乳房細胞が腺房と呼ばれる乳腺中の球状組織を形成する上で 重大な役割を持つ回転運動を発見した、と米国エネルギー省(DOE’S)ローレンス・バークレー国立研究所(Berkeley Lab)の研究チームが発表した。本研究は乳がんリサーチにはもちろん、基礎細胞生物学にも重要な意味を持つ。その接着性角運動のために、”CAMo”と呼ばれるこの回転運動は、細胞が球体を形成するのに必要不可欠なのである。

 

CAMoなしでは細胞は球体を形成することが出来ず、形体を損なうランダム運動を引き起こし、最終的には悪性腫瘍に発展する「この発見の素晴らしい所は、生物学に適用する細胞運動の物理法則を解く鍵となる可能性を秘めているということです。」と、乳がん研究の第一人者であり、Berkeley Lab生命科学科の顕著科学者、ミナ・ビッセル博士は語る。ビッセル博士と研究グループのポスドク物理学者、キャンディス・タンナー博士は、PNASに本研究を記述している論文の責任著書である。
本論文は2012年1月25日付けのPNASオンライン版に記載された。健康なヒトの乳房および他の腺組織の上皮細胞は、球状腺房またはチューブ状の管を形成する。腺房形成により起こる細胞および組織の極性(細胞および組織構造の空間定位機能を有するもの)は、乳房の健康状態を維持するために必要不可欠である。細胞が球体を形成出来なければ極性は失われ、これは悪性腫瘍へ発展するサインとなる。


しかし、細胞の形態形成がここまで判明しているにも関わらず、上皮細胞が生体内でどのように集合し、サイズや形の類似した球体を形成するのかは未だ解明されていない。
「我々は、単一細胞が複数回回転し、腺房を形成する過程での分裂時および集合時にもその回転運動を保持する、新規の細胞運動を発見しました。我々はまた、CAMoが球体構造を樹立する上で重要な機能であり、単なる多細胞アグリゲートでは無いということを示したのです。」と、タンナー博士は語る。タンナー博士およびビッセル博士と研究チームは、ヒトの不死化上皮細胞と一次上皮細胞の両方を基底膜の代用となる独特の3Dゲル(ビッセル博士と研究チームにより20年前に開発されたアッセイ)で培養し、4D(3Dに時間枠を追加したもの)ライブ画像共焦点顕微鏡を駆使し、本研究を行った。

それにより、細胞骨格中のアクトミオシンと呼ばれる三日月型の筋肉のような分子が屈曲する際に生じる向心力が、CAMoの起因であることを発見した。この向心力が、軸の周りを回転するように細胞に働くのである。この回転は1時間にかろうじて1回転するほどの低速で、時計回りまたは反時計回りに回転する。また軸が移動することもあるが、回転運動自体はまとまりを持つ。細胞が分裂し、最終的に腺房を形成するまでこの回転は続き、その過程で細胞および腺房に通常の形体や機能に必要な極性や空洞を残していく。

「CAMo無しでは細胞は機能する道失い、乳房細胞が乳を産生し分泌するのに必要な組織を形成出来なくなってしまいます。極性化された球体を形成するためには、細胞の向きが正しく調節され、特定の構成要素が上や下を向いていなければなりません。CAMo回転は、このように細胞に必要な配向を提供してくれるのです。」と、タンナー博士は説明する。ビッセル博士は、乳がんの発生における細胞外基質(ECM)の重要な役割を解明した研究の開拓者として有名である。ECMとは乳房細胞を取り巻く微笑環境中の線維状の球状タンパク質の組織網である。
ビッセル博士の実験では、乳房細胞核がECMや他の微笑環境から正確な生化学的合図またはシグナルを受け取ることに失敗すると細胞や組織の構造が崩れ、悪性腫瘍へと発展する道は開けるということが示された。CAMoの発見は、乳房細胞がECMからの合図やシグナルを受信しそれに反応する、今まで知られていなかったメカニズムを解明した。

「単一細胞とその子孫がどのようにして極性組織を形成するのか、また悪性転換により細胞動態が損なわれる有無を、今回解明したかったのです。本研究では、悪性細胞はCAMoを示さず、代わりに球体を形成しないランダム運動が見られました。」と、ビッセル博士は説明する。ビッセル博士と研究グループは、 濃縮ラミニン(細胞静止を誘発するタンパク質)を含むECMで培養された悪性細胞が、ECMを操作することによって、悪性ゲノムにも関わらず表現型が通常のものに転換するということを最近の研究で示した。
この新しい研究でタンナー博士およびビッセル博士と研究チームは、悪性細胞が3DのECM代用ゲルで培養され、シグナル抑制分子に応じて表現型の復帰変異を起こすと、CAMoも回復することを発見した。CAMoが回復すると、復帰したガン細胞は極性化球体を形成した。

「これらの結果は、細胞が適切な状況にある場合、ECMからのシグナルとサポートが細胞内の形体と機能を形成する、という我々の仮説を肯定しています。また、ECMからの微小環境の合図に応じ、細胞が数種類の運動性を指揮する細胞骨格運動プログラムを実行するということが研究結果に判明しました。我々は、これらの運動が特定の組織を形成し、他の多細胞形状の形成を防止するのではないかと仮説を立てています。
そして、これが多細胞生物の進化において重要な現象であると考えています。」と、ビッセル博士は語る。この新しい研究でタンナー博士およびビッセル博士と研究チームは、3DECM代用ゲル内の乳房細胞の2次・3次分裂における著しい遅延を認め、驚いた。この有糸分裂の遅延は、ヒトの胚盤胞形成中に見られる有糸分裂の遅延と類似しており、正常な胚形成に必要不可欠なのである。タンナー博士によると、この遅延は子孫が十分な付着を獲得し、接着細胞までCAMoが継続するために必要なのではないかと考える。

この知見は、各妊娠や萎縮の後に乳腺がどのようにして再編成するのかを明らかにするかもしれない。「各細胞が互いに十分に接着されると、まとまった単位としてCAMoを継続することが出来るのです。我々は、この接着性CAMo運動こそが、授乳や母乳栄養の後に乳房細胞の組織構造が再建されるメカニズムであると考えています。」と、タンナー博士は説明する。次なる実験課題は、CAMoの影響をECM観点から研究することだ。「我々は 単一細胞がCAMoを経る際のECMとの相互作用を調べ、その生体内での関連を示したいと思います。」と、タンナー博士は語る。

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