グリーンアノールトカゲの全ゲノム配列解析が世界で初めて完了し、その敏捷で活動的な性質も遺伝子に帰する事が出来るようになった。哺乳類と爬虫類の祖先が3億2000年前に分化した後、爬虫類と対応する部分の遺伝子が人間や哺乳類でどのように進化してきたかを洞察する手掛かりとなるであろう。ゲノム解析プロジェクトの完了結果は2011年8月31日付のNatureオンライン誌に発表された。このグリーンアノールトカゲ(Anolis carolinensis)はアメリカ南東部に生息しており、鳥以外では爬虫類として初めてそのゲノム配列が明らかにされた。

 

ブロード研究所の研究グループは類人猿を含む20以上の哺乳類の遺伝子配列解析評価を実施したが、爬虫類の遺伝子の全体図は未だ解析が進んでいなかった。「ヒトのゲノムがどのように進化してきたかを学習するには時には一定の距離を置かねばならない。過去に見てきたものを遥かに超える新しい発見があるだろう。」と第一共同著者であり、ブロード研究所の脊椎動物ゲノム研究グループの研究科学者であるジェシカ・アルフォルディ博士は語る。


トカゲはどちらかと言えば鳥に近く(鳥は爬虫類とも言えるが)全ゲノムが解読された他のあらゆる生物よりも役に立つ情報を有する。哺乳類のように、鳥類と爬虫類は羊膜類であり、水中に卵を産む必要は無い。「研究者達は脊椎動物の系統樹のいろんな位置に属する動物の遺伝子解析を実施してきましたが、トカゲについては試みていません。注目すべき系統ブランチなのです。」とブロード研究所の脊椎動物ゲノム研究所科学部長でNature誌上席著者であるカースチン・リンドブラッド・トウ博士は話す。

400種を超えるアノールトカゲがカリブ海、北アメリカ、中央アメリカ、南アメリカの島々に生息し、進化の研究を実施するには最善のモデルと考えられる。それらのトカゲの生態については既に多くの知見が得られているとしても、何故トカゲがそれほどまでに多様化したのかを調べるキーはゲノム解析に残されている。「アノール類は生態学と形態学を行なう為の十分な数量があり、多様性の研究に興味をそそられるだけの数量も確保できます。しかし研究の大きな障害となるのは伝統的な遺伝学研究の世界では重要な生物種では無かった事です。
トカゲのゲノムはその進化上の多様性獲得の様相を研究する為の革命的手立てと言えるでしょう。」と説明するのは本論文の著者でハーバード大学教授、そして「進化系統樹におけるトカゲ:アノール種の生態学と適応拡散」を著したジョナサン・ロソス博士である。

この新たに解読された配列によって期待される事はヒトゲノムにおける非コード配列の起源の研究に役に立つであろう事である。この領域にはタンパクをコードする遺伝子が含まれていないが、何千年も変化せず受け継がれている事を考えれば、何らかの重要な役割があると考えられる。研究者たちの間ではその摩訶不思議な配列がどこから来たのか議論の的であるが、トランスポゾンの名残であると言われており、トランスポゾンとは染色体の中を動き回り自らを配列内に挿入する特殊な遺伝子である。

ヒトにおいては、これらの「跳び回る遺伝子」と呼称される遺伝子は既に跳び回る機能を失っているが、アノールトカゲでは依然として跳び回っている。「アノール類はトランスポゾン研究の生きた図書館みたいなものです。

アノール類では、これらトランスポゾンは依然として跳び回っているが、進化の過程で何らかの目的を持ってその遺伝子が利用され、ヒトにおいて何かしら機能的な遺伝子に変化したと考えられます。」とアルフォルディ博士は語る。研究者たちはこれらの動く遺伝子をヒト遺伝子と配列比較して、100個に近いヒトの非コード配列領域がこれらのトランスポゾンに由来いている事を発見したのである。
 
ヒトや哺乳類のゲノム研究の探究に加え、アノールトカゲのゲノム情報は、どうやってトカゲ種が大アンティル諸島において生息・進化していったかを示唆する。ダーウィンフィンチ類のように、アノール種は生息する諸島の居住環境に対して生態的地位を獲得するように適応していった。
あるトカゲは足が短く細い小枝に乗って歩く事が出来、あるトカゲは高い木の上で生活しやすいように緑色の体色と大きな丸い指趾を得、また他のトカゲは黄色と茶色の斑色の体色となり草むらの中の生息に適応した。

しかしフィンチ類とは異なり、トカゲ種は生息する場所に応じて独自の多様な進化を遂げ、小枝を歩いたり、翼を獲得したり、草叢に生息したりするようになった。ヒスパニア、プエルト・リコ、キューバ、ジャマイカなどの島々で独自に進化していったのである。「これらのトカゲ種はダーウィンフィンチ類を比較されてきたが多くの点で類似しています。彼らは異なった生息地に生物種が適応していく過程における自然淘汰を受けています。

しかしこのトカゲ種で異なる点は、4回にわたる進化が起こり、その一つ一つは独立した別の島で起こっている事です。」とロソス博士は説明する。90種以上からゲノムをサンプリングし、各諸島で生息圏を確立する為にどのように進化してきたかの一次マップが作製された。「これによって有益かつ周到に計画された研究グループが設立される事になります。」とリンドブラッド・トウ博士は語る。
研究者たちは例えば、グリーンアノールトカゲの卵で見つかったタンパクとニワトリの卵由来のタンパクとを比較して、両方の遺伝子が急速に進化していく様を調べ、タンパクのパーツリストを作成するようなトライが出来たのである。更には色覚に関与する多くの遺伝子も見つかったが、これはアノールトカゲが配偶行動を取る際に使われる(いくつかの種ではオスとメスが、のど袋と呼ばれる首の下に垂れさがった極彩色のフラップ状の皮膚を見せ合う)。「アノール種は大変発達した色覚を有しており、紫外域まで見える種もいます。のど袋の機能として明確に解っているのは、その色彩によってその個体が自分たちの種か否かを見分けるのに使われている事です。」とロソス博士は話す。
他の研究によると、アノール種は似たような色や模様を見分ける事が出来るという。

更に研究者たちはアノール種のゲノムについていくつかの独特な側面について初めて解析を行なった。それにはマイクロ染色体の解析も含まれているが、この染色体は爬虫類、両生類、魚類に観察されるものであるが哺乳類には存在しない。またアイソコアの完全欠損も観察された。これはヌクレオチド「G:グアニン」と「C:シトシン」との濃度が高い或いは低いゲノム領域で、濃淡バンド模様がはっきりしたヒト染色体特有の個所である。加えて研究グループはこれまでは仮説レベルでしかなかったトカゲの性染色体も見つけた。哺乳類と同様にグリーンアノールトカゲは明らかにXXとXY染色体を有しており、これは鳥類が、オスはZZ染色体と呼ばれる2本の同質な染色体を、メスはZW染色体と呼ばれる異なる染色体を有しているのとは様相を異とする。そのトカゲのX染色体は多くのマイクロ染色体で構成されている事が判明した。

これらの成果はタンパク研究、遺伝子ファミリーの進化研究、グリーンアノールトカゲの行動様式と生物学の研究、コンピューター解析研究など多くの専門家たちが協力して得る事が出来た。「本研究成果は生物学者と生物情報学者との協力体制が創出したものです。私たちはこれら全ての知見を活用して総合的なゲノム進化の洞察を行なえるようになったのです。」と本論文の第一共同著者でブロード研究所脊椎動物のゲノムグループ副部長のフェデリカ・ディ・パルマ博士は説明する。

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