貧血その他の鉄欠乏症の新しい治療法になる可能性を持った重要な化学物質が研究者によって突き止められた。Science誌掲載の新論文の共同首席著者で、Harvard Medical School、Dana Farber Cancer Institute、Brigham and Women’s Hospital、Boston Children’s Hospitalの准教授を務めるBarry Paw, MD, PhD.は、「鉄がなければ生命体も存在できない。

 

鉄分は血中の酸素運搬、主要代謝活動、DNA複製などに重要な役割を果たしており、その鉄分の運搬そのものも非常に重要である」と述べている。

2017年5月12日付Science誌に掲載された研究論文は、University of Illinois、Dana-Farber/Boston Children's Cancer and Blood Disorders Center、Brigham and Women's Hospital、Northeastern Universityなど複数研究機関の合同研究チームによる研究成果であり、鉄欠乏性貧血から鉄過剰性肝臓障害まで様々な鉄障害に新しい治療法が開ける可能性がある。

この研究チームは、ヒノキの葉に含まれるヒノキチオールという小さな天然の化学物質が動物の鉄障害を回避できることを突き止めた。このScience誌掲載論文の共同首席著者で、Dana-Farber/Boston Children'sの医師を務めるDr. Pawと彼の研究室の研究者は、ゼブラフィッシュを使った疾患モデルの鉄欠乏症と鉄過剰症の改善に成功した。この研究の成果からヒノキチオールは優れた薬効を有望視されている。この研究論文は、「Restored Iron Transport by a Small Molecule Promotes Absorption and Hemoglobinization in Animals (動物を対象に小分子物質で鉄分運搬を回復し、鉄分吸収とヘモグロビン産生を促進)」と題されている。


鉄分は様々な面で健康に不可欠だが、鉄分は体内の鉄運搬タンパク質の助けを借りなければ自分で移動することはできない。鉄欠乏症から鉄過剰症まで様々な鉄障害は、細胞膜、細胞内区画、ミトコンドリア膜などを通して鉄を運搬するタンパク質の機能が遺伝的または後天的に乏しいために起きる。Dr. Pawは、「生命にとっては何でもそうだが、いい物でも多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。体は恒常性と平衡を求めている。ゼブラフィッシュで実験したところ、驚いたことにヒノキチオールが鉄と結合し、細胞膜の内外を行き来し、鉄が必要なところに運べることが分かった」と述べている。たとえば、脊椎動物の血液で酸素を運ぶヘモグロビンと呼ばれるタンパク質を産生するために鉄は必要不可欠な共同因子である。しかし、鉄分を運搬するタンパク質が欠けていると、鉄は細胞膜を通り抜けることもできなければ細胞のミトコンドリアに入り込むこともできず、ヘモグロビン産生の最初の重要なステップが阻害されてしまう。Dr. Pawは、「体で一番鉄分を必要としているものといえば赤血球である。だから鉄分を運ぶタンパク質が欠乏すると貧血症が起きる。鉄欠乏性貧血は世界的にももっとも一般的な栄養不良の症状だ」と述べている。

逆の障害もあり、細胞に鉄分が過剰に蓄積することも良くない。鉄が過剰だと、組織損傷、DNA損傷などから、心臓、肝臓、膵臓などに致命的な臓器障害を引き起こすことがある。このような鉄過剰症は、遺伝的に鉄運搬タンパク質が欠けている場合にも起きることがあり、また、頻繁な輸血で起きることもある。後者は様々な障害や疾患の治療にどうしても必要な場合がある。


鉄運搬障害の治療にまったく新しいアプローチ

この論文の共同首席著者で、University of Illinoisの研究チームを率いたMartin Burke, MD, PhD.は、「タンパク質機能が過剰なために病気になったのであれば治療の方法もある。しかし、必須機能を持つタンパク質が欠けているために病気になったのであれば対症療法以外にはあまり打つ手はない。その方面はまだまだ治療法の開発が遅れている」と述べている。先にDr. Burkeの研究チームは、in vitroの実験でヒノキチオールが細胞膜を通り抜けて鉄を運搬できることをつかんでおり、動物モデルでその有効性を試験するためにDr. Pawら共同研究者に相談した。

Dr. Pawと共同研究チームは、通常鉄原子と結合して鉄を細胞内に運搬するタンパク質が欠けた状態でも、ヒノキチオール分子が鉄原子と結合し、細胞膜を通過してミトコンドリアに出入りできることを確かめた。Dr. Pawは、「遺伝学的なエラーがあった場合、細胞膜が開いて鉄分子を通すことはしない。しかし、ヒノキチオールを投与すると、ヒノキチオールが鉄と結合し、細胞内であろうと外であろうと、またミトコンドリア内であろうと鉄を必要としているところに運ぶことができる。ヒノキチオールは様々な医療効果を持った興味深い化学物質だ」と述べている。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Researchers Find Key Molecule for Iron Transport That Could Lead to New Therapies for Anemia; Molecule Found Naturally in Japanese Cypress Tree Leaves

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