり、治療せずに放置すると死に至る。このトリパノソーマ原虫は、ツェツェバエから哺乳動物に入り込み、やがて脳などの主要器官に侵入、睡眠サイクルを妨げるなどの症状を引き起こす。 このトリパノソーマはその生活段階で様々な形態を取ることが知られており、ハエの体内にいる時はプロサイクリンというタンパク質に覆われている。ところが、いったん哺乳動物の血流に入ると、この原虫は表面を糖タンパク質の層で覆い、この糖タンパク質層を常に変化させることで特定糖タンパク質を抗原と認識する免疫系の攻撃を逃れる。New York CityのRockefeller UniversityにあるNina Papavasiliou, Ph.D.と、ノーベル賞受賞者、Günter Blobel's (M.D., Ph.D.) の研究室のポスドク研究員、Dr. Danae SchulzとDr. Erik Deblerの新しい研究で、哺乳動物の血流中のトリパノソーマを操り、ツェツェバエ体内での形態に固定することで、侵入してきた異物として人体の免疫系が攻撃しやすくする方法を発見した。 この研究で、クロマチンと作用する特定のタンパク質、つまり、細胞の遺伝情報を包んでいるDNAとタンパク質の大部分を阻害することで、トリパノソーマをだまし、その生活環の人間の血流ではなくツェツェバエ体内にあると錯覚させ、それに合わせた形態に分化させることができた。この研究論文は、2015年12月8日付オープン・アクセス・ジャーナルのPLOS Biologyに掲載され、「Bromodomain Proteins Contribute to Maintenance of Bloo

イギリスのサザンプトンとオランダの生殖医療研究者は、体外受精 (IVF) 治療が成功するかどうかを予想できる子宮内膜の特定遺伝子パターンを突き止めた。この研究の共同筆頭著者で、サウサンプトン大学のChair in Obstetrics and Gynecologyを務めるNick Macklon教授は、なぜ一部の女性がIVFで繰り返し失敗するのかということを不妊治療医が理解する助けになるのではないかと述べている。 また、体外受精治療を受ける前に女性が妊娠できる確率を判定したり、繰り返し失敗した場合にさらに治療を続けるべきかどうかを判断する手がかりとなるテストの開発にもつながると述べている。サザンプトン市のPrincess Anne Hospital内にある、NIHR Southampton Biomedical Research Centreの一機関、Complete Fertility Centre SouthamptonのMedical Directorを務めるProfessir Macklonは、「これまで、IVFで何度良質な胚の移植を受けても妊娠に成功しない女性が多くの場合、子宮内膜が失敗の原因かも知れないということがはっきりしなかった。今回の研究で、IVFで何度も失敗している女性では内膜の細胞に異常な遺伝子発現が見られ、特定遺伝子パターンが見られる場合、必ずIVF失敗になっていることが突き止められた。IVFの失敗を理解する上で重要な発見だ」と述べている。 2016年1月22日付Scientific Reportsオープン・アクセス論文としてオンライン版で発表されたこの研究では、2006年から2007年にかけてオランダのUniversity Medical Center Utrechtにおいて、また2011年から2013年にかけてUniversity Medic

University of California (UC), San Diego (UCSD) の生物学者と生物医学者の研究チームは、細菌が抗生物質に感受性を持つかどうかを2,3時間で判定する新しい検査法を開発した。これは大きな前進というべきで、薬剤耐性化を遅らせ、さらに、医師にとっては、一刻を争う致命的な細菌感染症の細菌に合わせた治療を迅速に判断することができる。   EBioMedicine誌オンライン版に掲載された研究論文で、この研究チームは、黄色ブドウ球菌の迅速な感受性検査法を開発したと報告している。院内感染症のざっと60%がこの細菌によるものであり、また一般社会にも広がっており、健康人にも免疫低下患者にも肺炎や様々な皮膚・組織感染の原因になっている。生物医学研究者は、「現場の医師は、薬剤耐性株 (一般にMRSAと呼ばれるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌) と、薬剤感受性株を急いで判別しなければならず、特に前者は感染の進行が速く、MRSA株が、院内感染型病原体の治療に使われる新しい抗生物質に対しても耐性を獲得している場合にはなおさら一刻を争う事態になるため、この検査法は重要な開発だ」と評価している。 Centers for Disease Control and Preventionによると、抗生物質耐性のために年間200万人が病気にかかり、23,000人が死亡している。また、抗生物質耐性の被害は、アメリカ経済にとっては直接の医療費だけで年間約200億ドルの負担になり、さらに患者の入院日数も総計で年間800万日にのぼる。事実、世界中の生物医学研究者が新薬を商品化するより速く、細菌が抗生物質に対する耐性を獲得するようになっており、どんな治療にも耐性を持つ細菌による感染症例が現れてきている。迅速な抗菌剤感受性テストが可能になれば、薬剤感受性の高い細菌の感染は、ペニシリ

California Inatitute of Technologyの研究チームは、「アルギニン・バソプレシン」と呼ばれるホルモンは、これまで動物の一夫一妻的生殖行動や同種個体に対する攻撃性などと関係があるとされていたが、ヒトの場合には危険な状況で協力関係を強化する作用があると述べている。2016年2月8日付のPNASオンライン版に掲載されたこの研究成果は、集団が有益な目的に向けて協力するように用いることができる可能性を示している。 この論文は「Vasopressin Increases Human Risky Cooperative Behavior (バソプレシンがヒトのリスキーな協力行動を強化)」と題されている。齧歯類での研究で、アルギニン・バソプレシン (AVP) というホルモンは、オスメスのつがいの一夫一妻的結びつきや親としての行動を強化するが、オスでは攻撃性を強めることが突き止められている。この論文の共同著者でCal TechのRobert Kirby Professor of Behavioral Economicsを務めるColin Camerer, Ph.D.は、「一夫一妻制のマイナス面として、AVPで興奮したオスは、侵入者に対してより攻撃的になる傾向が見られる」と述べている。しかし、この新しい研究では、Dr. Camererと研究チームは、「AVPは人間の社会的絆にも役割を果たしており、互いに協力するという人間の性質もそれで説明できるのではないか」という仮説を試した。 Dr. Camererは、「サルではなく、ヒトが地上を支配できた理由の一つは、互いに非常に信頼しなければ不可能なことをやれるからだ。ヒトは大きな集団でも協力し合える。としても、そのような性質はどこから来たのか? それはオスメス一対の絆が広がっただけではないのか? もしそうだとしたらAV

免疫療法をがんや感染症治療のために広く臨床的に用いる試みは近年になって大きく進んでいる。たとえば、T細胞移入療法の臨床試験はかなり有望な成果を挙げている。ワシントンDCで開かれたAmerican Association for the Advancement of Science (AAAS、米国科学振興協会) の2016年年次総会では、Technical University of Munich (TUM) のDirk Busch教授、San Raffaele Scientific InstituteのChiara Bonini教授、Fred Hutchinson Cancer Research CenterとUniversity of Washingtonに所属するStanley Riddell教授という斯界の国際的権威3人が、最近のこの分野の進展状況を報告した。 T細胞免疫は、健康に対する疾患の危険を判断し、これに対応するよう進化してきており、同じ疾患の再発を防ぐために生涯にわたって免疫を記憶している。ところが、慢性疾患では、反応性の高いT細胞がしばしば不活動になったり、消失することさえある。最近の研究の進歩により、保護機能的なT細胞の免疫応答を復活させることで慢性感染症だけでなく、がんさえ治療できるという考えがかなりリアリティを持ち始めている。 2016年AAAS年次総会の部会"Fighting Cancer and Chronic Infections with T Cell Therapy: Promise and Progress (T細胞療法によるがんや慢性感染症との戦い、将来性と進展状況)"では、疾患に関連した分子を標的とするキラー免疫細胞を患者に移植するT細胞移入療法が中心テーマになった。しかし、広く臨床現場で利用するにはまだいくつハードルがあり、個

糖尿病患者の場合、膵臓でインスリンを産生するβ細胞と呼ばれる細胞が喪失するか、機能不全に陥っている。長年、研究者は、このβ細胞を補充する方法を探し求めてきた。2016年2月18日付Cell Stem Cell誌オンライン版に掲載された研究論文で、ある研究チームが、胃下部の組織がβ細胞としてリプログラムできる可能性がもっとも高いことを突き止めたと報告している。 このオープンアクセス論文は、「Reprogrammed Stomach Tissue As a Renewable Source of Functional Beta-Cells for Blood Glucose Regulation (血糖調節のためのβ細胞再生源としてリプログラムした胃組織)」と題されている。同研究チームは、マウスからこの組織のサンプルを採取して、「ミニ器官」として培養した上でマウスに戻すとインスリンの分泌を始めた。それだけでなく、「ミニ器官」幹細胞は、インスリン産生細胞を補充し続け、組織の再生能力を維持することができた。リプログラミングでインスリン分泌能力を持たせるのに適した体内組織を見つけるため、研究チームは、マウスの遺伝子組み換えを行い、他のタイプの細胞をβ細胞に変えることのできる3種の遺伝子を発現するようにした。 研究論文の主席著者を務めたHarvard University, Department of Stem Cell and Regenerative BiologyのQiao Zhou, Ph.D.は、「マウスの鼻先から尻尾まですべての組織をチェックした。その結果、驚いたことに胃幽門部の一部の細胞がもっともβ細胞に変えやすいことを突き止めた。この部分の組織がβ細胞を創るための出発点としてもっとも適しているようだった」と述べている。幽門部は胃と小腸をつなぐ部分である。この部分の細

The Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、B細胞免疫寛容の主要調節因子と見られるmiR-148aというmicroRNAは、活動が高揚すると全身性エリテマトーデス (SLE、狼瘡とも) など自己免疫疾患の原因になる可能性があることを突き止めた。miR-148aという小さなノンコーディング分子の活動高揚で、自己応答型の免疫B細胞が血流中に入り込み、自身の身体の組織を攻撃するようになることを発見したのである。 この研究論文は、2016年2月22日付Nature Immunologyオンライン版に掲載され、「The microRNA miR-148a Functions As a Critical Regulator of B Cell Tolerance And Autoimmunity (B細胞寛容と自己免疫性の重要な調節因子として機能するmiR-148a)」と題されている。論文第一著者のAlicia Gonzalez-Martinは、その発見に興奮しており、「B細胞寛容の調節に関連して初めて名前が浮かんできたmiRNAだ」と述べている。また、TSRIのDavid Nemazee教授とともに研究を進めた共同筆頭著者、TSRIのChangchun Xiao准教授は、「これは将来の治療法の標的として有望だ。これがただの副作用ではなく、明確な因果関係を持っていることを突き止めた」と述べている。 B細胞と呼ばれる免疫細胞は骨髄内で成長し、それぞれがランダムな組み換え過程で特定の受容体を獲得し、それによって個別B細胞が、それぞれ異なるウイルスや細菌などの侵入者と戦えるようになる。Dr. Xiaoは、この組み換え過程を、兵士一人ずつに小銃や銃剣など異なる武器を与える作業にたとえている。しかし、B細胞の中にはウイルスや細菌だけでなく、自分

Stanfordのバイオエンジニアと医師の新研究で、受精1時間後という初期段階で卵の硬さを測定するだけで、現行の方法より正確に胚の生存率を予測できることを突き止めた。この手法で、体外受精 ( IVF ) での単一胚移植の成功率を大幅に向上させ、ひいては母子の予後を改善することができる。 現行のIVF胚選別は比較的定性的な作業である。まず卵を受精させ、5日または6日後、胚が60個から100個の細胞の胚盤胞段階に達すれば、胚のモルホロジーと細胞分裂速度を評価する。その後、もっとも卵割の速い、もっとも形のいい胚を選び出し、移植に用いる。胚盤胞からいくつかの細胞を採取し、遺伝子検査にかけることでさらに成功率を高めることができるが、このような侵襲的な仕方は、サンプルが最終的には胎盤になる細胞であっても、胚にストレスを与えることになる。どちらの場合にも確実な結果は見込めず、失敗率が約70%になることから、医師は母体の子宮に複数の胚を移植し、どれか一つが着床すればと期待することになる。しかし、これが厄介な問題を引き起こすことがある。 2016年2月24日付Nature Communications誌オンライン版に掲載されたこのオープン・アクセス論文は、「Human Oocyte Developmental Potential Is Predicted by Mechanical Properties Within Hours After Fertilization (ヒトの卵母細胞受精後1時間以内の機械的特性でその発達能力を予測する)」と題されている。StanfordのDr. David Camarillo研究室のバイオエンジニアリング・ドクポス研究生で、筆頭著者を務めたLivia Yanezは、「どの胚の生存が見込めるか分からないため、一度にいくつも移植することから、双生児の率が高

アルツハイマー患者を治療する薬剤の開発研究は、過去何十年かにわたり、世界中で熱心に行われてきた。診断に関しては大幅な進歩があり、この疾患をますます早く、また正確に見つけることができるようになったが、選ぶ薬剤となるとまだ限られている。 脳にタンパク質が蓄積するのがアルツハイマーの特徴であり、慢性的に進行する脳細胞壊死に関わっているとされている。現在では、この疾患も、認知症徴候が現れるより前の最初期段階で発見できるようになってきた。このタンパク質の塊は、βセクレターゼとγセクレターゼという2つの酵素がアミロイド前駆体タンパク質 (APP) を三つの部分に切断してできる、βアミロイド・ペプチド (Aβ) という有害なタンパク質の破片が主要部分を占めている。もしβセクレターゼ、またはγセクレターゼが遮断されると、それ以上の有害Aβペプチドの生成も阻害される。そのため、生物医学的な研究は、医療的突破口としてこの2種の酵素を重点に進められてきた。しかし、これまでのところ、γセクレターゼを遮断する化学物質を用いた臨床研究の結果はそれほど芳しくない。問題は、この酵素が細胞の他の重要なプロセスにも関わっているということである。この酵素を阻害すると、消化管出血や皮膚がんなど激しい副作用を引き起こす結果になるのである。そこで、研究者は長年βセクレターゼにも注目して研究を進めてきた。 University of Zurich, Institute of Regenerative Medicine, Systems and Cell Biology of NeurodegenerationのLawrence Rajendran教授の率いるチームは、スイス、ドイツ、インドの研究者らとの共同研究でβセクレターゼの他の重要な機能には影響せず、病原性機能だけを遮断する標的物質を開発した。この研究論文は、

米国のある59歳の心臓病患者は、危険なほどコレステロール値が高く、しかもスタチン系薬剤ではほとんどコレステロール値を下げることができなかったが、UT Southwestern Medical Centerの研究グループの研究作業から生まれた新しい作用機序の薬剤のおかげで今では正常に近いコレステロール値に下がっている。 昨年夏、PCSK9阻害薬と呼ばれるクラスの2種の薬剤が、コレステロール値の極端に高い患者向けの医薬として米食品医薬局 (FDA) の認可を受けた。UT SouthwesternでPreventive Cardiology ProgramのDirectorとInternal Medicineの准教授を務めるDr. Amit Khera (写真右) は、「リスクのもっとも高い典型的な症状の患者の治療を考えれば、この薬剤クラスがどれほど重要か理解できる」と述べている。ダラスでFrank’s Wrecker Serviceを経営し、6人の孫を持つFrank Brown氏 (写真左) は家族性高コレステロール血症を患っている。これはコレステロール、特に「悪玉コレステロール」の低比重リポタンパク質 (LDL) の高コレステロール値を引き起こす遺伝性疾患である。高LDLコレステロール値は、心疾患と強い関連がある。ブラウン氏は心臓発作を二度経験しており、コレステロール値を下げるために複数の薬剤投与を用いたかなり強力な治療を受けてきたが、値は頑固なほど下がる様子がなかった。 ブラウン氏の心臓内科医を務めるDr. Kheraは、「初めてブラウン氏を診断した時、かなりはっきりとした心臓病の家族歴があることを知った。また、彼のコレステロール値はLDLが384というとんでもないレベルで胸痛を訴えていた」と述べている。UT SouthwesternでHypertension and

空腹感と満腹感の分子レベルの機序は代謝障害や肥満の問題を理解する上できわめて重要な手がかりになるが、研究者もまだ十分に解明できていない。しかし、Rockefeller Universityの新研究で、摂食を調節するシステムの重要な部分が明らかにされた。   アミリンと呼ばれるホルモンが脳で食物摂取量を調節する働きの一部を担っていたのである。Rockefeller UniversityのLaboratory of Molecular Geneticsを率い、Marilyn M. Simpson Professorを務めるJeffrey Friedman, Ph.D.は、「個人の食物摂取量は複雑な回路で調節されており、それを理解するためには関わっているすべての物質を突き止めなければならない。私達が、食餌行動に関わっている脳の視床下部という領域のニューロン・プロファイリングをしている時にアミリンに目がとまった。視床下部が体の糖代謝に関わっていることから、その視床下部が脳でどのような機能を果たしているのかを知りたくなった」と述べている。Dr. Friedmanは、1994年に、この食餌行動調節因子のホルモンであるレプチンを発見したことで知られている。 レプチン産生不良は肥満が招くと考えられている。しかし、レプチンだけで肥満を治療しようとしても、極度のレプチン欠乏の場合を除けば、改善効果はなく、このシステムには他にも関わっている物質があることを示している。2015年12月1日付Cell Metabolismに掲載された新しい研究論文で、レプチンとアミリンとが相乗的に作用し、食物摂取量と体重を調節している可能性が示されている。この論文は、「Hypothalamic Amylin Acts in Concert with Leptin to Regulate Food Intake

心臓が不調を来すと、身体がその状態を治そうとあらゆる手立てを講ずる。ところが時として、そのような補償メカニズムがむしろ益よりも害をもたらす結果になることがある。副腎ホルモンのアルドステロンでもそういうことが起きる。 アルドステロンが心臓をさらに活発に動かそうと刺激する結果、心筋に与えるダメージがなおさら大きくなってしまうのである。最近、Temple University, Lewis Katz School of Medicine (LKSOM) の研究で、このプロセスを抑制する手段に一歩近づいた。この研究チームは、Gタンパク質共役受容体キナーゼ (GRKs) と呼ばれるシグナル分子がアルドステロンによる心臓障害に介在しているという思いがけないメカニズムを発見した。そのことにより、治療の前進に道を開いたといえる。 LKSOMでCardiovascular MedicineのWilliam Wikoff Smith Endowed Chair、Department of Pharmacologyの教授とChair、Center for Translational MedicineのDirectorを兼任し、この新研究の主任研究員を務めるWalter J. Koch (写真), Ph.D.は、「研究でGRK2とGRK5という2種のキナーゼが、アルドステロンに結合するミネラルコルチコイド受容体の下流の心筋細胞にある種の変化を引き起こし、それが心不全の原因になることを突き止めた」と述べている。2016年3月2日付Nature Communications誌オンライン版掲載の研究論文は、この独特な相互作用を初めて明らかにした。オープンアクセスとして公開されているこの論文は、「Myocardial Pathology Induced by Aldosterone Is Depend

UCLAの研究チームは、液状サンプルに浮遊している細胞をその微妙な生化学的違いによって選別整理するセルソーティング方法を新しく開発した。この新しいセルソーティング技術は、現行のセルソーティング技術よりも迅速正確に細胞を選別し、単純かつ迅速な細胞分析自動化を可能にすると同時に、治療に用いる細胞と治療に用いない「汚染」細胞とを簡単に分離できるようにもなる。 セルソーティング技術は、ライフサイエンス研究、診断、産業的な工程など幅広い分野で用いられている。たとえば、組織や培養器から前駆細胞や幹細胞を分離するのに用いられており、一旦分離した細胞は組織損傷の治癒やがん細胞攻撃のために患者の体内に戻す治療にあてられる。UCLAでは開発された磁気ラチェッティング・システムは、わずかに異なる細胞も分別し、治療に適した細胞のみをより分けることができる。 この研究の研究責任者で、UCLA Henry Samueli School of Engineering and Applied ScienceのProfessor of BioengineeringのDino Di Carlo, Ph.D.は、「私達の考えでは、単一の細胞種というのも実は異種の細胞種が入り交っており、これを量的に分離できる技術がなければ、このような微妙な違いも見逃されてしまう。たとえば、治療に有効な前駆細胞は、なんら治療効果のない汚染細胞と非常に似通っている可能性もある」と述べている。現在、2つのセルソーティングテクニックがある。その一つは蛍光を使って目標の細胞を見つけるというテクニックで、その作業過程で損傷を受けたり、死滅してしまう細胞が多いため、この分析にはかなりの数の細胞を必要とするだけでなく、分析に時間もかかる。もう一つのテクニックは、磁気タグ付け分離という方法で、迅速だが通常は「イエス」か「ノー」かという二値的な

がんのもっとも一般的な治療法として放射線療法と化学療法がある。しかし、このどちらも副作用があり、健康な組織まで傷める。そればかりか、がんが体中に広がっている場合にはその効果も限られている。   コペンハーゲン大学のニールス・ボーア研究所の研究グループは、がん細胞をあざむいて細胞毒素を吸収させることによって死滅させ、一方、正常細胞には何の影響も与えない穏やかな治療法の開発を進めている。この研究論文は2016年3月2日付Scientific Reportsに、オープン・アクセス論文として掲載され、「Restricted Mobility of Specific Functional Groups Reduces Anti-Cancer Drug Activity in Healthy Cells (特定官能基の移動性制限で正常細胞での抗がん剤の影響低減)」と題されている。発端は、コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所の物理学者であるMurillo Martins, Ph.D.が、いわばナノスケールの「輸送車」を血流に載せて細胞毒素を直接がん細胞まで運び、がん細胞にその輸送車ごと呑み込ませることでがん細胞を内側から破壊しようというアイデアを思いついたことだった。 SF映画に出てきそうな話だが現実に可能なことだろうかという疑問がわき上がる。まず、輸送車そのものを作らなければならない。彼はまず医学研究の分野ではよく知られている微小な磁石ビーズを使ってみることにした。その微小なビーズを血流中に注入し、がんの位置に磁石を埋め込むとビーズは磁石の位置に集まってくる。次のステップは、ビーズに細胞毒素を載せることだった。コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所X線・中性子科学のポスドク研究員、Dr. Martinsは、「生物学的に適した素材で微小な輪状の袋を作り、化学処理によってビーズ

サン・アントニオのCancer Therapy & Research Center (CTRC) の研究グループは研究論文を発表し、正常な乳房組織におけるBRCA1遺伝子、通称「アンジェリーナジョリー遺伝子」の機能、およびその機能の欠失によって乳がん発症に至る機序をさらに深く解明している。米国国立がん研究所指定の総合がんセンターの一つ、CTRCは、テキサス大学サン・アントニオ校医学部の一部であり、サン・アントニオにおけるテキサス大学健康科学センター、医学部付属臨床診療機関である。 BRCA1は、各細胞の遺伝的青写真を保管するDNAの損傷を修復することでがんを抑制する機能が知られている。このDNAの損傷は、加齢や環境的な影響によって起きる。 2016年3月4日付Nature Communicationsのオンライン版に掲載された新研究で、CTRC研究グループは、BRCA1が乳房細胞の成長を調節するCOBRA1と呼ばれる遺伝子に対する制限因子または調節因子として機能することを突き止めた。この研究は、「Genetic suppression reveals DNA repair-independent antagonism between BRCA1 and COBRA1 in mammary gland development (遺伝的抑制で、DNA修復と無関係な乳腺成長時のBRCA1とCOBRA1との間の拮抗関係が明らかに)」と題されてオープンアクセス記事として掲載されている。この研究の筆頭著者で、Health Science CenterのMolecular Medicine教授を務めるRong Li, Ph.D.は、「乳房組織中のBRCA1がDNA修復とは無関係な何らかの機能を持っているというはっきりとした説得力のある証拠を見つけた。BRCA1ががんの発達を抑

2016年4月19日付Human Reproduction誌オンライン版に掲載された研究論文によると、BRCA1遺伝子変異と、卵巣卵残存量を示すホルモン・レベルの低下との関連が突き止められた。同誌は世界をリードする生殖医療学術誌の一つとして知られている。この論文はオープンアクセス論文として掲載されており、「Anti-Mullerian Hormone Serum Concentrations of Women with Germline BRCA1 or BRCA2 Mutations (生殖細胞系列BRCA1またはBRCA2変異を持つ女性の血清中の抗ミューラー管ホルモン濃度)」と題されている。 国際的な研究グループは、遺伝子変異を持った女性のBRCA1、BRCA2遺伝子変異と抗ミューラー管ホルモン (AMH) レベルを調べた初の大規模研究で、BRCA1変異を持つ女性は、BRCA1変異を持たない女性に比べるとAMHの濃度が平均25%低いことを発見した。BRCA2変異についてはそのような関係は見られなかった。 研究論文の第一著者を務めたオーストラリア連邦ビクトリア州東メルボルン所在のPeter MacCallum Cancer Centre所属コンサルタント腫瘍内科医のProfessor Kelly-Anne Phillipsは、「このことから、平均してBRCA1変異を持った30代半ばの女性の卵巣の卵残存量は、BRCA1変異を持たない女性の場合には約2歳年長に相当する」と述べている。AMHは卵巣卵残存量の信頼できるマーカーだが、Phillips教授は、「AMHは女性の妊孕性の一つの指標にすぎないことを念頭に置いておくのが大切だ。受精から満期まで胎児を育てる能力は、卵の質、卵管が塞がっていないかなど様々な要因が関わっており、いずれもAMHでは測ることができない。AMHが低い

ロッテルダムで開かれた2016年 国際細胞外小胞学会 (ISEV) の全体会議では、講演者として予定されていた世界的に著名なウイルス学者のRobert Gallo, MDが、感染症で入院先のアメリカの病院から800人を超える参加者を前にビデオ録画で講演するという一幕があった。 Dr. Galloは、ISEVの第二全体会議「最高峰から学ぶ:ウイルス対EV」において、もう一人の世界的なウイルス学者、Leonid Margolis, PhDとともに演壇に立つ予定だった。同じ全体会議には、University of Nebraska Medical Centerの教授、Shilpa Buch, PhDも講演した。Dr. Galloの科学的業績は数多く、また著名である。博士は、AIDSの病原体をHIVと突き止めた重要な研究を主導した上にHIV感染を判定する簡単な血液検査も開発した。この難病に対する戦いを前進させた功績は大きい。1980年から1990年にかけての時期、Dr. Galloの研究論文は引用回数が世界最多だったし、博士は、また、Lasker Awardを2度与えられた数少ない学者の一人でもある。それほど優れた業績を持つ科学者がISEV 2016年総会の参加者の前で講演することを望んだという事実一つをとっても、EV研究が重要性を持つようになったことが示されている。事実、Dr. Galloは、その発言の中で、EVについて、「新しい期待の持てる分野だ」、あるいは、「医学全体にインパクトを与える新しいコミュニケーションの方法だ」と語っている。さらに、博士は、彼自身のヒト・レトロウイルスに関する重要な研究について簡単に触れ、その研究が、レトロウイルスに似たところの多いEVを調べ、特徴付ける研究の指針になるかも知れないと考えたと語っている。 Gallo研究室のインターロイキン2T細胞

2016年5月4日、国際細胞外小胞学会 (ISEV) は、ロッテルダムにおいて、第5回年次総会 (ISEV 2016) を開き、全体会議ではがん研究分野の権威者2人がプレゼンテーションを行った。 ハンブルク大学 エッペンドルフ メディカル センター, 腫瘍生物学教室の教授であり、Directorを務めるKlaus Pantel, MD, PhDが、「Liquid Biopsy in Cancer (がんの液体生検)」のテーマで語り、また、ニューヨーク市のワイルコーネル大学医学部で教授を務めるDavid Lyden (写真), MD, PhDは、「The Systemic Effects of Exosome-Mediated Metastasis (エキソソームが媒介する転移の全身的な影響)」のテーマで語った。2人の講演は、800人近い参加者が会場をぎっしりと埋めた。 長年にわたり、がん転移を研究しているDr. Pantelが、循環腫瘍細胞 (CTCs)、無細胞DNA (cfDNA)、miRNA、エキソソームを使った非侵襲的な液体生検で、がん検査、がんの早期発見、がんの予後検査、がんの層別化と観察、微小残存がん病巣マーカーの発見、治療標的の確定、耐性メカニズムの解明、効果的な医療介入のガイドライン編成などに向けた効果的な手段を用意することが喫緊に求められていると発言した。がん早期発見に関しては、Dr. Pantelは、「これまでの研究で、非常に侵襲性の強いがんである卵巣がんの患者では、エキソソームの数が増えることが突き止められている」と述べている。また、最近の研究で、グリピカン1がんエキソソームが早期膵がんのバイオマーカーになることが示唆されている。さらに、現在の定説に反することだが、Dr. Pantelの研究グループは、神経膠腫患者の脳外の血行からCTCを見つけており

University College London (UCL) が中心になって行った国際的な研究で白髪化の遺伝子が初めて突き止められ、この現象が単に環境的なものではなく、遺伝的な因子も持っていることが明らかになった。2016年3月付Nature Communicationsに掲載されたこの研究は、ラテン・アメリカ全体にわたって様々な民族の祖先を持つ6,000人強の人口を分析し、髪の色、白髪化、濃さ、直毛や縮毛の形状に関わる新しい遺伝子を探した。 この研究論文は、「A Genome-Wide Association Scan in Admixed Latin Americans Identifies Loci Influencing Facial and Scalp Hair Features (民族混合ラテン・アメリカ人のゲノムワイド関連スキャンで顔の毛と頭髪の特徴を決める遺伝子座判明する)」と題されている。筆頭著者を務めたUCL Cell & Developmental BiologyのDr. Kaustubh Adhikariは、「禿頭化や髪色に関わっている遺伝子はすでにいくつか見つかっているが、人間の髪の形状や濃さに関わる遺伝子や白髪化に関わる遺伝子が発見されたのは初めてだ。これも、多様な民族のるつぼを分析したために可能になったことであり、これほどの規模での分析は過去にはなかったことだ。この研究の成果から人間の外見に対する遺伝子の影響について知見が深まれば、法医学の分野でも化粧品の分野でも様々な適用が考えられる」と述べている。また、法医学的なDNA技術の開発で個々人の遺伝子構成に基づいて視覚的なプロフィールを構築することができるようになるかも知れない。この分野の研究は、これまでヨーロッパ系住民のサンプルを用いてきた。しかし、この新しい研究成果をラテン・アメリ

ミシガン大学(U-M)がこの度、連邦政府資金による細胞研究プロジェクトにおいて、細胞作製を司る団体として登録された。これはU-Mが導出した第二世代幹細胞株を対象とする。UM11-1PGDとして知られるこの細胞株は、提供された5日齢のroughly the size of the period at the end of this sentence胚から得た30個の細胞クラスターから導出された。   この胚細胞は生殖目的で作成されたが、検査によって遺伝的不全があり、移植には不向きと判断され、2011年に提供されたものであれば、廃棄の対象とされたものである。遺伝子疾患であるシャルコー・マリー・ツース(CMT)病を引き起こす遺伝子不全を有しており、この疾患は遺伝性の神経疾患で、進行はゆっくりであるが手足や下腿の筋委縮を特徴とする。 CMTは遺伝性の神経性疾患としては最もよく見られる疾患の一つであり、米国では2,500人に1人の割合で発症し、症状の顕在化は青年期から成人早期に起こる。細胞株を作成する胚は凍結せずに、ミシガン州の人工授精(IVF)ラボから特別の容器に入れて、U-Mへ送られる。これは、他の疾患に関与する幹細胞と比較して、CMT疾患の進行の解明や治療法のスクリーニング行なうに当たり、CMT幹細胞が有する性質や特性の特殊性に拠るものだ。「我々はこの細胞株を科学研究界に供給できる事を誇りに思います。きっと、CMTの治療法に留まらず、CMTの治癒にも繋がるのではないかと考えているからです。これらの細胞が登録されたという事は、NIHガイドラインに正しく則って作成されている事を実証しているという事です。」とアルフレッド・トーブマン医学研究所に所属する幹細胞治療U-Mコンソーシアムの共同主幹で、この幹細胞株を提供したギャリー・スミス博士は語る。 疾患特異的幹細胞株が公的に登録さ

ハダカデバネズミ (Heterocephalus gaber) の長寿とがんに対する抵抗力はよく知られているが、メクラデバネズミ (Spalax属) も、地中の酸素の乏しい環境に棲息しており、長寿でがんに対する抵抗力がある。新しい研究でSpalaxのがん抵抗力が実証され、さらに低酸素環境に適応したことが長寿とがん抵抗力を獲得する上で役立ったのではないかという仮説を立てている。   この研究論文は、2013年8月9日付Biomed Central: Biologyのオンライン版オープン・アクセス記事で紹介されている。University of Illinois Biotechnology Centerのfunctional genomicsのdirectorを務め、論文の共著者でもあるDr. Mark Bandは、「私たちの研究で、普通のネズミに比べ、メクラデバネズミが発がん物質に対して高度の抵抗力を持っていることが証明された」と述べている。 Dr. Bandは、以前に低酸素 (hypoxic) 環境に棲息するメクラデバネズミの遺伝子発現解析の研究を指導しており、低酸素環境に対応する遺伝子が老化にも、あるいはがんの抑制や促進にも関係していることを突き止めた。博士は、「私たちは、低酸素耐性、長寿、抗がん性という、この3つの現象が互いに結びついているのではないかと考えている。いずれもストレス環境に適応する進化過程の結果ではないかということだ」と述べている。東アフリカで社会を形成するハダカデバネズミとは異なり、メクラデバネズミは東地中海地域で孤立生活している。イスラエルのUniversity of Haifaでは、このメクラデバネズミの研究が行われ、50年以上にわたって何千という数のメクラデバネズミを捕獲、研究してきた。同大学の研究者は、Spalaxの寿命が20年を超えるのに

University of California (UC), San Diegoの生物学者グループが未知の細胞メカニズムを発見した。このメカニズムにより、人間や動物はその発育過程で神経細胞の質を自動的にチェックし、適正に働くよう監視しているという。研究グループは、2013年9月4日付「Neuron」掲載の研究論文で、線虫Caenorhabditis elegansを使った研究により、ニューロンの「品質検査」システムを発見したと報告している。   このシステムは2つのタンパク質を使い、欠損ニューロンからの信号を抑制し、そのニューロンを修復するか破壊するかの目印を付けるというもの。UC San DiegoのDivision of Biological Sciencesで神経生物学教授、同大学のSchool of Medicineで細胞分子医学教授を務めるDr. Yishi Jinに率いられる研究チームの筆頭著者、Dr. Zhiping Wangは、「私たちの体が見たり、話したり、歩いたりするためには体内の神経細胞がそれぞれ適切な組み合わせの細胞に情報伝達しなければならない。 この情報伝達は軸索と呼ばれるニューロンから放出される長い繊維によって媒介される。この軸索が一つの細胞から次の細胞に電気信号や化学信号を送っていく。ちょうど、コンピュータ同士を結ぶローカル・ワイヤード・ネットワークのケーブルのような役割を果たしている。発育途中のニューロンでは軸索の対象の細胞への移動は特定信号の組み合わせによって導かれる。この信号は軸索誘導受容体と呼ばれる『小型受信機』タンパクによって検知され、『進め』、『止まれ』、『左に曲がれ』、『右に曲がれ』というように翻訳される。このように、軸索が誘導信号の翻訳をする上で、『小型受信機』タンパクの質が非常に重要になる」と述べている。Howard H

海洋藍藻は微細な海洋植物で、日光と二酸化炭素を使って酸素と有機炭素をつくり出し、生物地球化学的循環と栄養塩循環の原動力になっている。藍藻は、酸素を他の生物に供給するだけでなく、藍藻そのものが他の生物の栄養分になる海洋食物連鎖の底辺を形成している。MITの研究チームは、この微小な細胞群が非常に大きな役割を果たしていることを発見した。   この藍藻が常時小胞と呼ばれる小器官を生成し、細胞外に放出していることを突き止めたのである。この小胞は球形の物体で、有機炭素その他の栄養分を含んでおり、他の海洋生命体の食餌になる食料パッケージの役割を果たしている。しかもこの小胞にはDNAも含まれていて、同種のバクテリア集落中あるいは集落間で遺伝子導入の手段になっていることが推測される。そればかりか、DNAを持っている小胞はバクテリオファージの攻撃をかわすおとりの役割も果たしているかも知れないのである。 2014年1月10日付Science誌に掲載された研究論文で、博士研究員のDr. Steven Biller、Professor Sallie (Penny) Chisholmと共同著者らは、藍藻の中でももっとも一般的な2種、プロクロロコッカスとシネココッカス由来と見られる細胞外小胞を多数見つけたと報告している。研究チームは、藍藻の培養液にも、ニューイングランド地方の富栄養な海岸の海水やサルガッソ海の貧栄養な海水からも小胞 (いずれも直径100ナノメータ程度) を発見した。細胞外小胞は1967年に発見され、ヒトに感染するバクテリアの小胞についてはかなり詳しく研究されてきたが、大洋の海水中にも存在する証拠が見つかったのは今回が初めてである。研究論文第一著者のDr. Billerは、「小胞が海洋にふんだんに漂っているという発見は、これまでの小胞に関する理解が不足だったことを意味している。これま

幸せな結婚と不幸な結婚を決めるのは何か - University of California (UC) BerkeleyとNorthwestern Universityの研究チームは、DNAに大きな決め手があることを突き止めた。遺伝、感情、結婚満足度の関係を調べたおそらく初めての研究の報告によれば、セロトニン調節にかかわる遺伝子で感情のあり方が人間関係にどれほど影響するかが決まるとしている。研究自体はUC Berkeleyで行われた。   2013年10月7日付「Emotion」オンライン版に掲載された研究論文の首席著者でUC Berkeleyの心理学者、Dr. Robert W. Levensonは、「長年謎とされてきたのは、ある人は自分の結婚生活の感情的な温度に敏感で、ある人はまったく鈍感なのはなぜかということだ。この研究で、感情を重視する人とそうでない人との違いは何によって決まるのかということに少し理解が深まった」と述べている。 この研究チームは、特に人間関係満足度と、5-HTTLPR (セロトニン・トランスポーターにリンクされた多型領域) と呼ばれる遺伝子の変異体または「アレル」に関連性があることを突き止めた。1990年代中期に発見された5-HTTLPRは、これまでに徹底して研究されてきたが、特に神経精神疾患とのつながりがよく研究されている。ヒトはすべて両親からこの遺伝子の変異体のコピーを受け継いでいる。研究の結果、短い5-HTTLPRアレルを持つ人は、怒りや軽侮などの否定的感情が大きいと結婚生活を不満足に感じる度合いが強く、ユーモアや親愛の情など肯定的感情が大きいと結婚生活を満足に感じる度合いが強かった。これと対照的に、アレルの1本か2本が長い人と結婚生活の感情的な傾向にそれほど左右されなかった。150組を超える夫婦を20年以上にわたり追跡調査してきたこの研

Houston Methodist Research Instituteの研究チームは、初段階の研究で血清バイオマーカー中の乳がん細胞検出に成功し、将来的には血液検査で乳がんの早期発見が可能になるだろうと発表した。同研究チームは血液検査による乳がん早期発見法の開発を行っている。   2013年10月21日付「Clinical Chemistry」オンライン版に掲載された研究論文で、同研究チームはNew York University Cancer Instituteの研究者と共同研究を行い、マウスとごく少数の患者から採取した試料で、カルボキシペプチダーゼN (CPN) 酵素によって生成された血中遊離タンパクの混合で早期乳がん細胞を正確に予想することができたと報告している。 プロジェクトを指導したバイオメディカル・エンジニアのTony Hu, Ph.D.は、「この研究論文では、カルボキシペプチダーゼNの触媒活動と、乳がん患者や乳がん動物モデルから臨床的に採取した試料中のがん進行の関係を述べた。研究の結果、CPNが生成した循環ペプチドが、乳がんの発生早期と進行をはっきりと示すシグネチャーになることが突き止められた」と述べている。この技術はまだ公開されておらず、また公開にはまだ何年かかかる見込みである。その前にさらに大がかりな臨床試験が必要であり、その試験は2014年初めから開始される予定になっている。現在、乳がんの早期発見に結びつく安価なラボ検査法はなく、世界中の研究者が安価な乳がん早期発見検査法を見つけ出そうと懸命になっている。Dr. Huは、「私たちの目標は、生検や高価な画像検査法を用いずに、組織部位で進行していることをプロファイル化する非侵襲的な検査法を開発することだ。それができれば患者にとっても福音になり、既存の技術よりもはるかに安価な検査が可能だ。現在の検査法は

従来の人間や動物の記憶保存の行動学的研究では、記憶保存をその時間的尺度によって明確に異なる2つの段階で分類している。一つはせいぜい分単位の短期的記憶で、一度の経験で生まれる。もう一つは何日も続く長期的記憶で、通常は繰り返し訓練しなければ形成されない。   Columbia University, Kavil Institute for Brain ScienceのDirectorとHoward Hughes Medical Instituteの上級研究員を務め、神経系の信号変換に関する発見で2000年ノーベル医学生理学賞を受賞したEric Kandel, M.D.は、初期の同僚との共同研究で、アメフラシの単純なエラ引き込み反射を使った、潜在的な記憶の形と考えられる「学習された恐怖」の研究でこの2つの行動記憶段階を詳しく説明した。この研究で、学習過程には細胞レベルの変化が伴っていることが明らかになった。学習の基礎はシナプスであり、学習によってシナプスの結合が強まる。 これらの研究で、短期記憶は既存タンパク質の共有結合による既存の結合の一時的なシナプス促通に仲介されており、これに対して、長期記憶は転写とシナプス成長によって仲介される持続的な促通によるものであることが突き止められた。アメフラシの短期的促通を長期的促通に変換し、長期記憶に変える重要な転写スイッチは、CREB-2の抑制的な働きを取り除き、CREB-1を活性化する機能が仲介している。小分子RNAが転写制御や転写後の遺伝子発現調節に重要な役割を果たしていることから、Dr. Kandelと研究グループは、この基幹転写スイッチが記憶を短期的なものから長期的なものに変換する機能をも調節しているのではないかと考えた。Dr. Kandelの研究グループは、他の共同研究者とともに、アメフラシの小分子RNAのプロファイルを作成し

絶滅危惧種である中央アメリカの川ガメ(Dermatemys mawii) の保全に関わるスミソニアン研究所の科学者チームは、この川ガメの遺伝子研究に焦点を当ててきたが、この度、驚くべき結果を得た。メキシコ南部、ベリーズ、グアテマラに至る生息地の15地点・238匹の野生の個体から採取した小組織をサンプルとし、遺伝子構造の「驚くべき欠損」が明らかになり、Conservation Genetics誌オンライン版2011年5月17日付けに発表された。   このカメは完全に水生であり、地理的に距離や山脈で隔てられた3つの河川流域にそれぞれ独自の個体群が存在する。「我々は、各流域で異なる遺伝系統が観察されると期待していました。」と主筆であるスミソニアン保全生物学研究所・保全と進化遺伝学研究センターのグラシア・ゴンザレス・ポーター博士は説明する。そして「その代わりに私達は系統の混合を発見したのです、それも全領域で。 互いに隔絶されているのは明らかなのですが、遺伝子データは、異なるカメの個体群が数年間近接していた事を示しています。」と続ける。「しかし、一体どうやって?」という研究者達の疑問にゴンザレス・ポーター博士と研究グループが提示する最も可能性の高い説明は、人間がそれらのカメを何百年も互いに持ち寄っていたという事である。 カメは長い間食糧として、貿易品として、そして千年間儀式用に利用されてきており、広く流通し且つ使用するまでは池などで(飼育)保管する事が慣例であった。「何世紀もの間、このカメ種はマヤ族及び歴史的にその分布範囲に居住していた先住民族の食糧のひとつとなっており、D.mawii種はペテン地域の古代マヤ文明(先古典期800-400 B.C.)では重要な動物性たんぱく源でした。そしてこれらのカメは3,000年以上前のオルメカ文明の食糧のひとつであったと思われます。」と研究チ

スミソニアンの科学者のグループは両生類に急速に伝染するツボカビ病がパナマのDarien地域近傍まで広がってきた事を確認した。この地域はツボカビ病が発生していない唯一の亜熱帯山岳地域であった。この事は絶滅の危機に瀕する20種類のカエルを救済する目的でパナマとアメリカの9つの機関によって結成されたパナマ両生類救済と保全プロジェクトにとって頭の痛いニュースである。ツボカビ病は世界中で両生類の生息数の急速な減少や絶滅を引き起こしてきた。   ウエスタンパナマのEl Copeにツボカビ病が蔓延するまでの5ヶ月間で50%のカエル種と80%のカエルの個体が絶滅した。「私達はDareinに生息する全種を救済したい。 しかし今それを行なう時間が無い」とスミソニアン保全生物学研究所の生物学者でありパナマ両生類救済と保全プロジェクトの国際コーディネーターであるブライアン・グラトウィック博士は語る。「私達のプロジェクトはこれらの種が絶滅するかもしれない状況を救おうとする1つです。私達は既に捕獲した3種について繁殖に成功しています。時間は間に合わないだろうが残った時間を最大限に生かす為の情報を探しています。」Darien国立公園は世界遺産となっており現存する中米最大の自然保護区域である。2007年にはスミソニアン熱帯研究所の研究員であるダッグ・ウッドハムス博士がDarienの境界地域の49匹のカエルを試験した時にはどの検体も感染してはいなかった。しかし、2010年1月にはウッドハムス博士は93匹のカエルの2%に感染を発見した。「Darien境界地域のカエルにツボカビ病が見つかる時期は予測より随分早く、勢いの衰えない極端に早いペースで広がるこの菌は真に憂慮すべき問題です」とウッドハムス博士は語る。 パナマ両生類救済と保全プロジェクトは既にDarien地域の固有種上位2種:Pirre harleq

NIHのEpigenome Roadmap Projectに参加していた大規模な研究機関合同研究チームが、2013年5月9日付「Cell」オンライン版で、ヒトの胚の発達初期に遺伝子がオン・オフされる仕組みを発表した。Ludwig Institute for Cancer Research のDr. Bing Ren、The Salk Institute for Biological Studies のDr. Joseph Ecker、Morgridge Institute for ResearchのDr. James Thomsonらが指導するこの研究チームは、これまで知られていなかった遺伝子の現象が胚の発生だけでなく、がんの発生にも重要なカギを握っていると述べている。   4年以上の歳月をかけて行われた実験と分析のデータは公開されており、事実上すべてのバイオメディカルの分野で大きく貢献することが予想される。ヒトの卵子は、受精すると卵割を繰り返し、免疫細胞からニューロンにいたるまで人体のすべての細胞を創り出す。その胚発生の過程で、各世代の細胞は全遺伝子のうち特定の遺伝子のみを発現し、他の遺伝子の発現を抑制することで前世代の細胞とは異なる機能を発揮する。 Ludwig Instituteのメンバーで、UC San Diego SchoolのDepartment of Cellular and Molecular Medicine教授を務めるDr. Renは、「スケールの大きな遺伝子技術を用い、胚細胞とそれに続く世代の細胞が体のどの部分を形成していくかを決め、その部分に落ち着いていく過程で、ゲノム全体の各遺伝子がどのようにオン・オフされるかを調べた」と述べている。細胞が遺伝子を制御する一つの方法がDNAのメチル化で、DNAを形成する4つの塩基の1つ、シトシンにメチル基と呼

UCLAとオーストラリアの生命科学者チームは、「脳の主要な学習中枢が損傷を受けると、複雑な新しい神経回路が現れ、損傷で失われた機能を補償する。この新しい代替回路創出に関わる脳の領域を突き止めた。この領域はしばしば損傷領域とはかけ離れた位置に現れる」と発表している。Dr. Michael FanselowとMoriel Zelikowsky氏が、シドニーのGarvan Institute of Medical Researchの神経科学研究プログラム・グループ・リーダーのDr. Bryce Visselと共同で行った研究の論文が、2013年5月15日付PNASオンライン版に掲載された。   研究グループは、脳の学習と記憶形成の中枢である海馬が障害を受けると、前頭葉皮質の一部が海馬の機能を引き継ぐことを突き止めた。この発見は、神経回路の可塑性を初めて実証した画期的な業績で、今後、アルツハイマー病、卒中その他、脳の損傷を伴う症状の治療を開発する上で大きな助けになる可能性がある。Dr. FanselowとZelikowsky氏は、ラットを用いた研究室での実験を行い、げっ歯類が海馬を損傷した後でも新しい作業を学習する能力があることを実証した。海馬を損傷したラットは、正常な場合よりも学習に時間がかかったが、それでも経験を繰り返して学習することができたというのは驚くべき発見だった。 心理学教授でUCLA Brain Research InstituteのメンバーでもあるDr. Fanselowが、この研究論文の首席著者を務めており、「脳は経験を通して学習しなければならないことが推測できる。この研究ではラットに問題解決の課題を与えた」と述べている。Fanselow 研究室のZelikowsky院生は、研究チームが、ラットの問題解決学習能力を突き止めた後、オーストラリアに渡ってDr.

人間はまだカメから学ぶことがあるかも知れない。また、初めてカメのゲノム塩基配列を解析した科学者達は、カメの長寿の秘密や何か月も呼吸しないで生きられる能力に、人間に応用できる何らかの知識が得られるのではないかと考えている。このゲノム塩基配列解析を担当した研究チームは、「カメが酸素欠乏状態から心臓や脳を守るために持っている自然なメカニズムを解明すれば、将来、人間の心臓マヒや卒中の治療法改善の手がかりになるかも知れない」と述べている。   UCLAの保全生物学者でこの研究論文の筆頭著者、Dr. Brad Shafferは、ミズーリ州セント・ルイス市のWashington University内Genome Instituteとの協力で研究を続けてきており、さらには長年の研究プロジェクトで総勢58人の論文共同著者とも共同研究を行ってきた。学術誌「Genome Biology」のオープン・アクセス論文として2013年3月28日付でオンライン発表されたこの研究論文では、カメの中では棲息範囲がもっとも広く、またもっともよく研究されている種の一つ、ニシニシキガメのゲノムを解析している。 UCLAのInstitute of the Environment and Sustainability (IoES) とDepartment of Ecology and Evolutionary Biologyの教授を務めるDr. Shafferは、「ニシキガメの異常なまでの適応力は、未知の新しい遺伝子によるものではなく、ヒトを含めた脊椎動物に共通する複数の遺伝子のネットワークによるものであると知って、研究チームはむしろ驚いたくらいだ」と述べている。IoESのLa Kretz Center for California Conservation Science所長も兼任するDr. Shafferは

最近の研究で、タイセイヨウサケと伝染性サケ貧血 (ISA) ウイルスとの間の相互作用がインフルエンザ様疾病、ISAの発症と伝染につながる仕組みが明らかにされている。この新発見は、2013年4月10日付のプレスリリースで発表されており、インフルエンザ研究一般にも応用できる可能性がある。ISAは1984年にノルウェーで初めて見つかり、今でも養殖水産業にとって深刻な脅威になっているが、養殖タイセイヨウサケの疾病としては、国際獣疫事務局に登録されている唯一の疾病である。   この病気は通常一つのケージで発生し、何週間、何か月という期間で隣接するケージに広がっていく。また、この病気の治療法がまだ見つかっておらず、ISAが蔓延すると養殖業者にとって莫大な損失につながりかねない。 Maria Aamelfotは、博士論文の中でこの病気の進展をいくつかの段階にわたって説明している。彼女は、どのタイプの細胞がウイルスに対する受容性が高く、どの細胞が現実にウイルスに感染するのかを研究した。その研究で、ISAウイルスが特定の細胞、組織、器官に感染し、損傷させる能力があることを明らかにしている。サケとISAウイルスとの間の相互作用の研究は、ISA発症後の病状変化について新しい知識をもたらしたばかりか、この疾病の予防法を探求する上で重要な手がかりも与えてくれている。ウイルスは生命体に入り込む際にその生命体の細胞や器官に接着し、その細胞や器官を入り口として生命体に入り込み、感染するが、Aamelfotは、ウイルスが接着する細胞や器官を判定する手法を編み出した。ウイルスが細胞に感染するためには、細胞の表面にそのウイルスに対応した受容体 (結合構造) がなければならない。ウイルスも種ごとに特定の受容体があり、鍵と鍵穴のように細胞のその特定受容体に結合する。サケの場合、ISAウイルスの受容体は、内皮細

がん死の90%は原発病変から体の他の部分に広がったがんが原因になっている。これを転移と呼んでおり、転移するがん細胞は周辺の細胞から離れ、組織を構成している足場からも離れて単一で移動しなければならない。MITのがん生物学研究チームは、この組織構造の細胞外基質と呼ばれるタンパク質ががん細胞の脱出を助けていることを突き止めた。   チームは、非常に転移性が高く、しかも浸潤性も高い腫瘍の周辺のタンパク質を何十種類と洗い出し、そのうち4種類のタンパク質が転移のプロセスに不可欠であることを発見した。この発見に基づいて転移しやすいタイプのがんを判定する検査法の開発も考えられ、さらには治療がきわめて難しい転移がんの治療標的を突き止められるようになることも考えられる。MITのKoch Institute for Integrative Cancer Researchのメンバーであり、この研究チームを指導したDr. Richard Hynesは、「問題はこれまでの抗がん剤はすべて原発性がんを対象にしていることで、一旦転移が進むとほとんど打つ手がないというのが現実だ。原理的にはこの細胞外基質タンパクを標的にすれば転移の防止も可能なはずだ。まだまだ実現は遠いが不可能ではない」と述べている。 この研究論文は3月11日付「eLife」オンライン版に掲載され、Koch Instituteのポスドク研究員、Dr. Alexandra Nabaが筆頭著者になっている。他の著者として、Broad Institute, Proteomics PlatformのDirectorのDr. Steven Carr、Broad Instituteの研究員のDr. Karl ClauserとKoch Instituteの研究員のDr. John Lamarが名を連ねている。細胞外基質は大部分が生体組織を構造的に支え

University of Pennsylvania, Perelman School of Medicineの生理学教授を務めるRoberto Dominguez, Ph.D.は、「細胞の運動性は生命の基本原理であり、細胞はすべて運動能力がある」と述べている。運動性とはあくまでも細胞空間的な尺度であるが、傷の治癒、血液凝固、胎児の成長、神経結合、免疫反応その他様々な機能にとって必要な機能である。   しかしながら、この運動性も、がん細胞が腫瘍から飛び出して移動し、他の組織に定着して増殖し始めた場合にはがんの転移と呼ばれ、非常に有害な動きである。2014年3月2日付でNature Structural & Molecular Biology印刷版に先立ってオンライン版に掲載された研究論文で、ポスドク研究員のDavid Kast, Ph.D.や同僚のDominguez研究チームは、細胞運動性を司るIRSp53と呼ばれるタンパク質が休止状態と活性状態との間で調節される機序とがん細胞の転移への関わりを明らかにしている。Dr. Kastは、「研究ではIRSp53が細胞の運動機構に結合する過程を詳しく調べた」と述べている。 Dr. Dominguezは、「IRSp53はまず糸状仮足の形成から始める。これは細胞が移動する時に足のように突き出す部分で、これによって細胞は尺取り虫のように伸びた糸状仮足が細胞を引きずって移動する」と述べている。次に細胞の最後尾が、筋肉収縮に似た細胞骨格のアクチンとミオシンの収縮によって糸状仮足の方向に移動する。細胞はその細胞膜を進行方向に伸ばし、たとえば他の細胞など触れた物体に貼り付き、細胞本体を移動させ、最後に最後尾をはがすようにして糸状仮足方向に前進する。そこからさらに同じ動作を繰り返して前進する。IRSp53タンパク質には、BARドメイン

北カロライナ州チャペル・ヒル所在University of North Carolina (UNC) の研究者は、協力機関の科学者チームとの共同研究で初めてヒトの腸組織から成体幹細胞の分離に成功した。成体幹細胞の分離成功により、ヒトの幹細胞生物学上のメカニズムを正しく突き止めようと望んでいる科学者にとって待ち焦がれていた試料が手に入るようになる。そればかりか、炎症性腸疾患治療法や、腸の損傷を引き起こすことの多い化学療法や放射線療法の副作用緩和にも新しい方向からの取り組みが可能になる。   この研究論文の筆頭著者、UNCの医学部、生医学工学部、細胞分子生理学部准教授を務めるScott T. Magness, Ph.D.は、「研究でこのような細胞(成体幹細胞)が使えないことが、長年、研究にとって非常に大きな妨げになっていた。これまでこのような幹細胞を分離し、研究する技術を持っていなかったが、これからは研究上の難問を解決する道具を手にすることができる」と述べている。学術誌Stem Cellsの2013年4月4日付オンライン版に掲載されたUNCの研究論文は、長年、マウスの細胞を使っての実験を余儀なくされていた分野で大きな飛躍を遂げたといえる。 その期間、マウスのモデルを用いた研究でもかなりの進歩があったが、マウスとヒトの幹細胞生物学的な相違のため、ヒトの疾患に対して新しい方向からの治療法の開発が難しかった。Dr. Magness 研究室の大学院研究者でこの研究論文の共同筆頭著者、Adam D. Gracz は、「マウスを使った研究でも、この組織の働きを説明する基礎的機械的データを得ることはできるが、ヒトの組織を使って同じような実験をしないことには正確なその機序をとうてい解明できないというケースもある」と述べている。この研究論文の共同筆頭著者にはMegan K. Fuller,

これまで、急激に進行する血液のがん、B細胞急性リンパ性白血病 (ALL) にかかった成人には限られた治療法しかなかった。当初の化学療法の後で病気がぶり返すか、再発するのが通常だった。しばしばその段階で患者はそれ以上の化学療法を拒むようになるが、幹細胞移植も、通常疾患が緩解した場合にのみ有効であるため、このような患者には効果が期待できない。   しかし、Memorial Sloan-Ketteringの研究チームが、「遺伝子組み換え免疫細胞が、再発B細胞ALLの患者のがん細胞を殺除する有効性が期待できる」との研究報告を出しており、事実、targeted immunotherapyと呼ばれるこの新しい治療法を受けた5人の患者全員が完全に寛解し、がん細胞は検出されていない。現在も続けられている臨床治験の結果は、学術誌「Science Translational Medicine」の2013年3月20日付オンライン版に掲載されている。腫瘍内科医Dr. Renier J. Brentjensと共同してこの研究を指導したMemorial Sloan-Kettering’s Center for Cell EngineeringのDirector、Dr. Michel Sadelainは、「B細胞ALLの患者にとっては非常に明るいニュースであり、”Targeted immunotherapy”の分野でも非常に重要な偉業となるものだ」と述べている。その”Targeted immunotherapy”とは、免疫系に対して、腫瘍細胞を識別し、これを攻撃するよう指示するテクニックである。 過去10年間、Dr. Sadelain、Dr. Brentjensの他、Memorial Sloan-Kettering’s Cell Therapy and Cell Engineering Facil

ある進行性膀胱がん患者が第I相試験でeverolimusとpazopanibとの抗がん薬の組み合わせに対して14か月にわたり完全な反応を示した。患者の腫瘍ゲノム・プロファイリング結果から2つの変異がこの特異な反応の原因となっていると考えられている。2014年3月13日付American Association for Cancer Research (AACR) 論文誌「Cancer Discovery」オンライン版にこの研究の論文が掲載されている。   この研究結果は、everolimusに反応する可能性のあるがん患者を判定するのに役立つかもしれないものであり、National Cancer Instituteによれば、特異な反応を示す患者とは、臨床試験で特定の治療に対して反応を示した患者が全体の10%に満たない場合に6か月以上にわたり、完全な反応または部分的な反応を示した患者を意味する。米国マサチューセッツ州ケンブリッジのDana-Farber Cancer Instituteの医学部教官を務め、Broad InstituteのAssociate MemberでもあるNikhil Wagle, M.D.は、「特異反応を研究することで、一部のがんが特定の抗がん剤に対して非常に高い感受性を示す原因が突き止められるのではないか。その原因を突き止めれば、特異反応を示す患者と似た遺伝子変異を持つがん患者には同じ抗がん剤が適用できると考えられる」と述べている。 Dr. Wagleは、「この研究では、mTOR抑制剤のeverolimusと、腎がん治療に用いられる抗がん剤のpazopanibという2種類の抗がん剤の第I相試験を行い、患者の一人の膀胱がんが14か月にわたりほぼ完全に寛解した。さらに、その患者の腫瘍細胞の全エクソーム・シーケンシングを行った結果、驚くべきことにever

Johns Hopkins Children’s Center、University of Mississippi Medical Center、University of Massachusetts Medical Schoolの研究者チームが、「HIV感染乳幼児における、初の『機能的完治』症例」を発表した。研究者たちは、「この成果は、児童のHIV感染を根絶する手段を見つける手がかりになるかも知れない」と述べている。同症例の研究論文は、2013年3月3日、アメリカ合衆国ジョージア州アトランタ市で開かれた「第20回Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections (CROI)」で発表された。   報告書の筆頭著者、Johns Hopkins Children’s Centerのウイルス学者、virologist Deborah Persaud, M.D.と University of Massachusetts Medical Schoolの免疫学者、Katherine Luzuriaga, M.D.が臨床研究チームを率いた。また、University of Mississippi Medical Center小児科准教授、Hannah Gay, M.D.がこの乳幼児の治療を行った。この報告書に述べられている新生児は、生後30時間以内に抗レトロウイルス治療 (ART) を受けた後、HIV感染が寛解した。 研究者は、生後すぐに抗ウイルス治療を施すことで、処置が困難なウイルス・リザーバーの形成を阻止し、それが新生児の感染を治癒したのではないかと述べている。通常、HIV患者が治療を止めると何週間かのうちに感染がぶり返すことが知られており、ウイルスが隠れたまま不活発になっている細胞をウイルス・リザーバーと呼ぶ。Dr

典型的糖尿病自己抗体を持つようになる児童の腸内細菌の相互作用は、健康な児童のそれとは異なっている。児童の体内で血中の抗体が検出可能な水準まで発達するずっと前にこのような違いができているという事実は、微生物叢のDNA、いわゆるマイクロバイオームが宿主の自己免疫過程に関わっているのではないかという説を裏付けるものである。Helmholtz Zentrum Munchenの研究チームの論文が、専門家向け論文誌「Diabetes」2014年3月7日付オンライン版に掲載されている。   研究チームは「BABYDIET」研究の過程で、血中に糖尿病特有の自己抗体を持つようになる児童の腸内細菌の構成や相互作用のデータを、自己抗体陰性の児童のデータと比較した。「BABYDIET」研究では、糖尿病リスクに影響することが考えられる栄養要因を詳しく調べた。Institute of Diabetes ResearchのポスドクDr. Peter AchenbachとProfessor Anette-Gabriele ZieglerおよびHelmholtz Zentrum Munchen, Scientific Computing Research UnitのDr. David EndesfelderとDr. Wolfgang zu Castellとに率いられた研究チームは、研究の結果、腸内に存在する細菌の種類と数量に関してはどちらのグループもほぼ同じだと確認した。ところが、腸内細菌の相互作用全体を見た場合、乳幼児期、典型的糖尿病型自己免疫が現れる何か月も何年も前からこの2つのグループの間には大きな違いが見られた。細菌のコロニーはマイクロバイオームと呼ばれる相を形成し、そのマイクロバイオームが持つ遺伝情報が宿主に影響を与える。以前からマイクロバイオームと様々な疾患との関連が考えられていた。特に腸内

中国で少なくとも9人が鳥インフルエンザで死亡しており、その患者から採取したサンプルの遺伝子解析の結果は、ウイルスが進化してヒト細胞に適応するようになったことを示しており、世界的なインフルエンザ大流行が起きる危険性が心配されている。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの田代眞人博士、University of Wisconsin-Madisonと東京大学の河岡義裕博士が指揮するグループの共同研究論文が論文雑誌「Eurosurveillance」の2013年4月11日付に掲載された。   同グループは、4人の鳥インフルエンザ・ウイルス犠牲者から採取したH7N9の遺伝子配列を調べ、同時に上海市場の鶏と環境から得たサンプルも検査した。 鳥インフルエンザ研究分野の権威、河岡博士は、「鶏や環境から分離した株と違って、ヒトから分離した株はタンパクに突然変異が観察され、ヒトの細胞で効率的に増殖するだけでなく、ニワトリに比べてやや低いヒトの上気道の体温でも増殖できるように変化している」と述べている。中国の研究者が国際的なデータベースに登録した遺伝子配列をもとにして導き出されたこの発見で、怖れられている新型鳥インフルエンザに関する分子レベルの手がかりが初めて得られた。この新型ウイルスのヒト感染症例は、2013年3月31日に中国疾病予防コントロール・センターが発表している。河岡博士は、「この新型ウイルスでは、これまでに33人が発症し、9人が亡くなっている。これがすぐに大流行を引き起こすかどうかはまだ予測には早すぎるが、このウイルスが哺乳動物、中でもヒトを宿主として適応しつつあることは疑いようがない」と語っている。さらに河岡博士は、「このウイルスの進化の機序を理解し、感染を予防するワクチン候補を開発するためには、ウイルスの遺伝子情報を手に入れることが不可欠だ」と述べている。イン

卵細胞、精細胞などの生殖細胞は結合して幹細胞を形成し、この幹細胞は成長してどのような組織細胞にでもなることができる。ところで、生殖細胞はどのように発生するのだろうか? 人間は自分がつくり出す生殖細胞をすべて備えて生まれてくる。しかし、植物は少し事情が違う。植物は、まず成熟した成体細胞をつくり、その後に一部を卵細胞や精細胞にリプログラムする。   植物が生殖細胞をつくるためには、エピジェネティック・マークと呼ばれる、ゲノム全体にわたってDNAに付けられている一連のタグであるキー・コードを先に消去しなければならない。このマークは遺伝子の活性、不活性を識別できる。 しかし、このマークには他にも重要な役割がある。エピジェネティック・マークには、損傷を与えるおそれのあるトランスポゾン、別名「ジャンピング遺伝子」を不活性状態にする機能がある。細胞がエピジェネティック・コードを消去してしまうと、トランスポゾンが活性化され、新しく生成されたばかりの生殖細胞が遺伝的損傷を受ける危険が大きい。2014年3月16日、ニューヨークのCold Spring Harbor Laboratory (CSHL) の研究チームは、Howard Hughes Medical Institute (HHMI) 研究者のDr. Robert Martienssenの指導のもとに研究を行い、エピジェネティック・コードが消去されてもトランスポゾンを不活性に保つ経路を発見したことを発表している。「ジャンピング遺伝子」は、50年以上前にCSHLのDr. Barbara McClintockによってその存在が指摘され、この功績でDr. Barbara McClintockは後にノーベル賞を受けている。その後の研究で、ジャンピング遺伝子 (トランスポゾン = 転移因子) が長い反復的なDNAの一部であることが明らかにな

過去のペトリ皿での実験から、がん細胞は三歩と直進できない酔っ払いのように体内をゆっくり、漫然と移動するものと考えられてきた。このパターンは「ランダム・ウォーク (酔歩)」と呼ばれ、2次元的な実験容器の中を移動する細胞には当てはまるかもしれないが、Johns Hopkins Universityの研究チームは、3次元的な体内を移動するがん細胞については「ランダム・ウォーク」モデルがあてはまらないという事実を発見した。   がんは体中に転移し、しばしば厳しい予後になるが、2014年3月4日付PNASのEarly Editionオンライン版に掲載されたこの研究結果は、がん細胞転移の仕組みをより正確に突き止めるきっかけになる重大な発見である。2次元と3次元の実験で細胞の移動が変化するという問題を解明するため、研究チームは3D環境で移動する細胞の挙動をより正確に表現する数式を作り上げた。 この研究は、Johns Hopkins UniversityのTheophilus H. Smoot Professor、Dr. Denis Wirtzが指導し、同大学のWhiting School of EngineeringとSchool of MedicineのChemical and Biomolecular Engineering、Pathology、Oncologyの各Departmentの設備を使って行われた。Dr. Wirtzは、「現在、がん細胞の移動を3次元的に捉えようとする動きがあり、この発見もその傾向を強化することになる」と述べている。博士の研究チームでは以前に2次元環境と3次元環境の中では細胞の挙動も異なることを証明しており、がん細胞が体内を移動する場合にこの違いが重要になってくる。Dr. Wirtzは、「原発腫瘍から飛び出したがん細胞は血管やリンパ節を探し出して移動し

University of North Carolina (UNC) School of Medicineの研究チームは、人体の健康の維持や疾患に重要な役割を果たしている特定の細胞レベルの回路について、これまでよりさらに深く探ることのできる生化学的な技術を新しく開発した。この技術は、Klaus Hahn, Ph.D.の研究室で開発され、2014年3月9日付Nature Chemical Biologyオンライン版で発表され、キナーゼと呼ばれるタンパク質が活性化し、細胞の移動など特定の細胞の挙動を引き起こす機序を研究する重要なツールになるとしている。   このキナーゼの作用は非常に複雑であり、未だにほとんど明らかになっていない。それでも、キナーゼが疾患で大きな役割を果たしていることだけは判明している。研究論文の首席著者で、同大学のThurman Distinguished Professor of Pharmacologyを務めるDr. Hahnは、「キナーゼが関わっていない病気を一つでも挙げられるだろうか? キナーゼのプロセスを完全に理解することは非常に難しいが、非常に重要な物質であることは誰でも知っている」と述べている。 長年、研究者はキナーゼにあれこれと手を加え、細胞死や細胞移動、あるいは細胞内シグナル伝達などが起きることは観察できた。しかし、このような実験も、細胞の挙動の引き金になるキナーゼの様々な反応の解明ということになると、ほんの表面をひっかく程度でしかない。また、どのような実験も、一気に起きる事象のタイミングをつかむことができない。Dr. Hahnは、「タンパク質活性のタイミングは細胞の反応に大きく関わっているため、これを突き止めることが重要だ」と述べている。医薬開発メーカーはまだこのタイミングの問題をうまく組み込むことができない。タンパク質を標的にした医

健康な人が3年以内に軽度の認知障害またはアルツハイマー病を発症するリスクを90%の精度で予測できる血液検査法をGeorgetown University Medical Centerその他の組織の合同研究グループが発見、その有効性も確認した。2014年3月9日付Nature Medicineオンライン版に掲載された論文によると、アルツハイマー病は早めに処置するほど疾患の進行を遅らせたり、あるいは発症そのものを予防するなどの治療の効果が高まるが、この研究成果からアルツハイマー病の効果的な初期治療法を開発できる可能性を述べている。   この研究報告は、臨床前的なアルツハイマー病の血中バイオマーカーに関する、知られている限り初めての論文である。この血液検査はアルツハイマー発症を予測できる血中の脂質10個を判定するもので、研究チームは、「今後2, 3年で臨床試験にかけることができるようになる。また、この検査法は他の診断にも有効かも知れない」と述べている。 研究論文の責任著者で、Georgetown University Medical Centerの神経学教授と健康科学のexecutive vice presidentを兼任するHoward J. Federoff, M.D., Ph.D.は、「この新発見の血液検査法は、進行性認知障害のリスクを持つ人を判定し、患者、家族、医師が発病に備え、管理する上で非常に役立つのではないか」と述べている。アルツハイマー病は完治できず、また有効な治療法もないという難病で、世界中で約3,560万人がアルツハイマー病と診断され、世界保健機関 (WHO) によれば、20年ごとに患者が倍増し、2050年までには1億1,540万人に膨れあがると予想されている。Dr. Federoffは、「アルツハイマー病の進行を抑えたり、緩和する医薬の開発を目指した研

ウィスコンシン大学-マディソン校の研究者らはこの大学病院ならびにクリニックにおいて手術中に採取した副鼻洞組織を使って、ヒト・ライノウイルス(HRV)の中でも最近になって発見された新種のウイルスの培養育種を実施した。このHRVは、一般的な風邪において最もポピュラーな原因ウイルスであり、子供のHRV感染症全体の約半分に関与している。研究者は、このウイルスは他のHRVファミリーとは異なった生殖特性があることを発見した。   これにより、抗ウイルス物質を選抜し、その抗ウイルス物質がウイルス自体の成育を停止させるかどうかを観察することが可能となった。研究成果は、2011年4月10日号の「Nature Medicine」誌に発表された。 周知のHRV-AやHRV-Bなどを擁するHRVファミリーの新規メンバーであるHRV-Cにスポットをあてた。5年前に発見されたHRV-Cは標準の細胞培養法では培養が難しいことで定評がある。したがって、研究も不可能であった。この論文の主席著者でもある、UW-マディソン校医学部のDr. James Gene医療・公衆衛生学科教授は、次のように語る「いまや私たちには、HRV-C感染症の治療や予防に新しいアプローチが生まれるかもしれないという確証がある。」同氏はまた、ウィスコンシン大学American Family Children’s Hospitalにおいて喘息の専門家でもある。さらにGene教授は「これは将来医薬品になれば、喘息や肺に問題がある子供や大人とって特に有用なはずである」と語る。最近の研究においてHRV-Cは、通常の風邪の主な原因になることに加えて、喘息発作の50〜80%に関与していることを示した。HRV-Cは幼児の喘鳴症状が最も多い原因であり、子供の喘息発作原因に特にかかわっているはずである。さらにあらゆる種類のHRV感染症は、例えば嚢胞

2013年11月11日付で発表されたヒトと動物を対象にした研究の新しい報告論文で、経験が遺伝子に影響を与え、その遺伝子が行動や健康状態にも影響することを突き止めている。この研究論文は、Society for Neuroscience2013年次総会でもあり、脳科学と健康に関する世界最大のニュース源でもあるNeuroscience 2013 総会の場での記者会見で発表されたもので、経験が薬物中毒や記憶形成といった脳行動に長期的な変化をもたらす機序に光を当てている。   サンディエゴで開かれたこの総会には3万人の研究者が出席した。Society of Neuroscienceが主催したこの記者会見で発表された、ヒトを対象にした新研究によれば、長年のヘロインの乱用で遺伝子の発現や脳の機能が変化を受ける可能性がある。この研究では、後天的な環境や経験がDNAそのものには変化を及ぼすことなく、遺伝子をオン/オフすることができるエピジェネティクスの分野に焦点を合わせている。 このような変化でも正常な発育や記憶といった脳の働きに悪影響を与え、さらに抑鬱、薬物依存その他の精神疾患を次の世代に遺伝させることが可能性として浮かんでいる。世界保健機関によれば、ヘロイン乱用者は世界中に950万人を数え、その死亡率は非乱用者比較で20倍から30倍にもなる。論文の首席著者で、ニューヨークのIcahn School of Medicine at Mount Sinaiに勤めるYasmin Hurd, Ph.D.は、「通常ヘロイン中毒者の脳を直接調べることはできないため、中毒者の死後解剖で脳を分析した私たちの研究は、ヘロイン中毒に関するこれまでの知識の不足を補うものになっている。研究成果から、長期的なヘロイン乱用で人の脳がどのように変化するか、その重要な部分を明らかにしており、またヘロイン中毒という危

日本で新しく開発された診断検査は、メタボローム解析と呼ばれるテクニックを用いており、安全簡単な検査法で早期発見を可能とするため、膵臓がん患者の予後を大きく改善することになるかもしれない。American Association for Cancer Researchの学術誌「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」の2013年3月29日付オンライン版に掲載された研究報告によると、日本の研究者チームは、膵臓がん検診方法として、血清のメタボローム解析の有用性を試験した。   研究を指導した神戸大学医学研究科病因病態解析学准教授の吉田優博士は、「膵臓がんには外科的な切除術が治療法としてあるが、膵臓がん患者の80%以上が局所進行型または転移型の腫瘍で、がんが見つかった時にはすでに切除不可能ということが多い。 血液、透視画像、内視鏡を使った通常の検査では、膵臓がん検査や早期発見には不適当で、そのため、膵臓がんに対しては新しい検査法や診断法が喫緊に求められている」と述べている。研究チームは、ガスクロマトグラフィ質量分析計を用い、膵臓がん患者、慢性膵炎患者、健康なボランティアから採取した血液の代謝産物の各濃度を測定した。その際に膵がん患者43人と健康なボランティア42人をランダムに選んでモデル化集合に割り当て、膵臓がん患者42人と健康なボランティア41人を検証集合に割り当てた。また、慢性膵炎患者23人はすべて検証集合に割り当てた。モデル化集合で生成したメタボローム・データを解析した結果、血中の代謝産物18種類の濃度が、膵臓がん患者の場合には健康なボランティアとかなり異なることが示された。研究チームは、さらに研究を進め、4種類の代謝産物の血中濃度を測定するだけで膵臓がんを予測する方法を開発した。モデル化集合での試験でこの予測法

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