海洋性微生物由来の毒性物質から大腸がん治療薬候補が見つかる

海洋性微生物由来の毒性物質から大腸がん治療薬候補が見つかる

フロリダ大学の研究グループが、海洋微生物が生成する有毒物質由来の化合物が大腸がんに効果がある事を実験モデルで確認した。2011年8月31日付のACS Medicinal Chemistry Letters誌オンライン版に掲載された論文では、一般的には致死性を有する海洋性シアノバクテリアの副生成物を、どのようにしてガン細胞にのみ特異的毒性を発揮する物質に変えたのかが報告されている。この化合物を大腸モデルマウスに低量投与した結果、腫瘍の増殖が抑制される事が明らかになった。元の物質の毒性は観察されず、更には比較的高用量を与えても、この化合物は効果的で毒性は観察されなかった。

 


「時には、人間が更に手を加える事によって、自然の産物を人間の病気に有効的に使えるものに変える事が出来るのです。」と、著者の一人であり、フロリダ大学薬学部医薬品化学部の准教授でもあるヘンドリック・ルーシュ博士は言う。「アプラタキシンの作用メカニズムについての知見を元に、今回の化合物には腫瘍抑制機能がある事は判っていました。しかし、元の天然物は治療に使うには有毒性が強すぎたのです。」彼等は複数のアパラタキシンを元に、培養細胞とマウスに効果的だが強い毒性を持たないものを生成した。この化合物は、世界中のガン研究所が注目する二つのタンパク質−増殖因子とその受容体である酵素のチロシンキナーゼーのレベルを低減するための単剤として作用する。アパラタキシンS4と言われるこの化合物は、大腸がん細胞がその増殖エネルギーの生成因子を産生し使用する作用を抑制する。ルーシュ博士やオイェン・チェン科学者とその助手のヤンシア・ルー研究員はこれを、「とめどなく増殖するガン細胞に対する強力なワン・ツー・パンチだ」と言う。このアパラタキシンの二重の作用の発見は、今年5月にニューヨークのAcademy of Sciencesで発表されはしたが、正式に掲載されたのは今回のオンライン誌が初めてである。

「今回の発見はとても興味深いものであり、新薬の作成にも役立つかもしれません。しかし、そのためにはまだ膨大な数の研究が必要となるでしょう。今は祈るしかありません。」と、今回の研究には加わらなかったが、国立癌研究所天然物部長のデイビッド・J・ニューマン博士は言う。「ルーシュ氏は新しい化合物を発見し、さらに増殖因子とその受容体の生成を抑制するメカニズムまで発見しました。私が知る限りでは、このメカニズムはアパラタキシン特有のものです。彼は私たちにガン細胞を壊す新しい方法を提供してくれましたし、これは大切な第一歩だと思います。」

アパラタキシンを生成するシアノバクテリアは、これらの毒物によって捕食者から身を守り、過酷な環境に耐えられるように進化してきた。多様な数のシアノバクテリア種は藍藻類と総称され海水にも淡水にも存在しているが、本当は単細胞生物のため藻類にも植物界にも分類されるべきではない。シアノバクテリアは植物のように光合成し、太陽光をエネルギーに変えることができる。だが、植物のようにクロロフィルを使用するのではなく、フィコシアニンという青系の色素タンパク質で光を捉える。更に、シアノバクテリアは光合成に加え、呼吸もエネルギーを取得する手段として使用することが出来る。このため、この微生物は一種の化学工場でもあり、まだ発見されていない、健康に有用な分子が沢山あるかもしない。

「海洋シアノバクテリアは膨大な種類の化合物を生成します。抗がん剤の約半数が天然物から作られており、いくつかの例外を除くほとんどが陸上の生物に由来しています。しかし、地球の約70%が海である事を考えれば、新規的な生物学的活性を有し治療効果を発揮する多くの化合物が海洋に存在しているはずです。アパラタキシンの生物学的効果を検討した結果、更に特異性を高めれば、大腸がんに特に有用であろうと推測されました。」と、フロリダ大学シャンズがんセンターの一員でもあるルーシュ博士は言う。アパラタキシンの合成はチェン博士が担当し、リュー博士が生物実験と薬理実験を担当した。アパラタキシンを元にした治療薬を大腸がん患者が試用するには更に検討が必要ではあるが、ルーシュ博士はアパラタキシンS4が腫瘍選択性を有する初の抗がん剤になると信じている。

[BioQuick News: Modified Toxin from Sea Bacteria Shows Potential As Anti-Colon-Cancer Drug ">

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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