第5回国際細胞外小胞学会 (ISEV 2016) 年次総会レポート4
オランダのロッテルダムで2016年5月4日から7日までの4日間開催された国際細胞外小胞学会総会 (ISEV 2016) の最終日土曜日は半日の閉会会議で、興味深い新しい研究や4日間の会期中に発表されたいくつかの優れた研究の授賞式などが行われた。
総会はJan Lotvall前会長が、オーストラリアのLa Trobe University, Department of Biochemistry & Geneticsの学部長を務めるAndy Hill氏 (写真) に会長職を引き渡す挨拶を行い、ISEV 2017年次総会は、カナダのトロントで開かれることを発表して閉幕した。この2つの発表に先立ち、アメリカのMedical School of Brown UniversityのOncology & Medicine教授を務めるPeter Quesenberry, MDと、同じくアメリカのVanderbilt University Medical CenterでCancer BiologyとCell and Developmental Biology教授を務めるAlise Weaver, MD, PhDが、臨床と科学研究の2つの面の総括講演を行った。
この総会を成功させた、ハンガリーのEdit BuzasをリーダーとするISEV国際地域組織委員会の素晴らしい努力も絶賛された。また、口頭とポスターによる優れたプレゼンテーションにも賞が与えられた。また、ISEVが、5月中にEV(Extracellular Vesicles)に関するオンライン・コースを立ち上げるとの発表もあった。
総会の最終日午前中は、「Experts Meet」小部会が、血液、母乳、尿という3種の生体液をテーマに3箇所に分かれて同時に開かれた。その後、最新の研究の口頭プレゼンテーションが3部会で同時に行われた。この3部会のハイライトとして、脊髄負傷の修復にエキソソームが何らかの役割を果たしていることや、ピコルナ・ウイルスの一種であるメンゴウイルスのような非エンベロープ型ウイルスによる感染にEVが果たしている役割に関する講演があった。
「Experts Meet」の「生体液としての血液」部会では、Ken Witwerが司会を務め、この生体液を用いるに当たっての重要な問題の討議を進めた。Ken Witwerは、「最近のISEVの調査の結果、いくつかの問題が特に関心を呼んでいた。たとえば、標準化、試料の採集と処理、EVの起源と多様性、疾患との関係におけるEV、最適な分離法、定量化などがある」と述べた。また、参加者の1人は、「再現性の重要性を考えれば、すべての手順を厳密に記録しておくことが必要だ」と強調していた。もう一人の参加者は、「実際的に既存の臨床システムの枠内で研究を進めることが必要だ」と指摘した。さらにもう一人は、「定量化をもっときっちりと行うことがEV研究全体にとって利益になることではないか」と発言した。演壇では、An HendrixがWitwerに加わり、サイズ排除クロマトグラフィの利点について少し発言した。アルブミン除去の問題も話題に上り、血液試料からアルブミンを完全に除去することは困難だという発言があったが、もう一方でアルブミンとEVの相互作用が重要であり、アルブミンを完全に除去することは好ましくないのではないかとの発言もあった。また、血液採取のタイミングや量も議論された。
EVに関する最新の研究部会:メンゴウイルス、KSHV、プラスモジウムとがん、脊髄損傷修復
土曜日の最新研究部会の一つでは、Kyra Defourneyから、「ポリオ・ウイルスと同じ綱に属するピコルナ・ウイルス科メンゴウイルスに対して、EV膜が細胞からの非溶解性の出口の役割を果たしているという研究報告があった。ピコルナ・ウイルスは、微小な非エンベロープ型一本鎖+鎖RNAウイルスである。メンゴウイルス感染では、ウイルスが細胞の外にあって溶解が起きないわずかな時間があるという観察を受けて研究が行われた。そのことから、感染した細胞からウイルスが出て行く輸送手段としてEVの関与が示唆されている。Defourneyは、完全なメンゴウイルスがEVの膜に包まれて、しばらくの間、感染した細胞の外で見つかることを確認した。彼女は、今後、非感染細胞がEV-メンゴウイルス複合体を取り込み、感染する過程を研究する計画を立てている。
Ohad Yogevは、がんがその微小環境での代謝を調節する仕組みを知るため、特定の発がん性ウイルス (カポジ肉腫関連ヘルペス・ウイルス、KSHV) が宿主細胞の代謝を乗っ取る様子を研究した。彼は、KSHV感染細胞がKSHV miRNAを持った エクソソーム を放出し、感染していない細胞にその エクソソーム が入ると、そこでKSHV miRNAが活発に遺伝子調節を始め、逆ワールブルク効果と呼ばれるプロセスで好気性解糖が始まることを突き止めた。この効果は、KSHV感染がん細胞の増殖を支える高エネルギー分子の産生を引き起こすため、ウイルスにとって有利な環境になると考えられる。
Yijun Yangは、マウスの体内でマラリア原虫のプラスモジウムが抗がん効果を持つこと、また、プラスモジウムが放出するエクソソームの役割に関する研究の報告を行った。マウスの実験で、プラスモジウム感染が腫瘍の増大や転移を阻害することはこれまでも知られていた。Yangは、ルイス肺がんモデルのマウスで、感染性プラスモジウムから放出されるエクソソームが血管新生を阻害することを示した。ところが、MSCを探して脊髄を調べたところ、まったく見つからなかった。さらに研究を続けた結果、MSC由来のエキソソームは、損傷した脊髄中のM2マクロファージ中で見つかった。そこから、MSC由来のエクソソームが、SCIに対するMSCの健康に有益な効果に関わっているのではないかという仮説が立てられている。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Final Talks, Clinical & Scientific Summaries, Awards Mark Final Day of ISEV 2016 Annual Meeting in Rotterdam; Long-Time Leader Jan Lötvall Steps Down & Australia’s Andy Hill Named New ISEV President; ISEV 2017 Scheduled for Toronto
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