研究者達は初めて、脳の中枢ハブ内で遺伝子のオンオフを調節する環境反応制御機構の活動を生涯期間追跡することに成功した。統合失調症や自閉症に関与する遺伝子は、発育過程で環境に敏感な臨界期中に活動の抑制がピークに達する遺伝子グループの一つであることが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)による研究で明らかになった。DNAメチル化と呼ばれるメカニズムは、胎児から出生後までの重要な移行期中、ヒトの脳の前頭前野内で突然オフからオンに切り替わる。メチル化の増加に伴い、出生後の遺伝子発現は鈍化する。メチル化のような後成的なメカニズムは、遺伝子にタンパク質を産生する化学的指示を出し、どのような組織を産生し、どの機能を活性化するのかを伝える。このような指示はDNAの一部ではないが、親から子に遺伝する。しかし、これらは環境要因に影響されるため、生涯に渡り変化していく。「発達性脳障害は、若い時期に起こるメチル化の変化が起因である可能性があります。例えば、メチル化を行う酵素をコードする遺伝子は統合失調症と関連付けられています。これらの遺伝子は出生前の脳内で学習や記憶など、障害において影響を受ける様々な実行機能の回路網の発達を形づけます。本研究は、これらの遺伝子グループにおけるメチル化は胎児から出生後までの期間中劇的に変化することを明らかにしました。また、このプロセスがメチル化自体および遺伝的変動によって影響されることが分かりました。臨界期である幼年期において、これらの遺伝子の調節は外界からの影響にとても敏感であると考えられます。」と、NIH国立精神衛生研究所(NIMH)の研究員、バーバラ・リプスカ博士は説明する。 リプスカ博士と研究チームは、ヒトの前頭前野(PFC)エピゲノムの生涯にわたる盛退について、2012年2月2日付けのAmerican Journal of Human Genetics誌オンラ

オーストラリアの先住民アボリジニの遺伝子を解析する国際研究チームが驚くべき結果を発表した。2011年9月22日号のScience誌に掲載された記事によれば、人類の先史時代の理解を変えるものとなっている。遺伝子の解析に基づき、研究チームはアボリジニの祖先は人類がアジアに広がって行った初期の頃である70,000年前に遡る事ができ、少なくとも24,000年前には現在のヨーロッパやアジア全域に分布した事を立証した。この事実が示すところは、現在のアボリジニは50,000年も以前に最初にオーストラリア大陸に移り住んだ人類の直系の子孫であるという事だ。本研究プロジェクトは、20世紀初頭に、西オーストラリア州ゴールドフィールド地域に住むアボリジニの男性から英国の人類学者に寄贈された髪の毛の束に端を発する。   それから100年経た今、研究チームはその髪の毛の束からDNAを抽出単離し、最初のオーストラリア人の遺伝子解析と太古の人類がどのように地球上の各地に移り住んだのかの研究に活用する事となった。このDNAからは、近代のヨーロッパ系オーストラリア人特有の遺伝情報が含まれていない事から、このアボリジニ男性の祖先が、現在の他の人種の64,000−75,000年前の祖先から分化した事が明らかとなった。よって、アボリジニは現在の探検家の「はしり」とも言え、その昔アジアに移住し50,000年にオーストラリアに辿りついた人種を、直接の祖先とする。つまりアボリジニは彼らが今日居住する地帯に最も長い歴史を有している事となる。 この研究により明らかな事は、ゴールドフィールズとシーカウンシルの2地域はアボリジニが歴史的にオーナーであった事が証明されたことである。アボリジニの歴史は、アフリカから発祥した最初の人類がどのように広がって行ったかを理解する為の重要なカギとなる。考古学的検証によればオーストラリアに

「microRNA-34 (miR-34) と呼ばれる遺伝子のグループが正真のがん抑制遺伝子だということを証明する直接的な遺伝学的証拠を見つけた」と、コーネルの研究者が報告している。この研究論文は、2014年3月13日付「Cell Reports」オンラインに掲載された。これまでのコーネルやその他の機関での研究で、p53と呼ばれる遺伝子がmiR-34を調節していることが確認されている。   また、約半数のがんでp53の突然変異の関わりが示されている。興味深いことに、突然変異型p53を伴うがんを含め、様々ながんでmiR-34がp53以外の要因で不活化されることもしばしば起きている。さらに、マウスを使った研究で、p53とmiR-34が相互作用してMETと呼ばれるがんを引き起こす遺伝子を抑制することも突き止められている。P53やmiR-34が存在しない場合にはMETが受容体タンパク質を過剰発現し、無秩序な細胞成長や転移を促すのである。Cornell, Department of Biomedical Sciencesの病理学教授で、この研究論文の首席著者を務めるDr. Alexander Nikitinは、「マウスのモデルでこのメカニズムを突き止めたのはこの研究が初めてだ」と述べている。Dr. Nikitinの研究室のChieh-Yang Cheng大学院生が論文の第一著者を務めている。 2011年のProceedings of the National Academy of Sciences研究論文で、Dr. Nikitinと同僚研究者は、細胞培養環境でp53とmiR-34が共同してMETを調節することを実証しているが、同じ機序ががんのマウス・モデル (ヒトの疾患には特殊な系統のマウスが用いられる) でも機能するかどうかは不明だった。しかし、この研究結果から、METを標的

Oregon Health & Science University (OHSU) と Oregon National Primate Research Center (ONPRC) の研究者グループは、ヒトの皮膚細胞をリプログラムし、胚性幹細胞への転換に成功した。この胚性幹細胞は体内で他の細胞に変化する能力を持っている。幹細胞治療法は、負傷や疾患で破損した細胞を新生した細胞で置き換えることで治療する可能性が期待されており、この治療法に適した疾患や負傷として、パーキンソン病、多発性硬化症、心臓病、脊髄損傷などがある。   2007年にモンキーの皮膚細胞を胚性幹細胞に変換することに成功したのに続き、今回、ONPRCの上席研究員、Shoukhrat Mitalipov, Ph.D. の率いる研究チームが成功した成果は、2013年5月15日付「Cell」オンライン版に掲載されている。今回の研究で、Mitalipov、Paula Amato, M.D. 両博士と、OHSUのDivision of Reproductive Endocrinology and Infertility、Department of Obstetrics & Gynecologyの研究者が採用した手法は、体細胞核移植、あるいはSCNTと呼ばれる一般的な手法を少し変えたもので、ヒト個体のDNAを持った細胞核が遺伝物質を取り除かれた卵細胞に移植され、その後この未受精卵は成長し、最終的に幹細胞を生成する。 Dr. Mitalipovは、「この手法で得られた幹細胞を徹底的に試験したが、正常な胚性幹細胞と同じように、神経細胞、肝細胞、心臓細胞などいくつかの細胞タイプに変わることができた。そればかりでなく、リプログラムした細胞は患者の細胞核の遺伝物質を用いて生成することができるため、移植拒絶反応の

ある研究者チームが、血中脂質レベルを健康な状態に下げ、心筋梗塞のリスクを引き下げる働きのある遺伝子変異を発見した。この変異はこれまで機能を知られていなかったもので、この発見を手がかりに高コレステロールその他の脂質疾患の診断治療に役立てられる可能性が考えられている。しかし、この遺伝子の機能よりも驚くのはその発見の過程で、過去に循環器系のリスクに関わる遺伝子の探索が行われた際にはこの遺伝子の存在が歴然としていながらその機能が見過ごされていたことだ。   問題の遺伝子が発見されたDNAの領域は、2008年に同じ研究チームのメンバー数人が研究論文の中で血中脂質レベルを調整する重要な機能の可能性を指摘している。DNAのこの領域にはかなりの数の遺伝子があるが、いずれも血中脂質レベルと関連があるようには見えなかった。まったく未知の脂質関連遺伝子の確認にはさらに6年の歳月と新しいアプローチが必要だった。 University of Michigan (U-M) と Norwegian University of Science and Technologyの研究チームは、2014年3月16日付Nature Geneticsオンライン版に掲載された研究論文で、「まったく新しい方法で、問題の遺伝子を捉えることに成功した」と報告している。研究チームは、Biobankにある何千人ものノルウェー人の遺伝子情報をスキャンし、タンパク質の機能を変える遺伝子の変異に注目した。結局、その大部分はコレステロール・レベルその他の血中脂質レベルを変化させることがすでに知られていた。ただ、TM6SF2と呼ばれる遺伝子だけはそれまでレーダーに捉えられていなかった。ノルウェー人の中でごく少数の人口がこの遺伝子の特定変異型を持っており、多数派の国民に比べて血中脂質レベルがはるかに健康な水準であり、心筋梗塞のリスクも

オーストラリアの研究者チームが、細胞内におけるインシュリンの経路を初めて克明に図表化した。この図表が、糖尿病発病の詳細な機序を理解する総合的な海図になる可能性がある。シドニー所在Garvan Institute of Medical Research の博士課程研究生Sean Humphrey氏とProfessor David Jamesのこの画期的な研究成果は、2013年5月16日付オンライン版「Cell Metabolism」に掲載されている。   1921年にその存在が発見されたインシュリン・ホルモンは、糖分を血液から細胞に移動させ、それによって血糖値を下げるという身体にとって重要な働きをしている。しかし、これまで科学者もインシュリンの目的を大まかには理解していたが、インシュリンがどのように作用するのかを正確詳細に突き止めることができなかった。それというのも、過去には人体の細胞一つ一つに存在する非常に複雑な迷路のような分子レベルの動きを観察できる装置がなかったからであり、質量分析計という精巧な分析機器の登場で初めてこれが可能になってきた。このような優れた機器の発達のおかげで、「プロテオミクス」と呼ばれるタンパク科学の広大な分野が開けてきた。タンパク質は、エネルギーを使って筋肉収縮、心拍、あるいは記憶といった機能を行う細胞の働きの中心を担っている物質である。 各細胞は、1万から1万2,000個のタンパク質タイプの複写を複数個抱えており、そのタンパク質タイプ一つ一つが、様々な手段で互いに情報を交換し合っている。そのうちでももっとも一般的な情報交換形式が「リン酸化」と呼ばれるものだ。「リン酸化」では、タンパク質にリン分子が付加され、それが情報伝達の役割を果たしたり、タンパク質の機能を変更したりしている。その細胞内のタンパク質一つずつに、リン分子を付加できる領域、「リン

「動物も人も免疫系関係の特定の遺伝子をかぎ分けることができ、その遺伝子がパートナー選びに影響を及ぼす」という学説がメディアを賑わしており、この遺伝子は、MHC (主要組織適合複合体) 遺伝子と呼ばれている。自分の持っているのとは大きく異なるMHC遺伝子を持った相手をパートナーとして選ぶことは、子孫が幅広い免疫遺伝子を持ち、したがって様々な疾患に抵抗力を持つようになるのだから、これは理にかなっている。   しかし、これまで、人や動物の発散する匂いの中にMHC遺伝子の情報を発信する匂いがあるとは知られていなかった。最近ドイツのthe University of Tubingen、Immunology departmentとProteome Centerの研究チームが、同国のthe University of Saarlandの研究者と共同研究を進め、その問題を突き止めた。この研究報告は、「Nature Communications」の2013年3月19日付オンライン版に掲載され、科学者が「パートナーを嗅ぎ出す」説をレビューすることになる。 MHC遺伝子は、細胞がどのMHCペプチドをその表面に提示するかを決定し、免疫系キラー細胞がそのMHCペプチドを認識するということはよく知られている。このペプチドは通常体内のタンパク質で構成され、どのような反応も引き起こさないが、MHCペプチドがウイルス由来のものであれば、免疫系キラー細胞がこれを外敵と認識し、攻撃する。ところが現在出されているある説によれば、MHCペプチドはMHC遺伝子に関する情報を伝える匂いでコミュニケートするとされており、マウスで試験されたのもこの説だ。特殊な感受性細胞が見つかっており、この感受性細胞はMHCペプチドを認識し、識別できることが突き止められている。また、実験では高濃度の合成MHCペプチドがマウスの行動に

2013年6月25日付「American Society for Microbiology」誌のオンライン・オープンアクセス・ジャーナル「mBioR」掲載の研究論文によれば、新型の手のひらサイズのマイクロアレイは、真菌、細菌の個別培養器を最大1,200個使用でき、以前よりもさらに迅速かつ効率的に創薬が可能になる。San AntonioのUniversity of TexasとFort Sam HoustonのU.S. Army Institute of Surgical Researchの研究者チームは、真菌バイオフィルムを培養するマイクロアレイ・プラットフォームを開発し、この技術がCandida albicansバイオフィルムに対する有効な新薬の開発に役立つ可能性を実証した (写真は一般的なマイクロアレイであり、この記事の新開発製品ではない)。   論文著者によれば、いつか、ナノスケール・プラットフォーム技術が、どんな種類の真菌や細菌による感染でも治療可能な医薬を迅速に見つけ出したり、臨床試験で特定の感染に対してもっとも効果的な抗生物質を選び出すことを可能にするかも知れないとのことである。 San Antonio のUniversity of Texas に所属する、論文共同著者のDr. Jose Lopez-Ribotは、「私たちの研究では抗真菌剤開発を念頭に装置の開発を行ったが、この装置は実際には万能ツールだ。微生物培養の新しいプラットフォームとして可能性が広がっている。大量の培養が必要な時はこの装置は他の方法に比べて格段に優れている。この技術を他の生物体に用いることは大いに可能だ」と述べている。マイクロ・テクノロジー、ナノ・テクノロジーの応用で迅速化、高効率化が可能なため、微生物学や医学もますますこういった技術を取り入れるようになっている。これまで微生物培養は

北米では毎年何万人もの人が致死的な細菌感染で亡くなっており、しかも第一線の抗生物質に耐性を持つ病原菌がますます増えている。残念なことに、研究室で細菌を培養するこれまでの方法では、感染源の細菌を同定するまでに何日もかかり、感染を完全に治療する適切な抗生物質を突き止めるまでにはさらに日数がかかるが、その間、治療を止めるわけにはいかない。細菌感染を迅速かつ正確に診断する技術が緊急に必要とされているが、まだそれに応える技術は現れていない。   このほど、University of Torontoの研究チームは、迅速にサンプルを処理し、病原菌のパネルと照合分析することができるICチップを開発した。この新技術では、病原菌を数分で同定することができるだけでなく、その作業と並行して他の細菌や薬剤耐性マーカーも探し、病原菌の正確なタイプを迅速に突き止めることができる。この新技術は、2013年6月12日付オンライン版「Nature Communications」に掲載されている。 研究論文首席著者のDr. Shana Kelley (Pharmacy and Biochemistry) は、「抗生物質の使いすぎでますます耐性菌が増えている。しかし、無効な抗生物質や不適当な抗生物質が乱用される原因は、医療現場で患者が感染している病原菌についての情報を迅速かつ正確に得る技術がまだ存在しないことにある」と述べている。その必要を満たすため、この研究チームは、尿路感染症患者のサンプル程度の細菌数を検出できるICチップを開発した。研究論文の第一著者、Chemistry Ph.D. studentのBrian Lamは、「このチップは、サンプル中の細菌のタイプを正確に割り出し、さらにその病原菌が薬剤耐性を持っているかどうかまで判定することができる」と述べている。このチップ開発のカギになったのは、各種バ

オーキシンは100年ほど前にチャールズ・ダーウィンが発見した小分子の植物ホルモンである。以来長年の間にオーキシンはもっとも重要でもっとも幅広い機能を持った植物ホルモンだということが明らかにされてきた。オーキシンは、ダーウィンが発見した芽の向日性だけでなく、新しい葉、花、根などの形成、根の生長、重力屈性など植物の成長と発生のほとんどすべての面を統御している。   オーキシンのような小さな分子が植物でそれほど重要な役割を果たしていることは何十年にもわたって植物生物学者を悩ませてきた。10年ほど前には細胞核にオーキシン受容信号伝達系が発見されたが、依然としてオーキシンの幅広い役割を説明することができなかった。しかし、最近になってUniversity of California (UC), Riversideの植物細胞生理学者チームが新しいオーキシン受容信号伝達複合体を発見した。この複合体は細胞核ではなく、細胞表面に集まっていた。研究チームは、「この発見で、オーキシンの作用機序に新しいヒントが得られた」と述べており、Department of Botany and Plant Sciencesの細胞生物学教授、Dr. Zhenbiao Yangは、「この発見はオーキシン生物学の新しい出発点となるものであり、この分野への関心が高まるかも知れない。 私たちの研究で植物の細胞外オーキシン受容体の存在を突き止めた。その存在は以前から仮説として出されていたがこれまで確認されていなかった。さらに、オーキシン結合タンパク質のABP1が植物の発生過程を統御する機序は何十年も謎だったが、私たちの研究でそれがようやくつかめた」と述べている。ABP1は40年以上前に発見されていたがその作用機序がつかめないため、最近になってDr. Yangの研究チームが解明するまで、植物生物学者の間でその役割につい

Case Western Reserve Universityの研究チームは、単一で2つの疾患に対して別個の役割を果たす遺伝子を発見した。この遺伝子は乳がんの発生と広がりを抑制するだけでなく、心臓の健康増進にも役立っている。2012年、同大学の医学部研究チームは、マウスのモデルでHEXIM1という遺伝子に乳がんを抑制する効果があることを発見していた。   しかし、今度は同じ遺伝子が心臓の血管の数や密度を増強することを突き止めた。これは心臓の健康さを示すものだ。研究チームがマウス成体の心臓にHEXIM1遺伝子を再発現させたところ、運動をしていないのにも関わらず心臓が重くなりかつ大きくなり、さらに休憩状態での心拍数も下がった。心拍数の低下は心臓の効率が向上していることを示しており、遺伝子転換した心臓の心拍ごとの血流量が増えていることでも裏付けられている。また、遺伝子転換マウスは、訓練されていないにもかかわらず、遺伝子転換していないマウスに比べて2倍も長く走れるようになった。Case Comprehensive Cancer Centerのメンバーで薬理学の准教授を務めるMonica Montano, Ph.D.は、「私たちの研究で、HEXIM1が我が国の二大死因である心臓病とがんの双方を抑え込む役割を果たすのではないかと期待している」と述べている。Monica Montano, Ph.D.は、心臓とがんの研究のためにこのマウスを作り出した人であり、この研究を指導してきた人だ。 高血圧とそれに伴う心不全は、必要心拍数では血管が心筋の酸素・栄養必要量を運びきれないことが特徴であり、その不足を補うために心臓が肥大したり、逆に心臓が弱まり、最終的に停止に至ることになる。この研究では、HEXIM1量を人為的に強化した結果、心機能が全般に向上したことが示されており、将来的にHEXIM

微細DNA技術の発展でナノテクノロジーもナノテクノロジストだけの分野ではなくなってきた。ハーバードのWyss Instituteの研究チームが、細菌1個の10分の1という幅の自己集合型DNAケージ作成に成功した。2014年3月13日付Science誌オンライン版に掲載された研究報告で、このケージ構造はDNAだけで組み立てられたものとしてはもっとも大きく、しかももっとも複雑な構造をしていると述べている。   さらに、研究チームはDNAベースの超解像顕微鏡法を用いてこのケージ構造を視覚化、溶液中の完璧な人工DNAナノ構造の鮮明な立体光学画像を作ることに成功した。将来的には、DNAケージにコーティングし、内容物を封じ込めたり、体内組織に送り込むために薬剤を梱包することもできるようになる可能性がある。そればかりか、このケージに化学的なフックを付けて戸棚のように改造し、タンパク質や金ナノ粒子などのコンポーネントを引っかけておくこともできる。この方法で、超小型の発電所、専門用途の化合物を製造する微小工場、異常組織がつくり出す分子を検出することによって疾患を診断できる高感度フォトニック・センサーなど様々なテクノロジーをつくり出すことができる。Wyss InstituteのCore Facultyメンバーで、Harvard Medical SchoolのSystems Biology准教授を務め、この研究論文の首席著者でもあるPeng Yin, Ph.D.は、「このテクノロジーには大きな可能性がある」と語っている。 DNAは遺伝子情報の保管所として知られている。しかし、DNAナノテクノロジーという新しい分野の研究者は、DNAを使って様々な用途の微小構造をつくることを研究している。この構造はプログラマブルであり、DNAの中に特定の文字あるいは塩基のシーケンスを定義しておくと、そのシーケ

人間にとって植物は様々な重要な機能を持っている。食料や燃料を供給し、私たちが呼吸する酸素を吐き出し、環境に彩りを添えてくれる。MITの研究チームは、Cal Techや、トルコのDumlupinar Universityとの共同研究で、ナノ材料を使って植物のエネルギー生産を強化したり、環境汚染物質のモニターなどまったく新しい機能を持たせたりなど植物をさらに有用なものに作り替える研究を進めている。   2014年3月16日付「Nature Materials」誌オンライン版に掲載された研究論文では、植物が光合成を行う葉緑体と呼ばれる細胞小器官にカーボン・ナノチューブを埋め込むことで光エネルギー捕捉量を30%強化する実験を報告している。また、少し違ったタイプのカーボン・ナノチューブを使って、酸化窒素ガスを検出するように植物を作り替えることができた。これらは、研究者が「植物ナノ生物工学」と呼んでいる科学分野への第一歩を象徴している。MITでChemical EngineeringのCarbon P. Dubbs Professorを務め、研究チームを指導するDr. Michael Stranoは、「技術のプラットフォームとして植物は非常に魅力的だ。植物は組織修復力が強く、環境に対して安定な外皮を持っており、苛酷な環境でも生き延びることができる。また、それ自身でエネルギー源と水分配給系を持っている」と述べている。 Dr. Stranoと、この論文の筆頭著者で植物生物学ポスドク研究者のDr. Juan Pablo Giraldoは、植物を作り替え、爆発物や化学兵器を検知する自己駆動型光通信装置にする可能性を考えている。また、電子装置を植物に組み込むことも考えており、Dr. Stranoは、「可能性は無限だ」と述べている。ナノ生物工学植物のアイデアは、Dr. Stranoのラボで植

オーストラリアのUniversity of Adelaideの研究により、知的障害に関連する遺伝子が脳の発達最初期段階で重要な役割を果たしていることが確認された。University of Adelaideの研究チームは、10年以上をかけてUSP9Xと呼ばれるこの遺伝子の働きを研究してきたが、ようやく最近になってこの遺伝子が脳の発達に特に重要であることが明らかになってきた。   同大学のRobinson Research Instituteが中心になって進めている国際的な研究チームは、2014年3月6日付American Journal of Human Geneticsのオンライン版に掲載された研究論文で、USP9Xの突然変異が知的障害をもたらす機序を解き明かしている。この突然変異は世代間で遺伝する可能性があるもので、正常な脳細胞の機能を妨げることが明らかにされている。Brain Awareness Weekの活動で、University of AdelaideのNeurogenetics Research Programの首席共同著者、Dr. Lachlan Jollyが、脳の発達と障害の謎に光を当てている。 Dr. Jollyは、脳細胞の複雑なネットワークの基礎的枠組みの形成は胎芽段階で始まると述べており、「知的障害、てんかん、自閉症といった脳細胞ネットワークの変化を引き起こす障害を解明することも、まして治療することも難しいことは意外ではない。学習や記憶に非常な困難を持つ患者を調べた結果、USP9Xと呼ばれる遺伝子を発見した。この遺伝子は神経細胞の基礎的なネットワーク形成に関わっているもので、幹細胞が神経細胞に分化し、さらに神経細胞同士が互いに接続し合い、適正なネットワークを形成するまでの過程を制御している」と述べている。博士はさらに、「この研究で、脳の発達や障

生物には苛酷な環境の攻撃に対応して進化していく能力が備わっている。ある研究チームがこの生物の能力を利用してモデル細菌Escherichia coliの電離放射線に対する耐性を大きく引き上げただけでなく、耐性向上の遺伝子的メカニズムも解明した。2014年3月4日付オンライン・ジャーナル「eLife」のオープン・アクセスの研究論文で、大腸菌がわずかな突然変異で通常なら致命的な量の放射線にも耐えられるようになったことを示している。   この研究は、生物が放射線による細胞の損傷に耐え、DNAの損傷を修復する能力をより深く理解するための手がかりになる重要な発見である。eLife研究報告書の筆頭著者、University of Wisconsin-MadisonのMichael Cox生化学教授は、「私たちの研究から、修復システムが環境に順応し、この順応能力が放射線耐性向上に寄与していることが示されている」と述べている。以前にDr. Coxの研究チームがLouisiana State Universityの生物科学教授、Dr. John R. Battistaと共同で行った研究で、大腸菌の培養器をコバルト60アイソトープの高線量放射能に曝露することで大腸菌が進化し、電離放射能に耐性を持つようになることを実証している。 Dr. Coxは、「大腸菌が99%死滅するまで放射線を照射した。その後、生き残った大腸菌を培養し、再び放射線を照射するという作業を20回繰り返した」と述べている。その結果、大腸菌は、10の4乗倍の電離放射線にも耐えられるようになった。これは、1950年代に発見されたデイノコッカスラディオデュランスという砂漠に棲息する細菌が持っている驚異的な放射線耐性に匹敵する。この細菌は、人間が死ぬ線量の1000倍の放射線を浴びても生き延びることができる。Dr. Coxは、「デイノ

Hebrew University of Jerusalemとカリフォルニア州の研究チームは、有望とされている抗がん治療がなぜ腫瘍細胞の死滅に期待したような効果を挙げられないのか、その原因解明に一歩近づいた。同チームの研究成果は、この手詰まり状態を打開するために大きな理解をもたらしてくれるかも知れない。研究対象になった問題の治療法は、mTOR (哺乳類ラパマイシン標的タンパク質) の活性阻害をターゲットとするものである。   mTORは、細胞が環境から受け取った分子シグナルの処理の管理に重要な役割を果たしており、各種固形がんで特に強く活性化されることが知られている。これまで薬剤によってmTORの活性を阻害する方法では、がん性腫瘍外層のがん細胞を死滅させることはできているが、腫瘍の中心部に対しては、これまでの臨床治験では思わしい成果が得られていない。酸素供給量が低下する状態、すなわちhypoxiaと呼ばれる低酸素環境は殆んど全ての固形腫瘍に対して作り出す治療であるが、それに対する腫瘍の反応の有様は多岐にわたる。mTORのシグナリングが低酸素状態の影響を受け、また変化を受けることは知られているが、この現象を説明できるメカニズムはまだ明らかになっていない。 Hebrew University of Jerusalem、Institute of ChemistryのProfessor Emeritus Raphael D. Levineや、California Institute of Technology、David Geffen School of Medicine at UCLAの研究者を含めた研究チームは、抗mTOR薬剤の効力の低下が脳腫瘍モデルにおけるmTORのシグナリングに対する低酸素状態の影響によって説明できるのではないかとの仮説に基づいて研究を進め、その研究成

British Antarctic SurveyとUniversity of Readingの研究チームがCell Pressの2014年3月17日付「Current Biology」オンライン版に研究論文を掲載、「南極のコケが1,500年間氷の下で完全に休眠状態で過ごした後、生き返ることができた」と発表している。その研究以前には、長年凍結した植物がそのまま再生を始められるというのは凍結期間20年が最高限度で、それ以上になると、長年凍結休止状態にあった生物が復活するというのは微生物に限られていた。   British Antarctic SurveyのDr. Peter Conveyは、「これらのコケは基本的に長期冷凍状態にあった。これほど長期間凍結状態にあって生き延び、復活したというのはこれまで報告されていない」と述べている。博士は、「北極圏でも南極圏でもコケは陸地の一次生産者であり、コケがこのように凍結状態で長年生き延びることができるという事実は南極の生態系や気候を考える上で重要な意味がある」と述べ、特に北半球高緯度地域では固定炭素が大部分コケの形で貯蔵されている。コケがこれほど長期間凍結状態で生き延びることができるなら、氷が後退していった後のコケ再生には遠くから海を越えてコケが群生するのを待つ必要はないはずだ。 Dr. Conveyと同僚研究者は主として極地のコケのコアを研究しており、このコケのコアは過去の気候条件の履歴を保存している。彼らは、このコケのコアから各時代の成長率を調べ、その成長率から割り出した各時代の環境や環境の変化を再現している。現在、南極のコア・サンプルで研究しているコケの堆積物で最古のものは5,000年から6,000年前にさかのぼる。彼らが現在研究しているコア・サンプルは、その基部で2,000年近いものである。研究を始めた当初は、10年か20

開き、供給し、刻む。これがRice Universityの研究チームが研究対象としているモーター分子の日常的に損傷したタンパク質を食べては吐き出し、無害なペプチドに変換して処分するという単調な暮らしである。その理由ははっきりしている。この「ゴミ箱」がなければ、モーター分子を抱えている大腸菌が死滅してしまうからだ。   Rice University研究チームのおかげで、その機序も明らかになってきた。Rice Universityの生物理学チームは、超小型機械、FtsH-AAA六量体ペプチダーゼと呼ばれるプロテアーゼをモデルとして使い、遺伝子データと構造データを合わせた計算を試験した。同チームの目標は、生物学でもっとも大きな謎の一つ、生命の根源である細胞内のタンパク質の調節機構の機序を解明することにある。Rice UniversityのDr. Jose Onuchic、ポスドク研究者のDr. Biman Jana、Dr. Faruck Morcosの生物物理学者チームは、2014年3月7日付のRoyal Society of Chemistryの学術誌「Physical Chemistry Chemical Physics」特別号オンライン版に新研究論文を投稿している。 Rice Universityの生物理学者、Dr. Peter Wolynesと、National Cancer Instituteの研究者で、Tel Aviv University, Sackler School of Medicineの教授を務めるDr. Ruth Nussinovが編集した特別号は、現在のデータの爆発的な増加とますますパワフルになっていくコンピュータの力を合同することで分子生物学の第二の革命を引き寄せようとしていることについて現在的な考えをまとめている。この研究論文では、Onuch

Cedars-Sinai Samuel Oschin Comprehensive Cancer Institute (米カリフォルニア州) の研究チームは、前立腺がんの外側のストローマ細胞と呼ばれる結合組織の中で、よく知られたタンパク質が重要な役割を果たしていることを初めて突き止めた。これまでも、前立腺がんでcaveolin-1 (Cav-1) と呼ばれるタンパク質が腫瘍の治療抵抗性や悪性化などの役割を果たしていることは研究者によく知られていたが、この研究以前にはストローマ細胞内でのCav-1の役割についてはよく知られていなかった。   2013年5月31日付Journal of Pathologyオンライン版に掲載されたこの研究論文は、「ストローマ細胞内のCav-1タンパク質の量が下がるのは腫瘍が進行していることを示しており、腫瘍でのCav-1の役割として知られていたのとは逆」であることを明らかにしている。腫瘍内でこのタンパク質が増えることは腫瘍の進行を示していたのだ。このヒトの腫瘍に関する発見は、前立腺がんのストローマ細胞のCav-1量が減っている場合、一般的には予後が悪く、再発する可能性が高いことを示唆している。 Urologic Oncology Research Program の准教授で、この研究の上級研究員のDolores Di Vizio, M.D., Ph.D.は、「前立腺がんがその微小環境あるいはストローマ細胞と情報交換するメカニズムは、疾患の悪性化や治療に対する反応を評価する上で是非とも理解しておかなければならない重要なプロセスだ。この研究でも、男性特有のこの疾患の複雑さを理解するためには前立腺がんを取り巻く細胞が、がんそのものと同じくらい重要だということを示している。この研究はまだ初期段階だがいずれ新しいマーカーを発見し、診断と治療を助けるだけ

中国は過去20年で結核罹患率を10万人あたり170人から59人へと半分以下に減らした。2014年3月18日付The Lancetオンライン版には20年にわたる全国調査データ分析から割り出された研究結果が掲載されている。その論文によると他に類を見ないこの大成功にはWHOの提唱する直接服薬指導による短期化学療法(DOTS)戦略の対象が1990年代には人口の半分だったが、2000年以降は全人口に飛躍的に広げられたことが大きく寄与している。   この研究を指導した北京のChinese Center for Disease Control and Prevention (中国疾病預防控制中心) のDr. Yu Wang (王宇博士) は、「Stop TB Partnershipが設定した基本的世界結核絶滅目標の一つは1990年から2015年の間に結核罹患率を50%引き下げることだった。中国のこの研究から、その目標の達成が可能なこと、また中国はこの目標を予定より5年も早く達成した」と述べ、さらに、「結核の治療を病院から地域公共衛生センターに移し、DOTS戦略を実施することで結核治療が飛躍的に進歩したことがこの成功に大きく貢献している」と述べている。 中国は世界でも結核患者が多く、毎年100万人が新たに結核と診断され、世界の新患者の11%を占めている。1990年と2000年の全国結核罹患率調査で、DOTSプログラムが実施された13省で結核罹患率が30%下がっていることが明らかになった。しかし、全国的な結核罹患率は10年間でわずか19%しか下がっていない。全国的な結核の負担を再評価するため、2010年に実施されたもう一つの調査で、DOTSプログラムを全国に普及させた効果を知る機会ができた。2010年、中国本土全31省の176箇所の調査地区で253,000人近い15歳以上の住民を対象に

University of Vienna進化発生学者、Dr. Ulrich Technauに率いられた研究チームは、イソギンチャクのゲノム全体像がショウジョウバエその他の動物モデルのシステムによく似た複雑な調節エレメントを持っていることを突き止めた。このことは、遺伝子調節の原理は6億年前にはすでに確立しており、ヒト、ハエ、イソギンチャク共通の祖先にまで遡ることを示している。   一方で、イソギンチャクの遺伝子発現の調節がmicroRNAと呼ばれる短い調節RNAによって制御されるという面では脊椎動物や昆虫よりも植物に近いと言える。この驚くべき進化学的な発見は、2014年3月18日付Genome Researchのオープン・アクセス論文2件に紹介されている。人間の外的特徴、体形、身体機能などは環境的な影響に加えて私たちが持っている遺伝子の働きによるところが大きい。しかし、遺伝子は単一で働くことはむしろまれで、遺伝子調節ネットワークで他の遺伝子と協力したり、互いの動きや発現を調節したりするのが普通である。過去何十年か、ヒトや様々な動物のゲノムのシーケンシングが行われ、イソギンチャクのような解剖学的に単純な生命体も高等な生命体に似た驚くほど複雑な遺伝子レパートリーを持っていることが明らかにされてきた。このことは、生態学的な複雑さの違いは特定の遺伝子の存在や不在で簡単に説明できないことを示している。 そのため、研究者の中には、個々の遺伝子が複雑な身体の計画図をコード化しているのではなく、遺伝子が互いにどのように接続され、リンクされているかで決まるのではないかという仮説を立てている者もいる。そのため、単純な生命体は、ヒトや高等動物に比べてこの遺伝子のネットワークがより単純なのではないかと考えられている。遺伝子調節の複雑さは、ゲノムの調節配列の配分や密度で計ることができる。エンハン

重篤な症状を呈する骨の感染症、骨髄炎の病原体は主に黄色ブドウ球菌 (“staph”、スタフ) であり、その治療は非常に厄介である。しかし、Vanderbiltの微生物学者、Eric Skaar, Ph.D., M.P.H.と同僚のチームは、骨髄炎の有効な治療薬になるかもしれない抗黄色ブドウ球菌化合物を発見、さらに、その化合物の試験と新しい治療手段を確立するために新しいマウス・モデルも開発した。   Pediatric Infectious Diseasesの特別研究員、James Cassat, M.D., Ph.D.は、小児骨感染症の治療法改善を研究しており、また、マウス・モデルの研究指導も引き受けている。Dr. Cassatは、Vanderbilt Center for Bone BiologyとVanderbilt University Institute of Imaging Scienceの同僚研究者との共同研究で、外科的に植え付けた骨感染が広がる様子を映像化するmicro-computed tomography (マイクロCT) 撮影技術を開発した。Ernest W. Goodpasture Professor of PathologyのDr. Skaarは、「マイクロCTで、骨に与えられた損傷をかなり優れた解像力の映像で捉えることができた。 研究の結果、黄色ブドウ球菌は単に骨を破壊するだけでなく、新しい骨の再生を促すことも突き止められた。黄色ブドウ球菌は、骨の作り替えにかなりの変化を引き起こしている」と述べている。それだけでなく、Dr. Cassatは、感染した骨から細菌を回収し、数える手段も編み出した。Dr. Skaarは、「治療法開発の視点から言えば、このモデルは、黄色ブドウ球菌その他、骨髄炎を引き起こす細菌による骨感染症に対する新開発化合物の効力を

シカゴのUniversity of Illinois (UIC) の研究チームが、「傷に低強度の振動を与えることで治癒が早まる可能性がある」という研究報告を発表している。2型糖尿病に悩む1,800万人のアメリカ国民にとって、また特に2型糖尿病患者の4人に1人は足の潰瘍に苦しんでいるため、マウスを対象にして行われた研究で傷の治癒が早まったというニュースは朗報である。2型糖尿病患者の傷は治りにくく、慢性化したり、時には急激に悪化する場合もある。   UIC College of Applied Health Sciencesの運動学・栄養学教授、Dr. Timothy Kohは、ニューヨークのStony Brook Universityの研究に興味を持った。その研究は極低強度信号を与えることで骨組織再生を加速したというもので、Dr. Kohは、「このテクニックはすでに臨床試験にかけられており、振動が骨の健康を改善し、骨粗鬆症を予防するかどうかを研究しているところだ」と述べている。また、UICのDr. Kohと同僚研究者は、Stony BrookのDr. Stefan Judexと共同で研究を進め、同じテクニックを糖尿病患者の傷の治癒過程の改善に使えないか研究している。 糖尿病のマウス・モデルを使った新しい研究の論文が2014年3月11日付オープン・アクセス・ジャーナルPLOS ONEのオンライン版に掲載されている。実験に用いられている低振幅振動は手で触れてもほとんど感じられない程度のもので、研究論文の第一著者、UICの運動学・栄養学ポスドク研究員、Dr. Eileen Weinheimer-Hausは、「この振動は大きく揺れる地震というよりはかすかにブーンと鳴っているという感じだ」と述べている。研究の結果、週5回、各30分間、振動にさらしたマウスは、対照グループのマウスに

2014年9月11日Agilent Technologies Inc. (NYSE:A) のプレスリリースによると、同社は最新の超高速液体クロマトグラフィー (UHPLC) を2014年9月23日に上海で開催されるラボテクノロジー・分析・バイオテクノロジーおよび診断のための国際見本市Analytica Chinaで発表予定と報じた。「私たちは、この重要な科学イベントで当社の最新のUHPLCソリューションをご紹介させていただくことを嬉しく思います」と副社長兼Agilentリキッドフェーズセパレーション部門ゼネラルマネージャーのStefan Schuette氏は述べている。「この強力な新しい装置は重要な新機能の組み合わせにより、高次元の達成成果を優れた品質で確信と共に研究者に提供します。」この新製品は、上海の新国際博覧センター、ホールN2、ブース2102で発表される予定である。Agilentは会期中、ブースに同社サイエンティストを配置し、来訪者からの製品の特徴やスペックに関する質問に応じる予定である。   新製品発表に関する詳細は、http://NextUHPLC.agilent.com またはソーシャルメディア#NextUHPLC を通じて発表される予定である。 Agilent Technologies Inc.は、世界有数の計測機器会社であり、化学分析、ライフサイエンス、診断、エレクトロニクス、通信技術のリーダーである。同社の20,600人の従業員は100カ国以上で顧客にサービスを提供しており、2013年度の収益は68億ドルであった。Agilentの詳細については、www.agilent.com を参照のこと。2013年9月19日、Agilentは、その電子計測事業をスピンオフして2つの上場会社に分離する計画を発表している。新会社の名称は、Keysight Techn

休暇でハメをはずして飲み過ぎたことを後悔する人は、二日酔いの吐き気、眠気、ふらつきにはそれなりにプラスの側面があると言ってもうれしくないかも知れないUniversity of Utahの神経学研究グループの研究論文によれば、ラットの脳の外側手綱核と呼ばれる領域を慢性的に不活性化すると、ラットは何度飲み過ぎてもこりず、経験から学ぶ能力も衰えることが突き止められている。2014年4月2日付オープン・アクセスPLOS ONEのオンライン版に掲載されたこの研究論文は、アルコール中毒になる行動傾向を理解する手がかりを示している。   複雑化した社会の圧力もアルコール中毒を引き起こす一因ではあるが、生理的な要因も見過ごすことはできない。アルコールは依存性の高い薬物で、その原因は、アルコールが脳の報酬系を刺激し、快感をもたらす神経伝達物質を放出させるからである。飲み過ぎが不快な結果になることから次の時にはアルコールの誘惑に抵抗する気になるという有益な行為が導き出されるが、そのメカニズムがどのように制御されるのかという機序についてはまだほとんど分かっていない。 しかし、University of Utahの神経生物学と解剖学の教授、Sharif Taha, Ph.D.と同僚研究者は、ラットの外側手綱核を不活性化することで常習中毒的行動が強まることを実証した。このラットに数週間にわたり、断続的に20%アルコール水溶液を飲めるようにしたところ、外側手綱核を不活性化していない対照群のラットよりも急いで飲み、しかも飲む量も増えていくという結果になった。Dr. Tahaは、「人間の場合、飲酒量が増えていくかどうかが付き合い程度の飲酒とアルコール中毒者の飲酒との違いになっている。実験のラットの飲酒量はかなりのもので、ラットが車を運転した場合、法的に飲酒運転になる量だった」と述べている。外側手綱核

指を針で刺して採取した血液試料を用いて、診断の難しい複雑な疼痛障害、線維筋痛症候群を検知する信頼性の高い検査法を開発した研究者グループがある。研究チームは、この検査法が一般開業医に普及すれば、患者が線維筋痛症と診断される5年前に発症を予測できるようになると見込んでいる。予備研究として、研究チームは、線維筋痛症の患者から採取した血液試料を高性能特殊顕微鏡で検査し、特定の分子マーカーの探索を行なった。   その特定分子マーカーのパターンを認識するよう装置を調整した結果、顕微鏡は線維筋痛症と、同じ症状を示す2種の関節炎とを識別できるようになった。 どの分子が線維筋痛症発症に関わっているのかを突き止めるためにはさらに分析を続けなければならないが、研究チームは、予備研究のデータでは期待が持てそうだとしている。The Ohio State University獣医臨床科学教授のDr. Tony Buffingtonは、「この試験法が、線維筋痛症患者の診断する上で重要な助けになるという証拠をつかんでいる。私たちとしては、この研究成果が一般開業医が利用できる客観テストに結びつき、線維筋痛症の自覚症状が出る5年前に疾患を発見できるようになることを期待している」と述べている。 この疾患は最終的な診断が出るまでの検査に時間がかかるため、患者が治療を受ける時にはすでに症状が重くなっていることが多い。この疾患の主な特徴である慢性的な痛みと疲労感などは、他の疾患でもよく現れる症状であり、医師は他の考えられる疾患をすべて消去してからようやく線維筋痛症と診断を出す傾向がある。この疾患の他の症状としては、睡眠障害や記憶、思考の乱れなどがある。National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseasesによると、アメリカ国内

2013年6月12日付オンライン版Restorative Neurology and Neuroscienceに掲載された新しい研究論文は、ラットに脊髄負傷後3週間にわたって漢方薬の脊髄康 (Jisuikang、JSK) を与えた結果、運動機能が改善され、組織損傷が軽減され、さらには対照グループのラットと比較しても神経細胞の構造が保たれていたと報告している。   さらに論文では、JSKがまず炎症を抑え、細胞のアポトーシスと死滅を減らし、局部的な酸素供給を増大させ、その後は機能を回復させ、組織再生を促進することを示すデータも掲載している。漢方薬は伝統的に様々な病気に用いられてきたが、その効能というのも事例証拠というべきものであり、現代の医薬のような対照比較試験で導き出されたものではない。オンタリオ州ハミルトン所在のMcMaster University、Hamilton NeuroRestorative Groupの主任、Shucui Jiang, M.D., Ph.D.は、この研究の共同筆頭研究者を務めており、「漢方薬医のいくつかの事例報告では、JSKという新しい漢方薬配合での治療を1週間ないし3か月続けることで機能回復が向上したとしている。 私たちの今手がけている研究では、JSK研究を続けるために重要かつ必須な基礎固めをしている」と述べている。また、ラットは脊椎損傷を受けた直後からJSKによる治療を始めた。試験開始後7日足らずで、JSK治療ラットは、食塩水だけを与えたラットに比べると後肢運動機能がめざましく改善された。21日間の試験期間中もJSKを投与したラットは対照グループのラットに比べると常に運動機能が優っており、四肢は体重を支えることができるようだったし、連係動作も優っていた。損傷後7日目に研究者が脊椎組織サンプルを調べたところ、JSKを投与したラットでは脊椎

2013年8月13日、米国立衛生研究所 (NIH) は、24件の研究プロジェクトに総額1,700万ドルの助成金を交付すると発表した。これらのプロジェクトは、最近発見された、exRNAと呼ばれる細胞外RNAの作用による細胞間情報伝達の仕組みをさらに解明することを目的としており、この助成金交付で研究者はexRNAの基礎的な研究を行い、その成果を疾患の研究、診断、治療に応用する手段や技術を開発することができる。   助成金を交付される研究プロジェクトは、この新しい科学分野の可能性を十分に開花させるため、exRNAが役立つ疾患の解明に取り組むことになっている。対象疾患として各種のがん、骨髄疾患、心臓疾患、アルツハイマー病、多発性硬化症などが考えらる。細胞外RNA情報伝達に関する多機関横断型研究プログラムは、NIH Common Fundのサポートで、National Center for Advancing Translational Sciences (NCATS)、National Cancer Institute (NCI)、National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)、National Institute on Drug Abuse (NIDA)、National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS)などNIHの枠を超えた機関が主導して行われた。NIHのDirector Francis S. Collins, M.D., Ph.D.は、「最近発見された細胞間の情報伝達手段についてさらに研究を進めていく非常に広大な機会が開けている。この科学分野はこれからますます重要になると考えられ、その理解を広げていけば健康や疾患に対する細胞外RNAの役割を決定す

長年、研究者は、主要精神障害がニューロン同士をつなぐシナプスの遺伝的な原因による障害ではないかと考えていた。しかし、最近、National Institutes of Health (NIH) などの機関の援助を受けた研究チームが患者の細胞を使った研究を行い、特定遺伝子のごくまれな突然変異によって、シナプス接続に関わるいくつもの遺伝子のオン・オフが混乱させられることを実証した。   NIHのNational Institute of Mental Health (NIMH) から研究資金を受けた、Johns Hopkins University, BaltimoreのHongjun Song, Ph.D.は、「この研究結果は、複雑な精神疾患の患者の脳内で遺伝的なリスク、脳発育異常、シナプス機能障害が脳の神経回路を損なう仕組みを細胞レベルで明らかにした」と述べている。Dr. Songとアメリカ、中国、日本の大学の共同研究者の研究論文が2014年8月17日付Nature誌に掲載されている。NIMHのdirector、Thomas R. Insel, M.D.は、「この研究のアプローチの仕方は、脳発育と遺伝的手がかりを結ぶモデル・ケースになる」と述べている。 統合失調症などほとんどの主要精神障害は、複数の遺伝子と環境的要因の複雑な相互作用によって引き起こされると考えられている。しかし、単一の家族の間で遺伝している単一疾患関連遺伝子のまれな症例を研究することで発見の糸口を早くつかむこともできる。何十年も前、研究チームは、あるスコットランド氏族の間に高率で出現する統合失調症と、しばしば遺伝的に重なり合って現れるその他の精神障害を調べ、それがDISC1 (Disrupted In Schizophrenia-1) と呼ばれる遺伝子の突然変異に由来することを突き止めた。しかし、これ

生物種の特徴を決める生物学的情報はDNAにエンコードされており、そのDNAの損傷は、細胞が分裂増殖する過程で否応なく起きる自然な生物学的現象である。その他にも、過剰に太陽光にさらされるなど外的要因でもDNAの損傷が起きる。Michigan State Universityの生化学・分子生物学教授のDr. Michael Feigは、人体が損傷を受けたDNAを識別し、修復しようとする機序に深い関心を持っており、特に欠陥DNAを識別し、DNA修復を開始するMutSやMSH2-MSH6などのタンパクを研究している。   この自然なDNA修復の過程は、MutS (各種DNAのミスマッチを認識する主力タンパク) などのタンパクがDNAをスキャンし、不良箇所を発見すると他の酵素を呼び出し、実際の修復を行わせるというように進む。Dr. Feig は、「ここで重要なのは、この不良箇所発見の仕組みを理解することだ。DNAの損傷は頻繁に起きており、そのDNAを自分で修復できなければ長くは生きられない」と説明する。なぜなら、損傷したDNAを修復しないままにしておくと細胞を次々と損ない、がんのような疾患になるからである。 Dr. Feigは、大学院生だった1998年当時から国のスーパーコンピュータ設備を利用し、大規模なコンピュータ・シミュレーションで細胞判別過程を詳しく解明してきた。数値シミュレーションを使うことで、MutS、MSH2-MSH6がDNAをスキャンし、どのDNAが修復の必要があるかを判断する様子を原子レベルで詳しく観察することができた。この仕組み全体は非常に複雑なため、その研究には大規模なコンピュータ設備で何年にもわたって何千万時間ものCPUコア稼働時間をかけなければらない。Dr. Feigは、「私たちの研究では求める答を得るためには、原子レベル高解像度のシミュレーション機能を

ほとんどの記憶には何らかの情動連合が伴っている。ビーチで過ごした一週間を思い出すと楽しい気持ちになることだろうし、いじめられた経験を思い出すといやな気持ちになるはず。MITの神経学者チームの新研究で、記憶が快い感情、不快な感情とどのように結びつくかを決める脳の回路が明らかにされた。さらには、光の照射でニューロンの活動を制御するオプトジェネティクスと呼ばれるテクニックを使って脳細胞を操作し、特定の記憶と情動連合を反転させられることにも成功した。   2014年8月27日付Nature誌オンライン版に掲載されたこの研究論文は、海馬と扁桃体を接続するニューロン回路が情動と記憶の連合に重要な役割を果たしていることを明らかにした。研究チームは、「この回路をターゲットとする新薬を開発し、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) などの障害の治療を助けることもできる」と述べている。この論文の首席著者で、MITのPicower Institute for Learning and Memory のPicower Professor of Biology and Neuroscience、RIKEN-MIT Center for Neural Circuit GeneticsのDirectorなどを兼任する利根川進博士 (写真) は、「将来、不快な記憶よりも快い記憶をより強く思い出すような方法を見つけることができるかも知れない」と述べている。 利根川博士は、多様な抗体を生成する遺伝メカニズムの発見で1987年にノーベル生理学医学賞を受賞している。またこの研究論文の筆頭著者は、MIT, Howard Hughes Medical Instituteのポスドク、Dr. Roger Redondoと、MIT, Department of BiologyのJoshua Kim院生が務めている。記憶

AB Sciexは、2014年8月26日付プレスリリースで、Dalton Pharma Services (Dalton) と共同研究提携し、抗体薬物複合体 (ADC) 分析能力を開発すると発表した。このコラボレーションの目的として、薬物負荷と高分子中の共役の位置を判定するための確実包括的なメソッドを開発することも含まれている。   ターゲット化した抗体ベースの治療法を市場に送り出す動きが盛んになっており、このコラボレーションもAB SCIEXがその動きをサポートすることに力を注いでいることを示している。両社の共通の目的は顧客の構想から商品化まで医薬開発の時間短縮を支援することにある。コラボレーションにより、ライフサイエンス分析テクノロジーで世界をリードするAB SCIEXにとっては、Daltonの特殊複合体合成能力を活用できるようになる。研究作業には、AB SCIEXの専門家と共同してDaltonの研究者がADCの前処理と特性化を行い、TripleTOFR 5600+システムとSelexION™テクノロジー、及び新型のTripleTOFR 6600プラットフォームでの共役分子の化学構造を決定するための標準的な分析手順を開発することなどがある。 Dalton Pharma ServicesのChemistry Manager、Dr. Tan Quachは、「抗体薬物複合体医薬開発を成功させるための重要課題は、最終的産物となる分子の構造と負荷量を理解することだ。開発初期段階で薬物を結合させる抗体の部位を決め、抗体に結合させる薬物分子の数を決めることなどが新規ADCが成功するかどうかの重要な指標になる」と述べている。AB SCIEXのVice President, LC/ MS Business、Dr. Chris Radloffは、「最近の質量分光分析法の発達は、ADC

2014年3月4日付Genome Biologyのオープン・アクセス論文に掲載された研究論文で、U.S. Forest Service Southern Research Station (SRS) の研究グループがテーダ松 (Pinus taeda) のゲノムのシーケンシング、アセンブリ、アノテーションを報告している。アメリカ合衆国の林業にとってテーダ松はパルプ原料、製材用の最大樹種であり、南部諸州にとっても国全体にとっても経済的に重要な位置を占めている。   University of California, Davisの植物学教授、Dr. David Nealeが、このテーダ松ゲノム・プロジェクトを指導した。SRS Southern Institute for Forest Genetics (SIFG) プロジェクトのリーダーを務めた遺伝学研究者のDr. C. Dana Nelsonは、「テーダ松のゲノムは22ギガ塩基配列の大きさがあり、ヒト・ゲノムの約8倍の規模になるため、このプロジェクトも膨大な作業になった。研究グループがテーダ松をプロジェクトに取り上げたのは、この樹種が経済的に重要であることと、60年にわたるテーダ松育種と品種改良のために何百万本もの苗を管理してきた実績から得られた豊富な知識の蓄積が背景にある」と述べている。 プロジェクトの一環として、研究グループは、南部州のテーダ松に感染するFusiform Rust病と呼ばれる病気に対する耐性を持った遺伝子候補を突き止めた。SIFGの生物学技術者、Katherine Smithは、University of Florida (UF), School of Forest Resources and Conservationの教授とassociate directorとを兼任するDr. John M. D

イヌはヒトの最良の友と言われている。他のペット動物でこれほど人間の生活様式に適応できる動物はいない。オーストリアのVetmeduni Vienna, Messerli Research Instituteの研究チームは、世界で初めてイヌの生涯にわたる注意力の発達や人間とどこまで似ているかを研究した。その結果、イヌの注意力と感覚運動コントロール発達曲線はヒトのそれとかなり似ていた。   その研究結果が、2014年2月7日付Frontiers in Psychologyのオープン・アクセス論文として発表されている。イヌは個性のある動物で、認知力を持つばかりでなく学習能力あるいは訓練能力の高さでよく知られている。しかし、訓練能力を発揮するためには十分な注意力と集中力がなければならない。ただし、イヌの注意力はヒトと同じで加齢とともに変化していく。論文の筆頭著者、Dr. Lisa Wallisと同僚研究者は、Vetmeduni Vienna, Clever Dog Labにおいて、6か月から14歳までのボーダー・コリー145頭を対象に横断調査手法を用いて研究を続け、世界で初めてイヌの注意力が年齢とともにどのように変化していくかを調べた。 イヌの対象物やヒトに対する注意反応の速さが各年齢グループでどのように異なるかを調べるため、研究チームは2種類の実験を行った。第一の実験では、イヌの前に天井から突然子供のおもちゃが垂れ下がってくるようにした。そこで、イヌがこの突然の事態にどれほど機敏に反応するか、また、どれほど迅速にその事態に慣れるか、その時間経過を測定した。最初、刺激に対してどのイヌも同じくらい機敏に反応したが、年齢が高くなるほどこの刺激に興味を失うのも早くなった。第二の実験では、イヌが見知っている人物が部屋に入り、壁にペンキを塗る振りをした。どのイヌも、人物とその手にあるペン

マウスでの研究で、視神経系統が成長する過程で、眼球と頭脳をつなぐ視神経の働きを制御する見事な神経回路が突き止められた。National Institutes of Health (NIH) が助成金を出したこの研究では、弱視、すなわち脳が一方の眼だけに注意を集中し、もう一方の眼を無視してしまう視覚障害の治療の可能性を明らかにしている。 弱視は、子供にもっとも多い視覚障害で、白内障で視野が曇っていたり、双方の眼球の位置がずれていたりすることでそれぞれの眼球の視覚像にずれがある場合に起きやすい。そういった場合、脳はわずかでも機能に優れた側の眼の信号を優先し、時間が経つにつれて、優先された側の眼がより有用な情報を脳に送り続けることでますます脳はその眼の信号を優先するようになり、もう片側の眼を無視するようになる。視力の強い方の眼に眼帯をして機能を抑えることで弱視を矯正する助けにはなるが、子供のうちにこの状態を発見し、矯正しなければ、視力の弱い側の眼の視覚障害は大人になってもそのまま残る。 University of California, Los Angeles (UCLA)、David Geffen School of Medicineの神経生物学准教授、Joshua Trachtenberg, Ph.D.は、「私たちの研究で、幼い脳の視覚発育の機序が突き止められた。また、同じ機序を成人した脳で再活動させることが可能だということも突き止めている。児童期後期や成人してからでも弱視を治療することが可能になるかも知れない」と述べている。この研究論文は2013年8月25日付Natureオンライン版に掲載された。脳の中の両眼視領域と呼ばれる小さな領域の細胞が両眼からの信号を受け取り、処理している。脳の発達時期には両眼がこの領域への接続をめぐって争い、時には片方の眼が主導権を握ることがあ

2014年8月30日付でNovartis社がスペインのバルセロナのEuropean Society of Cardiology会議において発表し、同時にNew England Journal of Medicineにも掲載されたプレスリリースで、過去最大規模の心不全研究の主要エンドポイントで、同社の心不全治験薬、LCZ696が、ACE阻害薬enalaprilより優れていることが実証されたとしている。PARADIGM-HFで、左室駆出率 (HF-REF) 低下の心不全患者のうち、LCZ696を投与された患者はACE阻害薬enalaprilを投与された患者に比べて生存率も高く、突然の心不全悪化で入院する率も低いという結果が出た。   患者は既存の最善の治療を受ける他にLCZ696またはenalaprilの投与を受けた。HF-REF患者のLCZ696投与とenalapril投与の効果の差は統計的にもかなり有意であり、臨床的にも重要であった。この研究では、LCZ696の効果は早くから現れて持続し、しかもサブグループ全体で一貫していた。また、LCZ696は、心血管系死亡リスクを20% (p=0.00004) 減少させ、心不全による入院を21% (p=0.00004) 減少させ、また全死亡率を16% (p=0.0005) 減少させた。 全体として、心血管系死亡または心不全による入院を合わせた測定値は、一次エンドポイントで20%のリスク減少であった (p=0.0000002)。Novartis Pharmaceuticals, Division HeadのDr. David Epsteinは、「Novartisの新しい心不全医薬LCZ696は、心血管死亡率を大きく引き下げる一方で患者の生活の質も改善しており、過去10年でもっとも重要な心血管治療の前進ともいえる。そのため、私たちとの

この20年か30年ほどの間にバイオテクノロジーはめざましい発展を遂げてきたが、がん細胞には即効致死的で、健康な細胞には無害、かつがん再発防止にも効果があるというような理想的ながん治療法はまだ夢の段階でしかない。しかし、「合成致死性」の考えがこの分野の研究者には大きな希望を与えている。   2つの遺伝子の組み合わせのうち1つが抑制されても何も起きないが、2つが同時に不活性化されると細胞にとって致命的になる。この「合成致死性」が、個人に合わせたより効果的でしかも毒性の少ない治療法につながる可能性を秘めている。がんの中で特定の遺伝子が不活性であることが分かれば、それと合成致死性対をなす遺伝子を薬物を使って抑制すればそのがん細胞だけを殺し、健康な細胞にはほとんど害を及ぼさないということが可能になる。合成致死性を利用した療法は過去20年近く期待されてきたが、がんの中から実験的に合成致死性遺伝子対を見つけ出すことが困難であり、まだ実現していない。2014年8月28日付「Cell」誌に掲載された新しい研究論文は、この基礎的な障碍を克服し、がん中の合成致死性遺伝子対を判定するまったく新しい方法を提案しており、がん細胞を破壊する可能性も示唆している。 Tel Aviv University (TAU) の研究チームは、Beatson Institute for Cancer Research (Cancer Research UK)、Broad Institute of Harvard and MITの共同研究者らと協力し、合成致死性相互作用を判定する計算データ駆動型アルゴリズムを開発した。TAUのBlavatnik School of Computer Scienceと Sackler School of MedicineのDr. Eytan Ruppin、TAUのBlavatnik

MITの研究チームは、イーストとヒト細胞を使った研究で、DNAがmRNAに転写される時期を制御することで遺伝子をオン・オフできることを実証した。この研究成果が遺伝子の機能をさらに深く解明する手がかりとなることが期待される。MITのSynthetic Biology Centerで電気工学、コンピュータ・サイエンス、生物工学の教授を務め、2013年8月26日付「ACS Synthetic Biology」オンライン版に掲載された研究論文の首席著者、Dr. Timothy Luは、この分野で新しいアプローチを試みた論文の中で、「このテクニックは、リコンビナント細胞自身が、自らの環境状態を把握し、医薬を生成し、疾患を感知することが容易に行える可能性がある」と述べ、さらに、「合成遺伝子回路の構築もさらに容易になるだろう。   イーストの細胞や哺乳動物の細胞で様々な人工遺伝子回路をより大がかりに、より短時間に創り出すことができるようになるだろう」としている。この新しい手法は、最近、細菌やヒト細胞のゲノム編集に利用されているウイルス・タンパク系を基本にしている。基礎となるCRISPRと呼ばれる系は、DNAに結合したり、DNAを切断したりする働きのあるタンパク質と、そのタンパク質をゲノム上の正しい位置に導く短いRNAという2つの部分で成り立っている。 Dr. Luは、「その面ではCRISPR系はかなり強力で、このようなガイドRNAの記録を元にしてDNAの異なる結合領域をターゲットにすることができる。単にRNA塩基配列をリプログラミングすることで、そのタンパク質をゲノムや合成遺伝子回路のどこにでも導くことができるのだ」と述べている。研究論文の筆頭著者、Fahim Farzadfardは、MITの生物学大学院生である。また、MITの電気工学とコンピュータ・サイエンスの大学院生、Samu

University of Liverpoolの研究チームが、Public Health Englandと協力し、エボラ・ウイルス感染治療に適用可能な医薬を判定する新しい手法を探っている。この研究チームは、エボラ・ウイルスが機能するためには細胞内のタンパク質が重要な役割を果たしており、エボラ・ウイルスがこのタンパク質を乗っ取り、感染を手伝わせる機序に注目している。   そのようなタンパク質の一つがVP24と呼ばれるもので、ウイルスに感染した人の細胞内ではこのタンパク質が細胞の信号を妨害することで免疫系を妨害し、結果的にウイルスとの戦いを妨害している。ウイルスに協力する細胞タンパク質を突き止めれば、このような特定のタンパク質の機能を阻止できる既存の医薬を探せばいいということになる。そのような医薬の一つがouabainというもので、心臓疾患の治療に用いられている。細胞にこの医薬を投与すると、その細胞内でエボラ・ウイルスの複製が減るという結果が出た。 この研究は、同大学のInstitute of Infection and Global HealthのProfessor Julian HiscoxとPublic Health England (PHE) のProfessor Roger Hewsonが主導して進めた。ウイルスにとって重要な細胞タンパク質の働きを阻害するという手法は医薬耐性の問題にも対応できる可能性がある。Professor Hiscoxは、「私たちの研究で、既存の治療法を抗ウイルス治療に再利用する可能性が実証された。実績のある既存の医薬を他の目的に転用できれば膨大な開発期間を短縮し、それだけより多くの人命を救うことにもなる」と述べている。また、医薬耐性という問題にも対応できる可能性とは、インフルエンザ・ウイルスやHIV感染の治療ではウイルス・タンパク質を標的

グラフェンに匹敵する化合物出現。University of California Santa Barbara (UCSB) の研究チームがバイオセンシング向けに開発した原子単位の薄さの二次元超高感度半導体材料がヘルスケアから環境保護、法医学部門まで様々な分野のバイオセンシング・テクノロジの領域を押し広げる可能性を持っている。通常乾燥潤滑剤に用いられる二硫化モリブデンまたは輝水鉛鉱 (写真) 型のバイオセンサ材料は高感度のグラフェンを上回る感度でスケーラビリティも良く、大量生産に適している。   この材料に関する研究論文が2014年4月22日付ACS Nanoに掲載され、2014年5月27日付ACS Nanoに訂正が掲載された。研究論文の共同著者で、UCSB, Center for Bioengineeringの化学工学教授とDirectorを兼任するDr. Samir Mitragotriは、「この発明は、将来的には診断学や生体工学の分野の研究にとって見果てぬ夢だった一分子レベルでの検出を可能にする新世代の低コスト超高感度バイオセンサ開発の礎となるものだ。検出と診断はUCSBの生体工学研究の基幹分野であり、今回の研究も期待の大きいこの分野におけるUCSBの多面的な実力をはっきりと示すものになった」と述べている。 また、この研究を指導したUCSBのKaustav Banerjee電気・コンピュータ・エンジニアリング教授は、「この研究のカギは二硫化モリブデンの導電性を決定する禁止帯の特性である」と述べている。半導体物質は、非常に小さいが完全にはゼロにならない禁止帯という特性を持っており、制御で導電体と絶縁体という2つの状態を切り替えることができる。この禁止帯が広いほどその物質の2つの状態を切り替えやすく、また絶縁体状態での漏洩電流も抑えることができる。二硫化モリブデンの禁

10月24日、ボストンで開かれていた American Society of Human Genetics (ASHG) の2013年総会で、大腸がんにおける遺伝子と食事の相互作用を確認したとする報告があった。この研究チームは、「赤身肉や加工肉の摂取で統計的に有意な大腸がんリスク増大のあることは知られているが、遺伝子と食事の相互作用の研究でこのリスク増大の機序が解明できる可能性がある」と述べている。   ASHGの総会で研究報告を行ったUniversity of Southern California, Keck School of Medicineの予防医学准教授を務めるJane Figueiredo, Ph.D.は、「大腸がんの原因としては、食事は改善可能な要因であるだけに、この研究が追試で確認されれば公衆衛生にとっても大きな意義がある」と述べている。NIHが出資する国際的な研究体制のGenetics and Epidemiology of Colorectal Cancer Consortium (GECCO) で共同研究を続けているDr. Figueiredoは、さらに「遺伝子プロファイリングによって大腸がんリスクの高い個人を選別し、スクリーニング、食事改善その他のがん予防対策を講じるようになることは十分に考えられる」と続けている。研究チームは、また、野菜、果物、繊維質食品摂取と大腸がんリスク低下の関係も遺伝子変異と関わっていることを突き止めた。 ワシントン州シアトル市所在のFred Hutchinson Cancer Research CenterのPublic Health Sciences Division所属で、この研究を指導したUlrike Peters, Ph.D., M.P.Hは、「個人の遺伝子変異が食事による大腸がんリスクを決めている可能性はこ

Paecilomyces lilacinus (紫赤きょう病菌。写真) と呼ばれる真菌はロイシノスタチンという物質を生成する。この物質は、抗マラリア性、抗ウイルス性、抗がん性、植物毒性など様々な生物学的活動を引き起こすペプタイバイオティクスである。2014年9月3日付The Journal of Antibioticsオンライン版に掲載された研究論文で、ブラジルのUniversity of Sao PauloのDr. Ana MartinezとDr. Luiz Moraesが、LC-MS/MSを前駆イオンと生成イオンのモードで用いる分析方法を展開し、この真菌から5種類のロイシノスタチンを新しく発見した。   研究チームは、もっとも豊富に存在するロイシノスタチン (F、D、B2、S、A、K) を同定するため、Direct Infusion-MS (DI-MS) を用いた。 論文は、「自然生成物特にペプタイバイオティクスを対象にする場合、トリプル四重極MS/MS分析を様々なスキャン・モードで行うことにより、便利で多彩なツールになり得る。また、DI-MSフルスキャン分析は迅速で感度も高いが、ペプチドの異性体を区別できない、それに比べて、LC-MS/MSを前駆イオンと生成イオンの2つのモードで操作するのは時間のかかる作業だが、粗抽出物中の異性体や同重体の構造の判定が可能である」と述べている。■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Fungal Leucinostatins Identified Using LC-MS/MS

10月25日、ボストンで開かれていたAmerican Society of Human Genetics (ASHG) の2013年年次総会でプレゼンテーションのあった研究報告によると、ユタ州の多世代にわたる家族の男性の家系と病歴を分析した結果、男子の性染色体であるY染色体の変異の遺伝が前立腺がん発症に大きく関わっていることが裏付けられた。University of Utah School of Medicine, Division of Genetic Epidemiologyの教授であり、Chiefも務めるLisa Cannon-Albright, Ph.D.は、「研究で、いくつかの特異なY染色体が前立腺がんの非常に高いリスクと関連していることを突き止めた」と述べている。   研究を指導し、年次総会で研究のプレゼンテーションを行ったDr. Cannon-Albrightは、「私の研究室ではこれらのY染色体を対象にして、米国内でがん種別発症率で2位の前立腺がんのリスクを高めている遺伝子突然変異を探る研究を計画している」と述べた。 ほとんどのY染色体は、細胞分裂中に再結合しないため、事実上そのまま父親から男児に受け継がれる。Dr. Cannon-Albrightは、「その結果、ユタ州の男性住民はすべて父親のY染色体、父親の父親のY染色体というふうに男系先祖のY染色体を受け継ぎ、共有している。だからユタ州の男性住民の各Y染色体の前立腺がんリスクを予測することもできるはず」と述べている。この研究はUtah Population Data Base (UPDB) を基本にしており、そのUPDBには1800年代のユタ州の開拓者を含む650万を超える過去現在の住民のデータが登録されている。UPDBの開拓者の系図は一般的に膨大で15世代にのぼることも珍しくない。また、UPDBに登

Dana-Farber Cancer Institute、Massachusetts Institute of Technology (MIT)、その他の研究機関の共同研究チームは、膵がん発症早期の徴候を突き止めた。症状が現れ、疾患が診断される前に特定のアミノ酸が急激に増えるのである。この研究論文は、2014年9月28日付Nature Medicineオンライン版に掲載された。   急激な増加といっても早期発見の新しいテスト方法の対象にできるほど大きな増加ではないが、膵がんが身体の他の部分にどのような影響を及ぼすか、特にカヘキシーと呼ばれる致命性の高い筋肉衰弱症状を引き起こす機序などの理解を促す可能性がある。この研究で、MITとDana-Farber のMatthew Vander Heiden, M.D., Ph.D.と共同筆頭著者を務めたDana-Farber のWolpin, M.D., M.P.H.は、「(膵がんでもっとも一般的な形の)膵管腺癌 (PDAC) は、進行期に入ってから発見されるため、発見後1年以内に死亡する患者が多い。この疾患を早期に発見できれば治療が成功する見込みも高まるはず。 この研究ではPDACが代謝を変化させるどうかを調べた。代謝の変化とは身体がエネルギーや栄養物を利用する方法が変化することであり、その変化は疾患より早く発見できることが判明した」と述べている。研究チームは、何年か前に実施した大規模な健康追跡研究の参加者1,500人から採取した血液試料を利用した。その上で、新陳代謝の産物である100種類を超える代謝物質について試料を分析し、膵がんを発症した参加者としなかった参加者のデータを比較した。Dr. Wolpinは、「膵がんを発症した人は、発症しなかった人と比べると、分枝鎖アミノ酸のレベルが高いという結果が出た」と述べている。分枝鎖ア

てんかん患者は世界中で6,500万人にもなる。この疾患は脳の状態によって突然ひきつけを起こすもので、原因が突き止められないことも多い。ひきつけはニューロン間の電気的連絡が乱される症状で、24時間以上の間隔をおいて2回以上のひきつけを起こした場合にてんかんと診断される。てんかんは小児神経学ではもっとも一般的な慢性疾患であり、0.5%から1%程度の児童が遅かれ早かれ生きている間にてんかんを発症する。   また、てんかん小児患者の30%から40%が不応性てんかんで、これは抗てんかん薬 (AED) で管理できないタイプのてんかんを指す。不応性てんかん児童患者は、その病因にかかわりなく、全員が様々な身体的、心理的、社会的病状を抱えている。ひきつけを医薬で管理できない患者でも、手術、脳深部刺激療法、ケトン食療法などの非薬物的療法で改善することがある。従って、抗てんかん薬に不応な患者のひきつけを早期に判定することができれば時機を失わずに代替療法で対応することができる。 特発性病因は不応性てんかんのリスクが低いことを示す兆候として有力だが、あるタイプの特発性てんかん患者は治療に対して不応性を示すことがある。台湾の医師と研究者のチームは、新しい脳波 (EEG) 解析法を用いて特発性てんかんの小児患者によく見られる特定のEEGの特徴を捉えるツールを開発した。チームは、不応性の特発性てんかん早期予測にEEG分類解析をもとにした効果的な自動数量化法を開発したのである。このEEG解析法は、脳疾患を調べたり、脳の電気的活動を研究したりするために広く用いられているが、この研究では、薬物による管理良好なてんかん患者と不応性てんかん患者という2タイプの患者からEEG記録を集め、人為的な影響のない部分を拾い出した。この研究では、かなり特徴のあるEEG特性を調べると同時にコンピュータ使用コストを抑えるため

Wake Forest Baptist Medical Centerの再生医療研究チームは、研究室内で人工腎臓をつくり出す研究で大きな難関を一つ乗り越えた。研究チームは、ヒトの腎臓とほぼ同じ大きさのブタの腎臓を実験に用い、新しい臓器の血管に長時間にわたって血液を流し続けることに成功、この分野の研究に新地平を切り開いた。   この研究論文は2014年9月3日付TECHNOLOGYオンライン版に掲載されている。 Wake Forest Institute for Regenerative MedicineのDirector兼Professorで、この論文の首席著者を務めるAnthony Atala, M.D.は、「これまで研究室レベルで作られた腎臓というとラットの腎臓サイズまでで、しかも移植直後から血液凝固が進むため、わずか1時間か2時間しか機能しなかった。私たちの概念実証 (proof-of-concept) 研究では、人間のとほぼ同じ大きさのブタの腎臓の血管を4時間の実験時間中常に開いたままにしておくことができた。 現在はいつまで血流を維持できるかを計る長時間試験に入った」と述べている。この研究が成功すれば、血管内壁に (内皮) 細胞を付着させるのにこれまでより効果的な新しいコーティング方法を用いて長期間スムーズな血流を維持できるようになり、今も多くの科学者が研究を続けている肝臓や膵臓その他の複雑な臓器にも適用できる可能性がある。現在進められている研究は長期的なプロジェクトの一部で、腎臓病末期患者の代替腎臓を作る土台になる「scaffold」と呼ばれる支持構造を作るためにブタの腎臓を使っている。研究者はまず臓器から動物細胞をすべて取り除き、「skeleton」と呼ばれる臓器構造だけを残す。その後、患者の細胞を「scaffold」の中に植え込む。こうしてできた臓器を患

2014年9月30日、National Institutes of Health (NIH) は、Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies (BRAIN) Initiativeの目標を支援するため、2014年度分として総額4,600万ドルを同Initiativeに投資すると発表した。このInitiativeでは米国内15州と海外数か国の100人を超える研究者が、神経回路機能を理解し、脳の活動をダイナミックに捉える新しいツールとテクノロジーを開発するため共同で研究を行うことになっている。   世界保健機関は、世界中で10億人の人が困難な脳障害、脳疾患に苦しんでいると推定している。この研究で新しいツールとより深い理解が得られれば、いつかそのような脳の障害や疾患に新しい処置や治療が生み出される可能性もある。NIHのDirector、Francis S. Collins, M.D., Ph.D.は、「人間の頭脳は知られている限りでもっとも複雑な生物学的構造をしている。脳機能の原理についてはまだほんの表面をひっかいた程度の知識しか手に入れていない。 また、障害や疾患があると脳が正しく働かなくなる原理についてもまだほとんど分かっていない。私たちが脳の研究でしたいことと、それを可能にする技術の間には現在のところ大きなギャップがある。今回の研究資金は、脳の理解をさらに次の段階に引き上げるために必要なツールと技術の開発を中心に据えた科学研究、12年計画の初回資金だ。これは野心的な研究事業の手始めであり、将来の可能性を考えれば期待が広がるばかりだ」と語っている。動作中の人間の脳の動きを画像化するためウエアラブル・スキャナーを創り出すこと、神経細胞の発火をガイドするためにレーザーを使うこと、活動中の神経系全体

Purdueの研究者と共同研究者のグループが、トウモロコシの天然プロビタミンA含有量を増やす遺伝子のグループを突き止めた。この発見は発展途上国のビタミンA不足や高齢者の黄斑変性症の治療に貢献するかもしれない。PurdueのTorbert Rocheford農学教授と同僚研究者が発見した遺伝子変異は、これを選別することで栄養に乏しいホワイト・コーンからプロビタミンAカロチノイドを多量に含む天然栄養強化されたオレンジ・コーンを作り出すことができる。  このプロビタミンAカロチノイドは人体内でビタミンAに変えられる。ビタミンAは眼の健康、免疫系の他特定のホルモンの合成に不可欠な栄養であり、PurdueでPatterson Endowed Chair of Translational Genomics for Crop Improvementを務めるDr. Rochefordは、「この研究で、ホワイトまたはイエロー・タイプのトウモロコシを迅速安価にカロチノイドの豊富なオレンジ・コーンに作り替える遺伝的な方法が見つかった。しかも遺伝子導入などの手段を使わず、自然の植物交配で可能だ」と述べている。この研究論文は、2014年9月25日付Geneticsオンライン版に掲載された。 世界保健機関によれば、ビタミンA不足のために毎年世界中で25万人から50万人の子供が失明し、しかもその半数が失明から1年以内に死亡している。この健康問題でもっとも被害の大きいのはサブサハラ・アフリカ地域で、この地域ではプロビタミンAカロチノイドをほとんど含まないホワイト・コーンが主食になっている。カロチノイド不足は高齢者の黄斑変性症の病因であり、ヨーロッパやアメリカでは高齢者の失明の最大原因になっている。トウモロコシのカロチノイド含有量を決める遺伝子を突き止めることで、種苗業者がアフリカやアメリカ向けに天然カ

錠剤を呑むだけでアイスクリーム、クッキー、ケーキをどんなに食べても全然太らなくなる。そんな薬があればいいと思う人もいるかもしれない。University of Southern California (USC) の新しい研究によれば、それがいつか夢でなくなる日が来るかもしれない。 USC Davis School of GerontologyとKeck School of Medicine of USCとに所属するDr. Sean Curranの率いる研究チームは、高糖質食につきものの肥満を抑える新手段を発見した。これは単一の主要遺伝子が関わっており、製薬会社がすでにこの遺伝子を標的にする医薬の開発を進めている。これまでDr. Curranの研究はCaenorhabditis elegans (C. elegans、線虫の一種) (画像) とペトリ皿の人体細胞のみを対象にしていた。しかし、博士が研究してきた遺伝子経路はイースト菌から人類までほとんどすべての動物に共通してみられるものである。博士は、今後これまでの研究成果をマウスを使って試験することを考えている。Dr. Curranの研究は、2014年10月6日付Nature Communicationsのオープン・アクセス論文としてオンラインで公開されている。 過去に博士と同僚研究者がC. elegansを用いて行った研究では、特定の遺伝子の突然変異、特に活動過多なSKN-1遺伝子の突然変異を持つ個体は信じられないほどのレベルの高糖質食を与えても体重が増えず、一方、通常遺伝子のC. elegansは同じ高糖質食で体が膨れあがってしまった。Dr. Curranは、「このバクテリア (原文ママ、正しくは線虫) が食べた高糖質食は、人間でいえば西洋型の食事だ」として、バーガー、フライ類、炭酸飲料水などの高脂肪、高糖質を特徴とす

細菌のコロニーや動物種のように、腫瘍中のがん細胞も生き延びるためには進化しなければならない。たとえば、化学療法で何十万個というがん細胞を殺すこともできるが、独自の突然変異を起こした細胞が1個生き延びればまたたく間に薬物耐性の新しいがん細胞を増殖し、がんを根絶することが難しくなる。Salk Instituteの研究グループは、がん細胞が時間と共に薬物耐性を獲得する詳細な過程を突き止めた。   これは同じ腫瘍内でも個々のがん細胞が少しずつ異なる遺伝子変異、つまり多様性を持っているために起きることである。2014年10月22日付PNASオンライン版に掲載された、この新しい研究で、遺伝子をデコードし、タンパク質を生成する乳がん細胞RNAの助けで、がんがこれまで考えられていたよりも速く進化することが突き止められた。この発見から、遺伝子の多様性を「スイッチ・オフ」し、それによってがん細胞の薬物耐性を防ぐ方法が導かれる可能性がある。SalkのRegulatory Biology Laboratory教授で、Edwin K. Hunter ChairでもあるDr. Beverly Emersonは、この論文の首席著者を務めており、研究論文の中で、「人、細菌、細胞、いずれであろうとその集団に本来備わっている特性として、集団を構成する個体の間で遺伝的多様性を維持し、それによって予期しない様々な環境ストレスが起きた場合にも少数の個体が生き抜くことができるようになっている。 がんは薬物耐性を獲得ためにこの多様化戦略を採用している」と述べている。筆頭著者を務めるSalk研究者のFernando Lopez-Diaz, Ph.D.と研究チームは、がん治療のターゲットとして単一の遺伝子や経路を調べる代わりに、がん細胞が互いに少しずつ異なる形で複製する多様性「スイッチ」を発見することに努めた。この細

科学者は、「 エクソソーム 」と呼ばれる小胞に含まれる新しいバイオマーカーを使ってがんその他様々な疾患を早期発見する方法を見つけるために骨折ってきた。事実、「Popular Science」誌は、今年 (2014年) に世界を画することになる20の科学的業績の一つとしてエクソソーム・ベースのがん診断を挙げている。エクソソームは、より侵襲性の低いがん早期発見法につながり、がん患者の生存率を一気に引き上げる可能性がある。University of Kansasの化学准教授、Dr. Yong Zengは、「エクソソームは微小な膜に包まれた小胞、嚢で、がん細胞を含むほとんどの種類の細胞から放出される。 1980年代中期に初めて存在を明らかにされたエクソソームは、当初『細胞のごみ』あるいは不要になった細胞物質を含んだごみ袋と考えられていた。しかし、この10年の間に科学者達も、エクソソームが核酸やタンパク質の形で分子メッセージをカプセル化して運搬し、エクソソームを放出した細胞の近辺の細胞にも、あるいは遠く離れた組織の細胞にも影響を与える重要な役割を担っていることに気づいた。言い替えれば、エクソソームは細胞同士がコミュニケートする重要な経路になっているのである」と述べている。平均的な紙の厚みは10万ナノメートル程度だが、エクソソームの大きさはわずか30ナノメートルから150ナノメートル程度である。研究者は、「そのため、エクソソームを分離、試験することは難しく、普通は何段階にもわたる超遠心分離作業が必要であり、ラボでも長時間をかけて根気のいる効率の悪い処理をしなければならない」と述べている。 Dr. Zengは、「エクソソームを効率よく分離し、微妙な分子プロファイリングをするのに適した技術はそんなに多くない。まず、既存のエクソソーム分離プロトコールは時間がかかり、標準化も難しい。

St. Jude Children’s Research Hospitalでの研究で、網膜芽細胞腫患者、特に出生1年以内に腫瘍を伴う疾患と診断されながら長期生存している患者は成人して通常の認知能力を持っていることが明らかになった。この研究論文は2014年11月24日付Cancer誌のオンライン版に掲載されており、生存者の圧倒的大多数がフルタイムの仕事に就き、自立生活を営んでおり、また通常の成人生活の各段階を十分にこなしてきている。   また、この研究は、網膜芽細胞腫と診断されて成長した患者が何十年か後に認知能力、社会能力の面でどのような成績を示しているかを世界で初めて調査したものである。他の小児がんの生存者を対象にした研究では、幼いうちにがんと診断された場合、成長しても認知能力が劣るなどのリスクを抱えていることが示されており、この研究の網膜芽細胞腫のケースとは対照的である。この研究の第一責任著者であり、St. Jude Department of Epidemiology and Cancer ControlとDepartment of Psychologyのassistant memberを努めるTara Brinkman, Ph.D.は、「グループとしてみれば、網膜芽細胞腫と診断されながら、成人に達している生存患者は、その認知機能や成人社会生活の各段階のこなし方を見れば非常に好成績だといえる」と述べている。 Dr. Brinkmanは、「この研究結果から、生まれて間もなく視覚系に損傷を受けた子供でも、脳が視覚情報を処理する領域を組み立てなおし、言語聴覚情報処理を強化することで補償する可能性を示している」と述べている。アメリカでは毎年約350人の児童が網膜芽細胞腫と診断され、その95%は5歳未満で腫瘍を発見されている。こんにちでは網膜芽細胞腫患者の95%以上が長期生

ドイツ連邦のJohannes Gutenberg University Mainz (JGU) の研究チームは、脳の中で感覚入力の学習や処理に重要な役割を果たす新しい信号伝達経路を突き止めた。グリア細胞と呼ばれる特別な細胞がニューロンから情報を受け取ることは以前から知られていたが、同じグリア細胞がニューロンに情報を伝達することは知られていなかった。グリア細胞はニューロン・クロストークに影響するある種のタンパク質断片を放出し、それがニューロンが情報伝達に用いるシナプス接合に結合すると予想できる。   たとえば学習の過程中などにグリア細胞からのこのような情報伝達が妨げられると、神経回路網に変化が起きる。Dr. Dominik Sakry、Dr. Angela Neitz、Professor Jacqueline Trotter、Professor Thomas Mittmannらの研究チームは、究極的に行動パターンを決める仕組みを分子・細胞レベルからネットワーク・レベルにわたって解明した。この発見は複雑な脳の信号伝達経路を理解する上で大きな進歩となった。哺乳動物の脳ではグリア細胞の数は神経細胞をはるかに上回っているが、その機能についてはまだほとんど解明されていない。 乏突起膠細胞前駆体細胞 (OPC) と呼ばれるグリア細胞グループが乏突起膠細胞に成長し、神経軸索をミエリンの保護層で鞘のように包み込み、軸索を通しての急速な信号伝達を可能にしている。興味深いことに、脳細胞中におけるOPCの比率はほぼ一定しており、成人の脳でも脳の全領域にわたって5%から8%程度を占めている。Mainz Universityの研究チームはこのOPCに絞って詳しく調べることを考えた。その研究論文が2014年11月11日付PLOS Biologyのオープンアクセス論文集オンライン版に掲載されている。

2015年1月30日 (金) 午前11時過ぎ (米東部時間帯)、バラク・オバマ米大統領が予算2億1,500万ドルの「precision medicine initiative」の提案発表を行った。これはオバマ大統領が、「医学研究の分野で前例のない壮大な可能性を開くだろう」と形容する次世代DNAシーケンシングの活用を柱とする大規模な個別化医療実現に向けたプロジェクトである。   また、医師にとっては、「いつでも適切な時に個別患者に合わせた適切な治療」を可能にする医療であり、大統領は、「医学の新しい潮流を解き放つ時が来た」と語った。このイニシアチブについて、NIHのDirector、Dr. Francis Collins (M.D., Ph,D.) とNational Cancer Institute (NCI) のDirector、Dr. Harold Varmus (Ph.D) が共同コメントをNew England Journal of Medicineのウエブサイト: ( http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1500523 ) に投稿している。また、下記にリンクした大手メディアの関連記事も参照されたし。Dr. Collinsは、National Human Genome Research Instituteの元Directorであり、現在はHuman Genome Projectを率いており、また、長年にわたる医師/学者/研究者として、嚢胞性線維症遺伝子の発見など数々の優れた業績がある。 Dr. Varmusは、レトロウイルスがん遺伝子の細胞起源を発見し、1989年ノーベル生理学医学賞の共同受賞者になっており、Memorial Sloan-Kettering Caner Center (MSKCC) のPreside

American Cancer Society は、2014年12月31日付のプレスリリースで、「年次がん統計報告書で、アメリカ国内ではがん死亡率が過去20年で22%低下していたことが明らかになった。がん死亡率が過去のピークから大幅に低下した結果、延命したがん患者は20年間の総数で150万人を超える」と発表している。また、米国内全州でがん死亡率が低下しているが、州によって低下率にかなりの差があることも明らかになっており、大まかにいえば南部諸州では低下率が小さく、北東部諸州でもっとも大きい。   毎年、American Cancer Societyは、National Cancer Institute、Centers for Disease Control and Preventionのがん症例データとNational Center for Health Statisticsの死亡率データを基礎にしてがん症例、死亡率、生存率など最新のデータを編纂し、報告書を発表している。このデータは、2015年1月5日付で、CA: A Cancer Journal for Cliniciansのオンライン版で公開されるCancer Statistics 2015と、利用者に便利なコンパニオン版で同日発行のCancer Facts & Figures 2015の2つの報告書で公開されている。この報告書は、毎年のアメリカ国内におけるがんの新症例数や死亡者数などの推定も記載している。20世紀には喫煙率が高まったことから特に男性の間で肺がんが急増し、それに伴い、総合がん死亡率も上昇、1991年にピークに達したが、その後は、喫煙率低下、がん予防、早期発見、治療法の進歩などがあり、がん死亡率も着実に下がってきた。 最新データの2007年から2011年にかけての5年間で、男性のがん死亡率の年

Mayo Clinicの研究で、乳房の異型過形成が乳がんに発展するリスクはこれまで考えられていた以上に高いことが明らかになった。研究論文著者は、異型過形成ががんに発展するのを予防する治療法はあるが十分に活用されていないと述べている。Mayo Clinicのこの研究結果にはVanderbilt UniversityおよびUniversity of Virginiaとの共同研究も含まれており、2015年1月1日付New England Journal of Medicineオンライン版乳がん特別論文に詳述されている。   乳房の異型過形成は前がん症状であり、毎年アメリカ国内で実施されている100万件を超える乳房の生検で良性と診断されるうちの約10件に1件がこの病変である。異型過形成は、顕微鏡で見ると、乳腺細胞が通常以上に増殖し始め (hyperplasia)、細胞や構造が通常とは異なる (atypical)。異型病変は良性と考えられているが、そのリスクや外観、遺伝子変異などからこの病変も早期がんの特徴を示している。このような良性病変を持つ何百人もの女性のデータでも、乳がん発症の絶対リスクは1年に1%ずつ増加することが示されている。その研究では、5年後には7%の女性が乳がんを発症し、さらに10年後には13%が、25年後には30%が乳がんを発症している。 この研究結果から、毎年異型過形成あるいはatypiaと診断される10万人以上の女性は高リスク・カテゴリーに含まれるものであり、綿密な検査と薬物治療により発症リスクを引き下げることで大勢の女性が救われるはずである。Mayo Clinicのがん専門医で、この研究の筆頭著者であるLynn Hartmann, M.D.は、「このグループのリスク予測を向上することで、個々の患者のリスク・レベルに合わせた医療を考えることができる。乳房撮

323属ある世界のアリのほぼ1割がオオズアリ属 (Pheidole) に属する近縁種で占められている。沖縄科学技術大学院大学 (Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University) のProfessor Evan Economoは、「熱帯雨林を歩けば必ずオオズアリ属のアリを踏むことになる」と述べており、オオズアリ属は、熱帯雨林から砂漠まであらゆる気候の土地に生態的地位を持っている。しかし、これまでどのようにしてオオズアリ属の種が進化し、地上の全域に広がっていったのかという全地球的視点ではまったく解明されていなかった。Biodiversity and Biocomplexity Unit の研究者、Dr. EconomoとUniversity of Michiganの同僚研究者は、世界各地のオオズアリ属の300種の遺伝子シーケンスを比較した。その上で研究チームはこのシーケンスを使ってそれぞれの種が新種になった時期と場所を示す系統樹を再構成した。同時に、学術文献、世界中の博物館、大規模なデータベースを検索し、地球上のオオズアリ属のアリ、1,200種ほどのすべてについて、その生息地に関してデータを集め、種ごとの生息地域図を作成した。 その研究の結果が2014年11月26日付「Proceedings of the Royal Society Series B」のオープンアクセス論文集オンライン版に掲載されており、研究の成果から、オオズアリ属は、まず新世界で大きく広がるために一度進化し、さらに旧世界でも同じように進化していたことが明らかになった。Dr. Economoらは、研究の手始めにオオズアリ属の個々の種のサンプルとなるアリを選び出した。その作業が終わると各サンプルのDNAシーケンシングを行い、種間の遺

Johns Hopkins Kimmel Cancer Centerの研究チームは、主として幹細胞分裂の際のランダムな突然変異を原因とするがん発症の比率を、がん発生の組織タイプすべてについて調べる統計モデルを作成した。その測定によると、すべての組織タイプで成人がんの3分の2は遺伝子のランダムな突然変異を原因としてがんが発生する「不運」であり、残り3分の1だけが環境や遺伝などの要因によるものとの結果が出た。   Johns Hopkins University School of MedicineのClayton Professor of Oncology、Johns Hopkins, Ludwig CenterのCo-Director、Howard Hughes Medical InstituteのInvestigatorを兼任するBert Vogelstein, M.D.は、「がんの原因はすべて不運、環境、遺伝の3種の組み合わせによるものであり、個々のがんでその3因子がそれぞれがん発症の原因として寄与している率の数値化モデルを作成した」と述べている。 Dr. Vogelsteinはがん遺伝学の分野で広く認められた権威であり、長年の同僚研究者との共同研究による数々の優れた業績には、「ゲノムの守護者」と呼ばれるp53がん抑制タンパク質をコーディングしているTP53遺伝子ががん組織中でもっとも頻繁に突然変異していることの発見や遺伝性非ポリポーシス大腸がん (HNPCC) を引き起こす遺伝子の発見などがある。Dr. Vogelsteinは、「たばこなどの発がん物質にさらされながらがんにかからずに長生きしている人々はしばしば『いい遺伝子』を持っているといわれるが、事実はそのほとんどの人が単に運がいいだけだということだ」と付け加え、劣悪な生活習慣が不運要因に加えてがん発症リスク

種の構造と特徴を徐々に改造していくという適応の原則は進化の一つの柱になっている。種の遺伝子的特徴を緩慢かつ不断のプロセスで変化させていくことについては豊富な証拠があるが、状況の変化に適応するためその場で変身する能力を持った生物の存在については研究者はこれまでその存在を想像するだけだった。   Tel Aviv University (TAU) の Department of PhysicsとSagol School of NeuroscienceのDr. Eli Eisenbergが、University of Puerto RicoのDr. Joshua J. Rosenthalと行った共同研究が2015年1月8日付eLifeでオンラインに掲載された研究論文で発表されており、身の回りの環境に適応できるよう、自身の遺伝子をその場で編集し、体のタンパク質の大部分を改変できる動物を初めて明らかにした。研究論文は、“The Majority of Transcripts in the Squid Nervous System Are Extensively Recoded by A-to-I RNA Editing (ヤリイカ神経系の転写の大部分がA-to-I塩基変換型RNA編集によって大規模な再コード化が行われている)”と題されている。この研究は、一部はTAU大学院生のShahar Alonが行ったもので、Doryteuthis pealieii (アメリカケンサキイカ) のRNA編集を調べている。 Dr. Eisenbergは、「この研究で、RNA編集は規則に対する例外的現象ではなく、遺伝情報処理で大きな役割を果たしていることが証明された。ヤリイカのRNA編集がプロテーム全体を大きく変化させること、つまり特定の瞬間にゲノムが発現するタンパク質全体、細胞、組織、あるいは生

Duke-National University of Singapore (Duke-NUS) が主導する新しい研究で非常に有望なヒト・モノクローナル抗体が突き止められた。この抗体は極微量でデング・ウイルスを無力化する強力な効果がある。2015年2月20日付Nature Communicationsのオンライン版オープン・アクセス論文として発表された研究報告は、新発見の5J7という抗体がデング・ウイルスを殺すのに非常に効果があり、10[sup">-9[/sup">gの抗体でデング・ウイルス3型 (DENV-3) の感染を防ぐことができるというもので、デング熱研究の分野で長足の進歩を画している。論文は、特定DENV対応の抗体5J7は非常に効力が強く、ナノグラム単位の抗体量で50%のウイルスを無力化することができると報告しており、この研究結果から効果的なデング熱治療法の前途が有望になってきている。報告はさらに、Fab 5J7-DENV複合体を低温電子顕微鏡で解析した結果、単一のFab分子が、並んだ外被タンパク質3個と結合し、さらに各外被タンパク質を通して3箇所の機能的に重要な領域に結合していることを実証したと述べている。これらの領域は受容体結合とエンドソーム膜融合に重要な役割を果たしている。5J7抗体が複数の領域に結合できることからわずか60コピーのFabでデング・ウイルスの表面を完全に覆うことができる。この数字は他の抗体に比べると約半数である。研究論文は、「5J7の研究で、この抗体が分子レベルで認識するメカニズムは他に例のない非常に効率的なものであることが明らかになった」と述べている。この研究論文は、「A Highly Potent Human Antibody Neutralizes Dengue Virus Serotype 3 by Binding acr

2015年2月24日付でMIT News Officeが発表したプレスリリースで、MITの科学者グループがエボラ、黄熱病、デングの各ウイルスを検出判別する簡単な試験法を開発したと発表している。これは将来的に様々な実用用途が考えられる発明品である。エボラ患者を診断する時は一刻を争う状況になりがちである。しかし、現在ある診断検査法は結果が出るまでに1日か2日かかるため、医療担当者も患者が直ちに治療を必要としているか、また隔離が必要かなどを迅速に判断することができない。   MITの研究者が開発した新診断検査法はこのような問題を解決することができるかも知れない。妊娠検査に使われているような細長い紙切れでエボラ患者を短時間で診断できるだけでなく、黄熱病やデング熱など他のウイルス性出血熱も診断することができるからだ。MIT, Department of Mechanical Engineeringの客員研究員でMIT, Lincoln Laboratoryの技術スタッフも務めるDr. Kimberly Hamad-Schifferliは、「最近のエボラ大発生でも見たとおり、患者の症状は分かってもそれがどんな疾患なのかはっきりしない場合がある。そのため、患者の疾患を迅速に判別できる検査法の開発を希望していた」と述べている。MIT, Institute for Medical Engineering and Science (IMES) のDr. Hamad-Schifferliと、Hermann L.F. von Helmholtz Professorを務めるDr. Lee Gehrkeは、「Lab on a Chip」誌に掲載された研究論文の首席著者であり、論文で新しい検査器具について述べている。 論文は、2015年2月12日、「“Multicolored Silver Nan

ほとんどの加工食品には、舌触りを良くしたり、保存性を良くするため乳化剤が添加されているが、最近の研究で、この乳化剤が腸内細菌叢の構成や分布を変化させ、腸炎症を引き起こし、炎症性腸疾患 (IBD) や代謝症候群などの発症を促すことが突き止められている。2015年2月25日付Natureオンライン版に掲載された研究は、Georgia State University Institute for Biomedical Sciencesの研究者、Dr. Benoit ChassaingとDr. Andrew T. Gewirtzが指導して行ったもので、Emory University、Cornell University、イスラエルのBar-Ilan Universityの研究者も参加した。  Nature誌掲載の研究論文は、「Dietary Emulsifiers Impact the Mouse Gut Microbiota Promoting Colitis and Metabolic Syndrome」と題されている。クローン病、潰瘍性大腸炎などIBDの患者は何百万人にものぼり、患者の体が衰弱するほど重い症状もまれではない。代謝症候群は肥満と関連のあるかなり一般的な症状のグループであり、2型糖尿病、循環器系疾患、肝疾患などを引き起こすことがある。また、IBD、代謝症候群の発生率は20世紀中頃からかなりの勢いで上昇している。「腸内細菌叢」とは腸管に棲む様々な種類の100兆個にものぼる細菌群のことを指しており、IBDや代謝症候群ではこの腸内細菌叢がかく乱されることが突き止められた。Dr. ChassaingとDr. Gewirtzの発見は、食品乳化剤がこのかく乱の一因になっており、それに伴ってこれらの疾患の発生率が上昇しているのではないかと考えられる。 Dr. Gewirt

2015年3月9日付Nature Geneticsオンライン版掲載の研究論文によると、女性の乳がんリスクを高める遺伝子ホットスポットが新たに15種の発見された。この論文は、「Genome-Wide Association Analysis of More Than 120,000 Individuals Identifies 15 New Susceptibility Loci for Breast Cancer (12万人を超えるゲノムワイド関連解析で新たに15種の乳がん感受性遺伝子座発見)」と題されている。   この研究はCancer Research UKの助成金を受けて行われたもので、12万人を超えるヨーロッパ系女性乳がん患者と非患者の遺伝子構造のわずかな変異を比較し、新たに15種の変異を突き止めている。この変異は一塩基多型 (SNP) と呼ばれ、乳がんリスクの高さと関連があることが知られており、これまでの研究で、この15種を加えて合わせて90種を越える乳がん関連のSNPが発見されている。イギリスでは平均8人に1人が生涯の間に乳がんを発症している。 この研究の研究者は、約5%の女性が乳がんリスクを倍加するのに十分な遺伝子変異を持っており、その人達の場合には約4人に1人が乳がんリスクを負っていることになる。さらに少数、約0.7%の女性が乳がんリスクを3倍に引き上げるのに十分な遺伝子変異を持っており、その人達の場合には約3人に1人が乳がんリスクを負っていることになる。このような遺伝子マーカーを利用して乳がん高リスク女性を判定し、ひいてはがん検診と予防の効果を向上させることが期待されている。この研究論文の著者で、University of CambridgeのProfessor of Genetic Epidemiologyを務めるProfessor Doug Ea

生物固体の全細胞が同じDNAという設計書を持っているが、個々の細胞は、その細胞が存在する組織に固有の機能を果たすため、設計書の異なる箇所を読み、発現するようにできている。たとえば、神経細胞は、他の神経細胞に情報を伝えることができるようになる遺伝子を発現し、免疫細胞は抗体を作ることができるようになる遺伝子を発現する。   大部分の遺伝子発現は厳密に調節されており、人体も単に似た細胞が集まっているわけではなく、全体で機能を発揮する複雑な存在になっている。各細胞がDNA中のその細胞に対応した情報を読み取る仕組みは非常に重要でありながらまだ完全には理解されていない。このプロセスが転写因子と呼ばれるタンパク質によって司られていることは分かっており、この因子が遺伝子の特定部位に結合し、正しい組み合わせになれば遺伝子のシーケンスを読み取ることができるのだが、DNA中の機能的な転写因子結合部位を突き止めることは非常に難しい。転写因子や細胞の種類が膨大な数になるため、可能な組み合わせはほとんど無限に考えられ、どの結合がどこで、いつ、どのようにして行われるかを判断することは非常に難しい。 さらには、ゲノムワイドのマッピング作業で、転写因子がほとんどあたりかまわず結合し、遺伝子のオン・オフが行われない部位にさえ結合することが観察されているため、むしろ混乱に輪をかける結果になった。ミズーリ州カンザス・シティ、Stowers Institute for Medical Researchの研究チームは、個々の転写因子が結合するゲノムの部位を正確にしかも高い信頼度で解析できる高解像度法を開発した。このテクニックは標準的なテクニックをはるかに引き離すものである。2015年3月9日付Nature Biotechnologyオンライン版に掲載された新しいテクニックを用いて、機能する可能性の高い転写因子結

次に来るダイエット・ブームには遺伝子組換えした腸内細菌がもてはやされるかも知れない。研究チームが腸内細菌の遺伝子を組換え、正常な代謝で空腹感抑制脂質に変わる物質を生成させることに成功した。この腸内細菌を加えた水をマウスに与えると、高脂肪食を与えた場合でも食餌量が減り、体脂肪も減り、糖尿病の予防にも効果があった。   この技術は人間のダイエットなどに応用できる可能性がある。研究チームは、2015年3月22日から26日までコロラド州デンバーで開催された世界最大の科学協会、第249回National Meeting & Exposition of the American Chemical Society (ACS) において11,000件近い研究発表の一つとして、この技術を発表した。肥満は、心疾患、卒中、2型糖尿病、いくつかのタイプのがんなどの疾患や異常のリスクをいちじるしく高める。アメリカ人の3人に1人は肥満であり、肥満化を抑制する試みはほとんどが失敗している。ライフスタイルの変化や投薬でもごくわずかに体重減少が見られるだけで、ほとんどの場合、体重は元に戻る傾向がある。近年、数多くの研究で、腸内に棲む微生物群が肥満やそれに関連した疾患のリスクに関わる重要な因子になっていることが示されており、腸内細菌叢を変化させることで健康に影響を与える可能性が考えられている。 Sean Davies, Ph.D.は、「微生物医療の利点の一つは、メンテナンスが簡単なことだ」と述べており、博士は、腸内に半年から1年棲み着くような医薬細菌を開発し、長期体内薬剤輸送をさせることを目標としている。たとえばダイエット薬の場合、少なくとも1日に1回服用しなければならないことが普通で、長期的には患者も指示された通りに服用せず、さぼることが多い。Dr. Daviesは、「だから、患者が何時間かご

大腸がんは世界的にもっとも発生率の高いがんであり、がん死の内訳でも第二である。早期診断できれば治癒する可能性の高いがんだが、早期診断はそう簡単ではない。VIBとKU Leuvenの研究者は、UZ Leuvenを含むヨーロッパの何か所かのがんセンターと共同で研究を進め、新しい診断検査に採用できる可能性のあるバイオマーカーを発見した。そのバイオマーカーを利用すれば簡単な血液検査で大腸がんを早期診断できるはずである。   この研究の成果は、2015年3月付のGutオンライン版に、“Tumour-Educated Circulating Monocytes Are Powerful Candidate Biomarkers for Diagnosis and Disease Follow-Up of Colorectal Cancer (腫瘍に教育された循環血中単球は大腸がんの診断とフォローアップに適した強力なバイオマーカー候補)”として発表された。Dr. Max Mazzone (VIB/KU Leuven) は、「この研究で、がんにおける免疫系の役割をよく理解することがどれほど重要かが示されている。この研究で得られた知識から新しい感度の高い検査法を確立し、早期診断を可能にしてより多くの患者の治癒につながることを望んでいる。研究をさらに進め、検査法を発展させるために援助してくれる企業パートナーが早く見つかるよう念願している」と述べている。 2012年には世界中で合計140万人が大腸がんと診断されたが、2035年までにはこれが240万人になると予測されており、この疾患の発生率は毎年増えている。大腸がんは早期段階で発見できればかなり治療しやすい疾患であり、治癒率は約95%にもなるが、発見が遅れるとがんと診断されてから5年後の生存率は10%未満になる。したがって、このがんは早期発

新しい実験的なプラットフォームを採用して構成されたエボラ全ウイルス・ワクチンが致死率の高いエボラウイルスに接触したサルを効果的に保護することが証明された。2015年3月25日付Scienceオンライン版に掲載された論文に詳述されたこのワクチンは、鳥インフルエンザ、エボラなど重要なウイルス研究の権威である河岡義裕博士の率いる研究チームによって開発された。   このワクチンは不活性化された全ウイルスワクチンというところが他のエボラワクチンと異なっており、タンパク質や遺伝子を含めたエボラウイルス総体が宿主の免疫系を刺激するため、防御機能をより高めることが考えられる。UW-Madison School of Veterinary MedicineのProfessor of Pathobiological Sciencesであり、東大医科学研究所教授も務める河岡博士は、「効力という面ではこのワクチンは優れた防御機能を有しており、同時に非常に安全なワクチンでもある」と述べている。このワクチンは、2008年に河岡研究室のDr. Peter Halfmann研究員が初めて試験的に開発したプラットフォームに基づいて構成された。 このシステムは、エボラウイルスが宿主細胞内で繁殖するために必要なタンパク質をつくるVP30という重要な遺伝子を取り除いてあるため、研究者も安全にこのウイルスを扱うことができる。エボラウイルスはほとんどのウイルスと同じように8個の遺伝子しか持っておらず、成長し、感染するためには宿主細胞の分子機構を利用しなければならない。サルの腎細胞の遺伝子組換えでVP30タンパクを発現させることで、研究室でウイルスを安全に研究し、全ウイルス・ワクチンのような対抗策をつくり出す基礎にすることができる。また、Science掲載の研究論文によれば、河岡博士と同僚研究者チームは過酸化水素

Georgia State Universityの研究チームによれば、褐色脂肪細胞は感覚神経を通して脳と通信しており、体脂肪の総量や減少量など肥満と闘うためにカギとなる情報をやりとりしている可能性がある。2015年2月4日付The Journal of Neuroscienceに掲載された研究論文は、褐色脂肪細胞が活性化する際に脳との間で交わす通信について解説している。  この論文は、「Brown Adipose Tissue Has Sympathetic-Sensory Feedback Circuits (交感・感覚帰還回路を持つ褐色脂肪組織)」と表題され、実験はシベリア・ハムスターを使って行われた。褐色脂肪組織は、体を動かす熱を発生し、エネルギーを消費するためにカロリーを燃やす「良い脂肪組織」とか「健康な脂肪組織」と考えられており、これに対して体内ではるかに量の多い白色脂肪は後で使うためにエネルギーを貯蔵するもので、糖尿病や心疾患など健康のリスクを高めることがある。研究の結果から、褐色脂肪組織はエネルギー燃焼量を増やすことができるという重要な役割を担っており、適度の減量と肥満防止のために利用できる可能性が示された。論文の第二著者でGeorgia State UniversityのNeuroscience Institute and Center for Obesity Reversal博士号課程研究生、John Garretsonは、「製薬会社は褐色脂肪組織をターゲットとしてこれをさらに活性化する方法を研究している」と述べている。 現行の研究で、通常は脳から発せられる交感神経系の信号をまねる薬剤を使って褐色脂肪組織を活性化すると、褐色脂肪は感覚神経を活性化して脳に応答することが突き止められている。褐色脂肪組織から出ている感覚神経は直接の化学的活性化や熱生成に反応

ヒトゲノム解析で世界をリードするdeCODE GeneticsがNature Geneticsオンライン版に新しい地平を切り開く4本の研究論文を発表した。この論文はアイスランド各地の10万人を対象にした全ゲノム・シーケンス・データに基づいている。deCODE研究チームが執筆したこの研究論文は、最新のDNAシーケンシング技術を駆使して、これまででもっとも詳しい一国の住民のDNA像を描き出した。   2015年3月25日付けの4本のNature Genetics 掲載論文の首席著者であり、deCODEの設立者で現在CEOを務めるKari Stefansson, M.D.は、「この研究は、人類の歴史を探り、疾患の診断、治療、予防の新しい手段を開発する上で他にはないシーケンシングの効力を示すものになった」述べ、さらに、「また、私たちのような少数の人口でも、大多数の市民の善意の協力があれば世界の科学と医学の前進に貢献できることを示している。 その点で、この研究は分子レベルの国家的自画像にとどまらない。まれな疾患の正確な診断、アルツハイマーなどの疾患のリスク因子や創薬標的の発見、通常一対を組んでいるゲノムの世界で相手を持たないY染色体が父親から息子に遺伝する際に自己修復する仕組みを突き止めるなど、私たちの研究は多大な貢献をしてきた。他の国でも国家規模のシーケンス・プロジェクトの立ち上げ準備を始めている。そういう国に対してプロジェクトの成果は莫大だと伝えたい」と結んでいる。 4本のNature Genetics掲載論文とその要点を下記に紹介する。「Large-Scale Whole-Genome Sequencing of the Icelandic Population」は、deCODEが、国民の総合的な家系を使って、国民のシーケンス・データが少ない地域まで正確に割り出せることを

20年前、Dr. Matthias Gromeierは、がん性腫瘍の治療にポリオウイルスが有効と唱えたが、その考えは嘲笑の的になっていた。しかし最近、かつて何百万人という人間を苦しめ、あるいは命を奪ったポリオウイルスが、もっとも致死性の高いがんの一つとされる膠芽腫性脳腫瘍の治療に役立つ可能性が研究によって明らかになってきた。2015年3月29日夜、米CBS放送の「60 Minutes」番組で、レポーターのScott Pelleyが、遺伝子組換えポリオウイルスを使った膠芽腫治療の第I相臨床試験に被験者として参加し、医師からがんが消えたと宣告された2人の患者にインタビューした。   Duke UniversityでSurgeryのAssociate ProfessorとMolecular Genetics and MicrobiologyのAssociate Professorを兼任するDr. Gromeierは、「狂っているというのから嘘つきというのまで様々な反応があったし、ほとんどの人は治療法としては危険すぎると考えていた」と述べている。Dr. Gromeierは、腫瘍をポリオウイルスで治療するという考えを推し進め始めた15年前からここで研究を続けてきた。 当時、そのような否定論者の一人がDr. Henry Friedmanで、現在はDuke UniversityのBrain Tumor CenterのDeputy Directorを務めており、そこでは現在ポリオウイルス治療法の第I相臨床試験が行われているのである。Dr. Friedmanは、Pelleyに、「人間にマヒを起こす病原体を使うなんて、頭がどうかしているんじゃないかと思った」と語っている。それから15年が経ち、研究に続いて動物試験が行われ、人間を被験者とする臨床試験段階に入って、Dr. Friedmanも

University of Californian, San Francisco (UCSF) の研究者が主導して行った多施設共同研究の結果によれば、ダウン症候群および他の2種のまれな染色体異常の発見には標準的な非侵襲性スクリーニング検査法よりも、妊娠10週間から14週間の間にCell Free DNA(cfDNA)血液検査をする方が効果的との可能性が示された。この研究では、16,000人近い妊娠女性を追跡調査した結果、Cell Free DNA血液検査がダウン症候群で生まれた38人を正確に予測した。ダウン症候群は認知障害を伴い、いくつかの疾患のリスクも高めることが知られている。   この血液検査による診断は新生児検査、産前産後の遺伝子解析で確認された。この検査では妊娠女性の血液中に浮かんでいるごく少量の胎児のDNAに注目している。DNAは、ポリメラーゼ連鎖法 (PCR) と呼ばれる分子転写テクニックを使って増幅した上でシーケンシングにかけ、各染色体DNA相対量を比較できるようになっている。DNAが多すぎるというのは、染色体に何らかの障害があることを示しており、ダウン症候群の場合には23対の染色体の一つ、21番染色体の過剰な複製が特徴になっている。2015年4月1日付New England Journal of Medicineのオンライン版に掲載されたこの研究論文によると、同じ妊娠女性が標準的なスクリーニング検査を受けた結果では38人中30人だけがダウン症候群の疑いありと判定された。 この論文は、「Cell-Free DNA Analysis for Noninvasive Examination of Trisomy (Cell Free DNA解析によるトリソミー非侵襲性検査)」の表題で掲載されている。このスクリーニング検査では、採血血を検査し、染色体異常に伴う

セントルイス大学 (SLU) の薬理学および生理学の教授 Daniela Salvemini博士率いる研究チームは、2015年4月15日付Journal of Neuroscienceに掲載された研究論文で、A3アデノシン受容体を標的とする薬剤で脊椎中の疼痛の信号をカットし、慢性疼痛を軽減できることを突き止めたと述べている。この論文は「Engagement of the GABA to KCC2 Signaling Pathway Contributes to the Analgesic Effects of A3AR Agonists in Neuropathic Pain」と題されている。   患者が医者の診察を受ける最大の理由は疼痛だが、一般的な非ステロイド系抗炎症薬 (NSAID) もオピオイド鎮痛薬も必ずしも慢性の疼痛に効果があるとは限らない。そのため、Salvemini博士と同僚研究チームは、NIH、University of Arizona、カナダのケベック州の2研究機関と協力し、慢性疼痛を緩和する新しい標的薬を調査した。それがA3アデノシン受容体(A3AR) である。 Salvemini博士の研究室でのそれまでの研究で、A3アデノシン受容体を標的とする2種の医薬、IB-MECAとMRS5698が、化学療法を原因とする激しい痛みを伴う神経障害、転移がんの痛み、神経傷害などいくつかの慢性疼痛の治療に効果があった。同グループは、最近にはA3アデノシン受容体の疼痛緩和の仕組みを解明しようとしており、Salvemini博士は、「慢性疼痛というのは、疼痛を伝達する神経経路の調節機構能力が失われるために起きるということが考えられる。アデノシンは神経系の他の領域では調節信号伝達分子の役割を果たしており、私たちもA3アデノシン受容体が疼痛処理時に疼痛信号調節に何らかの役

欧州肺癌会議(ELCC 2015)において、国際研究チームが、「肺がん患者の血流に乗って循環するがんDNA (ctDNA)は、医師にとってはがん組織採取が難しい場合にも、重要な突然変異情報を提供し、最大限の治療が可能になる」との研究を発表した。会議において、その研究を発表したドイツのLung Clinic GrosshansdorfのDepartment of Thoracic Oncologyに勤めるDr. Martin Reckは、「この研究結果は、特定のがん細胞突然変異を標的にするがん治療法の有効性に光を当てている」と述べている。   Dr. Reckのプレゼンテーションは、「Investigating the Utility of Circulating-Free Tumor-Derived DNA (ctDNA) in Plasma for the Detection of Epidermal Growth Factor Receptor (EGFR) Mutation Status in European and Japanese Patients with Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer (ヨーロッパと日本における進行非小胞性肺がんの上皮成長因子受容体 (EGFR) の変異状態判定のための血漿中の無細胞血中循環腫瘍由来DNA (ctDNA) 検出の有用性研究)」と題されている。 検査で、がん組織のこのような突然変異の証拠を必ず見つけられるとは限らないが、患者の血流に乗って循環するがん細胞のDNAがそれに代わる情報を提供する可能性があるとしている。この大規模な国際的ASSESSの研究は、EGFR変異を検出する血液検査とがんそのものを検査する標準的な検査法の能力比較を目的としていた。Dr. Reckは、「私たちは患者に

フィラデルフィア市のMonell Chemical Senses Centerの新研究で、炎症を促進する免疫系調節タンパク質である腫瘍壊死因子 (TNF) が、苦味に対する感受性を調節していることが突き止められた。この研究結果は、感染症、自己免疫疾患、慢性炎症疾患などに伴う味覚異常や食欲減退などの機序を説明できる可能性がある。TNFは、炎症疾患を仲介する役割に加えて、アルツハイマーからがんまで様々な疾患の進行に役割を果たしていることが示唆されている。研究論文の首席著者、Monellのmolecular biologist、Hong Wang, Ph.D.は、「食欲減退とそれに伴う栄養失調は、重篤患者の長期的予後にも影響する重大な問題である。   私たちの研究で、苦味の味覚は免疫系によって調節されていることが明らかになった。特に、TNFが病気の患者の味覚を苦味に敏感にする結果、食事がより苦く感じられ、食欲をそそられないということが起きている可能性がある」と述べている。 Dr. Wangの研究は、味覚と免疫系の相互作用を中心にしており、研究の目的は味覚細胞の機能が疾患の状態でどのように変化するかを明らかにすることにある。既にその研究の過程で、味蕾にはTNFを含めて何種類かの免疫系タンパク質が含まれていることを実証している。TNFが食欲を減退させることは判明していることから、現在の研究は、TNFが味覚細胞に作用することで食欲を減退させるのかどうかを突き止めることに重点を置いている。この研究の成果は2015年4月21日付の「Brain, Behavior, and Immunity」誌オンライン版に掲載された。TNFが味覚を調節するかどうかを調べるため、研究グループは正常なマウスと、遺伝子組み換えでTNF遺伝子を欠いた (TNFノックアウト・マウス) の味覚反応を比較した。2

UCLAの研究チームは、KRASバリアントと呼ばれる比較的ありふれた遺伝性の遺伝子突然変異を持つ女性が、エストロゲン量の急激な低下を経験した場合、乳がん発生のリスクが高まるだけでなく、発生した乳がんの生体的な変化にも影響することを発見、さらには、KRASバリアントを持つ女性は、最初の乳がんとは別に新しく二つ目の乳がんの発生するリスクが高いことも突き止めた。   UCLA Jonsson Comprehensive Cancer CenterのProfessor of Radiation OncologyとDavid Geffen School of MedicineのDirector of Translational Researchを兼任するDr. Joanne Weidhaas (写真) の指導する研究チームが2年かけた研究で、1,700人を超える乳がん患者から提供されたDNAサンプルの遺伝性KRASバリアント検査データを分析した。この研究では、KRASバリアントを持っているが、がんにかかっていない女性の集団と臨床結果を科学的に確認するための生体モデルも対象に加えている。 その結果、Dr. Weidhaasの研究チームは、卵巣摘出後やホルモン補充療法中止時に起きる急激なエストロゲン離脱や低エストロゲン状態が、KRASバリアントの女性の乳がんと関連していることを突き止めた。また、この研究で対象としたKRASバリアント生体モデルでも急激なエストロゲン離脱が乳がん発生を引き起こすことも明らかになった。また、KRASバリアントを持つ乳がん患者の45%で最初の乳がんとは別に新たな乳がんが発生した。この数字はKRASバリアントを持たない乳がん患者と比べると12倍の高リスクである。Dr. Weidhaasは、「これまでもKRASバリアントが、男性と比べて女性の場合にはかなり正確

世界中で口腔の悪性腫瘍の死者数はがん死のうち第6位を占めている。従って、治療効果や患者の生きる希望や生活の質を高めるためには迅速正確な診断がかぎとなる。スペイン、ガリシア地方所在Biomedical Research Institute (IBI) の研究チームは、BIOCAPS (Biomedical Capacities Support Programme) プロジェクトに参加しており、口腔粘膜中のがん腫を検出する迅速で信頼性も高く、侵襲度の低い新しい診断法の特許を取得した。この特許は、Irida Iberica社に与えられており、現在、同社はポータブル型の試作品を開発中であり、IBI研究チームの進めている「イン・ビボ検査で悪性度パラメータを正確に測定する」診断法、つまり、組織を患者の体内から取り出さずに解析する診断法の開発に出資する予定になっている。   研究者と臨床医師の協同作業は、研究の成果を確実に医療現場の問題解決に振り向けるというBIOCAPSの主目的の一つであり、このプロジェクトの基幹となっている。IBIのNew Materials Groupと、Hospital Povisa (Vigo, Spain) のOtorhinolaryngology Departmentとが協同してこの新しい診断法の開発に当たっており、将来的には子宮頸がんや皮膚がんのように他の一般的ながんの診断にも適用できるようになると考えられる。 Hospital PovisaのDr. Roberto Valdesは、「口腔がんの初期症状は、中咽頭の内面にできる白っぽいまたは赤っぽい病変部で、時間が経っても消えず、むしろ広がっていく」と説明している。この病変が時間が経つと何もしなくても痛み、あるいは咀嚼、嚥下時に痛み、さらに進行すると口腔の出血が始まる。このような症状が現れる段階になる

Howard Hughes Medical Institute (HHMI) の研究チームが開発した新しい検査法は、一滴の血液でヒト・ウイルス206種類すべての過去現在の感染を判定することができる。この新検査法は、個別ウイルス感染を1種ずつ調べる現行の検査法に比べてはるかに効果的であり、個別ウイルスの感染を分析するのではなく、一度のテストで患者がどのウイルスに感染したことがあるかを知ることができる。そのため、予断をもって検査することもなく、予期しない病原体が原因となっている場合にも的確に判定し、さらには集団検診によってウイルス感染を分析比較も可能で、しかも、この包括的な分析が血液サンプル一件あたり$25程度という低コストで済む。   ボストン市のBrigham and Women's Hospitalに所属するHHMI研究者、Dr.Stephen Elledgeの率いる研究チームはVirScanと呼ばれる新検査法を開発した。Dr.Elledgeは、「私達の研究チームは、一度に一種類のウイルス感染しか判定できない従来の手間のかかる検査法に代わり、一度の検査で患者の血清の分析から過去に感染したウイルスをすべて判定できる検査法を開発した」と述べている。彼の研究チームは、すでにアメリカ、南アフリカ、タイ、ペルーでVirScanを使って569人の血液サンプル検査の試験実施を行っており、2015年6月5日付Science誌に新検査法の説明と研究報告を投稿している。このScience誌の記事は、「Comprehensive Serological Profiling of Human Populations Using a Synthetic Human Virome (合成ヒト・ウイルス叢を用いた人間集団の包括的血清プロファイリング)」と題されている。 このVirScanは、血液

Dr. David Baulcombeが率いるケンブリッジ大学の応用植物科学科とエディンバラ大学の生物科学の研究者らは、現在のSmall RNA解析法では、ヌクレオチドが18個から30個までのSmall RNAを検出するのには不十分であることを明らかにし、競合内因性RNA (ceRNA) の支配下にあると考えられるSmall RNAを検出する新しい解析法を採用した。この新研究論文は、Nucleic Acids Research (NAR) 誌から「画期的論文」に選ばれた。   この論文は2015年6月13日付オープン・アクセスNARオンライン版に掲載された「FDF-PAGE: A Powerful Technique Revealing Previously Undetected Small RNAs Sequestered by Complementary Transcripts (FDF-PAGE: 強力な実験手法でこれまで相補的な転写によって隠され、検出されなかったSmall RNAも検出可能に)」と題されており、FDF-PAGEとは、「fully denaturing formaldehyde-polyacrylamide gel electrophoresis (完全変性フォルムアルデヒド・ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動法)」の頭文字である。 Small RNAシーケンシングは、細胞内の遺伝子発現調節の仕組みを研究する強力な方法であり、何百万という配列「読み取り」データを集め、何千という数の遺伝子のコントロールを解読する手がかりが得られる。ただし、データの質は、シーケンシングに用いられるRNAの質によって決まる。Dr. Baulcombeと同僚研究者は、一部のSmall RNAが雑種化し相補的配列を生じ、この結合のために検出が難しくなるのではないかという仮

ドイツのUniversity of Freiburg, Department of Microsystems Engineering (IMTEK), Laboratory of MEMS Applicationsの博士課程研究者、Friedrich Schulerらの研究チームは、DNAサンプルを何千という数の小液滴に分割する方法を開発した。何よりもこれまでの方法と異なるところは、制御しやすいこと、サンプルを短時間で1万個を超える直径約120ミクロンの液滴に分割できることが挙げられる。全工程がDVD大の回転するプラスチック円盤の上で進む。   研究チームは、この新しい検査法を、2015年4月23日付Lab on a Chip誌オンライン版に発表し、「Centrifugal Step Emulsification Applied for Absolute Quantification of Nucleic Acids by Digital Droplet RPA (recombinase polymerase amplification) (遠心ステップ乳濁化技術を適用したデジタル液滴リコンビナーゼポリメラーゼ増幅による核酸絶対定量)」と表題されている。 遠心力によって移動する液体は回転する円盤の溝を通り、油を満たした小部屋に流れる。溝の出口では、ぽたぽたと垂れる蛇口のように流れる液体が液滴に分割される。DNA検出の手がかりとなる生物反応が液滴中で起きる: 一つでもDNA分子があれば発光するので、分子をかなりの精度で数えることができる。この方法は、がん診断、産前診断、敗血症診断、HIV患者観察など様々な臨床現場で適用できる。特に研究チームは、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅という迅速な検出反応を液滴では初めて採用しており、これまで2時間以上かかっていた検査全体を30分以

2015年6月17日付オープン・アクセス・ジャーナルPLOS ONEのオンライン版に掲載されたUniversity of California (UC), San Diego School of Medicineの研究によると、加工食品の風味、舌触り、保存性を改善するために一般に用いられている食品中のトランス脂肪酸 (dTFA) を大量に摂ると、45歳以下の男性の記憶機能減退をもたらす可能性がある。この研究論文は「A Fat to Forget: Trans Fat Consumption and Memory (記憶機能減退させる脂肪: トランス脂肪摂取と記憶)」の表題がつけられ、食事内容調査と単語記憶テストを受けた被験者男女1,018人のデータを分析評価した。  その結果、45歳以下の男性は平均86語を記憶していたが、1日のトランス脂肪消費量が1g増えるごとに単語記憶能力が0.76語減少していた。言い替えれば、この研究でdTFA消費量がもっとも大きい若い男性は、トランス脂肪をまったく摂らないが、その他についてはまったく同じ条件の男性に比べて12語も単語記憶力が低いことになる。 筆頭著者で、UC San Diego School of Medicineの医学教授を務めるBeatrice A. Golomb, M.D., Ph.D.は、「トランス脂肪は、もっとも生産性の高い年齢の男性の記憶力減退と強い相関関係が見られた。これまでにもトランス脂肪摂取が、脳機能の柱である行動や気分に悪影響を及ぼすことが示されていたが、私達の知る限り、記憶力や認知機能との関係は示されたことがなかった」と述べている。実験結果を、年齢、運動量、学歴、民族、情緒傾向などで調整した結果、45歳以下の男性全般にわたってdTFA消費量と記憶力減退との関係が見られた。この研究ではこの年齢層の女性被験者が少

遺伝子検査で単純明快な結果を求めている患者は、しばしば戸惑うような結果を受け取ることがある。「疾患関連遺伝子の変異体があると判定されたが、その重要度は不明」と知らされる患者はどうしていいか分からない。そのような変異体は疾患のリスクを高めるものかも知れないし、そうではないかも知れないというのである。2015年6月付Genetics誌に掲載された研究論文は、乳がんとの関連が知られている遺伝子、BRCA1の2000種近い変異体の特性を分析しており、疾患リスクの高い変異体と高くない変異体を判別する新しい手法の有効性を主張している。   この論文は、「Massively Parallel Functional Analysis of BRCA1 RING Domain Variants (BRCA1 RINGドメイン変異体の超並列機能解析)」と表題されている。遺伝子検査も総合的な多重遺伝子解析や全ゲノム・シーケンシング法が広く用いられるようになってきており、患者が、重要度不明の遺伝子変異体を持っていると知ることが増えている。たとえば、2014年の研究では、25種遺伝性がん遺伝子検査を受けた乳がん患者の42%で、スキャンした遺伝子の一つに重要度不明の変異体が見つかっている。 筆頭著者で、University of Washington所属のLea Starita, Ph.D.は、「このような検査結果を受け取っても患者は心配する以外に何もできない。私達の研究では、遺伝子変異体の能率的機能検査の技術をさらに発展させることで、このような不安を軽減することを願っている」と述べている。同研究チームは、他の疾患関連遺伝子に比べると、BRCA1の変異体の機能やシーケンスはかなり明らかになっていることから、研究のテスト・ケースとしてBRCA1遺伝子を用いた。通常、BRCA1は、DNA突然変異修復

University of California, Santa Cruz (UC Santa Cruz) の研究者らを中心とするチームが、エボラその他の病原ウイルスを検出できる信頼性の高いチップ・ベースの技術を開発した。このシステムはウイルス分子を直接光学的に検出する方法を採っており、エボラ出血熱のような疫病の広がりを緊急に防止しなければならない現場における迅速正確なウイルス検出のために、扱いが簡単で持ち運びのできる機器に組み込むこともできる。エボラウイルスその他の出血熱ウイルスの試料を用いたラボでの試験でも、実用レベルの臨床アッセイに必要とされる感度と特異度を示した。   この研究の論文は、2015年9月25日付Nature Scientific Reportsのオープン・アクセス論文として発表され、「Optofluidic Analysis System for Amplification-Free, Direct Detection of Ebola Infection (増幅不要なエボラ感染の直接検出用流体光学分析システム)」と題されている。 西アフリカのエボラ大流行では2014年以来11,000人を超える人々が亡くなり、最近でもギニアとシエラ・レオネで新しい患者が発生している。現在、エボラウイルス検出の標準的検査法は、PCRを用いてウイルスの遺伝物質を増幅した上で検出するという方法を採っている。しかし、PCRはDNA分子に作用するものであり、一方、エボラはRNAウイルスであるため、PCR増幅と検出の前に、逆転写酵素を用いてウイルスのRNAからDNAコピーを作るというステップが必要になる。この論文の首席著者でUC Santa CruzのKapany Professor of Optoelectronicsを務めるDr. Holger Schmidtは、「私達の

University of California (UC) Davis の研究チームは、CD4T細胞起動の順序を違えて最初にインターロイキン-2のような炎症性サイトカインにさらされるとCD4T細胞が「機能麻痺」することを発見した。CD4T細胞は、病原体その他の侵入物に対する抵抗を調整する働きがあるだけに、この発見は免疫学の教科書を書き替えることになるかも知れない。このメカニズムは、免疫反応が暴走する前にこれを停止するファイアウォールとして機能することも考えられる。一方、臨床の見地に立てば、この発見はがん免疫療法の改善、自己免疫障害治療薬の発展、敗血症からの回復の迅速化などをもたらす可能性もある。   この研究の結果は、2015年8月18日付Immunity誌に掲載された。論文は、「Out-of-Sequence Signal 3 Paralyzes Primary CD4+ T-Cell-Dependent Immunity (順序を違えて3段階目のシグナルにさらされ、CD4陽性T細胞依存性の一次免疫応答が麻痺)」と題されている。 第一著者で、ポスドク研究員のDr. Gail Sckiselは、「T細胞を活性化するには3段階のシグナル・プロセスが必要で、いずれも適正な活性化に欠かせない。これまで誰もこの順序を違えた場合にどうなるかを試したことがなかったが、この3段階目のシグナルであるサイトカインを先に加えると、CD4T細胞を機能麻痺させてしまうことを突き止めた」と述べている。T細胞の活性化には、まずT細胞が抗原を認識し、適切な副刺激シグナルを受け取り、その後に炎症性サイトカインにさらされて初めて免疫反応が展開される。ところがこれまで、免疫療法でやっているように3番目のシグナルを先に送り込むと免疫系全体の機能を停止させてしまうことには誰も気づかなかった。Dr. Scki

がん研究者の夢は、いつかがん細胞をもとの正常細胞に戻す方法を見つける日が来ることだ。メイヨークリニック・フロリダキャンパス研究チームが、がん細胞を正常細胞にリプログラムする可能性を持つ方法を発見した。大発見と評価される可能性もあるこの研究の成果は、2015年8月24日付Nature Cell Biology誌オンライン版に掲載されており、主任研究員を務めたメイヨークリニック・フロリダキャンパスのChair of the Department of Cancer BiologyのPanos Anastasiadis, Ph.D.は、「がん細胞を消すコード、ソフトウエアを備えた予想外の生物学的新発見」と形容しており、論文は「Distinct E-Cadherin-Based Complexes Regulate Cell Behaviour through miRNA Processing or Src and p120-Catenin Activity (Eカドヘリン・ベースの特定の複合体が、miRNAプロセシングやSrcとp120カテニンの活性によって細胞の挙動を調節)」と題されている。   このコードは、細胞同士をつなぎ合わせる接着剤の役割を果たす接着タンパク質という物質が、microRNA (miRNA) 分子の生成に主要な役割を果たすマイクロプロセッサーと相互作用することが発見されたことから解明された。このmiRNAは、遺伝子グループの発現を同時に調節することで細胞プログラム全体を統合している。研究チームは、正常細胞が互いに接触した時には特定のmiRNAサブセットが細胞成長を促進する遺伝子を抑制することを突き止めた。ところが、がん細胞で接着が妨げられると、このmiRNAの調節異常が起き、細胞が際限なく増殖し始める。ラボでの実験では、がん細胞中のmiRNA量を正常に

私達の歯を覆っているエナメル質はいつ進化したのか?またエナメル質は体のどこに最初に現れたのか? 2015年9月23日付Nature誌オンライン版に掲載された研究論文は、スエーデンのUppsala Universityと、中国は北京のInstitute of Vertebrate Palaeontology and Palaeoanthropology (IVPP) の研究者が、古生物学とゲノム学という全く異なる2つの研究分野のデータを総合し、この疑問に対して意外でしかも疑問の余地のない答を見つけたとしている。エナメル質は皮膚組織を起源として、後になって歯に移ったというのである。   このNature誌の研究論文は、「New Genomic and Fossil Data Illuminate the Origin of Enamel (新しいゲノム・データと化石デーがエナメル質の起源を解明)」と題されている。 誰でもエナメル質のことはよく知っている。朝、洗面台に向かって歯を磨く時、白く光る表面がエナメル質である。 このエナメル質は、歯独特の3種のエナメル基質タンパク質を基層として形成された鉱物質の燐灰石 (リン酸カルシウム) が主体になっており、生体でもっとも硬い物質である。人間も他の陸上脊椎動物と同じで、歯は口腔にしかないが、サメなど一部の魚類は、体表にも「楯鱗」と呼ばれる、細かな歯に似たウロコを持っている。化石で発掘される硬骨魚類や北米産の遺存種ガーパイク (Lepisosteus) などでは、鱗が「硬鱗質」と呼ばれるエナメル質状組織で覆われている。 Uppsala University, Department of Organismal Biology研究員のDr. Tatjana Haitinaは、Broad Instituteがシーケンシングを完了したガーパ

ほ乳類のゲノム編集に画期的なCRISPR/Cas9システム採用の道を開いたことで知られる研究者らのチームがまた新しいCRISPRシステムを発見した。このシステムは従来よりも簡単で精密なゲノム編集を可能にすると期待されている。ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営するBroad Institute of MIT and Harvard、MITのMcGovern Institute for Brain ResearchのDr. Feng Zhang (写真) と同僚研究チーム、共著者である、National Institutes of HealthのDr. Eugene Koonin、Broad Institute and the MIT Department of BiologyのDr. Aviv Regev、オランダのWageningen UniversityのDr. John van der Oostらは、この新しいシステムの持つ予想外の生物学的特徴を述べ、さらに、作り替えてヒト細胞の編集に充てられることを示した。2015年9月25日付Cell誌オンライン版に掲載された研究論文は、「Cpf1 Is a Single RNA-Guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System (Cpf1はクラス2のCRISPR-CasシステムのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ)」と題されている。   Broad InstituteのDirectorで、ヒト・ゲノム・プロジェクトのプリンシパル・リーダーの一人、Dr. Eric Landerは、「この研究は、遺伝子工学の進歩に大きな可能性を持っている。この論文は、これまで性質が突き止められていなかったCRISPRシステムの機能を明らかにしただけでなく、Cpf1をヒト・ゲノム編集

オーストラリア連邦メルボルンの研究チームが、「マラリア原虫が互いにコミュニケーションし、種の生存と他の人に感染するチャンスを高くする社会行動をするらしい」という驚くべき発見を報告している。この発見から、マラリア原虫のコミュニケーションの仕組みが解明されれば、そのネットワークを遮断することでマラリアの予防や治療の薬、ワクチンを開発する足がかりになるかもしれない。 Walter and Eliza Hall InstituteのAlan Cowman教授、Dr. Neta Regev-Rudzki、Dr. Danny Wilsonらが、University of MelbourneのBio21 Institute、Department of Biochemistry and Molecular BiologyのAndrew Hill教授と共同で研究を行い、マラリア原虫がエキソゾーム様小胞に情報を詰め、体内の他のマラリア原虫に情報を伝えることができるという証拠をつかんだ。この研究論文は2013年3月15日付「Cell」誌に掲載された。Cowman教授は、「複数のマラリア原虫が、人体中の無性生殖段階から、媒介してくれる蚊に吸い上げられやすくするため、昆虫内での有性生殖に適した性的に成熟した成体に変化する過程で協力し合っているらしいという発見は研究チームにとっても衝撃的だった。Netaがデータを見せてくれた時、私自身、正直なところ驚いた。信じられないことだった。マラリア原虫がほんとうに互いに信号を送り、コミュニケートしているのだと確信するまで、研究チームは何度もやり方も変えて実験を繰り返した。しかし、やがてなぜマラリア原虫がこのようなメカニズムを必要としているかが理解できるようになった。マラリア原虫は人体から蚊に移される確率を高めるため、有性生殖に適した生殖体に変化するが、そ

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