ベキサロテンがアルツハイマー病の画期的新薬となるか?

ベキサロテンがアルツハイマー病の画期的新薬となるか?

ケースウエスタンリバース大学医学部の神経科学者チームが、アルツハイマー病を治療する画期的な研究を進めている。 2012年2月9日のScience誌オンライン版に発表された。研究結果によれば、マウスに投与した薬剤によって、アルツハイマー病の進展で生じた病理学的な認識障害と記憶障害が、回復したというものだ。この研究が意味する事は、このベキサロテンという医薬品を使えば、凡そ全米に540万人存在する進行性脳疾患の患者に、大きな福音をもたらすという事である。ベキサロテンは10年以上前にFDAが抗がん剤として認可した医薬品である。本研究は、この医薬品がアルツハイマー患者にも有効ではないかとの想定で行なわれたものであるが、結果は予測以上に良いものであった。アルツハイマーは、体内で生成されるベータアミロイドを、脳内から除去出来なくなることによって発症する。2008年に、ケースウエスタンリバース大学神経科学科のギャリー・ランドレス教授が、コレステロールの運搬機能を脳内で主として担っているアポリポタンパクE(ApoE)が、ベータアミロイドタンパクを脳内から除去する役割も有していることを明らかにした。同博士は今回のScience誌発表論文の上席著者である。ランドレス博士の研究グループは、ベキサロテンがApoEの発現量を増加させる機能を有することに着目した。脳におけるApoE量が増加すると、脳からのベータアミロイドの除去スピードが上がるのだ。ベキサロテンはレチノイド受容体(RXR)を刺激し、その度合いによってApoEの産生量が決まる。特に研究者を魅了したのが、ベキサロテンが記憶障害と行動障害を、アルツハイマーの病理学を逆行するがごとき迅速さで、改善させる効能を有していることであった。現在の、研究者間の共通認識は、動物モデルや人間の患者において観察されているように、水溶性の形態をとるベータアミロイドが僅かに存在し、それが記憶障害を引き起こすという事である。しかし、ベキサロテンを投与すれば、6時間以内で可溶性アミロイド量は25%減少し、その数値以上の目覚しい改善が3日間持続する。最終的に、このアミロイド量の減少は、3種類のアルツハイマー病モデルマウスにおいて、広い範囲の行動障害の急速な改善と相関関係が確認された。行動障害の改善例の一つに、よく行なわれる巣作りテストがある。アルツハイマー病のマウスが巣作りの材料、今回はティッシュペーパーを用いたが、それを使って巣作りを行なうことは通常起こらない。このテストは、ティッシュペーパーを巣作りの材料として認識できないことを実証するものだ。

しかし、ベキサロテン投与後72時間ぴったりで、マウスはティッシュペーパーで巣作りを始めた。薬剤の投与によって、マウスは汚れた環境を認識する能力を回復したのである。ベキサロテン治療は、脳内のアミロイド班を除去する機能を促進する効果もある。

アミロイド班は脳内でアミロイドが凝集して小さな塊を形成するもので、アルツハイマーの病理学的特徴となっている。研究結果では、72時間以内にアミロイド班の半分以上が除去された。最終的には75%が除去された。ベキサロテンが脳内の免疫機能を再構築し、アミロイドの堆積物が貪食処理されたことが明らかである。これらの所見により、ベキサロテンが、脳内の可溶性と蓄積性両方のアミロイドを処理し、モデルマウスを病理学的レベルで回復させることが実証された。

この研究は、アルツハイマー病の1次遺伝リスク因子に対して、その有効な治療法を提供するものである。ヒトのApoEには、ApoE2、ApoE3そしてApoE4の3種類の形態があり、ApoE4遺伝子の発現が急増すれば、アルツハイマー病が誘発されやすい。以前にランドレス博士の研究室では、ApoE4の形態の場合は、アミロイドの除去機能が減退することを明らかにしている。

今回の研究成果では、脳内のApoE量を増加させて、記憶障害と認識障害とに関与するアミロイドの凝集を除去するという治療戦略が、効果的であろうと示唆されている。「この発見は前例の無いものです。これまでの最良の治療法でも、アルツハイマーマウスの脳内アミロイド凝集を低減させるのに、数ヶ月を要していたのです。」とケースウエスタン大学医学部のPhD候補で、本論分の主筆であるペイジ・クレーマー氏は語る。ランドレス教授は付け加えて「これは本当に驚くべき、そして賞賛に値する大きな発見です。

全く新しいサイエンスの発見とも言え、アルツハイマー病の治療を約束する有用性を持っているのです。私たちは、この医薬品がマウスモデルで顕著な有効性を示すことを実証していきます。そして次の課題は、人間においても同じように有効性があることを示すことでしょう。私達は、この素晴しいサイエンスを治療法へと移行させる、最初の段階にいるのです。」と話す。

ケースウエスタンリザーブ大学医学部神経科学科の准教授で、本研究の共同著者であるダニエル・ウエッソン博士は、「アルツハイマー病の問題は、記憶障害と学習障害にあると考えられがちですが、実際に多くの症例で観察されるのは脳全体に病態が広がり、様々な身体機能の障害を引き起こす事なのです。本研究の結果では、私たちの治療方法が、アルツハイマー病において広い範囲の行動機能を維持させることと、脳の機能を維持させることとを、約束するものと考えられます。」と述べる。

ベキサロテンは安全性と副作用の点からも、優れた医薬品です。ケースウエスタンリザーブ大学の研究チームは、ベキサロテンのこれらの特性を考えれば、ヒト臨床試験への移行がスムースに行なわれると期待している。ランドレッチ教授によれば、この「自画自賛の研究テーマ」には相応のグラントが供給されており、主要なものは、ブランチェット・フッカー・ロックフェラー財団、トーム財団、そしてNIHなどである。

本研究の共同著者のリストを挙げると、ワシントン大学医学部のジョン・R.サーリト氏、ジェシカ・L.レスティボ氏、ホイットニー・D.ジョーベル氏等、ケースウエスタンリザーブ大学医学部のC.Y.ダニエル・リー氏、コリーン・カルロ氏、アドリアーナ・E.チン氏、ブラッド・T.カサリ氏等、ニューヨーク大学医学部のドナルド・A.ウイルソン氏、ペンシルバニア大学パレルマン医学部のマイケル・J.ジェームス氏、カート・R.ブランデン氏等である。

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Edited by Michael D. O'Neill

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