2歳の時に脳性麻痺と診断された双子のノア・ビーリイとアレクシス・ビーリイの両親は、生まれた時から我が子に降りかかった苦難を取り除く答えを、ようやく手にする事が出来たと思っている。但しこの双子の問題を解決するには母親の遺伝情報が詳細に調査される事が不可欠であり、手にした答えは「道半端」でもあった。その遺伝子調査はBaylorヒトゲノム解析センターと国中から集まった専門家達の特殊なスキルによって行われる。
Science Translational Medicine誌2011年6月15日号には、Baylor医科大学(BCM)の研究者、サンディエゴ大学とAnn Arborのミシガン大学の解析専門家たちが双子の全ゲノムを解析し、双子の兄や両親の全ゲノムと比較してどのような違いが遺伝疾患の原因となっているのかに照準を合わせ、そして臨床医が遺伝疾患治療を微調整最適化する方法が報告されている。更には、ヒトゲノムの解析が患者個々人の治療の最適化に適用される新たな段階に来ていることも示唆されている。Baylorヒトゲノム解析センター(HGSC)は、ノーベル賞学者であるジェームス・ワトソン博士の全ゲノムを2007年5月31日に最初に公開して以来、個人の全ゲノム解析の先駆者である。その後2010年には、Baylorヒトゲノム解析センター所長のリチャード・ギブス博士とBCM 分子ヒト遺伝学部の副学部長ジェームス・ルプスキー博士とがルプスキー博士の全ゲノムを解析し、同氏が罹患している遺伝性疾患であるシャルコー・マリー・トゥース病のタイプについてその遺伝子変異型を同定した。
「Baylor HGSCがワトソン博士の遺伝子を解析した時、私達は全ゲノムの解析が出来る事が判った」と言うルプスキー博士は、「皆が私のゲノムを解析して判ったのだが、何百万もある遺伝子の多様性の中から疾病遺伝子を見つけるに足りうる安定性を全ゲノム解析法は有しているのだ。現在では疾病の原因となる変異を見つけるだけでなく、治療法をカスタマイズして最適化する事も出来るのです。」と説明する。
ギブス博士は「これは全ゲノム解析を患者にとってより有益に活用できる大きな前進です」と話す。同研究を大学院生として行ない論文の主執筆者であるマシュー・ベインブリッジ博士は「この成果は、遺伝子技術というものが、正確な診断を、そして臨床医が患者に最適化された治療を施すための究極のサポートを医学にもたらす革命的な手段である事を如実に示しています」と語る。
ルプスキー博士はベアリー家の子供たちの症例をテキサス子供病院で診察している臨床医チームの一人であり、母親のレッタ・ベアリーが子供たちの将来の為に闘う事と回答を見つけるために彼女の診断を完璧に行なう事とに自信を持っている。同博士は「母親のおかげで子供たちの診断が出来て全ゲノム解析によって治療方法が最適化され、更なる治療が可能となったのです。」と説明する。
この双子が4歳になる頃には、脳性麻痺という診断では子供たちが直面している症状に適合しない事を両親は認識するようになった。そして母親のレッタはインターネットの検索によって子供たちの症状により良く適合する記事を遂に見つけた。それはドーパ反応性ジストニア症という疾患であった。ジストニアの患者は筋肉が不随意に収縮したり痙攣したりする。今回の症例ではL-dopaという医薬品に反応性を有するもので、L-dopaは患者の体内に不足する神経伝達物質ドーパミンの作用を代替する機能を持つ。神経伝達物質は神経作用が適切に機能するために不可欠な物質であり本症例においては筋繊維のコントロールを司る。
ミシガン大学神経学教授のジョン・フィンク博士は最初にアレクシスを次いでノアをドーパ反応性ジストニア症と診断し、少量の薬剤投与を開始した。6歳になる頃には二人の症状の多くは緩和された。二人は小学校に通い健康な子供たちと同じように暮らし始めていた。「それは本当に二人の人生を変えたわ」とレッタ・ビーリイは話す。但し18か月前にアレクシス・ビーリイの呼吸機能に問題が起き始め、思いの他機能障害が重かったので、彼女の好きな運動を止めさせざるを得なかった。彼女の呼吸機能は次第に低下し悪化していきビーリイ家には2回救急隊員が駆け付ける状況となり、レッタは再度新たな答えを必死に探し始めた。そして遂にレッタは全ゲノム解析に辿り着き夫のジョーに実現の相談をするのだが、そのジョーこそ次世代ゲノムシーケンス技術の先駆者であり解析装置の開発と製造を行なうLife Technologies Inc社の最高情報責任者であった。そしてBaylor医科大学とBaylorヒトゲノム解析センターのギブス博士と出会う事となる。
チームが作られ、双子の疾病の原因となっている遺伝子の変異を探索する研究が開始された。ドーパ反応性ジストニア症の原因遺伝子として知られている2つの遺伝子を現行の単一遺伝子解析法で調べた場合の結果は陰性であった。Baylorのチームがこの双子のそれぞれの全ゲノム(そして双子の兄と両親を比較の為に診断・研究した)を解析した結果、双子の遺伝子に恐らく原因となると考えられる3つの変異が見つかった。そのうちの2つの遺伝子は機能が不明であるが、1つはセプアプテリン還元酵素(SPR)というドーパ反応性ジストニア症と生来関連しているものだ。双子は変異遺伝子コピーをそれぞれ2個受け継いだ。1つは母親から、もう1つは父親から。
母親の遺伝子はナンセンス突然変異で父親の遺伝子はミスセンス突然変異を受けていた。(ナンセンス突然変異ではメッセンジャーRNAの読み取りを終了させ欠失タンパク質を合成するため本来の機能を有さない。ミスセンス突然変異では塩基の変化によって異なるアミノ酸が合成され異常なタンパク質が作られる)。
SPRが変異を受けると細胞内情報パスウエイを妨害しドーパミンの生成を阻害するだけでなく、2つの他の神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの生成をも阻害する。シナプスにおけるドーパミンとセロトニンの作用は神経細胞接点間の電気的或いは化学的な信号の送達に関わっている。つまり双子はドーパミンだけでなくセロトニンも欠乏している。
テキサス子供病院のBaylorチームの医者グループは双子を担当するカルフォルニアの小児神経学者であるラディ子供病院(サンディエゴ)のジェニファー・フリードマン博士と相談し、5-HTPと呼ばれる医薬品を補助薬として少量投与する事とした。フリードマン博士は神経学者としてこの疾病に関して別の患者を実際に治療していた。「新しい治療を開始して1ヶ月後、アレクシスの呼吸機能は著しく改善して運動場を走り回れるようになったのよ」とレッタ・ビーリイは言う。彼女は更にノアの症状も改善し字をうまく書けるようになって学校でも集中出来るようになったと喜ぶ。
ビーリイ家の例はヒトゲノムの研究でゲノム配列を解析する事はもし1つでも遺伝子に変異があったらヒトにどのような症状が出るのかを理解するのに大変役に立つ事を意味している。ビーリイ夫妻はそれぞれに遺伝子の変異を持っており、それが子供たちに影響した。2つの変異遺伝子が深刻な病気を双子の子供にもたらしている事は事実だが、少なくとも1つの変異はレッタ・ビーリイが線維筋痛症に罹患しやすい可能性を明らかに示しており、これは他の家族についてもあてはまる。言い換えれば、2つの変異を持つ遺伝子のコピーは(例え変異の形態が異なっていたとしても)深刻な疾患を引き起こす。1つの変異を持つ遺伝子のコピーは症例の多いより一般的な(慢性的な)疾患を誘起する可能性がある。
ビーリイ家に起こりうる事柄はルプスキー家に起こった事柄のストーリーと類似しており、それは片方の親の家系が手根管症候群を起こす1つだけの遺伝子変異を持っており、もう片方の家系の誰かが軸索神経障害(軸索に影響を与える疾患。軸索とは神経構成要素の一部で細胞体から伸びる突起。末端部への信号伝達を司る)を起こす遺伝子変異を持っている。次世代以降の家族の誰かが影響を受け、例えばルプスキー博士自信がシャルコー・マリー・トゥース病を誘起するに完全な両方の変異遺伝子を受け継いだ。「私達は病気を起こす遺伝子変異の実例をもっと見つける事が出来るだろう。そして変異した対立遺伝子の1つだけを持っている家族の誰かが判ったとしたらその人は症状が緩和な一般的な疾患を発症するであろうことが予測されるのです」とギブス博士は語る。
ルプスキー博士は「これは重要な発見であり、もし1つの変異遺伝子が異型接合状態ならば、一般的な様々な疾患に罹患しやすい事があるという実証が出来たという事なのだ」と指摘する。重要な事は、子供たちは臨床的に正しい診断を受けたが、分子生物学的診断によって更なる改善がもたらされ、困難な状態に陥っていた双子の子供たちは症状が緩和されQOLも改善する医療を受ける事が可能であったということだ。これが「何故ゲノムシーケンスを行なうのか?」という質問に対する答えである。これが「何故ゲノムシーケンスを行なうのか?」という質問に対する答えである。更に私達が学んだ事は、決してあきらめずに真実を追究する母親の努力であろう。
尚、この研究には他にもBCMのDrs. Wojciech Wiszniewski、David R. Murdock、Claudia Gonzaga-Jauregui、Irene Newsham、Jeffrey G. Reid、Margaret B. Morgan、 Marie-Claude Gingras、Donna M. Muznyall 、そしてカルフォルニア CarlsbadのLife Technologies社のDrs. Linh D. Hoang 、Shahed Yousaf 等の尽力があった。
