University of California, Santa Cruz (UC Santa Cruz) の研究者らを中心とするチームが、エボラその他の病原ウイルスを検出できる信頼性の高いチップ・ベースの技術を開発した。このシステムはウイルス分子を直接光学的に検出する方法を採っており、エボラ出血熱のような疫病の広がりを緊急に防止しなければならない現場における迅速正確なウイルス検出のために、扱いが簡単で持ち運びのできる機器に組み込むこともできる。エボラウイルスその他の出血熱ウイルスの試料を用いたラボでの試験でも、実用レベルの臨床アッセイに必要とされる感度と特異度を示した。   この研究の論文は、2015年9月25日付Nature Scientific Reportsのオープン・アクセス論文として発表され、「Optofluidic Analysis System for Amplification-Free, Direct Detection of Ebola Infection (増幅不要なエボラ感染の直接検出用流体光学分析システム)」と題されている。 西アフリカのエボラ大流行では2014年以来11,000人を超える人々が亡くなり、最近でもギニアとシエラ・レオネで新しい患者が発生している。現在、エボラウイルス検出の標準的検査法は、PCRを用いてウイルスの遺伝物質を増幅した上で検出するという方法を採っている。しかし、PCRはDNA分子に作用するものであり、一方、エボラはRNAウイルスであるため、PCR増幅と検出の前に、逆転写酵素を用いてウイルスのRNAからDNAコピーを作るというステップが必要になる。この論文の首席著者でUC Santa CruzのKapany Professor of Optoelectronicsを務めるDr. Holger Schmidtは、「私達の

University of California (UC) Davis の研究チームは、CD4T細胞起動の順序を違えて最初にインターロイキン-2のような炎症性サイトカインにさらされるとCD4T細胞が「機能麻痺」することを発見した。CD4T細胞は、病原体その他の侵入物に対する抵抗を調整する働きがあるだけに、この発見は免疫学の教科書を書き替えることになるかも知れない。このメカニズムは、免疫反応が暴走する前にこれを停止するファイアウォールとして機能することも考えられる。一方、臨床の見地に立てば、この発見はがん免疫療法の改善、自己免疫障害治療薬の発展、敗血症からの回復の迅速化などをもたらす可能性もある。   この研究の結果は、2015年8月18日付Immunity誌に掲載された。論文は、「Out-of-Sequence Signal 3 Paralyzes Primary CD4+ T-Cell-Dependent Immunity (順序を違えて3段階目のシグナルにさらされ、CD4陽性T細胞依存性の一次免疫応答が麻痺)」と題されている。 第一著者で、ポスドク研究員のDr. Gail Sckiselは、「T細胞を活性化するには3段階のシグナル・プロセスが必要で、いずれも適正な活性化に欠かせない。これまで誰もこの順序を違えた場合にどうなるかを試したことがなかったが、この3段階目のシグナルであるサイトカインを先に加えると、CD4T細胞を機能麻痺させてしまうことを突き止めた」と述べている。T細胞の活性化には、まずT細胞が抗原を認識し、適切な副刺激シグナルを受け取り、その後に炎症性サイトカインにさらされて初めて免疫反応が展開される。ところがこれまで、免疫療法でやっているように3番目のシグナルを先に送り込むと免疫系全体の機能を停止させてしまうことには誰も気づかなかった。Dr. Scki

がん研究者の夢は、いつかがん細胞をもとの正常細胞に戻す方法を見つける日が来ることだ。メイヨークリニック・フロリダキャンパス研究チームが、がん細胞を正常細胞にリプログラムする可能性を持つ方法を発見した。大発見と評価される可能性もあるこの研究の成果は、2015年8月24日付Nature Cell Biology誌オンライン版に掲載されており、主任研究員を務めたメイヨークリニック・フロリダキャンパスのChair of the Department of Cancer BiologyのPanos Anastasiadis, Ph.D.は、「がん細胞を消すコード、ソフトウエアを備えた予想外の生物学的新発見」と形容しており、論文は「Distinct E-Cadherin-Based Complexes Regulate Cell Behaviour through miRNA Processing or Src and p120-Catenin Activity (Eカドヘリン・ベースの特定の複合体が、miRNAプロセシングやSrcとp120カテニンの活性によって細胞の挙動を調節)」と題されている。   このコードは、細胞同士をつなぎ合わせる接着剤の役割を果たす接着タンパク質という物質が、microRNA (miRNA) 分子の生成に主要な役割を果たすマイクロプロセッサーと相互作用することが発見されたことから解明された。このmiRNAは、遺伝子グループの発現を同時に調節することで細胞プログラム全体を統合している。研究チームは、正常細胞が互いに接触した時には特定のmiRNAサブセットが細胞成長を促進する遺伝子を抑制することを突き止めた。ところが、がん細胞で接着が妨げられると、このmiRNAの調節異常が起き、細胞が際限なく増殖し始める。ラボでの実験では、がん細胞中のmiRNA量を正常に

私達の歯を覆っているエナメル質はいつ進化したのか?またエナメル質は体のどこに最初に現れたのか? 2015年9月23日付Nature誌オンライン版に掲載された研究論文は、スエーデンのUppsala Universityと、中国は北京のInstitute of Vertebrate Palaeontology and Palaeoanthropology (IVPP) の研究者が、古生物学とゲノム学という全く異なる2つの研究分野のデータを総合し、この疑問に対して意外でしかも疑問の余地のない答を見つけたとしている。エナメル質は皮膚組織を起源として、後になって歯に移ったというのである。   このNature誌の研究論文は、「New Genomic and Fossil Data Illuminate the Origin of Enamel (新しいゲノム・データと化石デーがエナメル質の起源を解明)」と題されている。 誰でもエナメル質のことはよく知っている。朝、洗面台に向かって歯を磨く時、白く光る表面がエナメル質である。 このエナメル質は、歯独特の3種のエナメル基質タンパク質を基層として形成された鉱物質の燐灰石 (リン酸カルシウム) が主体になっており、生体でもっとも硬い物質である。人間も他の陸上脊椎動物と同じで、歯は口腔にしかないが、サメなど一部の魚類は、体表にも「楯鱗」と呼ばれる、細かな歯に似たウロコを持っている。化石で発掘される硬骨魚類や北米産の遺存種ガーパイク (Lepisosteus) などでは、鱗が「硬鱗質」と呼ばれるエナメル質状組織で覆われている。 Uppsala University, Department of Organismal Biology研究員のDr. Tatjana Haitinaは、Broad Instituteがシーケンシングを完了したガーパ

ほ乳類のゲノム編集に画期的なCRISPR/Cas9システム採用の道を開いたことで知られる研究者らのチームがまた新しいCRISPRシステムを発見した。このシステムは従来よりも簡単で精密なゲノム編集を可能にすると期待されている。ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営するBroad Institute of MIT and Harvard、MITのMcGovern Institute for Brain ResearchのDr. Feng Zhang (写真) と同僚研究チーム、共著者である、National Institutes of HealthのDr. Eugene Koonin、Broad Institute and the MIT Department of BiologyのDr. Aviv Regev、オランダのWageningen UniversityのDr. John van der Oostらは、この新しいシステムの持つ予想外の生物学的特徴を述べ、さらに、作り替えてヒト細胞の編集に充てられることを示した。2015年9月25日付Cell誌オンライン版に掲載された研究論文は、「Cpf1 Is a Single RNA-Guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System (Cpf1はクラス2のCRISPR-CasシステムのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ)」と題されている。   Broad InstituteのDirectorで、ヒト・ゲノム・プロジェクトのプリンシパル・リーダーの一人、Dr. Eric Landerは、「この研究は、遺伝子工学の進歩に大きな可能性を持っている。この論文は、これまで性質が突き止められていなかったCRISPRシステムの機能を明らかにしただけでなく、Cpf1をヒト・ゲノム編集

オーストラリア連邦メルボルンの研究チームが、「マラリア原虫が互いにコミュニケーションし、種の生存と他の人に感染するチャンスを高くする社会行動をするらしい」という驚くべき発見を報告している。この発見から、マラリア原虫のコミュニケーションの仕組みが解明されれば、そのネットワークを遮断することでマラリアの予防や治療の薬、ワクチンを開発する足がかりになるかもしれない。 Walter and Eliza Hall InstituteのAlan Cowman教授、Dr. Neta Regev-Rudzki、Dr. Danny Wilsonらが、University of MelbourneのBio21 Institute、Department of Biochemistry and Molecular BiologyのAndrew Hill教授と共同で研究を行い、マラリア原虫がエキソゾーム様小胞に情報を詰め、体内の他のマラリア原虫に情報を伝えることができるという証拠をつかんだ。この研究論文は2013年3月15日付「Cell」誌に掲載された。Cowman教授は、「複数のマラリア原虫が、人体中の無性生殖段階から、媒介してくれる蚊に吸い上げられやすくするため、昆虫内での有性生殖に適した性的に成熟した成体に変化する過程で協力し合っているらしいという発見は研究チームにとっても衝撃的だった。Netaがデータを見せてくれた時、私自身、正直なところ驚いた。信じられないことだった。マラリア原虫がほんとうに互いに信号を送り、コミュニケートしているのだと確信するまで、研究チームは何度もやり方も変えて実験を繰り返した。しかし、やがてなぜマラリア原虫がこのようなメカニズムを必要としているかが理解できるようになった。マラリア原虫は人体から蚊に移される確率を高めるため、有性生殖に適した生殖体に変化するが、そ

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