アメリカモデル生物遺伝学会(MOHB):ワシントンD.C.ガン遺伝学会議で、ポストゲノム時代におけるガン治療薬開発には、パスウエイの理解がより重要であることが確認された。パウウエイとは、細胞内で複数の信号が種々の経路を辿りながら最終的な指示を完了するまでの、順序付けられた一連の機序を指す。
モデル生物―ショウジョウバエ、回虫、イーストやゼブラフィッシュなど−はヒトのそれと関連を持つ多くのパスウエイを共有しており、一方で構造が平易なので研究に使い易い。
したがって、モデル生物のパスウエイに焦点を当てることは、ヒトの疾患の治療に有用な新薬の開発につながると考えられる。「進化について調べていくと、ゲノムこそが重要であることが分かります。」と、ブロード・インスティテュート(ハーバード大学と米国マサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究施設)の創設ディレクターおよびMIT生物学教授、エリック・ランダー博士(Ph.D.)は2012年6月19日のMOHB:ワシントンD.C.ガン遺伝学会議で語った。
ガン細胞ゲノムにおいて最も重要なのは、ガン細胞が薬剤に対して耐性を獲得していく原因の究明である、とジョンズホプキンス大学ルートヴィヒセンターディレクターおよびハワードヒューズ医学研究所の研究員、バート・ヴォゲルシュタイン博士(M.D.)は6月17日の講演で述べた。単剤における薬剤耐性は「回避できない事柄」であり、ガンの進化の副作用であるとヴォゲルシュタイン博士は述べる。「約3,000もの耐性細胞が、目に見える転移全てに存在するのです。そのため、耐性は有効性の有無に関わらず全ての治療において起きます。これは単剤では回避することが出来ないため、ガン治療には複数の薬剤を組み合わせる必要があるのです。」と、ヴォゲルシュタイン博士は説明した。
会議全体を通して、モデル生物におけるガンの進行に関与するパスウエイでの出来事の具体例が複数提供され、ヒトのガンがどのように転移するかについて新たな道を示した。
乳ガンの肺転移の背後にある遺伝子を同定するため、メモリアルスローンケタリング癌センターのガン生物学&遺伝学プログラム議長、ジョアン・マッサグー博士(Ph.D.)と研究チームは、患者の肺液をマウスに注入した。これによって“乳ガン肺転移の足跡”を演繹し、転移における複数のメディエーターを同定した。これらのメディエーターは臨床的に関与性を有しており、薬剤の潜在的なターゲットとなる。ジョンズホプキンス大学医学部のデニス・モンテル博士(Ph.D.)は、ショウジョウバエの卵巣内にある成長中の卵子が移行する際に使用する、シグナル伝達経路をたどった。これらは卵巣ガン転移時に発現される遺伝子と同じなのである。
プリンストン大学のデイビッド・ボットステイン博士(Ph.D.)と研究チームは、イーストを使って連続的な突然変異におけるガンの進化をモデリングした結果、特定のガンの到着地点が少数であることが明らかになった。「乳ガンが白血病に変わることはありません;サブタイプは限られており、何でも起こりうるという訳ではないのです。」と、ボットステイン博士は説明した。デューク大学のポスドク研究員、デイビッド・Q・マータス博士(Ph.D.)は、細胞浸潤のインビボモデルを説明した。細胞浸潤は回虫(エレガンス線虫)の幼生の発育中に発生するガン転移において重要なコンポーネントである。マータス博士は、浸潤性生殖腺錨細胞が浸潤するためには細胞周期から外れる(非分裂になる)必要があることを示した。繁殖性錨細胞は浸潤突起―基底膜における浸潤足または突起―の形成に失敗することから、細胞分裂と細胞浸潤は異なる状態であることが分かる。
正常な細胞がガン細胞に変わる確率を減少させる遺伝子である、腫瘍抑制“ドライバー”は、染色体またはDNAシーケンスで欠落している、欠失部分であることが多い。しかし、薬はそのようなシーケンスによってコードされているタンパク質をターゲットにすることは出来ない。それではどのような解決法があるのだろうか?それは、パスウエイを理解し、調べることである。「パスウエイの一部を不活性化する変異腫瘍抑制遺伝子全てにつき、別の遺伝子が間接的に活性化されます。我々はモデル生物を使用し、パスウエイを分析し、将来の併用療法の基礎を築かなくてはなりません。」と、ヴォゲルシュタイン博士は締めくくった。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Pathway Understanding Key to Cancer Drug Discovery


