2015年1月30日 (金) 午前11時過ぎ (米東部時間帯)、バラク・オバマ米大統領が予算2億1,500万ドルの「precision medicine initiative」の提案発表を行った。これはオバマ大統領が、「医学研究の分野で前例のない壮大な可能性を開くだろう」と形容する次世代DNAシーケンシングの活用を柱とする大規模な個別化医療実現に向けたプロジェクトである。

 

また、医師にとっては、「いつでも適切な時に個別患者に合わせた適切な治療」を可能にする医療であり、大統領は、「医学の新しい潮流を解き放つ時が来た」と語った。このイニシアチブについて、NIHのDirector、Dr. Francis Collins (M.D., Ph,D.) とNational Cancer Institute (NCI) のDirector、Dr. Harold Varmus (Ph.D) が共同コメントをNew England Journal of Medicineのウエブサイト: ( http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1500523 ) に投稿している。また、下記にリンクした大手メディアの関連記事も参照されたし。Dr. Collinsは、National Human Genome Research Instituteの元Directorであり、現在はHuman Genome Projectを率いており、また、長年にわたる医師/学者/研究者として、嚢胞性線維症遺伝子の発見など数々の優れた業績がある。


Dr. Varmusは、レトロウイルスがん遺伝子の細胞起源を発見し、1989年ノーベル生理学医学賞の共同受賞者になっており、Memorial Sloan-Kettering Caner Center (MSKCC) のPresidentやNIHのDirectorを務めた経歴もある。精密医療の力を示す感動的な例として、オバマ大統領をステージに紹介したのは19歳のハーバード大学生で最近に論文を発表したばかりのElana Simon だったということが挙げられる ( Elanaに関する話: http://newswire.rockefeller.edu/after-rare-cancer-diagnosis-teen-works-t... ) (Elanaのもうひとつの話: http://www.gastrojournal.org/pb/assets/raw/Health%20Advance/journals/ygast/PR_March05NewsStory.pdf )。

Elanaは12歳という若さでfibrolamellar hepatocellular carcinomaという、ごくまれな致死性の高い遺伝性の肝がんと診断された。Rockefeller Universityの生物物理学者の娘、Elanaは肝臓の大部分を切除する手術を受け、がんから解放された。

しかも、驚くべきことに、まだ十代の彼女は父親を含めた同僚研究者とともに次世代DNAシーケンシングを用いて、このまれな遺伝性の肝がんを引き起こす突然変異を正確に突き止める研究に取りかかった。

研究の結果、Elanaはfibrolamellar hepatocellular carcinomaを引き起こす特定のDNA突然変異を突き止めることに成功しており、その研究の成果は2014年2月28日、彼女がまだ18歳の時にScience誌に掲載された。 ( http://www.sciencemag.org/content/343/6174/1010 参照)。現在、ElanaはHarvardにおいて、このまれながん遺伝子の研究を続けている。

「オバマ大統領がELANAに感謝の言葉を述べ、2億1,500万ドルの"PRECISION MEDICINE INITIATIVE"について話を始めた」
大統領は、「人の運命が出生という偶然で決まってしまうことにこれ以上甘んじるべきではない。遺伝子突然変も我々の運命ではなく、私たちがそれを書き替えることができる。それが科学発見の力だ。今、世界を継続的に造り替えていくチャンスがやって来た。未来の世代に大きな約束をすることができる」と語った。

オバマ大統領は、2015年2月2日 (注:この記事は同年1月30日付) に下院に提出する予定の予算案にこの2億1,500万ドルのイニシアチブを盛り込む予定であり、議会で与野党一致の支持を受けることに自信があると語っている。大統領は、1月30日の発表においてイニシアチブの4つの主要な方針を明らかにしている。

まず、NCIとの密接な協力の下にがんの効果的な新治療法の開発を進めること、次に、FDAによる次世代DNAシーケンシング・テストの評価については、過去のテクノロジー評価法とは異なる新しい評価法を採用すること、また、NIHに大規模なボランティア・グループを編成させ、健康や疾患を決めるDNA的な背景に関する情報をできる限り大量に蓄積すること、最後に、イニシアチブ発足初日から患者のプライバシーを保護するよう尽力すること、が挙げられた。

ホワイトハウスでの大統領発表には、NIHのdirector、Francis Collinsも出席し、科学、医学界の著名人とともに大統領の紹介を受けた。また、大統領は紹介の際にDr. CollinsがHuman Genome Project (HGP) のdirectorを務めていたことにも言及し、HGPへの投資1ドルあたり140ドルの利益となって米経済に還ってきていると語った。

ホワイトハウスでの大統領演説には、Children's Hospital of Philadelphia (CHOP) のCEO、Steven M. Altschuler, M.D.や、9歳の患者で、CHOPが開発した「T細胞療法」と呼ばれる個別化療法でがんから解放されたEmily Whiteheadも出席していた。

Dr. Altschulerは、「オバマ大統領が我が国の研究努力の可能性を認め、このような投資を決めたことをうれしく思う。今日の発表は、このテーマを我が国の優先課題にしようという大統領の意欲の表れだ」と語っている。

さらに、「Children’s Hospital of Philadelphiaは、精密医療の世界的リーダーとして、病院内のCenter for Applied Genomicsに小児疾患の診断と治療の開発を使命とする大規模な投資を行っている。

すでに、がん、自閉症、喘息、糖尿病その他の小児疾患に対する理解と治療を前進させる上でこのテクノロジーの活用もはるかに進歩している。Emily Whiteheadの経験は、この重要な研究が人命を救うためにどれほど大きな力になっているかを物語る実例といえる」と語った。

オバマ大統領は、次世代テクノロジーの急速な発達と、その発達に合わせてコストが一貫して下降傾向にあることが「精密医療」あるいは「個別化医療」の強力な牽引力になっていると強調した。
また、初めてヒト・ゲノムのシーケンシングが行われた時には、たった一個のゲノムの完全なシーケンシングにかかったコストは総額約30億ドルにもなったが、こんにちでは1個のヒト・ゲノムのシーケンシングは$1,000から$2,000程度にまでコストが下がっていることを指摘している。

「27歳の嚢胞性線維症患者、Bil Elderは、生まれて初めて、孫の顔を見るまで生きながらえると信じるようになった」

オバマ大統領は、発表の締めくくりとして27歳のBil Elderを演壇に招き、参加者に紹介した。
Elder氏は、オバマ大統領の2015年一般教書演説にMichelle Obama大統領夫人の特別来賓として出席していた。Elder氏は20年も前に嚢胞性線維症と診断された。
しかも嚢胞性線維症患者のうちわずか4%という、嚢胞性線維遺伝子の特定の突然変異によって引き起こされるタイプと判断された。FDAは、この特定の突然変異をターゲットとする医薬の開発を優先させ、2012年にElder氏はその新薬を初めて用いた。

翌朝、眼が覚めたElder氏は、「生まれて初めての新しい体験だった」と語っているが、生まれて初めて鼻で呼吸することができたのである。現在、Elder氏は、かつては嚢胞性線維症患者寿命の中央値とされていた27歳という年齢で医学部の3学年に在籍している。
しかも、生まれて初めて、孫の顔を見るまで生きながらえると信じるようになった。オバマ大統領の言葉通り、これが精密医療の力である。

※ この記事にはアップデートがあります。英語版を併せてご覧ください。
Obama Proposes $215 Million “Precision Medicine Initiative,” A Massive Personalized Medicine and DNA Sequencing Effort; Obama Calls It “Greatest Opportunity for Medical Breakthroughs That We Have Ever Seen” (2012 Nobelist's Comments Added)

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