創傷治療治験中のペプチド変異体が、心臓発作の『バイスタンダー効果』による損傷を防御する可能性。研究グループはエクソソームによる防御ペプチドの送達を検討中。
健康な心筋組織を保護することで損傷を減らす心臓発作の直後に服用できる薬があると想像して欲しい。 心臓発作が起きた場合、心臓の専門医は、「時は筋肉なり」と言うと、バージニア工科大学カリリオン心臓医療センター・フラリン生物医学研究所のディレクターであるRobert Gourdie博士(写真)は語った。
血流によって酸素が供給されないと、心臓細胞はすぐに死ぬ。 しかし、心臓発作は血液と酸素を心臓細胞の隔離された部分だけしか減らすことができず低酸素性虚血性傷害を引き起こすが、死にかけている細胞は隣の細胞に信号を送る。
「問題は、死にかけている組織の領域は隔離されていないことだ。損傷した心臓細胞は健康な細胞に信号を送り始め、損傷はさらに大きくなる。」
そうバージニア工科大学のGourdie博士(心臓再生医学研究、生物医学工学および機械学科の教授)は述べた。
科学者は、この損傷信号が近くの健康な組織に広がることを「バイスタンダー効果」と呼ぶ。
しかし、もし近くの心筋細胞が無傷のまま、低酸素性虚血性損傷によって直接影響を受けた細胞グループの損傷を局所化して維持する方法があったらどうだろうか?
アメリカ心臓学会誌に2019年8月19日にオンラインで公開された研究では、Gourdie博士が率いる研究者チームによって開発された新しい分子が、心臓発作中およびその後でも心臓組織の維持に役立つことが明らかにされた。
オープンアクセス論文は、「αカルボキシル末端1ペプチドとコネキシン43カルボキシル末端との相互作用は、虚血再灌流傷害後の左心室機能を維持する。(Interaction of α Carboxyl Terminus 1 Peptide with the Connexin 43 Carboxyl Terminus Preserves Left Ventricular Function After Ischemia‐Reperfusion Injury)」と題されている。
10年程前、Gourdie博士は、研究室のポスドク博士であるGautam Ghatnekar博士と共同で、有望な発見に遭遇した。 Gourdie博士のチームは、バイスタンダー効果の重要な側面の制御に関与する細胞膜チャネルの活性を標的とする化合物を発見した。
しかし、alphaCT1と呼ばれるこの化合物は、特に皮膚創傷治癒に関して、予期せぬ有益な効果ももたらした。
「炎症を軽減し、糖尿病性足潰瘍などの慢性創傷の治癒に役立つことがわかった」と、Gourdie博士は述べた。 Ghatnekar博士とGourdie博士は、化合物の可能性を認識して、傷を治療するための第III相臨床試験中のalphaCT1を事業化するために、FirstString Research Inc.という会社を設立した。
一方、Gourdie博士は、薬物が分子レベルでどのように機能するかを理解しようとし、アメリカ心臓学会で発表されたばかりの研究に至った。
「このペーパーは問う:このペプチド薬剤は実際にどうやって働くのか?」とGourdie博士は語った。
Gourdie博士のグループは、親分子とわずかに化学的な違いのある分子を設計したが、これは予期せぬ発見につながった。 alphaCT1バリアントの1つ、alphaCT11と呼ばれる分子は、親分子よりも高い効果を示した。
「AlphaCT11は、心臓発作中に発生するのと同様の虚血性損傷から心臓を保護する上で、元のペプチドよりもさらに効果的であると思われる」とGourdie博士は述べた。
新たに発表された研究では、虚血性傷害を引き起こす血流の損失の20分後に与えた場合でも、alphaCT11は強力な傷害低減効果を発揮することを明らかにしている。 同じ試験を行った場合、親ペプチドは、虚血性傷害の後に投与された際に心臓保護効果を提供するようには見えなかった。
「AlphaCT11は、心臓発作を治療し、心臓発作の直後に発生する損傷の拡大を防ぐための新しい原理を提供できる」と、Gourdie博士は述べている。
研究者は、隔離された実験用マウスの心臓を灌流させ、臓器を生かして数時間鼓動させた。
バージニア・コモンウェルス大学のAntonio Abbate 博士とStefano Toldo 博士との共同研究を通じて、alphaCT11が生きているマウスでどのように機能するかを調べる計画だ。
エクソソーム による送達
Gourdie博士は、エクソソームと呼ばれる天然由来の小さな脂肪滴を使用してalphaCT11を送達する新しい方法も開発している。 これらの新しい実験は、心臓発作を起こした患者の臨床試験へ足がかりを提供するだろう。
研究の貢献者たち
主な共著者である、バージニア工科大学で博士号を取得した中国深セン小児病院の小児心臓専門医であるJingbo Jiang博士とポスドク研究員であるDaniel Hoagland博士はともに、Gourdie博士の研究室のスタッフである。
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バージニア工科大学カリリオンのフラリン生物医学研究所の教授であるRobert Gourdie博士は、近くの心筋細胞を無傷のままにしながら、低酸素性虚血性損傷の損傷を制限する方法に取り組んでいる。(Credit: Virginia Tech)
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