ニューロンの発達および生存に関連している神経栄養因子が、ハンチントン病などの神経疾患において回復性治療の可能性をもつことが研究で示されている。しかし、これらのタンパク質は血液脳関門を通過出来ず、半減期も短い。さらに重度の副作用を起こすため、臨床適用が困難なのである。今回研究者達は、遺伝子組み換え神経栄養因子を脳に直接提供するデバイスを移植することで、実験用ラットの神経症状の治療に成功したのである。

 

本研究は2012年5月31日付けのNeuroscience誌に掲載された。

研究チームが使用したのはEncapsulated Cell (EC) biodelivery(カプセル化細胞バイオデリバリー)である。このプラットフォームは治療用タンパク質で、脳深部をターゲットとする上で、従来では最低限の侵襲性の神経外科手術で適用することができる。「我々の研究は、大規模な生体分子の治療的デリバリー法分野において、ECバイオデリバリーの前臨床および臨床データを提供するものです。これは遺伝子治療の治療上の利点と、安全性が高く利用可能な移植片を使用する2つの特長を持っています。」と、本研究の責任研究員、デンマーク・バララット、NsGene社のジェンズ・トルノエ博士は語る。


研究者達は、神経栄養因子産生細胞が添付可能な表面積を提供する重合体“スキャフォールド”をホローファイバー膜で被包した、カテーテルの様なデバイスを作成した。脳に移植されると、膜は神経栄養因子をデバイスから流出させると共に、栄養素をデバイス内に入れることも可能なのだ。トルノエ博士と研究チームは、線条体突出ニューロンの発達に役割を果たしている神経栄養因子、Meteorinを利用した。線条体突出ニューロンの退縮が、ハンチントン病の特徴なのである。Meteorinを生成するため研究チームはARPE-19細胞を操作し、実験では高レベルのMeteorinを生成したものを使用した。

ECバイオデリバリー・デバイスをラットの脳に移植し、続いてキノリン酸(QA)を注入した。キノリン酸は興奮を引き起こす強力な神経毒で、ハンチントン病のコンポーネントでもある。研究チームは3種類の異なるインプラントをテストした。これらは高生産ARPE-19細胞で満たされたデバイス(EC-Meteorin)、無変更のARPE-19細胞のデバイス(ARPE-19)、そして細胞を含まないデバイスである。運動機能障害はQA注入の直前、そして注入の2週間後と4週間後にそれぞれテストされた。研究チームは、EC-MeteorinデバイスがQAによる毒に対する保護性を持つことを発見した。

コントロールと比較したところ、EC-Meteorinデバイスを移植されたラットはほぼ正常な神経機能を現し、QA注入による脳細胞の損失も大幅に減少した。Meteorin処理の脳の分析では、線条体傷害サイズも著しく減少していることが明らかになった。ECバイオデリバリー・デバイスの生成するMeteorinのレベルは研究期間を通して安定あるいは増加した。Meteorinはバイオデリバリー・デバイスから線条体組織へ容易に拡散したのである。

「ハンチントン病は遺伝子検査により高精度な診断が可能です。疾患の持続的な遅延または予防のため症状が出る前に安全な治療は施すことは、患者にとって大きな利益となるでしょう。さらなる機能および安全性についてのデータや、ラットよりも大きな動物でのテスト、およびMeteorin治療の可能性を計るより正確な疾患モデルが手に入れば、ECバイオデリバリーがハンチントン病治療のプラットフォーム技術として確立することでしょう。」と、トルノエ博士は説明する。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Implanted Device Has Therapeutic Potential in Huntington’s Disease

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