ティーンエイジャーの薬物乱用は脳内ネットワークに起因―大規模臨床研究で明らかに

ティーンエイジャーの薬物乱用は脳内ネットワークに起因―大規模臨床研究で明らかに

どうしてティーンエイジャーの中には、同年代の周りの人間がそうしなくても、喫煙を始めたり、薬物に手を出したてみたりするケースが出てくるのだろうか? 過去最大規模で行なわれたヒトの脳の大規模イメージング研究によって−1,896人の14歳のイメージングも含まれている−これまで判らなかった多くの脳内ネットワークの解明に繋がる知見が得られた。ベルモント大学のロバート・ウェラン博士とヒュー・ギャラバン博士は、海外の研究者達の協力も得て、脳内ネットワークの違いによって、一部のティーネイジャーは特異的に薬物やアルコールに走る高いリスクを抱えている事を実証した。単純に脳の働きが他のティーンエイジャーとは違うことが原因で、極めて簡単に衝動的行動を起こすように働くのである。

 


ネイチャー・ニューロサイエンス2012年4月29日号オンライン版に発表された報告によると、昔からある「鶏が先か、卵が先か?論争」に似た、薬物乱用以前に特異な脳のパターンを示すのか、或いは薬物乱用によってそうなるのかという疑問に、答えを与えるものなのだ。「特異的な脳パターンの違いは、薬物乱用以前に観察されています。」とベルモント大学精神医学科でウェラン博士の研究仲間であり、IMAGENプロジェクトのアイルランド分科会の主席研究員であるギャラバン博士は語る。このIMAGENプロジェクトとは、ティーンエイジャーの精神衛生や異常行動の研究を行なう欧州の大規模な臨床研究プロジェクトであり、今回のテーマでデータを収集した。

明らかになった事は、眼窩前頭皮質を含む脳内ネットワークの活動減退が、青年期の早い時期に、アルコール、喫煙、違法ドラッグ等に手を出す行動と関連しているということだ。「このネットワークが他の子ども達のように働かない子ども達もいます。」とウェラン博士は話すが、その子ども達は更に衝動的行動を取りがちなのだ。喫煙や飲酒が出来る状況に出くわした時に、衝動をコントロールする機能が減退した14歳は、「ねえ、欲しいよ、頂戴よ、ねえ」と言い募る傾向にある。「しかし、そうでない子ども達は、ちゃんと、『いや私は欲しくない』と言えるのです。」とギャラバン博士は続ける。この機能の減退をテストし、別の脳のネットワークを利用して、薬物乱用リスク因子やバイオマーカーとすることが出来る日が来るであろう。

注意欠陥過活動障害(ADHD)に関与する別のネットワークも新たに見つかっている。このADHDネットワークも、青年期早期の薬物乱用に明白に関連している。ここ数年、ADHDと薬物乱用との関連性について大いに議論になっており、メディアの注目も高まっている。ADHDと早期薬物乱用は両方とも、抑制制御の減退と関連しており、衝動的気質にしてしまうと言われている。しかし、どちらのグループのティーンエイジャーも、抑制制御の全般を測定する標準法である反応抑制テストでは、同じように低い点数を示すかもしれないが、今回の研究では、どうも別々の脳内ネットワークが関わっているようだ。つまり、今回の研究で明らかに言えることは、ADHDのリスクは、薬物乱用のリスクと関連しているわけではないということだ。衝動性ネットワーク−これは脳内のネットワーク結合箇所の活性を、血流の増加をモニターして突き止めたのだが−が、精神分析医が衝動性と名付けた気質や、行動のパターンの神経生物学的な源流となっている微妙な様相を、少しずつ解明し始めたと言える。この衝動性にブレーキを掛ける余裕や機能のことを、抑制制御とも呼ぶのである。UCLA分子薬理学研究所長で薬物中毒研究科の教授であるエディセ・ロンドン博士は、今回の研究に参画してはいないが、その成果を評して、「全くもって素晴しい。ウェラン博士とそのチームの研究のおかげで、青年期のヒト脳内の抑制制御を司る神経回路を我々が理解するために、本質的な前進がありました。」と語る。

因子解析という数学的解析法を適用して、ウェラン博士とその研究チームは、ティーンエイジャーの活動期の脳から得た広大で混沌とした情報の中から、衝動の抑制時に働く7つのネットワークと、衝動の抑制が利かない場合の6つのネットワークを見つけ出した。ウェラン博士が言うには、被験者(ティーンエイジャー)にキーボードのボタンを繰り返し押す作業をさせ、その状態を機能MRIでモニターする臨床試験において、途中でうまく止めたり一旦停止出来たりした時に、ネットワークが「光る」というのだ。抑制制御がより機能しているティーンエイジャーほど、この作業を速く行なうことが出来る。しかし、この試験方法によって裏に隠されているネットワークを見つけるには「16人や20人程度のfMRIモニターでは不十分」であり、「今回の研究は圧倒的に規模が大きく、ランダム効果やノイズを除去すると同時に、脳内で変化する箇所を特定することが出来たのです。」とウェラン博士は指摘する。「重要なことは、衝動性ネットワークは脳内の複数箇所に分散されて存在し、一つの箇所はADHD症状と関連しており、他の箇所は薬物乱用に関係します。」とギャラバン博士は語る。

EUのグラントで、ロンドン・キングスカレッジ精神医学科のギュンター・シューマン教授に率いられるIMAGENコンソーシアムの数年に渡る研究によって、新たな事実が浮かび上がってきた。IMAGENはEU全域の科学者が集う研究コンソーシアムであり、アイルランド、イギリス、フランス、ドイツの2,000人のティーンエイジャーのボランティアの協力により、神経ネットワークのイメージング、遺伝子学、そして行動パターン数年に渡って追跡調査を続ける臨床研究によって、リスクを犯す行動の根源や精神衛生の研究を行っている。

ティーンエイジャーが一定の境界線を押し、時にはこえてしまうことを、容易に予測できるようになるということだ。どの世界でも、強いて言えば全ての哺乳類に当てはまるであろうが、青春期とは「境界線」を試し、独立した大人になっていく時期である。工業化社会におけるティーンエイジャーの「死」の多くは、リスクの高い衝動的な行動によって招いた、予防可能な或いは自虐的な事例によって引き起こされ、飲酒や薬物乱用に関わることが多い。「”依存症”は我々西洋社会では健康上の最大の問題となっています。飲酒や喫煙、作用の強い薬物などが著しく人々の健康を害していくのです。」とギャラバン博士は警告する。脳内ネットワークが、特定のティーンエイジャーの健康を損ねる引き金となるとは、公衆衛生上重要な事柄である。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Huge Study Finds Brain Networks Connected to Drug Abuse by Teenagers

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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