自己免疫疾患発症を招く食塩の過剰摂取
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食塩摂取量が増えると、自己免疫疾患の原因になる侵襲性の強い免疫細胞グループを誘発する可能性があるという研究結果が発表された。この研究を手がけたのは、Yale University、Broad Institute、MIT、 Harvard University、Vanderbilt University、ベルリンのMax-Delbruck Center for Molecular Medicine、University of Erlangen-Nurembergなどを含む数多くの研究機関から参加した国際的な科学者グループで、2013年3月6日付の「Nature」誌オンライン版に掲載された論文の著者には、Dr. Markus Kleinewietfeld、Professor David Hafler、Dr. Ralf Linker、Professor Jens Titze、Professor Dominik N. Mullerらが名を連ねている。
同日付で「Nature」誌オンライン版に掲載された第二論文では、食塩を感知する酵素が自己免疫疾患の誘発に関わっている可能性が記述されている。
これも同日付で「Nature」誌オンライン版に掲載された第三論文では、ヘルパーT細胞に関わる分子経路が自己免疫疾患につながる可能性が記述されている。この3本の「Nature」の論文をあわせて、自己免疫疾患の起源についてさらに理解が深まることが考えられるが、ここでは食塩の過剰摂取の影響を述べた第一論文を中心にして紹介したい。
過去何十年かの間、研究者は欧米で自己免疫疾患発症例が着実に増えてきていることに気づいている。しかし、その着実な増加が遺伝子要因だけでは説明がつかないため、仮説として、この疾患を環境要因に結びつけて考えている。もっとも疑われている原因として、高度に加工された食品やファースト・フードがほぼ日常的に食生活に組み込まれている先進国の生活習慣と食習慣の変化が挙げられている。こういった食品は家庭で作る料理に比べると食塩の含有量がかなり高い傾向にある。
今回紹介する研究では、食塩過剰摂取が初めて自己免疫疾患増加の環境的原因の一つとして取り上げられている。2,3年前、Professor Titzeが、過剰摂取された食塩 (塩化ナトリウム) が身体の組織に蓄積し、免疫系のマクロファージ (体内の変性物質や異物を捕食する遊走性の食細胞) に影響している可能性を証明した。
この研究とは別に、Dr. KleinewietfeldとDr. Haflerが、特定の食習慣と関連づけられている、ヒトのCD4陽性ヘルパーT細胞 (Th) の変化を見つけた。ここから、食塩がこのような変化を促しているのかどうか、また他の免疫細胞にも影響を及ぼしているのではないかという疑問が持ち上がってきた。ヘルパーT細胞は、免疫系の他の細胞のサイトカインで緊急の危険を感知する。そうすると、ヘルパーT細胞は活性化され、他のエフェクターT細胞を助けて危険な病原体と戦い、感染部分を浄化する。ヘルパーT細胞の特定亜集団は、サイトカインの一種、インターロイキン-17を生成するため、短縮してTh17と呼ばれている。このTh17細胞は、感染と戦う以外にも自己免疫疾患の発症にも重大な役割を果たしている。
研究者の細胞培養実験で、特定のサイトカイン環境下では塩化ナトリウムが増加するとTh17細胞が誘発されることが示されている。Dr. KleinewietfeldとProfessor Mullerは、「食塩濃度が高い環境では、Th17細胞の誘発も通常の環境に比べて10倍も高くなることがある」と述べている。このように食塩濃度が高い環境では、細胞のサイトカインのプロフィールもさらに変化し、Th17細胞の侵襲性がさらに高まる。マウスでの実験では、食塩摂取量が増えると、より重篤な実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE) を発症した。このEAEは多発性硬化症のモデルに用いられている疾患である。
多発性硬化症は中枢神経系の自己免疫性疾患の一種で、体の免疫系がニューロンの軸索を包んでいる絶縁性のミエリン鞘を破壊することから、神経の信号の伝達が阻害され、様々な神経障害や永久的な障害を招く結果になる。最近、研究者は、自己反応性のTh17細胞が多発性硬化症の発症に重大な役割を果たしているのではないかと仮定した。興味深いことに、現在進行中の研究に携わっている研究者が、マウスの神経系の炎症誘発性Th17細胞は、高食塩食で急激に増加することが分かったと述べている。高食塩食によって、ヘルパーT細胞から病原のTh17細胞への変化が速まることが突き止められたのだった。同じことを細胞培養の実験で確かめた結果、侵襲性のTh17細胞の誘導が増加するのは分子レベルで食塩によって調節されていることが明らかになった。
University Hospital ErlangenのDepartment of Neurology、Neuroimmunology Sectionの科長で、Attending Physicianも務めるDr. Linkerは、「多発性硬化症に対する理解を深める上で、今回の発見は非常に有益であり、まだ治癒させる方法のない多発性硬化症に対してより良い療法発見にターゲットを絞る手がかりになる可能性もある」と語っており、研究室レベルでの発見を患者の利益のために活用する方途を考えている。
Professor Mullerと同僚は、多発性硬化症以外にも、同じようにTh17細胞が関わっている自己免疫性疾患の乾癬の研究も考えている。最近、Professor Titzeは、皮膚も食塩貯蔵に重要な役割を担っており、免疫系に影響を及ぼしていることを突き止めた。研究者は、「乾癬を患っている患者が食塩摂取量を減らせば症状が緩和するなら面白い」と述べているが、免疫学者のDr. Markus Kleinewietfeldは、「しかし、自己免疫性疾患は非常に複雑なプロセスであり、様々な遺伝的、環境的要因が関わっている。したがって、それほど極端でない条件下でさらに研究を重ねないことには、食塩摂取量増加がどの程度まで自己免疫性疾患発症の原因になるのかということに正しい答を出すことはできない」と述べている。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:https://bioquicknews.com/excess-dietary-salt-may-drive-the-development-of-autoimmune-diseases/#more-1016
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