CRISPR技術で癌細胞にDNAバーコードを埋め込み、腫瘍がどのように成長するかを明らかに
サイエンス出版部 発行書籍
CRISPRを用いた系統追跡により構築された肺癌細胞の系図から、癌が初期の段階からどのように進化し、侵攻性を持ち、全身に広がることができるようになるか詳細に明らかになった。癌細胞は、時間の経過とともに、治療に対する耐性、攻撃性、転移性(体内の別の場所に広がり、新たな腫瘍を形成する能力)を持つように進化する可能性がある。このような特徴を持つ癌は、進化すればするほど、より致命的なものになる。研究者らは、致命的な癌を予防し治療するために、癌がどのようにこれらの特徴を進化させるのかを理解したいと考えている。しかし、患者に癌が発見されるまでに、癌は通常何年も、あるいは何十年も存在しており、重要な進化の瞬間は観察されることなく過ぎ去っているのだ。
ホワイトヘッド研究所のメンバーであるジョナサン・ワイズマン博士と共同研究者は、癌細胞を世代を超えて追跡し、研究者がその進化の歴史を追うことを可能にするアプローチを開発した。この系統追跡法は、CRISPR技術を使って、各細胞に継承可能かつ進化可能なDNAバーコードを埋め込むものである。細胞が分裂するたびに、そのバーコードはわずかに修正される。やがて元の細胞の子孫を採取すると、研究者は細胞のバーコードを比較して、近縁種の進化系統図のように、個々の細胞の系図を再構築することができる。そして、細胞の関係から、その細胞がいつ、どのように重要な形質を進化させたかを復元することができるのだ。研究者らは、同様の手法でCovid-19の原因となるウイルスの進化を追跡し、懸念される変異型の起源を追跡している。
ワイズマン博士と共同研究者らは、以前にもこの系統追跡法を用いて、転移性癌がどのように全身に広がるかを研究している。今回の研究では、ワイズマン博士、マサチューセッツ工科大学(MIT)のダニエル・K・ルートヴィヒ奨学生兼デヴィッド・H・コッチ生物学教授のタイラー・ジャックス博士、カリフォルニア大学バークレー校およびワイツマン科学研究所のコンピュータ科学者ニル・ヨセフ教授が、これまでにない包括的な癌細胞の歴史を記録した。
2022年5月5日にCell誌に掲載されたこの研究は、肺癌細胞を、癌を引き起こす変異の最初の活性化から追跡している。この詳細な腫瘍の歴史は、肺癌がどのように進行し転移するかについての新しい洞察を明らかにし、系統追跡が提供できる豊かな理解を示している。このCellの論文は「系統追跡は腫瘍進化の系統力学、可塑性、経路を明らかにする(Lineage Tracing Reveals the Phylodynamics, Plasticity, and Paths of Tumor Evolution)」と題されている。
MITの生物学教授であり、ハワード・ヒューズ医学研究所の研究員でもあるワイズマン博士は、「これは、癌の進化をより高い解像度で見ることができる新しい方法だ。これまでは、腫瘍が生命を脅かすようになる重要なイベントは、腫瘍の遠い過去に失われているため不透明だったが、これは、その歴史を覗く窓を与えてくれる。」と述べている。
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