Weill Cornell Medical Collegeの研究グループを中心とする国際的な研究チームは、膵臓がんが肝臓に転移する分子レベルの正確な過程を明らかにした。この過程こそ発生率の高い膵臓がんの死亡率を押し上げている要因である。研究チームは、「私達の研究成果によってこの過程の理解を通し、転移を遅らせることを中心とする治療法を確立し、新しいバイオマーカーを提示することで膵臓がんの早期発見に役立てることができるだろう」と述べている。
2015年5月18日付Nature Cell Biologyオンライン版に掲載されたこの研究論文は、がん細胞から放出される小さな球形のエキソソーム (画像) と呼ばれる梱包の役割に焦点を当てている。エキソソームはがん由来のタンパク質を含んでおり、肝臓の微小環境を膵臓がん転移に適した条件に変えることができるのである。American Cancer Societyの推定によると、アメリカ合衆国では年間49,000人近い人が膵臓がんと診断され、そのうち40,000人以上がこの病気で亡くなっている。膵臓がんはがんの中でももっとも死亡率の高い病気で、がん宣告から5年生存率はわずか6%、メディアンの生存率はわずか6か月にとどまる。
Nature Cell Biology掲載の論文は、「Pancreatic Cancer Exosomes Initiate Pre-Metastatic Niche Formation in the Liver」と題されており、論文の首席著者で、Weill Cornell Medical College, Department of PediatricsのStavros S. Niarchos Professor in Pediatric CardiologyとProfessor of Pediatricsを務めるDr. David Lydenは、「膵臓がんがこれほど致命的になるのは、がんがかなり進行するまで症状が現れず、そのためにがんの診断が遅れ、診断された時にはほとんど有効な治療法が残されていないということが原因している」と述べている。
研究チームは、マウス・モデルを使って膵臓がんの環境を再現し、膵臓がん初期にエキソソームが肝臓に移動する経路を見つけることを明らかにした。エキソソームは、肝臓に入り込むとクッパー細胞という肝臓に常在する免疫細胞に取り込まれた。そうすると、クッパー細胞の遺伝子発現とタンパク質構成が変化し、強力なタンパク質をつくるよう教えられた。さらにこのタンパク質が、肝線維症を含めた細胞グループの挙動に悪影響を及ぼしている。肝線維症は、負傷の治癒が過剰に活発になるプロセスで、正常な肝機能を阻害し、腫瘍の播種と成長に適した微小環境をつくり出すことがある。
Dr. Lydenの研究チームは、エキソソームが肝細胞に及ぼす影響の仕組みを調べている時に、膵臓がんのエキソソームにはマクロファージ遊走阻止因子 (MIF) と呼ばれるタンパク質が含まれていることを突き止めた。そこで、エキソソームからMIFを取り除くと、肝臓内のがん細胞を支える線維性環境の形成が抑えられることを発見した。
この論文の第一著者で、Weill Cornell, PediatricsのInstructor of Cell and Developmental Biologyを務めるDr. Bruno Costa Silvaは、「マウス・モデルにおける膵臓がん進行では、がん種の存在が認められるようになる前に、MIFを持ったエキソソームが体内に放出・循環され、肝臓を『教育』して、線維形成などが起きる。私達の研究から、これまで考えられていた以上に膵臓がんの早い段階で転移に適した微小環境が形成されていることが示された」と述べている。
このプロセスを突き止めた研究チームは、次に、このプロセスの各段階を阻止する実験を行った。Sandra and Edward Meyer Cancer CenterとGale and Ira Drukier Institute for Children's Healthで兼任しているDr. Lydenは、「プロセスの一つの段階を阻止しただけでも転移が減ることがわかった。この発見は将来的に複数の標的を狙った治療法の開発につながり、患者の生存率を高める可能性がある」と語っている。
Dr. Lydenの研究チームは、Weill CornellのChildren's Cancer and Blood Foundation研究室で研究を行っている。さらに、研究チームは、MIFが進行膵臓がん患者の体内を循環するエキソソームに顕著に発現することを突き止めた。膵臓がん患者の血液サンプルを調べた結果、肝臓への転移が起きた患者の場合には肝臓への転移がない患者に比べてエキソソームのMIFがかなり高い値を示すことが突き止められた。研究論文では、このタンパク質を測定することで、患者が転移性の肝臓がんを発症するかどうかを予測できるようになるのではないかと述べている。
このような発見も、Weill Cornell Medical College、Memorial Sloan Kettering Cancer Center、University of Nebraska Medical Center、University of Pennsylvania、Oslo University Hospitalの間の国際的共同研究によって可能になった。膵臓の炎症である膵炎と診断された患者の5%が膵臓がんを発症する。そのため、MIFを、この疾患の進行をモニターするバイオマーカーとして使うことができるのではないかというのが研究者たちの考えである。
現在、Dr. Lydenの研究チームは、非悪性膵臓病変患者の血液から分離したエキソソームのMIF量を測定することで、患者の膵臓がんリスクを正確に予測することができるかどうかを試している。このタイプの「液体生検」で、リスクの高い患者のがんの進行を防ぐために早期段階で切除手術をすることも可能になる。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Exosomes Containing MIF and Derived from Pancreatic Cancer Cells Drive Metastasis of Pancreatic Cancer to the Liver; These Exosomes May Serve As Vital “Liquid Biopsies” for Early Pancreatic Cancer; Discovery Could Lead to Treatments Delaying Metastasis


