イギリスのオックスフォードにあるルートヴィヒ癌研究所の科学者らは、2019年2月25日にNature Biotechnologyにオンラインで報告した研究で、DNAの化学修飾を検出するための新しく改良された方法を記載している。これらの修飾、または「エピジェネティック」マークは、遺伝子発現の制御を助け、それらのゲノム全体での異常な分布は癌の進行および治療抵抗性に関与している。   ルートヴィヒ癌研究所のアシスタントメンバーであるChunxiao Song博士とBenjamin Schuster-Boeckler博士が発表したこの論文は、「塩基分解での5-メチルシトシンおよび5-ヒドロキシメチルシトシンのバイサルファイトフリー直接検出(Bisulfite-Free Direct Detection of 5-methylcytosine and 5-hydroxymethylcytosine at Base Resolution.)」と題されている。この研究は、TET-assisted pyridine borane sequencing (TAPS)と呼ばれる彼らの方法が、DNAへのエピジェネティックな修飾をマッピングするための現在のゴールドスタンダードであるバイサルファイトシーケンシングと比べ、害が少なくより効率的な代替法であることを示している。「我々はTAPSがDNAエピジェネティックシークエンシングにおける新しい標準としてバイサルファイトシーケンシングを直接置き換えることができると思う。それはDNAエピジェネティックシークエンシングをより手頃な価格にし、より幅広い学術研究および臨床応用に利用できる。」とSong博士は述べた。エピジェネティック修飾の1つのクラスは、DNAの4つの塩基のうち1つへの化学基の結合を含む。 これらのマークはDNA配列自体を変えるのではなく、

ホオジロザメは地球上で最も有名な海洋生物の1つであり、広く人々の注目を集め、ハリウッドの歴史の中で最も成功した映画の1つ「ジョーズ」を生み出した。このサメは、その巨大なサイズ(最大6メートルと3トン)、そしておよそ1200メートルの深さまで潜ることを含む顕著な特徴を有する。 ホオジロザメはまた、世界の海洋において比較的少数であることを考えると、重要な保全対象でもある。 この象徴的な頂点捕食者と一般的なサメの生物学を理解するために、ホオジロザメの全ゲノムが詳細に解読された。 (NSU)ノバサウスイースタン大学のSave Our Seas Foundationサメ研究センター(フロリダ州マイアミ)とガイハーヴェイ研究所(フロリダ州マイアミ)、コーネル大学獣医学部(ニューヨーク州イサカ)の科学者が率いるチーム そして、モントレーベイ水族館(カリフォルニア州モントレー)は、ホオジロザメのゲノムを完成させ、そしてそれを巨大なジンベイザメおよびヒトを含む他の様々な脊椎動物由来のゲノムと比較した。この研究論文はPNASで2019年2月19日にオンラインで報告され、「White Shark Genomeは創傷治癒とゲノム安定性の維持に関連する古代の軟骨魚類の適応を明らかにする(White Shark Genome Reveals Ancient Elasmobranch Adaptations Associated with Wound Healing and the Maintenance of Genome Stability.)」と題されている。ホオジロザメのゲノムを解読すると、その巨大なサイズ(ヒトゲノムの1.5倍のサイズ)だけでなく、大型で長寿命のサメの進化的な成功の背後にある豊富な遺伝的変化も明らかになった。研究者らは、ゲノム安定性の維持に重要な役割を果たす多数の遺伝子におけ

身体の免疫系による関節、皮膚、および腎臓への攻撃が特徴の病気である全身性エリテマトーデス(SLE:systemic lupus erythematosus)は、腸内のバクテリアの異常な混合と関連していることが新研究で判明した。これは、ニューヨーク大学Langone Health / ニューヨーク大学医学部の科学者らによる新研究によるものだ。 細菌性不均衡は炎症性腸疾患、関節炎、そしていくつかの癌を含む多くの免疫関連疾患と結びついているが、この研究は腸内の細菌性不均衡とSLEの潜在的な生命への脅威の関連についての初めての詳細な証拠である。 2019年2月19日にリウマチ性疾患学会誌にオンラインで発表されたこの新研究は、SLEと診断された61人の女性が、同じ年齢および人種的背景を持たない17人の健常な女性の約5倍以上の腸内細菌を持っていたことを示した。狼瘡(Lupus)は男性より女性の方が多い。研究結果によると、皮膚の発疹や関節の痛みから透析を必要とする重度の腎臓機能障害に至るまでの疾患「フレア(flares)」において、腸内で増殖するR.gnavus菌を示す抗体が血液サンプルに大幅に増加するという。腎臓フレアを有する試験参加者は、R. gnavusに対する抗体が特に高レベルであった。このオープンアクセスの論文は、「狼瘡腎炎は疾患活動の拡大と腸の常在菌に対する免疫に関連している(Lupus Nephritis Is Linked to Disease-Activity Associated Expansions and Immunity to a Gut Commensal.)」と題されている。著者らは、遺伝的要因もあり、150万人ものアメリカ人に影響を与える狼瘡の具体的な原因は不明であると述べている。 「一部の患者では、細菌性の不均衡が狼瘡とその関連疾患の再発を引き起こし

カメラの進歩と同様、一般的なバイオインフォマティクスデータの可視化手法の重要な数学的更新により、単一細胞遺伝子発現のスナップショットが数倍の速さ且つ遥かに高い解像度で作成できるようになった。2019年2月11日にNature Methodsに掲載されたこのエール大学の数学者による革新は、100万点のシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)データセットのレンダリング時間を3時間以上からわずか15分に短縮するものだ。   この論文は「単細胞RNA配列データの可視化を改善するための高速補間ベースのt-SNE(Fast Interpolation-Based t-SNE for Improved Visualization of Single-Cell RNA-seq Data.)」と題されている。科学者たちは、既存の10年前の方法であるt 分布型確率的近傍埋め込み(t-SNE:t-distributed Stochastic Neighborhood Embedding)は、単一細胞レベルで集められたRNA配列決定データ(scRNA-seqデータ)のパターンを二次元で表現するのに最適だと言う。 「t-SNEは発現する遺伝子によって細胞を纏め、新しい細胞型と細胞状態を発見するために使用されてきた。」と論文の筆頭著者であるエール大学の応用数学を専門とするGeorge Linderman博士は語った。しかし、計算標準では、t-SNEは非常に遅い。 したがって、研究者はしばしばt-SNEを適用する前に、scRNA-seqデータセットを「ダウンサンプリング」する。 しかし、ダウンサンプリングはt-SNEが希少細胞集団を捕獲することを出来なくするので、妥協案としては不十分だ。30年以上前に、エール大学の別の数学者チームが高速多極子法(FMM:fast multipole me

何十年もの間、科学者や医者は土壌中のバクテリアがある種の膵臓癌のための重要な治療薬である抗生物質化合物のストレプトゾトシンを製造することを知っていたが、バクテリアがどうやってそれを合成するのか不明だった。ハーバード大学の化学・化学生物学教授のEmily Balskus博士が率いる研究者チームはそのプロセスを解明し、この化合物が酵素経路を介して生産されることを初めて示し、そのプロセスを推進する新たな化学を明らかにした。   この研究は、2019年2月6日にNatureのオンラインに掲載された。 この論文は、「ストレプトゾトシンのファルマコフォアを構成するN-ニトロソ化金属酵素(An N-Nitrosating Metalloenzyme Constructs the Pharmacophore of Streptozotocin.)」と題されている。この分子を効果的な抗癌剤にするものは、ニトロソアミンとして知られている化学構造だ - これをBalskus博士は分子の反応性の「弾頭」と呼ぶ。 反応性が高いことが知られているニトロソアミンは、他の多くの化合物に対して有毒であることが示されており、たばこから塩漬け肉まであらゆるものに見られる発癌物質として癌治療以外で最も一般的に知られている。「この化学的モチーフは生物学的関連性が非常に高く、徹底的に調査されてきた。我々が研究するまで、この化学的モチーフが生物学的システムにおいてどのように生成されたのかという見解に非酵素化学が含まれていた - それは単に適切な条件下で起こったことにすぎない。」とBalskus博士は述べた。しかし、Balskus博士とその同僚は、この経緯はもっと複雑かもしれないと疑い、細菌がニトロソアミン化合物を生産するための自然な経路を進化させたかどうか探求に着手した。 「それがこの論文で我々が見つけたものだ。我

ウィスコンシン大学マディソン校の生化学および細菌学教授のRobert Landick博士と彼のチームが率いた研究は、すべての生物における遺伝子発現制御の根底にある現象、転写の一時停止の要素メカニズムを初めて明らかにした。この研究はまた、ディフィシル菌感染症や結核などの治療の重要な薬物標的である酵素RNAポリメラーゼについての新しい理解を提供している。   この発見は最終的に特定の薬がどのように酵素に対して作用し、積極的にそれを標的にするのを助けるかについての我々の理解を向上させることができる。遺伝子発現は、生物が必要とするすべてのタンパク質や他の分子にDNAが翻訳されるプロセスだ。 それはすべての生物学の学生が早い段階で学ぶプロセスだが、それは未だ完全には理解されていない。このプロセスは2段階で行われる。 転写は、RNAポリメラーゼがDNA鎖に関する情報を読む最初のもので、それからメッセンジャーRNA(mRNA)の新しい分子にコピーされる。 第二段階では、mRNAが移動してリボソームによってタンパク質にプロセシング(「翻訳」)される。遺伝子発現レベルを制御するのを助けるために、RNAポリメラーゼによる「転写休止」は2つの段階の間で起こり得、必要ならば転写が細胞によって終結または調節され得る一種の「障害」を提供する。「バクテリアから哺乳類まで、あらゆる生物においてRNAポリメラーゼの一時停止を引き起こすシーケンスは、より永続した一時停止が起こり得る一時停止状態で酵素を停止させる。この要素的な一時停止の基本的なメカニズムは明確に定義されていないので、我々はさまざまな生化学的および生物物理学的アプローチを使用してこれを調査することにした。」とLandick博士は説明した。 研究チームの分析によると、最初に、基本的な一時停止プロセスには、一時停止状態からの脱出を防ぐための障壁

アラバマ大学バーミンガム校(University of Alabama at Birmingham :UAB)の研究者らは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の肺における慢性炎症と組織破壊との間の根本的なつながりである、これまで報告されていない新しい病原体を発見した。 COPDは世界における死因の第4位だ。精製された活性化多形核白血球(PMN: polymorphonuclear leukocytes)から収集された小さな細胞内粒子が健康なマウスの肺に点滴注入されたとき、この病原体 - PMN由来 エクソソーム - はCOPD損傷を引き起こした。 注目すべき点は、UABの研究者らはCOPDのヒト患者の肺液および肺疾患の気管支肺異形成症のICU乳児の肺液からエクソソームも収集した。 そのヒト由来のエクソソームを健康なマウスの肺に点滴注入すると、それらはまたCOPD肺損傷を引き起こした。損傷は主にヒトの肺由来のPMN由来のエクソソームからのものであった。 「この報告は、非感染性subcellular entityがヒトからマウスに移されたときに疾患表現型を再現する能力の最初のエビデンスのように思われる。これは非常に意味深い発見になると思われる。ここで発見したことの多くは、病気によっては他の組織にも当てはまるだろう。」とUAB医学部 肺・アレルギーおよび救急医療教授のJ. Edwin Blalock博士は述べた。免疫細胞炎症および組織破壊によって特徴付けられる他の疾患には、心臓発作、転移性癌および慢性腎臓病が含まれる。 活性化されたPMNエクソソームはまた、嚢胞性線維症などの過剰なPMN駆動炎症を有する他の疾患における肺損傷にも寄与し得る。この研究はCell誌で報告された。 この論文は2018年1月10日にオンラインで公開され、「活性化PMNエクソソーム:肺の中でマトリックスの破

その小さな体、頑固な顔つき、そして離れ目。ブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアは様々な犬種の中で最も人気が高い。カリフォルニア大学(UC)デイビス校 獣医学部の研究者らは、これらの犬の外観の遺伝的根拠を見出し、それをヒトにおける希少遺伝性疾患と結びつけた。   「ブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアは、短くて頭が広いというだけでなく、他の犬種には見られない別の特徴:短くてよじれた尾(スクリューテール)を共有している。これら3つの犬種はすべて尾骨を構成する椎骨を欠いている。」とカリフォルニア大学デービス校獣医学部のDanika Bannasch教授は述べている。研究者らは、100匹のイヌの全ゲノム - 全DNA配列 - のうち、10匹のスクリューテール犬種をシーケンスした。 参加している犬はすべて、カリフォルニア大学デービス校の獣医学教育病院で同意を得た個人所有のペットだった。大学院生のTamer MansourとKatherine Lucotは、獣医学部ゲノムセンターの准教授であるC. Titus Brown博士と一緒に、DNA配列を検索して、スクリューテール犬種に関連する変化を見つけた。この研究は、2018年12月のPLOS遺伝学のカバー記事として発表された。 この論文のタイトルは「100頭の犬における全ゲノム変異型関連がブルドッグ等スクリューテール犬種のルビノー様症候群に関与するDISHEVELED 2フレームシフト変異を識別(Whole Genome Variant Association Across 100 Dogs Identifies a Frame Shift Mutation in DISHEVELLED 2 Which Contributes to Robinow-Like Syndrome in Bulldogs and Rel

前臨床モデルにおいても癌患者においても、免疫チェックポイント阻害療法について多くの成功例がある。 しかし、そのような免疫療法がどのようにしてその反応を引き出すのか、そしてチェックポイント阻害療法が癌を根絶するための免疫システムの再活性化に成功(または失敗)する要因については、多くの疑問が残っている。ボストンのBrigham and Women's Hospitalの研究者らが同じくボストンにあるBroad研究所の同僚と共同で行った新しい研究で、腫瘍の免疫細胞の重要なクラスであるT細胞の異なる集団に対する免疫チェックポイント阻害療法の効果を調べた。このチームの驚くべき成果は、過去に見過ごされてきたT細胞の集団を示しており、治療に対する反応を予測する分子因子の同定につながっている。この論文は2019年1月8日のImmunityにオンラインで発表され、「チェックポイント阻害免疫療法は、PD-1-CD8 +腫瘍浸潤T細胞の動的変化を誘導する(Checkpoint Blockade Immunotherapy Induces Dynamic Changes in PD-1−CD8+ Tumor-Infiltrating T Cells.)」と題されている。「我々の研究は、腫瘍内のT細胞には非常に多様性があるという観察を利用している。異なる細胞集団に対する治療の効果を見て、我々は驚いて困惑した。 エクスプレスチェックポイント阻害剤は、遺伝レベルで有意な変化を示した」と、共著者であるBrighamの准科学者およびハーバード大学医学大学院の神経科学准教授のAna Anderson博士(写真)は述べた。 「以前はほとんど無視されてきた細胞だ。我々の研究ではチェックポイント阻害療法が何をしているのか、そしてそれがどのようにその効果を媒介するのかという焦点を広げている。」Anderson博士らは

研究者らは、線虫のオスとメスの発育中の脳の違いを誘導し、思春期の開始、ヒトの性的成熟のタイミングを制御するのと同じ機能を持つであろう遺伝経路の引き金となる一群の遺伝子を同定した。コロンビア大学の科学者が率いるこの研究は、神経発達の性差における直接的な遺伝的影響についての新しい証拠を提供し、男性と女性の脳がどのように結びついているか、そしてそれらがどのように機能するかを理解しようとする試みである。 この研究は、2019年1月1日にハワード・ヒューズ医学研究所、マックス・プランク研究所、およびウェルカム・トラストによって設立されたオープンアクセスジャーナルeLifeに掲載された。 この論文のタイトルは「性的二型神経系分化のタイミングメカニズム(Timing Mechanism of Sexually Dimorphic Nervous System Differentiation.)」と題されている。思春期はホルモンシグナルの生成でニューロンが活性化することにより特徴付けられる脳の実質的な変化であることを科学者たちは長い間知っていた。しかし、思春期になるホルモンを脳が放出し始める原因は捉えどころのないままであった。コロンビア生物学科の教授でハワード・ヒューズ医学研究所の研究者であるOliver Hobert博士は、次のように述べている。「驚くべきことに、この経路の各メンバーはワームとヒトの間で受け継がれていることが分かった。これは、脳における性的な脳の違いが遺伝的にどのようにコードされるかについての一般原則を明らかにしたことを示している。」この研究のために、研究者らはゲノム配列を決定した最初の多細胞生物である透明線虫C. elegansを利用した。 このワームの遺伝子構成はヒトのものと非常によく似ており、分子遺伝学および発生生物学における最も強力な研究モデルの1つである。

成人の一定割合は白色脂肪組織だけでなく褐色脂肪組織も有している。この褐色脂肪組織は糖と脂肪を熱に変えるのを助ける。 褐色脂肪組織を持つ人は、冬に体温を調整するのが得意で、体重超過や糖尿病に苦しむ可能性が低いとされている。 ETHチューリッヒのトランスレーショナル栄養生物学教授であるChristian Wolfrum博士が率いる国際的な研究チームは、スタチンクラスの医薬品が褐色脂肪組織の形成を減少させることを発見した。この論文は、2018年12月20日にCell Metabolismにオンライン掲載され、「タンパク質のプレニル化に影響を与えることによって、マウスおよび男性において脂肪細胞の褐変を防ぐメバロン酸経路の阻害(Inhibition of Mevalonate Pathway Prevents Adipocyte Browning in Mice and Men by Affecting Protein Prenylation.)」と題されている。スタチンは血液中のコレステロール値を下げ心臓発作の危険性を減らす目的で処方されている世界で最も一般的に処方されている薬の一つである。Wolfrum博士と彼の同僚は長年にわたり褐色脂肪組織を研究してきた。 彼らは、私たちの肌下脂肪層を形成する「悪い」白い脂肪細胞が、どのように「良い」褐色の脂肪細胞になるかという課題を調べた。 細胞培養実験を行った結果、彼らはコレステロールの生産に関与する生化学的経路がこの形質転換において中心的な役割を果たすことを発見した。 彼らはまた、変換を制御する重要な分子が代謝産物のゲラニルゲラニルピロリン酸であることを発見した。以前の研究は、コレステロールの生化学的経路もスタチンの機能の中心であることを示した。 それらの効果の1つは、ゲラニルゲラニルピロリン酸の産生を減少させることである。 スタチンが

今年で10周年となるPrecision Medicine World Conference(PMWC)が、2019年1月20日から23日まで、約2,500人が参加してサンタクララコンベンションセンター(カリフォルニア州シリコンバレー)で開催される。この興味深い複数の関連分野の著名な専門家との集まりは、UCSF、スタンフォードヘルスケア/スタンフォード大学医学部、デューク大学、デュークヘルスとジョンズホプキンス大学によって共催される。   このプログラムは革新的な技術、活発なイニシアチブ、そして医療の直接的な改善についての臨床ケーススタディーをカバーする。会議出席者は、精密医療の最新の進歩と進捗、および患者の在り方を変える最先端の新しい戦略と解決策について直接学ぶ機会を得るだろう。(https://www.pmwcintl.com/about/#audience)5つのトラックに分かれたプログラムには、以下の主要トピックに関するセッションが含まれている:AI&データサイエンス、臨床&研究ツール、臨床診断、リキッドバイオプシー・ctDNAなどによる臨床価値の創出、デジタルヘルス/健康とウェルネス、薬理ゲノム学、精密医療における新技術、免疫療法、大規模バイオデータリソース 医薬品開発、希少疾患の診断、健康と老化。 会議の主催者は、450人以上のヘルスケアおよびバイオテクノロジー分野の先駆的な研究者および第一人者をスピーカーに集めた。(https://www.pmwcintl.com/2019sv/speakers/) 会議はPMWCのルミナリー賞とパイオニア賞(https://www.pmwcintl.com/2019sv/awards/)の発表から始まる。PMWC ルミナリー賞は、個別化医療を臨床市場に普及させた著名人の最近の貢献を表彰するものだ。 PMWCパイオニア賞は

学際的なアプローチにより、テキサス州のベイラー医科大学を含むいくつかの機関から成る国際研究チームは、人乳中のオリゴ糖とマイクロバイオームとの間の複雑な相互作用が新生児ロタウイルス感染に影響を及ぼすことを明らかにした。Nature Communications誌にオンラインで報告されたこの研究は、新生児におけるロタウイルス感染症についての新しい理解を提供し、生弱毒化ロタウイルスワクチンの性能を改善することができる母性成分の同定に役立つ。 2018年11月27日に掲載されたこのオープンアクセスの論文は、「ヒト乳オリゴ糖、乳マイクロバイオームおよび乳児腸マイクロバイオームは新生児ロタウイルス感染を調節する(Human Milk Oligosaccharides, Milk Microbiome and Infant Gut Microbiome Modulate Neonatal Rotavirus Infection.)」と題されている。「ロタウイルス感染症は生後28日未満の子供を除き、主に5歳未満の子供に下痢と嘔吐を引き起こすが、通常は症状はない。しかし、新生児の感染症は深刻な胃腸障害に関連することがある。症状の有無にかかわらず、どの要因が新生児の違いを示すかははっきりと分かっていない。」とベイラー医科大学分子ウイルス学・微生物学の助教授で筆頭著者であるSasirekha Ramani博士(写真)は語った。「我々は何年も前にこの調査をロタウイルスの特定の株が新生児の無症候性感染症と臨床症状の両方に関連していることを決定するために開始した。」Ramani博士とその同僚は、ウイルスの観点から最初の答えを探し始めた。彼女らは、新生児のウイルス量やウイルスのゲノムなどの因子が新生児の症状の存在と関連しているかどうかを調査したが、それらの因子間に関連性は見いだされなかった。その後、新

なぜ私たちは年を取るのか? 何世紀にも渡り研究されているが(そしてアンチエイジングは巨大な産業でもあるが)、年齢とともに細胞や臓器が劣化する要因はまだほとんど解っていない。一つ知られているファクターは温度である。多くの動物種は、より高い温度よりも低い温度でより長く生きる。   シカゴ大学の関連組織であるマサチューセッツ州ウッズホールの海洋生物学研究所(MBL)の助教授であるKristin Gribble博士(写真)は、「毎日冷たいシャワーを浴びると、寿命を延ばすことができると強く信じている人々がいる」と述べている。しかし、Gribble博士の新研究では、単にサーモスタットを下げるだけではないことを示している。 むしろ、温度が寿命に影響を及ぼす度合いは、個体の遺伝子に依存する。Experimental Gerontology(114:99-106; 2018)に掲載されたこの新しい研究論文は、「寿命延長と老化の併発性変化は、低温に対応した加齢の能動的調節を示唆する(Congeneric Variability in Lifespan Extension and Onset of Senescence Suggest Active Regulation of Aging in Response to Low Temperature.)」と題されている。 Gribble博士の研究は、100年以上の老化研究に用いられてきた小動物のワムシ類で行われた。Gribble博士のチームは、生存期間延長のメカニズムが純粋に熱力学的応答であるならば、全ての株が同様の寿命を増加させるはずであるという仮説を立てて、11種の遺伝的に異なるワムシ(ツボワムシ)を低温にさらした。しかし、寿命の中央値は6%から100%の範囲で増加した。 彼らは死亡率の差も観察した。この研究は、1950年代からこの分野

スクリプス研究所の科学者は、原理上、癌および慢性ウイルス感染を治療するための標的にすることができる重要な免疫系調節タンパク質を発見した。2018年11月12日にNature Chemical Biologyに掲載されたこの研究では、脳と神経の宿主を特徴とする希少な遺伝病を引き起こすタンパク質ABHD12 (abhydrolase domain containing protein 12)の機能について特定している。   この論文は、「Lyso-PSリパーゼABHD12の選択的遮断は、in vivoでの免疫応答を刺激する(Selective Blockade of the Lyso-PS Lipase ABHD12 Stimulates Immune Responses in Vivo.)」と題されている。研究者らは、ABHD12が通常、過活動にならないようにするため、免疫系の強力な「ブレーキ」として機能することを発見した。 このタンパク質を持たない操作されたマウスは炎症の徴候を示し、その免疫系はウイルス感染に過剰反応する可能性がより高い。この発見は、その遺伝子の突然変異型を有する人々におけるABHD12の欠損が、過度の免疫活性によって少なくとも部分的に神経疾患を引き起こし得ることを示唆している。 また、ABHD12は、免疫システムを強化する薬剤(例えば、通常、人の免疫防御を止めることによって持続する癌およびウイルスなどに対する)の有用な標的であり得ることも示している。「これは、希少遺伝病の研究がヒト生物学において重要な役割を果たすパスウェイを明らかにした良い事例だ」と、共同研究者のスクリプス研究所の化学生理学教授であるBenjamin Cravatt博士は述べた。この場合の稀少疾患は、科学者が略語PHARC(多発性神経障害、難聴、運動失調、色素性網膜炎、および白内障)と

急性骨髄性白血病(AML)の患者に合わせた治療のために、白血病細胞の薬物感受性および耐性の迅速スクリーニングに進歩がみられている。 白血病幹細胞の薬物応答に関する研究は、治療が成功しなかった理由、または最初は有望な治療結果がなぜ持続しなかった理由を明らかにするかもしれない。 AMLは、ある種の血液形成細胞の重大な障害である。 この病気では、白血球に通常発達する骨髄中の特定の初期前駆細胞が適切に成熟しない。 それらは芽球と呼ばれる原始細胞として凍結され、さらに分化し成熟することはできない。これらが蓄積し、低血球数を引き起こして感染症と戦う能力を低下させ、低血小板数は生命を脅かす出血のリスクを引き起こす。未成熟の癌性血液細胞の前駆細胞である白血病幹細胞は、AMLを増殖させ、また治療後の再発にも関与する。がんの研究者は、このデータが標準的な療法への抵抗の手がかりといくつかの患者が再発する理由に対する手掛かりとなる可能性があるため、この細胞集団で遺伝子がどのように発現するかに興味があった。サンディエゴの第60回米国血液学会(2018年12月1-4日)で発表されたこの研究では、AMLと診断された個々の患者から採取した幹細胞および芽細胞の薬物応答パターンを調べた。 この情報は、多くのサンプルをすばやく評価してテストする最先端の方法であるハイスループットスクリーニングによって収集された。 研究者らは、白血病幹細胞および芽球細胞が薬剤感受性パターンで分岐し、これらのパターンが患者ごとに異なることを見出した。 例えば、芽細胞は、患者を治療するために最も一般的に使用される薬物に試験で応答したが、これらの薬物のいずれも白血病幹細胞に対して有効ではなかった。 研究者らは、芽細胞と比較して白血病幹細胞を優先的に標的としていると思われる12の薬物を8クラスから見出した。 これらの薬物の多くは、この

ゲノムにおける相互作用は、何十億年も前の先進的な生命の発生の原動力の1つになった可能性がある。この発見は「ジャンピング遺伝子」として知られるレトロトランスポゾンへの好奇心がきっかけになった。ヒトゲノムのほぼ半分はレトロトランスポゾンで構成されているが、バクテリアにはほとんど存在しない。 イリノイ大学アーバナシャンペーン校(UIUC)の物理学教授でありNASAアストロバイオロジー研究所のディレクターでもあるNigel Goldenfeld博士と、元UIUC(現在はカリフォルニア大)の物理学教授であるThomas Kuhlman博士らは、これがなぜなのか疑問に思っていた。「本当に単純に、自分のゲノムからレトロトランスポゾンを取り出し、それをバクテリアに入れて何が起こるか見てみたいと考えた。それは本当に興味深いことになった。」とKuhlman博士は語った。彼らの成果は2018年11月19日にPNASでオンライン公開され、数十億年前に高度な生命がどのように誕生したかの謎に迫っている。また、他の惑星の生命の可能性を判断するのにも役立つ。このオープンアクセスのPNASの論文のタイトルは、「祖先真核細胞の出現のためのレトロエレメント侵入仮説のテスト(Testing the Retroelement Invasion Hypothesis for the Emergence of the Ancestral Eukaryotic Cell.)」と題されている。 研究の中で、研究者らは最初に死(細菌死)に遭遇した。細菌にレトロトランスポゾンを入れたとき、結果は致命的だった。 「彼らが飛び回って自分自身のコピーを作っていくうちに、バクテリアが生き残るために必要な遺伝子にジャンプした。それは信じられないほど致命的だ。」とKuhlman博士は語った。レトロトランスポゾンは、ゲノム内で自分自身を

2018年の内分泌学学会年次大会(11月19-21日 イギリス・グラスゴー)で、若年マウスのストレスに起因する脳の発育の変化を予防することがアムステルダム大学の研究チームによって発表された。この研究成果は、栄養豊富な食事が、早期ストレスに曝された若いマウスの脳の発達に保護的効果をもたらし、後の学習および記憶障害を軽減することを示唆している。 ヒトや動物において初期ストレスのような逆境への曝露は、脳機能に長期間影響を及ぼし、後の人生で認知障害を引き起こすことが報告されている。 出生直後の期間は脳の発達にとって重要であり、栄養素の需要は、エネルギーのためにも、発達する脳のための不可欠な構成要素である。したがって、この期間中の必須栄養素の欠損は、学習プロセスを含む脳機能の長期的な異常をもたらす可能性がある。身体のストレスと代謝過程は密接に関連しており、良質な栄養は早期のストレスに関連する認知障害を予防することができるが、これまで精力的に調査されて来なかった。 この研究で、アムステルダム大学のAniko Korosi博士らは、マウスの早期ストレスモデルを用いて、脳機能に必須の栄養素の影響を調べた。早期ストレスは母親の世話数を減らし、出生の最初の2週間以内の仔への注意を減らすことで模倣した。4ヵ月齢までに、これらの無視されたマウスは、体脂肪の増加、ストレスホルモンの高いレベル、および学習および記憶課題における貧弱なパフォーマンスを含むいくつかの障害を示す。 しかし、早期ストレス期間中わずか1週間の間、微量栄養素(ビタミンBや必須脂肪酸を含む)のカクテルを与えられたマウスは、4ヶ月で同じ学習および記憶課題の改善を示した。Korosi博士は次のように述べている。「早期ストレスに曝されたときの栄養状態が良いと、脳機能を保護することができ、後の人生で子供がよりうまく対処できるようになるか

イェール大学医学部とイタリアのピサ大学の生物学科のチームは、動物モデルで脊髄損傷の修復に特に効果的である特定の幹細胞集団(神経上皮幹細胞)を同定した。この実験では、これらの細胞が損傷組織内に組み込まれ、移植後に数センチメートルのプロセスを延長し、治療を受けた動物に運動機能回復をもたらすことを実証した。さらに、ラボの試験で示されているように、回復は傷害の程度に比例した。   例えば、脊髄損傷が25%以下であれば、2ヶ月以内に下肢の使用が有意に改善した。「この研究のおかげで、幹細胞の解剖学的起源は移植の成功にとって非常に重要であることが初めて明らかにされた。」と2018年8月24日にネイチャーコミュニケーションズでオンラインで公開されたこの研究の筆頭著者であるピサ大学のMarco Onorati博士は説明した。このオープンアクセスの論文は、「ヒト神経上皮幹細胞の部位特異性により、リレー回路を介して脊髄修復を可能にする(Human Neuroepithelial Stem Cell Regional Specificity Enables Spinal Cord Repair Through a Relay Circuit.)」と題されている。 実際、インビトロと同様だが、レシピエント組織(この場合、脊髄)と同じ起源を有する神経幹細胞は、多様な起源(例えば、脳由来)よりもはるかに効率的であることが判明し、 損傷領域との接続を再確立し、新しいニューロン回路の形成を保証する。「すべての幹細胞が同じ可能性を持っているわけではない。我々がこの神経幹細胞に関する研究から得た知識は、脊髄損傷の場合にどのように反応するのか、将来の研究に役立つだろう」とOnorati博士は述べた。この研究分野では、ピサ大学の生物学科の細胞および発達生物学ユニットのOnorati博士が、インビトロでそれらの

虫垂の切除は、パーキンソン病の発症リスクを19〜25%低下させる可能性があることが2018年10月31日発行のScience Translational Medicineに掲載された。このオープンアクセスの論文は、「虫垂がパーキンソン病を発症するリスクに影響する(The Vermiform Appendix Impacts the Risk of Developing Parkinson’s Disease.)」と題されている。 この発見はまた、パーキンソン病の発生における腸および免疫系の役割を明確にし、パーキンソン病の発症および進行と密接に関連している異常に折り畳まれたα-シヌクレインタンパク質の主要リザーバーとして機能することを明らかにした。「我々の結果は、パーキンソン病の原因部位としての虫垂を指し、この病気の発症における胃腸管の役割を活用する新しい治療戦略を考案するための道筋を提供している。大部分が不必要であるという評判があるにもかかわらず、虫垂は実際に我々の免疫系の主要部分であり、私たちの腸内細菌の構成を調節し、今度はパーキンソン病における役割も我々の研究で示された。」とViviane Labrie 研究所(VARI)の助教授であり論文のシニア著者であるVan Andel博士は語った。パーキンソン病のリスクの低下は、パーキンソン病の発症の数年前に、虫垂およびその中に含まれるα-シヌクレインが、早期に取り除かれたときにのみ明らかであり、虫垂が疾患の開始に関与する可能性があることを示唆している。 しかしながら、疾患プロセスが開始した後の虫垂の除去は、疾患の進行に影響を及ぼさなかった。 一般の集団では、虫垂切除術を受けた人々は、パーキンソン病を発症する可能性が19%低くなった。 この効果は農村部に住む人々に特に顕著で、虫垂切除術により疾患リスクが25%低下した。 パーキ

2018年10月16-20日にカリフォルニア州サンディエゴで開催されたアメリカ人類遺伝学会年次総会(ASHG2018)で、ペルー・アンデス山脈の古代人は、高所への環境と農業の導入に他の世界の人々とは異なる方法で適応したことが発表された。ASHGは今年の会議で記録的な出席者8,500人を報告している。   エモリー大学の人類学助教授John Lindo博士、シカゴ大学Anna Di Rienzo博士、カリフォルニア大学メルセデス大学のMark Aldenderfer博士が指揮する国際共同研究者グループ 7つの全ゲノムから得られた7,000年前のDNAの新たに入手可能なサンプルを使用して、アンデスの古代の人々がどのように環境に適応したかを研究した。科学者らは、これらのゲノムを、1500年代にヨーロッパ人が到着する前に起こった遺伝的適応を同定するために、高地のアンデス人集団とチリの低地集団の両方から現代の64のゲノムと比較した。 「ヨーロッパ人との接触は、疾病、戦争、社会的混乱など、南米の人々に甚大な影響を与えた。その前の期間に焦点を当てることで、私たちは環境適応と歴史的出来事から生じる適応とを区別することができた。」とLindo博士は述べた。 科学者たちは、アンデス集団のゲノムが農業の導入に適応し、他の集団とは違ってデンプン消費の増加をもたらすことを発見した。 例えば、ヨーロッパの農業集団のゲノムは、デンプンを分解するのに役立つ唾液中の酵素であるアミラーゼをコードする遺伝子のコピー数の増加を示す。 アンデスは、栽培を開始した後も高澱粉飼料を摂取したが、ゲノムにはアミラーゼ遺伝子のコピーが追加されていなかったため、この変化にどのように適応しているのか疑問を呈した。同様に、高高度への適応のために広範に研究されてきたチベット人のゲノムは、低酸素応答に関連した多くの遺伝的変化を示

遺伝子解析の新しいアプローチは、環境因子とpharmacogene(薬物に反応するヒト遺伝子)の関連性を見出した。これは、集団遺伝学と医薬の境界で新しい研究のための発想を呼び起こすものである。 米国人類遺伝学会(ASHG)2018年次会合で発表されたこの内容について、「人間は数世紀に渡って医薬品を開発し、使用してきたが、それらの遺伝子は独自に機能しており、それ以前から他の環境要因と相互作用していた」とコロラド大学のChris Gignoux博士(写真)は語った。この要旨は「薬理ゲノム変異の世界的景観(The Global Landscape of Pharmacogenomic Variation.)」と題されている。物理的環境の変化と同様に、薬物は体内の微小環境に影響を及ぼし、その細胞と遺伝子の働きを変える。 このことは、薬理ゲノムとの関連性を有する遺伝子が、遺伝学と環境とのより広い相関を研究する上でも有用であり得ることを示唆している。さまざまな環境要因を探るために、Gignoux博士はスタンフォード大学のElena Sorokin博士と協力し、NASA、世界自然保護基金などのデータを使用して、20以上の気候、地理、生態学的変数のジオコード化されたリソースを作成した。米国の共同研究者らは、ゲノミックスと疫学(PAGE: Population Architecture using Genomics and Epidemiology)研究を用い、99の世界人口から51,698人の臨床的および疫学的に関連するバリエーションのサンプルを調査する大きなイニシアチブである。新しい分析手法は、Enviro-WAS(environment-wide association study)と呼ばれ、遺伝子型と20の環境変数との間の関連性を同定するために19,690の薬理ゲノム関連変異体を調

一般的に使用されている抗精神病薬は、治療が最も困難なトリプルネガティブ乳癌に対しても有効であるという新たな研究が発表された。英国のブラッドフォード大学が率いるこの研究では、ピモジド(pimozide)がトリプルネガティブ乳癌の他、最も一般的なタイプの肺がんをも治療できる可能性があることが示された。   抗精神病薬は、抗癌特性を有することが知られており、精神分裂症を有する人々の間でがんの発生率が低下しているとは言い難いが、いくつかの研究がある。2018年10月9日にOncotargetにオンラインで公開されたこの新しい研究は、これらの薬物の1つがトリプルネガティブ乳癌に対してどのように作用し、最初の標的治療法である可能性について初めて明らかにした。ブラッドフォード大学のMohamed El-Tanani教授(写真)は、「トリプルネガティブ乳癌は、生存率が低く、再発リスクが高いことから、限られた標的治療のみが行われている唯一の乳癌である 我々の研究は、ピモジドがこのギャップを埋める可能性があることを示しており、既に臨床応用されているので臨床試験に迅速に移行する可能性がある」と語った。ブラッドフォード大学、ベルファスト女王大学(北アイルランド)、サラマンカ大学(スペイン)の研究者らは、トリプルネガティブ乳癌細胞、非小細胞肺癌細胞、および正常乳房細胞について、実験室でピモジドを試験した。彼らは、最も高い投薬量で、正常細胞のほんの5%と比較して、癌細胞の90%が薬物による治療後に死亡したことを発見した。研究者らは、トリプルネガティブ乳癌を移植したマウスでこの薬剤を試験した。 ピモジドで治療したマウスの腫瘍は、未治療のマウスよりも65%小さく、腫瘍の数は61%まで減少した。この薬はまた、がんの広がりを予防するのにも役立った。治療されたマウスは、ピモジドを投与されていないマウスより、

英国のエクセター大学の科学者たちは、身体の特定の部位に薬物を運ぶことによって疾患の治療に革命を起こす可能性のある、精子細胞を模倣した小型の磁気スイミング装置を作製した。長さが1ミリメートルのこの小型デバイスは、磁気ヘッドとフレキシブルテールで構成されており、磁場によって活性化されると特定の位置に「泳ぐ」ことができる。   デバイスと磁気制御機構を設計したエクセター大学の研究者は、マイクロ流体チャネルや複雑な液体などのさまざまな環境でのデバイスの挙動を予測できる数学モデルを作成した。研究者らは、この装置を使用して身体の特定の領域に薬物を送達することができ、潜在的に治療時間および成功を大幅に改善すると考えている。科学者たちはまた、デバイスが非常に狭いチャネルを通って液体を移動させることに焦点を当てた、より広い分野のマイクロ流体に革命を起こす可能性があるとも考えている。チームの研究は現在、顕微プロトタイプを実施することに重点を置いており、研究者は赤血球のサイズに匹敵するスイマーを既に成功裏に実証している。この研究は最近、「流体物理学ジャーナル」に掲載された。 エクセター大学の主任研究員であるFeodor Ogrin教授は、「この技術を開発することで、医学のやり方を根本的に変えることができるだろう。スイマーは、血管を通って泳ぐことによって、薬物を身体の正しい領域に向けることができる。 病気の診断などの実験室で通常行われる複雑な手順が単純なチップ上で行われるラボ・オン・ザ・チップ技術で使用されているデバイスの微視的なバージョンも想定している。 潜在的に人命を救うことができる。」と語った。類似の装置は以前より複雑で高価な技術を用いて作られてきた。 これは、工業規模で製造することができる最初のスイマーであり、したがって、安価で使い捨てのマイクロ流体チップを製造するための道を開く。O

地球上で生命はどのように起こったのか?ニュージャージー州のラトガース大学の研究者は、単純なタンパク質触媒の最初で唯一の証拠の中に、細胞に不可欠な、生命が始まったときに存在していたかもしれない生命のビルディングブロックを発見した。この原始のペプチドまたは小さなタンパク質の研究が、米国化学会誌に掲載された。   この論文は、「頑強な電子移動が可能な最小ヘテロキラルデノロ設計4Fe-4S結合ペプチド(Minimal Heterochiral de Novo Designed 4Fe–4S Binding Peptide Capable of Robust Electron Transfer.)」と題されている。1980年代後半から1990年代初頭にかけて、化学者Günter Wächtershäuserは、海洋の鉄と岩石に含まれる硫黄が生命の始まりと仮定した。ラトガースの共同研究者であるRobert Wood Johnson医科大学の副学長であるVikas Nanda博士によると、Wutchtershäuserらは、短いペプチドが金属に結合し、生命を生み出す触媒として役立つと予測した。ヒトDNAは、数百から数千アミノ酸長のタンパク質をコードする遺伝子からなる。これらの複雑なタンパク質は、すべての生命体を適切に機能させるために必要なもので、数十億年の進化の結果でである。生命が始まったとき、たぶんタンパク質ははるかに単純で、恐らくわずか10〜20アミノ酸長だったはずだ。Nanda博士によると、ラトガースの科学者は、コンピュータモデリングを用いて、初期のペプチドがどのようなものか、そしてそれらの可能な化学的機能を探索してきたという。科学者はコンピュータを使って短い12アミノ酸のタンパク質(ambidoxin)をモデル化し、それを試験した。このペプチドは、いくつかの印象的かつ重要な特

2018年8月29日にサイエンスのオンラインで公開された新研究で、非小細胞肺癌(NSCLC)での遺伝子変異は、細胞の主要な増殖シグナルの認識を妨げて、腫瘍形成を促進する可能性があると報告された。この論文は、「癌突然変異と標的薬物は、Ras-Erk経路によるダイナミックシグナルエンコーディングを混乱させる可能性がある(Cancer Mutations and Targeted Drugs Can Disrupt Dynamic Signal Encoding by the Ras-Erk Pathway.)」と題されている。 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者が率いるこの研究は、多くのヒト癌の根底にある欠陥メカニズムを理解し、欠陥メカニズムを最終標的とする重要な意味を持つ可能性がある。健常細胞は、いつ、どのように増殖、分裂、および移動するかについて外部の手がかりを解釈するために、Ras / Erk増殖シグナル伝達経路(Ras / MAPK経路)に依存するが、これらのメッセージが伝達される際の欠陥は、 制御不能に陥り、身体の他の部分へ浸潤する原因となりうる。このような突然変異は、大多数のヒト癌で発見され、Ras / Erkの治療法を開発は、癌研究の至高の目標である。何十年もの研究により、科学者は、突然変異により経路の1つ以上のコンポーネントが成長前の状態から抜け出せなくなった場合に、Ras / Erkによる癌が生じると考えている。研究者らは、これらの壊れたスイッチを元に戻す標的治療法を開発するために努力してきたが、これまでのところほとんどが臨床試験に失敗している。現在、光パルスを用いてRas / Erkシグナル伝達を制御し、ゲノム動態を迅速に読み取ることが可能なUCSFで開発されたハイスループット技術を用い、この広範囲に研究された経路について驚くべき発見

科学者は、ケシゲノムのDNA配列を決定し、生薬の製造に使用される薬学的化合物を生産するために植物がどのように進化したかを明らかにした。この発見は、科学者が薬草植物の収量および耐病性を向上させ、鎮痛および緩和ケアのための最も効果的な薬剤の信頼できる安価な供給を確保する道を開くかもしれない。ヨーク大学の研究者たちは、英国のウェルカム・サンガー・インスティテュート、および国際的な協力により、咳抑制薬ノスカピンおよび鎮痛薬モルヒネおよびコデインの生産につながる遺伝的経路の起源を明らかにした。この研究は2018年8月30日にScienceでオンラインで報告された。 この論文は、「ケシのゲノムとモルフィナン生産(The Opium Poppy Genome and Morphinan Production.)」と題されている。共同執筆者であるヨーク大学の生物学科の新農産物センターのIan Graham教授は「生化学者は植物がどのように進化して地球上で最も豊富な化学物質リソースになったか長年関心があった。高品質のゲノムアセンブリを使用して、我々は、これがケシにおいてどのように起こったかを解明した。同時に、この研究は、途上国において痛みの緩和と緩和ケアのために利用可能な最も有効な鎮痛剤の信頼できる安価な供給が確保されるために分子植物育種ツールの開発の基盤を提供するだろう。」と語った。 ノスカピン、コデイン、およびモルヒネなどの合成化合物を製造するための合成生物学ベースのアプローチが開発されており、植物由来の遺伝子を工業用発酵槽で生産可能にするために酵母などの微生物系に改変されている。しかし、ケシは、これらの製薬化合物の最も安価で唯一の商業的供給源であり続けている。 ゲノム重複英国のヨーク大学とウェルカムサンガー研究所の科学者は、中国の西安交通大学と上海海洋大学、サン・マニュファクチュア

遺伝子FKBP5は、ストレス応答の重要な調節因子であり、我々がどのように環境刺激に応答するかに影響する。以前の研究では、この遺伝子の特定の変異体が、外傷後ストレス障害、うつ病、自殺リスクおよび攻撃的行動などの神経精神障害の発症において役割を果たすことが示されている。 しかし、2013年にノースカロライナ大学(UNC)医学部の研究者らが、FKBP5の遺伝子変異と外傷後慢性疼痛との関連を初めて示した。特に、rs3800373として知られている第6染色体の変異型または軽症/リスクアレルを持つ人々は、この亜種を持たない人と比較して外傷(性的暴行または自動車衝突など)に曝された後により多くの痛みを経験する可能性があることが判明した。現在、Journal of Neuroscienceに掲載された同じ研究グループによる新しい研究では、自動車衝突の外傷を経験した1,500人以上の欧州アメリカ人およびアフリカ系アメリカ人の子孫のコホートにおいてこの関連が確認されている。 外傷修復研究所の麻酔科の助教授Sarah Linnstaedt博士(写真)がこの研究の筆頭著者である。この論文は「FKBP5の3'UTR中の機能性riboSNitchはMicroRNA-320a結合効率を変え、慢性外傷後疼痛の脆弱性を介在する(A Functional riboSNitch in the 3′UTR of FKBP5 Alters MicroRNA-320a Binding Efficiency and Mediates Vulnerability to Chronic Posttraumatic Pain.)」と題されている。 「今回の研究で、この変異が慢性疼痛の結果に影響する理由が、FKBP5がmiR-320aと呼ばれるマイクロRNAによって調節される能力を変化させるためであることが示された」とLi

テキサス大学(UT)の科学者によって、初めて大型哺乳動物(犬)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の進行を停止させるためにCRISPR遺伝子編集が使用され、救命の可能性が示された。2018年8月30日にサイエンスでオンラインで公開されたこの研究では、筋機能に重要なタンパク質であるジストロフィンの産生を阻害する突然変異によって引き起こされ、小児の最も一般的な致死的遺伝病であるDMDを有する犬の筋繊維に前例のない改善があったとしている。 この論文は、「遺伝子編集はデュシェンヌ型筋ジストロフィーのイヌモデルにおけるジストロフィン発現を回復させる(Gene Editing Restores Dystrophin Expression in a Canine Model Of Duchenne Muscular Dystrophy.)」と題されている。研究では、筋肉や心臓組織のジストロフィンを正常レベルの92%まで回復させるために、シングルカット遺伝子編集技術を使用した。科学者は、患者を有意に助けるのに15%の閾値が必要であると推定している。「DMDを患う子供たちは、心臓が鼓動する力が失われたり、横隔膜が息をするには弱すぎたりするため、しばしば死亡する。このレベルのジストロフィン発現なら、うまくいけばそれが起こらないようにするだろう。」とUTサウスウエスタンのハモン再生医科学センターのEric Olson博士は語った。5,000人の少年のうちの1人に影響を及ぼすDMDは、筋肉および心不全に至り、30代前半で早死を引き起こす。患者は、筋肉が退化して車椅子に乗せられることになり、最終的には横隔膜が弱くなるにつれて呼吸器が着けられる。効果的な治療は存在しないが、科学者はジストロフィン遺伝子の欠損がその状態を引き起こすことを何十年も前に分かっていた。サイエンスに発表されたこの研究は、

スコットランドのエジンバラ大学の再生医学研究センター(MRC)の科学者によって3Dヒト肝臓組織に形質転換された幹細胞は、肝臓疾患のマウスに移植された際に肝機能の有望なサポートをした。科学者は、ヒト肝臓組織インプラントを開発するための初期段階の進歩に加えて、実験室でのヒト肝臓疾患および試験薬の研究のためのより良いプラットフォームを提供することによって、実験動物の必要性を低減できるとも述べている。 この研究はArchives of Toxicologyに掲載された。科学者はヒト胚性幹細胞を採取して人工多能性幹細胞(iPSCs)を誘導し、慎重にそれらを刺激して肝細胞の特性を発達させた。研究者らは、これらの細胞を1年以上にわたりディッシュの中の小さな塊として成長させた。この研究を主導したエジンバラ大学の再生医療センターMRCのDavid Hay博士は、「研究室で幹細胞由来の肝臓組織を1年以上生存させたのは、これが初めてだ。 長い間細胞を生きて安定した肝細胞として維持することは非常に難しいが、人にこの技術を応用することを望むなら、非常に重要なステップである。」と述べた。科学者は3Dの足場を開発するため、ヒトで既に承認された適切なポリマーを特定するために材料化学者および技術者と協力した。 最良の材料は生分解性ポリエステル、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)であり、マイクロファイバーに紡糸された。繊維のメッシュは、1センチメートル四方、厚さ数ミリメートルの足場を形成した。20日間培養した胚性幹細胞由来の肝細胞を足場に載せ、マウスの皮膚下に移植した。血管は足場上で首尾よく成長し、マウスは血液中にヒト肝臓タンパク質を有することが判明し、組織が循環系とうまく一体化したことが示された。 足場は動物の免疫系によって拒絶されなかった。肝組織スキャホールドは、チロシン血症を有す

人間の脳に関する最も興味深い疑問は「私たちの脳を他の動物の脳と区別するのは何か?」であり、これは神経科学者にとって答えるのが最も難しい質問の1つである。「人間の脳を特別なものにするのは何か本当のところ分からない」とワシントン州シアトルにあるアレン脳科学研究所のEd Lein博士は述べている。「細胞と回路のレベルで違いを学ぶことはスタート地点としては適しており、今や我々はそれを行う新しいツールを持っている」 2018年8月27日にNature Neuroscienceでオンラインで公開されたこの新研究で、Lein博士とその同僚は、この難しい疑問に対する可能性のある答えを発表した。この論文は、「特殊化されたヒト皮質ガバレクチン細胞型のトランスクリプトームおよび形態生理学的証拠(Transcriptomic and Morphophysiological Evidence for a Specialized Human Cortical Gabaergic Cell Type.)」と題されている。Lein博士とハンガリーのセゲド大学の神経科学者であるGábor Tamás博士の共同研究チームは、マウスや他のよく研究された実験動物では見られなかった新しいタイプのヒト脳細胞を発見した。Tamás博士とセゲド大学の博士課程学生であるEszter Boldogは、これらの新しい細胞を "ローズヒップニューロン"と呼んだ。なぜなら、細胞の中心の周りの各脳細胞の軸索形態が花弁をはずした後のバラのように見えるからだ。 新たに発見された細胞は、阻害性ニューロンとして知られるニューロンクラスに属し、脳内の他のニューロンの活動にブレーキをかける。この研究は、この特殊な脳細胞がヒトに特有であることをまだ証明していない。しかし、特別なニューロンがげっ歯類に存在しないという事実は興味深いものであり、こ

カリフォルニア州のUCLA ジョンソン総合がんセンターは、健常時および傷害後の微小環境によって造血幹細胞がどのように維持されているか重要な違いを発見した。人体は、健常時や、例えば癌の放射線治療のようなストレスやけがの時に単一成長因子を産生する細胞種を切り替えているように思われる。この研究結果は、放射線治療で造血幹細胞が実質的に枯渇していそうな時や、骨髄移植を受けている人の治療に影響を及ぼす可能性がある。 この研究は、UCLAのデーヴィッドゲフェン医学部 血液学・腫瘍学の教授であるJohn Chute博士が率いたもので、Cell Stem Cellで発表された。この論文は、「プレオトロフィン制御造血幹細胞の維持および再生の骨髄源(Distinct Bone Marrow Sources of Pleiotrophin Control Hematopoietic Stem Cell Maintenance and Regeneration)」と題されている。血液形成または造血幹細胞は、白血球、赤血球および血小板などの様々な種類の成熟血液要素に分化することができる。それらは、様々なタイプの周囲の細胞が取り囲む骨髄中の「血管性ニッチ」に生存し、部分的には成長因子と呼ばれる化合物を分泌する。このUCLAの研究は、プレオトロフィン(PTN)と呼ばれる成長因子に焦点を当てている。 Chute博士と彼のチームは以前にプレオトロフィンを発見していたが、それを分泌する細胞の種類を特定していなかった。「幹細胞研究には、幹細胞を制御する微小環境細胞は何か?どうのようにしてそれが行われるのか?という2つの重要な課題がある。」とChute博士は語った。これを調べるために、研究チームは、血管を構成する内皮細胞、結合組織を構成する間質細胞などを含む様々なタイプの骨髄細胞において、プレオトロフィン発現を

メープルツリーはメープルシロップと美しい紅葉でよく知られている。 しかし、その葉の美しさは肌にとっても役立つものになる可能性があることが判明した。科学者らは、葉からの抽出物がしわを防止し得ることを報告している。この研究成果は第256回アメリカ化学会(ACS)の全国会議および博覧会で発表された。世界最大級の学会であるACSは、2018年8月19日〜8月23日にボストンでこの会議を開催した。ACSミーティングでは、幅広い科学分野で10,000件以上のプレゼンテーションが行われた。このメープルリーフの研究者は、以前に、サトウキビとレッドメープルの樹木から得た樹液とシロップの化学的および健康的利点を研究していた。プロジェクトの主任研究者であるロードアイランド大学のNavindra P. Seeram博士によれば、歴史の記録から木の他の部分も有用であることが示唆されたと言う。「ネイティブアメリカンは、伝統薬にレッドメープルの葉を使っていた。葉を無視する理由はない。」と彼は言う。皮膚の弾力性は、エラスチンなどのタンパク質によって維持される。 しわは、酵素エラスターゼが老化過程の一部として皮膚のエラスチンを分解するときに形成される。ACSの会議でこの研究を発表し、Seeram博士の研究室の研究員であるHang Ma博士は、「我々はレッドメープルの葉の抽出物がエラスターゼの活性を阻害するかどうかを知りたがっていた。」と語った。ロードアイランド大学の研究者らは、グルシトール含有ガロタンニン(GCGs)として知られている葉のフェノール化合物をゼロにし、各化合物が試験管内でエラスターゼ活性を阻害する能力を調べた。科学者はまた、GCGがエラスターゼとどのように相互作用してその活性をブロックするか、分子の構造がブロッキング能力にどのように影響するかを調べるためのコンピューター解析を行った。  複数

自動車事故は、高齢の患者に、癒されない重度の筋肉傷害を残す。 ドナーからの筋肉幹細胞による治療は、損傷した組織を回復させるかもしれないが、医師にはそれらを効果的に送達することが困難だ。新しい方法がこの状況を変えるのに役立つかもしれない。 ジョージア工科大学(Georgia Tech)の研究者は、筋肉がうまく再生しない患者の筋衛星細胞(MuSC)を筋肉組織に直接送達するために、ハイドロゲルである分子マトリックスを設計した。   マウスによるラボ実験では、ハイドロゲルは、損傷した老化筋肉組織にMuSCをうまく送達して、幹細胞を過酷な免疫反応から保護しながら治癒過程を促進した。この方法は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを模倣した筋肉組織欠損マウスでも成功し、研究が進めば、新しいハイドロゲル療法は、この病気にかかっている人々の命を救うことができるかもしれない。損傷した炎症を起こした組織に筋衛星細胞を単に注入するだけでは、幹細胞がそれらに対抗する免疫系に遭遇するため、非効率的であることが分かっている。「どのような筋肉傷害も免疫細胞を引き寄せるだろう。 通常、これは筋幹細胞が損傷を修復するのに役立つ。しかし、老化した筋肉やジストロフィー筋では、免疫細胞が、新しい幹細胞を殺すサイトカインやフリーラジカルなどの毒性化学物質を多く放出する。」とジョージア工科大学の生物科学院助教授でこの研究の主任研究者であるYoung Jang博士は述べた。注入されたMuSCの1〜20%しか損傷組織には到達しない。また、組織の損傷によっては、注入が不可能になるため、新しい配送戦略の必要性が生じる。 「我々の新しいハイドロゲルは、幹細胞を保護し、幹細胞は増殖し、マトリックス内で増殖する。 ゲルは傷ついた筋肉に適応し、細胞が組織に移植されて治癒するのを助ける。」とジョージア工科大学工学部のポスドク研究員であ

研究者は遺伝子編集ツールを用いて、ヒト幹細胞における脆弱X症候群で抑制されたFMR1遺伝子の再活性化に成功した。このニュースは、2018年8月16日にDiogo PintoによりFragile X News Todayの記事で報告された。 このオープンアクセスの科学論文は「脆弱なX症候群の胚性幹細胞におけるFMR1転写の標的化された再活性化(Targeted Reactivation of FMR1 Transcription In Fragile X Syndrome Embryonic Stem Cells)」と題されており、2018年8月15日に分子神経科学のフロンティアでオンライン公開された。 脆弱X症候群(FXS)は、3つの余分なヌクレオチド(DNAのビルディングブロック)をその配列に付加することによって生じるFMR1遺伝子の突然変異によって引き起こされる。 これは、CGGリピートと呼ばれ、健常者では5から55まで変化する。リピートが繰り返されるほど、疾患を発症するリスクが高くなる。 この突然変異は、FMR1遺伝子によって産生されるタンパク質である脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)の喪失をもたらす。これまでに試験された治療法は、FMRPタンパク質の損失を補うことを試み、通常はタンパク質機能の1つのみを標的とする。しかしながら、それらはこの疾患を治療するには不十分であることが証明されている。研究者らは、神経細胞および他の細胞型においてFMRPによって果たされる異なる機能は、1つの調節不能な分子経路のみを標的とする任意の治療では矯正するのが困難であり、今日までのヒト臨床試験での成功の欠如に関する潜在的な理由の1つと考えている 。 新たに報告された治療アプローチでは、ミシガン大学およびVA Ann Arbor Healthcare Systemの研究者は、突然変異

睡眠についての理解は、慢性的な睡眠不足が蔓延している現代社会において、ますます重要になってきている。 睡眠不足と健康への悪影響の相関関係を示すエビデンスとして、睡眠の核心機能は謎のままである。しかし、2018年7月12日にオープン・アクセス・ジャーナルPLOS Biologyに掲載された新しい研究では、ニューヨークのコロンビア大学のVanessa Hill博士、Mimi Shirasu-Hiza博士および同僚らは、短睡眠ショウジョウバエ変異体が急性酸化ストレスに対する感受性の共通の欠陥を共有し、睡眠が抗酸化プロセスをサポートすることを見出した。地味な存在のショウジョウバエだが、睡眠と酸化ストレスの古くからの双方向の関係を理解することは、睡眠障害や神経変性疾患など現代人の病気についての洞察を得ることができる。この論文は、「ショウジョウバエの睡眠と酸化ストレスとの間の双方向の関係(A Bidirectional Relationship Between Sleep and Oxidative Stress in Drosophila.)」と題されている。 睡眠中の動物は脆弱で不動であり、環境に反応しにくく、捕食者から逃げることができない。 睡眠行動の対価にも関わらず、ほとんどの動物は睡眠をとるため、睡眠はヒトからショウジョウバエまで本質的かつ進化的に保存された機能を示唆している。 研究者らは、健康の中枢機能のために睡眠が必要な場合、通常よりも睡眠時間が有意に少ない動物はすべて、その中枢機能に欠陥を共有するはずだと推論した。この研究のために、彼らは短睡眠ショウジョウバエ突然変異体の多様なグループを使用した。 彼らは、これらの短睡眠突然変異体が実際に共通の欠陥を共有していることを発見した。それらはすべて急性酸化ストレスに敏感である。 過剰のフリーラジカルに起因する酸化ストレスは、

米国コホートの結果からメラノーマ脳転移(MBM: melanoma brain metastases)を有する皮膚メラノーマ患者のうち、チェックポイント阻害剤を用いた第一選択治療では、全生存期間の中央値が1.4倍増加していた。これらの結果は、Cancer Immunology Researchの2018年7月12日にオンラインで公開された。   この論文は、「免疫チェックポイント阻害療法の時代におけるメラノーマ脳転移のリスク調整後の生存の改善:全国コホートの結果(Improved Risk-Adjusted Survival for Melanoma Brain Metastases in the Era of Checkpoint Blockade Immunotherapies: Results from a National Cohort.)」と題されている。この研究の筆頭著者は、ブライアン・アンド・ウィメンズ病院/ハーバード大学医学部のポスドク研究員であり、ダナ・ファーバーがん研究所の医学腫瘍科であるJ. Bryan Iorgulescu博士だ。 上席著者は、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院、ハーバード大学医学部脳神経外科およびダナ・ファーバー癌研究所 神経腫瘍センターのTimothy Smith 博士である。「免疫チェックポイント阻害療法は、進行したメラノーマ患者のケア方法に革命をもたらし、多くの患者で長期にわたる治療反応を導く」とIorgulescu博士は語る。しかし、免疫チェックポイント阻害療法の早期臨床試験の多くには、脳転移の患者数は少なかった - その発生率は高いにもかかわらず、このようなエキサイティングな療法の生存率は、この患者のかなりの部分で不明だった」 Iorgulescu博士らは、全米癌データベース(NCDB)から収集したデータを評価した。こ

この新しい技術は、ヒト組織を保管し輸送する作業を根本的に改善することがでるだろう。英国のWarwick Medical School 化学部の研究者らは、ある極地生物に見られる天然の不凍タンパク質の合成を人工的に再現し、広範囲の細菌を凍結保存(または「凍結」)する方法を確立した。科学者らは、タンパク質の模倣体を加えることによって氷結晶の成長が遅くなり、それらが細菌細胞を破壊するのを止めることを見出した。 この革新的な方法は、食品産業、臓器輸送、医薬品、ならびに実験室における研究など、様々な用途の可能性を秘めている。 細菌は、食品技術(例えば、ヨーグルトおよびプロバイオティクス)、医薬品製造(例えば、インスリン)、および酵素生産(例えば、洗剤)を含む広範なプロセスで使用され、研究室では感染や生活プロセスの基本を研究するために日常的に使用されている。世界中のほぼすべての実験室で使用されている細菌を保存する伝統的なアプローチは、凍結中の低温誘発損傷を減少させるため細菌にグリセロールを添加する方法である。しかし、すべての細菌が解凍後に回復するわけではなく、その成長および有用性を可能にするために、グリセロールを細菌から除去する必要がある。Matthew I. Gibson教授が率いるWarwickのチームは、地球上で最も寒い地域に生存する極地生物にヒントを得て、凍結保存のための新しい方法を開発した。極地生物の中で特に関心を寄せているのは、 不凍タンパク質を生成する極地魚類である。研究チームは、極地魚類のタンパク質を模倣した合成ポリマーが、同じ作用を発揮することを実証した。凍結保存中の氷の成長を遅らせるために2つのポリマーを組み合わせることにより、研究者は従来の方法を使用するよりも凍結後に多くの細菌を回収することができた。 彼らはまた、いくつかのケースで従来の方法で典型的に使用され

テキサス大学(UTサウスウェスタン)の研究者らは、DNA感知酵素が小さなバイオリアクターとして作用し、先天性免疫を刺激する分子を作り出す液滴を形成すると報告している。2018年7月5日にScience誌でオンライン公開された。この研究は、感染、自己免疫疾患、および癌に対する新規治療法につながる可能性がある。   ハワード・ヒューズ医学研究所の研究者で、この研究の上席著者であるUTサウスウェスタンの分子生物学教授 Zhijian James Chen博士は、これらの病気3つの共通点は、細胞質として知られている細胞のゲル様の内部にDNAが存在することであると言う。 この研究の筆頭著者は大学院生のMingjian Du氏である。 2012年、Chen博士の研究室では、先天性免疫に対する細胞性警報システムのセンサーとして機能するサイクリックGMP-AMP合成酵素(cGAS)を発見した。人体には2つの免疫系がある。第一は、脅威から身を守る生まれつきの先天性免疫システム。第二は、病原体を根絶するために特殊な免疫細胞を配備する適応免疫システムです。先天性免疫センサーであるcGASは、病原体や自己免疫疾患の場合は自己細胞から、遺伝物質が存在すべきでない細胞領域にDNAが出現すると警報を鳴らす。 Chen博士はまた、酵素cGASによって産生され、先天性免疫応答を引き起こす二次メッセンジャー小分子cGAMPを同定した。今回の研究では、cGASが病原性のDNAに遭遇するとDNAと結合して液滴サイズのマイクロリアクターが形成され、膜が欠損しているにも関わらず保持されることが判明している。この研究では、液滴を液相分離として保持するメカニズムが同定された。これは、サラダドレッシングのボトルを振り混ぜた後、油が酢から分離する方法に似ている。「液滴はマイクロリアクターとして働き、免疫系を活性化する

東南アジア人の祖先に関する2つの競合する学説は、8,000年前の骨格から抽出された古代人のDNAを革新的手法で分析することによって否定された。東南アジアは世界で最も遺伝的に多様な地域の一つだが、100年以上に渡り科学者たちは、この地域の集団の起源についてどの理論が正しいかについて意見が割れていた。 1つの理論は、44,000年前から東南アジアに住んでいた先住民のホアビン狩猟採集民が、東アジアの初期の農家からの提供なしに、独立して農業慣行を採択したと主張している。 "2層モデル"と呼ばれるもう一つの理論は、現在の中国にあたる地域の米農家が移住し、ホアビン狩猟採集民を置き換えたという見解を支持している。2018年7月6日のScience誌に掲載された新研究に協力した世界各地の学者は、どちらの理論も完全に正確ではないことを見出した。彼らの研究は、現在の東南アジア人が少なくとも4つの古代人集団を祖先に持つことを発見した。この論文は「東南アジアの先史時代の人類学(The prehistoric peopling of Southeast Asia.)」と題されたもので、8,000年前のマレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシア、ラオス、日本からのヒト骨格遺体からDNAが抽出された(これまで成功したDNAシーケンシングは4,000年前のサンプルだけであった)。これらのサンプルには、集団間の遺伝的連鎖が疑われているホアビン狩猟採集民と日本の縄文人のDNAも含まれていた。合計26の古代人のヒトゲノム配列を研究し、東南アジアに住む現代人のDNAサンプルと比較した。東南アジアの暑さと湿気はDNA保存にとって最も困難な環境の一つであり、この先駆的研究は科学者に大きな課題を提起する印象的なものと言える。 この国際的な調査は、セントジョンズ・カレッジ、ケンブリッジ大学、コペンハーゲン大

クモの空気力学的能力は、何百年もの間科学者を虜にしてきた。 チャールズ・ダーウィン自身、どのように何百もの生き物たちが穏やかな日にビーグル号に 来て、そして風が吹かない日に素早く船から飛び立つのかをじっと考えていた。科学者らは、これら無翅の節足動物のクモの飛行行動が、風に乗るシルクの尾を放つことによって数千マイルも移動することができる「気球飛行」に起因していると考えていた。  しかし、無風、曇り空、そして雨が降っているときでさえ気球飛行が観察されたという事実は、ある疑問を生じさせる。"クモはどのように空力抵抗が低い状態で飛ぶのか?" ブリストル大学(英国)の生物学者は、その答えを見つけたと確信している。「多くのクモは、扇状に広がった複数本のシルクを使って気球を膨らましている。これは斥力的な静電気力が必要であることを示唆している」と感覚生物物理学の主任研究員 Erica Morley博士は説明する。「現在の理論は、風だけでクモの気球パターンを予測することはできない。何日も大量に飛んだり、他の日にはクモが全く気球を使わなくなるのは何故か? 他の外的な力や気球の空気抵抗を引き起こす可能性があるかどうか、そしてこの刺激を検出するためにどのような知覚システムが使用されるのか探し当てたいと考えていた。」 この謎に対する解決策は、常に大気中に存在する大域電気回路である大気電位勾配(Atmospheric Potential Gradient:APG)の可能性がある。 APGとすべての物質を囲む電場は昆虫によって検出することができる。例えば、バンブルビーは、自分自身と花との間で発生する電界を検出することができ、ミツバチは巣と通信するために使用することができる。 クモのシルクは長い間、効果的な電気絶縁体として知られていたが、今まで、クモが蜂と同様に電場を検出して応答することは知られていな

炎症性腸疾患(IBD)の前臨床モデルにおける最近の研究で、ポリカーボネートプラスチックおよびエポキシ樹脂中に見出されるビスフェノールAまたはBPAの食物曝露が死亡率を増加させ、その症状を悪化させる可能性があることを示している。Experimental Biology and Medicine誌で2018年6月6日にオンラインで公開された研究は、テキサスA&M大学の栄養食品科学研究科のClint Allred博士が主導した。 この論文は、「芳香族アミノ酸から誘導された微生物代謝産物を変え、大腸炎の間の病気の活動を悪化させるビスフェノールA変種(Bisphenol-A Alters Microbiota Metabolites Derived From Aromatic Amino Acids And Worsens Disease Activity During Colitis.)」と題されている。全文はオンライン< https://tinyurl.com/IBDresearchBPA >で見ることができる。「これはBPAが過敏性腸疾患に関連している腸内微生物のアミノ酸代謝に悪影響を与えることを示す最初の研究である」と栄養食品科学部の大学院生であるJennifer DeLucaは述べた。この研究に参加したのはKimberly Allred博士(栄養食品科学部門)とRami Menon(Texas A&M化学工学科の化学エンジニア)であった。 IBDは、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む複雑な疾患の集合である。 消化管の慢性炎症があり、IBDに関連する症状としては、重度の下痢、腹痛、疲労および体重減少が挙げられる。 より深刻な例は、生涯にわたる治療または場合によっては外科手術を必要とする可能性がある。「IBDの原因はまだ明らかにされていないが、食生活、喫煙、感染、腸内微生物の

国際的な研究者チームが音波を用い、血液サンプルから循環腫瘍細胞を臨床使用に迅速かつ効率的に分離する、穏やかで非接触の方法を開発した。循環腫瘍細胞(CTC)は、血流に漏れ出して流れる腫瘍の一部である。腫瘍の種類、身体的特徴、遺伝的変異など、豊富な情報が含まれている。   これらの細胞を血液サンプルから迅速かつ効率的に採取して増殖させることにより、個々のCTCプロファイリングに基づいた治療戦略のための強力な診断、予後および示唆を提供することができる「液体生検」が可能になる。しかし、CTCは非常に希少であり、捕らえるのが難しい。通常、患者の静脈を通っている数十億の血液細胞当たりほんの少数存在するのみである。また、腫瘍細胞を正常な血液細胞から分離するために設計された多くの技術があるが、いずれも完全ではない。それらは、処理中の細胞を損傷または殺してしまう傾向があり、効率が不十分であり、特定のタイプの癌にのみ作用するか、または多くの状況で使用するのに時間が長すぎる。新研究では、1時間以内に7.5mLバイアルの血液からCTCを少なくとも86%の効率で分離することができる音波を利用したプラットフォームを、デューク大学、MIT、および南洋理工大学(シンガポール)の研究者が実証した。 さらに改良された技術により、安価で使い捨てのチップを使い新たにテストすることが期待されている。この結果は、2018年7月3日にオンラインで the journal Smallに掲載された。 この記事は、「ハイスループット音響分離による循環腫瘍細胞の表現型解析(Circulating Tumor Cell Phenotyping via High‐Throughput Acoustic Separation.)」と題されている。 毎年がんで世界中の何百万人もの人々の命が奪われており、研究者たちはがんの診断、予

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は、感染と病気に対する身体の免疫応答を調節する上で重要な役割を果たす遺伝子を同定した。 この発見は、インフルエンザ、関節炎、さらには癌のための新しい治療法の開発につながる可能性がある。 C6orf106または「C6」と呼ばれるこの遺伝子は、感染症、癌および糖尿病に関与するタンパク質の産生を制御している。   この遺伝子は5億年前から存在していたが、その潜在力は今解ったばかりだ。この論文は、「C6orf106は、インターフェロン調節因子-3依存性 抗ウイルス応答の新規阻害物質である。(C6orf106 Is A Novel Inhibitor of the Interferon-Regulatory Factor 3-Dependent Innate Antiviral Response.)」と題されている。 CSIROの研究員であるCameron Stewart博士は、「私たちの免疫系は、免疫系を強化しウイルスや他の病原体が複製して病気を引き起こすのを防ぐ働きをするサイトカインと呼ばれるタンパク質を産生する。 C6は、制御不能なスパイラルから特定のサイトカインの産生をスイッチオフし、免疫応答を止めることによって、このプロセスを制御している。C6によって制御されるサイトカインは、癌、糖尿病および関節リウマチなどの炎症性疾患を含む様々な疾患に関係する。」と語った。この発見は、我々の免疫系の理解向上に役立ち、この理解により科学者がより標的を絞った新しい治療法を開発することが期待される。「ヒトゲノムは2003年に初めて完全に配列決定されたが、まだほとんど知られていない数千もの遺伝子がある」とCSIROの元研究員でハドソン医学研究所のRebecca Ambrose博士は語った。 Ambrose博士はC6遺伝子を発見したCSIROチ

人体の多くの重要なタンパク質は、正しく働くために、鉄 - 硫黄クラスター、鉄と硫黄原子でできた小さな構造を必要とする。アメリカ国立がん研究所(NCI)、アメリカ国立衛生研究所(NIH)、およびケンタッキー大学の研究者は、鉄硫黄クラスターの形成の中断が特定の細胞に脂肪小滴の蓄積をもたらす可能性があることを発見した。 これらの発見は、Journal of Biological Chemistryの2018年5月25日号に掲載されており、非アルコール性脂肪肝疾患や腎明細胞癌のような状態の生化学的原因に関する手がかりを提供する。この記事は、「哺乳動物細胞における代謝再プログラミングおよび脂質液滴の形成における鉄-硫黄クラスターの急性喪失(Acute loss of Iron–Sulfur Clusters Results in Metabolic Reprogramming and Generation of Lipid Droplets in Mammalian Cells.)」と題されている。「鉄-硫黄クラスターは繊細で、細胞内の損傷を受けやすい」と新しい研究を率いたポスドクのDaniel Crooks博士は語った。「この理由から、私たちの体内の細胞は常に新しい鉄-硫黄クラスターを構築している」 Crooks博士は、NIH傘下機関の国立小児保健発達研究所(Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development:NICHD)のTracey Rouault博士のラボで、鉄-硫黄クラスターを形成する酵素の研究を開始した。 これらの酵素の1つの突然変異は、強く健康的に見えるにもかかわらず、患者が痛みや衰弱を感じることなく短時間以上運動できない遺伝的状態であるISCU(鉄-硫黄クラ

「ヒト独特」と考えられていた筋肉が、いくつかの類人猿の種で発見されており、ヒトの軟組織の起源と進化に関する長年の理論に議論が起こっている。 この発見は、特定の筋肉が、二足歩行、道具の使用、声によるコミュニケーション、表情など、ヒトの特質に対する特別な適応を提供する唯一の目的のために進化したというヒト中心の見解に疑問を投げかけている。 Frontiers in Ecology and Evolutionで2018年4月26日に発表されたこの研究は、ヒトの進化をより良く理解するためには、類人猿の解剖学の徹底的な知識が必要であることを強調している。この論文は、「ボノボの最初の詳細な解剖学的研究は、特定の変異を明らかにし、ヒトの進化、二足歩行、および道具の使用に関するストーリーを明らかにする。(First Detailed Anatomical Study of Bonobos Reveals Intra-Specific Variations and Exposes Just-So Stories of Human Evolution, Bipedalism, and Tool Use.)」と題されている。 「この研究は、ヒトの進化と〝自然の階段〟におけるヒトの位置付けについてのドグマと矛盾している」とワシントンDCのハワード大学 解剖学科のRui Diogo博士は言う。 「私たちの詳細な分析によれば、実際には、一意にヒト独特であり、二足歩行、道具の使用、および声と顔のコミュニケーションのための重要な特異的機能の適応を提供するためのものと長年捉えられてきた筋肉は、ボノボや他の類人猿(チンパンジーやゴリラ)でも類似した形態であることが分かった。」長年に渡る進化論は主に先史時代の標本の骨構造に基づいており、ヒトは他の動物よりもはるかに特殊で複雑であるという考えに基づいている。これ

アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、2018年5月6日(日)に、すべてのバックグラウンドの人々の個別化予防・治療・ケアを目指し、「All of Us 研究プログラム」(https://www.joinallofus.org/en)の全国登録を開始した。健康状態にかかわらず、18歳以上の人々が登録することができる。 公開日には、全国の7つの都市でのコミュニティイベントとオンラインイベントが行われた。プログラムの全国立ち上げの準備期間における1年間のベータテストを通じ、All of Usにすでに2万5千人以上のボランティアが登録している。全体的な目的は、100万人以上のボランティアと研究で過小評価されているオーバーサンプリングコミュニティを登録することです。Alex Azar 保健福祉部長官は、「All of Usは、病気や医療の研究方法に革命を起こす可能性のある野心的なプロジェクトだ」と述べた。「NIHの前例のない努力は、パーソナライズされた、非常に効果的なヘルスケアの新しい時代のための科学的基礎を築くだろう。 私たちは、全てのバックグラウンドの人々と協力して、この国の健康のために大きな一歩を踏み出すことを楽しみにしている。」プレシジョンメディシンは、人々のライフスタイル、環境、遺伝子を含む生物学的構成の違いを考慮した、疾患の治療と予防への新たなアプローチである。眼鏡や補聴器では、私たちは長い間、個人のニーズに合わせたカスタマイズされたソリューションを提供されてきた。 もっと最近では、特定のタイプの癌の治療は、患者のDNAを標的とした治療で可能になった。 それでも、個人、その家族、地域社会、医療界に良い選択肢を与えられずに多くの未解決の課題が残っている。 NIHのFrancis S. Collins 博士(PhD)は、「All of Us 研究プログラムはすべて、あらゆる

スタンフォード大学の研究者は、新研究でラットの傷ついた肺の呼吸能力を回復させるのに有効なタンパク質模倣物を生物工学により作った。この合成産物は、ヒトの急性肺傷害に対して、より良い、より安価な治療につながる可能性がある。 ラットで使用した際、それはいくつかの生理的尺度で高価な動物由来の製品と同等またはそれ以上の性能を示したと研究は述べている。 この研究論文は、5月1日にScientific Reportsにオンラインで掲載された。このオープンアクセス論文は、「肺サーファクタントタンパク質のヘリックス性、両親媒性ペプトイド模倣物による急性肺傷害の有効なインビボ治療(Effective in vivo treatment of acute lung injury with helical, amphipathic peptoid mimics of pulmonary surfactant proteins.)」と題されている。テニスコートぐらいの表面積を持つ風船を膨らませるために必要な力を想像してください。 さらに、その風船にはポケットがあり、湿った内面を持ち、繊細な素材で作られていると想像してください。その風船とはあなたの肺のことです。すべての呼吸は奇跡的なことなのです。石鹸の様な膜または界面活性剤の薄いコーティングが肺の内面の張力を低下させ、吸入するのに必要な力を大きく減少させる。この界面活性剤なくして、呼吸することはできない。スタンフォード大学の生物工学准教授であるAnnelise Barron 博士(写真)は、「肺の界面活性剤には素晴らしい生物学的特性がある。」と述べた。 「この存在の鍵は、表面張力を切断する独自の構造を持つ2つの特殊なタンパク質が界面活性剤に存在することである。 しかし、これらの驚くべき構造特性も、合成や精製が難しく、溶液中では比較的不安定であり、

新しい研究によると、特定の種類のダークチョコレートを食べると健康上の恩恵があるかもしれない。 サンディエゴで行われたExperimental Biology 2018年次会議(2月21-25日)で発表された2つの研究結果は、高濃度のカカオ(カカオ70%、有機砂糖30%)を含むダークチョコレートを摂取すると、ストレスレベル、炎症、気分、記憶、および免疫にポジティブな効果が見られた。 カカオがフラボノイドを多く含むことはよく知られているが、認知、内分泌、および心臓血管の健康をどの様にサポートするのかを特定するため、ヒト被験者で効果が研究されたのはこれが初めてである。米国ロマリンダ大学の連合医療専門学校、精神免疫学および食品科学の研究部長 Lee S. Berk 公衆衛生学博士は、両研究の主任研究員を務めた。 「数年前から、ダークチョコレートの糖度の観点からの神経学的機能への影響を見てきた。砂糖が多いほど私たちはより幸せだ。」とBerk博士は述べた。 「短期間または長期間にわたり、通常サイズのチョコレートバーと同程度の少量のカカオの影響を見てきたのはこれが初めてのことである。これらの研究は、カカオの濃度が高いほど認知、記憶、気分、免疫、および他の有益な効果への影響がよりポジティブなものであることを示している」カカオのフラボノイドは、脳や心臓血管の健康に有益な既知のメカニズムを有する極めて強力な抗酸化剤および抗炎症剤である。下記の結果は「ダークチョコレート(70%カカオ)がヒトの遺伝子発現に及ぼす影響:カカオは細胞の免疫応答、神経シグナル伝達および知覚を調節する」(4月23日月曜日10: 00〜12:00、サンディエゴ・コンベンションセンター・展示ホールA〜D)で発表された。 このパイロット実証試験は、炎症性サイトカインに焦点を当て、70%のカカオチョコレートの消費がヒト免疫お

それはDNAだが、私たちの知っているそれではない。オーストラリアの研究者は世界で初めて細胞内に“iモチーフ”と呼ばれる新しいDNA構造を同定した。DNAのねじれた“結び目”、iモチーフはこれまで生きている細胞の中で直接見られたことはなかった。ガルバン医学研究所の新しい発見は、Nature Chemistryの2018年4月23日にオンラインで公開された。   この論文は、「I-モチーフDNA構造はヒト細胞の核に形成される(I-Motif DNA Structures Are Formed in the Nuclei of Human Cells.)」と題されている。私たちの細胞の奥深くにある60億のA、C、G、T文字のDNAコードの情報は、私たちの体がどのように構築され、どのように機能するかについて正確な指示を提供する。James WatsonとFrancis CrickがDNAの構造を明らかにした1953年以来、DNAの象徴的な形状は“二重らせん”とイメージされている。 しかし、DNAの短い配列が、他の形でも存在することが実験室ではっきりと分かっている。そして、科学者は、DNAコードがいつどのように“読み込まれる”かに、二本鎖DNA二重らせんとは全く異なるこれらの形が重要な役割を果たすかもしれないと考えている。 「我々の大部分がDNAを二重らせんと捉えている」と研究を共同主導したDaniel Christ教授(ガルバン 抗体治療 ラボ長)は語る。「この新しい研究は、全く異なるDNA構造が存在することを思い起こさせるものであり、我々の細胞にとって重要である可能性が高い。iモチーフは、DNAの4本鎖の“結び目”である」と、Christ助教授と共に研究を主導した Marcel Dinger助教授(ガルバン Kinghorn Centre臨床ゲノミックス長)は言う。「結び目

免疫革命と呼ばれる中、ペンシルベニア大学のアブラムソンがんセンター(UPenn)のディレクターであるRobert H. Vonderheide MD,PhD(写真)が、癌免疫療法の分野で革新的な進歩を続けている。Vonderheide博士は画期的な免疫療法の成功について、多くの患者が初期の成功の後に反応しなくなるか、または再発するかのいずれかであるため、甘くないと説明している。   現在の癌免疫療法の主な戦略は、免疫系のオフスイッチを阻止することである。例えば、免疫細胞上のPD-1分子が腫瘍細胞上のPD-L1に結合すると、免疫系は不活性化し、 免疫系から隠れる。 PD-1(pembrolizumab、商品名Keytruda)に対する抗体は、PD-1 / PD-L1結合によって引き起こされる失活をブロックすることができ、PD-L1の過剰発現を伴う転移性非小細胞肺癌の第一選択治療薬として承認されている 。約30%の患者はこの治療に反応せず、他の25%は1年後にさらなる腫瘍の進行を示す。 現在の免疫療法を改善するためCD40に対するモノクローナル抗体による新しい種類の免疫療法薬が開発された。 CD40は、免疫系の抗原提示細胞によって発現され、抗腫瘍応答を誘発する役割を果たす。 CD40がTヘルパー細胞上の他の表面マーカーによって結合されると、抗原提示細胞(B細胞または樹状細胞など)が活性化され、最終的に腫瘍細胞を標的化および殺すために多数の機能を果たす。 この分子を抗体で刺激することにより、抗腫瘍応答が強化される。 Vonderheide博士は次のように述べている。「癌を攻撃するために他の治療法を用いて免疫系を急発進させる前に、最初に戻りT細胞をプライミングする必要がある。」免疫応答は多段階の組立ラインであり、pembrolizumabなどのチェックポイントインヒビターは腫

科学誌Cellの2018年3月22日号に掲載された論文によると、非常に初期の段階のヒト胚でヒト発生の謎を解明するのに一歩近づく、ヒト胚の遺伝子発現を活性化させる重要なファクターを中国の科学者が明らかにした。この論文は、「ヒト初期胚のクロマチン・アクセシビリティの状況と進化との関連(Chromatin Accessibility Landscape in Human Early Embryos and Its Association with Evolution.)」と題されている。 ヒトの生命は受精卵から始まる。 しかし、受精後の最初の2日間は、ヒト胚で遺伝子発現はほとんどなかった。 これまでゲノムがどのように活性化し、初期胚で遺伝子発現を開始するのか、科学者は知らなかった。「遺伝子発現を活性化するものは何か?このパズルは世界中の科学者を悩ませています。私たちはこれを最初に見つけました」と、この論文の上級著者であるLiu Jiang博士は述べている。 ヒトが成長する間、適切な時と場所で異なる遺伝子が発現されなければならない。DNAに保存されている遺伝コードは、遺伝子発現によって「解釈」され、これにより個体の特徴が生じる。中国科学アカデミー(CAS)の北京研究所のLiu博士主導のチーム、Shandong大学・繁殖医学センターのChen Zijiang博士、Guangzhou医科大学のLiu Jianqiao博士のグループは、転写因子であるOct-4が接合体のゲノム発現を活性化するのに重要な役割を果たすことを見出した。 最初の2日間で、ヒト接合子が3度の細胞分裂の後、8つの細胞に成長する。 胚に8個の細胞があると、十分な量のOct-4が生成され、これがDNAと直接結合して遺伝子発現を切り替えるのだろう、とLiu博士は述べた。この研究では、ゲノム活性化が特定の配列に従うことも

2018年1月16日付JAMA Internal Medicineオンライン版に掲載された新Kaiser Permanente研究は、長期的な全国研究で6か月以上母乳育児すると、妊娠可能期間を通じて母体の2型糖尿病発病リスクが半分近くまで低下することを突き止めたと述べている。このオープン・アクセス論文は、「Lactation Duration and Progression to Diabetes in Women Across the Childbearing Years: The 30-Year CARDIA Study (授乳期間と妊娠可能期間を通じての糖尿病発症の関係:30年間のCARDIA研究)」と題されている。  論文の筆頭著者であり、Kaiser Permanente Division of ResearchのSenior Research Scientistを務めるErica P. Gunderson, PhD, MS, MPHは、「母乳育児期間と糖尿病発症リスク低下の間には、考えられる他のリスク・ファクターをすべて計算に入れても強い関連性が認められた」と述べている。出産の度に6か月以上母乳育児していた女性は、母乳育児をまったくしなかった女性に比べると、2型糖尿病を発症するリスクが47%も低下していた。また、母乳育児の期間が6か月以下の女性の場合、糖尿病リスク低下率は25%だった。 Dr. Gundersonの研究チームは、Coronary Artery Risk Development in Young Adults (CARDIA) 研究の30年間のフォローアップデータを分析した。このCARDIA研究は全国のいくつものセンターの循環器系疾患リスク・ファクターを調査するもので、最初は1985年から1986年にかけて、18歳から30歳までの成人約5,00

ほとんどの女性は妊娠中につわりを経験するが、妊娠中の女性の約2%が、ときには症状が深刻で入院が必要な程の、より重度の悪心および嘔吐の症状を経験する。妊娠中の重度妊婦とも呼ばれるこの状態は、ケイト・ミドルトン/ケンブリッジ公爵夫人が妊娠中に耐えたものと同じである。 UCLAの研究者によって主導され、2018年3月23日にNature Communicationsのオンライン版に公開されたこの新しい研究では、前回の研究では原因が特定されていない、催吐性重篤度に関連する2つの遺伝子が同定された。 GDF15およびIGFBP7として知られているこの遺伝子は、胎盤の発達に関与しており、早期妊娠および食欲調節において重要な役割を果たす。このオープンアクセスの論文は「胎盤と食欲遺伝子GDF15とIGFBP7は、妊娠悪阻に関連している。(Placenta and Appetite Genes GDF15 And IGFBP7 Are Associated with Hyperemesis Gravidarum.)」と題されている。 「長い間、妊娠ホルモン、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンまたはエストロゲンが極度の吐き気と嘔吐の犯人であると推定されていた。しかし私たちの研究はこれを裏付ける証拠を見いだせなかった。」と論文の筆頭著者、Marlena Fejzo博士は語った。彼女はUCLAのDavid Geffen School of MedicineのAssociate Researcherである。彼女は、偶然にも、癌患者の約20%が死に至る悪液質(体重減少と筋肉疲労状態)に関与しており、 Fejzo博士自身は妊娠悪阻のため1999年に流産を経験した。衰弱症状には、持続性の吐き気および/または嘔吐による急速な体重減少、栄養失調および脱水が含まれる。病状を治療する現在の薬物療法はほとんど効果がなく

大きな出っ歯、シワだらけで毛が無い身体。こんなハダカデバネズミは「かわいい齧歯類」コンテストでとても勝てそうにない。しかし、ハダカデバネズミの寿命は齧歯類としては最長の30年という長寿であり、加齢性の疾患に驚くほどの耐性があるため、加齢とがんという謎を解くカギを与えてくれている。それこそが、University of Rochester のVera Gorbunova, PhD、Andrei Seluanov, PhDら生物学教授とポスドク研究員のYang Zhao, PhDのハダカデバネズミ研究の動機であり、2018年2月5日付PNASオンライン版に掲載された研究論文の筆頭著者、Dr. Zhaoは、「この齧歯類で、細胞老化と呼ばれる抗がんメカニズムが見られるだろうか? 見られるとすれば、そのメカニズムはマウスのような寿命の短い動物とどのように異なるのだろうか、ということを調べた」と述べている。   この論文は、「Naked Mole Rats Can Undergo Developmental, Oncogene-Induced and DNA Damage-Induced Cellular Senescence (発生学的な細胞老化、がん遺伝子やDNA損傷により誘導される細胞老化に耐えられるハダカデバネズミ)」と題されている。細胞老化とは、損傷を受けた細胞が無制限に分裂を続け、完全ながんにまで成長するのを防ぐ進化的適応の一つである。しかし、老化には望ましくない面もある。がんに成長するのを防ぐために細胞分裂を停止するというのは加齢を促進することでもある。過去の研究で、マウスの身体から細胞老化を受けた細胞を取り除くと、そのマウスは、老化細胞をそのままにして自然に老化したマウスと比べて、老化してもそれほど身体が弱らないということが突き止められている。そこで、研究者らは、細

トカゲには特別な超能力がある。鳥類は羽根を再生できるし、ほ乳類は皮膚を再生できる。しかし、トカゲはしっぽのような構造全体を再生できるのだ。このような違いはあっても、動物はすべてトカゲのような共通の祖先から進化してきたものだ。アメリカ全体に広がっているトカゲのグループ、アノールは、ダーウィン・フィンチのように、様々な島や、大陸本土の様々な棲息地の条件に適応している。現在では、その種は400を超える。 Arizona State University (ASU) の研究者は、パナマのSmithsonian Tropical Research Institute (STRI) を通じてパナマで採集した3種のトカゲと、アメリカ南東部で採集した1種のトカゲの系統樹を再構成し、トカゲのゲノムのDNAコード全体を他の動物と比較した。その結果、松果体その他の内分泌腺のある間脳で、色覚、ホルモン、オスがメスを誘うために上下に揺らす喉袋などに関わる遺伝子の変化が起きており、それが種の境界を形成している可能性があることを突き止めた。四肢の発達を調節する遺伝子も特に急速に進化している。責任著者でASU School of Life Sciencesの教授を務めるDr. Kenro Kusumiは、「リクガメのような爬虫類は何百万年もの間、ほとんど変わっていないが、アノール・トカゲは急速に進化しており、様々な形や行動の違いを生み出している。今はゲノム全体をシーケンシングすることも低コストかつ容易になっており、今回の研究で急激な進化の分子遺伝学的証拠がつかめており、この進化こそが動物の棲む環境が異なればその身体にも著しい違いが生まれる理由かも知れない」と述べている。この研究は2018年2月1日付Genome Biology and Evolutionのオープンアクセス論文として掲載されており、「Co

遺伝環境論争は、ヒトが腸内に持っている通常有益な細菌群、マイクロバイオーム(微生物叢)の構成にまで広がっている。研究に次ぐ研究でマイクロバイオームが私達の健康のほぼ全ての面に関わっていることが突き止められており、また、人それぞれに異なっているマイクロバイオームの構成が体重増加やその人の気分にまで関わっている可能性も示されている。 一部のマイクロバイオーム研究者は、このような個人差は遺伝子の違いから始まっているのではないかとしているが、イスラエルのWeizmann Institute of Scienceで行われた大規模な研究はこの遺伝子説に反証しており、さらにマイクロバイオームと健康の間には私達が考えている以上に重要な関係を示す証拠を提出している。事実、その研究でも作業仮説としてマイクロバイオームの個人差に遺伝子が大きく関わっているのではないかと予想していた。その仮説に従えば、遺伝子がマイクロバイオームの棲息する環境を決定し、さらに個々の環境がそこで繁殖する細菌種を決定するはずだった。ところが、実際には宿主の遺伝はマイクロバイオームの構成にごくわずかしか関わっておらず、大人口で考えた場合、わずか2%程度の違いにしかならないことを突き止め、Weizmannの研究チームにとってはむしろ意外だった。 この研究は、Weizmann Institute of Science, Computer Science and Applied Mathematics Department, Professor Eran Segal研究室のDaphna Rothschild研究生、Dr. Omer Weissbrod、Dr. Elad Barkanらと、同じWeizmann Institute of Science, Immunology DepartmentのProfessor Eran

肺再生研究を飛躍的に進める画期的な結果が、このたび、シンガポール科学技術研究庁(Agency for Science, Technology and Research (A*STAR))遺伝子研究所(GIS)と分子生物学研究所(IMB)との共同研究で得られた。彼らの研究は、肺に存在する特殊な幹細胞である末梢気道胚細胞(DASCs)が、損傷を受けた胚組織を新しい肺胞に取り換える機能を有する事を実証し、肺の再生研究に大きな基礎を築いた。この研究は2011年10月28日付けのセル誌に掲載された。肺は、インフルエンザや慢性閉塞成敗疾患(COPD)などの慢性呼吸器疾患を含む様々な肺疾患により損傷を受ける。   急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を誘発するインフルエンザの感染は、米国では年間15万人以上に達し、患者の死亡率は最大50%にも上る。そして、COPDは世界で5番目に死亡率の高い疾患だ。肺再生の問題に取り組むにあたって、研究チームは斬新なアプローチをとった。肺の3つの部分から採取した成人の幹細胞をクローンしたのだ。 この3つの部分は、鼻上皮幹細胞(NESCs)、気管気道幹細胞(TASCs)、および遠位気道幹細胞(DASCs)である。遺伝的に99%同一である3つの細胞ではあるが、インビボでクローンされたときにのみDASCsが肺胞を形成するのが観測された。「我々は、生体幹細胞は本来的に機能が決められているために、由来している特定の細胞にしか分化しないということを初めて示しました。今回の場合、肺胞細胞は、鼻粘膜上皮や気道気管ではなく遠位気道に位置しているため、DASCsだけが肺胞を形成しました。このような理解は大きな進歩であり、再生医療における成体幹細胞の可能性の研究を促すでしょう。 」と、IMBの主任研究員ワ・シアン博士は説明する。研究ではインフルエンザのマウスモデルが使用された

報いられない愛に苦しまない種はない。しかし、アメリカのテキサス州在来種の個体全てがメスで無性生殖をすることで知られたカダヤシ属の淡水魚、アマゾン・モーリーは何千年も栄えてきた種である。最近、この魚のゲノムシーケンス解析が完了しており、その性の生物学的基礎情報から学ぶことは多いのではないかと研究者は期待している。 テキサス州・メキシコ国境線に沿った淡水の河川はこの進化異常の種の棲息地になっており、この魚は自然の法則に反して受精なしで胚の発育と発達が起き、母親とまったく同一のクローンの娘だけができる単為生殖という自然の形式によって繁栄してきた。Texas A&M University Hagler Institute for Advanced Study (HIAS) のFaculty Fellow、Dr. Manfred Schartlは、この魚の生殖がどのようにして通常の雌雄両性生殖から逸れたのか、またどのようにしてアマゾン・モーリーが種としてその過程を無事に通過したのかをより深く理解するため、世界で初めてアマゾン・モーリーと、この独特な魚をつくり出した元の親種のゲノムのシーケンス解析を完了した。National Institutes of Healthの研究資金を受けて行われたこの研究の結果は、2018年2月12日付Nature Ecology & Evolutionオンライン版に掲載された。このオープンアクセス論文は、「Clonal Polymorphism and High Heterozygosity in the Celibate Genome of the Amazon Molly (アマゾン・モーリーの独身型ゲノムにおけるクローン多形性と高異型接合性)」と題されている。 プラティ、ソードテールなどクシフォフォルス・モデル系魚類の細胞生物学、

マサチューセッツ州Woods HoleのMarine Biological Laboratory (MBL) 他の研究機関の共同グループの研究によると、ヤツメウナギの脊髄損傷自然治癒にかかわっている遺伝子の多くが哺乳動物の末梢神経系の修復でも大きく関わっている。このことから、長期的に見れば、人間の脊髄損傷治療法向上のために同じ遺伝子を利用できるようになる可能性がある。 2018年1月15日付Scientific Reportsオンライン版に掲載された研究の著者の一人であり、MBL, Eugene Bell Center for Regenerative Biology and Tissue EngineeringのDirectorを務めるJennifer Morgan, PhDは、「研究で、哺乳動物の末梢神経系の再生の原動力となる転写因子の中心部と大きくダブることが突き止められた」と述べている。   このオープンアクセス論文は、「Highly Conserved Molecular Pathways, Including Wnt Signaling, Promote Functional Recovery from Spinal Cord Injury in Lampreys (ヤツメウナギの脊髄損傷では、Wntシグナル伝達を含め、高度に保存された分子経路が機能回復を促進)」と題されている。 ヤツメウナギはアゴのないウナギのような魚で、人間とは約5億5,000万年前に共通の祖先を持っている。この研究は、ヤツメウナギが脊髄を切断されても、医薬その他の治療なしに完全に回復できるという観察に基づいて始められた。Dr. Morganは、「ヤツメウナギは10週間から12週間でマヒ状態から完全に泳げるようになる」と述べている。元MBL Whitman Center Fellowで、

Scripps Research Institute (TSRI) とJanssen Research & Development (Janssen) の研究チームは、広いスペクトルのインフルエンザ・ウイルス株を中和する人工ペプチド分子を開発した。ペプチドはアミノ酸の短い鎖であり、タンパク質と似ているがもっと小さくて単純な構造である。この人工ペプチド分子はインフルエンザを標的とする医薬になる可能性を秘めている。 毎年、世界中で50万人がインフルエンザで亡くなっており、アメリカ経済にとって病気欠勤日と生産性の損失で年間何十億ドルもの負担になっている。新しく開発されたペプチドは、アジア地域で何百人もの人に感染し、死者さえ出した鳥インフルエンザ株のH5N1や、2009年から2010年にかけて世界的に蔓延した豚インフルエンザのH1N1などを含め、世界的にもっとも一般的なグループ1のインフルエンザA型ウイルスの伝染力をブロックするものである。同チームは、最近発見された、事実上すべてのインフルエンザA型株を中和できる「スーパー抗体」という酵素がウイルスを捕捉する結合部位を取り入れたペプチドを設計した。抗体は大きなタンパク質であり、つくるのにはコストもかかり、人体への注入も注射か輸液で行わなければならない。しかし、「研究で開発されたペプチドは、将来的には錠剤タイプの医薬として利用できる可能性がある」。TSRIのHansen Professor of Structural Biologyで、共同主任研究員を務めるDr. Ian Wilsonは、「私達の新しい研究成果が示すように、広いスペクトラムでウイルスを中和する大きな分子の抗体と基本的に同じことを小さな分子でやらせるというのは将来性のある楽しみな戦略だ」と述べている。この新しいペプチドに関する研究論文は、2017年9月27日付

動物の複雑さを決定する遺伝子、人間をミバエやウニよりも複雑な生き物にしている遺伝子が初めて突き止められた。ある動物の細胞が他の動物の類似の細胞よりもかなり複雑にできているということがあるのはなぜか、その秘密は特定のタンパク質と、そのタンパク質が細胞核内の動きを調節する能力にあるらしいことが明らかにされた。イギリスのUniversity of Portsmouthの生化学者、Dr. Colin Sharpeと同僚研究者の研究論文は、2017年9月25日付PLoS One誌オンライン版に掲載されている。 このオープンアクセス論文は、「Relating Protein Functional Diversity to Cell Type Number Identifies Genes That Determine Dynamic Aspects of Chromatin Organisation As Potential Contributors to Organismal Complexity (タンパク質の機能多様性を細胞タイプの数と関連させることで、クロマチン構成の動的状態を決定する遺伝子を生物複雑性の要因となる可能性を突き止める)」と題されている。Dr. Sharpeは、「ほとんどの人が、ほ乳類、特に人間は虫やミバエよりも複雑だという考えにうなずくが、その理由をほんとうに知っている人はいない。長年、私も他の者もその疑問が頭から離れなかった。動物の複雑さを測る一般的な尺度の一つとして細胞の種類の数がある。しかし、遺伝子レベルでどのようにして複雑な生命体が構成されるのかについてはほとんど分かっていない。多細胞動物では遺伝子総数はわずかな違いしかなく、ゲノム中の遺伝子の数が動物の複雑さを決める因子とは考えられない。そうすると、他の因子を考えなければならない」と述べている。Dr.

LSU Health New Orleans, Neuroscience Center of ExcellenceのBoyd ProfessorとDirectorを兼任するNicolas Bazan (photo), MD, PhDの率いる研究グループは、傷害や疾患に反応して細胞間情報伝達と神経炎症/免疫活動を同調させる、これまで知られていなかったクラスの化学物質を脳の中に見つけた。このクラスの化学物質は、elovanoids (ELVs) と呼ばれ、オメガ3極長鎖多価不飽和脂肪酸 (VLC-PUFAs, n-3) で構成されている生理活性的な化学的伝達物質である。   また、この化学物質は細胞が損傷を受けたり、ストレスにさらされるとその細胞の要求に応じて分泌される。Dr. Bazanは、「neuroprotectin D1 (22 carbons) など、オメガ3脂肪酸の伝達物質については以前から知っていたが、この発見の目新しいところは、elovanoidsが長さにして炭素原子32個ないし34個でできていることだ。このタイプの構造を研究すれば、ニューロン回路を支えている細胞間のクロストーク、特に疾患による傷害が起きた場合に細胞の平衡状態を回復する細胞間のクロストークに関する理解をさらに深めてくれるものと期待している」と述べている。大脳皮質や海馬から採取した神経細胞の培養や虚血性脳卒中のモデルを対象にした研究グループは、elovanoidsが単に神経細胞を保護したり、その生存を助けたりするだけでなく、神経細胞の完全性や安定性の維持を助けることも明らかにした。この研究論文は、2017年9月27日付Science Advancesオンライン版に掲載されたこのオープンアクセス論文は、「Elovanoids Are a Novel Class of Homeostatic Li

University of California, Berkeleyの研究グループは、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を細胞内に送り込む方法を新しく考案し、マウス・モデルを使って、筋肉衰弱の疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーを引き起こす突然変異を修復できることを確かめた。この新研究では、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのマウスにCRISPR-Goldと名付けられたCRISPR-Cas9輸送系を1回注射するだけで、対照グループに比べて突然変異遺伝子修復率18倍、筋力と敏捷性テストで2倍の成績を達成した。 この研究の共著者で、UC BerkeleyのMolecular and Cell BiologyとChemistryの教授を兼任するDr. Jennifer DoudnaとMax Planck Institute for Infection Biology所属のEmmanuelle Charpentierが、2012年にCas9タンパク質を転用して、安価、正確かつ使いやすい遺伝子編集技術を開発して以来、研究者は、CRISPR-Cas9を基礎とした治療法が遺伝病の治療に革命をもたらすのではないかと期待している。しかし、遺伝病治療法の開発は、医学界でも依然として難問のままである。それというのも、遺伝病のほとんどは、疾患の原因となる遺伝子の突然変異を正常なシーケンスに回復することでしか治療できず、従来の治療法ではそれは不可能だからである。しかし、CRISPR/Cas9なら、突然変異したDNAを切断し、相同組換えDNA修復を開始することで遺伝子突然変異を修復できるのである。ただし、このCRISPR-Cas9ベースの治療法を実現するためには、Cas9、Cas9を特定の遺伝子に導くガイドとなるRNA、ドナーDNAなど必要な材料を安全に細胞に送り届ける手段を開発しなければならない

台湾や沖縄でハブと呼ばれるクサリヘビ科のヘビにかまれると一生障害が残ることもあり、場合によっては死に至ることもある。しかし、その毒に関しては依然として謎のままである。毒の組成は非常にばらつきがあり、同腹仔の間でさえ異なっていることがある。また、この毒素の混合物は何世代もかけて変化してきた。 2017年9月27日付Genome Biology and Evolutionのオンライン版に掲載されたこの研究論文は、ヘビ毒の進化の解明を進めている。この研究グループは、初めてハブのゲノム・シーケンスを解析し、タイワンハブ (Protobothrops mucrosquamatus) のゲノムを近縁種、サキシマハブ (Protobothrops elegans) のゲノムと比較した。この論文は、「Population Genomic Analysis of a Pitviper Reveals Microevolutionary Forces Underlying Venom Chemistry (ハブの集団ゲノム解析で、ハブ毒化学組成の小進化駆動力を解明)」と題されている。沖縄県庁の統計によれば、過去1年間に沖縄だけで50件をヘビ咬傷事故が起きており、世界保健機関 (WHO) によれば、世界全体では年間81,000人から138,000人がヘビに咬まれて亡くなっている。特に発展途上国や農村地域は毒蛇に出会うことも多く、一方で医療機関も少ないため、ヘビの咬傷は重大事になりやすい。そのような地域では効果的な抗毒素を開発することが住民の生死を分ける結果になる。この研究論文の首席著者で、Okinawa Institute of Science and Technology (沖縄科学技術大学院大学、OIST) のEcology and Evolution Unit (生態・進化学ユニット)

2017年10月18日、フロリダ州オーランドで開催された2017年American Society of Human Genetics (ASHG) 年次会議においてプレゼンテーションのあった研究によると、ヒト・ゲノム中のノンコーディングDNAの大きなセグメントが重複されてきたことが人間と他の霊長類との違いを生んだ可能性がある。調節塩基配列を含むこのような重複と人間の特徴と行動に及ぼすその影響を突き止めれば人間の疾患の遺伝的要因が説明できるようになる可能性がある。 この研究の報告を行ったPaulina Carmona-Mora, PhD、Megan Dennis, PhDや同僚研究者らUniversity of California, Davisの研究グループは、ヒト・ゲノムにはあっても他の霊長類やその他の動物に見られない、1,000塩基対以上の長さのDNAセグメントの反復というヒト固有の重複 (HSD) の履歴を調べた。また、その研究では、遺伝子コードを持たず、他の遺伝子の発現を調節するだけのHSD領域に注目した。 Dr. Dennisは、「このような調節エレメントが特別なものになっている理由は、これが同じ染色体中で周辺の遺伝子の発現に影響するだけでなく、同じゲノム中の他の部分にも影響することであり、ただ一つの重複が数多くの遺伝子に影響を与えることになるため、その効果が増幅されることになる」と述べている。さらに、重複したセグメントは98%以上が同一なため、それぞれを区別することは難しく、過去のゲノム解析では捨てられることも多かったと述べている。そのことから、研究グループは重複したセグメントを含んだヒトの基準ゲノムを新たに作ることを始めた。そうすることにより、他の遺伝子の発現を強化する調節エレメントのエンハンサーを含んでいそうな部分を特定し、器官や組織全体にわたって遺伝

フロリダ州オーランド市で開催された2017年American Society of Human Genetics (ASHG) 年次会議の10月19日には、世界の遺伝学専門家を対象とした意見調査が発表され、ヒトのゲノム編集について一般社会と意見の一致するところもあれば異なるところもあるという結果が明らかにされた。Stanford Center for Biomedical EthicsのCertified Genetic Counselorを務めるProfessor Kelly Ormond, MSがこの調査結果発表を行った。   Stanford University School of MedicineのAlyssa Armsby (写真), MSの指導する研究グループは、国際的な遺伝学研究機関10機関のメンバーを対象に、ゲノム編集の研究や臨床応用の可能性についての考え方や、この比較的新しいテクノロジーとメンバー個人の世界観とのつながりについて意見調査を行った。2013年に発表されたゲノム編集ツールのCRISPR/Cas9システムは、カスタマイズの容易さや細胞タイプ、生物種全般にわたる有効性などから、急速に遺伝子研究の分野で広く用いられるようになった。しかし、急速に広まったことから、科学界だけでなく一般社会からも、その研究や利用の仕方について社会的な問題、倫理的な疑問が次々と出された。  Ms. Armsbyは、「ゲノム編集について常に国際的な対話が必要だが、このテクノロジーに対する遺伝学を学んだ人々の考えに関するデータはほとんどない。遺伝子の研究を行い、患者やその家族と協力している人達は、重要な利害関係者といえる」と述べている。この分析の対象となった遺伝学専門家500人のうち、85%以上がゲノム編集の研究結果を人体に用いてもいいのではないかとしており、これはアメ

ドイツのRuhr-Universität Bochum, burn unitとイタリアのUniversity of Modena, Center for Regenerative Medicineの医療チームは、遺伝疾患で広範な皮膚の損傷を受けている児童に遺伝子組み換え幹細胞から増殖した皮膚を移植し、治療に初めて成功した。少年の症状はいわゆる” butterfly child”と呼ばれる遺伝性の表皮水疱症に苦しんでおり、表皮の約80%が損傷を受けるひどい状態だった。既存の治療法がすべて失敗したことから、Bochumの医療チームは実験的な治療を施してみることにした。   その治療が成功し、治療開始から2年経った今、少年は家族との生活や社会生活にも参加できるようになった。研究論文は2017年11月8日付Nature誌オンライン版に掲載されており、「Regeneration of the Entire Human Epidermis by Transgenic Stem Cells (トランスジェニック幹細胞で人間の表皮全体を再生)」と題されている。「epidermolysis bullosa」は、現在のところ、不治の病と考えられている遺伝性皮膚疾患の科学的名称である。この疾患の原因になっているメカニズムは、皮膚の再生に不可欠なタンパク質を生成する遺伝子の欠陥にある。ごく軽微なストレスでさえ火ぶくれ、外傷になり、皮膚損傷によって傷口が形成されることになる。疾患の重さによっては内臓が同じように影響を受ける場合もあり、深刻な臓器不全を引き起こすことがある。この疾患は患者の生活の質を著しく損ね、7歳の少年、Hassanの場合のようにしばしば生命の危険さえ伴う。2015年6月、Hassanが、Katholisches Klinikum Bochumの小児集中治療室に運び込まれた時には

University of Cambridge (UK) の研究者が行った新研究は、ヒツジが写真からでも人間の顔を認識でき、また事前の訓練なしに飼い主の写真を識別できるとしている。2017年11月8日付Royal Society: Open Scienceオンライン版に掲載されたこの研究は、ヒツジの認識能力を観察するために行っているいくつかの実験の一つである。 このオープンアクセス論文は、「Sheep Recognize Familiar and Unfamiliar Human Faces from Two-Dimensional Images (ヒツジが平面画像で見慣れた人と見慣れない人の顔を識別)」と題されている。ヒツジは比較的脳も大きく、また寿命も長いため、ハンチントン病など神経変性疾患の動物モデルに適している。また、顔を認識する能力は人間のもっとも重要な社会的能力の一つである。見慣れた人の顔をたやすく認識できるし、見慣れない人の顔でも画像を繰り返し見せられれば認識できるようになる。ヒツジもイヌやサルなどと同じように社会性動物であり、他のヒツジだけでなく、見慣れた人も認識できる。ただし、ヒツジが顔貌情報を処理する全体的な能力についてはほとんど知られていない。University of CambridgeのDepartment of Physiology, Development, and Neuroscienceの研究チームは8頭のヒツジを訓練し、コンピュータ・スクリーンに表示された4人の有名人の肖像写真を認識させる試みを行った。4人の有名人にはFiona Bruce、Jake Gyllenhaal、Barack Obama、Emma Watsonを選んだ。その訓練では、ヒツジが特別設計の囲いを歩き回るようになっており、囲いの一方の端に置かれた2台のコンピュータ・

膵臓がんは致命的であり、生存期間中央値は6か月未満である。また、診断後5年生存する膵臓がん患者は20人に1人しかいない。そのように致命的な原因はこのがんの狡猾さにある。がん細胞は身体の奥深くに隠れており、がんが他の器官に広がってしまう末期になるまでどんな症状も示さないのである。 University of Pennsylvaniaが中心になって行った研究チームの研究により、将来的には奥深く隠れている転移性がん患部でさえも根こそぎしてしまう治療法の有望な標的が示されている。研究チームが膵臓がんのマウスでこのタンパク質をエンコードしている遺伝子を削除したところ、マウスは長生きし、他の器官へのがん転移が減ったとしている。 University of Pennsylvania, School of Veterinary MedicineのChair of the Department of Biomedical Scienceで、論文の首席著者を務めたDr. Ellen Puréは、「このタンパク質を標的にすることで原発腫瘍に大きな変化があるものと期待していた。確かに原発腫瘍の進行に遅れは出たが、もっと大きな変化は転移にあった。このタンパク質はドラッガブルな標的のように見えており、今後さらにフォローアップ研究を続けることで患者に役立つ新薬に結びつく可能性がある」と述べている。Dr. Puréは、Penn VetのAlbert Lo、Elizabeth L. Buza、Rachel Blomberg、Priya Govindaraju、Diana Avery、James Monslow各Dr.、Taipei Veterans General HospitalおよびNational Yang-Ming University School of Medicine所属のDr. Chung

University of Colorado (UC) Boulderの研究チームは、身体の自己組織攻撃の原因となるタンパク質を阻害する有望な薬物に似た化合物を発見した。この化合物はいつかリューマチ様関節炎その他の自己免疫疾患の治療に一大改革をもたらすかもしれない。  2017年11月20日付Nature Chemical Biologyに掲載された研究論文の筆頭著者で、BioFrontiers Instituteの生化学教授を務めるDr. Hang Hubert Yinは、「私達は、このタンパク質を休眠状態に閉じ込めるカギを見つけた。これはパラダイム・シフトになる可能性もある」と述べている。この論文は、「Small-Molecule Inhibition of TLR8 Through Stabilization of Its Resting State (TLR8休眠状態の安定化でその働きを阻害する低分子)」と題されている。リューマチ様関節炎、強皮症、あるいは過剰な免疫反応が痛み、炎症、皮膚疾患その他の慢性的な健康障害を引き起こす全身性紅斑性狼瘡など自己免疫疾患に悩むアメリカ国民は2,350万人を超える。 アメリカ国内でもっとも売れている医薬5品目のうち3品目までが自己免疫疾患の症状緩和を目的としている。しかし、自己免疫疾患を完治させる治療法はなく、対症療法も高価なうえに副作用がある。Dr. Yinは、「この疾患の患者が多いことから代わりの治療法の研究もよく行われている」と述べている。長年、研究者は、Toll様受容体8 (TLR8) と呼ばれるタンパク質が先天免疫反応に重要な役割を果たしているのではないかと疑っていた。TLR8はウイルスや細菌の存在を感知するといくつかの段階を経て受動状態から能動状態に変化し、侵入異物を撃退するために一連の炎症シグナルを送り出す。しかし

小学校で遺伝の意味を教えるのにもっとも手近に用いられるのが生徒の耳たぶの形を親の耳たぶの形と比べなさいというもので、主として耳たぶ下端の線が滑らかに側頭部につながっている密着型と、側頭部から出て垂れ下がっている分離型とがある。この比較は優性遺伝子と劣性遺伝子について教えるもので、簡単なことのようだが、実はそれほど簡単なことではない。 University of Pittsburgh (Pitt)のGraduate School of Public HealthとSchool of Dental Medicineが中心になって進め、2017年11月30日付American Journal of Human Geneticsオンライン版に掲載された新研究は、この耳たぶの遺伝ははるかに複雑で、耳たぶの密着度については少なくとも49個の遺伝子の相互関係が関わっていることを明らかにした。この研究論文の筆頭著者で、Pitt Public HealthのDepartment of Human GeneticsとPittのSchool of Dental MedicineのDepartment of Oral Biologyで准教授を務めるJohn R. Shaffer, Ph.D.は、「かなりシンプルな形質が遺伝的には非常に複雑だということが時々ある。その複雑さを理解すれば、遺伝疾患の治療への手がかりが得られるのではないか。そういう遺伝的疾患の中には、モワットウィルソン症候群のように、耳穴を覆うような耳殻や突き出した耳たぶなど、独特の顔貌を特徴とするものがある」と述べている。この研究は、イギリスと中国の研究者の国際的な共同作業で行われ、アメリカの個人遺伝学企業、23andMe Inc.のデータも使っている。この論文の首席著者で、PittのDepartments of Oral Biol

2017年10月2日、Karolinska InstitutetのNobel Assemblyは、2017年ノーベル生理学医学賞を「概日リズムを制御する分子的仕組みを発見」したJeffrey C. Hall、Michael Rosbash、Michael W. Youngの3氏に授与すると決定した。Jeffrey C. Hallは、1945年、アメリカのニューヨーク生まれ。1971年にワシントン州シアトル市のUniversity of Washingtonから博士号を授与され、1971年から1973年までカリフォルニア州パサディナ市のCalifornia Institute of Technologyでポスドク研究員の地位にあった。   1974年にマサチューセッツ州ウォルサム市のBrandeis Universityに移籍。2002年にはUniversity of Maineのassociatedになっている。Michael Rosbashは、1944年、アメリカのカンザス・シティ生まれ。1970年にケンブリッジ市のMassachusetts Institute of Technologyから博士号を授与されている。その後の3年間、ポスドク研究員としてスコットランドのUniversity of Edinburghに所属していた。1974年以来ウォルサム市のBrandeis Universityの教授会メンバー。Michael W. Youngは、1949年、アメリカのマイアミ市生まれ。1975年にオースチン市のUniversity of Texasから博士号を授与されている。1975年から77年まで、カリフォルニア州パロ・アルト市のStanford Universityでポスドク研究員の地位にあった。1978年以来、ニューヨーク市のRockefeller Univer

ナトリウムMRIという造影検査法を使って偏頭痛患者を調べた初の研究で、偏頭痛患者は健康な人に比べて脳脊髄液中のナトリウム濃度がかなり高いという結果が出た。この研究結果は、2017年11月26日から12月1日までシカゴで開かれていたRadiological Society of North America (RSNA) 年次大会の11月28日でプレゼンテーションがあった。  偏頭痛は頭痛の一種で、激しい頭痛や時には吐き気、吐瀉などの症状を特徴としており、女性の18%、男性の6%がこの障害に悩む比較的多い頭痛障害である。偏頭痛患者の中には視覚異常や、アウラと呼ばれる身体症状を経験する者もいる。しかし、偏頭痛の特徴や発作のタイプは患者ごとに様々で、診断は難しい。そのため、偏頭痛と確定されず、治療を受けないままの患者も多い。逆に、もっと一般的な緊張性頭痛などでありながら、偏頭痛の投薬を受ける患者もいる。 この研究論文の著者、ドイツのハイデルベルクのUniversity Hospital Mannheim and Heidelberg University, Institute of Clinical Radiology and Nuclear MedicineのMelissa Meyer, MD, Radiology Residentは、「偏頭痛の診断を助けるか、あるいはむしろ偏頭痛を発見し、偏頭痛と他のあらゆるタイプの頭痛とを判別する診断ツールがあれば非常にありがたい」と述べている。Dr. Meyerの研究チームは、偏頭痛の診断と理解を助ける手段として、脳脊髄液ナトリウムMRIという磁気共鳴造影法を採用した。MRIは原子中の陽子を利用して画像をつくり出すのが普通だが、ナトリウム原子も画像化できる。これまでの研究で、脳の化学反応にナトリウムが重要な役割を果たしていることが示されて

生活年齢に比べて肌が若く見える人がいる。クリーム、ローション、薬液注射、外科手術などでこのように若々しい肌を実現しようとする人は多いが、2017年11月14日付Journal of the American Academy of Dermatologyオンライン版に掲載された新しい研究論文は、このように若々しくみずみずしい肌は、特定の遺伝子発現の高さがカギになっているようだとしている。 JAADの研究論文は、「Age-Induced and Photoinduced Changes in Gene Expression Profiles in Facial Skin of Caucasian Females Across 6 Decades of Age (白人女性の顔面皮膚の遺伝子発現プロフィールの60年間にわたる加齢性および感光性変化)」と題されている。Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical Faculty Physiciansのdermatologistであり、PresidentとCEOを兼任するAlexa B. Kimball, MD, MPHは、Massachusetts General Hospital所属期にこの研究を進めており、研究論文の筆頭著者を務めている。同氏は、この論文で、「これは持って生まれた遺伝子の問題ではなく、生活している間にどの遺伝子がオンになり、どの遺伝子がオフになるかということである。加齢に影響を受ける様々な皮膚のプロセスを突き止めており、生活年齢より若く見える女性に特有の遺伝子発現パターンを発見した」と述べている。 老化する皮膚の包括的なモデルをつくるため、Dr. Kimballの研究チームは、20歳から74歳までの白人女性158人の日光にさらされた皮膚 (顔面と前腕)

人間の脳を特別なものにしている分子レベルの秘密を解明しようとして、多くの研究者が、何千年もの間の進化を促してきたプロセス、認知発達に重要な役割を果たした遺伝子などの解明に取り組んできた。さらには人間の体内時計を制御している遺伝子が、脳の進化に重要な人間固有の遺伝子の働きを調節する役割も引き受けていることを示す新しい研究が発表され、この分野に新しい知見が生まれている。 University of Texas (UT) Southwestern, O’Donnell Brain Instituteの研究結果は、脳の機能や、ニューロンが脳の中で所定の位置を見つけるプロセスにCLOCK遺伝子のつくるCLOCKタンパク質が関わる仕組みを解明する道筋を示している。UT Southwestern, Peter O’Donnell Jr. Brain Institute所属の神経科学者、Dr. Genevieve Konopka (写真) は、「特に人間のよく折りたたまれた大型の脳に関して、その進化に重要な遺伝子が研究課題になっている。私達は、CLOCKが概日リズム以外にも様々な遺伝子を調節しているという証拠を見つけており、人間の脳の発達と進化にとって重要な分子的経路の序列の中のキーポイントとして位置づけることができる」と述べている。人間の脳は、人間に最も近い生物のチンパンジーと比べてもはるかに大きい。しかし、脳の認知能力は大きさだけでは決まらず、クジラやイルカなどの哺乳動物は人間より大きい脳を持っている。そのため、人間の脳が他の動物より賢い原因を解明しようと努めてきた。Dr. Konopkaの研究は新皮質という領域に焦点を当てた。新皮質は皮質の中ではもっとも新しく進化した部分と考えられており、独特な折り畳みが特徴で、視覚や聴覚に関連した領域である。2012年、Dr. Konopkaの研

世界的にがんの発生率が上昇していることはよく知られており、また、特定の人口集団や地理的位置で他よりもがんの発生率が高いらしいことも知られている。University of Cyrpus Medical Schoolの研究者、Konstantinos Voskarides, PhDは、「デンマークやノルウェーのように気温の非常に低い地域の人口は世界的にもがん発生率のもっとも高い地域の一つだ」と述べている。彼は、2017年12月5日付Molecular Biology and Evolutionオンライン版に掲載された新論文で新しい仮説を提出しており、それによると、寒冷地や高高地など極端な環境条件への適応とがん発生率上昇との間に進化論的な関係があるとしている。 Dr. Voskaridesは、「この研究結果で、極端な環境に有利な遺伝的変異体が同時にがんにかかりやすい原因になっているという証拠が示されている。低温や高高度などに耐性を持つ細胞がおそらく悪性化する確率も高くなるのだろう。このような効果は、ほとんどのがんは、子供も生まれてしまったくらいの年齢で発症するため、自然淘汰で取り除かれることはまずない」と述べている。この論文は、「Combination of 247 Genome-Wide Association Studies Reveals High Cancer Risk As a Result of Evolutionary Adaptation (247件のゲノムワイド関連研究を総合し、適応進化の結果としてのがんリスク増大を究明)」と題されている。 Dr. Voskaridesは、極地およびスカンジナビア気候地域や高地の低温の影響に的を絞り、特にがんリスクと地域の年平均気温との関係を調べた。その結果、極端な寒冷環境ががんリスクを押し上げていると結論した。その研究に

細胞外微小胞(extracellular microvesicles)に抗体様RNAナノ粒子を結合させることで、低分子干渉RNA (siRNA) など効果的なRNA薬剤を選択的にがん細胞に向けて送り込めることが新しい研究で示されている。研究チームは動物モデルの3種のがんを対象に、RNAナノテクノロジーを用いて、この実験にRNAナノ粒子を使い、微小なRNA薬剤を搭載した細胞外微小胞をがん細胞に向けて送り込むことに成功した。 2017年12月11日付Nature Nanotechnologyオンライン版に掲載された研究成果が、siRNA、microRNAその他のRNA干渉技術を用いた新世代の抗がん剤の開発に結びつくことも考えられる。この論文は、「Nanoparticle Orientation to Control RNA Loading and Ligand Display on Extracellular Vesicles for Cancer Regression (ナノ粒子配向で細胞外小胞のRNA搭載とリガンド・ディスプレイを制御し、がん退縮を狙う)」と題されている。 この研究は、Ohio State University College of PharmacyとOhio State University Comprehensive Cancer Center – James Cancer Hospital and Solove Research Institute (OSUCCC – James) の研究チームが主導して行った。この研究の研究責任者、College of PharmacyのSylvan G. Frank Endowed Chair ProfessorでOSUCCC – James Translational Therapeutics Program

University of California-San Francisco (UCSF) の研究チームは、脳が体重を調節する能力は、脳の「飢餓回路」が神経細胞の一次繊毛と呼ばれるアンテナ状の構造物を通して信号を伝達する、その独特の形態によるものであることを突き止めた。一次繊毛は、運動繊毛とは異なる器官で、後者は指のような突起物で細胞のコンベヤー・ベルトのような働きをしており、肺や気管のゴミを排出する機能を持っている。 不動性の一次繊毛は、虫垂のように進化の痕跡のようなものと考えられたこともあったが、過去10年、UCSFその他の研究機関の研究で、この一次繊毛が身体の様々な種類のホルモン信号伝達に重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた。2018年1月8日付Nature Genetics オンライン版に掲載されたUCSFの新しい研究で、一次繊毛が脳内の信号伝達に重要な役割を果たしていることが示されている。この論文は、「Subcellular Localization of MC4R with ADCY3 at Neuronal Primary Cilia Underlies a Common Pathway for Genetic Predisposition to Obesity (神経細胞の一次繊毛でのMC4RとADCY3の細胞内局在が肥満の遺伝的素因の一般的経路の背景)」と題されている。神経科学者は、脳の信号伝達というとシナプスと呼ばれる部位におけるニューロン間の直接的な化学的または電気的なコミュニケーションと考えることになれてしまっているが、この新しい研究結果では一次繊毛における化学的信号伝達も重要な役割を果たしていることが示されており、このことはこれまで見過ごされてきた。研究者は、さらに、この研究結果から世界的に拡大している肥満傾向に対する新しい治療法の可

細胞は、エキソソームと呼ばれる膜を持った超微小な包みを分泌し、この包みは体の一箇所から他の箇所に重要なメッセージを運ぶことができる。MITその他の研究機関の研究者らがこのメッセージを捕捉する手法を開発した。この手法はがんや胎児異常などの問題の診断にも用いることができ、そのための新開発の装置はマイクロ流体工学と音波を組み合わせてエキソソームを血液から分離するようになっている。   同グループでは、この技術を携帯できる大きさの装置に組み込むことで臨床現場で患者の血液サンプルを分析し、その場で診断が出せるようにしたいと考えており、そうなれば現在使われている、扱いが難しく、しかも時間のかかる超遠心分離法を必要としなくなる。2017年9月18日付のPNASに掲載された研究論文の首席著者の一人で、MITのDepartment of Materials Science and Engineeringの主任科学研究員、Dr. Ming Daoは、「このエキソソームは、身体に異常があった場合にその異常に固有の物質を含んでいることが多い。そのエキソソームを分離すれば生物学的解析にかけることで、その異常をつきとめることができる」と述べている。この論文の他の首席著者として、シンガポールのNanyang Technological Universityの次期大学総長で、かつてMITのEngineering学部長を務め、現在はMITでVannevar Bush Professor of Engineering Emeritusを務めるDr. Subra Suresh、Duke UniversityのMechanical Engineering and Materials Science教授を務めるDr. Tony Jun Huang、ピッツバーグ市にあるMagee-Women’s Research

 スエーデンのLinköping Universityの新しい研究によれば、犬が飼い主との接触を求める傾向は、オキシトシン・ホルモン感受性の遺伝的変異と関連しているとのことである。この研究結果はHormones and Behaviorに掲載され、オオカミからペットとしての犬になるまでの過程に新しい知見を加えている。   この記事は、「Intranasal Oxytocin and a Polymorphism in the Oxytocin Receptor Gene Are Associated with Human-Directed Social Behavior in Golden Retriever Dogs (鼻腔内オキシトシンとオキシトシン受容体遺伝子多型がゴールデン・リトリーバーの対人社会行動と関連)」と題されている。野生動物のオオカミから現在のようなペット動物になるまでの過程で犬は人間と協同できる独特な能力を身につけた。その能力の一つの特徴として難しいことが起きた時に「助けを求める」意思のあることが挙げられる。ただし、犬種ごとに大きな違いがあるし、同じ犬種でも個体によって違いがある。Linköping UniversityでProfessor Per Jensenが指導した研究グループは、なぜ犬によって人間と協力関係を結ぶ態度が異なるのかを説明づけられる現象を見つけた。研究グループは、オキシトシン・ホルモンが関わっているのではないかと疑っていた。人間でも動物でも個体の社会性にはオキシトシンが関係していることはよく知られている。オキシトシンの効果は細胞内でオキシトシンと結合している受容体の機能に左右される。これまでの研究で、人間とコミュニケートする犬の能力の違いはオキシトシン受容体のコードを持っている遺伝子の付近の遺伝物質の変異と関連していることが示唆さ

1世紀近く前、特定動物でカロリー摂取を抑えると寿命が飛躍的に伸びることが突き止められたが、それ以後、数々の研究の積み重ねにもかかわらず、その原因は詳しく解明されていない。Temple University (LKSOM), Lewis Katz School of Medicineの研究グループが難関を乗り越え、解明に向けて一歩を進めた。 2017年9月14日付Nature Communicationsオンライン版に掲載された新研究で、加齢と共にエピゲノムの変化する速度が種全体の寿命と関係があり、カロリー摂取制限でこの変化速度を抑えられることが突き止められ、長寿と関わっている可能性を示しているのである。この研究論文は、「Caloric Restriction Delays Age-Related Methylation Drift (カロリー制限で加齢に伴うメチル化ドリフトを遅らせる)」と題されている。LKSOM のFels Institute for Cancer ResearcのDirectorで、この新研究で主任研究員を務めたJean-Pierre Issa, MDは、「私達の研究で、加齢によるゲノム内のDNAメチル化の得失似独特のパターンを持つエピジェネティックドリフトがヒトよりサルで、またサルよりマウスでより速く進むことが明らかになった」と述べている。この研究結果で、マウスが平均で2,3年しか生きないのに、アカゲザルは約25年、ヒトは70年から80年生きることも説明がつく。DNAメチル化のような化学修飾が哺乳動物の遺伝子を制御しており、遺伝子が起動される時のための目印の役目を果たしており、この現象はエピジェネティックと呼ばれている。Dr. Issaは、「メチル化のパターンは加齢に従って着実にドリフト(漂流)していき、ゲノムの一部ではメチル化が増すのに対して他の部

カビ類は創薬にとって天然分子の豊かな宝庫ではあるが、様々な困難もあり、製薬会社もこの宝庫に手を付けることをためらってきた。ところが現在、研究者はゲノム解析、データ解析を用いてカビが産生する分子を効率的に選別し、新しい医薬、あるいは新世代のペニシリンをさえ見つける手がかりを見つける技術を開発した。   Northwestern University、University of Wisconsin-Madison、それにバイオテック会社のIntact Genomicsの研究者らが共同で行った研究結果が2017年6月12日付Nature Chemical Biologyオンライン版に掲載されている。この論文は、「A Scalable Platform to Identify Fungal Secondary Metabolites and Their Gene Clusters (カビの二次代謝産物とその遺伝子クラスターを同定するためのスケーラブル・プラットフォーム)」と題されている。Proteomics Center of ExcellenceのDirector、Weinberg College of Arts and SciencesおよびDivision of Hematology and Oncologyの教授を兼任するNeil Kelleher (写真), PhDは、「創薬は自然に還るべきだし、カビは新薬の宝庫だ。私達の研究でも、新薬の無尽蔵の源泉を提供するために工業レベルにまでスケールアップ可能な新しいプラットフォームを樹立した。私達の手法は、ペニシリンは新しく再発見する代わりに、体系的に新しく貴重な化合物を探しだし、その化合物を産んだ遺伝子を突き止めることだ。そこからさらに深く追究することができる」と述べている。研究者達は、何千あるいは何百万という数のカビ由来の

ある研究チームが総合的なレビューを行い、身体の脂肪組織が、その脂肪のタイプや体内の位置により、様々な形でがんの進行に影響しているようだと報告している。このレビューはAmerican Association for Cancer Research (AACR) のジャーナル、Cancer Prevention Researchの2017年9月号に掲載されている。この論文は、「Signals from the Adipose Microenvironment and the Obesity-Cancer Link—A Systematic Review (脂肪組織の微小環境からの信号と肥満-がんの関係—システマティック・レビュー)」と題されている。 このレビューはソルト・レーク・シティのUniversity of Utah, Huntsman Cancer Institute, Population SciencesのSenior Director, Cornelia M. Ulrich, PhDが首席著者を務めた。Dr. Ulrichは、「肥満体は世界中で急激に増えており、がんの主要リスク要因の一つと認識されるようになっている。事実、16種のがんが肥満と結びついている。肥満とがんとの間に潜む機序を突き止めることが喫緊の重要事だ」と述べている。また、「以前の研究で、脂肪がいくつかの形でがん発生の一因になっていることが示されている」と述べている。たとえば、肥満が炎症のリスクを増大させるが、その炎症はかなり前からがんと関連があるとされている。さらに、肥満は、がん細胞代謝や免疫クリアランスに影響すると考えられており、いずれもがんの進行とひろがりを促進する可能性がある。また、Dr. Ulrichは、「脂肪とがん化の関係は、『シグナル混信』、つまり、2つの異なるタイプの細胞の間で複数の

幹細胞代謝についてはよく知られていないが、University of Texas (UT) Southwestern (CRI) のChildren’s Medical Center Research Institute の新しい研究で、幹細胞が異常に高いレベルのビタミンCを吸収し、そのビタミンCが幹細胞の機能を調節し、また、白血病の進行を抑制することが突き止められている。CRIのDirectorを務めるDr. Sean Morrison は、「体のアスコルビン酸塩 (ビタミンC) 量が少ないとがん発症リスクが高まることは知られていたが、その理由についてはよく分かっていなかった。今回の研究で少なくとも造血系については幾分か解明することができた」と述べている。代謝分析にはかなりの数の細胞を必要とするが、一方で組織内の幹細胞の数は非常に少ないことから、これまで幹細胞代謝の研究は困難だった。  2017年8月21日付Nature誌オンライン版で発表された研究の過程で開発されたテクニックにより、幹細胞のように非常に数の少ない細胞でもごく普通に代謝量を測定することが可能になった。このテクニックの採用により、骨髄の全てのタイプの造血細胞がそれぞれ独特の代謝特性を持っており、栄養の摂取と利用に違いのあることが突き止められた。幹細胞の主要な代謝特性の一つとして、並外れて多量のアスコルビン酸塩を吸収することが挙げられる。研究チームは、幹細胞の機能にアスコルビン酸塩が重要なのかどうかを突き止めるため、グロノラクトン・オキシダーゼ (Gulo) 欠乏症のマウスを使って調べた。Guloは、人間を除き、マウスを含めたほとんどの哺乳動物が体内でアスコルビン酸塩を合成するために必要とする酵素である。この酵素を持たないGulo欠乏マウスは、人間の場合と同じようにアスコルビン酸塩を食物を通して外から摂取し

2017年Lasker-DeBakey Clinical Medical Research Awardは、子宮頸がんその他のがんを予防するヒト・パピローマウイルス (HPV) ワクチン開発を可能にする技術の進歩に携わった2人の科学者を顕彰した。Dr. Douglas R. LowyとDr. John T. Schiller (いずれもNational Cancer Institute所属) は、大きな公衆衛生問題に取り組み、大胆ながら計算されたアプローチで圧倒的な困難を乗り越えた。   2人は、女性のがんとしては世界的にも発生率第4位の子宮頸がんや、HPVによって引き起こされる他の悪性腫瘍、疾患の発生率と死亡率を引き下げる安全で効果的なワクチンの設計図をいくつか開発した。毎年新しく50万人を超える女性が子宮頸がんと診断され、毎年25万人を超える女性がこの悪性腫瘍のために亡くなっている。2008年にノーベル生理学・医学賞を受賞したDr. Harald zur Hausenは、1980年代にこの疾患と特定タイプのHPVの感染との関係を突き止めている。その結果、子宮頸がんの70%程度がHPV16とHPV18によるものと判明しており、残り30%は10種の他のタイプのHPVによるものと突き止められている。さらに、HPV16、HPV18,その他の「ハイリスク」HPVは、外陰部、膣、陰茎、肛門、咽喉などのがんの原因になっている。 他のHPVファミリーには陰部疣贅の原因になるものもあり、HPVウイルスは性行為によって伝染するが、通常、感染症状そのものは自然に治る。ところが、中にはしつこいものもあり、また、ハイリスクHPVはがん遺伝子を持っており、その活動が宿主細胞の無制限の増殖につながる。正常細胞ががん細胞に変化するには少なくとも15年、通常はそれ以上の年月がかかる。1990年代初め頃

Johns Hopkins病院の研究チームは、早期膵臓がんのがん固有のDNAとタンパク質バイオマーカーを検出する血液検査法の開発を発表した。複合「液相生検」で、早期膵臓がん患者221人の血液サンプルのバイオマーカーを検出したのである。 2017年9月4日付PNAS誌オンライン版に論文が掲載されたこの研究で、DNAとDNAの産物であるタンパク質との双方のマーカーの検出で疾患を判定する方法は、DNAのみの検出よりも2倍も正確であることを示している。そのような液相生検は、血液中を無数の正常なDNAが流れる中からがん固有のDNA分子を拾い上げることを狙いとしている。がんはその突然変異したDNAを血流中に放出する傾向があるため、ゲノム・シーケンシング・ツールを使って血液をふるいにかけると、そのようながん固有のDNAを見つけることができる。Johns Hopkins University School of MedicineのAssistant Professor of Surgeryを務めるJin He, MDは、「早期膵臓がんは、ほとんどの場合イメージング・スキャンの際に偶然発見されるだけで通常は何の症状も見せない。その結果、しばしばかなり進行してから発見されるため、切除、手術を行うことが難しい状態になっている」と述べている。Dr. Heは、「過去30年間、切除可能な段階でがんを発見することに関してはほとんど進歩を見せていない。この検査法の効力がもっと大規模な研究で確かめられれば、早期の症候を見せない膵臓がんの発見に用いることができるようになる」と述べている。また、研究チームは、「この検査法はまだ研究室の外に持ち出せる段階ではないが、がんから血液中に放出されるタイプの突然変異DNAはきわめてがん固有のものだ」としている。ジョンズ・ホプキンス・キンメルがんセンターのルードヴィヒ・セ

唾液の分析から、サブサハラ・アフリカに生活する現生人類の先祖の遺伝物質に今は絶滅した古代の「ゴースト」人類の片鱗を発見。また、その研究から、異なる古代人類の間の性的接触もまれではなかったことを示す証拠がさらに付け加えられた。 これまでの研究で、アジア、ヨーロッパの現生人類の祖先がネアンデルタールやデニソワ人など旧人類と同系交配していたと判断されている。最近の遺伝子解析で古代アフリカ人が他の初期ヒト科人類と交雑していたことを示す証拠が次々と見つかっているが、この新研究もその一つである。University at Buffalo (UB), College of Arts and SciencesでAssistant Professor of Biological Sciencesを務めるOmer Gokcumen, PhDは、「初期ヒト科人類の間で同系交配は例外ではなく、普通のことだったようだ。私達の研究では、唾液に含まれているMUC7と呼ばれる重要なムチン・タンパク質の進化を調べた。そのタンパク質のコードを持っている遺伝子の履歴を重点に調べた結果、現代のサブサハラ・アフリカン人に古代人類の混合物の存在が確認できた」と述べている。この研究論文は、2017年7月21日付Molecular Biology and Evolutionオンライン版に掲載されている。Dr. Gokcumen と、UBのSchool of Dental MedicineでProfessor of Oral Biologyを務めるStefan Ruhl, DDS, PhD.がその研究を指導した。このオープンアクセス論文は、「Archaic Hominin Introgression in Africa Contributes to Functional Salivary MUC7 Genetic Var

Institute of Molecular Biology (IMB) と Johannes Gutenberg University Mainz (JGU) の研究チームが、染色体の末端を保護しているテロメアの秘密をさらに明らかにした。TERRAと呼ばれる種類のRNA分子が、極端に短くなり、壊れたりしたテロメアを、補修するように機能することを発見したのである。2017年6月29日付Cell誌に掲載された研究論文は、加齢やがんにおける細胞の老化や生存を調整する細胞内のプロセスへの理解をさらに深めている。   この論文は、「Telomere Length Determines TERRA and R-1 Loop Regulation Through the Cell Cycle (細胞周期を通じてテロメア長がTERRAとR-Loopの調整を規定)」と題されている。靴紐の両端のプラスチック・チューブが紐の撚りのほぐれるのを防いでいるように、テロメアも染色体の端末を保護している。ところが細胞の全寿命を通じてテロメアは細胞分裂のつど短くなり、末端保護も次第に効果が薄れていく。テロメアが短くなりすぎると、細胞はそれを遺伝物質が損なわれた信号と受け取り、それ以上分裂しなくなる。テロメアの短縮と細胞分裂減少は加齢の明確な特徴であり、加齢化の一因とも考えられている。同時に、テロメアの短縮はがんに対する防御機序とも考えられる。なぜなら、きわめて増殖力の強いがん細胞はテロメアが短くならなければ分裂する一方だからである。したがって、テロメアの短縮は両刃の剣であり、加齢とがん防止の間で微妙なバランスを取らなければならないのである。細胞の寿命が尽きる前に不用意な原因でテロメアが短くなった場合、テロメアを修復しないと細胞の老化が早まってしまう。JGU Institute for Develop

瞑想、ヨガ、太極拳など心身介入療法 (MBI) は単に心身をリラックスさせてくれるだけではない。Coventry、Radboud両大学の研究によれば、病気やうつ病を引き起こすDNAの分子反応を逆転させてくれるらしいのである。2017年6月16日付Frontiers in Immunologyオンライン版に掲載されたレビュー論文は、マインドフルネスやヨガなど様々なMBIが遺伝子の挙動に与える影響について過去10年間の研究をレビューしている。 このオープンアクセス・レビュー論文は、「What Is the Molecular Signature of Mind–Body Interventions? A Systematic Review of Gene Expression Changes Induced by Meditation and Related Practices (心身介入療法の分子指標は何か。瞑想その他関連実践による遺伝子発現の変化の体系的な考察)」と題されている。両大学の研究者は、846人の被験者を対象にした過去11年間の18件の研究をすべて調べた結果、MBIの実践の結果、体内で一定パターンの分子レベルの変化が起きており、その分子レベルの変化が心身の健康に利益をもたらす仕組みがつかめたとしている。研究チームは、遺伝子発現、つまり、身体、脳、免疫系などの生体的な構成を左右するタンパク質を産生する遺伝子がどのように影響を受けるかということに注目した。 人が強いストレス状況にさらされると、闘争逃走反応を司る交感神経系 (SNS) が刺激され、これが、遺伝子発現を調節する核内因子カッパB (NF-kB) という分子の産生を増やす。NF-kBはストレスに対応し、細胞レベルで炎症を引き起こすサイトカインと呼ばれるタンパク質を産生する遺伝子を起動する。この反応は短時間

ある研究チームが、ブロッコリに多く含まれている抗酸化物質が抗糖尿病物質でもあることを突き止めた。糖尿病患者を対象とした研究で、参加者にスルフォラファンを多く含むブロッコリ抽出物を食べさせたところ、血糖値が大幅に低下したということだ。スエーデンのUniversity of Gothenburg, Metabolic Physiology講師を務め、Lund University Diabetes Centreに所属するDr. Anders Rosengrenは、「これが既存の治療薬に対する貴重なサプリメントになる可能性がある」と述べている。 2017年6月14日付Science Translational Medicineに掲載された研究論文は、Sahlgrenska Academy、University of Gothenburg、Lund UniversityのFaculty of Medicineが共同で長年研究を続けてきた成果である。オープンアクセスとして掲載されたこの研究論文は、「Sulforaphane Reduces Hepatic Glucose Production and Improves Glucose Control in Patients with Type 2 Diabetes (スルフォラファンが2型糖尿病患者の肝糖産生を抑え、血糖抑制改善)」と題されている。この研究の目的は、2型糖尿病の重大なメカニズムである肝臓のブドウ糖産生亢進を抑制する、新しい治療薬の発見にあった。標準的な治療薬のmetforminもまさしくその薬効を持っているが、消化器系の副作用を引き起こしやすく、また腎機能が甚だしく衰えている場合には投与できないため、この薬剤を使えない糖尿病患者も多い。研究チームは、まず糖尿病患者の肝臓の遺伝子変化のマッピングから始めた。 マッピン

King's College LondonとUniversity of Bristolの研究チームの新研究によれば、耽溺的な性格や攻撃的な性格と関わる遺伝子に出産時に起きるエピジェネティックな変化が、児童の素行問題と関わっている可能性が示されている。イギリスでは、児童治療専門家に紹介状が送られるもっとも多い理由は、ケンカ、ウソ、盗みなどの素行問題 (Conduct problems : CP) であり、その損失は莫大である。   10歳未満で素行問題を引き起こす (早発性CPと呼ばれる) 児童は、生涯にわたる重大で慢性的な反社会的行動のリスクもはるかに高く、犯罪、福祉依存、医療ニーズなど大きな社会コストにつながる。素行問題には遺伝因子が大きく影響していることはよく知られており、問題を起こす児童と起こさない児童の違いの50%から80%程が遺伝因子によるものと考えられている。しかし、遺伝因子と環境的影響が、特に胎児の発育期において、どのようにからみあって成長後の素行問題リスクを高めるのかということについてはほとんど分かっていない。DNAメチル化で起きている変化は、遺伝子スイッチのオン・オフを決めるエピジェネティックなプロセスであり、それを理解することが成長後の素行問題の効果的な予防法を開発する手がかりになる可能性がある。2017年6月12日付Development & Psychopathologyオンライン版で発表されたこの研究論文は、BristolのAvon Longitudinal Study of Parents and Children (ALSPAC) のデータを用いて、出生時のDNAメチル化と4歳から13歳までの児童の素行問題との関連を調べている。また、研究チームはそれまで早発性の素行問題と関係があるとされていた妊婦の食生活、喫煙、飲酒、日常的なストレ

アルツハイマー、ハンチントン、パーキンソン、この3人の人名は、いずれも脳のニューロンを損壊させ、その部位全体を萎縮させた上に死に至らしめる病気の名前として永久に記憶されることになる。この3つの病気だけでなく、神経変性疾患と呼ばれる病気のほとんどが、有毒タンパク質の蓄積で最終的にニューロンが死滅すると関連して捉えられている。   しかし、Gladstone Institutesの研究者チームが、この種の病気の進行は有毒物質の蓄積が原因なのではなく、個々のニューロンが毒素を排出できなくなるところに原因があることを突き止めた。さらに、同チームは、ニューロンの毒素を排出する能力を増強し、それによって、疾患の致命的な影響から脳を守る治療ターゲットを突き止めている。2013年7月21日付オンライン版「Nature Chemical Biology」に掲載された記事で、Gladstone研究室の同研究チームの一人で研究員のSteve Finkbeiner, M.D., Ph.D.は、新しく開発された技術で初めて、個々のニューロンが有毒なタンパク質の蓄積に対処する様子を見ることができたと述べている。グループは研究対象をハンチントン病のモデルに絞り、脳内の異なるタイプのニューロンがそれぞれ毒素の蓄積に異なる反応を示し、うまく対応できるニューロンもあればできないニューロンもあることを観察した。その成果は、ハンチントン病によってある部位のニューロンは死滅し、他の部位のニューロンは生き延びるということが起きるのはなぜかという問題にヒントを与えてくれている。GladstoneのTaube-Koret Center for Neurodegenerative Disease Researchの長を務めるDr. Finkbeinerは、「ハンチントン病は、遺伝性の致命的な疾患で、筋肉協調、認識力、人

日本の研究チームが、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) とアレルギー喘息の激しい炎症を解明し、その治療法を発見する上でさらに一歩を進めたとの研究論文が、「The FASEB Journal」2013年8月号に掲載された。その論文では、「ロイコトリエン B4と呼ばれる炎症制御分子の2種類の受容体が、アレルギー喘息やCOPDの炎症のオン/オフ・スイッチで正反対の機能を果たしている」と述べている。   研究チームは、この受容体の一つは「BLT1」と呼ばれ、炎症を促進する働きがあり、もう一つの受容体は「BLT2」と呼ばれ、アレルギー反応時に炎症を弱める働きがあることを突き止めた。これまで、BLT2が炎症反応を憎悪させると思われていただけに、これは重要な発見である。研究チームを指導した鹿児島大学大学院医歯学総合研究科呼吸器内科学の井上博雅 (M.D.) 教授は、「喘息やCOPDの患者の気道中ではロイコトリエン B4量が増えており、一方、アレルギー炎症でBLT1とBLT2が正反対の機能を持っていることから、医薬開発においてはBLT1とBLT2をそれぞれ別個のターゲットにしなければならない。将来、さらに優れた抗喘息薬、抗COPD薬が開発され、何百万人という数の患者を激しい喘息やCOPDの発作から救えることを希望している」と述べている。 この発見のあった研究では、研究者はBLT2遺伝子欠損マウスと正常なマウスのアレルギー反応を比較し、その後でアレルゲンを吸入させ、アレルギー喘息反応を起こさせた。そうすると、BLT2遺伝子欠損マウスでは、正常なマウスに比べると炎症を起こしている肺細胞の数が多かった。BLT2遺伝子のないマウスの肺のアレルギー炎症は、正常なマウスの場合より強かったのである。また、BLT2遺伝子のないマウス・グループでは、T白血球からアレルギー炎症の細胞間情報伝達をするインター

まるでSF話のようだが、人間の体内にいて数では人体細胞の100倍もの数になる腸内細胞が、人間の食欲などに影響し、腸内細胞自身の食べたい物を人間が欲するように仕向けている上に人間の肥満をもたらしているのではないかという研究結果が出されている。2014年8月7日付BioEssaysオンライン版に掲載された研究論文で、University of California-San Francisco, (UCSF)、Arizona State University、University of New Mexicoの研究チームは、最近の科学文献のレビューを行い、「腸内細菌は、人間が自分の選択で摂る栄養物を何でも受け身で吸収するのではなく、細菌自体の繁殖に適した栄養素を取るよう人間の摂食行動や食餌選択に影響を与えていると考えられる」との結論を下した。必要とする栄養素は細菌種ごとに異なる。   たとえば脂肪を好む細菌、ショ糖を好む細菌などがある。論文の筆頭著者でUCSFのHelen Diller Family Comprehensive Cancer Center内Center for Evolution and Cancer共同設立者のAthena Aktipis, Ph.D.によると、「ことなる細菌種は、食餌を求め、細菌の生態系である人間の消化器官の中でそれぞれの棲息場所を確保するために互いに競争するだけでなく、人間の行動についても、人間自身の思惑とは異なる目的を持っていること」も多い。その正確な機序はまだ明らかではないが、研究チームは、全体として腸内微生物叢と呼ばれるこの多彩な微生物の社会は、信号分子を腸内に放出することで人間の選択に影響を与えているのではないかと考えている。腸は免疫系、内分泌系、神経系などとリンクしており、放出された信号分子が人間の生理的な反応、行動的な反応を左右

ニューヨーク市にある、ワイルコーネル医科大とロックフェラー大学の研究チームが、脾臓を欠いて生まれてくる無脾症に関連する遺伝子を、初めて同定した。無脾症は感染に対する抵抗が極めて弱いため、この疾患を持った子供達は感染症による死の危険に晒されているのだ。遺伝子Nkx2.5は、マウスにおいては、発生初期の段階で脾臓の創生関与している事が実証された。   この研究はDevelopmental Cell誌の2012年5月3日号オンライン版に発表されたが、簡単な血液検査でNkx2.5の変異を調べることにより、生まれてくる赤ん坊が無脾症である可能性を予測できるというのだ。確定診断はスキャン画像によって行なわれる。「近年では適切な抗生物質の使用により、無脾症の子供達が死に至る事はありません。この診断は予め不慮の死を防ごうとするものなのです。」と主席研究者であり、ワイルコーネル医科大の細胞・発生生物学准教である、リシア・セレリ博士は語る。感染を防御する機構の一部は脾臓が担っているので、無脾症の子供には一生を通して抗生物質の投与計画を建てねばならない。しかし残念な事に現実にはほとんどの場合、致命的な感染症に罹患して肺炎や髄膜炎を起こし、あっと言う間に亡くなった後の剖検で、この先天性無脾症候群である事が判明するのである。「そういう訳ですから、この症候群は極めて稀だとは言っていられないのです。それに、感染症で亡くなった子供が全ケース剖検されるわけではありません。」とセレリ博士は話す。先天性無脾症候群の患者は、脾臓を欠損するという一つの異常だけを有するのが普通だが、時には心臓や血管に異常を有する場合もある。そのような症例は散発的に見受けられ、遺伝性ではないと考えられる。この疾病の1形態として孤立性先天性脾欠損症(ICA)が知られており、これは脾臓の欠損以外に発生学的な異常は無いのが特徴である。そ

The Scripps Research Institute (TSRI) の研究者が主導して行った新しい研究によると、免疫を制御している数種の小分子があって、それらが少しでも過剰生産されるとリンパ腫と呼ばれる血液がんの引き金になることが突き止められた。リンパ腫その他の何種類かのがんで6種のmicroRNA分子が過剰生産されることはすでに知られているが、これまでその6種のmicroRNA分子のグループこそがそのタイプのがんで主要原因になることは知られていなかった。   その研究では、microRNAががん成長を引き起こし、持続させる主要な生体パスウエーも突き止められている。TSRIのAssistant Professor Changchun Xiaoは、「このmicroRNAのクラスターががん成長を促す仕組みを実証することができたので、今はこのクラスターの影響を抑える治療法を考えるときではないか」と述べている。Dr. Xiaoは、European Molecular Biology Organization の出版物、2013年8月6日付EMBO Journalに掲載されたこの研究で主任研究員を務めている。1990年代に発見されたばかりのmicroRNAは、何種類ものごく短い分子でおよそすべての動物植物の細胞中で活動している。このmicroRNAは、いずれも遺伝子の「照明の光量スイッチ」のような機能を持っており、各遺伝子の複製に付着して、遺伝子がタンパク質に翻訳されないよう効果的に抑制している。このようにしてmicroRNAは、様々な細胞のプロセスを調整することができる。この研究の焦点になったのは、13番染色体のたった一つの遺伝子でエンコードされる、miR-17~92と呼ばれる6種のmicroRNAのクラスターであった。Dr. Xiaoのラボの研究を含め、miR-17~

地上に生命体が現れる前には混沌とした液状の分子が漂っていた。これを「原始スープ」という。ある時、ごく少数の特殊な分子が自己複製を始めた。この自己複製が生化学的過程の始まりで遂には最初の生命体が出現することになるという仮説については科学者の支持で一致している。しかし、どのようにして分子の自己複製が始まったのかということは科学界にとって永遠の謎の一つだ。   しかし、2013年9月13日付「Journal of Biological Chemistry」誌に掲載された研究論文で、University of North Carolina (UNC) School of Medicineの生化学者、Charles Carter, Ph.D.と同僚研究者らが、生命体の発生について興味深い仮説を提出している。この論文はJBCの、「今週の論文」の一つに選ばれた。Dr. Carterチームの研究は、地上で生命が発生する上で重要な役割を果たしたのではないかと考えられる原始的なタンパク酵素を再現した実験結果に基づいている。Dr. Carterの発見は、これまで一般的に考えられていたような、「リボ核酸 (RNA) が単純なタンパク質の力を借りずに自己複製し、現在知られているような生命体にまで行き着いた」という説を真っ向から脅かすものだった。1980年代初め、研究チームは、ribozymes、つまりRNA酵素が触媒として作用することを突き止めた。RNAが青写真の役目をすると同時に、その青写真を複製する化学触媒の役割も果たすことができるという証拠だった。この発見が、「RNA世界」仮説に結びついた。この説では、RNAが単独で分子の海から生命が浮かび上がってくる引き金になったとしている。しかし、この仮説が正しいとするためには、古代のRNA触媒が、現在の酵素と同じようにほぼ正確に複数のRNA青写真を複

2015年4月9日付Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biologyオンライン版に掲載された「172か国における曇天下のUV-B照射と膵臓がん」と題された研究論文で、UC San Diego School of Medicineの研究グループが日射量の最も低い国で膵臓がん発症率が最高になっていると報告している。 日射量の低さは雲が厚いことと高緯度が関わっている。    第一著者、UC San Diego Moores Cancer Centerのメンバーで、Adjunct Professor in the Department of Family Medicine and Public Healthを務めるCedric F. Garland, DPHは、「高緯度や曇天の多い地域の住民は、1年のうち、ビタミンDを十分に作ることができない時期が長い。そのため、膵臓がんのリスクが通常より高くなる。赤道に近い晴天の多い地域の住民は、赤道から遠い地域の人に比べ、年齢で調整した後の膵臓がん発生率がわずか6分の1である。日照不足の影響の大きさから、ビタミンD欠乏症が膵臓がんのリスクを高めている可能性があることが示唆されているが、まだ証明されていない」と述べている。 ごくわずかな種類の食品に天然のビタミンDが含まれている。サケやマグロなど脂の多い魚はビタミンDの豊かな食品だし、牛レバー、チーズ、卵黄などにも少量ながら含まれている。また、牛乳、シリアル、ジュースなどにも栄養強化として添加されることもあるが、専門家は、皮膚が日光にさらされた時、特に紫外線のUV-Bという波長領域にさられた場合に自分の体でビタミンDが自分の体内で作り出されなければならないと考えている。屋内でも窓ガラスを通して日光を受けた場合にはビタミンDが作られない

Johns Hopkins MedicineとUniversity of British Columbiaの研究者は、遺伝子シーケンシング・ツールを使い、子宮の外で子宮内膜状の組織が増殖し、ひどい痛みを伴う良性子宮内膜症患者24人の組織サンプルから一組の遺伝子変異体を発見した。2017年5月11日付New England Journal of Medicineに掲載されたこの発見により、いつか、侵襲性の強い子宮内膜症と臨床的に緩慢な非侵襲性子宮内膜症とを判別する分子レベルのテストを開発できる可能性がある。 NEJMの研究論文は、「Cancer-Associated Mutations in Endometriosis without Cancer (非がん性子宮内膜症中のがん関連遺伝子変異体)」と題されており、Johns Hopkins University School of MedicineのDepartment of Gynecology & ObstetricsでRichard W. TeLinde Distinguished ProfessorとJohns Hopkins Kimmel Cancer CenterでBreast and Ovarian Cancer ProgramのCo-Directorを務めるIe-Ming Shih, MD, PhD.は、「私達の研究での変異体の発見は、積極的治療を必要としているか、そうでないかを現場の医師が判定するために、子宮内膜症を分類する遺伝学ベースの検査法開発の第一歩ではないか」と述べている。子宮内膜症は、子宮内の粘膜が子宮の外、特に腹部内に形成増殖される疾患であり、月経閉止前の女性の約10%がこの疾患にかかり、そのうち半数が腹痛や不妊に悩まされている。1920年代、Johns Hopkinsの卒業生で婦人科医

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