腎臓細胞がニューロンと類似した学習や記憶を行う可能性を示す研究
記憶は脳、特に脳細胞に保存されるというのは一般的な知識ですが、ニューヨーク大学のニコライ・V・ククシュキン博士(Nikolay V. Kukushkin, PhD)を中心とした研究チームは、体内の他の細胞も記憶機能を担っていることを発見しました。この発見により、記憶の仕組みに関する新たな理解が進み、学習能力を向上させたり、記憶関連の疾患を治療する道が開ける可能性があります。本研究は2024年11月7日にNature Communications誌に発表され、論文タイトルは「The Massed-Spaced Learning Effect in Non-Neural Human Cells(非神経ヒト細胞における一括-間隔学習効果)」です。
研究の背景と目的
この研究は、脳以外の細胞がどのように記憶機能を果たすのかを解明するため、神経科学で確立された「一括-間隔効果(massed-spaced effect)」を応用しました。一括-間隔効果とは、情報を短期間に集中的に学ぶよりも、一定間隔を置いて学ぶ方が記憶が定着しやすいという現象です。研究チームは、非神経系のヒト細胞が同様の効果を示すかを実験的に検証しました。
実験の内容
研究チームは、実験室で2種類の非神経系ヒト細胞(神経組織由来と腎臓組織由来)を用い、異なる化学信号のパターンにさらしました。これは、脳細胞が学習時に神経伝達物質のパターンにさらされる状況を模したものです。その結果、これらの非神経細胞が「記憶遺伝子」を活性化することが確認されました。この遺伝子は、脳細胞が情報パターンを検出して結合を再構築し、記憶を形成する際に活性化されるものと同じです。
さらに、科学者らは記憶と学習のプロセスを観察するため、これらの細胞に発光タンパク質を組み込む技術を使用しました。このタンパク質が光ることで、記憶遺伝子がオンになっているかオフになっているかを視覚的に確認できました。
重要な発見
実験では、化学信号が間隔を空けて繰り返される場合、記憶遺伝子の活性化が強く、持続時間も長いことが示されました。一方で、信号が一度に集中して与えられた場合、この効果は弱まりました。この結果は、一括-間隔効果が脳細胞だけでなく、すべての細胞に共通する基本的な性質である可能性を示唆しています。
意義と応用可能性
ククシュキン博士は、「この発見は記憶の仕組みに関する新たな研究手法を提供するだけでなく、学習能力の向上や記憶障害の治療につながる可能性があります」と述べています。また、「体全体を脳のように扱う必要があることを示唆しています。例えば、膵臓が過去の食事パターンを記憶して血糖値を調節する仕組みや、がん細胞が化学療法のパターンを記憶する仕組みを考慮する必要があるかもしれません。」と指摘しています。
本研究は、ククシュキン博士とトーマス・キャリュー博士(Thomas Carew, PhD)が共同で監督を行い、ニューヨーク大学の研究者タスニム・タバッスム氏(Tasnim Tabassum)と元学部研究者ロバート・カーニー氏(Robert Carney)が共同執筆者として参加しました。
写真:ニコライ・V・ククシュキン博士(Nikolay V. Kukushkin, PhD)



