UCLAの研究チームは、液状サンプルに浮遊している細胞をその微妙な生化学的違いによって選別整理するセルソーティング方法を新しく開発した。この新しいセルソーティング技術は、現行のセルソーティング技術よりも迅速正確に細胞を選別し、単純かつ迅速な細胞分析自動化を可能にすると同時に、治療に用いる細胞と治療に用いない「汚染」細胞とを簡単に分離できるようにもなる。 セルソーティング技術は、ライフサイエンス研究、診断、産業的な工程など幅広い分野で用いられている。たとえば、組織や培養器から前駆細胞や幹細胞を分離するのに用いられており、一旦分離した細胞は組織損傷の治癒やがん細胞攻撃のために患者の体内に戻す治療にあてられる。UCLAでは開発された磁気ラチェッティング・システムは、わずかに異なる細胞も分別し、治療に適した細胞のみをより分けることができる。 この研究の研究責任者で、UCLA Henry Samueli School of Engineering and Applied ScienceのProfessor of BioengineeringのDino Di Carlo, Ph.D.は、「私達の考えでは、単一の細胞種というのも実は異種の細胞種が入り交っており、これを量的に分離できる技術がなければ、このような微妙な違いも見逃されてしまう。たとえば、治療に有効な前駆細胞は、なんら治療効果のない汚染細胞と非常に似通っている可能性もある」と述べている。現在、2つのセルソーティングテクニックがある。その一つは蛍光を使って目標の細胞を見つけるというテクニックで、その作業過程で損傷を受けたり、死滅してしまう細胞が多いため、この分析にはかなりの数の細胞を必要とするだけでなく、分析に時間もかかる。もう一つのテクニックは、磁気タグ付け分離という方法で、迅速だが通常は「イエス」か「ノー」かという二値的な

がんのもっとも一般的な治療法として放射線療法と化学療法がある。しかし、このどちらも副作用があり、健康な組織まで傷める。そればかりか、がんが体中に広がっている場合にはその効果も限られている。   コペンハーゲン大学のニールス・ボーア研究所の研究グループは、がん細胞をあざむいて細胞毒素を吸収させることによって死滅させ、一方、正常細胞には何の影響も与えない穏やかな治療法の開発を進めている。この研究論文は2016年3月2日付Scientific Reportsに、オープン・アクセス論文として掲載され、「Restricted Mobility of Specific Functional Groups Reduces Anti-Cancer Drug Activity in Healthy Cells (特定官能基の移動性制限で正常細胞での抗がん剤の影響低減)」と題されている。発端は、コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所の物理学者であるMurillo Martins, Ph.D.が、いわばナノスケールの「輸送車」を血流に載せて細胞毒素を直接がん細胞まで運び、がん細胞にその輸送車ごと呑み込ませることでがん細胞を内側から破壊しようというアイデアを思いついたことだった。 SF映画に出てきそうな話だが現実に可能なことだろうかという疑問がわき上がる。まず、輸送車そのものを作らなければならない。彼はまず医学研究の分野ではよく知られている微小な磁石ビーズを使ってみることにした。その微小なビーズを血流中に注入し、がんの位置に磁石を埋め込むとビーズは磁石の位置に集まってくる。次のステップは、ビーズに細胞毒素を載せることだった。コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所X線・中性子科学のポスドク研究員、Dr. Martinsは、「生物学的に適した素材で微小な輪状の袋を作り、化学処理によってビーズ

サン・アントニオのCancer Therapy & Research Center (CTRC) の研究グループは研究論文を発表し、正常な乳房組織におけるBRCA1遺伝子、通称「アンジェリーナジョリー遺伝子」の機能、およびその機能の欠失によって乳がん発症に至る機序をさらに深く解明している。米国国立がん研究所指定の総合がんセンターの一つ、CTRCは、テキサス大学サン・アントニオ校医学部の一部であり、サン・アントニオにおけるテキサス大学健康科学センター、医学部付属臨床診療機関である。 BRCA1は、各細胞の遺伝的青写真を保管するDNAの損傷を修復することでがんを抑制する機能が知られている。このDNAの損傷は、加齢や環境的な影響によって起きる。 2016年3月4日付Nature Communicationsのオンライン版に掲載された新研究で、CTRC研究グループは、BRCA1が乳房細胞の成長を調節するCOBRA1と呼ばれる遺伝子に対する制限因子または調節因子として機能することを突き止めた。この研究は、「Genetic suppression reveals DNA repair-independent antagonism between BRCA1 and COBRA1 in mammary gland development (遺伝的抑制で、DNA修復と無関係な乳腺成長時のBRCA1とCOBRA1との間の拮抗関係が明らかに)」と題されてオープンアクセス記事として掲載されている。この研究の筆頭著者で、Health Science CenterのMolecular Medicine教授を務めるRong Li, Ph.D.は、「乳房組織中のBRCA1がDNA修復とは無関係な何らかの機能を持っているというはっきりとした説得力のある証拠を見つけた。BRCA1ががんの発達を抑

2016年4月19日付Human Reproduction誌オンライン版に掲載された研究論文によると、BRCA1遺伝子変異と、卵巣卵残存量を示すホルモン・レベルの低下との関連が突き止められた。同誌は世界をリードする生殖医療学術誌の一つとして知られている。この論文はオープンアクセス論文として掲載されており、「Anti-Mullerian Hormone Serum Concentrations of Women with Germline BRCA1 or BRCA2 Mutations (生殖細胞系列BRCA1またはBRCA2変異を持つ女性の血清中の抗ミューラー管ホルモン濃度)」と題されている。 国際的な研究グループは、遺伝子変異を持った女性のBRCA1、BRCA2遺伝子変異と抗ミューラー管ホルモン (AMH) レベルを調べた初の大規模研究で、BRCA1変異を持つ女性は、BRCA1変異を持たない女性に比べるとAMHの濃度が平均25%低いことを発見した。BRCA2変異についてはそのような関係は見られなかった。 研究論文の第一著者を務めたオーストラリア連邦ビクトリア州東メルボルン所在のPeter MacCallum Cancer Centre所属コンサルタント腫瘍内科医のProfessor Kelly-Anne Phillipsは、「このことから、平均してBRCA1変異を持った30代半ばの女性の卵巣の卵残存量は、BRCA1変異を持たない女性の場合には約2歳年長に相当する」と述べている。AMHは卵巣卵残存量の信頼できるマーカーだが、Phillips教授は、「AMHは女性の妊孕性の一つの指標にすぎないことを念頭に置いておくのが大切だ。受精から満期まで胎児を育てる能力は、卵の質、卵管が塞がっていないかなど様々な要因が関わっており、いずれもAMHでは測ることができない。AMHが低い

ロッテルダムで開かれた2016年 国際細胞外小胞学会 (ISEV) の全体会議では、講演者として予定されていた世界的に著名なウイルス学者のRobert Gallo, MDが、感染症で入院先のアメリカの病院から800人を超える参加者を前にビデオ録画で講演するという一幕があった。 Dr. Galloは、ISEVの第二全体会議「最高峰から学ぶ:ウイルス対EV」において、もう一人の世界的なウイルス学者、Leonid Margolis, PhDとともに演壇に立つ予定だった。同じ全体会議には、University of Nebraska Medical Centerの教授、Shilpa Buch, PhDも講演した。Dr. Galloの科学的業績は数多く、また著名である。博士は、AIDSの病原体をHIVと突き止めた重要な研究を主導した上にHIV感染を判定する簡単な血液検査も開発した。この難病に対する戦いを前進させた功績は大きい。1980年から1990年にかけての時期、Dr. Galloの研究論文は引用回数が世界最多だったし、博士は、また、Lasker Awardを2度与えられた数少ない学者の一人でもある。それほど優れた業績を持つ科学者がISEV 2016年総会の参加者の前で講演することを望んだという事実一つをとっても、EV研究が重要性を持つようになったことが示されている。事実、Dr. Galloは、その発言の中で、EVについて、「新しい期待の持てる分野だ」、あるいは、「医学全体にインパクトを与える新しいコミュニケーションの方法だ」と語っている。さらに、博士は、彼自身のヒト・レトロウイルスに関する重要な研究について簡単に触れ、その研究が、レトロウイルスに似たところの多いEVを調べ、特徴付ける研究の指針になるかも知れないと考えたと語っている。 Gallo研究室のインターロイキン2T細胞

2016年5月4日、国際細胞外小胞学会 (ISEV) は、ロッテルダムにおいて、第5回年次総会 (ISEV 2016) を開き、全体会議ではがん研究分野の権威者2人がプレゼンテーションを行った。 ハンブルク大学 エッペンドルフ メディカル センター, 腫瘍生物学教室の教授であり、Directorを務めるKlaus Pantel, MD, PhDが、「Liquid Biopsy in Cancer (がんの液体生検)」のテーマで語り、また、ニューヨーク市のワイルコーネル大学医学部で教授を務めるDavid Lyden (写真), MD, PhDは、「The Systemic Effects of Exosome-Mediated Metastasis (エキソソームが媒介する転移の全身的な影響)」のテーマで語った。2人の講演は、800人近い参加者が会場をぎっしりと埋めた。 長年にわたり、がん転移を研究しているDr. Pantelが、循環腫瘍細胞 (CTCs)、無細胞DNA (cfDNA)、miRNA、エキソソームを使った非侵襲的な液体生検で、がん検査、がんの早期発見、がんの予後検査、がんの層別化と観察、微小残存がん病巣マーカーの発見、治療標的の確定、耐性メカニズムの解明、効果的な医療介入のガイドライン編成などに向けた効果的な手段を用意することが喫緊に求められていると発言した。がん早期発見に関しては、Dr. Pantelは、「これまでの研究で、非常に侵襲性の強いがんである卵巣がんの患者では、エキソソームの数が増えることが突き止められている」と述べている。また、最近の研究で、グリピカン1がんエキソソームが早期膵がんのバイオマーカーになることが示唆されている。さらに、現在の定説に反することだが、Dr. Pantelの研究グループは、神経膠腫患者の脳外の血行からCTCを見つけており

University College London (UCL) が中心になって行った国際的な研究で白髪化の遺伝子が初めて突き止められ、この現象が単に環境的なものではなく、遺伝的な因子も持っていることが明らかになった。2016年3月付Nature Communicationsに掲載されたこの研究は、ラテン・アメリカ全体にわたって様々な民族の祖先を持つ6,000人強の人口を分析し、髪の色、白髪化、濃さ、直毛や縮毛の形状に関わる新しい遺伝子を探した。 この研究論文は、「A Genome-Wide Association Scan in Admixed Latin Americans Identifies Loci Influencing Facial and Scalp Hair Features (民族混合ラテン・アメリカ人のゲノムワイド関連スキャンで顔の毛と頭髪の特徴を決める遺伝子座判明する)」と題されている。筆頭著者を務めたUCL Cell & Developmental BiologyのDr. Kaustubh Adhikariは、「禿頭化や髪色に関わっている遺伝子はすでにいくつか見つかっているが、人間の髪の形状や濃さに関わる遺伝子や白髪化に関わる遺伝子が発見されたのは初めてだ。これも、多様な民族のるつぼを分析したために可能になったことであり、これほどの規模での分析は過去にはなかったことだ。この研究の成果から人間の外見に対する遺伝子の影響について知見が深まれば、法医学の分野でも化粧品の分野でも様々な適用が考えられる」と述べている。また、法医学的なDNA技術の開発で個々人の遺伝子構成に基づいて視覚的なプロフィールを構築することができるようになるかも知れない。この分野の研究は、これまでヨーロッパ系住民のサンプルを用いてきた。しかし、この新しい研究成果をラテン・アメリ

ミシガン大学(U-M)がこの度、連邦政府資金による細胞研究プロジェクトにおいて、細胞作製を司る団体として登録された。これはU-Mが導出した第二世代幹細胞株を対象とする。UM11-1PGDとして知られるこの細胞株は、提供された5日齢のroughly the size of the period at the end of this sentence胚から得た30個の細胞クラスターから導出された。   この胚細胞は生殖目的で作成されたが、検査によって遺伝的不全があり、移植には不向きと判断され、2011年に提供されたものであれば、廃棄の対象とされたものである。遺伝子疾患であるシャルコー・マリー・ツース(CMT)病を引き起こす遺伝子不全を有しており、この疾患は遺伝性の神経疾患で、進行はゆっくりであるが手足や下腿の筋委縮を特徴とする。 CMTは遺伝性の神経性疾患としては最もよく見られる疾患の一つであり、米国では2,500人に1人の割合で発症し、症状の顕在化は青年期から成人早期に起こる。細胞株を作成する胚は凍結せずに、ミシガン州の人工授精(IVF)ラボから特別の容器に入れて、U-Mへ送られる。これは、他の疾患に関与する幹細胞と比較して、CMT疾患の進行の解明や治療法のスクリーニング行なうに当たり、CMT幹細胞が有する性質や特性の特殊性に拠るものだ。「我々はこの細胞株を科学研究界に供給できる事を誇りに思います。きっと、CMTの治療法に留まらず、CMTの治癒にも繋がるのではないかと考えているからです。これらの細胞が登録されたという事は、NIHガイドラインに正しく則って作成されている事を実証しているという事です。」とアルフレッド・トーブマン医学研究所に所属する幹細胞治療U-Mコンソーシアムの共同主幹で、この幹細胞株を提供したギャリー・スミス博士は語る。 疾患特異的幹細胞株が公的に登録さ

ハダカデバネズミ (Heterocephalus gaber) の長寿とがんに対する抵抗力はよく知られているが、メクラデバネズミ (Spalax属) も、地中の酸素の乏しい環境に棲息しており、長寿でがんに対する抵抗力がある。新しい研究でSpalaxのがん抵抗力が実証され、さらに低酸素環境に適応したことが長寿とがん抵抗力を獲得する上で役立ったのではないかという仮説を立てている。   この研究論文は、2013年8月9日付Biomed Central: Biologyのオンライン版オープン・アクセス記事で紹介されている。University of Illinois Biotechnology Centerのfunctional genomicsのdirectorを務め、論文の共著者でもあるDr. Mark Bandは、「私たちの研究で、普通のネズミに比べ、メクラデバネズミが発がん物質に対して高度の抵抗力を持っていることが証明された」と述べている。 Dr. Bandは、以前に低酸素 (hypoxic) 環境に棲息するメクラデバネズミの遺伝子発現解析の研究を指導しており、低酸素環境に対応する遺伝子が老化にも、あるいはがんの抑制や促進にも関係していることを突き止めた。博士は、「私たちは、低酸素耐性、長寿、抗がん性という、この3つの現象が互いに結びついているのではないかと考えている。いずれもストレス環境に適応する進化過程の結果ではないかということだ」と述べている。東アフリカで社会を形成するハダカデバネズミとは異なり、メクラデバネズミは東地中海地域で孤立生活している。イスラエルのUniversity of Haifaでは、このメクラデバネズミの研究が行われ、50年以上にわたって何千という数のメクラデバネズミを捕獲、研究してきた。同大学の研究者は、Spalaxの寿命が20年を超えるのに

University of California (UC), San Diegoの生物学者グループが未知の細胞メカニズムを発見した。このメカニズムにより、人間や動物はその発育過程で神経細胞の質を自動的にチェックし、適正に働くよう監視しているという。研究グループは、2013年9月4日付「Neuron」掲載の研究論文で、線虫Caenorhabditis elegansを使った研究により、ニューロンの「品質検査」システムを発見したと報告している。   このシステムは2つのタンパク質を使い、欠損ニューロンからの信号を抑制し、そのニューロンを修復するか破壊するかの目印を付けるというもの。UC San DiegoのDivision of Biological Sciencesで神経生物学教授、同大学のSchool of Medicineで細胞分子医学教授を務めるDr. Yishi Jinに率いられる研究チームの筆頭著者、Dr. Zhiping Wangは、「私たちの体が見たり、話したり、歩いたりするためには体内の神経細胞がそれぞれ適切な組み合わせの細胞に情報伝達しなければならない。 この情報伝達は軸索と呼ばれるニューロンから放出される長い繊維によって媒介される。この軸索が一つの細胞から次の細胞に電気信号や化学信号を送っていく。ちょうど、コンピュータ同士を結ぶローカル・ワイヤード・ネットワークのケーブルのような役割を果たしている。発育途中のニューロンでは軸索の対象の細胞への移動は特定信号の組み合わせによって導かれる。この信号は軸索誘導受容体と呼ばれる『小型受信機』タンパクによって検知され、『進め』、『止まれ』、『左に曲がれ』、『右に曲がれ』というように翻訳される。このように、軸索が誘導信号の翻訳をする上で、『小型受信機』タンパクの質が非常に重要になる」と述べている。Howard H

海洋藍藻は微細な海洋植物で、日光と二酸化炭素を使って酸素と有機炭素をつくり出し、生物地球化学的循環と栄養塩循環の原動力になっている。藍藻は、酸素を他の生物に供給するだけでなく、藍藻そのものが他の生物の栄養分になる海洋食物連鎖の底辺を形成している。MITの研究チームは、この微小な細胞群が非常に大きな役割を果たしていることを発見した。   この藍藻が常時小胞と呼ばれる小器官を生成し、細胞外に放出していることを突き止めたのである。この小胞は球形の物体で、有機炭素その他の栄養分を含んでおり、他の海洋生命体の食餌になる食料パッケージの役割を果たしている。しかもこの小胞にはDNAも含まれていて、同種のバクテリア集落中あるいは集落間で遺伝子導入の手段になっていることが推測される。そればかりか、DNAを持っている小胞はバクテリオファージの攻撃をかわすおとりの役割も果たしているかも知れないのである。 2014年1月10日付Science誌に掲載された研究論文で、博士研究員のDr. Steven Biller、Professor Sallie (Penny) Chisholmと共同著者らは、藍藻の中でももっとも一般的な2種、プロクロロコッカスとシネココッカス由来と見られる細胞外小胞を多数見つけたと報告している。研究チームは、藍藻の培養液にも、ニューイングランド地方の富栄養な海岸の海水やサルガッソ海の貧栄養な海水からも小胞 (いずれも直径100ナノメータ程度) を発見した。細胞外小胞は1967年に発見され、ヒトに感染するバクテリアの小胞についてはかなり詳しく研究されてきたが、大洋の海水中にも存在する証拠が見つかったのは今回が初めてである。研究論文第一著者のDr. Billerは、「小胞が海洋にふんだんに漂っているという発見は、これまでの小胞に関する理解が不足だったことを意味している。これま

幸せな結婚と不幸な結婚を決めるのは何か - University of California (UC) BerkeleyとNorthwestern Universityの研究チームは、DNAに大きな決め手があることを突き止めた。遺伝、感情、結婚満足度の関係を調べたおそらく初めての研究の報告によれば、セロトニン調節にかかわる遺伝子で感情のあり方が人間関係にどれほど影響するかが決まるとしている。研究自体はUC Berkeleyで行われた。   2013年10月7日付「Emotion」オンライン版に掲載された研究論文の首席著者でUC Berkeleyの心理学者、Dr. Robert W. Levensonは、「長年謎とされてきたのは、ある人は自分の結婚生活の感情的な温度に敏感で、ある人はまったく鈍感なのはなぜかということだ。この研究で、感情を重視する人とそうでない人との違いは何によって決まるのかということに少し理解が深まった」と述べている。 この研究チームは、特に人間関係満足度と、5-HTTLPR (セロトニン・トランスポーターにリンクされた多型領域) と呼ばれる遺伝子の変異体または「アレル」に関連性があることを突き止めた。1990年代中期に発見された5-HTTLPRは、これまでに徹底して研究されてきたが、特に神経精神疾患とのつながりがよく研究されている。ヒトはすべて両親からこの遺伝子の変異体のコピーを受け継いでいる。研究の結果、短い5-HTTLPRアレルを持つ人は、怒りや軽侮などの否定的感情が大きいと結婚生活を不満足に感じる度合いが強く、ユーモアや親愛の情など肯定的感情が大きいと結婚生活を満足に感じる度合いが強かった。これと対照的に、アレルの1本か2本が長い人と結婚生活の感情的な傾向にそれほど左右されなかった。150組を超える夫婦を20年以上にわたり追跡調査してきたこの研

Houston Methodist Research Instituteの研究チームは、初段階の研究で血清バイオマーカー中の乳がん細胞検出に成功し、将来的には血液検査で乳がんの早期発見が可能になるだろうと発表した。同研究チームは血液検査による乳がん早期発見法の開発を行っている。   2013年10月21日付「Clinical Chemistry」オンライン版に掲載された研究論文で、同研究チームはNew York University Cancer Instituteの研究者と共同研究を行い、マウスとごく少数の患者から採取した試料で、カルボキシペプチダーゼN (CPN) 酵素によって生成された血中遊離タンパクの混合で早期乳がん細胞を正確に予想することができたと報告している。 プロジェクトを指導したバイオメディカル・エンジニアのTony Hu, Ph.D.は、「この研究論文では、カルボキシペプチダーゼNの触媒活動と、乳がん患者や乳がん動物モデルから臨床的に採取した試料中のがん進行の関係を述べた。研究の結果、CPNが生成した循環ペプチドが、乳がんの発生早期と進行をはっきりと示すシグネチャーになることが突き止められた」と述べている。この技術はまだ公開されておらず、また公開にはまだ何年かかかる見込みである。その前にさらに大がかりな臨床試験が必要であり、その試験は2014年初めから開始される予定になっている。現在、乳がんの早期発見に結びつく安価なラボ検査法はなく、世界中の研究者が安価な乳がん早期発見検査法を見つけ出そうと懸命になっている。Dr. Huは、「私たちの目標は、生検や高価な画像検査法を用いずに、組織部位で進行していることをプロファイル化する非侵襲的な検査法を開発することだ。それができれば患者にとっても福音になり、既存の技術よりもはるかに安価な検査が可能だ。現在の検査法は

従来の人間や動物の記憶保存の行動学的研究では、記憶保存をその時間的尺度によって明確に異なる2つの段階で分類している。一つはせいぜい分単位の短期的記憶で、一度の経験で生まれる。もう一つは何日も続く長期的記憶で、通常は繰り返し訓練しなければ形成されない。   Columbia University, Kavil Institute for Brain ScienceのDirectorとHoward Hughes Medical Instituteの上級研究員を務め、神経系の信号変換に関する発見で2000年ノーベル医学生理学賞を受賞したEric Kandel, M.D.は、初期の同僚との共同研究で、アメフラシの単純なエラ引き込み反射を使った、潜在的な記憶の形と考えられる「学習された恐怖」の研究でこの2つの行動記憶段階を詳しく説明した。この研究で、学習過程には細胞レベルの変化が伴っていることが明らかになった。学習の基礎はシナプスであり、学習によってシナプスの結合が強まる。 これらの研究で、短期記憶は既存タンパク質の共有結合による既存の結合の一時的なシナプス促通に仲介されており、これに対して、長期記憶は転写とシナプス成長によって仲介される持続的な促通によるものであることが突き止められた。アメフラシの短期的促通を長期的促通に変換し、長期記憶に変える重要な転写スイッチは、CREB-2の抑制的な働きを取り除き、CREB-1を活性化する機能が仲介している。小分子RNAが転写制御や転写後の遺伝子発現調節に重要な役割を果たしていることから、Dr. Kandelと研究グループは、この基幹転写スイッチが記憶を短期的なものから長期的なものに変換する機能をも調節しているのではないかと考えた。Dr. Kandelの研究グループは、他の共同研究者とともに、アメフラシの小分子RNAのプロファイルを作成し

絶滅危惧種である中央アメリカの川ガメ(Dermatemys mawii) の保全に関わるスミソニアン研究所の科学者チームは、この川ガメの遺伝子研究に焦点を当ててきたが、この度、驚くべき結果を得た。メキシコ南部、ベリーズ、グアテマラに至る生息地の15地点・238匹の野生の個体から採取した小組織をサンプルとし、遺伝子構造の「驚くべき欠損」が明らかになり、Conservation Genetics誌オンライン版2011年5月17日付けに発表された。   このカメは完全に水生であり、地理的に距離や山脈で隔てられた3つの河川流域にそれぞれ独自の個体群が存在する。「我々は、各流域で異なる遺伝系統が観察されると期待していました。」と主筆であるスミソニアン保全生物学研究所・保全と進化遺伝学研究センターのグラシア・ゴンザレス・ポーター博士は説明する。そして「その代わりに私達は系統の混合を発見したのです、それも全領域で。 互いに隔絶されているのは明らかなのですが、遺伝子データは、異なるカメの個体群が数年間近接していた事を示しています。」と続ける。「しかし、一体どうやって?」という研究者達の疑問にゴンザレス・ポーター博士と研究グループが提示する最も可能性の高い説明は、人間がそれらのカメを何百年も互いに持ち寄っていたという事である。 カメは長い間食糧として、貿易品として、そして千年間儀式用に利用されてきており、広く流通し且つ使用するまでは池などで(飼育)保管する事が慣例であった。「何世紀もの間、このカメ種はマヤ族及び歴史的にその分布範囲に居住していた先住民族の食糧のひとつとなっており、D.mawii種はペテン地域の古代マヤ文明(先古典期800-400 B.C.)では重要な動物性たんぱく源でした。そしてこれらのカメは3,000年以上前のオルメカ文明の食糧のひとつであったと思われます。」と研究チ

スミソニアンの科学者のグループは両生類に急速に伝染するツボカビ病がパナマのDarien地域近傍まで広がってきた事を確認した。この地域はツボカビ病が発生していない唯一の亜熱帯山岳地域であった。この事は絶滅の危機に瀕する20種類のカエルを救済する目的でパナマとアメリカの9つの機関によって結成されたパナマ両生類救済と保全プロジェクトにとって頭の痛いニュースである。ツボカビ病は世界中で両生類の生息数の急速な減少や絶滅を引き起こしてきた。   ウエスタンパナマのEl Copeにツボカビ病が蔓延するまでの5ヶ月間で50%のカエル種と80%のカエルの個体が絶滅した。「私達はDareinに生息する全種を救済したい。 しかし今それを行なう時間が無い」とスミソニアン保全生物学研究所の生物学者でありパナマ両生類救済と保全プロジェクトの国際コーディネーターであるブライアン・グラトウィック博士は語る。「私達のプロジェクトはこれらの種が絶滅するかもしれない状況を救おうとする1つです。私達は既に捕獲した3種について繁殖に成功しています。時間は間に合わないだろうが残った時間を最大限に生かす為の情報を探しています。」Darien国立公園は世界遺産となっており現存する中米最大の自然保護区域である。2007年にはスミソニアン熱帯研究所の研究員であるダッグ・ウッドハムス博士がDarienの境界地域の49匹のカエルを試験した時にはどの検体も感染してはいなかった。しかし、2010年1月にはウッドハムス博士は93匹のカエルの2%に感染を発見した。「Darien境界地域のカエルにツボカビ病が見つかる時期は予測より随分早く、勢いの衰えない極端に早いペースで広がるこの菌は真に憂慮すべき問題です」とウッドハムス博士は語る。 パナマ両生類救済と保全プロジェクトは既にDarien地域の固有種上位2種:Pirre harleq

NIHのEpigenome Roadmap Projectに参加していた大規模な研究機関合同研究チームが、2013年5月9日付「Cell」オンライン版で、ヒトの胚の発達初期に遺伝子がオン・オフされる仕組みを発表した。Ludwig Institute for Cancer Research のDr. Bing Ren、The Salk Institute for Biological Studies のDr. Joseph Ecker、Morgridge Institute for ResearchのDr. James Thomsonらが指導するこの研究チームは、これまで知られていなかった遺伝子の現象が胚の発生だけでなく、がんの発生にも重要なカギを握っていると述べている。   4年以上の歳月をかけて行われた実験と分析のデータは公開されており、事実上すべてのバイオメディカルの分野で大きく貢献することが予想される。ヒトの卵子は、受精すると卵割を繰り返し、免疫細胞からニューロンにいたるまで人体のすべての細胞を創り出す。その胚発生の過程で、各世代の細胞は全遺伝子のうち特定の遺伝子のみを発現し、他の遺伝子の発現を抑制することで前世代の細胞とは異なる機能を発揮する。 Ludwig Instituteのメンバーで、UC San Diego SchoolのDepartment of Cellular and Molecular Medicine教授を務めるDr. Renは、「スケールの大きな遺伝子技術を用い、胚細胞とそれに続く世代の細胞が体のどの部分を形成していくかを決め、その部分に落ち着いていく過程で、ゲノム全体の各遺伝子がどのようにオン・オフされるかを調べた」と述べている。細胞が遺伝子を制御する一つの方法がDNAのメチル化で、DNAを形成する4つの塩基の1つ、シトシンにメチル基と呼

UCLAとオーストラリアの生命科学者チームは、「脳の主要な学習中枢が損傷を受けると、複雑な新しい神経回路が現れ、損傷で失われた機能を補償する。この新しい代替回路創出に関わる脳の領域を突き止めた。この領域はしばしば損傷領域とはかけ離れた位置に現れる」と発表している。Dr. Michael FanselowとMoriel Zelikowsky氏が、シドニーのGarvan Institute of Medical Researchの神経科学研究プログラム・グループ・リーダーのDr. Bryce Visselと共同で行った研究の論文が、2013年5月15日付PNASオンライン版に掲載された。   研究グループは、脳の学習と記憶形成の中枢である海馬が障害を受けると、前頭葉皮質の一部が海馬の機能を引き継ぐことを突き止めた。この発見は、神経回路の可塑性を初めて実証した画期的な業績で、今後、アルツハイマー病、卒中その他、脳の損傷を伴う症状の治療を開発する上で大きな助けになる可能性がある。Dr. FanselowとZelikowsky氏は、ラットを用いた研究室での実験を行い、げっ歯類が海馬を損傷した後でも新しい作業を学習する能力があることを実証した。海馬を損傷したラットは、正常な場合よりも学習に時間がかかったが、それでも経験を繰り返して学習することができたというのは驚くべき発見だった。 心理学教授でUCLA Brain Research InstituteのメンバーでもあるDr. Fanselowが、この研究論文の首席著者を務めており、「脳は経験を通して学習しなければならないことが推測できる。この研究ではラットに問題解決の課題を与えた」と述べている。Fanselow 研究室のZelikowsky院生は、研究チームが、ラットの問題解決学習能力を突き止めた後、オーストラリアに渡ってDr.

人間はまだカメから学ぶことがあるかも知れない。また、初めてカメのゲノム塩基配列を解析した科学者達は、カメの長寿の秘密や何か月も呼吸しないで生きられる能力に、人間に応用できる何らかの知識が得られるのではないかと考えている。このゲノム塩基配列解析を担当した研究チームは、「カメが酸素欠乏状態から心臓や脳を守るために持っている自然なメカニズムを解明すれば、将来、人間の心臓マヒや卒中の治療法改善の手がかりになるかも知れない」と述べている。   UCLAの保全生物学者でこの研究論文の筆頭著者、Dr. Brad Shafferは、ミズーリ州セント・ルイス市のWashington University内Genome Instituteとの協力で研究を続けてきており、さらには長年の研究プロジェクトで総勢58人の論文共同著者とも共同研究を行ってきた。学術誌「Genome Biology」のオープン・アクセス論文として2013年3月28日付でオンライン発表されたこの研究論文では、カメの中では棲息範囲がもっとも広く、またもっともよく研究されている種の一つ、ニシニシキガメのゲノムを解析している。 UCLAのInstitute of the Environment and Sustainability (IoES) とDepartment of Ecology and Evolutionary Biologyの教授を務めるDr. Shafferは、「ニシキガメの異常なまでの適応力は、未知の新しい遺伝子によるものではなく、ヒトを含めた脊椎動物に共通する複数の遺伝子のネットワークによるものであると知って、研究チームはむしろ驚いたくらいだ」と述べている。IoESのLa Kretz Center for California Conservation Science所長も兼任するDr. Shafferは

最近の研究で、タイセイヨウサケと伝染性サケ貧血 (ISA) ウイルスとの間の相互作用がインフルエンザ様疾病、ISAの発症と伝染につながる仕組みが明らかにされている。この新発見は、2013年4月10日付のプレスリリースで発表されており、インフルエンザ研究一般にも応用できる可能性がある。ISAは1984年にノルウェーで初めて見つかり、今でも養殖水産業にとって深刻な脅威になっているが、養殖タイセイヨウサケの疾病としては、国際獣疫事務局に登録されている唯一の疾病である。   この病気は通常一つのケージで発生し、何週間、何か月という期間で隣接するケージに広がっていく。また、この病気の治療法がまだ見つかっておらず、ISAが蔓延すると養殖業者にとって莫大な損失につながりかねない。 Maria Aamelfotは、博士論文の中でこの病気の進展をいくつかの段階にわたって説明している。彼女は、どのタイプの細胞がウイルスに対する受容性が高く、どの細胞が現実にウイルスに感染するのかを研究した。その研究で、ISAウイルスが特定の細胞、組織、器官に感染し、損傷させる能力があることを明らかにしている。サケとISAウイルスとの間の相互作用の研究は、ISA発症後の病状変化について新しい知識をもたらしたばかりか、この疾病の予防法を探求する上で重要な手がかりも与えてくれている。ウイルスは生命体に入り込む際にその生命体の細胞や器官に接着し、その細胞や器官を入り口として生命体に入り込み、感染するが、Aamelfotは、ウイルスが接着する細胞や器官を判定する手法を編み出した。ウイルスが細胞に感染するためには、細胞の表面にそのウイルスに対応した受容体 (結合構造) がなければならない。ウイルスも種ごとに特定の受容体があり、鍵と鍵穴のように細胞のその特定受容体に結合する。サケの場合、ISAウイルスの受容体は、内皮細

がん死の90%は原発病変から体の他の部分に広がったがんが原因になっている。これを転移と呼んでおり、転移するがん細胞は周辺の細胞から離れ、組織を構成している足場からも離れて単一で移動しなければならない。MITのがん生物学研究チームは、この組織構造の細胞外基質と呼ばれるタンパク質ががん細胞の脱出を助けていることを突き止めた。   チームは、非常に転移性が高く、しかも浸潤性も高い腫瘍の周辺のタンパク質を何十種類と洗い出し、そのうち4種類のタンパク質が転移のプロセスに不可欠であることを発見した。この発見に基づいて転移しやすいタイプのがんを判定する検査法の開発も考えられ、さらには治療がきわめて難しい転移がんの治療標的を突き止められるようになることも考えられる。MITのKoch Institute for Integrative Cancer Researchのメンバーであり、この研究チームを指導したDr. Richard Hynesは、「問題はこれまでの抗がん剤はすべて原発性がんを対象にしていることで、一旦転移が進むとほとんど打つ手がないというのが現実だ。原理的にはこの細胞外基質タンパクを標的にすれば転移の防止も可能なはずだ。まだまだ実現は遠いが不可能ではない」と述べている。 この研究論文は3月11日付「eLife」オンライン版に掲載され、Koch Instituteのポスドク研究員、Dr. Alexandra Nabaが筆頭著者になっている。他の著者として、Broad Institute, Proteomics PlatformのDirectorのDr. Steven Carr、Broad Instituteの研究員のDr. Karl ClauserとKoch Instituteの研究員のDr. John Lamarが名を連ねている。細胞外基質は大部分が生体組織を構造的に支え

University of Pennsylvania, Perelman School of Medicineの生理学教授を務めるRoberto Dominguez, Ph.D.は、「細胞の運動性は生命の基本原理であり、細胞はすべて運動能力がある」と述べている。運動性とはあくまでも細胞空間的な尺度であるが、傷の治癒、血液凝固、胎児の成長、神経結合、免疫反応その他様々な機能にとって必要な機能である。   しかしながら、この運動性も、がん細胞が腫瘍から飛び出して移動し、他の組織に定着して増殖し始めた場合にはがんの転移と呼ばれ、非常に有害な動きである。2014年3月2日付でNature Structural & Molecular Biology印刷版に先立ってオンライン版に掲載された研究論文で、ポスドク研究員のDavid Kast, Ph.D.や同僚のDominguez研究チームは、細胞運動性を司るIRSp53と呼ばれるタンパク質が休止状態と活性状態との間で調節される機序とがん細胞の転移への関わりを明らかにしている。Dr. Kastは、「研究ではIRSp53が細胞の運動機構に結合する過程を詳しく調べた」と述べている。 Dr. Dominguezは、「IRSp53はまず糸状仮足の形成から始める。これは細胞が移動する時に足のように突き出す部分で、これによって細胞は尺取り虫のように伸びた糸状仮足が細胞を引きずって移動する」と述べている。次に細胞の最後尾が、筋肉収縮に似た細胞骨格のアクチンとミオシンの収縮によって糸状仮足の方向に移動する。細胞はその細胞膜を進行方向に伸ばし、たとえば他の細胞など触れた物体に貼り付き、細胞本体を移動させ、最後に最後尾をはがすようにして糸状仮足方向に前進する。そこからさらに同じ動作を繰り返して前進する。IRSp53タンパク質には、BARドメイン

北カロライナ州チャペル・ヒル所在University of North Carolina (UNC) の研究者は、協力機関の科学者チームとの共同研究で初めてヒトの腸組織から成体幹細胞の分離に成功した。成体幹細胞の分離成功により、ヒトの幹細胞生物学上のメカニズムを正しく突き止めようと望んでいる科学者にとって待ち焦がれていた試料が手に入るようになる。そればかりか、炎症性腸疾患治療法や、腸の損傷を引き起こすことの多い化学療法や放射線療法の副作用緩和にも新しい方向からの取り組みが可能になる。   この研究論文の筆頭著者、UNCの医学部、生医学工学部、細胞分子生理学部准教授を務めるScott T. Magness, Ph.D.は、「研究でこのような細胞(成体幹細胞)が使えないことが、長年、研究にとって非常に大きな妨げになっていた。これまでこのような幹細胞を分離し、研究する技術を持っていなかったが、これからは研究上の難問を解決する道具を手にすることができる」と述べている。学術誌Stem Cellsの2013年4月4日付オンライン版に掲載されたUNCの研究論文は、長年、マウスの細胞を使っての実験を余儀なくされていた分野で大きな飛躍を遂げたといえる。 その期間、マウスのモデルを用いた研究でもかなりの進歩があったが、マウスとヒトの幹細胞生物学的な相違のため、ヒトの疾患に対して新しい方向からの治療法の開発が難しかった。Dr. Magness 研究室の大学院研究者でこの研究論文の共同筆頭著者、Adam D. Gracz は、「マウスを使った研究でも、この組織の働きを説明する基礎的機械的データを得ることはできるが、ヒトの組織を使って同じような実験をしないことには正確なその機序をとうてい解明できないというケースもある」と述べている。この研究論文の共同筆頭著者にはMegan K. Fuller,

これまで、急激に進行する血液のがん、B細胞急性リンパ性白血病 (ALL) にかかった成人には限られた治療法しかなかった。当初の化学療法の後で病気がぶり返すか、再発するのが通常だった。しばしばその段階で患者はそれ以上の化学療法を拒むようになるが、幹細胞移植も、通常疾患が緩解した場合にのみ有効であるため、このような患者には効果が期待できない。   しかし、Memorial Sloan-Ketteringの研究チームが、「遺伝子組み換え免疫細胞が、再発B細胞ALLの患者のがん細胞を殺除する有効性が期待できる」との研究報告を出しており、事実、targeted immunotherapyと呼ばれるこの新しい治療法を受けた5人の患者全員が完全に寛解し、がん細胞は検出されていない。現在も続けられている臨床治験の結果は、学術誌「Science Translational Medicine」の2013年3月20日付オンライン版に掲載されている。腫瘍内科医Dr. Renier J. Brentjensと共同してこの研究を指導したMemorial Sloan-Kettering’s Center for Cell EngineeringのDirector、Dr. Michel Sadelainは、「B細胞ALLの患者にとっては非常に明るいニュースであり、”Targeted immunotherapy”の分野でも非常に重要な偉業となるものだ」と述べている。その”Targeted immunotherapy”とは、免疫系に対して、腫瘍細胞を識別し、これを攻撃するよう指示するテクニックである。 過去10年間、Dr. Sadelain、Dr. Brentjensの他、Memorial Sloan-Kettering’s Cell Therapy and Cell Engineering Facil

ある進行性膀胱がん患者が第I相試験でeverolimusとpazopanibとの抗がん薬の組み合わせに対して14か月にわたり完全な反応を示した。患者の腫瘍ゲノム・プロファイリング結果から2つの変異がこの特異な反応の原因となっていると考えられている。2014年3月13日付American Association for Cancer Research (AACR) 論文誌「Cancer Discovery」オンライン版にこの研究の論文が掲載されている。   この研究結果は、everolimusに反応する可能性のあるがん患者を判定するのに役立つかもしれないものであり、National Cancer Instituteによれば、特異な反応を示す患者とは、臨床試験で特定の治療に対して反応を示した患者が全体の10%に満たない場合に6か月以上にわたり、完全な反応または部分的な反応を示した患者を意味する。米国マサチューセッツ州ケンブリッジのDana-Farber Cancer Instituteの医学部教官を務め、Broad InstituteのAssociate MemberでもあるNikhil Wagle, M.D.は、「特異反応を研究することで、一部のがんが特定の抗がん剤に対して非常に高い感受性を示す原因が突き止められるのではないか。その原因を突き止めれば、特異反応を示す患者と似た遺伝子変異を持つがん患者には同じ抗がん剤が適用できると考えられる」と述べている。 Dr. Wagleは、「この研究では、mTOR抑制剤のeverolimusと、腎がん治療に用いられる抗がん剤のpazopanibという2種類の抗がん剤の第I相試験を行い、患者の一人の膀胱がんが14か月にわたりほぼ完全に寛解した。さらに、その患者の腫瘍細胞の全エクソーム・シーケンシングを行った結果、驚くべきことにever

Johns Hopkins Children’s Center、University of Mississippi Medical Center、University of Massachusetts Medical Schoolの研究者チームが、「HIV感染乳幼児における、初の『機能的完治』症例」を発表した。研究者たちは、「この成果は、児童のHIV感染を根絶する手段を見つける手がかりになるかも知れない」と述べている。同症例の研究論文は、2013年3月3日、アメリカ合衆国ジョージア州アトランタ市で開かれた「第20回Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections (CROI)」で発表された。   報告書の筆頭著者、Johns Hopkins Children’s Centerのウイルス学者、virologist Deborah Persaud, M.D.と University of Massachusetts Medical Schoolの免疫学者、Katherine Luzuriaga, M.D.が臨床研究チームを率いた。また、University of Mississippi Medical Center小児科准教授、Hannah Gay, M.D.がこの乳幼児の治療を行った。この報告書に述べられている新生児は、生後30時間以内に抗レトロウイルス治療 (ART) を受けた後、HIV感染が寛解した。 研究者は、生後すぐに抗ウイルス治療を施すことで、処置が困難なウイルス・リザーバーの形成を阻止し、それが新生児の感染を治癒したのではないかと述べている。通常、HIV患者が治療を止めると何週間かのうちに感染がぶり返すことが知られており、ウイルスが隠れたまま不活発になっている細胞をウイルス・リザーバーと呼ぶ。Dr

典型的糖尿病自己抗体を持つようになる児童の腸内細菌の相互作用は、健康な児童のそれとは異なっている。児童の体内で血中の抗体が検出可能な水準まで発達するずっと前にこのような違いができているという事実は、微生物叢のDNA、いわゆるマイクロバイオームが宿主の自己免疫過程に関わっているのではないかという説を裏付けるものである。Helmholtz Zentrum Munchenの研究チームの論文が、専門家向け論文誌「Diabetes」2014年3月7日付オンライン版に掲載されている。   研究チームは「BABYDIET」研究の過程で、血中に糖尿病特有の自己抗体を持つようになる児童の腸内細菌の構成や相互作用のデータを、自己抗体陰性の児童のデータと比較した。「BABYDIET」研究では、糖尿病リスクに影響することが考えられる栄養要因を詳しく調べた。Institute of Diabetes ResearchのポスドクDr. Peter AchenbachとProfessor Anette-Gabriele ZieglerおよびHelmholtz Zentrum Munchen, Scientific Computing Research UnitのDr. David EndesfelderとDr. Wolfgang zu Castellとに率いられた研究チームは、研究の結果、腸内に存在する細菌の種類と数量に関してはどちらのグループもほぼ同じだと確認した。ところが、腸内細菌の相互作用全体を見た場合、乳幼児期、典型的糖尿病型自己免疫が現れる何か月も何年も前からこの2つのグループの間には大きな違いが見られた。細菌のコロニーはマイクロバイオームと呼ばれる相を形成し、そのマイクロバイオームが持つ遺伝情報が宿主に影響を与える。以前からマイクロバイオームと様々な疾患との関連が考えられていた。特に腸内

中国で少なくとも9人が鳥インフルエンザで死亡しており、その患者から採取したサンプルの遺伝子解析の結果は、ウイルスが進化してヒト細胞に適応するようになったことを示しており、世界的なインフルエンザ大流行が起きる危険性が心配されている。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの田代眞人博士、University of Wisconsin-Madisonと東京大学の河岡義裕博士が指揮するグループの共同研究論文が論文雑誌「Eurosurveillance」の2013年4月11日付に掲載された。   同グループは、4人の鳥インフルエンザ・ウイルス犠牲者から採取したH7N9の遺伝子配列を調べ、同時に上海市場の鶏と環境から得たサンプルも検査した。 鳥インフルエンザ研究分野の権威、河岡博士は、「鶏や環境から分離した株と違って、ヒトから分離した株はタンパクに突然変異が観察され、ヒトの細胞で効率的に増殖するだけでなく、ニワトリに比べてやや低いヒトの上気道の体温でも増殖できるように変化している」と述べている。中国の研究者が国際的なデータベースに登録した遺伝子配列をもとにして導き出されたこの発見で、怖れられている新型鳥インフルエンザに関する分子レベルの手がかりが初めて得られた。この新型ウイルスのヒト感染症例は、2013年3月31日に中国疾病予防コントロール・センターが発表している。河岡博士は、「この新型ウイルスでは、これまでに33人が発症し、9人が亡くなっている。これがすぐに大流行を引き起こすかどうかはまだ予測には早すぎるが、このウイルスが哺乳動物、中でもヒトを宿主として適応しつつあることは疑いようがない」と語っている。さらに河岡博士は、「このウイルスの進化の機序を理解し、感染を予防するワクチン候補を開発するためには、ウイルスの遺伝子情報を手に入れることが不可欠だ」と述べている。イン

卵細胞、精細胞などの生殖細胞は結合して幹細胞を形成し、この幹細胞は成長してどのような組織細胞にでもなることができる。ところで、生殖細胞はどのように発生するのだろうか? 人間は自分がつくり出す生殖細胞をすべて備えて生まれてくる。しかし、植物は少し事情が違う。植物は、まず成熟した成体細胞をつくり、その後に一部を卵細胞や精細胞にリプログラムする。   植物が生殖細胞をつくるためには、エピジェネティック・マークと呼ばれる、ゲノム全体にわたってDNAに付けられている一連のタグであるキー・コードを先に消去しなければならない。このマークは遺伝子の活性、不活性を識別できる。 しかし、このマークには他にも重要な役割がある。エピジェネティック・マークには、損傷を与えるおそれのあるトランスポゾン、別名「ジャンピング遺伝子」を不活性状態にする機能がある。細胞がエピジェネティック・コードを消去してしまうと、トランスポゾンが活性化され、新しく生成されたばかりの生殖細胞が遺伝的損傷を受ける危険が大きい。2014年3月16日、ニューヨークのCold Spring Harbor Laboratory (CSHL) の研究チームは、Howard Hughes Medical Institute (HHMI) 研究者のDr. Robert Martienssenの指導のもとに研究を行い、エピジェネティック・コードが消去されてもトランスポゾンを不活性に保つ経路を発見したことを発表している。「ジャンピング遺伝子」は、50年以上前にCSHLのDr. Barbara McClintockによってその存在が指摘され、この功績でDr. Barbara McClintockは後にノーベル賞を受けている。その後の研究で、ジャンピング遺伝子 (トランスポゾン = 転移因子) が長い反復的なDNAの一部であることが明らかにな

過去のペトリ皿での実験から、がん細胞は三歩と直進できない酔っ払いのように体内をゆっくり、漫然と移動するものと考えられてきた。このパターンは「ランダム・ウォーク (酔歩)」と呼ばれ、2次元的な実験容器の中を移動する細胞には当てはまるかもしれないが、Johns Hopkins Universityの研究チームは、3次元的な体内を移動するがん細胞については「ランダム・ウォーク」モデルがあてはまらないという事実を発見した。   がんは体中に転移し、しばしば厳しい予後になるが、2014年3月4日付PNASのEarly Editionオンライン版に掲載されたこの研究結果は、がん細胞転移の仕組みをより正確に突き止めるきっかけになる重大な発見である。2次元と3次元の実験で細胞の移動が変化するという問題を解明するため、研究チームは3D環境で移動する細胞の挙動をより正確に表現する数式を作り上げた。 この研究は、Johns Hopkins UniversityのTheophilus H. Smoot Professor、Dr. Denis Wirtzが指導し、同大学のWhiting School of EngineeringとSchool of MedicineのChemical and Biomolecular Engineering、Pathology、Oncologyの各Departmentの設備を使って行われた。Dr. Wirtzは、「現在、がん細胞の移動を3次元的に捉えようとする動きがあり、この発見もその傾向を強化することになる」と述べている。博士の研究チームでは以前に2次元環境と3次元環境の中では細胞の挙動も異なることを証明しており、がん細胞が体内を移動する場合にこの違いが重要になってくる。Dr. Wirtzは、「原発腫瘍から飛び出したがん細胞は血管やリンパ節を探し出して移動し

University of North Carolina (UNC) School of Medicineの研究チームは、人体の健康の維持や疾患に重要な役割を果たしている特定の細胞レベルの回路について、これまでよりさらに深く探ることのできる生化学的な技術を新しく開発した。この技術は、Klaus Hahn, Ph.D.の研究室で開発され、2014年3月9日付Nature Chemical Biologyオンライン版で発表され、キナーゼと呼ばれるタンパク質が活性化し、細胞の移動など特定の細胞の挙動を引き起こす機序を研究する重要なツールになるとしている。   このキナーゼの作用は非常に複雑であり、未だにほとんど明らかになっていない。それでも、キナーゼが疾患で大きな役割を果たしていることだけは判明している。研究論文の首席著者で、同大学のThurman Distinguished Professor of Pharmacologyを務めるDr. Hahnは、「キナーゼが関わっていない病気を一つでも挙げられるだろうか? キナーゼのプロセスを完全に理解することは非常に難しいが、非常に重要な物質であることは誰でも知っている」と述べている。 長年、研究者はキナーゼにあれこれと手を加え、細胞死や細胞移動、あるいは細胞内シグナル伝達などが起きることは観察できた。しかし、このような実験も、細胞の挙動の引き金になるキナーゼの様々な反応の解明ということになると、ほんの表面をひっかく程度でしかない。また、どのような実験も、一気に起きる事象のタイミングをつかむことができない。Dr. Hahnは、「タンパク質活性のタイミングは細胞の反応に大きく関わっているため、これを突き止めることが重要だ」と述べている。医薬開発メーカーはまだこのタイミングの問題をうまく組み込むことができない。タンパク質を標的にした医

健康な人が3年以内に軽度の認知障害またはアルツハイマー病を発症するリスクを90%の精度で予測できる血液検査法をGeorgetown University Medical Centerその他の組織の合同研究グループが発見、その有効性も確認した。2014年3月9日付Nature Medicineオンライン版に掲載された論文によると、アルツハイマー病は早めに処置するほど疾患の進行を遅らせたり、あるいは発症そのものを予防するなどの治療の効果が高まるが、この研究成果からアルツハイマー病の効果的な初期治療法を開発できる可能性を述べている。   この研究報告は、臨床前的なアルツハイマー病の血中バイオマーカーに関する、知られている限り初めての論文である。この血液検査はアルツハイマー発症を予測できる血中の脂質10個を判定するもので、研究チームは、「今後2, 3年で臨床試験にかけることができるようになる。また、この検査法は他の診断にも有効かも知れない」と述べている。 研究論文の責任著者で、Georgetown University Medical Centerの神経学教授と健康科学のexecutive vice presidentを兼任するHoward J. Federoff, M.D., Ph.D.は、「この新発見の血液検査法は、進行性認知障害のリスクを持つ人を判定し、患者、家族、医師が発病に備え、管理する上で非常に役立つのではないか」と述べている。アルツハイマー病は完治できず、また有効な治療法もないという難病で、世界中で約3,560万人がアルツハイマー病と診断され、世界保健機関 (WHO) によれば、20年ごとに患者が倍増し、2050年までには1億1,540万人に膨れあがると予想されている。Dr. Federoffは、「アルツハイマー病の進行を抑えたり、緩和する医薬の開発を目指した研

ウィスコンシン大学-マディソン校の研究者らはこの大学病院ならびにクリニックにおいて手術中に採取した副鼻洞組織を使って、ヒト・ライノウイルス(HRV)の中でも最近になって発見された新種のウイルスの培養育種を実施した。このHRVは、一般的な風邪において最もポピュラーな原因ウイルスであり、子供のHRV感染症全体の約半分に関与している。研究者は、このウイルスは他のHRVファミリーとは異なった生殖特性があることを発見した。   これにより、抗ウイルス物質を選抜し、その抗ウイルス物質がウイルス自体の成育を停止させるかどうかを観察することが可能となった。研究成果は、2011年4月10日号の「Nature Medicine」誌に発表された。 周知のHRV-AやHRV-Bなどを擁するHRVファミリーの新規メンバーであるHRV-Cにスポットをあてた。5年前に発見されたHRV-Cは標準の細胞培養法では培養が難しいことで定評がある。したがって、研究も不可能であった。この論文の主席著者でもある、UW-マディソン校医学部のDr. James Gene医療・公衆衛生学科教授は、次のように語る「いまや私たちには、HRV-C感染症の治療や予防に新しいアプローチが生まれるかもしれないという確証がある。」同氏はまた、ウィスコンシン大学American Family Children’s Hospitalにおいて喘息の専門家でもある。さらにGene教授は「これは将来医薬品になれば、喘息や肺に問題がある子供や大人とって特に有用なはずである」と語る。最近の研究においてHRV-Cは、通常の風邪の主な原因になることに加えて、喘息発作の50〜80%に関与していることを示した。HRV-Cは幼児の喘鳴症状が最も多い原因であり、子供の喘息発作原因に特にかかわっているはずである。さらにあらゆる種類のHRV感染症は、例えば嚢胞

2013年11月11日付で発表されたヒトと動物を対象にした研究の新しい報告論文で、経験が遺伝子に影響を与え、その遺伝子が行動や健康状態にも影響することを突き止めている。この研究論文は、Society for Neuroscience2013年次総会でもあり、脳科学と健康に関する世界最大のニュース源でもあるNeuroscience 2013 総会の場での記者会見で発表されたもので、経験が薬物中毒や記憶形成といった脳行動に長期的な変化をもたらす機序に光を当てている。   サンディエゴで開かれたこの総会には3万人の研究者が出席した。Society of Neuroscienceが主催したこの記者会見で発表された、ヒトを対象にした新研究によれば、長年のヘロインの乱用で遺伝子の発現や脳の機能が変化を受ける可能性がある。この研究では、後天的な環境や経験がDNAそのものには変化を及ぼすことなく、遺伝子をオン/オフすることができるエピジェネティクスの分野に焦点を合わせている。 このような変化でも正常な発育や記憶といった脳の働きに悪影響を与え、さらに抑鬱、薬物依存その他の精神疾患を次の世代に遺伝させることが可能性として浮かんでいる。世界保健機関によれば、ヘロイン乱用者は世界中に950万人を数え、その死亡率は非乱用者比較で20倍から30倍にもなる。論文の首席著者で、ニューヨークのIcahn School of Medicine at Mount Sinaiに勤めるYasmin Hurd, Ph.D.は、「通常ヘロイン中毒者の脳を直接調べることはできないため、中毒者の死後解剖で脳を分析した私たちの研究は、ヘロイン中毒に関するこれまでの知識の不足を補うものになっている。研究成果から、長期的なヘロイン乱用で人の脳がどのように変化するか、その重要な部分を明らかにしており、またヘロイン中毒という危

日本で新しく開発された診断検査は、メタボローム解析と呼ばれるテクニックを用いており、安全簡単な検査法で早期発見を可能とするため、膵臓がん患者の予後を大きく改善することになるかもしれない。American Association for Cancer Researchの学術誌「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」の2013年3月29日付オンライン版に掲載された研究報告によると、日本の研究者チームは、膵臓がん検診方法として、血清のメタボローム解析の有用性を試験した。   研究を指導した神戸大学医学研究科病因病態解析学准教授の吉田優博士は、「膵臓がんには外科的な切除術が治療法としてあるが、膵臓がん患者の80%以上が局所進行型または転移型の腫瘍で、がんが見つかった時にはすでに切除不可能ということが多い。 血液、透視画像、内視鏡を使った通常の検査では、膵臓がん検査や早期発見には不適当で、そのため、膵臓がんに対しては新しい検査法や診断法が喫緊に求められている」と述べている。研究チームは、ガスクロマトグラフィ質量分析計を用い、膵臓がん患者、慢性膵炎患者、健康なボランティアから採取した血液の代謝産物の各濃度を測定した。その際に膵がん患者43人と健康なボランティア42人をランダムに選んでモデル化集合に割り当て、膵臓がん患者42人と健康なボランティア41人を検証集合に割り当てた。また、慢性膵炎患者23人はすべて検証集合に割り当てた。モデル化集合で生成したメタボローム・データを解析した結果、血中の代謝産物18種類の濃度が、膵臓がん患者の場合には健康なボランティアとかなり異なることが示された。研究チームは、さらに研究を進め、4種類の代謝産物の血中濃度を測定するだけで膵臓がんを予測する方法を開発した。モデル化集合での試験でこの予測法

ウェイル・コーネル医科大の研究チームは、肺再生のスイッチングの探究に大きな前進を得たと発表した。これによって何百万人もの呼吸器系疾患患者の治療に道が開けた。2011年10月28日のCell誌に発表された彼らの報告によると、肺の中で酸素交換が行なわれる 場所であり、非常に多くの小さなブドウの房のような液嚢状の肺胞を、新たに再生する誘因となる生化学的シグナルが明らかにされた。特に、その再生シグナルは、肺の血管内壁を覆う特殊な内皮細胞に起因する。マウスモデルの実験では、片方の肺を失った場合、もう片方の杯の容積が増加し広がる事がよく知られている。   本研究では、このようなプロセスの背後にあるトリガー分子を同定し、研究チームはこの機序がヒトにも適用できると考えている。 「私たちは既に肝臓や骨髄の再生に関わる機序については明るいのですが、成人の臓器にはある程度の損傷が再生の起因となる場合があるというケースを解明するには、まだ多くの課題があるのです。」と本研究を主宰するウェイル・コーネル医科大の遺伝医学科教授でアンサリー幹細胞研究所副所長であるシャーヒン・ラフィ博士は語る。さらに、ハワード・ヒューズ医学研究所のフェローでもある同博士は「証明はされていませんが、ヒトには、喫煙やがんや甚大な慢性肺傷害などが無い場合には、肺を再生する潜在能力を有しているという仮説があります。」と説明する。「私達が希望を抱いているのは、今回の成果によって臨床応用が進み、肺の再生を必要とする例えば慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者に適用できるように成ることです。COPDと診断された患者さんには有効な治療法が無いのが現状です。私は本研究成果を基に、COPDやその他の慢性杯疾患患者さん達が、肺血管に由来する因子をコントロールすることによって治療が可能になる日を期待しています。」と本研究の共著者でウェイン・コー

スウェーデンのランド大学とその共同研究施設の研究者達が、アルツハイマー治療におけるビタミンCの新たな効果を発見した。ビタミンCが、アルツハイマーの脳に蓄積される有害なタンパク質の凝集を分解する事が動物実験で分かったと、Journal of Biological Chemistry誌(2011年8月25日付)に発表された。アルツハイマー患者の脳にはアミロイドプラークと呼ばれる、ミスフォールドしたタンパク質の固まりが存在する。この固まりが脳内で神経細胞死をおこし、その際に最初に影響を受けるのが脳の記憶中枢の細胞である。  「私たちがアルツハイマーのマウスの脳の治療にビタミンCを使用したところ、有害なタンパク質の凝集が分解されました。この結果が出たおかげで、今まで理解されていなかったビタミンCのアミロイドプラークへの影響がわかってきました。」と、ランド大学分子医学科のカトリン・マーニ博士は言う。「さらに興味深いことに、使用されるビタミンCは新鮮なフルーツから採れるものでなくても大丈夫なのです。例えば、私達の研究では、冷蔵庫に一晩置かれていたジュースに含まれるデヒドロアスコルビン酸からも十分なビタミンCが得られます。」今現在、アルツハイマーの治療法は存在していないが、この研究は病気の進行を遅らせて、症状を緩和することが着眼点である。  ビタミンCのような抗酸化剤は、風邪から心臓発作や痴呆まで様々な病気において効果があるため、研究の的になってきた。「ビタミンCがアルツハイマーの治療に効果的だという事はまだ議論中ですが、今回の研究結果はこれからのアルツハイマーとビタミンCの研究に新たな可能性を示唆しているのです。」とマーニ博士は語る。■原著へのリンクは英語版をご覧くださいs: Vitamin C Treatment Dissolves Protein Aggregates in A

microRNAの発現様式が、バレット食道が食道腺がんに移行する前がん症状の進行を検出する手がかりになるかも知れないという研究報告が、American Association for Cancer Research発行の学術誌「Cancer Prevention Research」の2013年3月号に掲載されている。テキサス州ヒューストンのUniversity of Texas MD Anderson Cancer Center、Division of Cancer Prevention and Population Sciences、Department of Epidemiologyの科長、Xifeng Wu, M.D.は、「アメリカでは、食道腺がんはかつては全食道がんの5%程度というまれながんだったが、過去30年で6倍と急激に増えており、現在では新しく食道がんと診断される症例の80%以上を占めるようになった。   食道腺がんによる死者を減らすためには、短期的には初期段階で発見するか、もっと良いのは、バレット食道と呼ばれる前がん病変から食道腺がんに進行するのを抑えることだ」と語っている。 Dr. Wuと同僚研究者は、microRNAに眼をつけた。microRNAは小型のリボ核酸で、多数の遺伝子を制御することができる。研究の結果、microRNAの異常発現が、がんの進行にかかわっている可能性が示された。研究チームは、正常な食道上皮、バレット食道の食道上皮、さらに様々なレベルの組織学的がん進行リスクを負った食道腺がんの組織のmicroRNAのサンプルを何百と集めて比較した。その結果、各組織学的段階で、いくつかの異なるmicroRNAの発現が認められた。Dr. Wu は、「バレット食道と食道腺がんの組織のmicroRNA発現は非常によく似ており、バレット食道発症のかなり

生物学のもっとも基礎的なプロセスの一つが「転写」と呼ばれるものだ。この「転写」は、タンパク質合成に必要な数多いプロセスの一つに過ぎないが、このプロセスがなければ生命も存在できない。しかし、転写の仕組みにはまだ未解明の部分が数多く残されている。サンフランシスコのGladstone Institutesの研究チームはこの転写の重要な部分に光を当て始めており、それとともに、細胞が成長発達する上で転写プロセスがどれほど重要か、またこのプロセスが脱線するとどういうことになるかの理解にさらに一歩近づいている。   2013年11月7日付Molecular Cell誌で、Gladstoneの研究員、Melanie Ott, M.D., Ph.D.の研究室の研究チームは、RNAポリメラーゼ II (RNAPII) (画像参照) と呼ばれるタンパク質の興味深い挙動を記述している。 RNAPIIタンパクは、DNAをRNAに複写する転写プロセスを導く触媒となる酵素の一種であり、タンパク質を生成する際の使い捨て青写真の役割を果たしている。RNAPIIが転写プロセスの初期に特定の遺伝子で休止するらしいことは以前から科学者の間でよく知られていた。しかし、その理由についてはよく分かっていなかった。サンフランシスコのUniversity of CaliforniaはGladstoneもその一部だが、同大学で医学教授を務めるDr. Ottは、「いわゆる『ポリメラーゼ休止』は、RNAPIIが転写を始めて間もなくほんのしばらく転写を休止するというもので、休止後は転写を再開する。私たちに分かっているのは、この挙動がDNAを正確にRNAに転写するために重要だということだけだ。そこで私の研究チームは、どのようにして、どういう段階でということ、また何よりも、なぜかということを解明する研究を始めた」と述べている。そ

新しい研究で、去勢抵抗性前立腺がんの治療結果予想は、循環腫瘍細胞検出法を変更する方が、前立腺特異抗原 (PSA) 量の変化を見るよりも高い確度が得られることを示している。この研究は、2013年10月4日から6日にかけて、チェコ共和国のプラハで開催されたhttp://cem2013.uroweb.org/ EAU 13th Central European Meetingで発表され、賞を受けた。   チェコ共和国プラハにあるGeneral Teaching Hospital Charles University, Department of Urology所属のDr. Otakar Čapounはこの研究論文の筆頭著者を務めており、「現在のところ、去勢抵抗性前立腺がん (CRPC) 患者にとって、信頼性の高いがん特異マーカーも全生存率のマーカーもなく、そのためにも循環腫瘍細胞 (CTC) の研究は最重要課題だ」と述べている。 チェコ共和国政府保健省のInternal Grant Agencyの資金援助で行われたこの研究の内容について、Dr. Čapounは、「この研究の目的は去勢抵抗性前立腺がん管理の個別化の可能性を探ることにある。化学療法中にCTC検出で思わしい変化がない場合には早めに他の治療法に切り替えることを考えるべきだ」と述べている。この助成金プロジェクトのプロトコールには、去勢抵抗性前立腺がん (CRPC) 患者のドセタキセル治療の前と化学療法4サイクル (CTX) の後に末梢血試料を収集することが定められている。循環腫瘍細胞の検出には免疫磁気ビーズ法を用いた。また、研究の過程ではCTCの細胞融解が起きた後で数回のポリメラーゼ連鎖反応を行い、その後に腫瘍関連抗原 (PSA、PSMA、EGFR) の定量化を行った。研究の方法論は言語評価を基本とし、絶対値 (ng

ドイツのBonn Universityの研究グループと国際的な共同研究チームが、新しい受容体を発見した。現代人類が持っているこの受容体は危険な侵入物を判定し、免疫反応を発揮するために重要な器官である。この有益な器官の青写真はネアンデルタール人の骨のゲノムからも見つかっており、その起源がうかがわれる。この受容体が初期の人類に風土病に対する免疫を与えた。   しかも、初期の人間にこの受容体が見つからず、現代ヨーロッパ人からは見つかるということは、現代ヨーロッパ人がこの受容体をネアンデルタール人から受け継いだ可能性を示している。この研究論文は、2013年11月8日付「Journal of Biological Chemistry」オンライン版に掲載されている。病原体が人体に感染すると、免疫系が危険な侵入物を判定し、これを攻撃する。進化の過程で効果的な防衛機能が発達したが、これは諜報機関員の方法とやや似たところがある。 ヒト白血球抗原 (HLA) 系は、特定の遺伝子の助けを借りて受容体を作り、その受容体がアミノ酸8個からなるプロフィールを使って病原体の危険度を評価する。University of Bonn, Department of Immunobiology, Institute for Geneticsの教授を務めるDr. Norbert Kochは、「この機能は、スパイが単語のごく少数の文字からその文を怪しいと判断することに似ている」と述べている。このメッセージを解読するため、免疫系は侵入者のタンパク質をペプチドに分解し、さらにそのペプチドの一部をスキャンしてアミノ酸の配列を調べることもする。これまでのところ、3種類のペプチド受容体が1000を超える発現形態を示すことが知られており、これが病原体の身元証明になる文字組み合わせを読み取る機能を果たしている。Profess

University of California, San Diego (UCSD) School of Medicineの研究チームは、インフルエンザA型ウイルスが保護粘液層を突破し、呼吸器上皮細胞に感染、さらに上皮細胞から出て他の細胞に感染していく機序を初めて明らかにした。Department of Cellular and Molecular Medicineの准教授、Pascal Gagneux, Ph.D.が研究チームを率いたこの研究の論文は、Virology Journalのオンライン・オープン・アクセス版に掲載され、ウイルスの活動をさらに効果的に阻害する新しい医薬なり治療法なりへの方向性が示されており、あるいは一部の型のインフルエンザ感染を完全に予防できるようになる可能性も示している。   一般的なインフルエンザ・ウイルス株が、すべての動物の細胞で表面を覆っている情報伝達糖分子の一種、シアル酸を探し、これを利用することは以前からよく知られていた。 たとえば、どこにでも存在するH1N1やH3N2というインフルエンザ株は、赤血球凝集素 (H) タンパク質を細胞表面の対応するシアル酸受容体に結合させてから細胞表面を浸透し、ウイルスが他の細胞に感染を広げる準備ができれば今度は酵素のノイラミニダーゼ (N) をこのシアル酸に付着させたり、亀裂を入れて突破するということをしている。肺、鼻、喉など体内の気道の壁を覆っている粘膜細胞はシアル酸の豊富な粘液を分泌し、病原体から防衛している。粘液は粘りけのある罠で、ウイルスが脆弱な細胞に感染する前にこれを取り込み、封じ込めてしまう。Dr. Gagneuxは、「分泌された粘液中のシアル酸はねばっこいクモの巣のような働きをしており、ウイルスを引き寄せるとウイルスの赤血球凝集素タンパク質に取りついて捕まえてしまう」と述べている。D

Institut Gustave Roussy、Inserm、Institut Pasteur、INRA (French National Agronomic Research Institute) の研究者が共同で行った研究で、がん化学療法は、腸管微生物とも呼ばれる腸内細菌叢の助けを借りると単独の場合よりも優れた効果を現すという驚くべき結果が出た。実際、化学療法によく用いられている医薬の一つは、その効果が分子レベルで腸内細菌叢の特定の細菌を血流やリンパ節に送り込む能力によっていることが突き止められている。   送り込まれた細菌は、一旦リンパ節に入り込むと免疫防御系を刺激して新たに防御態勢を強化し、それによって体が悪性腫瘍と戦う力を強化するのである。この研究論文は、2013年11月22日付Science誌に掲載された。腸内細菌叢というのは100兆個ほどの腸内微生物の集まりである。 この腸内細菌叢は、様々な細菌種が体に有害となる可能性のある異物を排除したり、体を汚染する病原体を抑え込む多様な機能を果たしており、人体にとっては重要な器官になっている。さらには腸内微生物は消化した食物の分解を助け、腸管での栄養物の吸収や代謝の最適化に役立っている。このような大量の細菌は、個人の誕生時から腸内に棲み着き、免疫防御系の成熟に大きな役割を果たしている。ただし、腸内細菌叢を形成している細菌種は人によって異なり、特定細菌種が体に存在したりしなかったりすることが、人によって特定の病気にかかりやすい、あるいはかかりにくいという違いをもたらしていると考えられる。がんの分野では、Institut Gustave Roussyの“Tumour Immunology and Immunotherapy,” Inserm Unit 1015のDirector、Laurence Zitvogel教授が

2013年9月18日付Journal of Neuroscienceに掲載された研究論文は、初めて、遺伝子NTRK3 (neurotrophic tyrosine kinase receptor type 3、trkCとも呼ばれる) をパニック障害傾向の因子と突き止めた。研究チームは、恐怖記憶の形成に関わる機序を明らかにしており、新薬や認知療法の開発に役立つことが考えられる。パニック障害は不安障害の一種に分類されており、推定では、スペイン国民の100人に5人がこの障害に悩んでいる。   その人達は頻繁かつ突然にパニックに襲われるため、日常生活にも影響があり、重症の場合には買い物や自動車運転、職に就くことさえできなくなる。この障害には神経生物学的原因と遺伝学的原因があることは知られているが、どの遺伝子が障害の発症に関わっているのかが研究されたこともあり、特定の遺伝子が原因ではないかと挙げられたこともあるが、それでも生理病理学的な仕組みはまったく解明されていなかった。今回初めて、Centre for Genomic Regulation (CRG) の研究チームが、脳の形成やニューロンの生存とニューロン同士の接続に不可欠なタンパク質のエンコーディングを担当している遺伝子NTRK3とパニック障害との関連性を明らかにし、この遺伝子がパニック障害になりやすい性質の遺伝的因子であることを突き止めた。 CRGのCellular and Systems Neurobiology groupの長を務めるDr. Mara Dierssenは、「NTRK3の調節が失われると脳の発達に変化が起き、恐怖連合記憶系の不調が見られるようになる。ことにこの系は恐怖に関連する情報の処理が得意なため、患者はどのような状況においてもリスクを過大に感じるようになり、そのため、驚きやすくなるとともにその情報は

2014年2月4日 (火)、The National Institutes of Health (NIH) は、「Accelerating Medicines Partnership (AMP)」を発表した。これは、過去1年半をかけて「The Boston Consulting Group (BCG)」のガイダンスに従って編成した新しい形の官民共同研究パートナーシップである。AMPは、難治性疾患の生物学的解明に対して組織的な投資をするという初めての事業で、その構想の当初から業界、研究者、政府がパートナーとして協力して体制つくりにあたってきた。   NIHのディレクター、Francis S. Collins, M.D., Ph.D. (写真) は、「これまであまりにも多くの金と時間を投入しながら、思うほどの成果が得られていない。一方で患者やその家族は新しい医薬や治療法を待ち続けている。バイオメディカル業界で誰もが思っているのは、これは一部門が単独で解決できることではなく、研究の効率を高めていくためには新しい体制でみんなが一致協力してやらなければならないということだ」と語っている。AMPは、NIH、世界的な医薬品メーカー10社、いくつかの非営利組織が共同で設立した機関で、アルツハイマー、2型糖尿病、リューマチ様関節炎、全身性紅斑性狼瘡の基本的病理の特徴づけの大規模な研究作業のために今後5年間で2億3,000万ドルを投資することになっている。 BCGは、AMP設立構想、組織編成、研究対象の疾患個々の詳細な研究計画などを支援できたことを喜びとしている。BCGのパートナーであり、このパートナーシップを可能にしたチームの共同リーダーも務めるMichael Ringel, J.D., Ph.D.は、「これまで多くの医薬が期待されながら研究開発段階でものにならずに終わった。その原因は

ミツバチの性決定の分子スイッチが徐々に環境に適応して進化してきた過程が、200年近く経てようやくアリゾナ州とヨーロッパの研究者によって明らかにされた。性決定の遺伝子的仕組みは1800年代中頃にシレジアの僧侶、Johann Dziersonによって初めて提唱されたが、今回の研究論文の共同著者を務めたArizona State University (ASU) のProvost Robert E. Page Jr. によれば、Dziersonはミツバチのコロニーでオスとメスがつくられる仕組みを理解しようとしたということである。  Dziersonは、女王バチも働きバチもメスであり、餌の質と量の違いによって、機能に違いができてくるということに気づいていた。同時に、オスはどうなるのかという疑問をいだいた。Dziersonは、ミツバチのオスを、染色体を1セットしか持っていない半数体と考えたが、1900年代になって顕微鏡の出現に伴い、その考えが正しいことが確認された。顕微鏡を使って観察した研究者は、雄バチになる卵には精子が侵入しないことに気づいたのである。しかし、この半倍数性性決定システムがどのようにして究極的に分子レベルで進化を遂げることができたのかという疑問は、発生遺伝学の分野で最も重要な疑問のひとつだった。 2013年12月5日付「Current Biology」に掲載された研究論文「Gradual molecular evolution of a sex determination switch in honey bees through incomplete penetrance of femaleness」で、筆頭著者のDr. Pageと、ドイツのUniversity of Duesseldorf, Institute of Evolutionary Geneticsの

米National Institutes of Health (NIH) は、St. Joseph's Hospital and Medical CenterのBarrow Neurological Institute、Phoenix Children's Hospital、Translational Genomics Research Institute (TGen) (写真) の研究計画に対して今後5年間に400万ドルの研究資金を約束した。この研究計画は、脳損傷の程度を示す分子シグナルを見つけ、医療コストの軽減、脳損傷リスクのある患者を判定し、患者の速やかな快復に役立てようという試み。   TGenは、2013年12月4日付プレスリリースでこの発表を行った。また、University of California, San FranciscoやStanford Universityもパートナーとしてこの研究に参加している。細胞外RNAを詳しく洗い出した分子プロファイルは、脳出血後の血管痙攣リスクの高い患者を判定できるはずで、脳出血には、脳と脳を覆っている薄い膜の間に出血するくも膜下出血や、脳内の動脈壁が異常に膨らむ、脳動脈瘤と呼ばれるものが破裂して出血するなどがある。RNA分子マーカーを突き止めることができれば、個別化医療にも新しい基準を設定することができ、医師は急激な患者の容体の変化にも迅速に対応し、二次損傷を早めに食い止めることができる。 この研究の研究責任者の一人で、Neurological Surgeryの内勤医、Barrow Neurological Instituteの准教授を務めるDr. Yashar Kalani, M.D., Ph.D.は、「この研究で、脳損傷を食い止め、検査とそれに伴うコストを抑え、患者の入院日数を短縮することができればと期待して

2014年1月12日付Nature Methodsオンライン版に掲載されたUniversity of Pennsylvania (Penn) 学際チームの研究論文は、生細胞のmRNAを生体組織の微小環境で周辺の細胞を損傷せずに分離する、この種のものとしては初めてのテクニックを発表している。このテクニックにより、細胞間の化学的接続が個別細胞機能や全体的なタンパク質生成に与える影響を解析することが可能になる。   生体組織は当然ながら様々なタイプの細胞で構成された複雑な構造体であり、また、心臓、皮膚、脳など各組織タイプ内での個別細胞の種類や機能は、どの遺伝子がmRNAに転写されているか、また究極的には生成されるタンパク質と密接に結びついている。結局、生体組織内での単一細胞の遺伝子発現を調べるためにはその細胞内部の働きを観察しなければならない。生態学者が個々の種を研究する際にその種の生息環境との相互影響を観察しなければならないのと同じことである。 たとえば同じタイプと見える細胞同士でさえ、分子レベルで見ればまったく同じということはない。現在の遺伝子発現変異に関する知識のほとんどは培養液中で成長した異質細胞グループを使った研究で得られたものであり、このような不自然な条件で得られた結果から「現実の生物学」を推定することについては研究者も疑問をいだいている。健康な生体組織中の単一細胞にどのタイプのRNAがどれだけ存在するかを調べることのできるツールがあれば、哺乳動物の細胞が生体内でどのように機能するのか、また様々な疾患でその機能がどのように不全になるのかを評価する貴重な機会が得られ、究極的には新薬の試験にも役立てることができるはずである。Perelman School of MedicineのPharmacology教授でPenn Genome Frontiers Institu

科学者が気候変動の影響を予測しているが、一つ、その中で見過ごされているのは、地球が温暖化した時、土壌中の炭素がどうなるのか、またこの炭素の動きを決めている土壌中の微生物はどうなるのかという問題である。オクラホマ州の草地の研究をした科学者チームが、土壌のすぐ上の気温が摂氏2度上昇しただけでも地中の微生物の生態系が大幅に変化することを突き止めた。   研究では、気温上昇がない対照群植物と比較すると、温暖化区画の植物は生長も速く、また丈も高くなり、その結果、植物の老化につれてより多くの炭素を有機炭素の形で土壌中に封じ込めることが明らかになった。 しかし、もう一方で温度変化に対応してDNAを変異させた微生物生態系は、増えた有機炭素を処理する能力も高まっていた。Georgia Institute of TechnologyでEnvironmental EngineeringのCarlton S. Wilder Chairを務める准教授、Dr. Kostas Konstantinidisは、「この研究の結果、気候温暖化は土壌生態系に影響を及ぼすことが明らかになった。微生物は環境変化を利用するために遺伝子を変異させたようだ」と述べている。この研究論文は、2013年12月27日付Applied and Environmental Microbiologyオンライン版に掲載された。この研究はDepartment of Energyの出資で行われ、University of Oklahomaなどいくつかの大学が共同研究に参加した。この発見は、自然界でもっとも複雑な生態系である土壌の気候変動に対する対応についてより良く理解することを目的として10年にわたり続けられてきた研究の成果である。1グラムの土には少なくとも4,000種、10億個の細菌が棲んでいる。それに比べれば、人間の消化器官に棲ん

数多くのがんタイプを横断的に調べた記念碑的な研究で、がん細胞変異の世界はこれまで考えられていた以上に膨大であることが示されている。Broad Instituteが中心になって行ったこの研究では、何千人もの患者の腫瘍のゲノムを解析し、新しいがん遺伝子を数多く発見、既知のがん関係遺伝子のリストが25%も拡大された。そればかりでなく、研究の結果、まだ突き止められていない主要遺伝子が数多くあることも推測されている。   研究チームの業績は将来の抗がん剤開発に重要な基礎を築いただけでなく、何十という数のがんタイプの総合的なカタログを作るには10万人程度のがん患者の組織サンプルがあれば足りることを実証した。この研究論文の共同首席著者で、Broad Institute初代所長のDr. Eric Landerは、「ヒトのがん遺伝子の全体像を描くためにどれだけの作業が必要かを初めて突き止めた。非常に有望な展開といえる。遺伝子とその経路を知れば、新しい創薬標的がはっきりとつかめ、さらには効果的な併用療法の道も開ける」と述べている。 今回、この研究で解析された21種類のがんについては、過去30年間の科学者の研究で約135種類の遺伝子が何らかの原因になっている証拠をつかんできた。この新しい研究論文では、これらの遺伝子ががん発症に関わっていることを確認しただけでなく、既知のリストの4分の1に相当する新しいがん遺伝子を付け加え、さらには、細胞死、細胞成長、ゲノム安定性、免疫回避その他のがんに関連するプロセスに生体的な役割を果たしている遺伝子を33個も発見している。この研究の成果は、2014年1月23日付Nature誌に掲載されている。研究論文の第一著者でBroadの計算生物学者、Dr. Mike Lawrenceは、「よく考えなければならない基本的な疑問は、がんの全体像を把握することができたか?

ワシントン州立大学(WSU)の研究により、40個以上もの植物由来の化合物が、ガンの進行を遅らせる遺伝子を活性化することが可能であることが判明した。ガンの転移こそが致命的であるため、今回の発見はとても励みになる、とWSU薬学部教授および学部長のゲリー・メドウズ博士は語る。さらに、食生活の改善、栄養学的アプローチ、そしてこの植物由来化学物質を合わせて、多くの道を開いているように見えると言う。   「我々は常に特効薬を探しているのです。そして、我々が食べる物や生活の傍らにこそ、そのような特効薬が存在するのです。我々はただ、それらを上手く使わないといけないだけなのです。」と、メドウズ博士は語る。2012年6月のCancer and Metastasis Reviews誌に掲載された本研究はメドウズ博士によって、いくつかの単純なロジックの元に進められた。ほとんどの研究はガンの予防または腫瘍の治療に焦点を当てているが、致命的となるのはガンの他臓器への拡散である。そのため、腫瘍を治療するよりも拡散または転移をコントロールするほうが重要なのである。栄養学的アプローチと転移抑制遺伝子のコンセプトは学術誌などでもほとんど見られないため、PubMedの研究データベースを検索するのも一苦労であった。 「研究者のほとんどは、研究目標に転移抑制遺伝子を含んでいなかったのです。これらは、研究の過程で見たその他大勢の遺伝子と同様に扱われていました。」と、メドウズ博士は語る。しかしメドウズ博士はそれらの研究に目を通し、転移抑制遺伝子がいつオン/オフされるのかを調べた。そして、様々なガンにおける転移抑制遺伝子に影響を与える物質を複数見つけたのである。アミノ酸、ビタミンD、エタノール、高麗人参エキス、トマトカロテノイドリコピン、ウコンの成分クルクミン、ザクロジュースや魚油など、乳房、結腸直腸、前立腺、皮膚

タンパク質は、多くの機能を持つ、細胞の分子マシーンのようなものだ。分子材料の運搬、物質の切断やシグナルの伝達など、分子生物学の分野で長年研究対象となっている機能を有している。しかしこの20年新たに別の種類の重要な分子が注目されるようになってきた。それが、マイクロRNAを含む小サイズのRNAであり、現在では、マイクロRNAが細胞機能の制御に重要な役割を演じる事が明らかになっている。   「ひとつのマイクロRNAが300-400個のタンパクを制御しているようです。マイクロRNAのような分子は細胞の状態の変わり目にスイッチとして働くと考えられています。」とドイツ神経退化疾患研究所(DZNE)の研究者でゲッチンゲンDZNE所長のアンドレ・フィッシャー教授は語る。 彼の研究チームは学習作用に関与するマイクロRNAを同定し、更にそれがアルツハイマー病の重要な役割を担っているということだ。彼らはアルツハイマー病モデルマウスに過剰に発現する「miRNA 34C」と呼ばれるマイクロRNAを低減させると学習能力が回復することを実証した。更にはアルツハイマー病の診断と治療に重要であると考えられる標的分子も同定した。本研究はゲッチンゲン欧州神経学研究所、ゲッチンゲン大学、DZNEミュンヘン、そしてスイス、アメリカ、ブラジルから参加した研究者たちによる共同研究として実施された。研究結果はEMBO誌2011年9月23日オンライン版に発表され、miRNA 34Cは「多重並行シーケンス法」と呼ばれる複雑な方法で行われた。この技術を用いてフィッシャーと彼のチームは、脳内で学習機能を司る部位である海馬に発現するRNA構造の完全型を解明し、脳全体のRNAと比較検討を行った。彼らは海馬内のmiRNA 34Cが学習フェーズの2-3時間後に増加することを実証した。「私たちはmiRNA 34Cが、学習過程で生じる

クリーブランド・クリニックの研究者達は、悪性脳腫瘍である悪性グリオーマの腫瘍成長に癌幹細胞が関与するパスウェイを発見した。7月8日にCell誌に発表された記事によると、現在使用されている治療薬は既にこのパスウェイに作用し腫瘍の成長を遅らせ腫瘍をブロックする効果がある事が動物実験により明らかである。致命的なケースが多い脳腫瘍に対し、新しい治療法の提供が可能となってきた。   アメリカで悪性と診断される主たる脳腫瘍は年3,500例以上になり、その半分以上が悪性グリオーマである。悲しい事に、この患者達の見通しは暗い。最も悪性度の高い悪性グリオーマ(グレード?グリオーマ、または多形性神経膠芽細胞腫)の場合、最適と考えられる治療をもってしても、平均生存期間は9−15ヶ月である。その治療というのは、手術後放射線照射と化学療法テモゾロミドを処方し、さらに追加でテモゾロミドを処方する方法を指す。 患者間で腫瘍に違いがあるのは知られていたが、患者中の癌細胞の違いの重要性が理解されはじめたのはごく最近だ。動物モデルでは、グリオーマ内で腫瘍の成長を促進する細胞群−いわゆる癌幹細胞−が確認された。これらの癌幹細胞は放射線と化学療法に耐性があることが多いため、新しい治療法を開発する際に重要な標的とされている。 最近発表された報告書で、クリーブランドクリニック・ラーナー研究所/幹細胞生物学・再生医学部長ジャーミィ・リッチ博士とアニタ・ヘルメランド博士率いる研究チームは、癌幹細胞が腫瘍増殖を促進する際にたどる分子パスウエイを新しく定義した。癌幹細胞では一酸化窒素が過剰に生産されるがその役割ははっきりと解明されておらず、治療に対する耐性、アポトーシスの回避、そして増殖の促進に関与していると考えられている。一酸化窒素は癌幹細胞の一酸化窒素合成酵素?型(NOS2)の増加により生産される。この酵素の生成量

各種の攻撃手段を備えてがん細胞に侵入し、がん細胞を内側から粉砕する独特なナノスケール抗がん剤にさらに新しい攻撃手段が加わった。免疫系を刺激し、HER2陽性乳がん細胞を攻撃させるタンパク質がそれである。ロサンジェルスのCedars-Sinai Medical Center, Department of Neurosurgery, Maxine Dunitz Neurosurgical Institute, Nanomedicine Research Centerの科学者が率いる研究チームが医薬を開発し、人間の乳がん細胞を植え付けたマウスで研究を行った。   2013年6月12日付Journal of Controlled Releaseオンライン版に掲載された研究論文で、「医薬を注入されたマウスは、何の処置もしていないマウスや医薬の特定成分のみを注入されたマウスよりもかなり長生きした」と述べている。また、UCLA, Division of Surgical Oncology, Cedars-Sinai, Samuel Oschin Comprehensive Cancer InstituteとUCLA, Molecular Biology Instituteの研究チームもこの研究に参加した。 外からがん細胞を攻撃する医薬はしばしば副作用として正常細胞を傷めるが、この研究では、医薬分子をがん細胞内に運ぶ運搬機能を持った「ナノプラットフォーム」に複数の医薬を化学結合させ、がん細胞内に送り込んだ。HER2陽性がんは、乳がん、卵巣がんの25%から30%を占めるが、HER2遺伝子の活動が亢進しており、がんの進行を促進するタンパク質を過剰に生成するため、他のタイプのがんに比べると、侵襲性が強く、また治療にも反応しにくい。もっとも一般的な抗がん剤の一つ、Herceptin (tras

日本の理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)の研究チームは、ユビキチン化タンパク質の凝集体を細胞から選択的に分解するメカニズムを発見した。この発見は、同様の凝集体の補足や除去がp62とよばれるタンパク質のリン酸化によって誘起されることを示し、ハンチントン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療に、新たな道を開くことを示唆する。細胞の最も重要な活動の一つは、タンパク質の生産である。   これは、酸素輸送から免疫防御や食物の消化に至るまでに必要不可欠な機能を果たす。また、細胞の生存に重要なのは、有効期限を過ぎたタンパク質をどのように扱うかである。破損やミスフォールドしたタンパク質は、アルツハイマー病などの神経変性疾患に見受けられる衰弱状態と関連している。 真核細胞では、破損またはミスフォールドしたタンパク質の再生は、小さな調節タンパク質であるユビキチンの“ユビキチン化”によって管理されている。ユビキチン分子は、タンパク質に付加することでそのタンパク質を標識化し、この標識化されたタンパク質はプロテアソームによって破壊される。プロテアソームは細胞内で不要なタンパク質を分解し再生する大きなタンパク質複合体で、これは細胞のホメオスタシスの維持に極めて重要な役割をもつ。この研究を通して、BSI研究グループは、プロテオソームベースの再生が機能しない領域を明確にすることを追究した。それは、プロテオソームが分解しにくいタンパク質の複合体や凝集体の多い領域である。研究チームは、この弱点がユビキチン結合(UBA)領域、セリン403(S403)位置でのp62タンパクのリン酸化によるものだと指摘している。この位置でのリン酸化は選択的オートファジーとよばれる異化プロセスを誘発し、タンパク質凝集体を分解する。これは、“セクエストトーム”と言われる構造を形成し、オートファジーの準備のため

アメリカドクトカゲの唾液が2型糖尿病用の大型新薬のきっかけになるかもしれないと誰が思ったであろうか。さらに、Magician's cone snail(イモガイ科ヤキイモ)、Saw-scaled viper(ノコギリヘビ)、Brazilian lancehead snake(ブラジリアンヒメハブ)、Southeastern pygmy rattlesnake(東部生息の小型ガラガラヘビ)の毒から慢性痛、心臓発作、高血圧、脳卒中の薬が得られるとは誰が思ったであろうか。これらはペプチドベースの新薬として登場可能な資源のごく一部である。   Chemical & Engineering News(C&EN)(アメリカ化学会の週刊ニュース)で2011年5月30日版のメイントピックであるが、ペプチドはアミノ酸短鎖であり、タンパク質を構成している。このペプチドが、健康ならびに疾病に関与する多くの重要な身体の働きにおいて中心的な役割を果たしていると、C&ENシニアライターのAnn Thayer氏は語る。上記のような新薬候補は既存の医薬品と比べて高い効力や低い毒性など、医薬品として優位な点を持っている。しかしながら、医療分野の治療にペプチドをより広範に利用しようという試みは、ペプチドの短い作用持続時間や胃の中の酵素によって消化されやすいという傾向などによって手詰まり状態である。Thayer氏は、こうした問題点をさらに克服して販売までたどり着いた60種類のペプチド薬は2010年には130億ドルの売り上げになった。またパイプラインにおいてその他の成功も得られた。すでに成功を収め商品化されている医薬品の一部はアメリカドクトカゲのような動物由来の天然ペプチドをベースとしたものである。製造者が生産を進めていく方法について比較検討した記事ではペプチド創薬企業とのコラボレーシ

ルー・ゲーリッグ病として知られている致命的な進行性神経疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のいくつかのケースが、新たに発見された特定の遺伝子における遺伝子変異と関連している、と研究者達によって発表された。研究チームはこの遺伝子における変異が神経細胞の構造および成長に影響を及ぼすことを発見し、ALSがどのように細胞を壊し、麻痺につながるのかについての考察を得た。研究結果は2012年7月15日付けのNature誌に掲載された。   ALSは、筋肉をコントロールする神経細胞である運動神経に影響を及ぼす。ALS患者では四肢衰弱や嚥下難などの初期症状が見られる。患者のほとんどは症状発症から3-5年で、主に呼吸不全によって死亡する。ウスターのマサチューセッツ大学医学部の研究チームは、遺伝型ALSをもつ2家族における遺伝子変異を見つける研究を、国際ALS研究チームと共同で行った。研究チームはエクソーム・シーケンシングとして知られる技術を駆使し、DNA上のタンパク質をコードする部分(エクソーム)だけをデコードした。これにより、DNAにおける疾患の原因となる変異を含む領域を、効率的かつ十分に調べる事が可能なのである。このように綿密なエクソームのシーケンシングにより、プロフィリン(PFN1)遺伝子における複数の変異が、ALSを発症したファミリーメンバーにおいてだけ同定された。 その後行われた、世界中における他の272例の家族性ALS研究でも、症例の1-2%ほどのサブセットでプロフィリン変異が発見された。タンパク質であるプロフィリンは、神経細胞の足場または神経骨格の作成および再構築に重要な役割を果たす。ハエモデルでは、プロフィリンの乱れは軸索―1つのニューロンから次のニューロン、または運動神経から筋肉細胞へ信号を中継する長い神経突起–の成長を中断する。ALS患者におけるPFN1変異を同定した

赤ワインや植物に含まれる化学成分であるレスベラトロルが有する健康増進に有効であるメカニズムが、米国NIHの研究チームによって明らかにされた。同チームが実証したのは、レスベラトロルが、老化に関与するタンパク質であるサーチュイン1を直接活性化しないものの、ホスホジエステラーゼ類(PDEs)と呼ばれる一連のタンパク質類を阻害するという事だ。PDEsは細胞のエネルギー授受に関与する酵素であるが、本発見によってレスベラトロルの生化学論議に決着がつき、レスベラトロルを利用した医薬品の開発に道が開けたということだ。この化学物質は、糖尿病や炎症や悪性腫瘍を治療する活性を有しているので、多くの製薬企業が注目してきた。  本研究結果は、2021年2月3日付けセル誌の記事に紹介された。「レスベラトロルは2型糖尿病、アルツハイマー、心疾患などの幅広い疾患に有効です。しかし、レスベラトロルを安全で有効な医薬品として開発する前に、それが細胞内でどのような機序を有しているかを理解する必要がありました。」とNIH国立心肺血液疾患研究所の肥満と老化研究センター長で、本研究を主宰するジェイ・H・チュン博士は語る。レスベラトロルがサーチュイン1を最初の標的とする、と示唆する報告もいくつか出ている。しかしチュン博士の研究チームは、AMPKと呼ばれるタンパク質が、レスベラトロルの活性化に必要である事を実証していたので、その考え方には懐疑的であった。本研究においては、レスベラトロル処理された細胞内の代謝活性が系統的に追跡解析され、薬効の観点からレスベラトロルが最初の標的とするのは、骨格筋に存在するPDE4であることが同定された。 PDE4の阻害を契機として、レスベラトロルは細胞内の一連のイベントを誘起するが、その一つが、間接的にサーチュイン1を活性化させる。レスベラトロルがPDEタンパクに吸着し阻害することを確認

オハイオ大学総合がんセンター・アーサー・G・ジェームスがん病院&リチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC-James)の研究チームが、タモキシフェン耐性乳がん細胞がどのように成長し増殖するのかを突き止めた。更には、タモキシフェン耐性乳がんを標的として治療する新たな治験薬も開発された。最初のドアが閉まってから次のドアが開くように、エストロゲンホルモンが活性化させる経路をタモキシフェンが阻害した後に、ヘッジホグ(Hhg)と呼ばれているシグナル経路が、乳がん細胞の成長を促進するのである。   PI3K/AKTと呼ばれる2つ目の信号経路も関与しており、Hhgシグナル経路によってタモキシフェンの治療効果は減退し、がん細胞は成長を再開し悪化していくのだ。研究では300例以上のヒト腫瘍組織の解析が行われ、Hhgシグナル経路が活性化すると、予後の悪化につながる事が明らかになった。研究チームは最終的にビスモデギブという名の治験薬まで作成することに成功し、これはHhg経路をブロックしタモキシフェン耐性乳がんの成長を阻害することが、動物モデルで証明されている。この治験薬は現在、別のタイプのがんの治療薬として臨床試験が行われている。現在では、ホルモン耐性乳がんの治療には化学療法が採用されているが、この方法は強い副作用を有する。本研究は、おおくの耐性がんの治療において、化学療法に代わるものとして標的治療の道を開くものである。この研究はCancer Research誌の2012年8月8日号のオンライン版に発表され、「私たちの研究は、タモキシフェン治療の効果が無くなった、エストロゲン陽性乳がん患者のシグナル経路を標的にできる事を示唆しています。」と語るのは、主著でありOSUCCC-Jamesにおいて乳がんの専門医を務める、ブバネスワリ・ラマスワミー博士である。「私たちは、タモキシフェン耐性を誘発す

Nature誌Scientific Report 2012年8月30日オンライ版に掲載されたのは、ハイエナの群れの種類と、その臭い腺に生息する微生物の集団との間に、明白な相関関係があるという報告であり、主著はミシガン州立大学(MSU)ポスドク研究者であるケビン・セイス博士である。「すべての動物が行動範囲を決めるのに共通する重要な要素は、意思疎通のシステムにあります。そして群れ独自のバクテリア無しでは、十分なコミュニケーションが取れないのです。」と語るのは、MSUの動物学者であるケイ・ホールキャンプ博士と本研究の共著であるセイス博士である。   哺乳類の異なる社会集団は、それぞれ独自の臭いを発するバクテリア集団を有している。このバクテリアは独特の化学物質を分泌し、ハイエナは臭いによって自分たちの群れを認識する。過去の研究では、微生物の果たす重要な役割は、食べ物の消化や肉体機能に関わる事であった。よく知られている事は、多くの哺乳類は臭いを、性別や年齢、生殖状況や集団のメンバーシップの判定などのシグナルとして、様々な広い範囲で利用しているという事だ。本研究では、バクテリアはハイエナを宿主として、互いに利益を供与し合っている事を論じている。新しいDNA解析技術によって、動物の行動規範に対するバクテリアの有益で共生の役割が、明らかにされたのである。セイス博士は、ケニアの大草原の草の茎部分に付着している、ハイエナの酸っぱい臭いのするペースト状のサンプルに生息するバクテリアの情報を収集した。現場の試料はハイエナの臭い腺から採取され、MSUに送られ、新世代シーケンサー(NGS)を用いて解析された。ハイエナの群れが草に残した付着物のサンプル中のバクテリアの解析では、同じ群れ集団間では極めて高い同等性が確認された。「臭い腺内のバクテリアを共有する事の恩恵は、ハイエナの群れ集団が臭いによって

サルモネラ菌は胃腸感染症の主要原因のひとつである。サルモネラ菌は、宿主の腸管上皮に存在するフリーの鉄分量に合わせて自らの病原性遺伝子の表現を調整する。バルセロナ自治大学(UAB)の研究者達は、病原体が白苔プロテイン(Fur protein)を介して病原性遺伝子を活性化させることを初めて証明した。この白苔プロテイン周囲の状況に合わせて鉄分量をチェックするセンサーの働きをする。   この研究は「the journal PLoS ONE」(2011年5月6日号)に発表された。タイトルは“Fur activates the expression of Salmonella enterica pathogenicity island 1 by directly interacting with the hilD operator in vivo and in vitro”(インビボ及びインビトロにおいてhilDオペレータとの直接コンタクトによってサルモネラ菌病原性島1の発現を活性化させる白苔プロテイン)本研究はUAB遺伝学・分子生物学部の分子細菌学グループによって行われ、Dr. Jordi Barbé氏がコーディネートした。さらに、国立バイオテクノロジー・センターのDr.Juan Carlos Alonso氏の研究グループも共同研究を行った。鉄分は、だいたいの生物において発育に必須のミネラルである。それゆえに、すべての生物は外部環境から鉄分を必ず取得できるような取り込みシステムを獲得している。しかし、細胞内に過剰な鉄分は有害な影響を及ぼすこともあり得るので、同時に生物にはこれを制御するシステムも備わっている。脊椎動物では、この制御するシステムとして生体液中に存在するフリーの鉄分量を制限する栄養免疫機能として知られる第一防御バリアが備わっており、それが病原体の発育を防止する。嫌気性

メルボルンのサイエンティスト・チームが、免疫システムのなかに新しいタイプの細胞を発見した。新タイプの細胞(白血球の一種)は、感染症の予防において重要な役割を果たすT細胞ファミリーに属する。このグループの発見は、特定のタイプの感染性生物に対する免疫応答を強めることができた。それは最終的に新しい医薬品になる可能性がありうる。それと同時に、アレルギー、ガン、冠動脈疾患等を含む多くの重篤な疾患にとって重要な役割となる。   研究チームには、メルボルン大学のDr Adam Uldrich氏とDale Godfrey教授、モナッシュ大学(Monash University)のDr Onisha Patel氏とJamie Rossjohn教授、ピーター・マッカラムがん研究所(Peter MacCallum Cancer Institute)のMark Smyth教授らが参加している。 国際的な学術雑誌であるNature Immunology誌のオンライン版(2011年6月12日)で発表されたこの発見によって、免疫システムの各種の構成要素について基本的な理解が前進した。あらゆる種類の感染性生物を十分な範囲で網羅する方法についても基本的な理解が深まった。一般的に、身体に対して細菌性感染症やウイルス性感染症の恐れが生じた際には、T細胞受容体と呼ばれる分子が、バクテリアまたはウイルス由来のタンパク質断片(ペプチドと称する)と相互作用を生じ、これが免疫応答を誘発する。このプロセスについては既に広く研究されており、微生物の死滅と重篤な感染症の予防につながっている。免疫システムがウイルスやバクテリア由来のタンパク質に対象を絞っていることはわかっているが、免疫システムのなかの一部のT細胞(NKT細胞として知られる)が、脂質ベースの分子や脂肪分子の認識が可能である。そこで、こうした脂質感受性T細胞の

UCLAの遺伝子研究チームが共同研究の成果として、幼児の発達を阻害する稀な疾患であるIMAGe症候群に関与する遺伝子変異を同定した。偶然だろうか?同じ遺伝子に生じる変異によって、ベックウィズ・ウィーデマン症候群が発症する。この疾患は細胞の成長のスピードが速すぎて、子供が大きくなり過ぎるというものなのだ。   ネイチャー・ジェネティクス誌の2012年5月27日号オンライン版に発表された論文によると、UCLAのグループが得た知見は、無軌道かつ急速に増殖する腫瘍の細胞分裂を抑制する、新しい手立ての研究に繋がる。更には、現在では正確な診断方法が無いIMAGe症候群について、子供達を診断する新規的な方法とも成り得るのである。この発見は、UCLAデイビッド・ゲッフェン医学部のヒト遺伝学、小児科学、そして泌尿器学の教授であり、研究責任者であるエリック・ヴィライン博士には、特別な意義を持つ成果なのである。 凡そ20年前、同博士が故郷のフランスにて医学実習生であった頃、年齢の割りに大変低身長の3歳と6歳の男児を担当した。二人は親戚ではなかったが、幼児期の成長が遅く、骨の成長の停滞、副腎の縮退、通常より小さい臓器や性器、等の共通した特徴を有していた。「異常を呈する症状について、両親に説明できませんでした。私はその年、1993年から彼等が被った疾患の原因を研究し続けているのです。」とUCLA社会遺伝学研究所長でもあるヴィライン博士は語る。ヴィライン博士が遺伝学者としてUCLAに来た時も、この2人の症例がずっと頭に引っ掛かっていた。彼の良き先輩であり、後にUCLAの遺伝学者となったエドワード・マッカビー博士は、ヴィライン博士から話を聞いて、自分がベイラー大学医学部にいた頃の同様の症例を思い出した。この2人の科学者は早速3人の患者から血液サンプルを採取し、疑わしいDNAの変異を解析したが、何も

フロリダ大学の研究グループが、海洋微生物が生成する有毒物質由来の化合物が大腸がんに効果がある事を実験モデルで確認した。2011年8月31日付のACS Medicinal Chemistry Letters誌オンライン版に掲載された論文では、一般的には致死性を有する海洋性シアノバクテリアの副生成物を、どのようにしてガン細胞にのみ特異的毒性を発揮する物質に変えたのかが報告されている。この化合物を大腸モデルマウスに低量投与した結果、腫瘍の増殖が抑制される事が明らかになった。元の物質の毒性は観察されず、更には比較的高用量を与えても、この化合物は効果的で毒性は観察されなかった。   「時には、人間が更に手を加える事によって、自然の産物を人間の病気に有効的に使えるものに変える事が出来るのです。」と、著者の一人であり、フロリダ大学薬学部医薬品化学部の准教授でもあるヘンドリック・ルーシュ博士は言う。「アプラタキシンの作用メカニズムについての知見を元に、今回の化合物には腫瘍抑制機能がある事は判っていました。しかし、元の天然物は治療に使うには有毒性が強すぎたのです。」彼等は複数のアパラタキシンを元に、培養細胞とマウスに効果的だが強い毒性を持たないものを生成した。この化合物は、世界中のガン研究所が注目する二つのタンパク質−増殖因子とその受容体である酵素のチロシンキナーゼーのレベルを低減するための単剤として作用する。アパラタキシンS4と言われるこの化合物は、大腸がん細胞がその増殖エネルギーの生成因子を産生し使用する作用を抑制する。ルーシュ博士やオイェン・チェン科学者とその助手のヤンシア・ルー研究員はこれを、「とめどなく増殖するガン細胞に対する強力なワン・ツー・パンチだ」と言う。このアパラタキシンの二重の作用の発見は、今年5月にニューヨークのAcademy of Sciencesで発表されはした

帯状疱疹は非常に痛いことで知られているが、ジョージア大学(UGA)とエール大学の研究者達は、帯状疱疹の水疱治療に、従来よりもかなり効力が高い可能性のある物質を発見した。帯状疱疹は、アメリカ国民の最大30%が罹患している疾患であるが、その大部分は高齢者である。しかも特別な治療処置の方法が存在しない。大部分の成人は、子供の頃に水疱瘡に罹った際に熱、痒みを伴う水膨れ、さらに僅かな傷跡などの体験をしているはずである。   この水疱瘡の原因は、varicella-zoster virus (VZV)(水痘帯状疱疹ウイルス)である。残念なことに、高齢者になったときに重篤な症状として再発することがある。小児期水痘由来のVZVウイルスは神経の中に隠れており、60才以上の成人で、身体の片側に水庖の発疹が頻繁に出現する。帯状疱疹の発作後の数カ月または数年間持続する神経性の痛み等を含む合併症が残る可能性の割合は、年齢と共に高まる。 上記のような状況は、L-BHDAと称される新規の効果的な抗帯状疱疹薬によって変わってくる可能性がある。抗帯状疱疹治療薬の権利は、ジョージア研究財団(Georgia Research Foundation, Inc.) とエール大学による前臨床試験を目的として、Bukwang製薬に供与された。医薬品化学者であり、UGAの薬学・バイオメディカルサイエンスで著名なDr. Chung (David) Chu教授は語った。「既存の薬剤に耐性をもつ可能性のある株を含めたVZV全体を治療可能なように、有効性ならびに特異性を高めた薬剤を目指した新しいオプションが必要である。」彼はL-BHDAの発明者の1人でもある。Dr. Chuと共同発明者であるDr. Yung-Chi (Tommy) Cheng the Henry Bronson 薬理学教授との共同研究によって、HIV、帯状

眼の神経細胞が正常に機能するにはビタミンCが必要である。2011年6月29日号のJournal of Neuroscience誌に発表されたこの新たな発見は、ビタミンCが他の脳機能にも必要な要素である可能性を示唆している。この発表をしたのはオレゴン医療大学(OHSU)の研究チームと共同研究グループである。「網膜の細胞は、比較的高用量のビタミンCが無ければ正常に機能しないという事が分かったのです。」と、OHSUのボラム研究所の科学者で今回の研究の共同執筆者、ヘンリーク博士は語る。  更に「網膜は中枢神経系の一部ですから、今回の発見は、ビタミンCが脳の至る所で今まで知られていなかった大事な役割を果たしているかもしれないという事を示唆しています。」と指摘する。 脳にはGABA型レセプターという特別なレセプターがあり、脳の細胞間の高速情報伝達を調節している。GABA型レセプターは脳の興奮性神経系を抑制するためのブレーキとしての役割を果たしている。OHSUの研究チームは網膜細胞内のこのGABA型レセプターは、ビタミンCの供給が無いと正常に機能しなくなる事を発見した。「網膜細胞が比較的アクセスしやすい脳細胞であると考えれば、脳の他の部分にあるGABAリセプターも正常に機能するためにはビタミンCを必要とする事が予測されるのです。」とフォン・ゲルスドルフ博士は言う。「また、ビタミンCは抗酸化物質であるため、基本的にレセプターや細胞を早期細胞死から守る役割も果たしています。」とフォン・ゲルスドルフ博士は続ける。 脳内でのビタミンCの役割は未だ解明されていないが、人間の体内でビタミンCが不足していても脳には最後までビタミンCが残る事は分っている。「脳が一番ビタミンCを不足させてはならない場所であるようです。そしてこの発見は、なぜ壊血病(ビタミンC不足により起こる病気)があのように作用する

ダートマウスのガイセル医科大学の研究チームが、直腸がんに関与する遺伝子のオン・オフスイッチを同定した。直腸がんの水先案内人に当たるもので、おそらく新しい治療標的になると考えられる。クオンティタティブ生物医科学研究所長で遺伝子学のThird Century教授であるジェイソン・ムーア博士と、大学院生のリチャード・クーパー・サラリ氏とは、ケース・ウエスタン・リザーブ大学とクリーブランド・クリニックが組織する研究チームの一員である。研究成果はサイエンス誌のオンライン版であるサイエンス・エクスプレス2012年4月12日号に発表された。   多くのがんの研究はがんを引き起こす遺伝子の変異の探索を目的としているが、ムーア博士等は、所謂「ジャンクDNA」と呼ばれる、タンパクをコードしないDNA領域を解析した。長い間見落とされて来たのだが、ジャンクDNA領域は、遺伝子の発現自体を制御する機能を有するということで、近年注目されるようになってきている。「我々は、一体何がどのように“ジャンク”だと言われてきたのかを確定しようとしているのです。所謂“遺伝子”といわれる領域と領域の間にある“ジャンク”の領域がどうであるのかということです。」とムーア博士は語る。 遺伝子領域から遠く離れた非コード領域に結合するタンパク類が、その遺伝子領域のオン・オフを制御していると同博士は説明する。9つの直腸がん検体と3つの健康体直腸組織とを用いて、特定の非コードDNA領域が解析された。そして、ある特定の部分が、直腸がんの発症の有無に応じて、非コード領域の差異が見つかったのである。研究チームはこれらの領域を「変異促進遺伝子座(VELs)」と名付けた。クーパー・サラリ氏によれば、彼らが発見したパターンは既存の直腸がん遺伝子発現マーカーのどれよりも、明白にがんの発現を示すという。「とても明白なシグナルが得られます。」

過去最大級のゲノム全体にわたる研究で、5種の主要精神障害がごく一般的な同様の遺伝子的変異にまで遡ることが突き止められた。資金の一部をNational Institutes of Healthが出しているこの研究では、重なり合う部分は統合失調症と双極性障害で最高を示し、双極性障害と抑鬱症、ADHDと抑鬱症で中程度、統合失調症と自閉症では低度という結果が出た。   また全体として、共通する遺伝子的変異による各精神障害のリスクは17%から28%程度であると見積もられた。オーストラリア連邦クイーンズランド州ブリスベンのUniversity of QueenslandのNaomi Wray, Ph.D.は、「私たちの研究は共通する遺伝子的変異だけに限ったので、精神障害間の重なり合う遺伝子的変異全体を見ればもっと大きくなると思う。もっと影響の小さい共通遺伝子変異、ごくまれな変異、突然変異、重複、欠失、遺伝子・環境相互作用などもこれらの精神障害の原因になりえる」と述べている。NIHのNational Institute of Mental Health (NIMH) の後援で、Cross Disorders Group of the Psychiatric Genomics Consortium (PGC) が複数の研究室で実施したこの研究に、Naomi Wray, Ph.D.は共同で指導に携わった。バージニア州リッチモンド所在Virginia Commonwealth UniversityのDr. Wray, Kenneth Kendler, M.D.、マサチューセッツ州ボストン所在Massachusetts General HospitalのJordan Smoller, M.D.その他のPGCグループのメンバーの研究論文が、2013年8月11日付Nature Geneticsオ

エモリー大学の研究チームがこの度、治療困難なうつ病に効く可能性のある炎症抑制薬を発見した。本研究は2012年9月3日付けのArchives of General Psychiatry誌にオンライン掲載された。「炎症は、感染や創傷に対する身体の自然な反応です。しかし長期に渡る、または過度の炎症は、脳を含む身体のいたる所にダメージを与えてしまうのです。」と、本研究の責任著者であるエモリー大学医学部精神医学・行動科学教授、 アンドリュー・H・ミラー博士(M.D.)は説明する。先行研究では、高炎症を有するうつ病患者には抗うつ薬や心理療法など、従来の治療の効き目が低いことが示されている。本研究では、炎症をブロックすることが治療困難なうつ病患者全般に効くのか、あるいは炎症値の高いうつ病患者に特定して効くのかを調べるために行われた。   研究には自己免疫疾患および炎症性疾患(関節リウマチや炎症性腸疾患など)を治療する比較的新しい生物学的治療薬、インフリキシマブが使用された。生物学的薬剤は、身体の免疫システムによって生成される物質の効果をコピーする。今回のケースにおける薬剤は、腫瘍懐死因子(TNF)をブロックする抗体であった。TNFは炎症において鍵となる分子で、うつ病患者においてそのレベルが上昇することもあると示されている。研究参加者の全ては広範なうつ病を持ち、従来の抗うつ病薬に適度な耐性を有していた。各参加者は、インフリキシマブまたは非アクティブなプラシーボ治療のいずれかに割り当てられた。調査員がグループ全体の結果を見た所、薬剤グループとプラシーボグループ間におけるうつ病症状の改善の差は認められなかった。しかし、高炎症値を有する参加者の反応を別に調べた結果、プラシーボに比べてインフリキシマブに対する反応の方がはるかに良かった。本研究では、ほとんどの診療所や病院で利用可能であり、C反応

2012年のノーベル化学賞は、デューク大学医学センターで39年を続け、ハワードヒューズ医学研究所で治験医師を務めるロバート・J・レフコウィッツM.D.と、1980年代に同博士の研究室でポスドクを務めていた、スタンフォード大学医学部のブライアン・K・コビルカM.D.が共同受賞した。ノーベル化学賞の発表は2012年10月10日に行われた。   二人の科学者は、抗ヒスタミン剤、抗潰瘍薬、高血圧用のβブロッカー、狭心症や冠動脈疾患治療薬などの処方薬の標的となる、細胞表面受容体類の研究で知られている。これらの受容体類は外部から化学的なシグナルを受け、そのメッセージを細胞内に伝達し、体内で起こっている変化の情報を伝えている。これらの受容体類は”7回膜貫通型Gタンパク共役受容体”あるいは短くして単に”G共役受容体”と呼ばれ、蛇のように曲がりくねった構造をしており、細胞表面を縫うように7回貫通している。 ヒトゲノムには、このような膜貫通型受容体をコードする遺伝子が1,000種類ぐらいあるが、とてもよく似ている。更には目の光受容体、鼻の匂い受容体、下の味覚受容体とも大変よく似た構造部分を有する。「ボブのG-タンパク共役受容体の発見は、現在多くの疾患領域で利用されている医薬品の基礎として、大変大きな役割を担っています。彼はその偉大な発見によって、数えきれない程の患者に福音を与えた、”医師兼科学者”の典型例です。私たちは彼の成し得た素晴らしい成果と、デューク大学医学部における多大な貢献を、心から誇りに思います。」と、デューク大学ヘルスシステムのヘルス研究所長兼CEOの、ベクター・J・ジャウ医師は語る。「ノーベル賞委員会が、ボブの研究の本質に注目した事にワクワクしています。そして彼の全研究活動が私たちの大学機関で行われてきた事を、本当に誇りに思います。ボブは単に優れた科学者であるだけではなく

ボストン小児病院(Children's Hospital Boston)の研究者は、ABCB5と呼ばれるバイオマーカーが、結腸直腸ガン領域内のごく一部の細胞にタグを付け、さらに、スタンダードな処置に対して細胞内で抵抗性が高まることを発見した。この結果はABCB5発現細胞の排出が、結腸直腸ガン治療の成功のカギとなることを示唆している。その一方で、ガン幹細胞仮説と呼ばれるガン細胞増殖のエビデンスが増えていることをも示唆された。研究は国際的なチームで進められており、リーダー的存在はボストン小児病院移植研究センター(Transplantation Research Center at Children's Hospital Boston)のDr. Brian J. Wilson氏、Dr. Tobias Schatton氏、Dr. Markus Frank氏であり、VAボストンヘルスケアシステム・ブリガム女性病院(VA Boston Healthcare System and Brigham and Women's Hospital)のDr. Natasha Frank氏や、ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク(University of Wurzburg)のメンバー等が参加している。研究成果は、ジャーナルがん研究(journal Cancer Research)電子版(2011年6月7日付)に発表された。   本年でも推定141,000人のアメリカ人が、結腸直腸ガンの診断をうけるのではないかと予測される。がん検診と選択可能な治療方法の拡大のおかげで結腸直腸ガンの死亡率は過去20年間、低下し続けているが、依然として、アメリカ合衆国のガン関連死亡原因の第二位である。 Frank氏のチームは、黒色腫と肝ガンのガン再発に関与するマーカーとしてのABCB5の役割を認識した

ハトは人間の顔や特徴や感情表現を、人間と全く同じような方法で認識することを明らかにする研究がアイオワ大学(UI)の2人の研究者によって実施され、米国の眼科領域の専門誌「Journal of Vision」(2011年3月31日号)に発表された。実験では、特徴の異なる人間の顔の写真や、不機嫌な表情や笑顔のような様々な感情を表している写真をハトに見せた。   この実験から、ハトは人間のように、同じような顔の特徴や感情を示している人たちの顔の類似点を識別することが判明した。もう一つの実験がとても重要であったが、ここでのハトの任務は、こうした種々の特徴のうちの1個だけに着目し、その他を無視して写真を分類することであった。 アイオア大学教養学部心理学科に所属するDr. Ed Wasserman実験心理学Stuit教授と大学院生のFabian Soto氏の両氏によると、ハトは、人間の感情表現を認識した際に顔の特徴を無視するよりも、顔の特徴を認識した際に感情表現を無視するほうが簡単なことを見出した。「この左右非対称は、人間を被験者とした実験でもしばしば見られてきたことであり、常に、人間の顔処理システムのユニークな働きの結果であると解釈されてきた。」と、Soto氏は語る。さらに、「こうした作用は他の脊椎動物にも存在する知覚プロセスに起因する可能性があること示唆する証拠を、私たちは初めて提供した。このプロジェクトのポイントは、私たち人間の行動と同じような方法でハトが人間の顔を識別するということではなく、人間が顔の認識のために特別なプロセスを用いているわけではない、ということである。むしろ重要なことは、特殊なプロセスと一般的なプロセスの双方とも、人間の顔の認知に関与しているはずであるということと、それぞれのプロセスの貢献度は経験ならびに入念な検討によって決められているはずである、というこ

細胞は、その大切な内容物を保護することにかけては実に優れている。その結果、細胞を壊すことなく、医薬、栄養物、バイオセンサーなどを細胞膜壁を通して内部に届けることはきわめて難しい。その一つが、2008年に発見された効果的な方法で、純金のナノ粒子を特殊なポリマーの薄い層に包むという方法だった。しかし、なぜこの組み合わせがそれほどうまく働くのか、どのようにして細胞膜をくぐり抜けるのかについては誰も確実なことは分かっていなかった。   ところが、MITと、スイスのEcole Polytechnique de Lausanneの研究チームがこのプロセスの動きを解明したばかりか、使えるナノ粒子の大きさの限界も突き止めた。研究チームの分析は、Reid Van Lehn、Prabhani Atukorale、Yu-Sang Yang、Randy Carneyの各大学院生とAlfredo Alexander-Katz、Darrell Irvine、Francesco Stellacci各教授が執筆し、2013年8月5日付学術誌「Nano Letters」オンライン版に掲載された研究論文に詳しい。 筆頭著者のVan Lehnは、「これまでその機序は分かっていなかった。今回の研究作業では、私たちは過程をできるだけ単純化し、細胞膜に永久的な損傷を残すことなく、また細胞を破ることなく、純金ナノ粒子に細胞膜の壁を通り抜けさせる陰の力の解明に努めた」と述べている。そのために、研究チームは、研究室での実験とコンピュータでのシミュレーションを繰り返した。その結果、重要な最初のステップは、ポリマーに覆われた純金ナノ粒子が脂質と融合することだと実証した。この脂質とは自然の脂肪、ワックス、ビタミンなどの複合体で細胞の壁を形成している物質である。さらに、チームは、細胞の壁を通り抜けることができるナノ粒子のサイ

遺伝子は私達一人一人の「個性」の創生を司っている。髪の毛の色から特定の病気に対する脆弱性まで、「個性」には様々な側面があるが、一体遺伝子はその生産物であるタンパクの合成を含め、どのようにコントロールしているのだろうか?この度、記憶を司る基礎的なプロセスに関与する新たな生体分子群が発見され、神経変性疾患の治療に新たな方向が示されたと思われる。   英国のブリストル大学臨床科学部の生物化学科と病理学科と薬理学科に率いられる研究チームが、2012年4月27日のJournal of Biological Chemistry誌に発表したのは、ミラーマイクロRNAと呼ばれる、新たな生体分子群である。マイクロRNAは非コード遺伝子で「ジャンクDNA」に分類され、細胞プロセスを制御する様々なタンパク類の機能や発現量に関与している。報告によれば、それぞれ異なる機能を有する2つのマイクロRNAが、同じDNAの断片(配列)から生成されており、片方はトップストランドから、もう片方は相補的な「ミラー」であるボトムストランドから生成される。 この度明らかにされたのは、ヒトDNAの1断片から次第に2つのマイクロRNAが形成され、それらは脳内に発現し、それぞれこれまで知られていなかった作用を有するということだ。一つのマイクロRNAは、記憶を司ると言われている神経細胞の一部に発現し、もう一つは、神経細胞周りのカーゴタンパクの動きを制御する。同大学の臨床科学部分子神経科学科教授のジェームス・ウネイ博士は「マイクロRNAのほんの僅かな違いが脳の機能に大きな影響を与え、記憶の機能や神経変性疾患への罹患し易さなどに関与しているという、大変重要な事実が明らかになりました。ヒトのミラーマイクロRNAはもっと沢山見つかるであろうし、それらはヒトの神経変性疾患の治療、例えば認知症の治療に道を開くものと考えられます。」

兵庫県神戸市の理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの研究チームは、クローン羊のドリーを生み出したのと同じ技術を用い、正常な寿命を持ち、永久的にクローン化できる健康なマウスを生み出す方法を突き止めた。この研究報告は、2013年3月7日付「Cell Stem Cell」の巻頭を飾っている。若山照彦博士の率いるチームが2005年に始めた実験では、体細胞核移植 (SCNT) と呼ばれるテクニックを用い、オリジナルの「ドナー」マウスから25世代のクローニングを繰り返し、合計581匹のマウスを生み出した。   SCNTは、クローンを作るのによく用いられているテクニックで、卵核を取り除いた生きた卵子に、クローンの元となる個体の遺伝子情報を持った細胞核を植え付けることで、その個体のクローンが育つ。このテクニックは実験動物や家畜に適用して実績を積んでいるが、これまで低い成功率や、哺乳動物で、クローンからさらにクローンを作る再クローン回数の限界などSCNTの技術的な限界を克服することができず、ネコ、ブタ、マウスでは再クローンは2回から6回の間が限界だった。若山博士は、「この再クローン回数の限界は、一つの可能性として、遺伝子的な、あるいは後成遺伝子的な異常が世代を重ねるごとに積み重なるためと考えられる」と述べている。DNAそのものには変化をもたらさない後成遺伝子の変化、あるいはDNA機能の修飾を防止するため、若山博士の研究チームは、細胞培地にヒストン・デアセチラーゼ阻害薬を加えた。その結果、このテクニックでクローニングの効率が6倍も改善された。SCNT作業の各段階で効率が改善された結果、マウスのクローンを成功率の低下なしに25回繰り返すことができた。この方法で生み出された健康なクローン・マウス581匹はすべて繁殖能力があり、健康な子マウスを産んだだけでなく、正常に受精出産したマウスと

DNAシーケンスによって遺伝子の変異を検知することは、がんの診断や治療法の選択に大変有用である。現行のDNAサンプルのテスト法では、とりわけサンガー法とパイロシーケンス法が使用されるが、時折、配列への読み替えが困難であったり出来なかったりする複雑な配列パターンが見受けられる。ジョンズ・ホプキンス大学医学部の研究グループは、そのような複雑な遺伝子変異配列パターンであっても、より正確に同定できるパイロメーカーというフリーソフトを開発した。   パイロメーカーはWebベースのアプリケーションで、ユーザーの入力した、例えば腫瘍細胞と正常細胞の比率や、ワイルドタイプのシーケンスデータや、ディスペンセーション順位や、変異配列番号などのデータを基にパイログラムのシミュレーションを行なうものだ。パイロメーカーは、変異とワイルドタイプとの相対アレル比率を計算し、ディスペンセーション配列に存在する予測される当該変異点を導き出す。最終結果は予測されるパイログラムが表示されるようになっている。 KRAS遺伝子は、様々な癌の病因として重要な作用を担っているが、研究グループは、このKRAS遺伝子によく見受けられる変異の幾つかを含む実際のパイログラムを用いて、パイロメーカーを評価した。実際のパイログラムと計算上のパイログラムは、全ての遺伝子変異解析テストにおいて、同一の結果を導出できる結果であった。彼らは次に、12-13個の単一或いは複合変異のコドンが、独特なパイログラムを描くことを実証した。しかし、いくつかの複合変異は、一塩基変異と見分けがつかない場合もあったため、複合変異の解析はまだ完全ではないと考えられる。研究グループは、二つのパイログラムを使って、最初には解読が困難であった場合の解決法を5通り提案した。それらは、サンガーシーケンス法のみで行なうこと、パイロメーカーで予測配列解析を行なうこと

1953年にフランシス・クリックとジェームズ・ワトソンがデオキシリボ核酸 (DNA) の二重らせん構造を発見した事が遺伝子工学の革命をもたらし、生命体を構成する単位をマップ化し、研究し、シーケンス化する始まりとなった。DNAは、世代間を継承される遺伝物質をエンコードしている。DNAにエンコードされた情報が、生命に必須のタンパク質や酵素として作り出されるためには、細胞のリボソームの中にある一本鎖遺伝物質のリボ核酸 (RNA) が仲介として機能しなければならない。RNAは通常一本鎖であるが、一部のRNA塩基配列はDNAのように二重らせん構造を作ることができる。   1961年には、アレクサンダー・リッチ、デビッド・デービーズ、ワトソン、クリックらが、「ポリ(rA) として知られるポリアデニル化RNAは、並列鎖二重らせん構造を形成することができる」との仮説を立てた。それから50年を経て、McGill Universityの研究者達は、短いRNA配列のポリ (rA)11の結晶化に成功し、Canadian Light Source (CLS) と、Cornell High Energy Synchrotronで集めたデータを用い、ポリ (rA) 二重らせんの仮説を実証した。ポリ (rA)11の詳細な立体構造は、McGill Biochemistry教授のDr. Kalle Gehringの研究室が、University of GottingenのDr. George Sheldrick、Concordia UniversityのDr. Christopher Wildsらとの共同研究で発表している。Dr. WildsとDr. Gehringは、ケベックの構造生物学協会GRASPのメンバーである。研究論文は、2013年6月27日付の学術誌「Angewandte Chemie Int

西アフリカのエボラ出血熱ウイルス蔓延はこれまでで最大の規模になっているが、このウイルスが免疫系をすり抜けるテクニックは巧みである。しかし、セント・ルイスのWashington University School of Medicineその他の研究機関が参加する研究チームは、エボラ出血熱ウイルスが体の抗ウイルス防衛機能をすり抜ける方法を突き止めており、この疾患の治療法を新たに開発する糸口になることが期待されている。   WHOによると、2014年3月以来西アフリカ4か国で約1,800人がこのウイルスに感染しており、そのうち半数以上が死亡している。研究チームは、VP24と呼ばれるエボラのタンパク質が、細胞核の内外に信号分子を出し入れする宿主タンパク質に結合する詳細なマップを作成した。そのマップから、このウイルスのタンパク質が、重要な免疫信号を細胞核に運び込む宿主タンパク質の能力を奪うことが明らかになった。 この信号は免疫系の抗ウイルス防衛機能を活性化する働きがあり、その機能を阻害するということがこのウイルスの高い致死率の主要原因になっていると考えられる。この研究論文の首席著者でWashington University School of Medicineの病理学と免疫学の准教授を務めるGaya Amarasinghe, Ph.D.は、「エボラに感染すると、インターフェロンと呼ばれる分子によって活性化される免疫系の重要な機構か阻害されることは以前から知られている。この2つのタンパク質の構成マップは、エボラが機構をどのように阻害するかを明らかにしている。この情報を利用して新しい治療法を開発する道が開けるはず」と述べている。研究論文は2014年8月13日付Cell Host & Microbeオンライン版に掲載された。2014年3月1日、National Instit

Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、強力な新開発のDNA操作技術をこれまでよりさらに広い範囲にわたって適用する方法を考え出した。TSRI, Department of Chemistry, Molecular Biology Janet and Keith Kellogg II Chairであり、教授も務めるDr. Carlos F. Barbas IIIは、「これは現在の生物学の分野でもっともホットなツールだ。しかも、私たちの研究で、このツールをどんなDNA塩基配列にでも適用できる方法を考え出した」と述べている。   この大発見はTALEと呼ばれる一群の合成DNA結合タンパクに関わるもので、生物学者はこのTALEを研究上の実験やバイオテックの用途、あるいは遺伝病治療を含めた医療に取り入れ、細胞中の特定遺伝子をスイッチ・オン・オフしたり、さらには削除、挿入、書き替えにも用いることが増えてきている。TALEを用いた手法は動物植物に見られるDNA塩基配列のごく一部に対してしか使えないものと考えられていたが、この新研究でその限界が取り払われた。Dr. Barbasの研究チームは研究の成果を学術誌「Nucleic Acids Research」の2013年8月26日付予定稿オンライン版に掲載している。 長年、分子生物学者は、細胞を活かしたまま、容易にまた精確にDNAを操作するようになる日を夢見てきたが、それがかなり現実に近づいている。TALE型の合成タンパク質はほんの何年か前に創り出されたばかりだが、これまでに発明された中ではもっとも使いやすく、しかも精確なDNA専用ツールだと言われている。合成TALE (transcription-activator-like effectors, 転写活性化物質様作動因子) は、植物に感染す

一般的な脳卒中のリスクを高める遺伝子変異が、2012年2月5日付けのNature Genetics誌に記載された研究で明らかにされた。これは現在までに発見されている脳卒中関連の数少ない遺伝子変異の一つであり、この発見により新たな治療法の可能性が見えてきた。脳卒中は世界中の死亡原因の第2位(全死亡数の1/10に当たる、年間600万人)にあたり、先進国では慢性的障害の主要原因でもある。   世界的な高齢化に伴い、脳卒中が健康に及ぼす影響はさらに高まるであろう。脳卒中の根底には幾つかの異なるメカニズムが存在する。最も一般的なタイプでは、一つまたは複数の動脈がブロックされることにより血流障害が起こる、大動脈虚血性発作である。これは、全ての脳卒中の3分の1以上にあたる。 セント・ジョージズ(ロンドン大学)およびオックスフォード大学の研究チームは、ヨーロッパ、アメリカ、そしてオーストラリアの研究者達と共に今までで最大規模にあたる脳卒中の遺伝学研究を行い、脳卒中を患ったことのある患者1万人と健常者4万人の遺伝子を比較した。本研究は、ウェルカムトラストによってグラントされた。研究チームは大動脈虚血性発作のリスクを高める遺伝子、HDAC9における変異を発見した。この変異はヒト染色体の約10%程度に発生し、変異のコピーを二つ持つ(それぞれの親から一つずつ継承された)人は、コピーを持たない人に比べてこのタイプの脳卒中のリスクがほぼ倍に上がるのである。HDAC9により生産されたタンパク質が筋肉組織や心臓の発達に貢献することはすでに知られている。しかし、この遺伝子変異が脳卒中リスクを高めるメカニズムは未だ明らかになっていないため、このメカニズムを理解することが、脳卒中を防ぐ、あるいは治療する新薬の開発につながるであろう。しかし、これはまだまだ先の事であると研究チームは考える。「この発見は、脳卒

King's College Londonの研究者グループに率いられた国際的な科学者チームが眼球屈折異常や近視を引き起こす遺伝子を新たに24種類同定した。近視は世界中で失明や視覚障害の大きな原因になっており、現在のところ治療法はない。Nature Genetics誌2013年2月10日付オンライで発表された研究論文は、この形質の遺伝的原因を解明しており、より効果的な近視の治療法や予防法を開発する基礎になる可能性がある。   西洋人の場合には30%、アジア人の場合には80%の人が近視になる。児童期から思春期にかけて視覚器官の成長に際して眼球は前後に伸びるが、近視では眼球が伸びすぎ、眼球内に入った光が網膜に像を結ばず、その前に像を結んでしまい、網膜の像は焦点の外れたぼけた画像になる。このような眼球屈折異常は眼鏡、コンタクトレンズ、外科手術などで矯正することができるが、眼球は長いままであり、網膜は薄くなったままである。これが特に強い近視では、さらに網膜剥離、緑内障、黄斑変性症などにつながる。近視は非常に遺伝性が強く、これまでのところ、近視の遺伝的仕組みが分かっていなかった。 近視の遺伝的な原因を探るため、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、アメリカの研究者グループが共同研究組織Consortium for Refraction and Myopia (CREAM)を構築した。研究者チームは、32件の研究から45,000人を超える被験者の遺伝データや眼球屈折異常データを集めて分析し、この遺伝形質に関連した24種類の遺伝子を新しく突き止めた他、過去に研究論文で取り上げられている2種類の遺伝子についても確認した。面白いことに、近視はアジア人の方が発生率が高いにもかかわらず、遺伝子は、ヨーロッパ人とアジア人のグループの間で目立った違いが見られなかった。新しく突き止められた遺伝子は、

一連の新しい造影剤により、腫瘍が悪性化する前の初期段階で「見る」ことが可能になるかもしれない。この化合物は酵素シクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)のインヒビターに由来し、PETイメージングにも適用できるので、癌の検出、診断、および治療のための広範な用途の可能性を有する。バンダービルト大学の研究者達は、2011年10月号のCancer Prevention Research誌にこの新しい造影剤の説明を載せている。「これはCOX-2をターゲットとするPETイメージングで唯一、炎症や癌への適用が、動物モデルで実証された物なのです。」と、バンダービルト・ケミカルバイオロジー研究所の所長であり、今回の化合物開発チームのリーダーであるローレンス・マーネット博士は言う。   「COX-2は、正常組織にはほとんど見られない物質で、炎症性病変や癌の際に“オン”になります。そのため、分子イメージングにおいて魅力的なターゲットなのです。腫瘍が成長し、どんどん悪性になるにつれて、COX-2レベルも上がります。」と、マーネット博士は説明する。 COX-2をターゲットにするPETイメージングで検出可能な化合物を開発するため、生化学の研究助教授ジャシム・アディン博士は、抗炎症薬インドメタシンとセレコキシブの“コア”の化学構造を修飾し、様々なフッ素化合物を付加させた。この様なフッ素化合物がCOX-2の選択的インヒビターとして機能する事を実証した後、研究チームは最も有望な化合物に放射性フッ素(18-F)を組み入れた。この18-F化合物を動物モデルに静脈投与したところ、PETイメージングのための十分なシグナルを提供した。 研究チームは動物モデルを用いて、18-F化合物のインビボPET イメージングにおける有望性を実証した。使用されたのは足蹠の刺激誘発性炎症モデルラットと、ヒトの腫瘍を移植されたモデルマウ

長年、研究者はインシュリン産生膵ベータ細胞を再活性化することで糖尿病を治療する方法を探してきたが、ほとんど成果が得られていない。しかし、類似したアルファ細胞をベータ細胞に「リプログラミング」することで、いつか、2型糖尿病に対して、現在の治療法を補完する方向の新しい治療法が可能になるかも知れない。ヒトとマウスの細胞使って、細胞核内の染色質 (クロマチン) と呼ばれる物質を変化させる化学物質で処理するとアルファ細胞中でベータ細胞遺伝子が発現したという研究論文が、「Journal of Clinical Investigation」の2013年2月22日付オンライン版に掲載されている。   この論文の筆頭著者で、ペンシルバニア大学Institute of Diabetes, Obesity and Metabolism, Perelman School of Medicineのメンバーであり、遺伝学教授を務めるKlaus H. Kaestner, Ph.D.は、「この研究成果から治療法が確立すれば、インシュリン産生ベータ細胞が増え、グルカゴン産生アルファ細胞が減ることになるから、糖尿病患者にとっては一挙両得になるはず」と語っている。 2型糖尿病では、インシュリンが欠けるだけでなく、グルカゴンが過剰になる。糖尿病は1型も2型もインシュリン産生ベータ細胞が不足することによって引き起こされるのであり、理論的には、健康なベータ細胞を移植すれば、病気の進行を止めることができる。ただし、1型糖尿病の場合には自己免疫を抑制するために免疫抑制薬なども併用しなければならない。しかし、まだ誰も、胚性幹細胞を使っても、あるいは成熟細胞のリプログラミングの方法を使っても、実験室レベルでさえ効率的にベータ細胞を産生することができないでいる。アルファ細胞は、ベータ細胞と同じように膵臓内の内分泌細胞であ

自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因となりうる環境因子が発見された。父親は母親に比べて4倍、障害を持つ子供に自然突然変異を伝達する可能性が高いのである。また、このような遺伝的変化は父の年齢の増加と共に増えていく。本研究はこれまでに証明されてきた父の年齢と自閉症リスクの関連性を説明するのに役立つであろう。このような遺伝子中のタンパク質コード領域におけるシーケンス変化は、ASDにおいて重要な役割をもつ。   本結果は3つの異なる新しい研究からなり、これらは部分的に国立衛生研究所(NIH)によってサポートされている。研究の一つは、このような変異を持つ事によって子供が自閉症を発症するリスクは5倍から20倍に上ると判断している。これら3つの研究はこのような研究では最大のものであり、そのサンプル数は合わせて549家族にも上るため、統計確度も高い。 本研究は散発的変異がゲノムに幅広く分布されていることを明らかにし、これらはリスクを高めるものとそうでないものの両方であった。識別された変化のほとんどは疾患を説明するものではないが、自閉症スペクトラムにおいて起こり得る複数のシンドロームの生物学的な手がかりになる。「これらの結果から、リスクは遺伝的異常の大きさよりも、それが起こる場所によって決まるものであることが分かります。特に、脳発生や神経結合を含む生化学的経路がそうです。最終的には、このような知識が新しい治療法を生み出すのに役立つのです。」と、NIH国率精神衛生研究所(NIMH)所長、トーマス・R・インセル医学博士は説明する。NIMHは研究の一つに資金を提供し、研究グループの全てがメンバーである自閉症シーケンシングコンソーシアムの開発を促進した。多部位の研究チームを率いたのはハーバード/MITブロード研究所(マサチューセッツ州ケンブリッジ市)のマーク・デイリー博士(Ph.D.)、イェ

マサチューセッツ総合病院(MGH)のハーバード幹細胞研究所が発見したのは、嚢胞性線維症(CF)を治療する医薬品開発の道が、近い将来開けると思われる方法である。嚢胞性線維症は毎年1000人が発症し、500人の尊い生命を奪う疾患である。患者の皮膚の細胞から起こして、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を初めて作成し、これをヒト疾患特異的な機能性肺外皮へと導出する事に成功したのは、ジャヤライ・ラヤゴパル医師とその研究チームである。   この組織は気道を形作るもので、CFの致命的な症状が現れる箇所でもあるが、そこに引き起こされる不可逆的な肺疾患と容赦無い呼吸器不全は、遺伝子の変異が起因となる。その重要な組織サンプル(CF患者全体の70%に発生し、アメリカのCF患者では90%に観察される、デルタ-508遺伝子変異を有する組織サンプル)が、今では研究者が実験室で必要なだけ何度でも作成することが出来るようになったのだ。この組織サンプルはCF患者の2%に観察されるG551D変異も有しているが、この変異に特異的なCFには有効な医薬品が既に販売されている。この研究結果は2012年4月6日付けのCell Stem Cell誌に掲載された。ポスドクのホンメイ・モウ博士が主筆で、ラヤゴパル博士は上席筆者である。モウ博士は、本研究の底流を成すマウスにおける発生生物学を、僅か2年間で修得している。「私はそれをiPS細胞システムに応用しました。研究が思った以上に速く進み、素晴しい結果が目の前に見えているのは、本当に喜ばしいことです。肺疾患を治療する新規的な”低分子医薬品”への道を開くと思います。」と彼女は語る。 ハーバード幹細胞研究所(HSCI)の共同主幹であるドン・メルトン博士は、「この発見によって、何万という細胞を医薬品スクリーニングに掛けられるようになりました。そしてヒト型細胞がスクリーニング標的に

発見困難な染色体異常を検知する新しい方法を用いて、自閉症と関連付けられている33の遺伝子が同定された。内、22は初めて発見されたものである。さらにこれらの遺伝子の内複数は、統合失調症などの精神疾患患者において変化すると見られている。このような疾患の症状は思春期や成人期に出る事が多いのである。本研究は複数の研究チームによって行われ、研究結果は2012年4月19日付けのCell誌にオンライン掲載された。   「自閉症を含む神経発達障害を持つ子供は、染色体異常があると知られています。我々は彼らのゲノムをシーケンシングすることによって、DNA鎖がどのポイントで分裂し、セグメント交換が起こる箇所が、染色体内または染色体間なのかを正確に特定することが出来ました。結果、これらの疾患に対して個々で強力な影響を与える一連の遺伝子を発見することが出来ました。 また、これらの遺伝子は重度知的障害から成人統合失調症まで、多様な臨床症例に関与していることも分かりました。よって、これらの遺伝子は微妙なパータベーションに非常に敏感であると結論付けられます。」と、マサチューセッツ総合病院人類遺伝学研究センター(MGH CHGR)責任者およびCell誌の責任著者、ジェームス・グセラ(Ph.D.)博士は語る。神経発達障害を持つ子供を診る医師は、彼らの染色体を調べるための検査を行うことが多々ある。これらのテストは染色体組織の著しい異常を検出することは出来るが、障害されている特定の遺伝子を同定することはほぼ不可能である。バランス染色体異常(BCAs)と呼ばれる構造的変異では、DNAが同じ染色体上の異なる位置に移動されるが、染色体全体のサイズは変わらない。BCAsは、対照集団よりも自閉症スペクトラム障害を持つ個人において、より一般的であることが知られている。グセラ博士とBrigham and Women's病

泥棒が銀行の金庫に進入すると、センサーが作動してアラームが鳴る。細胞は、侵入者のために独自の早期警戒システムを有している。フランス・グルノーブルのヨーロッパ分子生物学研究室(EMBL)の科学者達は、特定のタンパク質がウィルスの侵入を検出した際にアラームを鳴らす方法を発見した。2011年10月14日付のCell誌に掲載された今回の研究は、自然免疫反応についての理解を深めるのに重要な役割を果たし、インフルエンザや狂犬病、肝炎など多様なウィルスに対する細胞の迅速な対応方法の解明に寄与するであろう。   細胞は浸潤する物質を探知するために、パターン認識受容体と呼ばれるタンパク質を利用する。このタンパク質は、感染菌だけが持つ分子パターンを認識し、結合するのである。この結合によって受容体の形状が変化し連鎖反応を引き起こし、最終的には周囲の細胞に浸潤の警告を行なう。今までは、このセンシングとシグナル伝達の二つのプロセスの結びつきが解明されていなかった。 EMBLの研究者達は、これらの受容体の一つであるRIG-Iが形状の変化をシグナルに変換する正確な構造メカニズムを発見した。「リガンド結合はどのようにしてシグナリングを誘発するのか?これは、構造生物学者にとって古典的な問題です。」と、今回の研究の主導者であるステファン・キューサック博士は語る。「我々は特にRIG-Iについての答えを探すのに興味がありました。なぜなら、RIG-Iはインフルエンザ、麻疹、C型肝炎といったほぼ全てのRNAウィルスをターゲットにするからです。」RIG-Iはウィルス感染への反応として、ウィルス遺伝物質であるウィルスRNAを認識し、抗ウィルス分子インターフェロンを生成するように細胞を刺激する。インターフェロンが分泌され、周囲の細胞に取り込まれ、感染と戦うための数百の遺伝子を活性化する。RIG-Iが細胞自身のRNAで

Virginia Commonwealth University (VCU) Massey Cancer Centerの科学者チームによれば、これまでと違った新しいアプローチの免疫療法が臨床前の研究室段階で、転移性がんワクチンのように作用する見通しがつかめた。最近行われたその研究によると、療法は転移性がんの治療に適していると同時に既存のがん治療と並行して用いることができ、新しく転移した腫瘍の進行を防ぎ、特定の免疫系細胞を「訓練」してがんの再発に備えさせることができる。   論文雑誌「Cancer Research」の2013年1月18日付オンライン版に掲載されたこの研究論文では、筆頭著者のXiang-Yang Wang, Ph.D.が、動物の皮膚がん、前立腺がん、大腸腫瘍の細胞モデルに対する科学的処理を経た分子の影響を詳述している。 この分子はFlagrp-170と呼ばれる物質で、グルコース制御性タンパク質170 (Grp170) 2個で成り立っている。このGrp170は、「分子シャペロン」と呼ばれる「危険信号」の役割を果たす物質で、バクテリアの鞭毛を構成しているフラジェリンというタンパク質から作られる。研究チームは自己複製ができないよう改変されたウイルス、またはアデノウイルスを用い、Flagrp-170を直接腫瘍部位に運ばせ、局部的に免疫反応を生じさせる。この全く新しい治療法では免疫が有効に作用し、動物モデルではかなり生存期間が延びた。Harrison Scholar 研究員、VCU Massey Cancer CenterのCancer Molecular Genetics 研究プログラム・メンバー、VCU School of Medicine のHuman and Molecular Genetics 准教授を務めるDr. Wangは、「抗がん性の免疫を強化する

細胞膜の規則正しい構造がどのようにできるのかということについて、新しい仮説が注目されている。ドイツ連邦ポツダム市にあるMax Planck Institute of Colloids and Interfacesの科学者チームが、糖脂質と呼ばれる糖と脂質の複合体が、細胞膜においてどのようにしてそれ自体でラフト、つまり非常に規則的な微小な領域を持った構造物を形成することができるのかという謎を説明する仮説を提出している。植物や動物の細胞膜表面の糖脂質配列は様々な細胞プロセスを制御しているが、このプロセスにエラーが発生すると、発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) や牛海綿状脳症 (BSE) などの疾患が起きる。   この研究論文は、2012年12月14日付「Angewandte Chemie International Edition」初出掲載。脂質、つまり、脂肪や脂肪に似た物質は、人体のあらゆるところにできる。脂質は身体の中でもっとも重要なエネルギー貯蔵源であると同時に細胞膜の形成に不可欠な構造材料でもある。複合糖質と脂肪から合成される化合物は糖脂質と呼ばれ、人体のすべての細胞膜に含まれる重要な情報伝達物質で、細胞のタイプや状態を常に情報交換している。様々な新陳代謝プロセスは糖脂質とそれの認識に依存している。免疫系も、病原体を判定し、これと戦う際には、病原体細胞表面の特定糖構造を手がかりにしている。 グリコシルフォスファチジルイノシトール (GPIs) は天然糖脂質の一種で、植物や動物の細胞膜の表面にあり、遊離分子として或いはタンパク質のアンカーとして細胞膜表面に存在している。細胞膜中の糖脂質クラスターは、その配列や偏在性、そして、部分的には非常に規則正しい微小な領域を形成しようとする傾向は、細胞が効率的に機能するために重要な特性と考えられている。このような微小なクラス

加齢とともに身体的な影響が顕著になってくる。皮膚にはしわが増え、身体的な力を出すことが難しくなってくる。同時に眼につかない変化も進んでおり、たとえば、脳も加齢するにつれてそれまでとは異なる現象が進行し、それが加齢関連脳障害を引き起こす可能性もある。学術論文誌「Nature Neuroscience」の2013年4月7日付オンライン版に掲載された研究論文で、Cold Spring Harbor Laboratory (CSHL) のJoshua Dubnau 准教授と研究チームは、ショウジョウバエが加齢するにつれて、脳内のトランスポゾン、別名 「ジャンピング遺伝子」 の数が増え、また活動も盛んになることを突き止めた。 トランスポゾンは、1940年代のCSHLで、後にノーベル賞を受賞することになるBarbara McClintock教授がトウモロコシを対象に研究していた時に発見した物質で、トランスポゾンは一般的にはDNA塩基配列の反復であり、動物や植物のDNAの中に自分自身を挿入する能力がある。「ジャンピング遺伝子」という別名は、このトランスポゾンが活性化されると元の位置から離れてゲノムの他の位置に入り込む、つまり移動できるという性質に由来する。また、移動するとそこで異なる遺伝子機能を発揮するか、あるいは生殖細胞系の場合には特にあてはまることだが、致命的な破壊的結果になる可能性もあると推測されている。ショウジョウバエの寿命は日数で数えることになっており、平均寿命は40日から50日程度である。このショウジョウバエを観察すれば、加齢、記憶などの脳機能の遺伝的現象を調べることができる。Dr. Dubnauのチームの研究で、Ago2 (アーゴノート2) と呼ばれるタンパク質の活動を阻害すると長期記憶も阻害されるという現象が観察され、それがDr. Dubnauの興味をひいた。その現象は

ガレクチン-3として知られているタンパク質によって、心不全のリスクが高い人を識別することが可能であることが、国立衛生研究所に所属する国立心肺血液研究所(NHLBI)の研究で判明した。本研究は、1948年に開始し、心臓病の危険因子についての研究で中心的な役割を担うNHLBIのフラミンガム心臓研究基金のグラントによって実施されたものである。本研究は2012年8月29日付けのJournal of the American College of Cardiology誌にオンライン掲載され、さらに2012年10月2日付けの同誌にも出版される。   心不全とは、身体のニーズを満たすために十分な血液で心臓を満たせない、または十分な血液をポンプすることが不可能な状態を言う。最近ではガレクチン-3が心臓線維症(心筋が瘢痕組織に置き換えられてしまう状態)と関連付けられており、心臓線維症は心不全の発症において重要な役割を果たしている。 心不全は死亡または生涯における障害のリスクを伴うが、心不全が起きる前にはいくつかの兆候が見られる。血中のガレクチン-3のレベルを測定することでリスクの高い個人を特定することが可能になり、心不全およびそれに伴う死を防ぐための治療を提供することも出来る。心不全を起こしやすい個人を早期発見し、心不全発症のずっと前に治療を開始可能にすることで、心不全リスクの高い個人でもより長く、よりアクティブな生活を送ることが出来る。1996年から1998年の間に、ルーチン検査の一環として、フラミンガム心臓研究の子コホート3,353人を対象として、ガレクチン-3レベルが測定された。測定時の参加者の平均年齢は59歳であった。平均11年間のフォローアップの間に、166人の参加者(5.1%)に最初の心不全が起こった。最高ガレクチン-3レベル(15.4―52.1ng/mL)を持つ参加者の2

遺伝における分子的基盤となる染色体は、1882年にウォルター・フレミング博士に発見されて以来130年、謎に包まれたものである。今回、キュリー研究所のエジス・ハード博士(Ph.D.)およびマサチューセッツ大学医学学校(UMMS)のジョブ・デッカー博士(Ph.D.)率いる研究チームが行った研究は、染色体における新しい層を発見した。本研究は2012年4月11日付けのNature誌に掲載された。   研究チームは、染色体が幾数もの隣接した糸状にフォールドし、発達中は互いに協調的に働くことを示した。これらの糸は様々な遺伝子や調節エレメントを含む。染色体とは比較的大きな分子であり、広げてみれば人間の腕ほどの長さにもなる。しかし染色体はこのような大きさにも関わらず、数マイクロメートルでしかない細胞核に問題なく仕舞われているのである。さらに、各細胞核内には複数の染色体が存在する。例えばヒトでは23対の染色体が存在するのである。これら全てを小さな空間に仕舞い込むため、染色体はコンパクトにフォールドされ、核の3次元空間に混ぜ込まれている。それならば、染色体が核を埋める様はスパゲッティが皿を埋める様と同じなのだろうか?「そういうことでは無いのです。」と、ハード博士(キュリー研究所遺伝発達生物学研究室室長)の研究チームのエルフェージ・ノーラ氏(Ph.D.)は述べる。「染色体のフォールディングはあるパターンに基づいていて、このパターンこそが染色体の機能を保持するために重要なのです。」と、ノーラ氏は説明する。 「各遺伝子のDNAがヌクレオソームに巻かれて、糸上に連なったビーズのような仕組みを形成していることは、何10年も前から知っていました。我々の研究は、この“糸上に連なったビーズ”がその後“紐上の綯”のようにフォールドし、各綯が遺伝子グループであることを示したのです。染色体におけるこのようなド

英国がん研究所と世界の共同研究機関の発表によれば、がんの遺伝子的特徴を基にして、乳がんの種類を10通りに再分類し、画期的な乳がんの診断と治療につながる可能性が明らかになった。医師が乳がん患者の遺伝子サブタイプに拠って、その余命をより正確に予測し、個々の患者に応じたテーラーメイド治療を行なう事が、出来るようになる日も近い。この研究成果は2012年4月18日付けのネイチャー誌オンライン版に掲載されたが、乳がん研究では世界最大規模の遺伝子研究が成され、何十年にも及ぶ研究が実を結んだものである。   ケンブリッジ研究所の英国がん研究所のチームは、カナダ・バンクーバーのブリティッシュ・コロンビアがん研究機構(BC)及び、世界の複数の機関と共同研究を組み、5年から10年前に乳がんであると確定診断を受けた患者から採取した、2,000検体の腫瘍サンプルのDNAとRNAを解析した。研究チームは余命の長さに応じて、乳がんを少なくとも10種のサブタイプに分類した。この新たな分類によって、乳がん患者は分類に応じた治療を受けることになる。研究チームは、疾患の進展に関与する新たな乳がん遺伝子も幾つか発見している。これらの遺伝子はいずれも、乳がんの新しい治療薬の標的と成り得るのだ。この情報は世界の研究者に、新たな医薬品の探索と開発を後押しするものだ。 この研究によって明らかになった事は、これらの遺伝子と既知の細胞シグナル・パスウエイとの関連で、細胞の成育と分化に関与する。遺伝子の誤動作を起因とし、細胞分化プロセスの重要な過程が傷害されることによって、ガンが発症するメカニズムが特定されるのである。共同著者で、ケンブリッジ研究所英国がん研究所とケンブリッジ大学腫瘍学部の上級研究主幹である、キャロル・カルダス教授は、「この研究によって、臨床医は将来、乳がんのタイプを診断し、適切な医薬品を処方し、現在より

ヒトゲノムプロジェクトによって、DNAに含まれる30億対にも上る、ヒトの遺伝子をコードする塩基対のシーケンスがほぼ完了したが、それらがどのように働くのかは未だ謎が多い。ようやく現在、世界32ラボ440人の研究者による弛まぬ努力の結果、より詳しい動力学的な様相が判明してきた事により、ヒトゲノムが実際にどのように働いているのかの全体像が見えてきたのだ。   この新規的研究において、ヒトゲノム配列の80%以上が、特定の生物学的な機能と関連付けられ、タンパクがDNAと相互作用を持つ制御領域の400万か所以上のマッピングが完成した。これらの発見によって、細胞内の遺伝子情報の発現を、正確に木目細かく制御するシステムを理解することに、著しい進展が成されたと言える。この発見は、継続的に活性を呈する遺伝子に焦点を当てる事になったが、その活性は通常はタンパクが制御領域にアクセスして遺伝子をオン・オフしているのだが、時にはそのタンパクはその遺伝子領域から随分離れた個所に位置することもある。更に研究チームは、DNAの化学修飾の箇所を同定したが、その修飾によって遺伝子の発現は影響を受け、DNAの状態に関連してRNAの形態が様々に変化することによって、全体のシステムが制御されているのだ。 「ヒトゲノムプロジェクト初期の議論では、ゲノムの内ほんの数パーセントだけが細胞の働きを司るタンパクをコードし、それ以外はジャンクであると予測していました。現在では、その予測は間違いであったことが判っています。ENCODEのおかげで、遺伝情報を生細胞や生命体に転換させるのに必要な生体分子の振る舞いに、ほとんどのヒトゲノムが関与している事が判ったのです。」とNIHに所属する国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の所長を務めるエリック・D・グリーン博士(M.D.)は語る。NHGRIは「Encyclopedia of DN

バルセロナ自治大学(UAB; Universitat Autònoma de Barcelona)の研究者が、多発性硬化症のモデル動物ではバイアグラ®で症状が劇的に軽減することを発見した。Acta Neuropathologicaに発表されたこの研究成果には、処置8日後に実験に供したモデル動物の50%でほとんど完全に回復したことを示した。研究者達いわく、本医薬品に対して十分な耐性があり、しかも一部の多発性硬化症患者において性的機能不全症の治療に使用した経験があれば、すぐに患者に臨床試験を行えるであろうと考えている。   多発性硬化症は、(欧米の場合)中枢神経系疾患のなかで最も多い慢性炎症性疾患であり、ヤングアダルト(若年成人)の障害の主要原因の1つに挙げられる。これは、中枢神経系の様々な部位でおきる脱髄(軸索周囲のミエリン鞘が喪失し、ニューロンのコミュニケーション能力に影響を及ぼす)による硬化と神経変性が原因である。今のところ、この病気に対する有効な治療法はない。ただし一部の医薬品は症状と戦い、進行予防に有効であることが証明されている。 Dr. Agustina García氏が率いるUABのバイオテクノロジー・バイオ医療研究所(UAB Institute of Biotechnology and Biomedicine)の研究チームは、Dr. Juan Hidalgo氏が率いるUAB神経科学研究所(UAB Institute of Neurosciences)と共同で研究を行った。そこで実験性自己免疫性脳脊髄炎(EAE)として知られている発性硬化症の実験動物に対して、バイアグラ®として販売されているシルデナフィルを(sildenafil)使用し、その治療効果を調べた。研究者達によると、発症後シルデナフィルで処置したところ、臨床的症状が急激に改善され、8日後には50%

膵臓がんの原因となる複雑な潜在的突然変異の過程を突き止める大規模な研究が、100人を超える膵臓がん患者を対象にして実施され、2012年10月24日付Nature誌に発表された。この研究は、国際がんゲノムコンソーシアム (ICGC) に参加しているオーストラリアの研究者の初論文であり、ICGCは、がんタイプ50種のそれぞれの遺伝的要因を突き止めるために、世界のトップクラスの科学者が協力して研究することを目的としている。膵臓がんは主要がんタイプの中でももっとも死亡率が高く、しかも、過去40年間に生存率がほとんど向上していないがんはこの膵臓がんを含めてごくわずかしかない。   また、がん死の原因としても4番目に多い病気である。 クイーンズランド大学分子生物科学研究所 (IMB) のショーン・グリモンド教授と、ニューサウスウェールズ州シドニーのガーバン医学研究所/セント・ビンセント病院キングホーンがんセンターのアンドリュー・ビアンキン教授が100人を超える研究者の国際チームを率い、100人を超える膵臓腫瘍患者のゲノム配列の解析を行い、それを正常な組織と比較することで、がんを引き起こす遺伝子の変化を突き止める研究を進めてきた。グリモンド教授は、「これまでに2,000を超える遺伝子の突然変異を発見した。KRAS遺伝子では検体の90%にこの遺伝子の変異があったし、腫瘍の1%から2%程度でしか見つからない遺伝子変異は何百種類もあった」と述べている。さらに、「従って、腫瘍はいずれも顕微鏡で見れば同じように見えるが、遺伝子解析すれば、腫瘍も患者の数と同じくらいの違いがあることが明らかになる。つまり、いわゆる『膵臓がん』も単一の病気ではなく、数多くの病気の総称であり、同じがんにかかっているように見える患者もそれぞれ違った治療法が必要なのではないかと考えられる」と述べている。ビアンキン教授は

新しい研究で、肺組織の分節化が正しく行われるために1個の小さなRNAが重要な役割を担っていることが突き止められた。この研究はニワトリの胚で行われ、この小さなRNAが、筋肉や脊椎になる組織分節形成のタイミングを決める周期的遺伝子活動を規則正しく調節していると判定された。つまり、この活動に加わっている遺伝子は各組織分節形成の動きに対応する拍動的パターンでオン・オフされていたのだ。   もし遺伝子の活動が厳密に規則正しく調節されなければ、まったく組織が形成されないか、形成されても欠陥があるということになる。この分節「時計」にはLfngと呼ばれる遺伝子一個が関わっていると考えられているが、この研究で、タンパク質生成に何の役割も果たしていない小さなRNAのかけらであるmicroRNAが、拍動的パターンの正確なタイミングでLfngをオン・オフすることが実証された。このmicroRNAを削除するか、手を加えて正常に機能しないようにすると遺伝子時計の拍動的パターンが狂い組織発達が異常になった。 The Ohio State University の分子遺伝子学准教授で、この研究報告の著者、Susan Cole博士は、「1個のmicroRNAとその対象の間でたった一つの相互作用しかみられないのに、それがこれほど重要な働きをしていることが、microRNAの機能を阻害してみて初めて明らかになった。胚成長段階でたった1個のmicroRNASの動きを阻害するだけでこれほど大きな影響が現れるという例は他にはほとんど見られない。このmicroRNAの場合には、タイミング調節がかなり厳密であり、非常に重要であることが明らかになったが、これはニワトリの胚に限ったことではないと考えられる。なぜなら、Lfngが生成するRNAセグメントのmicroRNAが接着する位置は、ニワトリに限らず、ヒト、マウス、ゼ

JDRFからグラントを受けたオレゴン保健科学大学(OHSU)とレガシー・ヘルス(オレゴン州の病院連合)の研究チームが、液状グルカゴン製剤が標準的な糖尿病ポンプで使用できる事を明らかにした。インシュリン治療を受けている1型糖尿病(T1D)患者の低血糖症を予防するために、この製剤はグルカゴンの幅広い利用の道を広げるものだ。   これは次世代の人工膵臓機能への道をも開く成果であり、インシュリンによってのみ血糖値の最適化を行なう方法を凌駕するものである。「私達は前回の研究において、少量のグルカゴンの注射によって、低血糖症が予防できる事を実証しました。この低血糖症は1型糖尿病では頻繁に起こる重篤な合併症で、発作を起こしたり意識不明に陥ったり、死亡する事もあるのです。」とOHSU医学部の内分泌学、糖尿病、臨床栄養学の准教で、レガシー・ヘルスの上級研究員であるW・ケネス・ワード,M.D.,は説明する。オレゴン州ポートランドにある、この2つの組織が本研究を共同で執り行っている。 研究成果は米国糖尿病協会(ADA)第72回大会(2012年6月)6月8日(金)と6月10日(日)の科学研究セッションにて発表された。ワード博士は、「現行のグルカゴン製剤では、携帯用ポンプで長期間使用できません。ですから、人工膵臓機能の一部として利用することは出来ませんでした。FDAの認可を得るには多くの動物実験や臨床試験が必要ではありますが、私達は、塩基性グルカゴンは長期間に渡って液状の性状を維持する事を発見しました。これは、2ホルモン依存型糖尿病ポンプとして、より進んだ治療法を確立できるものなのです。」と語る。この研究は、T1D患者に毎日グルカゴンを投与する方法の確立と、それに次いで、”マルチホルモン対応+完全自動”の閉ループ型人工膵臓システムの開発のキーとなるのだ。この次世代型人工膵臓システムでは、インシ

ニューヨーク・ワイルコーネル医科大学の研究員二人がマウスの網膜の神経コードを解読し、その情報を元に盲目のマウスの視力を回復する新たな人工器具を開発した。研究者達はまた、サルの網膜――ヒトの網膜と基本的に同一である――のコードも解読し事を明らかにし、それにより盲目者用の器具も開発し、テストする予定である。   2012年8月13日付けのPNAS誌に掲載された本研究は、視力回復において著しい進歩である。現在の補助器は盲目のユーザーをナビゲートするために、光のスポットとエッジを提供するのに対し、この新しい補助器は通常の視力を回復するためのコードを提供するのである。このコードは非常に正確で、顔の特徴を識別し、動物が動画像を追跡することが可能になる。主任研究員のシェイラ・ニーレンバーグ博士(計算神経科学者)は、盲目者がスタートレックに出てくる様なバイザーを装着することが可能になる日を目指している。バイザーのカメラが光をキャッチし、これを内蔵されているコンピューターチップがコードに書き換え、脳がそれを画像に変えるのである。 「我々は盲目のマウス網膜の視力を回復することに成功し、ヒトでもこれが可能になるよう最大限の努力をしています。これはとてもエキサイティングな事ではないですか。」と、ワイルコーネル大学生理学・生物物理学科および計算生医学研究所の教授を努めるニーレンバーグ博士は語る。本研究の共同著者であるチェタン・パンダリナス博士はニーレンバーグ博士の同期で、現在はスタンフォード大学のポスドク研究員として研究を続けている。今回の新たなアプローチは、世界中の網膜疾患による失明で苦しんでいる25万人に新たな希望を提供するものである。薬物療法はこれらの人々のごく一部しか助けられないため、将来の視覚のためには補助器が最良の選択肢である。「これはコードが組み込まれているため、通常または通常に

1998年に東南アジアの豚や養豚農家の間で感染し大流行したニパウィルスに対するワクチンが、サルによる前臨床テストまで開発が進んでいる。この開発は、同じワクチンで猫をニパウィルスから、そして馬やフェレットを近種のヘンドラウィルスから守る事が出来る事を発見した研究チームによって進められている。   本研究は2012年8月8日付けのScience Translational Medicine誌に掲載された。ニパウィルスは75%、そしてヘンドラウィルスは60%と、両ウィルスとも高い死亡率を持っている。これらのウィルスによる感染は、肺と脳をターゲットにし、過去10年間で定期的に大流行している。ニパウィルスの流行はマレーシア、シンガポール、バングラデシュ、そしてインドで発生している。ヘンドラ感染は1994年、オーストラリアにおいて馬やヒトに流行した限りで、他では見られていない。 オオコウモリと呼ばれる特定のフルーツコウモリがウィルスを広める。これまでの所、唯一人から人へと感染することが判明しているのはニパウィルスだけである。研究チームは、ヘンドラウィルスの表面タンパク質であるG糖タンパクに着目して今回のワクチンを開発した。このG糖タンパクは、保護宿主免疫応答を誘発する既知のタンパク質である。本研究では、ニパウィルス病のアフリカミドリザルモデルを使用し、3つの異なる投与量をアジュバントと組み合わせたテストが行なわれた。ワクチン接種した9体の動物は全て、最初のワクチン接種から42日後に与えられた致死量のニパウィルスチャレンジテストから生還した。本ワクチンは、軍人保健科学大学(USU)のクリストファー・ブローダー(Ph.D.)と同大学卒業生で現在はポストン大学院生のキャサリン・ポッサート(Ph.D.)によって開発された。アフリカミドリザルにおける研究は、ロッキーマウンテン研究所および国

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