形状変化する新しい抗生物質が致命的な感染症に対抗できるかもしれない
サイエンス出版部 発行書籍
薬剤耐性菌や真菌は米国だけでも年間約300万人に感染し、約35,000人が死亡している。抗生物質は必要不可欠で有効なものだが、近年、使い過ぎにより一部の細菌が抗生物質に対する耐性を獲得している。このような感染症は治療が困難なため、世界保健機関は抗生物質耐性を世界の公衆衛生上の脅威のトップ10とみなしている。このたび、コールド・スプリング・ハーバー研究所(CSHL)のジョン・E・モーゼス教授(写真)が、こうした薬剤耐性スーパーバグに対する新たな武器として、原子の再配列によって形を変えることのできる抗生物質を開発した。 モーゼス博士は、軍事訓練の戦車を観察しているうちに、変身する抗生物質を思いついた。戦車は回転する砲塔と軽快な動きで、起こりうる脅威に対して迅速に対応することができる。 その数年後、モーゼス博士はブルバレンという分子を見つけた。ブルバレンという分子は、原子の位置が入れ替わる「フラクショナル分子」である。原子の位置を入れ替えることができるため、100万通り以上の形状があり、まさにモーゼス博士が求めていた「流動性」があった。 MRSA、VRSA、VREなどいくつかの細菌は、皮膚感染から髄膜炎まであらゆる治療に使われるバンコマイシンという強力な抗生物質に対する耐性を獲得している。モーゼス博士は、バンコマイシンをブルバレンと組み合わせることで、細菌と闘う性能を向上させることができると考えた。 クリックケミストリーは、ノーベル賞を受賞した高速・高収率の化学反応の一種で、分子同士を確実に「クリック」させることで、より効率的な反応を実現するものだ。 ノーベル賞を2度受賞したK.バリー・シャープレス博士のもとでこの画期的な開発を研究したモーゼス博士は、「クリックケミストリーは素晴らしい。複雑なものを作るのに、確実で最高のチャンスを与えてくれる」と言う。 この技術を
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